孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

グルジア  コソボで開いたパンドラの箱 新冷戦 歴史認識

2008-08-11 15:48:11 | 国際情勢

(グルジアの首都トビリシの街角で “flickr”より By khalampre
http://www.flickr.com/photos/7498500@N04/525177404/)

【開いたパンドラの箱】
グルジアについては、現在進行中であり、ロシア軍の介入を受けてグルジア軍は撤退の様子、今後ロシアがどうするのか・・・、フランス・サルコジ大統領が仲介に立つ意向を示している・・・という状況のようです。
そんな状況を伝える報道を見ていて思ったことがいくつか。

ロシア側は南オセチア住民の被害を強調するかたちで、「(南オセチアの多数派)オセット人への虐殺」(プーチン首相)を訴えています。
コソボと同じではないかと言いたいのでしょう。
コソボが独立して、なぜ南オセチアはできないのか?
NATOはコソボ支援で介入したのに、ロシアが同じように虐殺を止めるべく介入してどこが悪いのか?

いきなり、結論じみた、しかも短絡的な話になりますが、血を流してでも分離したいという住民・地域を「国家の領土保全の原則」云々で力ずくで押さえ込んでも仕方がないような気がしています。
仮に押さえ込めたとしても、残るのは互いの憎しみだけであり、そんな国家に何の意味があるのかわかりません。
確かにロシア・南オセチア側の言うように、コソボがよくて南オセチアがダメという理屈はやはり難しいように思えます。
最終的には住民投票などによる、そこに住む人々の意思で国家帰属を決めるしかないのでは。

もちろん、そのような分離独立を認めると世界中あちこちで独立の動きが噴出して世界の秩序が保てない、国家の体をなさないような地域が独立に走り結果的に住民の負担になる、・・・その他いろんな弊害は出るでしょうが、それでも力ずくで国家に縛りつけ、多くの犠牲者を出すことに比べれば、まだましのように思えます。
国家・領土というものはアプリオリに決定しているものではなく、そこに暮らす人間が自らの意志で決めるべきもので、それ以上のものではないようにも思えます。

極端なたとえ話ですが、万一、北海道の住民が日本から分離したいと言えば、万一、北陸の住民が中国と一体化したいと言えば、万一、九州の人々が独立して将来はアメリカの1州になりたいと言うなら、もちろんどうしたらこれまでどおり一緒にやっていけるか協議はしますが、どうしても分離の意思が固いなら、それを止めることはできないと考えます。
分離した後に良好な関係を維持し、やがて50年後、百年後にまた再統一の機運が高まればそれはそれで・・・。

更に飛躍すれば、国家だけでなく、家族とか地域とかいった従来社会の基礎的な単位と考えられていたものは、多分に必要性に基づくものであり、社会の変化に伴いその必要性が薄れれば、やがてその拘束は弱まり、次第に“個人”に帰して行くものなのかな・・・という感を持っています。

このあたりの考え方は、どういう人間関係を想定しているかによるのでしょう。
私的には、あまり濃密な関係は息苦しく思うほうであり、希薄な人間関係から社会的事件を起こすような者を指弾する側より、その犯罪者にどちらかというとシンパシーを感じるほうなので、こんなことも思うのでしょう。
昔、職場に体育会系の新人が入ってきて、「もし自分の忠告に耳をかそうとしない者がいれば、殴りつけてでも自分の方を向かせて話をする」と話すのを聞いて、「ああ、そういう関係もあるのか・・・、それがまっとうな人間関係のあり方なのかも・・・」と感じた記憶があります。

【新たな冷戦】
話がどんどん飛躍していきますので、グルジアに戻すと、安保理は機能せず冷戦時代に戻ったようだとの声もあるなか、今回の件でロシアがやりすぎると新たな冷戦の時代に突入する懸念もあります。
そうなると世界の流れは大きく影響をうけますが、瑣末なところでは、ロシアにとって2014年に同国南部のソチで開催される冬季五輪の問題もあります。

すでに昨年の段階で、グルジアのシュワルナゼ前大統領はロシアのアブハジア自治共和国支援に抗議してソチ五輪ボイコットを世界に呼びかけています。
南オセチア自治州同様に帰属が問題となっており、今回の事態で戦闘の波及が懸念されているアブハジア自治共和国はロシアの保養地ソチから車で30分の距離です。

アブハジア自治共和国はグルジアから独立を宣言しグルジア軍との武力紛争に発展、15年間にわたる対立で、双方合わせて約1万7000人もの人命が奪われています。
ロシアは、そのアブハジアに「平和維持軍」を駐留させており、グルジア側は駐留ロシア軍の撤退を求めています。ロシアは、同共和国住民にロシアのパスポートを発給し、すでに住民の8割がロシア国籍を保有しています。
このあたりの経緯は南オセチアと全く同じです。

ロシア・プーチン首相にとってソチ五輪は、ソ連軍のアフガニスタン侵攻を非難する日本を含む西側陣営がボイコットした1980年夏のモスクワ五輪以来となり、何としても実現させたい悲願です。
少なくとも今回紛争の影響とこの一体の不安定化はチェチェンなども絡んで、北京五輪同様、ソチ五輪においてもテロへの警戒をまた重要課題にしそうな雰囲気です。

ソチ五輪はまだ6年先の話ですからともかく、新たな冷戦の状態になると、これまで豊富な資源を軸に世界経済のなかで発展してきたロシア経済にも影がさしますので、ロシアとしても欧米との決定的な対立は避けたいところでしょう。

【歴史認識】
メベージェフ大統領は緊急招集した安全保障会議で「ロシアは歴史的にカフカス住民の安全の保証人だったし、そうで有り続けている。」とその歴史観を述べたそうです。
これを伝えた記事にもあるように、この歴史観はグルジアの歴史観とは全く逆です。
グルジアにとって、ソ連・ロシアは常に“侵略者”でした。

今回の衝突に対し、ポーランドとエストニア、ラトビア、リトアニアのバルト3国の大統領は9日、グルジア・南オセチア自治州情勢をめぐり共同声明を出し、ロシアの軍事介入を「帝国主義的政策」と非難し、EUとNATOに指導力を発揮するよう求めたそうです。
また、ロシア政府は、ウクライナにあるロシア海軍基地から数隻の艦艇をグルジア沿岸に派遣していますが、ウクライナはグルジアの同盟国であり、ロシア海軍艦艇をウクライナ国内の基地に帰還させないと警告しています。

旧ソ連圏の諸国、歴史的にロシアと関連が深い国から、“ロシアの侵略”に対する非難が高まっており、歴史認識の違いに根ざしたロシア対周辺国の対立も事態の推移に影響を与えそうです。


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フィリピン・ミンダナオ島  MILFとの和平交渉は再開したようですが・・・

2008-08-10 12:35:59 | 国際情勢

(ミンダナオ島のベースキャンプ付近のジャングルを船で行くMILF兵士 今年4月12日撮影 “flickr”より By Keith Bacongco
http://www.flickr.com/photos/kitoy/2704303280/)

【和平交渉再開】
世界の目は北京とグルジアに向いていますが、今日はマイナーな話題でフィリピン・ミンダナオ島の話。
1ヶ月前の7月11日ブログ「フィリピン・ミンダナオ島 BIMP、赤道アジア、和平交渉、ダバオの“処刑人”市長」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20080711)でも少し取り上げたミンダナオ島の反政府武装組織「モロ・イスラム解放戦線」(MILF)との和平交渉の件です。

マニラなどと比較して経済的に立ち遅れ貧困層が多く、また宗教的にもキリスト教主体のフィリピンのなかでイスラム教徒が多いミンダナオ島では、70年代、急進派イスラムグループが島の分離独立を目指し「モロ民族解放戦線」(MNLF)を結成して武力闘争を開始。
MNLFは96年に和平合意しましたが、分派した「モロ・イスラム解放戦線」(MILF)は闘争を継続。
その後、MILEは03年に政府と和平準備交渉を開始しました。

この和平交渉はマレーシア政府を仲介に進められ、マレーシアを中心に日本からの復興事業担当者1名を含む国際停戦監視団(57人)が構成されました。
しかし、自治権をどの程度付与するかをめぐってフィリピン政府が難色を示し交渉は停滞。
しびれを切らしたマレーシア側は、30人を撤退させ、任期が切れる8月末に残りを引き揚げることも表明していました。

こうした動きに後押しされるかたちで、昨年末から中断していた和平予備交渉が再開される見通しとなったことが7月18日には報じられました。
また、マレーシアのライス外相が8月4日、フィリピン政府の要請があったとして少なくとも現在ミンダナオ島に残る12人を残留させると明らかにしました。
日本政府も引き続き監視団に専門家を派遣する方針を明らかにしています。
かろうじて、踏みとどまったようです。

【最高裁差止め?】
ただ、気になる記事もあります。
*****過激組織との合意差し止め=最高裁が異例の決定-比****
フィリピン最高裁は4日、アロヨ政権が予定していた過激組織モロ・イスラム解放戦線(MILF)との和平合意文書の調印を一時差し止める異例の決定を下した。
 政府とMILFは、MILFが拠点とする南部ミンダナオ島にあるイスラム系住民の「先祖伝来の土地」の扱いに関して、天然資源の管理など大幅な自治権の付与、イスラム教徒自治地区(ARMM)の拡大などで大筋合意。5日に調停国のマレーシアで覚書に調印する予定だった【8月4日 時事】
******************

