孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ・バイデン大統領  原油増産に向けて「人権」では問題国のサウジアラビアとの関係改善模索 

2022-06-07 22:47:39 | アメリカ
(式典で剣士たちに歓迎を受けるトランプ前大統領【 2017年6月22日 GNV】 人権・民主主義など関心がない者は別として、一部からは「ISのような国家」との評価もある石油大国サウジアラビアとの付き合い方は厄介です)

【カショギ氏殺害やイエメン介入でサウジとの関係が悪化したバイデン人権外交】
アメリカ・バイデン大統領はトランプ前政権に比べて外交において人権・民主主義という価値観を重視する立場をとっています。

そのこと自体は個人的にも賛成しますが、人権・民主主義を顧みない国家が多い現実世界にあっては、人権などの看板を掲げることは外交の自由度を大きく制約し、前政権のような融通無碍な妥協・交渉を難しくする側面があり、「看板」と現実の間でのバランスをとる必要も出てきます。

ウクライナ戦争に伴うロシア産原油の禁輸は対ロシア制裁の中核になりますが、ロシアにエネルギーの多くを依存する欧州の足並みをそろえるためには代替調達先が必要。また、原油市況高騰はロシアの資金繰りを助け、また、アメリカ国内におけるガソリン価格高騰という中間選挙の行方を左右する“一大政治問題”を惹起しています。

そうした状況を改善するためには、最大産油国サウジアラビアの協力が必要になりますが、サウジアラビアは同盟国とはいうものの、「人権」の看板に照らすと極めて問題が多い国でもあります。

****バイデンが危惧。プーチンが触手を伸ばす新たな国、米との関係悪化で最悪の事態も***
アメリカの外交問題の中で、今後の世界秩序形成においても重要で、原油市況のカギを握るサウジアラビア。今アメリカとは史上最悪の関係と言われ、アメリカを完全に無視し、ロシアの国益に繋がる原油市況高騰状態を維持していますが、その関係悪化の原因と今後予想される動きについてお話をしたいと思います。

歴史上最悪の関係修復の為に送り込まれたウィリアム・バーンズ氏
先週アメリカでは、CIA長官のウィリアム・バーンズ氏が、4月中旬にサウジを極秘訪問していたとの報道が注目されました。

バーンズ氏は、外交官出身者として初のCIA長官に就任した方ですが、外交官として最初の赴任地がヨルダンでアラビア語を話すことができ、しかも中東との関係も深いということで、歴史上最悪と言われるサウジアラビアとの関係修復の為に送り込まれたと思われますが、その成果は今のところ不透明という段階です。

アメリカとサウジアラビアの関係
アメリカとサウジアラビアは、1933年の外交樹立以降、一貫して良好関係にありました。サウジにとっては、イランやイエメンなどの近隣諸国との慢性的な軍事緊張の中で、アメリカの軍事支援と資金援助を得ることは極めて重要です。

一方でアメリカとしても、サウジはかつては中東に於ける安全保障の拠点であり、特にイラン革命以降はイスラム原理主義者との闘いに於ける重要なパートナー、事実上の軍事同盟国です。

そして、最大の産油国という見方からすると、歴史的に原油の安定供給と市況安定という意味でも、非常に重要なパートナー国と位置付けてきました。

因みに日本も、原油が輸入品目の中で最大金額の商品、全輸入額の8.2%を占めていますが、その中のなんと40%を、現在サウジアラビアに頼っています。

アメリカとサウジアラビアの関係が悪化した2つの理由
アメリカがバイデン政権下でここまでサウジとの関係をこじらせた理由は大別すると2つです。

1つ目はオバマ政権時から開始された、中東への関与縮小の流れで明らかにアメリカはいくつもの失敗をしています。

イラクからの拙速な撤退、エジプトでのアラブの春への不味い対応、リビア政変時の介入、シリアでのロシアやイランへの主導権を渡した結果の酷い内戦誘発、そして、イランとの核合意締結と、サウジの信用を失墜させるに十分な外交を重ねてきました。

トランプ政権時は友好関係を取り戻しつつありながらも、バイデン政権になるとアフガンからの撤退、イラン核合意の復活画策などでまたアメリカの中東政策は、サウジからの信頼失墜の方向に加速しています。

そして、2つ目は、実質的支配者であるムハンマド皇太子に対するバイデン大統領の「否定」「軽視」にあります。
2018年にサウジ人ジャーナリストのカショギ氏がトルコで殺害された事件ですが、これにムハンマド皇太子が関与しているとバイデン政権は断定し、大きな人権問題だと攻撃していること。

