孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ  今更ながら銃規制強化問題 議会立法“絶望視” 最高裁、更に後退判断の見通し

2022-06-10 22:19:32 | アメリカ
(全米射撃スポーツ財団(NSSF)によると、アメリカにはテキサス州ユバルデ市内の小学校銃乱射事件で使われたAR-15と同じ型式のライフルが2000万丁も出回っている。
スイスの調査機関スモール・アームズ・サーベイによると、アメリカの一般市民が所有する銃の総数は3億9300万丁で、アメリカの人口(約3億3000万人)を上回っている。【6月3日 BUSINESS INSIDER】)

【“今更の話”ではあるが・・・】
銃社会アメリカの問題は今更の話で、事件が多発すること以上に、そうした事態でも全く改善が進まないことが「信じられない」と言うしかないのですが、“今更の話”でスルーするのも現状を認めたような感もあるので、これまでと同じような話を今回も。

このところアメリカ国内に関するニュースの相当割合が銃乱射に関するもの。

最近急に増えたというより、事件はこれまでも今でも同じように起き続けていますが、5月24日、テキサス州ユバルデ市内の小学校で18歳の男が自動小銃を持って教室内に侵入、児童19人、教員2人らを射殺した衝撃的な事件が起きたせいでメディアの関心が銃の問題に多少なりとも向いているせいでしょう。

最近の銃乱射事件は・・・

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 5月14日、ニューヨーク州バッファローのスーパーマーケットに18歳の白人男が買い物客を装って訪れ、いきなり所持していたライフル銃を所かまわず発砲、買い物中だった住民10人が死亡、3人が重軽傷を負った。男は、白人至上主義者として知られ、普段から、黒人、ヒスパニックに反感を持っていたという。

 5月24日、テキサス州ユバルデ市内の小学校で、18歳の男が自動小銃を持って教室内に侵入、何の警告もなしにいきなり乱射に及び、児童19人、教員2人らを射殺。犯人はかけつけた警察隊との銃撃戦で間もなく死亡したが、現場には持ち込んだ1600発以上の銃弾と60個の弾倉が残されていた。

 5月31日、同じテキサス州ウェーコの市街で、見知らぬ男が通行人らにライフルで発砲、女性1人を含む4人が被弾、そのうちの1人が病院で危篤状態となった。犯人はそのまま逃走、警察は行方を追っている。 

 6月1日、オクラホマ州タルサ市のメディカルセンター・ビルに車で乗り付けた男が、乳がん治療患者病棟になっている2階に駆け上がり、ライフルとピストルの両方を振りかざしながら乱射を続けた。患者や医療関係者ら4人が死亡したほか、数人が重軽傷を負う騒ぎとなった。

 6月2日、アイオワ州エイムズ市で、教会礼拝の最中に、目の前の駐車場で銃撃があり、容疑者とみられる男を含む3人が死亡した。【6月8日 WEDGE】
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“公営放送「NPR」の集計によると、全米各地における銃乱射事件は今年1月からの5カ月間だけで212件、公立学校を巻き添えにした事件だけでも、27件にも達し、多くの無実の市民が犠牲になっている。”【同上】

更に事件は増え続けています。

****米フィラデルフィア・テネシー州で銃撃、計6人死亡・25人超負傷****
 米東部ペンシルベニア州と南部テネシー州で4日から5日にかけて銃撃事件が相次ぎ発生し、少なくとも6人が死亡、25人以上が負傷した。警察当局が5日、明らかにした。(後略)【6月6日 ロイター】
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****米でまた銃犯罪、メリーランド州の工場で3人死亡 容疑者拘束****
米メリーランド州北部スミスバーグの工場で9日、銃撃事件が発生し、少なくとも3人が死亡、4人が重傷を負った。容疑者は警察との銃撃戦の末に拘束された。(後略)【6月10日 ロイター】
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乱射ではありませんが、痛ましい子供による“誤射”も多発しています。