不親切な記事で、最高裁が何を問題としたのかわかりません。
また、その後どうなったかの続報も見ていません。
そうしたなかで、こんな記事も。

*****フィリピン 宗教超えた夫婦愛****
 フィリピン南部ミンダナオ島のコタバト市で、一人のイスラム教徒の青年(29)に出会った。
 国民の8割以上がカトリック教徒のフィリピンで、コタバトは住民の半数以上がイスラム教徒だ。周辺にはイスラム反政府組織「モロ・イスラム解放戦線(MILF)」の拠点があり、今も政府軍との間で散発的な戦闘が続く。市内で爆弾テロが起き、死傷者が出ることもたびたびだ。
 青年の親類にも銃を手に政府軍と戦った者が多い。「カトリック教徒をどう思うか」との問いに、青年から予想外の答えが返ってきた。
 妻は教会の司祭のめいで、厳格なカトリック教徒だという。青年は「ミンダナオの紛争は、世界各地で起きているカトリックとイスラムの対立と同じものではない」とほほ笑みながら答えた。
 2人は「たまたま知り合い」、周囲からさほど反発も受けずに結婚した。イスラム教徒が食べることを禁じられている豚肉など食習慣の違いも、妻が配慮してくれるので問題はない。イスラム教のラマダン(断食月)中に妻が昼食をとることも気にならない。
 週末には宗教を問わず友人たちと夕食を共にする。時には政府軍と反政府勢力の兵士が同席することもある。もちろん、妻の家族とも友人のような良い関係だという。
 MILFと政府の間で和平交渉が行われているが、先行きは不透明だ。紛争の解決について話が及ぶと、青年の顔が急に曇った。「私たちの生活が、宗教に関係なく仲良く暮らせることを証明しているのに」【矢野純一 8月10日 毎日】
***********************

【ムスリムの異教徒との婚姻】イスラム教徒の異教徒との結婚がどうなっているのかウィキペディアで確認すると
「(イスラム法では)ズィンミー(イスラム以外の一神教徒)とムスリムの婚姻に関しては、ムスリム男性はズィンミーの女性と結婚できるが、ズィンミーの男性はムスリムの女性と結婚することは出来ない。ズィンミーの男性がムスリムの女性と性的関係をもった場合、男性は処刑される。・・・注意しなければならないのは、以下に述べるとおり現実のムスリムと非ムスリムとの関係は極めて多様であり、良くも悪くもイスラム法どおりではないことである。・・・西ヨーロッパ、中央アジア、インド、トルコを含むバルカン諸国などのムスリムは必ずしもイスラム法の規定にしたがっておらず、イスラム法で明確に禁止されているムスリム女性と異教徒男性との結婚も存在している。但し地域による違いもあり、保守的なムスリム家庭の場合駆け落ちを強いられることがある。
イスラム法の厳格な適用が行われる中東では、男性のみならず女性も結婚に際しイスラムへの改宗を強制される。・・・」

異教徒には、なんだか随分男性にとって手前勝手なルールのようにも思えます。
かつて白人男性が黒人奴隷女性と関係を持つのは普通にあったけど、黒人男性が白人女性にそぶりを見せるだけでリンチにあった・・・そんな関係を彷彿とさせます。
イスラムを絶対優位として異教徒との婚姻を制約すること自体に全く馴染めませんが、百歩、否、千歩譲ってそこを認めるなら、少なくとも非ムスリムと関係を持ったムスリム男性は、二度とそのような行為ができないように切断するとかいった措置がないと片手落ちでしょう。


話がズレてしまいました。
ミンダナオ島です。
その後MILEとの和平交渉がどうなっているのかよくわかりません。
上記毎日の記事の夫婦が安心して暮らせるような環境が1日も早く実現してもらいたいものです。

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グルジア  オリンピック開会に合わせて戦闘本格化

2008-08-09 16:49:35 | 国際情勢

(今年5月の独立記念日で首都トビリシをパレード行進するグルジア軍 “flickr”より By Gribiche
http://www.flickr.com/photos/rob-sinclair/2526616237/)

【「一つの世界 一つの夢」】
国内外でいろんな話題・関心・批判などを集めながら、また、いろんな問題をかかえながら、第29回オリンピック北京大会の開会式が8日夜“鳥の巣”で開催されました。
暴動やテロへの警戒から厳重な警備が敷かれる中、史上最多の204カ国・地域から選手、役員合わせて約1万6000人が参加。
「一つの世界 一つの夢」をスローガンに掲げた世界最大のスポーツ祭典が幕を開けました。

ダルフール問題への中国の対応を批判するスピルバーグが、今年2月に開会式芸術顧問を辞退。
代わった張芸謀(チャン・イーモウ)が演出した開会式は、「中華」を前面に押し出した構成で、この大会にかける中国の意気込み、思い、昂ぶりが伝わるものでした。

“204カ国・地域”というのはさすがに膨大で、時々中座しながら入場の様子を観ていましたが、内紛を抱える国、飢餓に悩む国、人権弾圧を批判されている国、貧困にあえぐ国・・・そんな国々も選手団は何もなかったように晴れやかに入場してきます。

“これでいいのかな? 「平和の祭典」なんて現実離れした虚構じゃないのか?”という思いと、“これはこれでいいじゃないか・・・。この「平和の祭典」が行われることで、現実へのなんらかのアピールができれば”という思いが交互に胸をよぎります。

中国について言えば、単に“国威発揚”といった偏狭なナショナリズムに終わるのではなく、大会成功で得る自信、国内外の多様性の認識などを通して、国内における民族対立・民主化・経済格差などの問題に対する新たな対応のスタートとなることを、また、これを機に、国際的には常識の通じる普通のつきあいができるようになることを願うところです。

【その頃、グルジアでは・・・】
それにしても、プーチン首相がスタンドでロシア選手団を見守るとき、グルジア選手団が晴れやかに入場するとき、ロシアが支援する分離独立派支配地域を抱え、かねてより対立が激化しつつあったグルジアでは、ついに衝突が本格化しました。
このグルジアの南オセチア自治州に対する攻勢は、まさにこのオリンピックで世界の注目がそちらに集まっているときを狙ってのものとも言われています。

グルジアが抱える問題についてはこれまでも取り上げてきました。
07年8月12日「対立を煽る1発の不発ミサイル」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20070812
07年11月9日「手折られたバラ、もうひとつの非常事態宣言」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20071109
08年5月9日「たかまる紛争の危険」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20080509

グルジアは一方的に停戦すると表明しましたが、南オセチア自治州側がこの停戦に応じなかったとして、8日未明には州都ツヒンバリを包囲し砲撃を開始、戦車で侵攻しこれを一時制圧。
これに対し、独立派の後ろ盾となってきたロシアも「対抗措置」を表明。8日午後、独立派の反撃を支援するためツヒンバリに戦車部隊部150両を進めて戦闘が激化しています。
ロシア軍機がグルジア都市を空爆しているとも伝えられます。

一方で、南オセチア自治州側は、グルジア軍の攻撃で南オセチア(住民の多くがロシア国籍を取得している)住民ら1400人以上が死亡したと表明。
また、平和維持部隊に派遣されたロシア兵10人以上も死亡したと伝えられています。

【弱腰は見せられないメドベージェフ大統領】
オリンピック開会式に出席中のプーチン首相は「対抗措置を呼び起こすことになる」とグルジアを非難。
メドベージェフ大統領も、グルジアの攻撃でロシア平和維持軍やロシア国籍を持つ住民が犠牲になったことを指摘し、「犯罪者は罰せられなければならない」と述べ、強い対抗措置を取ることを示唆しています。

国内基盤が強くないメドベージェフ大統領としては、国内的に“弱腰”と取られるような対応はとりづらく、特にプーチン首相が留守のこの時期の“弱腰対応”は“独り立ちが出来ない”とのイメージが強くなるため、グルジアに対する「軍事介入」の強い対応に出ています。

グルジアはカスピ海の石油をロシアを回避して欧米へ輸出するルート上にあり、欧米にとって中東とロシアをにらんだ戦略的に重要な位置にあります。
このような事情もあって欧米はグルジア・サーカシビリ大統領を強く支持してきました。
8日の国連安保理協議でも、グルジアに停戦を求めるロシアの声明案は欧米の反対で採択されませんでした。

また、ロシアが軍事介入したことについて、ライス米国務長官は、ロシアに対して「航空機やミサイルによる攻撃を中止し、グルジアの領土の一体性を尊重して戦闘部隊を撤退させることを求める」との声明を8日発表しました。
北京訪問中のブッシュ大統領は8日、プーチン露首相と会談した際、停戦と自制を求めたとのことで、米政府は南オセチア自治州の分離独立は認められないとの姿勢を明確にしており、ロシアの軍事介入に強く反発しています。

グルジアはNATO加盟を目指していますが、今後、欧米諸国がどこまでグルジアをバックアップできるか、グルジア・サーカシビリ大統領は大きな賭けに出たとも言われています。
なお、NATO対ロシアの戦闘なんてなったら大事ですが、 “NATOといえども、グルジアを支援してロシアとの「代理戦争」に踏み切る可能性は低い。”【8月9日 毎日】とも報じられています。

