(リアム海軍基地(2019年)【6月16日 Newsweek】)
【当然のごとく与党圧勝】
フン・セン首相・人民党による実質的な一党支配状態が続くカンボジアでは6月5日にコミューン(地域行政区)の評議員を選ぶ地方選挙が行われました。
2017年6月の前回選挙では野党・救国党が躍進し、約3割の行政区で第1党になりました。
しかし、危機感を抱いたフン・セン政権側は国家反逆罪の疑いで救国党のケム・ソカー党首を逮捕。同年11月には、政権の意向を受けたとみられる最高裁が救国党の解党を命じています。
こうして野党勢力を排除して行われた2018年の総選挙では、フン・セン首相率いる与党・人民党が下院の全議席を独占することに。
今回地方選挙で、救国党に代わって野党側の中核となったのがキャンドルライト党。
以前からあった野党ですが、解党された救国党のメンバーらが加わり、与党側の汚職や強権的な振る舞いに反発や恐怖心を抱く市民らの受け皿として急成長したということで、今回の選挙に立候補した17政党の約8万6千人のうち、人民党の約2万8千人に次ぐ約2万4千人の候補を擁立して戦いました。
野党キャンドルライト党の選挙活動に対しては“当然のごとく”当局から圧力があり、党員逮捕、選挙活動妨害のほか、選挙管理委員会はキャンドルライト党の100人以上の候補者資格を剥奪しています。
一方、フン・セン首相は長男フン・マネット陸軍司令官を次期首相候補に選んで「世襲」を目論んでいますが、今回選挙をその「世襲」への国民のお墨付きを得る機会と位置づけています。
****「自動的権力委譲でない」と強調 長男を後継者でカンボジア首相****
カンボジアのフン・セン首相は27日、オンラインで講演し、与党カンボジア人民党が首相の長男フン・マネット陸軍司令官を後継者として選んだことについて、6月の地方評議会(議会)選で人民党が票を集めれば国民が認めたことになるとの考えを示した。「自動的に権力は委譲されない」と強調した。地元メディアが伝えた。(後略)【5月27日 共同】
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したがって、フン・セン首相としては何が何でも「圧勝」する必要がありました。
結果は・・・“当然ながら”与党圧勝でした。
****カンボジア地方選、与党「圧勝」 首相の座 世襲へ前進 野党、選挙活動の妨害非難****
5日に投開票されたカンボジアの地方行政区の評議会議員を選ぶ地方選挙で、在任約37年のフン・セン首相が率いる与党の人民党(CPP)が「圧勝」した。野党勢力に対する締め付けが影響した格好だ。
2023年に予定される下院選挙でも勝利し、長男のフン・マネット陸軍司令官への首相ポストの世襲を着実に前進させる構えだ。
6日までの複数の現地メディア報道によると、CPPは首都のプノンペンのほか大半の州の行政区で過半数の得票を集めて第1党になった。同党のスポークスマンは、全体の99%の行政区で第1党になるとの見方を示し「国民がCPPを支持した結果だ」と主張した。
CPPは、新型コロナウイルスのワクチン調達などで感染拡大を早期に抑え、経済再開を進めた実績などをアピール。野党への圧力を強めて選挙戦を有利に進め、約7割の行政区で第1党だった17年の前回の地方選結果を大きく上回った。
新潟国際情報大学の山田裕史准教授は「野党勢力に対する分断や圧力に加え、CPPの圧倒的な資金力と動員力が、選挙結果に表れた」と分析する。
地方選挙で与党のCPPが勝利したことで、フン・セン氏は長男のフン・マネット氏への世襲を進めていく構えだ。5月に開かれた国際交流会議「アジアの未来」に出席したフン・セン氏は交代時期は明言しなかったが、「選挙でCPPが敗北したら、(マネット氏は)後を継がない」と述べ、選挙結果を重視する姿勢を示していた。
一方、野党勢力は惨敗した。前回の地方選で躍進した後、政権の影響を受ける最高裁の命令で解党させられた旧最大野党、救国党(CNRP)の流れをくむキャンドルライト党は大半の行政区で候補者を擁立したが、思うような選挙活動ができなかったもようだ。同党は6日の声明で「選挙はカンボジアの人々の意思を反映していない」と述べ、与党による妨害活動を非難した。
選挙管理委員会はキャンドルライト党の候補者、100人以上の出馬を認めず、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は「野党候補を標的とした脅迫、妨害に悩まされた」との声明を出している。
今回の地方選には与野党合計17の政党が参加。郡や市などの地方自治体の下にある1600超の行政区で約1万1600議席を争った。選挙管理委員会によると、投票率は約78%になるとしている。野党支持者の一部が棄権にまわったとみられ、約90%だった前回選挙を下回った。6月下旬に最終的な選挙結果が公表される。【6月7日 日経】
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【野党も善戦のようにも・・・】
与党・人民党側は“99%の行政区で第1党になる”との見方を示していますが、議席数でいうと与党側が約80%、キャンドルライト党が18%という結果のようです。正式結果は26日に発表されます。
****【カンボジア】与党、地方選の議席80%超を獲得と発表****
カンボジアのフン・セン首相率いる与党の人民党はこのほど、5日に実施された地方評議会(議会)選挙の結果について、全国1万1,622議席の80.7%を既に獲得したと述べた。正式な開票結果は、国家選挙管理委員会(NEC)が26日に発表する予定。クメール・タイムズ(電子版)が9日伝えた。
選管委は7日夜、速報として人民党の得票数は最大530万票、最大野党のキャンドルライト党は160万票と報じた。人民党の主張はこの速報値と一致しているもようだ。
人民党の広報官は、「全国1,652カ所の地方評議会のうち1,648カ所で第1党となる票を獲得した」とコメントした。同党が示したデータによると、キャンドルライト党の獲得議席は2,199議席で、評議会4カ所で第1党となる見込み。旧最大野党カンボジア救国党の元国会議員チブ・カタ氏らが設立した新党は6議席を獲得したとみられる。【6月10日 NNA】
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ライバル野党党首を逮捕して解党してしまうようなフン・セン政権のもとで戦われた選挙戦ですから、与党圧勝は当たり前、野党キャンドルライト党が18%の議席を獲得というのは“善戦”のようにも思えますが・・・
与党圧勝しか報じないメディアのなかで、ロイターがそのあたりに触れていました。
****カンボジア地方選、与党圧勝も新党が健闘****
カンボジアで5日実施された地方議会選挙は、フン・セン首相率いる与党カンボジア人民党(CPP)が地滑り的勝利を収めた。ただ新党も予想以上に健闘した。
選挙管理委員会の6日の発表によると、ほぼ全ての開票が済んだ段階で、CPPは1万1622議席の80%を獲得した。新党キャンドルライト党は18%。
CPPは選挙前は95%の議席を有していた。
投票率は77.91%。
キャンドルライト党は、前回の議会選前に裁判所から解党命令を受けた野党カンボジア救国党(CNRP)の流れをくむ。CNRP党首だったサム・ランシー氏は、ここ数年事実上一党体制だったがキャンドルライト党が民主主義の復活を成功させたとツイッターに投稿した。【6月6日 ロイター】
選挙管理委員会の6日の発表によると、ほぼ全ての開票が済んだ段階で、CPPは1万1622議席の80%を獲得した。新党キャンドルライト党は18%。
CPPは選挙前は95%の議席を有していた。
投票率は77.91%。
キャンドルライト党は、前回の議会選前に裁判所から解党命令を受けた野党カンボジア救国党(CNRP)の流れをくむ。CNRP党首だったサム・ランシー氏は、ここ数年事実上一党体制だったがキャンドルライト党が民主主義の復活を成功させたとツイッターに投稿した。【6月6日 ロイター】
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【中国の影響を最も受けている国の中国海軍基地建設問題】
カンボジアは中国の影響を強く受けており、ASEANにあってはフン・セン首相は中国の代弁者・代理人的な様相もあります。
****中国の影響を最も受けている国、3位タイ、2位シンガポール、1位は?―台湾研究機関****
台湾の研究機関、ダブルシンク・ラボ(台湾民主実験室)がこのほど発表した「中国指数」によると、世界で中国の影響を受けている上位3カ国は、1位がカンボジア、2位がシンガポール、3位がタイだ。
中国紙・環球時報が28日、シンガポール紙ザ・ストレーツ・タイムズの報道として伝えたところによると、同指数は、比較可能なデータを使用し、メディア、外交政策、学界、国内政治、経済、技術、社会、軍事、法執行の9つの領域にわたる99の指標から、アジア、欧州、オーストララシア、アフリカ、南北アメリカなどの36カ国・地域における中国の影響度を測定したもの。(後略)【4月29日 レコードチャイナ】
中国紙・環球時報が28日、シンガポール紙ザ・ストレーツ・タイムズの報道として伝えたところによると、同指数は、比較可能なデータを使用し、メディア、外交政策、学界、国内政治、経済、技術、社会、軍事、法執行の9つの領域にわたる99の指標から、アジア、欧州、オーストララシア、アフリカ、南北アメリカなどの36カ国・地域における中国の影響度を測定したもの。(後略)【4月29日 レコードチャイナ】
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そんな“中国の影響を最も受けている国”カンボジアに中国が海軍基地を建設しても、これまた“当たり前”と驚きもしませんが・・・。
****カンボジアに中国海軍施設か 米紙報道 「極秘裏に」建設****
米紙ワシントン・ポスト(電子版)は8日までにカンボジア南西部のリアム海軍基地内に中国が極秘裏に海軍施設を建設していると報じた。
中国やカンボジアは報道内容を否定したが、リアム海軍基地は南シナ海に近く、中国軍が利用するとの観測が絶えない。アフリカ東部ジブチに次ぐ中国軍2カ所目の海外拠点となる可能性があり、各国は動向を注視している。
同紙が6日、西側政府関係者の話として伝えた。施設の詳細は不明。中国当局者は同紙に対して、中国軍が基地の一部を使用することを認めたが、科学者も使うため軍事目的に特化していないと説明している。
報道を受け、中国と関係が悪化するオーストラリアのアルバニージー首相が海軍施設建設への憂慮を表明するなど警戒感が広がる。
カンボジア政府報道官は、中国と同基地で船舶修理工場の整備事業などに着手することは認めたが、中国軍が独占的に使用することは否定した。
中国外務省の趙立堅(ちょう・りつけん)報道官は7日の記者会見で、「リアム海軍基地の再建はカンボジア海軍の能力強化を目的としている。米国はカンボジアの立場に耳を貸さず、悪意のある臆測を繰り返している」と批判した。
リアム海軍基地をめぐっては、米紙ウォールストリート・ジャーナルが2019年、カンボジアが支援の見返りに中国との間で基地の軍事利用を認める協定を結んだと報じた。カンボジア政府は20年には同基地内にあった米国の支援で建設された施設を取り壊しており、米国が不快感を示していた。【6月8日 産経】
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フン・セン首相と中国の関係を考えると、中国の海軍基地の一つや二つあっても“当たり前”のことで、そんな騒ぎ立てることかな?・・・という感も。
****こっそりカンボジアに拠点を作った中国人民解放軍に、慌てるアメリカ****
<中国軍がカンボジア海軍の基地使用に関する密約を結んだと報じられるも、作戦上のメリットは少なく、単なる政府高官と政商の癒着にすぎない。それでも、なぜアメリカは焦るのか?>
秘密合意があるのか、ないのか。カンボジア南西部に位置するリアム海軍基地の拡張工事をめぐり、欧米メディアの報道が過熱している。
6月8日の着工式で、記念の鍬く わならぬシャベルを入れたのは、カンボジアのティア・バン副首相兼国防相と、中国の王文天(ワン・ウエンティエン)駐カンボジア大使だった。カンボジア政府は近隣で海水浴に興じる2人の写真も公開しており、中国との良好な関係をアピールした。
これにいきりたっているのがアメリカだ。2019年にウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)が、中国は拡張工事を支援するだけでなく、中国軍が同基地を使用する密約を結んでいると報じたのを皮切りに、同基地は中国がアジアの海を支配するための新たな足掛かりになるという報道が盛んになった。
実際、6月6日付のワシントン・ポスト紙は、中国が「自国軍専用の海軍施設をカンボジアに建設している」と報じた。そして匿名ではあるものの中国政府筋が、「基地の一部」が「中国軍」によって使われることを認めたとしている。ただしこの人物は、基地は中国軍の「専用」となるわけではなく、研究利用もされる予定だと述べたという。
カンボジア政府のパイ・シパン報道官はAP通信に対し、基地の拡張は「中国とカンボジアの協力関係」の表れだが、カンボジアは外国の軍隊の駐留を認めないと断言した。ティア・バンも着工式で、「カンボジアは自衛能力を高める」と述べるにとどまった。
作戦上の利点は少ない
カンボジア政府寄りメディアのフレッシュニュースによると、中国は基地に新しい桟橋を2つ建設しつつ、中型船が利用できる水深を確保する浚渫(しゅんせつ)工事を行う。軍服3万6900着をカンボジア海軍に提供する計画もある。
とはいえ、中国軍のものとされる施設の面積はわずか0.3平方キロ。ここに軍事的プレゼンスを築くことで中国がどれほど恩恵を得るのかは謎だ。南洋理工大学S・ラジャラトナム国際研究大学院のジョン・ブラッドフォード上級研究員は今年2月、「中国にとって作戦上の新しい利点は少ない」と指摘している。
真実はどうあれ、欧米メディアの過熱報道は、アメリカの外交政策の失敗という視点を欠いているようだ。WSJの記事が出るまで、カンボジアは総じてアメリカの外交政策で忘れられた存在だった。
1992〜93年に国連の監視のもと一党独裁から多党制に移行して以来、アメリカはカンボジアを戦略的重要性の低い国と見なしつつ、「民主主義の拡大」という理想の押し付けに終始してきた。
フン・セン首相とカンボジア人民党は、そんなアメリカの真意を疑っていた。フン・センは、ベトナム戦争時代に米軍の絨毯(じゅうたん)爆撃を目撃し、80年代にはアメリカ主導の経済制裁も経験した。彼がアメリカに背を向けて中国に傾くことは、合理的に予測できた。
カンボジアに中国の軍事的プレゼンスが構築されるとすれば、それは中国政府とカンボジアの悪徳エリート層の利己的選択であるのは間違いない。だがそれは、アメリカの30年にわたる対カンボジア政策の失敗も意味している。【6月16日 Newsweek】
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アメリカが「人権」「民主主義」を掲げれば、そうした価値観を共有しないフンセン・カンボジアやミャンマー軍事政権、軍事政権が出自のタイ・プラユット政権などが中国に近づくのは道理でもあります。
問題は、そうした強権支配的な政権にもアプローチして、関係を維持するかどうか・・・そこは悩ましい問題。