****2歳児が銃を誤射、父親死亡 米フロリダ州*****
米フロリダ州で先月、両親が放置していた、弾丸が入った銃を2歳の男児が誤って撃ち、父親が死亡する事故があった。地元当局が6日、明らかにした。
 
事故が起きたのは先月26日。オーランド近郊の現場に警察が駆け付けると、男児の母親が蘇生を試みていた。父親は病院に搬送されたが、間もなく死亡した。
 
裁判所に提出された文書によると、父親は銃を入れたかばんを床に置きっぱなしにしていた。男児が偶然銃を手に取り、パソコンでゲームをしていた父親の背中を撃った。
 
一家は両親と、生後5か月の女児を含む子ども3人の5人家族。事故当時、全員が部屋にいたという。
オレンジ郡のジョン・ミナ保安官によると、両親は、育児放棄や薬物使用など複数の罪で保護観察中だった。 【6月7日 AFP】
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どの事件にしても、日本でひとつでもこんな事件が起きれば社会を震撼させるのですが、アメリカでは文字通り“日常茶飯事”。

【規制強化を求める世論はあるものの、議会で規制強化が進まない現実】
バイデン大統領は銃規制強化の必要性を訴えてはいますが、問題は銃規制強化が進まないこと。もっと言えば、国民の多くは銃規制強化を一定に支持していますが、議会は別の論理で動いていること。

****バイデン大統領「教室がキリングフィールドに」 銃規制強化の立法化訴える****
バイデン米大統領は2日、テキサス州ユバルディの小学校で児童と教師21人が殺害された銃乱射事件など多発する銃暴力・犯罪を受けてホワイトハウスで国民向けに演説した。「あとどれだけの虐殺を受け入れようというのか」と述べ、殺傷力の強い銃器の購入最低年齢の引き上げや銃購入者の身元調査の徹底など銃規制強化を早急に立法化するよう訴えた。(中略)

バイデン氏は1日夜の高視聴率時間帯「プライムタイム」を選び、こうした銃乱射の地名や犠牲者数に言及しつつ「毎日どこかの場所がキリングフィールドになっている」述べ、「われわれは今何かをしなければならない」と、子供ら罪のない犠牲を食い止めるため国民的行動を迫った。

バイデン氏は「ユバルディやバファローの遺族がわれわれにしなければならないと話したこと」として殺傷力の高い銃や高容量の弾倉の販売禁止が必要と指摘。困難な場合は購入最低年齢を18歳から21歳に引き上げるべきだとし、銃製造業を法的責任から守る免責廃止なども急務と訴えた。

バイデン氏は、憲法修正第2条(銃を保有・携行する権利)を盾に銃規制強化に抵抗する共和党議員らに対して「第2条は無制限ではない」「共和党上院の過半数は最近の致命的銃乱射の後でさえ立法措置を取りたがっていない」と批判した。

一方、米疾病対策センター(CDC)の発表によると、銃に起因する子供の死亡が近年増加を続け、2020年に、交通事故を越えて19歳以下の最大の死因となったという。

一方、下院司法委員会は1日、「銃から子供を守る法律」として緊急提案された銃規制法案の審議を開始した。上院では、2012年に児童ら26人が殺害されたサンディフック小学校銃乱射事件のあったコネティカット州選出のマーフィー、ブルメンソール両上院議員らが中心となり共和党の一部議員と超党派の協議を開始した。【6月3日 産経】
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****米国民の大半が銃規制強化支持、議会対応には確信弱く=調査****
25日に発表されたロイターとイプソスの世論調査で、米国民の大半が銃規制法の強化を支持する一方、一連の銃乱射事件を受けても議会が対応するとの見方は多くないことが分かった。

調査は940人に実施。前日にはテキサス州の高校で21人が死亡した乱射事件が起きたほか、14日には黒人が多く住むニューヨーク州バッファローのスーパーマーケットで黒人10人が自称白人至上主義者に射殺されている。

調査では、回答者の84%が全ての銃器販売での経歴調査を支持。公共の安全に脅威とされる人物の銃を差し押さえる「レッドフラッグ法」を支持した回答者は70%だった。

さらに、銃購入が可能となる年齢を18歳から21歳に引き上げることに賛成する回答は72%だった。

こうした政策は民主党、共和党で一応に大半が支持しており、これまでに公表された調査結果と一致している。

しかし、大半の回答者は議会が行動するとは考えておらず、年内の銃規制法強化を確信しているとの回答が35%にとどまったのに対し、その確信はないとの回答は49%だった。【5月26日 ロイター】
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銃規制強化に踏み出せない議会(特に、共和党)に関して、バイデン大統領は「全米ライフル協会(NRA)が共和党を脅しているからだ」とも批判しています。

****米共和党、全米ライフル協会に脅されている=バイデン大統領****
バイデン米大統領は8日、深夜のトーク番組に初めて対面で出演し、銃規制が進まないのは全米ライフル協会(NRA)が共和党を脅しているからだと発言し、この問題を11月の中間選挙の争点とすべきだと呼びかけた。

バイデン氏は、共和党がNRAに脅されており「合理的な銃規制に賛成すれば予備選で敗退する」と考えるようになっていると指摘。

追加で大統領令を出すことを検討しているが、トランプ前大統領のように大統領令を多用すれば「憲法の乱用」になり、多用は望まないと述べた。(後略)【6月9日 ロイター】
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意地の悪い言い方をすれば、バイデン大統領としては苦戦が予想されている中間選挙に向けて、比較的国民の支持が高い銃規制問題を前面に出すことで形勢挽回を図りたい思惑でしょう。

議会も何もしていない訳でもありませんが・・・・

****銃規制法案がアメリカ下院で可決 党派対立で成立は見通せず****
銃による殺害事件が相次いでいることを受け、アメリカ議会下院で銃を購入可能な年齢を引き上げることなどを盛り込んだ銃規制法案が可決しました。ただ、成立のメドはたっていません。

アメリカ議会下院で8日に可決したのは「子どもたちを守る法案」と呼ばれる銃規制法案で、▼半自動小銃を購入可能な年齢を18歳から21歳に引き上げることや、▼多数の弾薬を装填できる弾倉の販売を禁止することなどが盛り込まれています。

激しい党派対立の中、与党・民主党の議員のほとんどが賛成票を投じたほか、銃規制に慎重な立場を取る野党・共和党からも5人が賛成し、可決しました。

下院の公聴会では8日、テキサス州の銃乱射事件の現場にいた女子児童が犯行の様子を証言するなど、被害者や遺族らが銃犯罪への対策の必要性を訴えていました。ただ、与野党の勢力が拮抗している上院では可決は難しいとの見方が優勢で、与野党による妥協点を見つけるための協議の行方が注目されています。【6月10日 TBS NEWS DIG】
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上院可決は“メドが立っていない”と言うより“上院での可決は絶望視されている”【6月9日 共同】
上院で可決できないのは、民主党内にも規制強化反対議員がいるということでしょう。

それでも、中間選挙で民主党としては「共和党の反対で規制強化が進まない」というアピールを強めたいという戦略でしょう。

【保守化した最高裁 殺傷力の強い銃砲を着衣の下に隠して携行することを認める見通し】
議会だけでなく、トランプ前大統領の判事任命で保守化した最高裁も銃規制強化には後ろ向きです。

****銃規制に背を向ける米最高裁のあきれた〝見識〟****
(中略)
だが最近、それ以上に大きな話題になっているのが、本来、公正中立のはずの連邦最高裁の動きだ。

 米政治メディア「The Hill」は先月30日、連邦最高裁が今月中にも、殺傷力の強い銃砲を着衣の下に隠して携行することなどを厳格に規制してきたニューヨーク州法について、「国民の武器所有権を保証した連邦憲法違反」との裁定を下す見通しだ、と報じた。(中略)

この点に関連して、銃砲所持問題に詳しいカリフォルニア州立大学のアダム・ウインクラー法学部教授は「最高裁が具体的にどこまで踏み込んだ判断を下すか不明だが、一点だけはっきりしていることがある。それは、相次ぐ無差別銃撃事件がますます政治問題化する中で、(最高裁の結果が)連邦議会による銃規制法制化のオプションを奪い取ってしまうことになるという事実だ」と厳しい批判のコメントを出している。

また、デューク大学「銃砲規制法センター」のジョセフ・ブローチャー法学部教授も「これまで、銃砲規制問題をめぐる主たる関心は、連邦議会が、銃砲のタイプも含めどの程度まで所有や携行を容認するかが対象だった。しかし、最高裁が決め打ちすることになれば、銃砲規制のためのいかなる議員立法も無意味なものとなる」と強く警告した。

銃規制だけでない最高裁の政治的な判断
最高裁が、銃規制強化を求める国民の大半の声や専門家の批判に逆らってまでこうした強気の判断に踏み切ろうとする背景には、前政権当時、トランプ大統領が任命し、上院審議で僅少差により承認されたブレット・カバノー、エイミー・バレット両判事に加え、超保守派で知られるサミュエル・アリト判事ら共和党系判事が、かねてから憲法修正第2条をタテに銃規制に反対態度を貫いてきたことが挙げられる。

このうち、カバノー、バレット両判事は、全米に絶大な影響力を持つ「全米ライフル協会」(NRA)との近い関係が以前からうわさわれてきた人物だ。

しかし実は、トランプ前政権以来、公正中立のはずの連邦最高裁が、このように政治色を強めてきたのは、銃規制問題だけに限ったことではない。

全米女性の重大関心事である妊娠中絶問題についても、最高裁は近く、中絶を「合憲」としてきた以前の最高裁判断を覆す裁定を下すものとみられ、大騒ぎとなっている。(中略)

それにもかかわらず、最高裁があえて国民多数の声を無視してまで「禁止」に傾きつつあること自体、司法の最高組織である最高裁が、保守基盤に支えられた共和党イデオロギーの〝温床〟になりつつあることを示している。

下降する最高裁への信頼、三権分立の危機に
この結果、最高裁に対する国民の信頼度も低下しつつある。

伝統ある世論調査機関「ギャラップ」が毎年実施してきた米国の「組織・団体・機関」に対する信頼度調査結果(2021年度)によると、「最高裁を信頼する」と回答した成人は、全体の36%にとどまり、「中小企業」(70%)、「軍隊」(69%)、「警察」(51%)などよりはるかに下回った。

2000年度の同調査では、「最高裁」に対する信頼度は50%に達していたのと比べ、ここ数年、国民の信頼を失いつつあることを示している。これには特に、トランプ前政権当時、同大統領お気に入りの判事3人が最高裁入りしたことが関係していることは、明白だ。

前政権以来、政党間対立色を濃厚にしてきた行政府、立法府に加え、民心からますます離れつつある最高裁――。合衆国が建国以来、誇ってきた三権分立制度は、今まさに危機に直面しつつあると言ってもいいだろう。【6月8日 WEDGE】
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世の中にはいろんな人物がいますので、保守化する最高裁に対し、判事の命を狙うような人物も。

****米最高裁判事「殺そうと」男性を拘束 中絶の合憲性覆す原案に立腹か****
米東部メリーランド州で8日、連邦最高裁のカバノー判事の自宅近くで、銃や刃物を所持した男が警察官に拘束された。米メディアが報じた。男は「カバノー氏を殺害しようと思った」と供述したという。

最高裁では人工妊娠中絶を巡る訴訟の審理が大詰めを迎えている。5月上旬に中絶を合憲とする判例を覆す内容の判決原案が報じられた後、カバノー氏ら中絶に否定的な保守派判事の自宅周辺で抗議活動が起き、当局が警備を強化していた。(後略)【6月9日 毎日】
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もし、最高裁判事が銃乱射で殺害されても、「悪いのは銃ではなく、精神を病んだ人間だ。規制強化ではなく警備強化で対応すべき」という話になるのでしょう。

新疆ウイグル自治区における中国の人権弾圧を批判するアメリカに対し、中国は“米テキサス州の小学校で21人が殺害された銃乱射事件に絡み対米批判を強めている。共産党機関紙、人民日報系の環球時報は31日付の社説で「米政府が、自国の重大な人権問題を具体的な行動で解決するよう求める」と主張した。”【5月31日 産経】とのこと。

中国の主張にも一分の真実があります。

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