賭けに出たサーカシビリ大統領、後に引けないメドベージェフ大統領・・・安保理の表舞台は空転しているようですので、今後の展開は、やはりアメリカの意向、そしてプーチン首相の判断によるのでしょう。
なんだか、“あいも変わらず”といった感じはしますが。

【オリンピック停戦】
それにしても、犠牲となった1400人以上の住民と兵士、空爆に脅える住民、避難を始めた住民・・・少なくとも彼らには“平和の祭典”は無意味です。
古代ギリシアでは戦闘を中断してもオリンピックが開催されたともいわれます。
中国の新華社は9日、「2008年8月8日は神聖な日であり、北京五輪の開幕に伴って世界は五輪期間に入った」と指摘。世界の人は軍事衝突を望んでいないとして、両国に対し五輪精神を引き合いに出して大会期間中の停戦を求めたそうです。
また、国連の潘基文事務総長も、五輪期間中に停戦を実現してきた伝統に敬意を払うためとして、世界各地での戦闘行為を中断する「五輪停戦」を呼び掛けています。
お互い面子を潰さずに停戦するには、「オリンピック停戦」というのは格好の名分だと思いますが・・・。



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バングラデシュ  海面上昇による陸地減少はないかもしれないけれど・・・

2008-08-08 16:55:22 | 世相

(ガンジス川の真の水源、ヒマラヤのGaumuk氷河 岩のように黒く見える正面部分が氷です。 “flickr”より By huggy47
http://www.flickr.com/photos/huggy47/2592276899/)

【増加する陸地面積】
昨日、面白い記事を見ました。
バングラデシュの陸地は今世紀末までに消滅するとの予想もこれまでありましたが、実際には陸地面積が増えていることが最近のデータにより判明しているそうです。

海面下に沈むとのこれまでの予測は次のようなものでした。
“国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の予測によると、200本以上の川を有するバングラデシュは、2050年までに地球温暖化による海面上昇で陸地の17%を失い、環境難民が2000万人発生し、食糧生産高が30%程度減少するという。さらにNASAゴダード宇宙研究所のジェームズ・ハンセン所長は、バングラデシュは今世紀末までに海底に沈むとの厳しい予想をたてている。”

しかし、これらの予測は「川の堆積物による陸地の形成を考慮に入れていない」との指摘です。
“ダッカの環境地理情報サービスの研究者らは、過去32年間の衛星画像を調査した。すると、バングラデシュの陸地面積が年間で20平方キロずつ増えていることが明らかになったという。
CEGISのサーカー氏は、ヒマラヤ山脈を水源とするガンジス川とブラマプトラ川で押し流された堆積物が陸地面積の増加の要因だとみている。
バングラデシュ中部で合流するこれら2つの川が運ぶ堆積物は、年間10億トン以上に及ぶ。そして、その大半が河口のベンガル湾岸に堆積し、新しい陸地を形成しつつあるというのだ”

“バングラデシュ水資源開発委員会のラフマン氏も、サーカー氏と同意見だ。
「専門家らは、この10年間、バングラデシュは海中に沈むと主張し続けているが、これまでのところ、それを裏付けるようなデータはない。川の堆積物は、今後数十年間、いや数百年間、河口に堆積し続けるだろう」
ラフマン氏によると、1950-60年代に湾岸に建設された複数のダムが堆積作用に拍車をかけている。新しいテクノロジーも併用すれば、堆積プロセスのスピードアップが図れると同氏は言う。”【8月7日 AFP】

陸地が減るのか、増加するのか・・・よくわかりませんが、衛星画像で実際に増えているというのであれば・・・・。
減るより増える方がもちろんいいですが、増えた土地が実際に使える土地なのかも問題ですし、今現在現実に進行している河川の侵食で削られている河岸耕地への対策も重要です。

【洪水より水不足】
バングラデシュというと例年洪水が発生し、水没した農地の写真などをよく目にしますので、その連想で“海面上昇によって水没”というシナリオはイメージしやすいところがあります。
また、同時に、“バングラデシュは洪水のように水が溢れている国”とのイメージもありますが、こちらの“常識”にも注意が必要のようです。

もちろん洪水被害は多いのですが、バングラデシュが抱えている問題は実は洪水ではなく“水不足”だとの指摘があります。
一昨年バングラデシュを旅行した際に、現地の方がそのようなことを言っていました。
渇水期になると大河ガンジスも歩いて渡れるようになるとか。
これは、上流にインドがダムを建設し、バングラデシュ側に水を流す門を約束どおりに開けていないからだ・・・とのことでした。
ダム建設、流域での農業等への水利用などで河川の水量が減少しているのはガンジス川に限らず、中国の黄河や揚子江でも懸念されている問題です。
水をめぐる国家間の争いは、今後の世界情勢を決める重大なポイントのひとつになることが予測されています。

【ヒマラヤ氷河減少】
この問題を加速・深刻化させそうなのが、やはり温暖化の進行によるヒマラヤ氷河減少の問題です。
ヒマラヤ氷河については、先日NHKで番組を放映していました。
ヒマラヤ氷河が溶けやすいのは、同地域の氷河が夏場に降雪する雪から形成されるものであるため、僅かの気温上昇によっても雪が雨に変わり、氷河形成が妨げられることによるためとか。
その点、ヨーロッパアルプス氷河は冬場の雪によるので、多少の気温変動でも影響が出にくいそうです。
IPCC報告は、2035年にはヒマラヤ氷河が5分の1に減少すると予測しています。

氷河減少で当面問題になるのが氷河湖決壊の問題です。
それは深刻な問題ではありますが、もっと長期的にみるとアジア全域に影響する問題があります。
ヒマラヤ氷河はアジアの7つの大河(ガンジス川、インダス川、ブラフマプトラ川、サルウィン川、メコン川、長江、黄河)の水源であり、インド亜大陸と中国に暮らす多くの人々の水需要を満たしています。
氷河から流れ出す川の流量が減少すれば、灌漑が滞って農業生産が低下する可能性があり、また水力発電減少による工業への影響もあります。
番組によると、氷河が縮小するとその溶けた水で一時的には河川水量が増加し流域では洪水が起きます。
その後、数十年で状況は変化し、“水がめ”枯渇によって河川水量が減少していきます。

このシナリオは05年にWWF(世界自然保護基金)が発表した報告書『An Overview of Glaciers, Glacier Retreat, and Subsequent Impacts in Nepal, India and China (氷河の全貌-ネパール・インド・中国における氷河の後退とその影響)』に描かれているものと同じです。
WWFによると、ネパールでは年平均気温が毎年0.06℃上昇しており、氷河を水源とするネパールの3つの河川で流量が減っていることを示しているとのこと。
また、中国では、青海高原の湿地帯において、湖の水位の減少や、湖そのものの縮小、河川の流量不足、湿原の劣化などが起きており、インドでは、国内最大級の河川流域を支えるガンゴトリ氷河が、年平均23メートルの割合で後退しているそうです。

【結局、温暖化の影響は?】
最初の話題に戻って、温暖化による海面上昇(このこと自体がウソだとの説が流行っているようですが)による陸地減少は免れるかもしれませんが、そのシナリオを支える河川による堆積をもたらす河川自体が温暖化によるヒマラヤ氷河減少によって変調する・・・そういう不安があるようです。

もし本当なら大変なことですが、人間と言うのはジワジワ進行する将来的な不安については、それがどんなに深刻な問題であれ、あまり関心を払わずにいられる、そんな生き物のようです。



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ルワンダ  14年前のジェノサイドへのフランス関与を批判

2008-08-07 18:38:24 | 国際情勢

(『ジェノサイドの丘』(フィリップ・ゴーレイヴィッチ著)では冷静・公平で理想的な人物のように描かれているルワンダ愛国戦線(RPF)指導者としてフツ族政権を打倒したカガメ大統領。 あまりにも出来すぎのようにも思えますが、細身の体からは確かに禁欲的な節制されたイメージが感じられます。“flickr”より By nando.quintana
http://www.flickr.com/photos/nandoquintana/298340737/sizes/o/)

14年前ルワンダで起こった多数派フツ族による少数派ツチ族の大量虐殺を中心とするジェノサイドについて、その後政権を獲得したツチ族を中心とするルワンダ現政権が、当時の虐殺にフランスが関与していたと非難する報告書を発表しました。

****ルワンダ政府報告書「大虐殺にフランスの政治家ら関与」****
 80万人が犠牲になったとされる94年のルワンダ大虐殺に、当時部隊を派遣していたフランスの政治家らが積極的に関与したとする報告書が5日、ルワンダ政府によって発表された。AFP通信などによると、故ミッテラン元大統領やバラデュール元首相ら、当時の仏政府首脳らが名指しで非難されている。
 大虐殺は、多数派のフツ族民兵などが、少数派のツチ族や穏健派のフツ族を襲撃して起きたとされる。仏政府は90年からのルワンダ内戦で、自国民保護による派兵やフツ族中心のルワンダ政府への武器供与などを行っていた。
 120人の目撃証言に基づく報告書は、仏軍兵士が殺人やレイプに直接かかわったほか、民兵側の路上検問を黙認するなど、政治的・軍事的に支援したとしている。その責任者として、ミッテラン氏ら政治家と軍関係者計33人の名前が列挙されている。
 94年4月の故ハビャリマナ・ルワンダ大統領(当時)の搭乗機撃墜事件をめぐり、仏捜査当局は04年、ルワンダのカガメ現大統領が首謀者だったとする報告書をまとめている。これに反発して、ルワンダ政府が06年、仏政府の大虐殺での役割を調べるための特別委員会を設けたいきさつがある。ルワンダは06年11月にフランスと断交。ルワンダ政府はすぐには起訴手続きを取らないとしているが、今回の報告書で両国関係がさらに悪化することは必至だ。
 仏外務省は報告書を見ていないとして、コメントは出していない。【8月6日 朝日】
**************

なお、今朝の報道によれば、フランス政府は“この報告書を「公式のルート」では受け取っていない”としたうえで、同報告書を「受け入れがたい非難」と否定しました。
一方、ルワンダ政府との関係修復には今後も取り組んでゆく姿勢を示したそうです。

【昨日までの隣人が今日はナタで襲いかかる・・・】
ルワンダのジェノサイドについては、これまでも触れたことがあると思いますし、ネットでも多くの情報が得られますので、その詳細は割愛します。
IDカードを見ないとフツなのかツチなのか当事者でもよく分からないと言われるような僅かの差異(多分に歴史的、人為的に作られた部分もあるかと思われますが)を理由に、それまで隣人として生活した住民同士が、ナタや棍棒を手にした虐殺に駆り立てられるという、人間性そのものへの不信感を抱かせる出来事です。

当時、経済政策で行き詰っていた政権側が“うまくいかないのはあの連中(ツチ族)のせいだ”と民族感情を煽り、問題を覆い隠すような対応をとったことが虐殺の背景にあるとも言われます。
こうした“民族”を煽ることで問題を糊塗するやり方は、今もジンバブエなど、どこでも普通に見られる現象です。

【ジェノサイドを見捨てた国際社会】
また、ツチ族反政府勢力であるルワンダ愛国戦線(RPF)と当時のフツ族政権の間の内戦停止を監視するため、PKOである国連ルワンダ支援団(UNAMIR)2500名が派遣されていましたが、虐殺を目の前にしながら“PKOとしての役割・限界”を優先して、虐殺の進行を座視する結果となりました。
(このあたりの事情は、映画「ルワンダ・ホテル」や「ルワンダの涙」などにも描かれています。)

当時RPFを率い、現在ルワンダ大統領の席にあるカガメ大統領は、目の前で虐殺が行われているときじっと動かなかったUNAMIR司令官ダレール将軍のことを「人間的には尊敬しているが、かぶっているヘルメットには敬意を持たない。UNAMIRは武装してここにいた。装甲車や戦車やありとあらゆる武器があった。その目の前で、人が殺されていた。私だったら、絶対にそんなことは許さない。そうした状況下では、わたしはどちらの側につくかを決める。たとえ、国連の指揮下にあったとしてもだ。わたしは人を守る側につく。」と、語ったそうです。

もっとも、これはダレール将軍ひとりの問題ではありませんでした。
UNAMIR司令官ダレール将軍は、「十分な装備の兵士わずか5千人とフツ至上主義者と戦う許可さえ得られれば、直ちにジェノサイドを止められる」と主張しましたが、虐殺開始2週間後の4月21日、国連安保理事会はUNAMIRの要員を9割削減する決議を採択しました。
UNAMIRは270名を残して撤退することになり、残った兵士にも砂嚢のかげに隠れて事態を見守る以上のことは出来ないような命令を与えたそうです。
http://homepage.mac.com/hasse_54/archives/rwanda/rwanda.html

当時、ソマリアでの失敗に懲りたアメリカを含め各国は介入に消極的であり、アフリカ諸国も同様の民族・部族対立問題を自国自身が抱えていることもあって、総じて国際社会はルワンダで起こりつつあるジェノサイドを放置することになりました。
PKOのあり方を含め、国際社会はルワンダでの何十万人にも及ぶジェノサイドを見捨てたのではないか・・・との悔恨が残る事件でもありました。
なお、国連の動きが鈍かった一因には、ルワンダが安保理非常任理事国の地位にあっったこともあるかと思います。
それにしても、犠牲が大き過ぎました。

【フランスの旧フツ族政権のつながり】
ツチ族虐殺はハビャリマナ・ルワンダ大統領(当時)の搭乗機が撃墜された事件を契機に、“ツチ族の仕業だ”という扇動によって開始されました。
この事件へのRPFの関与をカガメ大統領は否定しており、フツ至上主義者の犯行ではないかとも言われています。
当時、ハビャリマナ大統領はRPFの攻勢・国際世論を受けてツチ族RPFとの間でアルーシャ協定を締結しますが、フツ過激派がこれを拒否。
協定は凍結され、かわりRPFを含む暫定政府がつくられます。
フツ過激派にとっては、もはやハビャリマナ大統領自身が“邪魔”になりつつあったことが想像されます。
なお、虐殺開始とともに首相など反大統領派閣僚と護衛のベルギー兵10名がフツ族暴動で殺害されます。
(ベルギーはこのあと1週間で撤退を決定)

フランスは当時のルワンダ政府の見解を踏襲して“事件はRPF側の犯行”とする立場で、撃墜機のパイロットがフラン人だったこともあって、カガメ現大統領の側近9人を国際手配しました。
当然、ルワンダ側はこれに反発し、06年11月にルワンダはフランスとの国交を断絶しました。

今回のルワンダ側の報告書は、このようなフランスとの対立を踏まえ、フランスの虐殺への関与を非難するものとなっています。
虐殺にかかわった人物として、当時首相だったフランスのエドゥアール・バラデュール氏、当時外相だったアラン・ジュペ氏、当時ジュペ外相の側近を務めのちに首相となったドミニク・ドビルパン氏、当時大統領だったフランソワ・ミッテラン氏(1996年に死去)ら13人の政治家、20人の軍幹部の氏名を挙げています。
なかなかの大物ぞろいです。

同趣旨のフランス批判は06年11月のイギリス・インデペンデント紙にも掲載されています。
フランスは当時のフツ族政権を武器や人員派遣などの軍事援助で支える存在であり、フランスから購入された武器が虐殺に使用されたと言われます。
フランスは一貫してフツ至上主義政権とその配下の民兵を反政府軍RPFの攻撃下にある正統な政府組織と認め、同時にRPFをハッキリ敵だと見なしていました。

【ターコイズ作戦】
虐殺発生後も、アメリカなどが動かないなか、「軍事的・人道的介入」と称してターコイズ作戦を提案し、2ヶ月間の期間限定ながら国連の承認を得て、武器使用が許可された軍を展開します。
フランス軍のスポークスマンは「二重のジェノサイド」を喧伝してRPFをクメール・ノワール(黒いクメール)と呼び、虐殺を行ったフツ至上主義者ではなく、進撃するRPFと交戦してその進撃を止めています。

難民保護を目的とするフランス軍のターコイズ作戦は結局のところ、ツチ族の虐殺をさらに一ヶ月続けさせ、ジェノサイドの命令者たちが多くの武器を持ったままザイールへ逃亡する安全な通路を確保したにすぎないとの評価があります。
カガメ大統領は「ターコイズ作戦でフランス人は犠牲者を保護するのではなく、殺人者を救助しようとした」と発言していますが、フランス政府はこれを「事実に反する」と批判しています。
もっとも、フランス元大統領ジスカール・デスタンも「大虐殺をした者を保護している」と非難しています。

七月初め、RPFがブタレとキガリに進入すると、百万人以上のフツ族住民がリーダーの後を追って西へと逃げ難民キャンプが作られます。
あれだけの虐殺を行った訳ですから、当然激しい報復が自分達に及ぶとフツ族住民は考えました。
しかし、難民キャンプはルワンダで虐殺を行った武装したフツ至上主義者が支配するところとなって、ここを拠点とした攻撃が続き、住民の帰還も実力で阻止され、長くルワンダ安定の足かせとなります。

こうした事情でフランスとフツ族指導者は虐殺前も、虐殺後も深い絆があって、ハビャリマナ大統領殺害でカガメ現大統領の側近9人を国際手配するとか、また、それに反発するルワンダ現政権がフランスの虐殺関与を批判するといった流れになっています。

なお、フランスの介入を前向きに評価する立場からは、下記問答の回答者DieMeuteさんのような意見もあります。http://oshiete1.goo.ne.jp/qa3421762.html
ただ、フツ至上主義者による虐殺行為が明らかになりつつあった時点で、少なくとも結果的には彼等を利するような形で介入したフランスの意図については、既得権益の保全などの目的があったのではないかとかんぐってしまいます。

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パレスチナ  奇妙な話 自治政府の財政難とガザへの送還措置

2008-08-06 14:02:36 | 国際情勢

(今年3月、イスラエル軍がガザへ大規模侵攻を行った際の犠牲者に最後の別れを告げる家族 ここでは死は生活のすぐ隣にあるようです。 “flickr”より By 3arabawy - صَحـَـفي مِصـْـري
http://www.flickr.com/photos/elhamalawy/2330102513/in/set-72157604110414679/)

【自治政府 給料遅配も】
パレスチナ、特にアッバス議長のファタハ・パレスチナ自治政府については、昨年12月にパリで開かれた“パレスチナ支援会議”で、各国からパレスチナ自治政府の要請額(56億ドル)を上回る総額74億ドル(約8400億円)の拠出表明がありました。
日本も、医療状況改善に向けた人道支援や、日本政府が進める「平和と繁栄の回廊」構想に基づく農業支援などを中心に1.5億ドル(約170億円)の無償資金協力を高村外相が表明しました。
(12月18日 「パレスチナ支援会議  各国から要請額を上回る拠出表明、されど・・・」
http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20071218

そんなこともありますので、少なくとも財政的にはなんとかなっているのかと思っていましたが、逆に自治政府は財政的に困窮しているとか。意外でした。

***パレスチナ:財政難 滞る支援、為替変動も拍車****
 アッバス議長率いるパレスチナ自治政府の財政難が深刻化し、再び職員給与の遅配が懸念される事態に陥っている。支援国が約束した資金援助を実行しないことに加え、現地通貨に対する米ドルの為替相場が著しく下落しているためだ。自治政府統治下のヨルダン川西岸に比べ、イスラム原理主義組織ハマス支配下のガザ地区では一定の「行政運営」が続けられており、議長側は「自治政府の弱体化を印象付けかねない」と危機感を強めている。
 国際社会は昨年12月の会合で、総額70億ドル(約7500億円)以上の自治政府支援を約束した。しかし、実際の拠出はごく一部にとどまり、財政悪化を誘発。自治政府筋は「原油高騰で潤っているはずのアラブ産油国でさえ約束を守らない」と不満を漏らした。
 さらに、当時1ドル=約4シェケル(約120円)だった現地通貨の相場が3・3シェケルを割り込み、苦境に拍車をかけている。
 一方、ロイター通信によると、ガザ制圧以来、同地を独自に運営してきた「ハマス政府」は、自派「職員」の給与を払い続けている。エジプトとの境界線を封鎖され、イスラエルからの物流を厳しく制限されながらも、イランやその他のイスラム諸国からの支援で「体力」を維持しているとみられる。【8月4日 毎日】
************

国際社会がこぞって支援を約束した自治政府が財政的に追い詰められ、国際的に孤立しているはずのガザ地区のハマスが体力を維持している・・・なんとも奇妙な構図です。
国際支援が往々にして実行されないという話はときどき聞きますが、国際的な約束事というのはそんないい加減なものなのでしょうか?
日本的な感覚では理解しがたいところです。

日本などは“国際公約”なんて言ったら、ときの内閣がその命運をかけても実行しないといけないもの・・・と言うように思われることが多いのですが。
もっとも、日本が表明した1.5億ドルがどうなったのかは知りません。
案外、日本の国際公約も相手によって対応が変わったりするかも・・・それはないですかね。

【イスラエル 人道的配慮で一時避難を許可】
パレスチナ関連の奇妙な話としては、先日のガザ地区からイスラエルへの“一時避難”の件もよくわかりませんでした。
ハマスのメンバー5人と少女1人が死亡した先月25日の爆弾事件について、ハマスはファタハの仕業だと非難してガザ地区でファタハ支持者の大量拘束。
反発したファタハも自らの影響下にあるヨルダン川西岸でハマス活動家数十人を拘束し、“逮捕合戦”に発展しました。

今月2日には親ファタハ有力部族への攻撃で9人が死亡、90人以上が負傷し、この部族の180人がイスラエル側に避難を求める事態へと発展。

「部族長を含む180人がイスラエルとの境界検問所に詰めかけ、イスラエル軍はけが人の手当てなど「人道的配慮」から一時的な避難を認めた。しかし、エジプトが仲介に入り、避難した部族の一部は3日、ガザ地区に戻り始めており、ハマスは戻った数十人を逮捕した。ハマス報道官は、この部族がイスラエルに逃げようとしたのは事件に関与している証拠だと非難した。」【8月4日 産経】

「アッバス議長、サラム・ファイヤドパレスチナ自治政府首相、およびエジプト政府からの要請を考慮し、エフド・バラク国防相がこの異例の措置に踏み切ったと述べた。」【8月3日 AFP】

「ガザ境界の封鎖を続けるイスラエルは、アッバス議長やエジプトの要請に基づき、180人を受け入れたという。しかし、議長側は方針を一転し、ガザに送り返すよう再要請。これまでに30人が送還され、直ちにハマス側に拘束された模様だ。今回、ガザからイスラエル領に逃げ込んだ180人は、昨年6月のハマスのガザ制圧を「阻止できなかった」と議長側から非難されているグループで、ファタハ内のほころびも改めて露呈した形だ。」【8月3日 毎日】

アッバス議長サイドの要請があり、イスラエルの人道的配慮で受け入れた・・・ということのようですが、その後のガザへの送還の経緯がよくわかりません。
“昨年6月のハマスのガザ制圧を「阻止できなかった」と議長側から非難されているグループ”とも報じられていますが、事情が分かってアッバス議長が考えを変えたということなのでしょうか?
それにしても、ハマスに拘束されることが分かっている状況で送還するというのは・・・?
それとも、自主的な帰還でしょうか?

【裸、目隠し、手錠】
そのあたりはわかりませんが、印象的だったのはAFPの記事に掲載された検問所を超える際の写真です。
転載が許可されていませんので、下記のAFPの記事をご覧ください。
http://www.afpbb.com/article/war-unrest/2425868/3181923

検問所を超えるパレスチナ人たちは、パンツ1枚の裸で目隠しをされ、更に後ろ手に手錠をされたかたちでイスラエル兵に誘導されています。
負傷者の搬送はともかく、この様子は“人道的配慮”とはなかなか言い難いものです。
もちろん、戦闘状態にある地域ですから、通常の常識は通用しない訳で、不足の事態を最大限に警戒する必要があるのでしょう。

しかし、こういう扱いを受けると、通常、人間はその屈辱を一生忘れず何らかの形で復讐を誓うものではないでしょうか。それはイスラエルにとってもいい話ではないと思うのですが。
まあ、ハマスの追求を逃れたい一心で、そんなことは気にかけていないのかもしれませんが。

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ソマリア  停戦協定の実効性は?

2008-08-05 15:37:52 | 国際情勢

Photographer: Abdurrahman Warsameh
(ソマリア・モガディシオ 戦いの犠牲者の集団埋葬 つかの間の脆弱な停戦は両陣営には建て直しの時間を、市民には十字砲火から逃れるための時間を与えてくれます。 その間にも、新たな大規模な攻撃計画が進行しています・・・
“flickr”より By ISN Security Watch
http://www.flickr.com/photos/securitywatch/2489733166/)

【打ち続く内戦 家を失った住民を待ち受ける飢餓】
ソマリア。
いつ果てるとも知れぬ内戦。
エチオピアの介入で支える暫定政府は存在するものの、エリトリアが支援するイスラム原理主義勢力との戦いが全土で繰り広げられ、イスラム原理主義勢力と共にいるとされるアルカイダを狙うアメリカがエチオピア・暫定政府側を支援。
しかし、暫定政府側もイスラム原理主義勢力側も、激しい内部争いが絶えない・・・。

このブログでソマリアに触れたものをピックアップすると、タイトルを並べるだけで混迷の様子、希望のなさが窺われます。
07年7月19日「治安悪化が続くソマリア 弱肉強食の世界に展望は開けるか?」
http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20070719
07年8月13日「ソマリア 国民和解会議、しかし増え続ける難民」
http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20070813
08年2月17日「エチオピア、エリトリア、そしてソマリア」
http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20080217
08年5月25日「ソマリア  情勢は悪化、出口は?」
http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20080525

内戦と旱魃により住む家を失ったり、飢餓に陥ったりして救援を必要とする人数は今年末に人口のおよそ半数、350万人に達すると考えられています。
しかし、あまりに常態化した無政府状態のため、また、特に資源が豊富でもなく、冷戦終了後は地政学的な重要性も薄れたこともあって、もはやソマリアで多少の事件がおきても、多少の犠牲者が出ても、誰も驚かない、国際ニュースにもならない、“忘れられた”存在になっています。

もちろん国際支援が入ってはいますが、あまりの無政府状態のため、その活動が脅かされています。
*****ソマリア:援助活動従事者が避難、待ち受ける飢饉*******
国際的人道支援団体のソマリア職員は援助活動について「安全の保証がほとんどないリスクが高い活動」と言う。今年に入ってからでも外国人を含む20人の援助活動従事者が殺害され、30人が誘拐された。17人は身代金を支払い解放されたが、13人はまだ捕らわれたままだ。
 国連機関と9つの国際援助団体がモガディシュに残っているが、イスラム反政府武装集団と暫定連邦政府(TFG)の紛争に巻き込まれて援助の実施が困難となっている。
 オックスファム・インターナショナルは、この状態が続けば今年中に幾つかの地域で飢饉が発生すると見ている。7月23日の国連安保理でアハメド・オウルド・アブダラ特使が各国にWFPの支援物資海上輸送の警護と、ソマリア人援助職員の警護を要請した。
 残念ながら、政治的対応は期待できない。エチオピア軍の支援を受けた暫定連邦政府(TFG)の支配は中南部地域にとどまり、ほとんどの地域は様々なイスラム系集団が支配する。国連が仲介したTFGとイスラム法廷連合との和平案に反発したイスラム過激派は、中南部地域におけるテロ活動を激化。イスラム法廷連合は二派に分裂した。
 イスラム系の名称を持つ新しい集団が援助職員を脅迫しているが、TFG軍部も幾つも検問所を設けて支援物資の運搬を妨げている。
 治安悪化により人道援助が困難に陥るソマリアの状況について報告する【現地7月25日 IPS】
*****************

92年、当時の実力者アイディード将軍側近を拉致しようという作戦中のアメリカ軍ヘリが撃墜され、その兵士を救援しようとするアメリカ軍とアイディード将軍派の間で行われた市街戦(モガディッシュの戦闘)を映画下した「ブッラクホーク・ダウン」という作品があります。
この映画の冒頭で、空から届けられる救援物資に群がる人々に武装勢力が銃弾を浴びせ、これを自分達のものにする・・・そんなシーンがあったように思いますが、必ずしもフィクションではないような状況です。

【今年6月 停戦協定】
そんなソマリアから珍しく記事が入っていました。
*****道路脇で爆発、20人死亡40人以上負傷 ソマリア首都*****
アフリカ東部ソマリアの首都モガディシオで3日、主要道路脇で大きな爆発があり、20人が死亡、40人以上が重傷を負った。AP通信などによると、路上のごみの山に隠された爆弾が爆発。道路を掃除していた女性や子どもが犠牲者の大半だという。
 91年以来、無政府状態が続く同国では、エチオピア軍の支援を受ける暫定政権と、イスラム系の反政府武装勢力の間で今年6月、停戦協定が結ばれた。その協定が逆に、それぞれの内部での権力争いを再燃させていると言われる。2日には、暫定政権首相による国有財産の不正利用を訴え、閣僚10人が辞職の意向を表明している。【8月3日 朝日】
**************

この記事によると6月に“停戦協定”が締結されたとのこと。
全く知りませんでした。
何はともあれ、喜ばしいことです。
関連記事を探すと、この“休戦協定”に関するBBCの英語記事がありました。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/africa/7445302.stm

署名から30日後に停戦の効力を発し、90日間停戦が実施され、その後も更新の予定。
更に、国連平和維持軍が展開したら120日以内にエチオピア軍は撤退する・・・そんな内容のようです。
ただし、イスラム法廷会議(ICU)の創始者であるHassan Dahir Aweysは「我々は我々の国をアラーの敵から解放するまで戦い続ける」と、交渉には参加しなかったようで、イスラム武装勢力の中の一部勢力(穏健派)との交渉に留まったようです。

交渉は国連主導でジブチで行われましたが、当事者双方が同じホテルに泊まっていながら、互いに相手を避けあい、交渉に入るまでに8日間要したとか・・・。

署名からすでに30日は経過していますが、停戦の状況はどうなっているのでしょうか?
06年6月など、過去にも停戦協定がありましたが、今回の協定の実効性はどうでしょうか?
上記【朝日】の記事によれば、停戦協定によって、今度は各勢力内部の争いが激しくなっているようで、どこまで行っても出口が遠いようです。

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ミャンマー  外貨交換制度で“課税”?“ピンハネ”?

2008-08-04 21:57:36 | 世相

(ミャンマーのお土産用の古い紙幣 現在のチャットはパゴダの前に鎮座しているような狛犬だか獅子だか、そんな図柄です。 なお、ミャンマーでは政府がある紙幣の廃止をある日突然発表する“廃貨”が過去3度実施されています。
いろんな事情によるものでしょうが、突然「その紙幣はもう使えない」と言われても困ってしまいます。泣くに泣けない災難です。
“flickr”より By angshah
http://www.flickr.com/photos/angshah/2604760796/)

【兌換券でピンハネ】
国際的に評判の悪いミャンマー軍事政権ですが、こんどは独特の外貨交換制度によって国際支援金が目減りしており、事実上の“軍政による課税”ではないかとの批判が出ています。

****ミャンマー:援助資金、両替制度で10億円損失…国連指摘*****
 5月に大型サイクロン「ナルギス」の直撃を受けたミャンマーに対する国際社会の援助資金が、同国で実勢レートより低く両替させられる「外貨兌換券」制度のため、実質1~2割減額される事態になっている。国連人道問題調整事務所(OCHA)のジョン・ホームズ所長は7月28日、「両替制度のせいで、国連はこれまで少なくとも約1000万ドル(約10億円)を失った」と述べ、事態が「極めて深刻」との認識を示した。

兌換券は、軍事政権が外貨獲得のため93年に導入した制度。外国からの援助資金は通常、米ドルで軍事政権が運営する銀行に入金され、兌換券に両替される。現地ではその後、この兌換券を現地通貨チャットに両替して使う。現在、実際の市場レートは1ドル約1100チャットだが、兌換券は1ドル約880チャットと2割ほど低い。国連の援助金もこの兌換券に替えられるため、損失が発生しているという。
 兌換券発行は政府の統制下にあるため、差額分は軍事政権が事実上「ピンハネ」している可能性が高いが、ホームズ所長は「差額分がどこに行き、誰が利益を得ているかは不透明」と話した。
 AP通信によると、国連のベーカー人道問題調整官は「この事実を知ったら、援助する人々の意欲もうせる。見過ごせない問題だ」とし、ミャンマー当局に制度の撤廃を求めたことを明らかにした。
 国連は災害発生後、国際社会に2億ドルの援助資金を要請。これまでに1億9000万ドルが集まっている。【毎日 8月3日】
********************

【かつての“強制両替制度”】
朝日では“課税”という表現でしたが、毎日ではもっと簡潔に“ピンハネ”という表現をしています。
この話、数年前にミャンマーを旅行したことがある人なら“そういうこともあるかもね・・・”と思える話です。
私は2002年のGWと2007年の正月にミャンマーを旅行しましたが、その02年のときは外国人観光客を対象にした“強制両替制度”がありました。
入国する際に1人200ドル(もっと以前は300ドルだったようです。)を強制的に米ドルから外国人用兌換券(FEC)に両替させる仕組みです。

バックパッカーのような“節約旅行者”の場合(私はそんなタフな旅行はしていませんが)、宿泊費や食事など合わせても1日千円でまかなえるぐらいですから、200ドルというのは相当の金額になります。しかも、出国時に残っていても再両替してくれなかったように記憶しています。
おまけに、この兌換券は航空券とかきちんとしたホテルでは通用しますが、地元の人が使うような店や食べ物屋さん、安宿などでは使いづらかったり(場合によっては使えない)します。

そこで、なんとかこの“強制両替”をくぐり抜ける方法はないか・・・といった話が、当時の旅行ガイドブックなどを賑わしていました。
とにかく抗議して強引に押し通るとか、少しでも安くしてもらえるように“交渉”するとか・・・。
そういう方法がときに通用する国でもあったようです。

当時は、街中でのFECから通常貨幣のチャットへの両替、あるいは米ドルからチャットへの両替は、合法なのか違法なのかよくわかりませんが、“ある程度”可能な状況でした。
レートはFECからも、米ドルからもそんな大きな差は当時はなかったように思います。

大地を埋めるパゴダ群で有名なバガンを馬車で移動しているとき、御者のおじさんに“両替できるところを知らないか?”と訊ねると、二つ返事で道路わきの小屋に連れていかれました。
そこにはちょっと怪しげな若い男達が4,5人ほどたむろしており、“ちょっと、やばそう・・・”と心配したのですが、ヤンゴンなどよりずっといいレートで換えてくれました。
普通の国では田舎ではレートが悪くなるものですが。

一方、ヤンゴンに戻ってガイドに両替を頼むと(あらかじめ頼んでおくと、ガイドの旅行社のほうで用意してくれますが、このときは急な頼みだったせいでしょうか・・・)、真っ暗な階段を二階に上り、ドアののぞき窓から顔を確認してから中へ入れてくれるような“ヤミ両替屋”に案内されたこともあります。

そんな“思い出深い”FECへの強制両替も、07年の旅行時はなくなっていました。(少し寂しい感じも・・・)
特別の公式通知もなく中止されたそうです。
このあたりも、ミャンマーらしいところです。

なお、現在でもヤンゴン国際空港の両替所は、米ドルからチャットへの交換について、実勢レートの半額程度で“詐欺同然”だとの記載がガイドブックにあります。(そう聞いていますので空港では両替したことがなく、真偽は確認していません。)

【中国の兌換券と人民元】
外国人用の兌換券制度は昔の中国にもありました。
ミャンマーのように“強制両替”はないにしても、当時は公的な銀行・両替所等では兌換券にしか換えてもらえませんでした。
そして、ホテル・レストランなど外国人用の場所では兌換券しか使えない、逆に、地元の人達と同じような食事・買物をする場合は兌換券がなかなか通用せず、人民元が必要でした。
しかし、人民元は出国時には再両替ができないため、兌換券で買物してお釣りが人民元で帰ってくると、“兌換券で釣りをくれ!”ともめたりしていました。

もう二十年以上昔ですが、西安を旅行していたとき、通りの果物売りのおじさんから何か買おうとして、私の連れが兌換券を出したところ、「こんなお金は見たことない!偽物じゃないか!」と大騒ぎになり、私等ふたりのまわりに黒山の人だかりができたこともありました。
そのときは、ちょっと物知りが集まった人の中にいて「これは兌換券と言って、外国人が使うお金なんだ。」と果物売りのおじさんに説明してくれ、ことなきを得ました。

また、兌換券をほしがるヤミ両替のあやしげな連中も多くいて、“チェンジマネー”が横行していたり・・・
兌換券の話になると、そんな懐かしい話もいろいろありますが、話をミャンマーにもどすとちょっとセコい話です。
昔の“強制両替”の名残が感じられますが、それだけ軍政が外貨に苦労しているということでもあるのでしょう。
軍政運営銀行への強制入金はともかく、せめて換金レートは同じ程度でないと“ピンハネ”と言われても止むを得ないところです。

【最近のミャンマー関連のニュース】
先月29日に、ブッシュ米大統領はミャンマー軍事政権の収入源になっているミャンマー産のルビーやひすいの米国への輸入を第三国経由を含めて全面的に禁じる法案に署名し、同法が成立しました。
同法によると、これらの輸出で軍政は06年に3億ドル(約323億円)余りを稼いだとか。
米政府はこれまでも直接輸入は禁じていましたが、タイなど第三国で加工されたものは輸入可能でした。
資金的に苦しむ軍政を更に締め上げようという話ですが、ただ、どうでしょうか。
ミャンマーひすいの最大の顧客は中国ではないのでしょうか?

先月のASEAN外相会議のとき、一度スーチーさんの軟禁が半年以内に解除されるのでは・・・との期待がもたれましたが、“ミャンマー外相の言葉が誤って解釈されていた”とのことで、その話も消えてしまいました。
その後は殆どミャンマーからのニュースは聞きません。

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アマゾン  「地球の肺」を守る取組み

2008-08-03 12:43:30 | 環境

(アマゾンの熱帯雨林と開発地 “flickr”より By leoffreitas
http://www.flickr.com/photos/leoffreitas/447619461/)

【地球の肺】
自分自身のことでも、社会の出来事でも、まともに考えると大変な話だけども、とりあえず今はなんとかなっている、解決の方法がすぐには見つからない、考えると鬱陶しくなる・・・そんな事情であまり考えない、見て見ぬふりをする、そんな問題がたくさんあります。

ブラジル・アマゾンの熱帯雨林破壊の問題もそのひとつでしょう。
アマゾンの熱帯雨林は「地球の肺」ともよく言われます。
地球上の酸素の3分の1を供給しており、また、世界の二酸化炭素の4分の1を酸素に変えているそうですから、「地球の肺」という表現は例えでも誇張でもなんでもなく、文字通りの意味として受け取るべきでしょう。

そのアマゾンで森林破壊が進行していることも多くの者・機関が以前から指摘・警告しているところです。
昨年12月インドネシアのバリ島で開催された国連気候変動枠組み条約の第13回締約国会議(COP13)でも、国際自然保護NGO、世界自然保護基金(WWF)が、森林破壊と気候変動によって2030年までに、アマゾンの熱帯雨林の最大60%が消滅または破壊され、世界各地に連鎖的に影響を及ぼすと警告する報告書を発表しています。
(すでに原生林の約20%は違法伐採や開発などで失われたとも言われています。)

温暖化による気温上昇はアマゾンの干ばつを招く危険があるとされています。そうなると熱帯雨林が減少し、それがCO2吸収減少となって更に温暖化を加速させるという悪循環に陥ります。
この森林の減少を加速させているのが人為的な森林破壊です。
アマゾンの森林減少の主な原因として、森林を大規模なウシの放牧地に転換するための山焼きと、大豆栽培のための農地拡大をWWFは指摘しています。
ウシの放牧にしても、大豆生産にしても、私達自身の生活と無縁ではありません。

【私達の暮らしとアマゾン破壊】
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たとえば、牛肉。熱帯林の消失の8割が牧場の造成によるものといわれ、ここで造られた肉牛はハンバーガーやペットフードとして先進国へ輸出されてきました。欧米でBSE問題が発生して以降は、感染の危険のないブラジル産牛肉の需要が一層高まり、アマゾンでも肉牛を飼育する牧場の造成がさらに進んでいます。これらの多くも先進国へと輸出されます。

たとえば、大豆。ブラジルは米国に次ぐ世界第2位の大豆供給国です。みそ、醤油、納豆、豆腐など、大豆製品を口にしない日はないほど、日本人の暮らしに欠かせない大豆ですが、自給率はわずか4%。その多くを輸入に頼り、75%がアメリカから、13.5%がブラジルからやってきます。ブラジル産大豆はアメリカや中国にも輸出され、加工食品となって日本にも輸入されていると考えると、その割合は数字に表れているより高いでしょう。その畑を造るためにもアマゾンの森が切り開かれています。【07年6月19日 All About】
******

更に、最近懸念されているのが、ブラジルで加速しているサトウキビからのバイオエタノール生産の影響によるサトウウキビ栽培拡大目的の森林開発です。
ブラジルは世界一のバイオエタノール輸出国であり、先進国の“環境にやさしい生活”を実現するために、アマゾンが切り開かれていくという不安もあります。
もっとも、ブラジル政府は“サトウキビ栽培用地はきちんとコントロールされており、森林破壊にはつながらない”と主張していますが・・・。

【ブラジル政府:“自らの手で”】
こうした事態から、アマゾンの熱帯雨林保護が指摘されているのですが、ブラジル政府は“アマゾンはブラジルの資源であり、ブラジルの責任で処理する”という立場で、国際的な枠組みを課されることには強く抵抗しています。
まあ、ブラジルの立場に立てば当然とも言えます。
牛肉にしても、大豆にしても、エタノールにしても、自然保護を声高に叫ぶ国々は自分達はそのメリットを享受しておきながら、そのつけだけ生産国ブラジルに押し付けてくる、開発規制をかけることで現地住民の生活に負担が課される・・・ということであれば反発も当然です。

ブラジル政府もアマゾンの開発規制に取り組んでいることは間違いありません。

******ブラジル、アマゾン保護基金を設立*****
【8月2日 AFP】ブラジル政府は1日、アマゾンの森林破壊防止のための国際的な基金「アマゾンファンド」を設立した。
 今後13年間で最大210億ドル(約2兆2000億円)の資金を集める計画。ブラジル国立経済社会開発銀行が集まった資金の管理とこの資金によるプロジェクトの監視を行う。
 初年度の資金受け入れの上限は10億ドル(約1100億円)。カルロス・ミンキ環境相は、ノルウェーが最初の出資者として9月に1億ドル(約110億円)を拠出することを明らかにした。ノルウェー以外にも基金に関心を示している国や企業があるという。
 BNDESによれば出資は「自発的に行われ」、出資者は資金の使途について発言権はなく、また出資したことによる税の控除やカーボンクレジットなどの便益もないという。
 一部の環境保護団体は、ブラジルのアマゾン保護策は不十分で、外国の関与も検討すべきだと主張してきたが、この基金の設立は、アマゾンの保護はあくまで自らの手で行うというブラジル政府の姿勢を示すものとみられる。
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今年6月には、ブラジル政府はアマゾン流域での違法なウシの飼育を取り締まる方針を明らかにしました。
アマゾン流域では、人口の3倍に相当する推定7300万頭ものウシが飼育されており、総面積の約8%に当たる約410万平方キロが放牧地として開墾されています。
この多くが、熱帯雨林の破壊につながる違法な開墾とされていることもあって、ブラジル政府は発見次第、ウシを没収する強硬手段を取ると報じられています。【6月6日 産経】

なお、温暖化をめぐっては家畜の“げっぷ”に含まれるメタンガスが温室効果をもたらすとして問題視されており、削減に向けた研究も進んでいるとか。本当でしょうか?

昨年6月には、ブラジル・アマゾン州が、アマゾンの森林破壊や環境劣化を抑制する手法として、温室効果ガスの排出削減クレジット(カーボン・クレジット)を他国政府や企業などへ売却し、資金を温暖化対策に振り向ける姿勢を打ち出しています。(その後どのように機能しているのかは知りません。)

一昨年12月には、ブラジル北部に位置するパラ州で、州知事が世界最大面積となる熱帯雨林を保全地域に指定する法令に署名しました。
この熱帯雨林はアマゾン川北部に位置し、広さはバングラデシュの国土面積とほぼ同じで、約15万平方キロメートル。法令によると、この保全地域の3分の1は、熱帯雨林の再生活動のため完全に立ち入り禁止。残りの3分の2では、政府の厳しい規制・制限が設けられているものの、木材の伐採や他の産業活動を営むことができるそうです。

もっとも、ブラジルの有力紙グロボは先月6日、アマゾンの熱帯雨林の違法伐採について、昨年は全体の22%が先住民保護区など政府管轄地で起きたと警告する政府の内部文書を報じており、単なる法律上の規制だけでなく、実効ある措置・対応がブラジル政府には求められています。

【地元に配慮した持続可能な仕組みを】
それは、強権的に押さえつければいいというものでもないでしょう。
05年6月、ブラジル連邦警察と検事当局は違法伐採を取り締まるクルピーラ(ブラジル民話の森の守護者)作戦を実施しました。
警察は100人近くを拘束し、「犯罪に関わった」容疑で174人を告発した。主たる容疑は、環境保護当局から企業への(違法伐採された木材の搬出と売買を許可した)偽文書の偽造・販売でした。
しかし一連の取り締まり措置は、(本来の取り締まりの対象である犯罪者に留まらず)合法的に伐採事業に従事してきた業者をも追い込む結果となってしまいました。
また、ブラジル環境庁(IBAMA)は一切の木材搬出許可を「一時保留」としたため、収入手段を絶たれた木材産業は行き場を失い、多くの労働者が解雇され会社が相次いで閉鎖される事態に陥ったとも言われます。

やみくもに禁止するだけでは、“禁酒法”のように水面下の不正を増大させる結果にもなります。
何より、現地で生活している人々の暮らしと両立しうるものでないと長期的継続が見込めません。

ブラジル政府主導で施策を実行するということであれば、国際社会はこれを資金的にも後押しして、単なるパフォーマンスではなく、住民・地元企業の経済合理的行動の結果、森林資源も同時に保護されるような長期的に持続可能な仕組みを構築していく必要があります。
そうした取組みをサボっていると、そのうち私達は酸欠で口をパクパクさせている金魚鉢の金魚のようになってしまうのでは・・・と言えば言いすぎでしょうか。

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パキスタン北西辺境地域  イスラム過激勢力の集結・連帯

2008-08-02 16:35:01 | 国際情勢

(失われたアフガン・バーミヤンの大仏跡 “flickr”より By tracyhunter
http://www.flickr.com/photos/tracyhunter/1778632003/)

【「テロリストの聖域」】
01年にアフガニスタン・バーミヤンの石仏がタリバンによって破壊され世界に衝撃を与えましたが、仏像発祥の地として知られるパキスタン・ガンダーラ地方最大の石仏(仏像本体の高さ約7メートル、3~5世紀)の顔面が昨年、タリバンに近い地元の武装組織に爆破されていたことが明らかになりました。
バーミヤンの石仏爆破から7年。繰り返された石仏爆破は、急速に勢力を回復するタリバンの影響力が、パキスタン側にも浸透していることを物語るものと言えます。
武装組織は、爆破について「(偶像崇拝を禁じる)イスラムの教えに反する」と7年前のタリバンと同じ理由を挙げたそうです。【7月29日 毎日】

貴重な遺産がこのような形で失われていくのは非常に残念なことです。
もっとも、バーミヤン石仏爆破の際のタリバン側の「世界は今騒いでいるが、我々が旱魃に苦しんでいるとき一体彼等が何をしてくれたと言うのだ。彼等は我々の命より石仏のほうが大切なのだ。」という趣旨の主張には、一定に耳を貸すべきものがあるとは思いますが・・・。

「テロリストの聖域」。アメリカは、パキスタンの北西部の部族支配地域をそう呼んでいます。
アフガニスタン国境に沿って広がる部族地域の住民は、タリバンと同じパシュトゥン人で、01年のアメリカ軍のアフガン侵攻で政権を追われたタリバンの多数が山岳地帯の国境を越えて逃げ込みました。

部族地域はパキスタン独立前の英国統治時代から、パシュトゥン人の独立国家建設運動を防ぐ目的で、高度の自治が与えられてきた経緯があり、パキスタン政府もこれを受け継ぎ、地域の行政はジルガと呼ばれる長老会議に任され、いまもパキスタン政府の司法権が及んでいません。
このため、この地域にアフガニスタンから逃げ込んだタリバンは、住民の支援のもと補給や休息を行い、自由にアフニスタン側に越境してアメリカ軍やアフガニスタン政府軍への攻撃を繰り返しています。

今このアフガニスタン・パキスタン国境エリアに世界中のイスラム過激派が集結しているそうです。
パキスタンのカシミールなどで活動してきた勢力も、アメリカとの戦いの“主戦場”のこの地に集まってきつつあるあり、かつ、イスラム過激派の大連帯が水面下で進行している恐れもあるとか。
アフガン国境警備隊幹部は、「イスラム過激派に悩む各国は、自国のテロリストがアフガンへ移動するのを黙認しているのではないか。近年の外国人テロリストのアフガンへの大移動は、そう感じざるを得ない」と疑念を持っています。

【メスード最高司令官が目指す和平とは】
パキスタン北西部のトライバルアリアでは、ギラニ政権と武装勢力の間で一時和平交渉が成立しましたが、その後戦闘が再開。ただ、その戦闘の実態は報道関係者の入域も規制されているため、よくわかりません。
「軍も武装組織も町を壊し合っている」と怒りをぶちまける避難民もいます。【7月30日 毎日】
“政府軍は武装組織を封じ込めるため通商路を封鎖。武装組織が得意とするゲリラ戦を防ぐため、潜伏場所となりそうな建物を徹底的に破壊した。武装組織も軍の地上からの接近を警戒し、視界確保のため民家の壁などを壊した。・・・”

そんな状態にある一方で、武装勢力司令官のひとりは、アメリカ軍がパキスタン領内に侵攻すれば、パキスタン軍と協力して戦うことも「状況次第でありうる」と語っています。

トライバル・エリアの武装勢力司令官というと、南ワジリスタン管区のベイトラ・メスード最高司令官が有名です。
ブット首相暗殺も彼の指示によるとの説もあります。(真相はわかりませんが)
そのメスード最高司令官の発言。
「我々はタリバンと一体だ」
「パキスタンは米国の同盟国となったことで、大きく傷ついた」
「自爆攻撃は、我々にとっての核兵器だ」
かつて、ムシャラフ政権との停戦交渉も行いましたが、そんなメスード最高司令官について、「彼が目指した和平とは、タリバンとパキスタンが手を携え、暴力と無縁だった『9・11』前の部族地域を取り戻すことだ」との評も。
【8月1日 

*****米CBSテレビは1日、米軍が7月末にアフガニスタン国境に近いパキスタン北部の部族地域を空爆した際、国際テロ組織アルカイダのナンバー2、ザワヒリ容疑者が巻き込まれ、重体となったか、死亡した可能性があると報じた。ザワヒリ容疑者は米中枢同時テロを指揮したとされるウサマ・ビンラディン容疑者の副官。事実なら、対テロ戦争を進めるブッシュ政権の大きな成果となる。【8月2日 共同】*******
7月28日にパキスタン・南ワジリスタンで、アメリカ軍によるものとみられる、国際テロ組織アルカイダ幹部を狙ったミサイル攻撃があり、ミサイル3発がモスクに隣接した家屋に着弾し6人が死亡しました。
パキスタン治安当局の関係者によると、攻撃の対象となったのは、ウサマ・ビンラディン容疑者やナンバー2のアイマン・ザワヒリ容疑者に次ぐ高いレベルの、中東出身のアルカイダ戦闘員だとのことでした。【7月29日 AFP】

上記【共同】の記事が、この28日のミサイル攻撃(無人偵察機プレデターを使用したものと思われています)と同じ件なのかどうかは定かではありません。
ただ、ザワヒリ容疑者であるにせよ、ないにせよ、あるいはウサマ・ビンラディン容疑者が死亡したにせよ、この地域の情勢が収まることはないように思えます。
“対テロ戦争を進めるブッシュ政権の大きな成果”と言うような状況ではなくなってきているのでは。

タリバンやパキスタン武装勢力が何を目指して戦うのか?
単にイスラム原理主義というより、外国勢力に支配されないかつての平穏な部族社会を取り戻したいということでしょうか?
タリバン支配の特異性もパシュトゥン人部族社会の規範を反映したものと言われています。

【終わりの見えない戦い】
終わりの見えない戦いを見ていると、「もう、好きにすればいいんじゃない?」と、いささか投げやりにもなってきます。
いっそのこと、カンダハルを中心とするアフガニスタン南部とパキスタン北西地域を合体して、タリバン及びその支持勢力に任せる独立国とするかたちで、決着をつけたら・・・という暴論も頭に浮かびます。
カブールなどアフガニスタン北部との間では、住民はどちらでも好きな方に移動できる。
タリバン支配の部族社会がよければそっちへ行ってもらう。
逆にタリバン支配を好まない住民はカブール周辺へ来てもらう。
移住に伴う費用等は国際社会が保証する。(戦闘に費やする費用に比べたらずっと少なくてすむと思います。)
ただし、両者間での暴力行為は一切禁止する。

アフガニスタンもパキスタンも、どうせ今でも実効支配が及んでいない地域ですので、これを割譲しても大きな問題はないのでは。
戦闘がおさまり、国内の原理主義者もそっちへ行ってもらえば、国内安定も実現できますし。

これって、民族浄化につながる発想でしょうか?
しかし、これだけいがみ合って戦闘に明け暮れるよりは、分離して好きにしてもらうほうがいいのでは・・・と考えてしまいます。






コメント (1)
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