さらに、バイデン大統領は飽くまでも父親のサルマン国王との関係を重視してムハンマド皇太子との関係構築を拒絶してきましたが、これは、カショギ氏殺害事件だけではなく、「史上最悪の人道危機」と呼ばれているイエメン内戦問題、今は完全にサウジとイランの代理戦争となっていますが、こちらも絡んできます。

しかし、ムハンマド皇太子からすれば、自分を認めないバイデン政権に対して、なぜ従わねばならないのかという思いは強く、昨年秋のオースティン国防長官、今年初めのブリンケン国務長官の訪問はキャンセル、3月のバイデン大統領の電話会談は拒否しました。

現在はOPECプラスで協力関係を構築してきたロシアと、今や最大の石油輸出先である中国へとパートナーを変えつつあると言って良いと思います。

サウジアラビアがアメリカに期待してるコト
中露と対立関係にあるバイデン政権は、サウジとの関係修復は絶対条件であって、必死に裏で動いていますが、これが奏功するかどうかはこれからの世界秩序の方向性、そして日本の将来に大きな影響を与えます。

まだ、ムハンマド皇太子がアメリカに期待していることはあり、例えばイエメン内戦への支援、原発などへの開発協力、カショギ氏殺害に関連する自身への訴訟撤回などです。【5月18日 MAG2NEWS】
********************

上記は、カショギ氏殺害事件へのムハンマド皇太子の関与など、サウジアラビアが抱える人権侵害をいささか軽視した論調ですが、サウジとアメリカのどちらが問題を抱えているかという点は別にして、両国関係がうまくいっておらず、そういうなかでアメリカがサウジアラビアの協力を必要とする状況になっているという点はその通りでしょう。

【原油市況高騰状態緩和のためにサウジとの関係改善を模索するアメリカ サウジ側も改善へのシグナル】
アメリカは上記のウィリアム・バーンズ氏に続き、高官をサウジに派遣しています。

****米高官2人が今週サウジ訪問、地域問題など協議=ホワイトハウス****
米ホワイトハウスは26日、政府高官が今週サウジアラビアを訪れ、世界のエネルギー供給やイラン問題など地域の課題を協議したと明らかにした。

サウジのリヤドを訪れたのは、国家安全保障会議(NSC)の中東政策調整官であるブレット・マクガーク氏と、国務省でエネルギーを担当するエイモス・ホクスタイン氏で、サウジ高官らと協議を行ったという。

ホワイトハウスのジャンピエール報道官は、訪問について「エネルギーの安全保障を巡るサウジとの関わりを見直すもの」だとし、サウジ産原油の輸出拡大要請が狙いという見方を否定した。

さらに、原油関連では石油輸出国機構(OPEC)とロシアなどの非加盟産油国で構成する「OPECプラス」が独自に決定を下すだろうとし、「サウジアラビアを含む市場環境については、関連する全生産者と協議している」と述べた。【5月27日 ロイター】
******************

アメリカがサウジアラビアの協力を必要としていると同時に、当然ながらサウジアラビアもアメリカとの関係改善は(実力者ムハンマド皇太子の感情は別にして)望むところ。いくらロシアとの関係が強くなっていると言っても、アメリカ抜きに現在の国際政治・経済は回りません。

そうした状況を反映して、サウジアラビアからも関係改善へ向けたシグナルが。

****サウジ、対米関係改善のシグナル送る 「OPECプラス」増産合意****
石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非加盟の産油国の連合体「OPECプラス」は2日の閣僚級会合で7、8月の原油増産ペースを引き上げることで合意した。バイデン米政権は歓迎する意向を表明、サウジアラビアが合意の取りまとめに貢献したと評価した。

露のウクライナ侵攻後、露産原油の禁輸制裁を打ち出したバイデン政権は、市場安定のため産油国に増産を求めてきた。しかし、サウジや友好国のアラブ首長国連邦(UAE)は露とウクライナの間で中立を維持し、米国の要請にも応じてこなかった。

ロイター通信によると、サウジとUAEを除くOPEC加盟諸国の増産余力は限られている。今回の決定は、米国との間にすきま風が吹いていた両国が関係改善のシグナルを送ったとの見方が有力だ。露は増産ペース引き上げを容認する考えを示し、露産原油依存からの脱却を目指す欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長も決定を歓迎すると述べた。

バイデン政権はサウジとUAEのイエメン内戦への軍事介入に否定的で、2021年の政権発足当初に両国への軍事支援停止を表明。その後も反体制サウジ人記者殺害事件で同国のムハンマド・ビン・サルマン皇太子が殺害を承認していたとの報告書を公表するなどして、冷ややかな関係が続いていた。

バイデン米大統領は6月下旬に予定される欧州訪問の際、中東に立ち寄ってサウジなど湾岸産油国の首脳らと会談することを検討している。

ロシアの原油生産量は米欧の制裁により日量100万バレル規模で減少しており、OPECプラスが決めた増産分では穴埋めできない。市場の反応も限定的だ。バイデン氏は中東訪問を通じてさらなる増産を働きかける狙いとみられ、米露の綱引きが活発化しそうだ。【6月3日 産経】
*******************

【バイデン米大統領が7月にもサウジアラビアを訪問か 「人権」と石油のバランス】
上記の流れを受けて、バイデン米大統領が7月にもサウジアラビアを訪問して関係改善を本格化させるのではとの観測が強まっています。

そこでは、冒頭にも触れたように「人権」の看板と石油という現実の間で慎重にバランスをとる必要があります。

****バイデン政権、サウジと関係修復へ 来月にも訪問、「人権外交」から転換か****
バイデン米大統領が7月にも中東を訪問し、冷え込んでいるサウジアラビアとの関係の修復に乗り出すとの観測が強まっている。

ロシアのウクライナ侵攻を一因とする原油高と物価高騰を受け、有力産油国のサウジに増産を働きかけるためだ。バイデン政権は、2018年に起きたサウジ人記者殺害事件などをめぐりサウジに批判的な立場をとってきたが、11月の中間選挙に向けてインフレ対策が最重要課題となる中で外交の方向転換を迫られている。

米NBCテレビによるとホワイトハウスは、サウジに本部を置く湾岸協力会議(GCC)の首脳会合に合わせて来月、バイデン氏が同国の首都リヤドとイスラエルを訪問する方向で調整を進めている。サウジでは実質的指導者のムハンマド・ビン・サルマン皇太子と面会することが検討されているという。

サウジ訪問の可能性が大きな関心を集めるのは、バイデン政権の中東政策の転換を象徴するものとなるからだ。
バイデン氏は20年の大統領選期間中、サウジの反体制記者、ジャマル・カショギ氏がトルコにあるサウジ総領事館で殺害された事件に絡み、「サウジに代償を払わせる」「(サウジは)嫌われ者」だなどと発言。政権発足後の21年2月に発表した報告書では、ムハンマド皇太子が殺害を承認していたと結論付けた。

バイデン政権はこのほかにも、皇太子が主導した軍事介入によって人道危機が深刻化したイエメン情勢でサウジに批判的な立場をとり、サウジが反対してきたイラン核合意の修復も模索。人権問題よりも兵器売却などを重視してサウジと蜜月関係を築き、対イランで強硬路線をとったトランプ前政権とは対照的だ。

しかし、米国内のインフレが約40年ぶりの高水準となり、ガソリン価格の高騰で国民の不満が強まったことで事情は一変。豊富な石油資源を有するサウジなどアラブ諸国との関係強化が重要性を増した。そんな中でバイデン氏がサウジに赴くことは、米国からサウジ側への譲歩を意味する。

バイデン氏自身は今月3日、近く中東を訪問する可能性があることを認め、その場合は地域情勢の安定化が主要議題になると指摘。「大統領として人権問題の見方は変わらない」として、外交方針を転換するつもりはないと強調した。

ただ、喫緊の課題であるエネルギー問題でサウジの協力を取り付けるには、同国の面目を傷つけないことが不可欠。ブリンケン国務長官は1日、サウジ外交では「人権や民主主義(の促進)と、米国民が必要としているものの両方を追い求める」ことが重要だと述べ、これまでよりも人権批判を抑制する姿勢を示唆した。【6月6日 産経】
*******************

【人権・石油以外に米国内政治事情などもあって、より微妙な対キューバ・ベネズエラ関係】
一方、アメリカにとってキューバ・ベネズエラの独裁政権との関係は、「人権」・石油が絡む点では上記サウジアラビアとの関係と同じですが、国内の反キューバ勢力の存在、そのことの「選挙」への影響、更にはメキシコなど他のラテンアメリカ諸国の動きなども加わって、より微妙なものにもなっています。

そのあたりは長くなるので、また別機会に。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする