孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国・西安に到着しました

2015-09-19 23:31:07 | 身辺雑記・その他

919日土曜日 午前10時過ぎ 

今、鹿児島から福岡に向かう新幹線の中にいます。

連休を利用して、中国・西安をちょこっと観光してこようと思っています。

 

西安は中国のやや内陸部、かつての唐の都「長安」で、シルクロードの起点です。

 

西安は初めて訪れたのは29年前、まだ天安門事件前で、改革開放が始まった頃でした。

中国各地をまわるツアーで、西安はほんの1,2日の滞在でしたが、まだ海外旅行の経験がさほどない頃で、その分印象も強く残っています。

 

定番の兵馬俑などを観光しましたが、街の印象は、黄砂に煙ったようなくすんだ感じ。

高層建築はあまり見なかったように思います。

 

当時は外国人が使う貨幣は人民元とは別の兌換券で、ホテル近くの路上で友人がその兌換券で果物を買おうとしたところ、売っていた爺さんは兌換券など見たことがなく、「これは何だ!」と大騒ぎになり、周囲の人も集まって黒山の人だかりとなりました。

 

そのなかに兌換券を知っている人がいて、一件落着となりましたが、爆買いなどが話題となる経済成長著しい今の中国からは想像できないようなエピソードです。

 

次に西安を訪れたのは24年ほど前、天安門事件の2年後ぐらいでしょうか。

このときは、2回目の大学生活の夏休みで、時間はあるけどカネはない(今もありませんが)ため、とにかく節約第1の貧乏旅行でした。

 

船で上海へ、上海から夜行列車で西安に入り、更に、酒泉、敦煌、トルファン、ウルムチとシルクロードを一人旅しようという旅行でした。

 

苦労も山ほど経験しましたが、それだけに、あの旅の記憶はいまも鮮明に残っています。

 

今から思えば、臆病・神経質・人見知りの私がよくあんな旅ができたものだと自分で感心しますが、人生なんとかなるものだと実感した旅でもありました。

 

そのときの西安で一番印象に残っているのが街の共同シャワー場。

節約のためドミトリーに泊まったのですが、ホテル内にバス・シャワー施設がなく、フロントの紹介で街中の共同シャワー場を利用しました。

 

それはいいのですが、勝手がわからない外国人ですから、何かルール違反があったらしく、出るとき番台みたいなところにいたおばさんにえらく怒られました。料金のことでしょうか?ただ何を言われているかわかりませんので、「ごめんね・・・」と無視して退散。

大雁塔に行った帰り、ホテルまで歩いて帰ろうとしたのですが、途中で適当な食べ物屋も見つけることができず、空腹と疲労と暑さでフラフラになったことも。

 

ようやく市内中心部にたどりつき、マクドナルドみたいな感じの店でようやく食べ物にありつきました。

普段トマトは嫌いで食べないのですが、あのときのトマトは生き帰るようなおいしさでした。

 

こときに訪れたトルファンを、数年前に再訪しましたが、見違えるように変わっていました。

おそらく西安も、巨大な現代都市になっているのでしょう。 

1250分 福岡空港

新幹線は連休ということで、立っている人もいましたが、空港はあまり混んでいません。

5月の連休のような感じかと思っていたのですが・・・・。 

上海・浦東空港での乗り継ぎをミスらなければ、西安まで行けそうです。

 

1440分 上海・浦東空港 (日本時間1540分)

浦東で、西安行きの飛行機を待っています。

成田に対する羽田と同じで、国内フライトの多くは虹橋空港発着ですが、今回の西安行きは浦東なので便利です。

 

福岡から上海は、ほんの1時間半のフライト。上海から西安の2時間半よりずっと短いです。

ひと眠りした後に食事を取ると、もう着陸態勢です。実に近い隣国です。

 

そんな近い隣国とうまくいかない(近いからこそうまくいかない・・・と言うべきでしょうか)昨今の状況は残念です。

中国東方航空の食事は、相変わらずまずいですが。

 

浦東で入国審査を受けましたが、非常に作業が効率的で早いです。

審査を待つ人は1列に並んで、係員が空いたたブースに誘導する方式。

 通常、入国審査ではどの列に並ぶかは賭けで、自分の前に時間を要する人がいたりすると列は全く動かず、時間を気にしながら泣きそうな思いをする・・・・といったこともときにありますが、浦東ではその心配はありません。 

国によっては係官が長々とパスポートを(やる気がなさそうに)チェックし、いろんな書類にスタンプを押しまくり・・・という国もありますが、浦東での審査はスピーディーです。 

 

西安の空港に着いたら、空港バスで市内へ移動する予定です。(最終便に間に合えばですが)

空港着は午後7時半頃の予定ですが、空港から市内は1時間近くかかるようですから、ホテル(というほどのものではない安宿ですが)へのチェックイン10時頃でしょうか。 

 

19日午後1030分 ホテルにて

予定していた空港バス路線がなかったりもしてバタバタする場面もありましたが、なんとか10時にチェックインできました。

 ネット環境がイマイチで、なにかと手間がかかるので取りあえずはこれで。

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カザフスタン ロシアとの微妙な関係 「ナザルバエフ後」の不安も

2015-09-18 22:56:18 | 中央アジア

(ロシア・モスクワで5月9日に行われた対ドイツ戦勝70周年式典に参加したナザルバエフ大統領(左)、プーチン大統領、習近平国家主席 【5月11日 WEDGE Infinity】)
 
国際的に重要性を増すカザフスタン
中央アジアのカザフスタンは1991年にソ連邦が崩壊して生まれた中央アジア諸国の一つですが、国土は日本の7倍もある大きな国です。

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カザフ民族は「草原の民」と呼ばれる。つまりソ連時代に定住を強制されるまでは広い草原を遊牧する生活をしていた。

カザフスタンの人口は16百万人を多少上回るが、カザフ民族はその6割強を占めるにすぎず、22%を占めるロシア系を始め、100を超える民族が住んでいる。

しかし多民族国家でありながら、隣国ウズベキスタンやキルギスと違って流血を伴うような民族問題はこれまで発生していない。”【外務省 特命全権大使 角 利夫氏 http://www.iist.or.jp/jp-m/2013/0220-0895/
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カザフスタンは国際的にその重要性を増しています。
その第1の理由は、石油やウランなど鉱物資源が豊富なことによります。

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石油、天然ガスなどのエネルギー資源、鉱物資源に恵まれた資源大国。石油埋蔵量は300億バレル(世界の1.8%)、天然ガス埋蔵量1.5兆立方メートル(世界の0.8%)(2014年BP統計)。

また、レアメタルを含め非鉄金属も多種豊富である(ウランの埋蔵量は世界2位、クロムは世界1位、亜鉛は世界6位(2014年:米日地質調査所))。【日本外務省HP】
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カザフスタンの重要性が増していいるもう一つの理由はその地政学的位置です。

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カザフスタンは中国のアキレス腱である新疆ウイグル自治区に隣接し、またソ連との長い国境には自然障害物がない、同国はいわば中ロの「柔らかい腹」に面して位置している。

またカザフスタンを含む中央アジア諸国はイランやアフガニスタンにも近接し、過激なイスラム思想の伝播という観点からも、またそれら諸国への様々なオペレーションという観点からも重要な位置にある。【前出 角 利夫氏】
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ロシアを警戒しつつ、関係は維持
政治的には、91年の独立以来、25年に及ぶナザルバエフ大統領(75)の長期政権が続いており、外交的にはロシアとの関係が主軸なっています。

“政治・経済面で密接な関係を有するロシアとの良好な関係維持を重視。ロシアを中心とするCIS関連の国際機関(ユーラシア経済同盟、集団安全保障条約機構など)にはあまねく参加している”【日本外務省HP】

もっとも、ロシア一辺倒という訳でもなく、微妙なところもあります。
特に、近年のロシアによるクリミア併合などの動きには、ロシア人が2割以上いるカザフスタンとしても警戒感を持っています。

****カザフ、「国家なかった」に反発=歴史アピール高まる―プーチン発言に対抗****
旧ソ連圏の中央アジア・カザフスタンで、国家としてのアイデンティティーや歴史をアピールする動きが高まっている。

15〜19世紀に存在した「カザフ・ハン国」の創設550年を祝う式典が最近、首都アスタナで盛大に行われ、ナザルバエフ大統領がカザフの歴史を読み上げた。

背景には昨年のウクライナ介入後「カザフに(歴史上)国家は存在しなかった」と口を滑らせたロシアのプーチン大統領に対する反発がありそうだ。

プーチン大統領は昨年8月、若者らとの会合で「(ソ連崩壊まで)カザフに国家は存在しなかった」と発言している。ロシアの極右・自由民主党のジリノフスキー党首もカザフなど中央アジアの統合に言及したことがある。

アゼルバイジャンのアリエフ大統領やキルギスのアタムバエフ大統領を招き、カザフ・ハン国に関する式典が11日、アスタナで行われた。

ナザルバエフ大統領が、式典の目的について「われわれの輝かしい先人をたたえるためだ」と高らかに訴えると、会場は万雷の拍手に包まれた。カザフ政府関係者は「カザフの歴史を振り返るまたとない機会だ。ソ連時代は異なる歴史が教えられていた」と語った。

カザフはロシアと国境を接する北部や北東部にロシア系住民が多い。人口比はカザフ人約65%に対し、ロシア系は約22%。ナザルバエフ大統領が1997年に南部アルマトイから北部アスタナに遷都したのは「カザフ人を北部に進出させる狙いがあった」(関係筋)とも言われる。

カザフ政府はウクライナ危機でロシア批判を控えている。
しかし、ロシアヘの警戒心は隠せない。ナザルバエフ大統領は4月の大統領選勝利後に発表した五つの制度改革の中に「統合された国家」を盛り込んだ。クリミア半島併合のような事態は、カザフでは許さないと明確にしている。

一方、カザフはロシア主導で今年発足した「ユーラシア経済同盟」の加盟国でもある。ロシアとは約7000キロにも及ぶ国境で接している。「ロシアの影響力は圧倒的」(外交筋)だ。カザフは今後もロシアを警戒しつつ「関係維持に心を砕く」(同筋)ことになりそうだ。【9月18日 時事】 
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特に、カザフ北部ではロシア系住民が多数派で、ロシア語地名も多いことから、ロシアの極右指導者、ジリノフスキー自民党党首はカザフ北部を「ロシア固有の領土」と呼んだことがあります。

ナザルバエフ大統領はロシアによる分離独立運動を警戒して、カザフスタン北部へのカザフ人入植を
進め、昨年7月には分離活動や国境変更に絡む活動を禁止する新法を制定しています。

プーチン大統領の「カザフに(歴史上)国家は存在しなかった」云々の発言は、昨年8月29日、モスクワ郊外で行った若者との対話における、「カザフは一度も国家を持ったことがないが、ナザルバエフ大統領はそこに国家を創設した。彼は賢明で退陣する意思もないが、自分が辞めたあとの国家の将来を憂慮している」「広範なロシア経済圏に加わったほうが、産業、技術の発展の上でもカザフにとってプラスだ」との発言です。

カザフスタンを恫喝するような発言は、ウクライナ問題でロシア・プーチン政権が求めた欧米への逆制裁への参加要請をカザフスタンが拒否したこと、それへのプーチン大統領の苛立ちが背景にあるようです。【4月2日 フォーサイト 名越健郎氏 “中央アジアの優等生「カザフスタン」の憂鬱”より】

影響力を強める中国
一方で、中国との関係が強まっているのは、他の多くの国々と同様です。
世界各国の支部で中国語と中国文化を教える孔子学院がアルマトイに開設され、学生の間では中国語ブームが起きているとか。

****中国、旧ソ連・カザフスタンに接近 ロシアの影響力低下か****
旧ソ連・カザフスタンに中国が接近している。

中国西部と国境を接し、豊富な資源を有するカザフは、中国が提唱する新シルクロード経済圏構想で重要な位置を占める。

ロシアは旧ソ連諸国への中国の影響力浸透を警戒しているが、中国の存在感の高まりに対抗しがたいのが実情のようだ。(中略)

中国の習近平国家主席はカザフを訪れた13年9月、シルクロード構想を打ち出した。カザフの対中輸出額は過去数年で倍増しており、中国による旧ソ連諸国への直接投資の大半はカザフの資源開発向けとされる。

学生の中国語熱の高まりは文化、経済の両面で浸透を図る中国の成功を裏付けているように見える。

カザフも中国と歩調を合わせる。ナザルバエフ大統領は14年12月、シルクロード構想に対する全面的な支持を表明。中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)への参加も真っ先に決めた。(後略)【5月8日 産経】
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昨年のカザフの貿易統計では、欧州連合(EU)との貿易が全体の44%でトップ。ロシアは15.8%、中国が14.4%だった。

中国との貿易が急増しており、市場で見た日用品の大半は中国製だった。カザフへの投資・貿易で、中国が近くロシアを抜くのは間違いない。

中国・カザフ間は石油・ガスパイプラインで結ばれているが、近年中国の企業進出や農民の進出が目立つ。南部の最大都市、アルマトイには大型中国人市場があり、数万人の中国人が農地をレンタルして収穫している。中国の経済プレゼンスが確実に増大しているのが分かる。【前出 名越健郎氏 “中央アジアの優等生「カザフスタン」の憂鬱”】 
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【「ナザルバエフ後」に不安も
ロシア・中国とのバランスを図りながら・・・というところでしょうが、今後の課題は、プーチン大統領が言及しているように「ナザルバエフ後」です。

ナザルバエフ大統領は11日、長女ダリガ・ナザルバエワ氏(52)を副首相に任命しました。
高齢問題から大統領の後継指名の布石ではないかと臆測を呼んでいるそうです。

****カザフスタン大統領、娘を副首相に任命****
中央アジア・カザフスタンのヌルスルタン・ナザルバエフ大統領(75)は11日、娘のダリガ・ナザルバエワ氏(52)を副首相に任命した。ナザルバエフ大統領は今年4月の大統領選で再選を果たしたが、多くの人々が最後の任期だとみており、大統領の後継者問題にからんだ動きとみられる。

ナザルバエワ氏は同日まで同国の下院議員で、副議長も勤めていた。(中略)

ナザルバエワ氏は、2004年から2007年に下院議員を勤めていたが、2007年に当時の夫、ラハト・アリエフ氏が、銀行員2人の誘拐事件でオーストリアで捜査対象になったことを受け、父親の後ろ盾を失ったと考えられていた。

報道によると、ナザルバエワ氏は同年、国家保安委員会副議長でオーストリア大使だったアリエフ氏と離婚。同氏との間には3人の子どもがいる。

スキャンダルのあと、カザフスタン政府がオーストリアに対して同氏の身柄引き渡しを要求する最中、ナザルバエワ氏は政治の舞台から退き、父親の慈善活動基金を率いていたが、2012年に与党ヌル・オタン党から出馬して下院議員に復帰した。(後略)【9月13日 AFP】
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長女ダリガ・ナザルバエバ氏が国営テレビなどメディアを牛耳るのに対し、次女の夫は資源を握り、更に三女は経済成長で潤う建設業界の利権を握る・・・・といった「身内の権力闘争」が、かつて話題にもなっていましたが・・・・。

ナザルバエフ大統領はソ連時代末期には共産党政治局員の大物で、当時無名のプーチン大統領よりはるかに格上の存在でした。

大国ロシアとの関係をコントロールできているのは、そうしたナザルバエフ大統領の存在感によるところもあると思われますが、「ナザルバエフ後」はどうでしょうか?

社会全体に広がる汚職・腐敗
カザフスタンの最大の問題は社会全体に広がる汚職・腐敗でしょう。
2014年の腐敗認識指数 国別ランキングでカザフスタンは第126位と下位に甘んじています。

カザフスタンでは公的機関の職を得るのに金銭を支払うことがしばしば行われるとか。
当然に、職についたら投資資金を回収しますが、その一部は上位の者に渡され、更にその一部はより上位の者に・・・という形のピラミッド型のシステムがあって、汚職は制度的に再生産されることにもなっています。
(岡 奈津子氏 「カザフスタンにおける日常的腐敗」より)

豊かな地下資源も、利権をめぐる汚職・腐敗が拡大する“資源の呪い”ともなりかねません。

もちろん、カザフスタンでも汚職撲滅対策は行われてはいますが、最高権力が身内に引き継がれるような体制では、大きな改善はあまり期待できません。
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マレーシア  汚職疑惑の首相へ高まる批判 民族間の対立に飛び火する不安も

2015-09-17 23:01:50 | 東南アジア

(16日、マレー系市民団体によってクアラルンプールで行われたナジブ首相支持派のデモ 「マレーシアはマレー人のもの」といった主張も 【9月16日 時事】)

資金還流疑惑で高まる首相批判
巨大汚職疑惑でマレーシア・ナジブ首相への批判が高まっているという件はこれまでも取り上げてきました。
5月1日ブログ「マレーシアで進む宗教保守化と強権支配」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150501
7月8日ブログ「マレーシア 与党は首相の汚職疑惑、野党は共闘崩壊 それぞれに困難に直面」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150708

汚職疑惑内容は上記ブログで取り上げましたので詳細は省きますが、ナジブ首相が代表を務める政府系投資会社「1MDB」(ワン・マレーシア・デベロップメント)を舞台にしたもので、巨額負債(約1兆2100億円)やマネーロンダリング、首相親族の関与、更には首相自身への資金還流など多岐にわたっています。

首相への資金還流については、「1MDB」関連会社を通じ、ナジブ首相の個人口座に約7億ドル(約850億円)の不透明な資金が振り込まれた・・・とも報じられています。

9月4日の英紙ガーディアン(電子版)は「ナジブ氏への国際的な圧力も増しており、スイス当局がスイスの金融機関にある1MDBの資金を凍結した」と報じています。【9月8日 SankeiBiz】

以前から取り沙汰されてきた汚職疑惑・不正資金の流れですが、特にナジブ首相への資金還流が表面化したことで、首相への抗議行動が大きくなっています。

****マレーシア首都で2.5万人デモ 資金流用疑惑、首相の辞任を要求****
マレーシアの首都クアラルンプールで29日、政府系ファンドからの資金流用疑惑に揺れるナジブ首相の辞任などを求める大規模な抗議デモがあった。30日夜まで続くが、警察は「抗議は違法」と警告。数千人の警官隊を動員して暴徒化への警戒を強めている。

デモは野党勢力が支援するNGOの連合体「ブルシ(清廉)」が呼びかけた。警察発表によると、29日夕までに約2万5千人が集まったという。身内のナジブ氏を批判し、辞任を求めるマハティール元首相もデモ会場に姿を見せた。

きっかけは、7月にナジブ氏がトップを務める政府系ファンドから約7億ドル(約850億円)が個人口座に不正に流れた疑いを米紙が報じたことだ。

ナジブ氏は疑惑を否定するが、明確な説明を避け、疑惑への対応をめぐって対立したムヒディン副首相を解任。資金疑惑を報じる地元紙2紙を発行禁止にした。手荒な手法に国民の反発が高まるうえ、国内経済の悪化に対する国民の不満の矛先もナジブ氏へと向かっている。

ただ、デモ参加者は華人が中心だ。国民の約6割を占め、政権の支持基盤であるマレー系の参加者は少ない。独立系の世論調査機関ムルデカ・センターのイブラヒム・サフィアン氏は「マレー系住民の支援が十分に得られないデモでナジブ氏を辞任に追いこむのは難しい」とみている。【8月30日 朝日】
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【「ナジブ降ろし」に走るマハティール元首相の事情は?】
上記記事にもあるように、現在のマレーシア政治・経済の大枠をつくったマハティール元首相が、同じ与党のナジブ首相批判の先頭に立っていることが特徴的です。

警察当局はマハティール元首相の「事情聴取」を行う方針を明らかにしています。

****マハティール元首相を聴取へ=大規模デモ参加で―マレーシア警察****
マレーシア警察当局は2日、首都クアラルンプールで8月29、30両日に行われた大規模デモの現場を訪れたマハティール元首相を事情聴取する方針を明らかにした。地元メディアが伝えた。

当局者は「デモに関わった全ての人を調べるつもりだ」と指摘。また、「(マハティール氏は集会で)与党幹部が賄賂を受け取ったと話していた。われわれは元首相が得ている情報を知りたい」と述べ、与党関係者の汚職疑惑についても協力を求める意向を示した。(後略)【9月2日 時事】
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“与党関係者の汚職疑惑についても協力を求める意向”とはありますが、警察は名誉毀損の疑いで元首相を捜査すると表明しており、“野党の人民正義党(PKR)副党首のアズミン・アリ・スランゴール州首相などデモに参加したその他の政治家についても同様に事情聴取する。さらに、デモ会場でナジブ首相の写真を踏みつけたデモ参加者についても、取り調べの対象にするという。”【9月4日 NNA.ASIA】とのことですので、政府側の意を受けてのマハティール元首相らへの圧力と思われます。

マハティール元首相は「賄賂が配られたことは知っている。政府はうそをつくのではなく、真実を話すべきだ」と反発していますが、その後、実際に事情聴取されたという記事は目にしていません。

もっとも、マハティール元首相が義憤に駆られて行動しているという話でもなく、自身の息子を将来首相に吸えるためにナジブ首相が邪魔になっているということがあっての権力闘争とも言われていますが、ナジブ首相同様に“脛に傷がある”マハティール元首相には、ナジブ降ろしを行う「もっと切実な事情」もあるとも指摘されています。

****歴代首相の悪夢は韓国の再来****
・・・・しかし現在、マハティール元首相にはかつてのような強力な政治的影響力はない。

政権与党や内閣、さらにはUMNO幹部もナジブ首相を支持しているが、反ナジブ派が結束するのは、マハティール氏の看板を頼っているからではない。彼らには公に言えない共通の恐怖が常につきまとっているからだ。

今年2月、野党を束ねてきたアンワル元副首相が同性愛行為で5年の有罪判決を受けて、収監され、イスラム刑法導入などを巡り、事実上、野党は分裂状態となっているが、2008年、2013年の総選挙で野党の躍進に甘んじた苦い経験を忘れたことはない。

マハティール元首相が躍起になってナジブ首相を引きずり下そうとしているのは90歳の高齢になった今、息子が首相に就任する事実を見定めたいと思うからではない。

次期総選挙でもし、与党が惨敗すれば、韓国のように、彼も含め、歴代首相や与党関係者は監獄入りになる可能性が大きいからだ。だから、選挙に勝てない首相の首をつなげておくことは自らの自殺行為になる。

マレーシアでは初代首相の「Rahman」の頭文字から、最後の「n」はナジブで与党が崩壊するという、ジンクスも脅威として頭から離れない。

個人流用は否定するが、実際に公金が個人口座に送金されたことは否定していないナジブ首相。このこと事態、政治家の倫理観や規制法律で、司法機関が機能していれば、すでにナジブ首相も退陣しているはずだ。

問題は、政党や選挙資金のため、あるいは、その名目でマハティール元首相時代からも公金流用疑惑がつきまとってきたマレーシア政冶史の根幹が病巣と言えるのだ。
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0年間の大統領在任中に、巨額の国家資産の横領疑惑にまみれながら、全容解明に至らず、結局はハワイに亡命したフィリピンのマルコス元大統領夫妻。
ナジブ首相夫妻がその二の舞を踏むと冷笑されるほど、その病巣は重く、深く、そしてやっかいなものだ。【7月13日 JB Press 末永 恵氏 「マレーシア、ナジブ首相に公金横領疑惑 夫人にも疑惑浮上、国外逃亡の可能性も」】
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ただ、上記記事にもあるように野党勢力を束ねてきたアンワル元副首相の政治生命が政権側の政治的策略とも思える方法で断たれた現在、野党勢力に政府・与党を追い込む力があるかどうかは疑問です。
7月8日ブログ「マレーシア 与党は首相の汚職疑惑、野党は共闘崩壊 それぞれに困難に直面」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150708

【「マレーシアはマレー人のもの」・・・民族対立に火が付く危険も
しかし、「政府・与党」対「野党勢力」という構図に代って、もっと厄介な動きが生じているようにも見えます。

前出【8月30日 朝日】にある“デモ参加者は華人が中心だ。国民の約6割を占め、政権の支持基盤であるマレー系の参加者は少ない”という部分です。

この点に関しては、“ただ、マレー系のデモ参加者が少なかったかどうかについては意見が割れている。一部では「参加者の中華系とインド系多数説」はマレーシアを民族問題で揺さぶろうとしている勢力の情報操作との指摘もある。”【9月8日 SankeiBiz】とも。

もし“マレーシアを民族問題で揺さぶろうとしている勢力の情報操作”ということであれば、より危険な動きと言えます。

マレーシアはマレー系を中心に華人、インド系、その他の民族からなる複合民族国家です。
民族対立の戦火が世界各地で噴出していることを考えると、マレーシアの民族問題は比較的調和的に推移してきたと言えます、(もちろん、民族間の衝突がなかったということではありませんが)

マハティール元首相時代からの基本政策は、経済的に劣後した立場にあるマレー系を優遇する「ブミプトラ(土地の子)」政策であり、華人・インド系の既得権益層の協力も取り付けて行われてきました。

しかし、近年は華人・インド系住民から、また、自由な経済行動を求めるマレー系の一定階層からも批判が強まっています。

マレーシアは、これまで同様に比較的調和的な民族関係が今後とも維持できるかの岐路にさしかかっているとも言えます。

そういう時期にマレー系と華人で政治対立が深まる、あるいは“マレーシアを民族問題で揺さぶろうとしている勢力の情報操作”が行われるということいなると、今後が懸念されます。

16日には、マレー系市民団体によるナジブ政権支持の大規模デモが行われ、民族間の緊張が高まっています。

****マレーシアで民族デモ、一部暴徒化で負傷者、華人系に緊張****
マレーシアの首都クアラルンプールで16日、人口の68%を占めるマレー系の市民団体が、「マレー人の威厳のための集会」と銘打った大規模デモを行った。

デモ隊の一部は警官隊と衝突して暴動に発展。警察は放水車などを使い鎮圧にあたり、負傷者も出た。

デモを主催するマレーシア武術の団体、全国シラー協会連合会(ペサカ)は「マレーシアはマレー人のもの」などと主張。先月末、巨額の公的資金の流用疑惑を抱えたナジブ首相の退陣を呼び掛けた市民団体「ブルシ(清潔)」によるデモへの対抗措置と位置づけた。警察によると、参加者は夕方時点で3万人。

ブルシは無許可でデモを実施。警察当局はペサカらのデモも許可しない方針だったが、クアラルンプール市が14日、一部の広場に限定して容認。一部市民からは、「政権擁護のデモだけを認める二重基準」との批判の声が上がっている。

マレー人の全国組織で与党第一党、統一マレー国民組織の総裁を務めるナジブ首相はデモを容認する姿勢を示していたが、当日になり「民族対立に発展すれば危険だ」と懸念を示した。

一方で、与党連合の第二党、マレーシア華人協会のリオウ・ティオンライ総裁は、デモに反対を表明。同国で24%と少数派の中国系の華人は、市中心部で店舗や企業を経営する資産家も多く、デモ隊による暴力行為を恐れて、多くが臨時休業などの措置をとった。

マレーシアでは1969年、マレー系と華人系の大規模な民族衝突が発生。最近では、首都の商業施設で、万引をしたマレー系の若者を華人系の店員がとりおさえたのをきっかけに、マレー系の集団が華人を襲う事件が起きている。【9月16日 産経】
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自身の汚職疑惑を打ち消すために民族対立感情を煽る・・・ということであれば、マレーシアにとって不幸なことです。
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難民問題に背を向けるハンガリーなど東欧諸国  過去のホロコーストへの向き合い方を指摘する声も

2015-09-16 23:32:26 | 難民・移民

(セルビアからハンガリーに不法入国したとして拘束され、うなだれる難民ら=ハンガリー南部のセルビア国境で15日、ロイター 【9月16日 毎日】)

行き場を失う難民ら
欧州を目指す難民・移民の問題については、一昨日14日ブログ「ドイツ 国境審査再開、難民流入に歯止めへ  EUは緊急理事会で統一対応を目指すものの・・・」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150914)で、これまで寛容な方針をとってきたドイツも押し寄せる難民らへの現実的対応が困難となり、「難民の流れを制限し秩序ある管理を実施する」(ドイツ内相)ということで、国境審査を再開することにした件などを取り上げました。

ドイツはオーストリア国境でパスポート検査を行い、“先週末に1万6000人以上が到着した南部のミュンヘン駅では、15日に到着したのは850人にとどまり、難民らのドイツ入りは困難な状態となっている。”【9月15日 毎日】とのことです。

同様の動きは中東欧諸国に広がっています。

****国境管理、続々と導入=難民問題解決見えず―中東欧****
中東などからの難民らの殺到を抑えるため、ドイツが対オーストリア国境で入国審査を開始して以降、中東欧諸国が相次いで追随する動きを見せている。

自国に多くの難民が入るのを避ける狙いで、場当たり的な「難民の押し付け合い」といった印象もある。欧州連合(EU)が結束できない中、関係国の思惑が交錯している。

多くの難民が目指すドイツのデメジエール内相は13日、「(難民の)流入を抑制し、秩序を取り戻す」として、「シェンゲン協定」が定めた欧州内での越境の自由を制限。

ドイツへの難民の入り口になっていたオーストリアも16日、国境管理の強化を始めた。隣接するチェコとスロバキアも同様の対応に出ており、難民にとっては西欧へのハードルが高くなった。

メルケル独首相は15日の記者会見で、難民問題は「欧州全体でしか解決できない」と強調したが、EU内の意見がまとまらない中、各国が個別に負担回避に動いた格好だ。

AFP通信によると、チェコのホバネツ内相は「チェコに向かう難民の数次第では追加措置を講じる」と語り、警戒感の強さをうかがわせた。

シェンゲン協定諸国の玄関口ハンガリーは、反難民の急先鋒(せんぽう)。これまで対セルビア国境にフェンスを設置し、不法入国を厳罰化した。シーヤールトー外相は15日、対ルーマニア国境にもフェンスを設ける計画を発表。強硬姿勢を貫く構えだ。【9月16日 時事】 
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各国が国境管理を厳しくするなかで自国だけが受け入れると、受け入れた難民らの出口がなく、自国内に「滞留」することになりますので、他国同様に国境管理を厳しくする・・・という流れのようです。

すでに多くの難民らが動いているなかで、各国が国境管理を厳しくすることで、ルートを分断された難民らの行き場がなくなることが懸念されます。

強硬姿勢が際立つハンガリー
各国が対応に苦慮するなかにあって、一貫して強硬な姿勢が目立つのが「バルカン半島北上ルート」においてEU域内への玄関口となっているハンガリーです。

ハンガリー政府は15日、セルビア国境に近い南部の2地域に「危機状態」を宣言し、国境管理を強化しました。
また、ハンガリーは同日から不法入国者を厳罰化する法律も施行しており、議会の承認を経て軍隊の派遣が可能になっています。【9月16日 読売より】

ハンガリー政府は国境をフェンスで閉鎖したうえで、シリア難民も含めたセルビア通過者を「難民」とは認めず、セルビアに強制送還することで難民らをハンガリーに入国させない方針です。

ハンガリー入りを拒まれセルビアを移動中の難民らは3万人に上るとされています。
こうした事実上難民を認めないやり方には、難民に関する国連やEUの規則に反しているとの批判が出ています。

****<ハンガリー>強制送還の方針 難民、クロアチアへ向かう****
ハンガリー政府は15日、内戦が続くシリアなどから逃れてきた人たちがセルビア側から国境を訪れて、難民申請をしても却下し、セルビアに強制送還する方針を明らかにした。ロイター通信などが伝えた。

同政府は、不法入国者には禁錮刑を科す可能性にも言及し、同日中に不法入国した難民ら174人を拘束した。

しかし、セルビアは強制送還受け入れを拒否。難民は西方の欧州連合(EU)加盟国クロアチアに向かい始めている。

ハンガリーのコバチ外務報道官は15日、セルビア国境近くで毎日新聞などメディアに対し「難民申請が却下されれば、ハンガリーの地を踏むことはない」と述べ、隣国セルビアへ強制送還する姿勢を示した。これ以上の難民の入国を断固阻止する姿勢を明確にした形だ。

報道によるとハンガリーは「数時間」で難民申請を処理する施設を国境に準備している。ハンガリーが「安全な国」とみなすセルビアを通ってきた難民の申請は基本的に却下し、送還する見通し。

しかしセルビアのブーリン移民問題担当相は「国境閉鎖は恥ずべき行為ですぐに開けるべきだ。(ハンガリー国境に押し寄せる)難民は我が国の責任ではない」と強く批判した。

セルビアに滞留している難民の一部は、ハンガリーとの国境検問所付近で抗議活動をしている。
一方、セルビア南部から難民を乗せた複数のバスが15日、クロアチア方面に向かった。

ハンガリーの行為には国際的非難が高まっている。国際移住機関(IOM)は「国連やEUの規則に反しているようだ」と懸念を表明。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、短時間で難民申請を処理しようとするハンガリーを「驚くべき姿勢」と非難した。

またハンガリーは同日、有刺鉄線付きの「越境防止フェンス」を東方のルーマニア国境にも拡張する方針を示唆。ルーマニア外務省は「政治的にも、ヨーロッパの精神から見ても正しい行動とは思えない」と反発した。【9月16日 毎日】
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“ヨーロッパの精神”云々というよりは、難民という厄介者を他国に押し付けあっているかのようにも見えますが、ハンガリーについてはこれまでも政府の強硬姿勢だけでなく、セルビア国境を越えてきた子供を蹴ったり、子供を抱いた男性の足を引っかけて転倒させたりする極右系放送局の女性カメラマン、難民収容施設で「動物に餌を与える」かのように食べ物の袋を放り投げる警官などの映像がひんしゅくを買ったりもしてきました。

基本的に、政府にも国民にも難民らに寄り添う気持ちが見られず、単に「厄介者」としか見ていないようにも思えます。

残忍な過去と折り合いをまだつけていない東欧
こうした姿勢は他の東欧諸国にも見られ、EUが掲げてきた人道主義の価値観とは相いれない排外的姿勢も窺われます。

もちろん、難民らに寄り添う気持ちがあっても、人道主義を是としていても、国家の枠組みを前提にした現実対応にあっては思うような施策がとれないということは多々あります.

14日ブログでは“試される「価値観」”ということを取り上げましたが、最初からそういう価値観を有していないということになると話が違ってきます。

****難民受け入れを渋る東欧の「恥****
迫害を逃れて移住した過去、連帯の精神を忘れたのか

何千人もの難民が戦争の恐怖から逃れて欧州になだれ込み、大勢の人が途中で命を落とす中、欧州連合(EU)に一番最近加盟した国々の多くで、別の類の悲劇が展開されている。

筆者の祖国ポーランドを含め、「東欧」と総称される国々は、自分たちが不寛容で自由を認めず、外国人嫌いで、四半世紀前に自分たちを自由に導いてくれた連帯の精神を覚えていられないことを露呈した。

これら東欧諸国は、共産主義崩壊の前後に「欧州への復帰」を切望し、誇らしげにその価値観を共有していると宣言したのと同じ社会だ。
だが、彼らは一体、欧州が何を象徴していると思っていたのだろうか。

1989年以降、また特に各国がEUに加盟した2004年以降、これら東欧諸国はEUの構造基金、結束基金の形で、莫大な財政移転の恩恵にあずかってきた。

これらの国は現在、欧州が直面する第2次世界大戦以来最大の難民危機を解決するために、どんな貢献をすることも嫌がっている。

ハンガリーだけじゃない、東欧諸国の不寛容
実際、全世界が見ている目の前で、EU加盟国であるハンガリーの政府は何千人もの難民を不当に扱った。ハンガリーのビクトル・オルバン首相は、別の行動を取る理由はないと思っている。難民は欧州の問題ではない、と同氏は主張する。ドイツの問題だというのだ。

この見方をしているのは、オルバン氏だけではない。ハンガリーのカトリック教会の司祭さえもがオルバン氏の方針に従っており、ツェゲド・チャナド地域のラズロ・キスリゴ司祭は、イスラム教の移住者は「乗っ取り」を望んでおり、欧州のすべての教区に難民の家族を1世帯ずつ受け入れるよう求めたローマ法王は「状況が分かっていない」と述べた。

人口4000万人のポーランドでは、政府が当初、難民を2000人受け入れる姿勢を示したが、受け入れはキリスト教徒に限定した(スロバキアも似たような条件を提案している)。

あるポーランド人ジャーナリストは米国の国営ラジオNPRで、難民は東欧の問題ではない、なぜなら東欧諸国はリビア爆撃の決断に参加しなかったからだと語った(ドイツもこの決断には参加していない)。

東欧の人々には羞恥心がないのか。彼らの祖先は何世紀もの間、物質的な苦難と政治的迫害からの解放を求め、大挙して移住した。そして現在、彼らの指導者の無情な態度と冷淡な発言は、国民心理につけ込んでいる。

実際、ポーランド最大の日刊紙ガゼッタ・ビボルチャの電子版は今、難民に関するすべての記事の末尾に、次のような驚くべき告知を掲載している。
「法律に反して暴力を唱え、人種的、民族的、宗教的憎悪を呼びかける異常に攻撃的なコメントの内容のために、読者がコメントを投稿するのを認めません」

戦後間もない頃、ホロコーストを生き延びた東欧のユダヤ人たちはポーランドやハンガリー、スロバキア、ルーマニアなどの隣人の残忍な反ユダヤ主義から逃れ、よりによってドイツの難民キャンプに逃げ込んだ。

25万人のホロコースト生存者を題材とした歴史学者ルース・ゲイ氏の重要な書籍のタイトルは「Safe Among the Germans」と謳っている。

現在、イスラム教徒の難民や他の戦争の生存者たちは、東欧に避難場所を見つけられず、やはりドイツ人の間の安全性に逃げ込んでいる。

第2次世界大戦の暗い過去
この場合、歴史は比喩ではない。それどころか、現在露呈している東欧の人々の態度の根本原因は第2次世界大戦とその余波に見いだすことができる。

ポーランド人について考えてみるといい。反ナチスのレジスタンス運動に正当な誇りを持つポーランド人は実は、戦時中にドイツ人よりも多くのユダヤ人を殺した。

ポーランドのカトリック教徒はナチス占領下で犠牲になったが、ナチズムの究極の犠牲者の運命にあまり慈悲を抱くことができなかった。

反共産主義のポーランド人作家で愛国心にかけて申し分のない経歴を持つヨゼフ・マツキエヴィッチ氏は、次のように語っている。

「占領下では、『1つ、ヒトラーが行った正しいことはユダヤ人を全滅させたことだ』という言葉を聞いたことがない人は、文字通り、一人もいなかった。だが、これについて公然と語ることは許されなかった」

もちろん、戦時中にユダヤ人を助けたポーランド人もいた。実際、イスラエルのヤド・ヴァシェム(ホロコースト記念館)によって戦時中の勇敢さを認められたポーランドの「諸国民の中の正義の人」の数は、すべての欧州諸国の中で最大だった(戦前のポーランドが欧州で圧倒的に最大のユダヤ人人口を抱えていたことを考えると、意外ではない)。

だが、こうした立派な個々人は大抵、支配的な社会規範に反して、独自に行動した。戦争が終わってから何年も経っても、戦時中の自分の勇敢な行為を隣人から秘密にしておくことにこだわった人もいた。
自分の属するコミュニティーから疎外され、脅かされ、排斥されることを恐れたためのようだ。

占領下に置かれた欧州社会はすべて、程度の差こそあれ、ユダヤ人を破滅させようとするナチスの取り組みに加担した。それぞれの社会は、その国特有の事情やドイツの支配の状況によって異なる貢献を行った。

だが、地域が擁する絶対的なユダヤ人の数とナチスの占領体制の比類ない無情さのせいで、ホロコーストが最も陰惨に繰り広げられたのは東欧だった。

歴史と向き合ったドイツ
戦争が終わった時、ドイツは戦勝国の非ナチ化政策と、ホロコーストを扇動、実行した自国の責任のために、残忍な過去と「向き合う」しか選択肢がなかった。これは長く、難しいプロセスだった。

だが、ドイツ社会は歴史上の悪事を意識し、今日の難民の大量流入が突き付けるような道義的、政治的課題と対峙できるようになった。

そして、ドイツのアンゲラ・メルケル首相は移住者に関し、東欧のすべての指導者を恥じ入らせるような圧倒的なリーダーシップの模範を示した。

対照的に東欧はまだ、その残忍な過去と折り合いをつけていない。それができた時に初めて、東欧の人々は悪から逃げてくる人々を救う自分たちの責任を認識することができるのだろう。【9月16日 JB Press】
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自国ポーランドのことということもあって、かなり厳しい見方です。
ただ、イスラム教徒の多い難民らに救いの手を差し伸べようとしない対応は、かつてユダヤ人を抹殺した歴史に重なるものがあるようにも見えます。

かつて冷戦末期、ハンガリーはオーストリアとの国境線の鉄条網を撤去して国境を開放することで東ドイツ難民を西側に逃がし、冷戦を終結させる引き金を引くことになりました。

そのハンガリーが、今は国境を封鎖して難民らの希望を断ち切ろうとしています。

ドイツは、EU各国で難民を分担して受け入れることを求めて東欧諸国の反対にあっていますが、「価値観」が異なるという話になると、そういった国に難民を押し付けても、押し付けられた難民が困難を経験することになるようにも思えます。

難民をどうするという問題以前に、「価値観」を共有することなくEUとして共同体を維持できるのか?ということにもなります。

メルケル首相の怒り「それは私の国ではない」】
一方、難民らへの寛容な姿勢をみせたことを国内から批判もされているドイツ・メルケル首相は、「緊急事態に難民に優しくしたことを謝罪すべきだというなら、それは私の国ではない」と怒りをあらわにしています。

****<難民問題>独首相「謝罪、それは私の国ではない****
難民を無条件で受け入れる方針を一時打ち出し、大量の難民が流れ込む原因を作ったと批判されているドイツのメルケル首相が15日、「緊急事態に難民に優しくしたことを謝罪すべきだというなら、それは私の国ではない」と反論した。

物静かなメルケル首相が感情的に発言するのは珍しい。首相は難民問題を「解決できる」と改めて持論を述べた。

15日の記者会見で、首相は数千人のドイツ市民が駅などで難民を歓迎したことを称賛。「率直に言う。もし緊急事態に(難民に)優しい顔を見せたことについて、私たちが謝罪を始めなければならないとしたら、そんな国は私の国ではない」と述べた。

ドイツ政府はハンガリー・ブダペスト駅などで難民が劣悪な状況で足止めされている事態を受けて今月初め、難民登録をしていなくても無条件で受け入れる方針を決定。

その結果ドイツに6万人以上が流入した。与党内の保守強硬派から反発を受け、13日に国境管理の一時復活を決めた。【9月16日 毎日】
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話を日本に引き寄せれば、朝鮮半島での有事や中国での共産党政権崩壊・混乱に際して、半島・大陸から大勢の難民がおしよせたとき、優しい顔を見せることができるか?単に「脅威」「厄介者」として見るのか?という話でしょう。
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イスラエル  エルサレム「神殿の丘」をめぐって再び緊張が高まる 強硬姿勢のネタニヤフ政権

2015-09-15 23:17:49 | 中東情勢

(【9月15日 AFP】)

再び「神殿の丘」で衝突
1967年の第三次中東戦争でイスラエルが東西ともに占領したエルサレムは、ユダヤ教にとっても、イスラム教にとっても宗教的に重要な「聖地」であることから、イスラエルがエルサレムを「不可分の永遠の首都」であるとするのに対し、東エルサレムの領有を主張するパレスチナ自治政府も将来のパレスチナ国家の首都とする形で双方が「首都」であることを譲らず、常にパレスチナ問題の中心に位置する問題です。

旧市街を含む「東エルサレム」に関して、1980年に国連総会はイスラエルによる占領を非難し、エルサレムを首都とするイスラエルの決定の無効を143対1(反対はイスラエルのみ、棄権は米国など4)で決議しています。

そういう「敏感な」な地域であるエルサレムを巡っては、昨年10月、11月にもイスラエル政府とパレスチナ住民との間の緊張が高まりました。

2014年11月7日ブログ「イスラエル 東エルサレムでパレスチナ住民と治安部隊の衝突 高まる緊張」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20141107
2014年11月20日ブログ「イスラエル シナゴーグ襲撃、犯人自宅破壊命令・・・・緊張は危機的状況に」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20141120

ここにきて、再び緊張が高まる事態が起きています。

****エルサレム聖地のモスクで衝突、ユダヤ新年前に緊張高まる****
中東エルサレムのアルアクサ(モスクで、ユダヤ歴の新年を数時間後に控えた13日朝、イスラム教徒とイスラエル警察が衝突した。

イスラム教で3番目に重要な聖地である同モスクがある「神殿の丘」は、ユダヤ教の聖地でもあることから、参拝をめぐり両教徒間の衝突が絶えない。

先週には、モシェ・ヤアロン国防相が神殿の丘に参拝するユダヤ教徒らと衝突したイスラム教徒の2グループを非合法団体に指定し、緊張が高まっていた。

イスラム教徒の目撃者は、モスクにイスラエル警察が侵入し内部を破壊したと話しているが、警察側はイスラム教徒らが石や花火などを投げるなどの暴力行為を始めたためモスクの扉を閉鎖しただけだと説明している。

警察は声明で、13日夜に始まるユダヤ教の新年祝賀行事に先立ち「暴徒」らが前夜からモスク内にバリケードを築いて立てこもり、ユダヤ人の参拝妨害を試みたと主張。

参拝の妨害を防ぐために同日午前6時45分(日本時間午後0時45分)に敷地内に入ったところ、モスク内の人々から攻撃を受けたとしている。

一方、イスラム教徒の目撃者の一人は、警官らがモスクの扉を閉めるためには不必要なまで奥に立ち入り室内を損傷させたと主張。礼拝用のじゅうたんが一部焼けたり、窓が割れたりしたと訴えた。

パレスチナ自治政府のマハムード・アッバス議長はイスラエル警察によるモスクへの「攻撃」を非難する声明を出している。【9月14日 AFP】
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衝突の経緯については以下ののようにも報じられています。

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イスラエル警察によると、覆面の集団が聖地内の礼拝所に立てこもり、バリケードで封鎖しているとの情報が入ったため、警察が出動した。「暴徒」が警官らに石や火薬を投げ付け、衝突は旧市街の路上にも広がって数時間続いたという。

一方、パレスチナのマアン通信は、夜明けの礼拝が終わった直後にイスラエル側の部隊が礼拝所に突入し、ゴム弾や閃光(せんこう)弾を発射したため、信者ら数人が負傷したと伝えている。【9月14日 CNN】
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衝突はユダヤ暦の新年にあたる14日も続きました。

****エルサレム聖地のモスクで連日の衝突、国連・米は自制要請****
中東エルサレムにあるイスラム寺院「アルアクサ・モスク」では14日、ユダヤ暦の新年をユダヤ人らが祝う中、聖地を守ろうとするイスラム教徒とイスラエル警察が前日に続き衝突した。

国連(UN)と米国は衝突を強く批判し、自制を呼び掛けた。

アルアクサ・モスクが建つ丘は、イスラム教で「ハラム・シャリーフ」、ユダヤ教で「神殿の丘」と呼ばれ、両教徒にとって聖地となっている。

警察によると、イスラエルの治安部隊は13日と同様、聖地で新年を祝うユダヤ人に対するイスラム教徒の若者らの嫌がらせを防ぐため、早朝にモスク内に入ったという。

その際、衝突が発生。イスラム教徒がバリケードを作ってモスク内に立てこもる一方、外では聖地への立ち入りをめぐって抗議行動が起きた。

警察は声明で、覆面の若者たちがモスク内に逃げ込み、投石してきたと発表。モスク内でデモ参加者5人を逮捕し、ユダヤ教徒の聖地訪問は予定通り行われたと述べた。

エルサレム旧市街の路上でも治安部隊とデモ隊の衝突が起き、4人が逮捕された。

警察は群衆を押し返す際、威嚇用手投げ弾を使用。デモ隊やAFP記者を含むジャーナリストらに対し殴る、けるなどした。

イスラム教徒らは、イスラエル政府が聖地の管理方法を変えようとしているのではないかと危惧している。極右ユダヤ教組織は「神殿の丘」へのアクセス拡大を強く主張し、新しい神殿を建設しようとの動きもある。

ベンヤミン・ネタニヤフ首相は現状維持の方針を示しているが、パレスチナ人らは懐疑的な見方を崩していない。

パレスチナ解放機構(PLO)は14日、高官を通じて発表した声明で、「イスラエルが意図的に不安定な状況を作り出し、暴力をエスカレートさせているのは明らかだ。それによって治安部隊の権限と統制を徐々に増やし、ハラム・シャリーフを完全に併合・変質させようとしている」と非難した。【9月15日 AFP】
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極めて「敏感な」場所である「神殿の丘」】
問題が起きている「神殿の丘」は、ユダヤ教・イスラム教双方が聖地とする「敏感な」エルサレムにあっても、ユダヤ教徒のとって重要な「嘆きの壁」、イスラム教徒にとって重要な「アルアクサ・モスク」と「岩のドーム」を含む、とりわけ「敏感な」場所です。

****神殿の丘****
この場所には紀元前10世紀頃、ソロモン王によりエルサレム神殿(第1神殿)が建てられた。しかし、紀元前587年、バビロニアにより神殿は破壊される。その後、紀元前515年に第二神殿が再建されるが、西暦70年に今度はローマにより再び神殿は破壊される。また、このときの城壁の一部が「嘆きの壁」である。

ヨルダン支配下の東エルサレム(1948年~1967年)では、イスラエル人は旧市街への立ち入りを禁じられていた。現在、神殿の丘はイスラエルの領土内にあるが、管理はイスラム教指導者により行なわれている。
そのため、ユダヤ人とキリスト教徒は神殿の丘で宗教的な儀式を行う事を禁止されている。

2000年9月28日、右派リクードのシャロン党首が神殿の丘を訪問し、これに反発したパレスチナ市民によりセカンド・インティファーダが引き起こる。
この暴力の応酬により2000年7月25日交わされたキャンプ・デービッド合意は事実上、破綻している。【ウィキペディア】
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上記説明では神殿の丘の管理は“イスラム教指導者により行なわれている”とありますが、1994年、ヨルダンとイスラエルが締結した平和条約では、エルサレムの恒久的地位が決定した後も、神殿の丘を支配するヨルダンの役割を尊重することが盛り込まれていますので、管理者はヨルダンということではないでしょうか。

ただ、パレスチナ自治政府設立にともなって、ヨルダンは次第に管理から手を引き、現在はパレスチナ人・イスラム教指導者が管理する形になっているようです。

この「神殿の丘」については、上記ウィキペディアにあるように“ユダヤ人とキリスト教徒は神殿の丘で宗教的な儀式を行う事を禁止されている”と説明されていますが、このあたりが現地事情を知らない人間にはよくわかりません。

少なくとも観光客は、特定の入り口から時間を限って入ることができますが、モスクへの立ち入りはできないようです。

ユダヤ教徒については、“ユダヤ人が入る際には数名の警備員が付き添い、祈りの言葉を口にしないか目を光らせるようである。”【HTTP://www.ijournal.org/IsraelTimes/mepeace/temple.htm】ともありますので、入ることはできるが、宗教的な行為はできないということでしょうか?

一方で、今回衝突の原因ともなった“13日夜に始まるユダヤ教の新年祝賀行事”としてのユダヤ教徒の聖地訪問はどういう扱いなのでしょうか?“新年祝賀行事”として特例扱いなのでしょうか?

今回衝突に関して、イスラエルのネタニヤフ首相は、「聖地で礼拝する自由を確保するために不法行為を取り締まることは我々の義務であり、権利でもある」【9月14日 CNN】と発言しています。
“聖地で礼拝する自由”・・・・イスラエル政府としては、“ユダヤ人とキリスト教徒は神殿の丘で宗教的な儀式を行う事を禁止されている”という現状を容認していないということでしょうか?

昨年10月の緊張時には「神殿の丘」は完全閉鎖となったように、その時々で扱いが異なるのでしょうか?

どうもよくわかりません。
よくわかりませんが、極めて「敏感な」場所であることは間違いありません。

どのくらい「敏感」かと言えば、“神殿の丘では、政治・治安問題だけでなく、考古学者が、発掘中に石を少し動かしただけでも、”Status Quo(現状維持)"を変えることになり、暴動になる。”【2014年11月1日 石堂ゆみ氏 「オリーブ山便り」】とのことです。

政権内で高まる極右の影響
当然、極右ユダヤ教組織の新しい神殿(第3神殿)を建設しようとの動きが現実のものとなれば、血の雨が降ることは間違いありません。

第3神殿については、2年以上前の記事ですが、以下のようなものも。

****神殿の丘」に第3神殿を イスラエル閣僚****
エルサレムの「神殿の丘」に第3神殿を建設しよう、とイスラエル政府のウリ・アリエル住宅建設相が7月4日声を上げた。

「神殿の丘」には紀元前10世紀頃、ソロモン王により第1神殿が建てられたが、紀元前587年、バビロニアにより破壊された。紀元前515年に建設された第2神殿は、紀元70年にローマ帝国により再び破壊された。城壁の一部が残され「嘆きの壁」と呼ばれている。

現在、『神殿の丘』はイスラエル領だが、『アル=アクサー・モスク』や『岩のドーム』などイスラム教の聖地でもあり、管理はイスラム教指導者が行っている。

ユダヤ人とキリスト者は神殿の丘で宗教的な儀式を行う事を禁止されている。2000年9月、右派リクードのシャロン党首が神殿の丘を訪問したが、これに反発したパレスチナ市民による暴動が起こり、直前に成立していたキャンプ・デービット合意が事実上、破綻した。

ユダヤ人にとって神殿再建は最大関心事の一つだが、イスラム教との関係緊張が必至なだけに、これまで政府高官も発言を控えてきた。

アリエル住宅建設相が極右政党「ユダヤの家」に所属しており、パレスチナ自治区への入植に熱心で自らも入植者であるだけに、そのアリエル氏が神殿再建を呼び掛けたことで、中東情勢を一挙に悪化することにもつながりかねない。

昨年には「ユダヤの家」のゼブルン・オレブ議員も神殿再建を呼び掛けたが、その際にも岩の洞窟とアルアグサ・モスクの撤去が世界戦争を引き起こすことは確実、と語っている。

「神殿の丘」関係団体がイスラエルのユダヤ人を対象に共同で行った調査では、神殿再建賛成が30%、反対45%、わからないが25%だった。【2013年7月17日 CHRISTIAN TODAY】
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イスラム教徒との関係を破綻させるこうした主張を行う人物が住宅建設相を務めていた訳ですから、イスラエルの入植政策が変化しないのも当然です。

現在のネタニヤフ政権については、“政権を担っているのは、ベンヤミン・ネタニヤフ首相が党首を務める第1党の右派政党「リクード」、極右政党「ユダヤの家」、中道右派「クラヌ」、宗教政党「シャス」および「ユダヤ教連合」の5つの政党です。政権内では極右の「ユダヤの家」の影響力が強まっており、イスラエルはイランやパレスチナに対して、非常に強硬な外交姿勢をとり続けています。”【8月21日 東洋経済online】とのことです。

また、“国会120議席のうち、連立与党は61議席であり、辛うじて過半数を維持しているにすぎません。しかもイスラエル国内は不景気で、高い失業率や不動産価格の高騰などにより国民の不満が高まり、政権の支持率は不安定な状態にあります。”【同上】とのことで、もともと右派のネタニヤフ首相ですが、パレスチナ問題で強硬な姿勢をとることで右派保守層の支持をとりつけようという誘因が働きます。(そうした戦術で、先の総選挙も乗り切ったところですが)

****投石」には「銃」で対抗?──イスラエルの汚い戦争****
イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、エルサレムとその周辺で頻発するパレスチナ人による「投石と火炎瓶攻撃」に対する「戦争」について協議するため、火曜夜にも緊急会議を召集する。治安当局者が中心に集まって、パレスチナ人「投石者」への対抗策を話し合う。

緊急会議のきっかけは、エルサレムのアルノナ地区で13日の日曜深夜に、投石が原因とみられる交通事故でイスラエル人の死者が出たこと。容疑者は、東エルサレムに住むパレスチナ人と見られている。

現地からの報道によると、東エルサレム(エルサレム内のパレスチナ人居住区)では、イスラエル人とパレスチナ人の緊張が高まっている。

裁判抜きの行政拘禁も検討
「ネタニヤフ首相は、石や火炎瓶をイスラエル市民に投げつける行為を極めて重く受け止めており、刑罰と法執行の強化など、あらゆる策を講じてこの事態に立ち向かうつもりだ」と、あるイスラエル政府関係者は本誌に語った。

ネタニヤフは今月に入り、パレスチナ人投石者と対峙するイスラエル治安部隊に発砲を許可することも視野に入れ、対抗手段の修正を検討すると発表していた。

先週末には、投石者に対する処罰が手ぬるい裁判官を昇進させない、という対抗策の提案を一蹴。投石者はそもそも裁判に値せず、「行政拘禁」で対処すべきだと語った。行政拘禁とは、起訴や裁判の手続きを踏まずに容疑者を拘束できる法的措置で、イスラエル国内でも論争の的になっている。

イスラエル議会は今年7月、投石者を禁固20年の刑に処すことができる法案を可決している。イスラエルの刑務所で拘束されているパレスチナ人を支援する「パレスチナ囚人協会」のカドゥラ・ファレス代表は、この法律を「人種差別的で憎むべきものだ」と非難した。

投石は以前から、イスラエル当局との武力衝突においてパレスチナ人が頻繁に用いる攻撃手段。1980年代後半の第1次インティファーダ(パレスチナ人の抵抗運動)では、投石は、イスラエルのヨルダン川西岸占領に抵抗するパレスチナ人を象徴する武器になった。【9月15日 Newsweek】
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「投石」と言っても、当たれば大けが、もしくは死にいたることもあるような大きな石が飛び交うこともあるようですから、上記のようなネタニヤフ政権の対応にもなります。

ただ、パレスチナ人の子供たちが逮捕された最も多い理由は投石で、拘束されている多くの子供たちが脅迫と身体的暴力で自白を強要されるという、「残虐、非人間的、卑劣な扱いや懲罰」が行われているのとのユニセフの報告もあります。

今後、こうした状況が更に悪化することも懸念されます。

パレスチナ住民からすれば、投石は圧倒的な武力のイスラエル治安当局への唯一の抵抗手段でもあります。
ネタニヤフ首相の強硬姿勢は、パレスチナ住民の憎悪を掻き立て、問題の解決を難しくするだけのように思えます。

パレスチナ人を追い払ってイスラエルを建国した歴史からして、両者が心から和解するのは無理でしょう。
そうしたなかで、イスラエルが今後とも存続するためには、力で押さえつけることではなく、共存が可能な道を政治的に探すことではないでしょうか。
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ドイツ 国境審査再開、難民流入に歯止めへ  EUは緊急理事会で統一対応を目指すものの・・・

2015-09-14 21:59:14 | 難民・移民

(「希望の国」へ ドイツにつながる線路の上をひたすら歩く難民の家族 【9月14日 Newsweek】)

【「ほぼ全てのドイツ人は、かつて難民あるいは移民だった家族を持っている」】
難民・移民を受け入れることは、低所得層との職を巡る競合、社会的・文化的摩擦といった様々なコストを伴います。それは皆が承知・経験していることです。

それでも難民受け入れに比較的寛容な姿勢を示してきたドイツですが、その背景には、悲惨な境遇にある難民らへの同情や人権を重視する欧州の価値観だけでなく、急速な高齢化と出生率の低下により優秀な人材が徐々に減少し始めているドイツの現状から、難民・移民への労働力として期待感という経済的事情もあると言われています。

実際、ドイツはEU最大の難民受け入れ国であるほか、旧西独時代にはトルコ人を労働力として受け入れてきた実績もあります。(それに伴う社会的摩擦も経験している訳ですが)

そうしたこと以外にも、国民の多くが「難民」を身近なもとの捉える「ドイツの歴史、ドイツの記憶」も関係しているとも言われています。

****同情か罪の償いか、ドイツ人が難民を支援する理由****
ドイツの年金生活者フランク・ディトリヒさんはこの4週間、午前8時から午後7時までベルリンの難民登録センターに並ぶ人たちに飲み水を渡している。

「家でテレビの前に座っているよりもずっと有意義な時間の使い方だよ」と、ディトリヒさんはAFPに語る。「登録希望者が多すぎて政府には絶対に対応しきれない。だから手伝わないとね」と、ディトリヒさんはあっさりとした口調で語った。

今年予想されている難民申請者80万人の受け入れ準備が進められているドイツでは、ディトリヒさんのような大勢の市民が、第2次世界大戦後最大規模の難民支援に自発的に参加している。

難民の一時収容施設の隣に自宅兼スタジオを構えるアーティストのアンデレル・カマーマイアーさんは「毎週末、あるいは毎晩、難民のための物資を積んだ車が次々にやってくるのが見える」と語る。

「われわれの歴史、ドイツの記憶と関係していることなのだろう。ほぼ全てのドイツ人は、かつて難民あるいは移民だった家族を持っている」

ノーベル文学賞作家ヘルタ・ミュラー氏は「私も難民だった」と題した独大衆紙ビルトの論説で、ナチス・ドイツの統治下で数十万人規模のドイツ人が国を逃れたことや、その後に大勢のドイツ人が東欧や東ドイツの共産圏を逃れたことを振り返り、「ナチスを逃れて亡命した人々はみんな助かった。…過去に他の国々がドイツ人にしてくれたことを、ドイツもしなければならない」と述べた。

歴史家のアルヌルフ・バーリング氏は「われわれが今行っている善行はなんであれ、過去にわれわれが犯した悪行、とりわけナチス時代のそれとつながりがある」と述べる。同氏によると、反移民の論調が出るたびに、ソーシャルメディアで激しい反論が巻き起こっているという。

■自身や家族の体験が原動力
ドイツのDPA通信の委託で英世論調査会社ユーガブが実施した調査によると、難民支援を手伝った人は、すでにドイツ人の5人に1人に上っている。

カマーマイアーさんによると、難民の一時収容施設に寄付した人の多くは、最近ドイツに移住した人や、家族が移民だった人だという。(後略)【9月12日 AFP】
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【「難民の流れを制限し秩序ある管理を実施する」】
さはさりながら、連日大勢の難民・移民が到着しているドイツ南部バイエルン州ミュンヘンでは、12日の一日だけで1万2200人が到着したとのことで、地元からは限界を訴える声が出ていました。

****移民歓迎のドイツ、流入増でミュンヘンなど爆発寸前****
「黄金郷」への入り口として、連日数千人の移民・難民が到着するドイツ南部バイエルン州ミュンヘンの当局は、流入する人々のあまりの多さに、同市が爆発寸前であると述べている。(中略)

同日の現地時間午前0時から午前10時30分までの間に、当局は3600人の移民を確認した。ミュンヘンのディーター・ライター市長は、「この展開にとても困惑している」、「もうこれ以上、難民にどう対応していいかわからない」と述べた。

ジグマル・ガブリエル副首相は10日に連邦議会で、9月初めの8日間に入国した約3万7000人を含め、ドイツには今年、これまでに45万人の難民が到着していると述べた。

ミュンヘンの駅では今も、到着した人々を歓迎するサインを持つ人々がみられる。
しかし、多くのボランティアたちが歓声を挙げ、食料品や子どものおもちゃを手渡していた数日前と比較すると、その数は格段に少ない。

歓声は、駅に到着した列車から移民らが降りるのとほぼ同時に、登録のための歓迎センターに案内する警察官の日常的作業に取って代わった。(中略)

しかしミュンヘンでは、移民らの数が、受け入れ可能な数の限界に達しようとしている。そうした移民らを収容するために、同市は軍の力を借りて仮設ベッドを設置するなどしている。

同国メディアは、ミュンヘンなど南部の都市が担う重圧を取り除くために、北部に大規模な歓迎センターが建設される可能性があると報じた。しかし、同国政府はその可能性について言及していない。【9月13日 AFP】
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こうした急変による「限界」の訴えもあって、ドイツはオーストリア国境で入国管理を一時的に復活させると言う方針転換を行いました。

****<ドイツ>難民急増で入国管理復活…オーストリア間一時的に****
中東から欧州に難民らが押し寄せている問題で、ドイツ政府は13日、通常は自由に往来できる独オーストリア国境で入国管理を一時的に復活させると発表した。

ドイツ鉄道は13日、14日朝までオーストリアからの列車乗り入れを停止した。

今月、ドイツに南部から入国した難民らが6万3000人に達するなど流入が「速すぎる」(独内相)ため、抑制を図る。同時に、難民受け入れを拒否し、国境管理強化を訴えている東欧諸国と妥協を図る狙いもありそうだ。

ドイツは難民の無制限な受け入れに「急ブレーキ」(独第2公共放送)をかけた形だ。ただ、秋が深まる中、難民をオーストリア側で野宿させることは難しく、ドイツは難民受け入れを続けざるを得ないとみられる。

デメジエール独内相は13日、「難民の流れを制限し秩序ある管理を実施する。治安維持の観点からも必要だ」と国境管理復活の理由を説明した。管理の期間は明示しなかった。

ドイツとオーストリアは1997年から国境管理を廃止しており、異例の措置となる。オーストリア西部ザルツブルクでは難民ら数百人が駅に宿泊した。

独内相は一方で、「負担は連帯に基づき分担されるべきだ」と述べた。欧州連合(EU)の欧州委員会は難民12万人を加盟国に分配する「受け入れ割り当て」の義務化を提案し、独仏は強く支持している。

EU緊急内相会議は14日、提案を協議するが、東欧4カ国が強硬に反対している。

ドイツの方針転換は東欧に妥協を図ったとみられ、ハンガリーやチェコは13日、歓迎の意向を示した。欧州委はドイツの管理復活を緊急避難として容認した。【9月14日 毎日】
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今回措置でドイツは、加盟国圏内の査証(ビザ)なし渡航を認める「シェンゲン協定」への参加を事実上、一時停止することになります。(「シェンゲン協定」では治安上の深刻な懸念などがあれば、国境検査を一時的に復活させることが可能とされています。)

今後オーストリアとドイツの国境を越えられるのは、EU市民と、有効な書類を持つ者だけになります。

緊急のEU内相・法務相理事会 難航は必至
難民受け入れを拒んでいる東欧に“妥協”とのことですが、逆に、それらの国へ応分の受入を迫る圧力のようにも見えます。

****ドイツが「国境開放」「難民歓迎」を1週間でやめた理由****
・・・・この発表は、EUが難民問題について話し合うな内相理事会の前日に行われた。

デメジエール(ドイツ内相)は、新しい国境管理は「ヨーロッパへの警告」だと言う。
ドイツは人道的責任を果たしているが、多くの難民受け入れとそれに伴う負担は、ヨーロッパ全体の連帯の下に負わなければならない、というのだ。

英BBCニュースのダミアン・マクギネスは、デメジエールの発表は「抜け目のない」政治判断に基づいているという。

(難民をドイツに受け入れないことで)、自ら責任を果たすようヨーロッパ諸国に圧力をかけられるからだ。

だが、トラブルは避けられない。オーストリアとドイツの国境は大変な混乱に陥るだろう、と英ガーディアン紙は報じた。

数万人もの難民はどんな手段を使ってでもドイツに入ろうとするだろうし、国境の手前は難民キャンプと化すだろう──。(後略)【9月14日 Newsweek】
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いずれにせよ、上記にもあるように、ドイツ国境は当面大きな混乱に見舞われそうです。
行き場を失った難民は、難民に対する冷遇が取り沙汰されているハンガリーなどでも溢れることになります。

****EUは緊急理事会も紛糾必至****
・・・・欧州連合(EU)は14日、ブリュッセルで緊急の内相・法務相理事会を開き、難民申請者16万人を分担して受け入れる割り当て計画を協議するが、中東欧の反対は強く、難航は必至だ。(中略)

欧州委員会は13日、ドイツの国境検査復活を容認する考えを表明。一方で、同国の状況が「難民危機対応で合意すべき緊急性を示した」とし、内相・法務相理事会で難民申請者の割り当てで一致するよう求めた。

理事会では、16万人を割り当てのほか、将来の緊急時に備え、割り当ての制度化などを盛り込んだ欧州委員会の計画を議論。難民認定と対象外の移民らの送還を迅速化する措置なども含まれている。

ただ、受け入れの割り当てには中東欧諸国が強く反発。EUのトゥスク大統領は理事会で合意できなかった場合、EU首脳会議を開く可能性も示している。

欧州委は5月に4万人の受け入れを提案したが、移民らの急増により今月上旬、12万人を上乗せした受け入れ計画を提案した。【9月14日 産経】
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試される「価値観」 問われる良識
欧州各国が対応に苦慮し、事態が紛糾する間にも、犠牲者が増え続けます。

オーストラリアではまた、難民を詰め込んだ保冷車が発見されました。40人を超える難民は幸い生きていたそうです。

ギリシャのファルマコニス島沖では難民船が転覆。乳幼児4人、少年少女11人を含む34人が死亡し、うち6人は転覆した船に閉じ込められたとのことです。

トルコからギリシャに渡ってバルカン半島を陸路で北上する「バルカンルート」は、リビアからイタリアに向けて地中海を縦断する「地中海ルート」に比べ海路行程が短く、海難の危険が少ないとされていますが、今月に入って事故が相次いでいます。

****難民危機で試される欧州の価値観****
高くつき、不都合であっても信念を貫くことができるか?

現在の難民危機は欧州に、欧州諸国が自ら掲げた価値観に恥じない行動ができるかどうか考えることを迫っているとするドイツのアンゲラ・メルケル首相は正しい。残念ながら、その答えは恐らく「ノー」だろう。

ほぼ500年にわたり、欧州の国民は世界のその他地域を支配し、植民地化し、各地に居住してきた。

西欧諸国は1945年以降、普遍的な人権に基づき、1951年の国連難民条約などの公式文書に銘記されているポスト帝国主義、ポストファシズムの新たな価値体系に合意した。

だが、欧州の人々が世界でも最も高い部類に入る生活水準を謳歌し続ける一方で、よりどころを失い、絶望した世界の人々は概して距離を置かれてきた。

「第三世界」の飢饉や戦争の痛ましいイメージを目にすると、欧州の人々は慈善団体に寄付をしたり、慈善コンサートに出席したりすることで良心を慰めることができた。

欧州が迫られる決断
ところが今、難民危機は欧州の人々に、恐らくは高くつき、不都合で、大きな社会的変化を加速するようなやり方で、欧州の価値観を守るよう求めている。

ミュンヘン駅に到着するシリア難民を歓迎するために集まった群衆は、欧州がそのコミットメントを完全に尊重することを示している――。そう考えると、心が温まるが、それは同時に危険なほど認識が甘い。

すでに、ドイツ政府さえもが問題となる数について考え直している兆候がある。ドイツは欧州のパートナー諸国を恥じ入らせ、脅すことにより、クオータ制(割当制)を通じて難民の負担を分担させることができるかもしれない。

だが、数字は文字通り、帳尻が合わない。

欧州委員会は、欧州連合(EU)は16万人の難民を受け入れるべきだと提案した。今年7月に欧州委員会が提案した4万人からは大幅な増加となる。

だが、すでに国外で暮らしているシリア難民は400万人いる。ドイツだけで、今年、シリアなどから80万人の難民申請があると見込んでいる。

ここへ来てドイツがシリア人を全員受け入れることを決めたという認識は、EUのさらなる政策変更への期待と相まって、トルコや中東のキャンプで身動きが取れなくなっている何百万人もの難民に、欧州への危険な旅を試みることを促す公算が大きい。

しかもシリア人が唯一の絶望したグループではない。合計すると何十万人ものエリトリア人、アフガニスタン人、イラク人が移動している。

難民の絶望と希望vs欧州有権者の不安と反感
どこかの段階で、難民の絶望と希望が、欧州の有権者の不安や反感と衝突する可能性が高い。EUの東欧加盟国は難民の割当に対する不満を明確にしている。

また、最近の世論調査によると、フランス人の過半数が亡命規則のいかなる緩和にも反対しており、英国人の過半数がEUに義務づけられるクオータの受け入れを拒むデビッド・キャメロン首相率いる政府の決意を支持している。

こうした反応は驚くに当たらない。不法移民と亡命希望者に対する欧州の不安は、オーストラリアと米国でも全く同じように見られる。どちらも、かつて欧州文明の分派だった豊かで白人中心の国だ。(中略)

国際法は、EUに到着したすべての本物の難民に対し、欧州が亡命を認めなければならないことを示唆している。

政治的な現実は、問題となる数字が大きすぎて、そのような政策に対する国内の支持を維持できないことを示唆している。

その時点で、欧州の政治家は恐らくそもそも難民がEUにたどり着くことを阻止しようとすることで、自分たちのコミットメントから抜け出そうとするだろう。

ハンガリーとオーストラリア――現在、幅広い非難の対象となっている国々――が採用した厳しい抑止策は、より普通に見えるようになるかもしれない。

価値観の衝突
もし欧州の政治家がその道を進んだら、当然、「欧州の価値観」を守らなかったと批判されるだろう。だが、現実には、彼らは価値観の衝突に直面している。

メルケル氏は、欧州には正真正銘の難民を受け入れる道義的、法的責任があると述べた。だが、民主主義国で活動する政治家には、自国の有権者の望みを尊重する道義的、法的責任もあるのだ。【9月8日付 英フィナンシャル・タイムズ紙】
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国外に暮らすシリア難民だけで400万人、更にエリトリア人、アフガニスタン人、イラク人・・・・現実世界が抱える問題はあまりに大きすぎ、「欧州の価値観」を貫くことは現実的にはできないでしょう。

さりとて、そうした価値観を捨て去って、悲劇的な現実を見て見ぬふりを決めこむ・・・「戦乱も貧困も自分たちで解決すべき問題で、我が国は関係ないこと」とするのは、あまりに恥ずべきで情けないことでもあります。

「価値観」と現実の間で、どのようなバランスをとるのか・・・良識が問われています。
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アメリカにおける「性的少数者」「LGBT」に関する動き

2015-09-13 23:17:41 | アメリカ

(【9月9日 AFP】)

【「神の権限」で同性婚への結婚証明書発行を拒否

****LGBT*****
LGBT(エル・ジー・ビー・ティー)または GLBT(ジー・エル・ビー・ティー)とは、女性同性愛者(レズビアン、Lesbian)、男性同性愛者(ゲイ、Gay)、両性愛者(バイセクシュアル、Bisexual)、そして性同一性障害含む性別越境者など(トランスジェンダー、Transgender)の人々を意味する頭字語である【ウィキペディア】
****************

近年、この言葉を目にすることが多く、こうした「性的少数者」(“LGBT”が当事者側からの肯定的な呼称であるのに対し、“性的少数者”という言葉には多数派からの視点が感じられる点で、ややニュアンスの差がありますが)の権利擁護が進んでいること、ただ、一部地域では未だ非合法で、アフリカやイスラム教国などでは場合によっては死罪になることもあること・・・等々は見聞きします。

もっとも、一般論として権利擁護が進むのは結構なことだとは考えますが、個人的には正直なところ、あまり関心が向かない分野で、LGBTを扱った記事なども読み飛ばすことが多かったのも事実です。

同じ社会問題、人権に関する問題でも、警官による黒人への差別的な扱いといった話は比較的関心を持ちやすいのですが。

そんな私でも「おやおや・・・」と感じたのは、憲法が認めた同性婚を宗教上の理由で拒否し続けるアメリカ保守派の頑なな抵抗を伝えるニュースでした。

****同性婚拒否の担当者、法廷侮辱で収監=最高裁判決後も証明書出さず―米南部****
米南部ケンタッキー州の連邦地裁は3日、信仰を理由に同性カップルへの結婚証明書発行を拒んでいる同州内の女性書記官について、法廷侮辱罪に当たるとして収監命令を出した。複数の同性カップルが1日、書記官を同罪に問うよう申し立てていた。

収監されたのはロワン郡のキム・デービス書記官(49)。連邦最高裁が6月に同性婚を禁じた州法を違憲と断じ、全米で同性婚が認められたのに、「結婚は男女間でするもの」と結婚証明書の発行を拒否した。地裁が8月、証明書を発行するよう改めて命じた後も拒み続けた。

デービス氏は3日法廷で「神の道徳律と職務上の義務が一致しない。判決に従うことは良心が許さない」と述べた。同氏は聖書を厳格に解釈する使徒教会派のキリスト教徒だという。

米国では同性婚が合法化された後も、テキサス州やアラバマ州の一部で書記官や判事が宗教上の理由で結婚証明書の発行を拒み、論議を呼んだ。【9月4日 時事】
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アメリカでは今年6月に同性婚を認める連邦最高裁の判決が出ています。

****同性婚「全米州で合憲」 連邦最高裁判決、論争に決着****
米国のすべての州で同性婚が認められるかどうかが争われた訴訟で、連邦最高裁は26日、「結婚の権利がある」とする判決を言い渡した。同性カップルが結婚する権利は法の下の平等を掲げる米国の憲法で保障され、これを禁止する法律は違憲だと判断した。

オバマ大統領は判決を受けて会見し「アメリカにとっての勝利だ」と歓迎した。米国で同性婚は2004年にマサチューセッツ州で初めて行われたが、保守派の反発が強く、その是非が激しく議論されてきた。

ただ、最近は賛成の世論が急増。最高裁判決は論争を決着させる歴史的な節目であると同時に、米社会の変化を表す象徴となった。

米国では婚姻に関する法律は原則として州が定めている。AP通信によると、同性婚は現在、36州と首都ワシントンで行われ、14州で禁止されていた。訴訟は、禁止州のカップルらが起こしていた。

最高裁は判決で婚姻が社会の重要な基盤であり、同性カップルだけにその受益を認めないのは差別だと判断。同性カップルに、婚姻という根源的な権利の行使を認めない法律は違憲だと結論づけた。9人の判事のうち5人による多数意見で、4人は反対した。

連邦法でも、結婚を男女の関係に限定した「結婚防衛法」が96年に制定されていたが、最高裁は13年6月に「州が同性婚を認めているにもかかわらず、国が禁止するのは違憲だ」との判決を下した。ただ、この時はどの州でも同性婚の権利があるかどうかは判断しなかった。【6月27日 朝日】
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こうした憲法上の判断にもかかわらず、キム・デービス書記官は同性カップルへの結婚証明書発行を拒否したというものです。郡庁舎の書記官事務所を訪れた男性カップルから「誰の権限で拒否を」と問われると、「神の権限でだ」と応じ、譲らなかったそうです。 
(アメリカの「郡書記官」がどういう資格・立場にある役職なのかは知りません。)

近年のLGBTに関するリベラルな傾向が進むことを苦々しく感じていた保守派からはデービス書記官への強い賛同が寄せられ、共和党大統領候補も支持を表明するなど、この女性は一躍“時の人”ともなりました。

****同性婚拒否の書記官を釈放 米ケンタッキー州****
米南部ケンタッキー州で、自らのキリスト教信仰を理由に同性カップルへの結婚許可証発行を拒否し収監されていた郡書記官が8日、釈放された。

ローワン郡のキム・デービス書記官(49)は、連邦最高裁判所が今年6月に全米で合法化した同性婚に反対し、結婚許可証の発行を拒否したことから先週、法廷侮辱罪で収監されていた。同書記官は同性婚に反対する米国人数百万人のヒロインとなり、同性婚に対する論議を再燃させた。

デービッド・バニング連邦地裁判事は、同郡の副書記官6人中5人が全てのカップルに結婚証明書を出すと宣誓したことを受け、デービス書記官の釈放を命令。
同書記官に対し、もし結婚証明書の発行を直接または間接的に妨害すれば、処罰を下すと警告した。

収監施設を出たデービス書記官は、詰めかけた大勢の支持者に対し感謝の言葉を述べるとともに、神をたたえる言葉を繰り返した。

米大統領選の共和党候補者らは、相次いでデービス書記官支持を表明し、同書記官の収監は同性婚反対派が宗教的迫害に苦しんでいることを裏付ける証拠だと主張している。

前アーカンソー州知事のマイク・ハッカビー候補は収監施設を出る同書記官に付き添った他、施設前で開かれた支持者の集会を主催。
上院議員のテッド・クルーズ候補は同集会で演説はしなかったが、同書記官とその夫と面会した。【9月9日 AFP】
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“同書記官の収監は同性婚反対派が宗教的迫害に苦しんでいることを裏付ける証拠”・・・・今や、宗教的迫害を受けているのは保守派の方だということですが、まあ、立場の違いによる見解の相違でしょう。

変わりゆく人々の意識
なお、同性婚に関する最高裁判決を「アメリカにとっての勝利だ」と歓迎したオバマ大統領は、2012年の2期目を目指す大統領選挙で同性婚支持を公約として掲げ、昨年のソチ五輪でロシアの同性愛宣伝禁止法が差別法だとして開会式を欠席したとか、今年7月には訪問中のケニアでケニヤッタ大統領と共同記者会見を行い、同性愛者に対する同国の対応を「間違っている」と批判する(ケニヤッタ大統領の「ケニアはアメリカの大統領とは見解を共有していない」という反撃にあっていますが)など、この方面での変革を支持・推進しています。

もっとも、“2008年大統領選挙期間中、遺産相続権や養子縁組権など異性婚で保障される権利を同性愛カップルにも与えるシビル・ユニオン(civil union)制を定めた州法には賛成であるが、結婚というステータスを彼らに与えることには否定的であった。”【http://www.peace-aichi.com/piace_aichi/201107/vol_20-9.html】とのことで、世の中の流れに沿って軌道修正を行っているようです。

彼が変わったというより、イリノイ州の上院議員選挙では同性婚合法化を支持していたそうですから、大統領として同性婚支持を明らかにできる環境に、時代が変化したということかも。

アメリカでの同性婚について聞いたアンケート調査よると、当初は反対の人のほうが多かったのですが、賛成する人が年々増えていき2011年には並び、その後、逆転しています。

さらに、身近に同性愛者の知り合いがいるかを聞いた調査結果によると、「いる」と答えた人は1993年では61%でしたが、2013年には87%にまで上昇しています。【7月30日 NHKより】

ただ、LGBTへの強い風当たりがなくなっている訳ではありません。

“同性婚反対派が宗教的迫害に苦しんでいる”云々の話もありましたが、実際には、LGBTの人たちに寛容な政策をとることで知られるシアトルのような都市(2014年の市長選挙で、エド・マレー氏がみずからが同性愛者であることを公表して立候補、当選)でも、LGBTだということで職や家を失っている人は大勢おり、トラブルに巻き込まれたLGBTの人たちが避難できる場所を示す“SAFE PLACE”のステッカーを飲食店などの店に貼ってもらい、LGBT保護を図っているそうです。

日本では、まだ大きな変化はおきていませんが、東京・渋谷区の取り組みが注目されました。

****同性婚」に証明書 東京・渋谷区、全国初の条例成立 ****
同性カップルを結婚に相当する関係と認め、「パートナー」として証明書を発行する東京都渋谷区の条例が31日の区議会本会議で、賛成多数で可決、成立した。4月1日施行。

同様の条例は全国に例がなく、性的少数者の権利を保障する動きとして注目されている。(中略)

条例は、男女平等や多様性の尊重をうたった上で「パートナーシップ証明書」を発行する条項を明記。不動産業者や病院に、証明書を持つ同性カップルを夫婦と同等に扱うよう求めるほか、家族向け区営住宅にも入居できるようにする。

条例の趣旨に反する行為があり、是正勧告などに従わない場合は事業者名を公表する規定も盛り込んだ。

証明書の対象者は区内に住む20歳以上の同性カップルで、互いに後見人となる公正証書を作成していることなどが条件。カップル解消の場合は取り消す仕組みもつくる。

証明書に法的な効力はなく、区側は「憲法が定める婚姻とはまったく別の制度」としている。【3月31日 日経】
******************

その後、東京・世田谷区も7月29日、同性カップルについて区発行の「宣誓書」でパートナーシップを認める方針を明らかにしています。

男女別のトイレの段階的廃止
もうひとつ、LGBTの“T”に関する話題。これもやはりアメリカ。

****男女別トイレを段階的廃止、米サンフランシスコの小学校****
米国でトランスジェンダー(性別越境者)の人々のニーズを受け止めようという傾向が全国的に強まっている中、カリフォルニア州サンフランシスコの小学校が男女別のトイレの段階的廃止という全米でもあまり例のない取り組みを始めた。

サンフランシスコにあるミラロマ小学校のサム・バス校長は声明で、男女別トイレの廃止は、男女どちらの性にも合致しない生徒が8人いることを認識しての措置だと述べ「生徒全員に安心感を持ってもらいたいだけではなく、全員が一様に平等であることを理解してもらいたいとの狙いもある。生徒たちに貴重な教訓を教える機会だ」と語った。

米国では最近、五輪金メダリストのブルース・ジェンナーさんがケイトリン・ジェンナーさんと改名し、トランスジェンダーであることを公表し話題になった中、全米の学校・大学でトランスジェンダーの生徒の処遇を改善する動きが現れている。

多くの学校で性別分けのないトイレが導入されているが、男女別のトイレをなくしたところは少なく、この問題の論争は続いている。

ミズーリ州ヒルズボロでは今週、トランスジェンダーの生徒が女子用のトイレや更衣室を使ったことに抗議して生徒約150人が授業をボイコットする騒ぎがあり、この一件の後、教育委員会の数人の委員が「哲学的見解の違い」を理由として辞任した。【9月12日 AFP】
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“ミラロマ小の校長は「児童を無理にどちらか一方の性に特定する必要はない」と主張。親からも「要するに家のトイレと同じようになるわけね」と冷静な反応しかないと説明している。数年以内にトイレは全て男女共用になる。”【9月13日 時事】とも。

トイレの在り様は「文化」でもあり、国によって異なります。
以前は、中国の壁のないトイレに対し日本では軽蔑するような声が多々ありましたが、一方で、中国の人は「日本では男女共用のトイレが多い。信じられない」と言っていたとか。(中国のトイレ事情も、少なくとも都市部では大きく変わっているようです)

アメリカの人気TV番組に、「アリー my Love」という弁護士事務所を舞台にしたコメディがありますが、この事務所のトイレが男女共用で、ドラマの中で非常に重要な場となっています。
別にトランスジェンダーを意識した設定ではなく、ドラマの中でも「変わったトイレ」という扱いですが、今後は時代の最先端を行くトイレになるのかも。

確かに、「要するに家のトイレと同じようになるわけね」と言われれば「なるほど・・・」の感も。

そもそも不必要な性的な区別、性差の意識が、性的差別の温床になると言われれば、そのとおりです。
トイレの区分が“不必要”かどうかは議論があるところでしょうが。

ミラロマ小学校の取り組みが一般性を持つものかどうかは、わかりません。

より大きな「神学論争」を起こす権利問題
「性的少数者」LGBTの権利についでに、アメリカでのこんな「権利問題」も

****死ぬ権利」法案が可決 米カリフォルニア州****
米西部カリフォルニア州の議会は、安楽死や尊厳死をめぐる「死ぬ権利」法案を賛成多数で可決した。AP通信などが報じた。

ブラウン州知事が法案に署名すれば発効するが、キリスト教の神学校に通っていた同知事は、署名の可否について明らかにしていない。

法案が提出されたきっかけは、昨年11月、末期の脳腫瘍と診断され、カリフォルニア州から、尊厳死が合法化されている西部オレゴン州に移住したブリタニー・メイナードさん(享年29)の死。

メイナードさんはインターネット上に動画で尊厳死を予告する映像を公開し、実行。全米で大きな反響を呼んだ。メイナードさんは生前、ブラウン知事に尊厳死を認めるよう要請したことでも知られる。

州下院では賛成43、反対34で、州上院でも賛成23、反対14で可決した。

カリフォルニア州で法案が発効されれば、モンタナ州、オレゴン州、ワシントン州、バーモント州、ニューメキシコ州に続いて6番目となる。【9月13日 産経】
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同性婚以上に「神学論争」を惹起する問題です。
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スペイン  カタルーニャ州議会選挙に向けて再燃する独立問題

2015-09-12 22:58:28 | 欧州情勢

(9月11日 バロセロナ 大通りを埋め尽くす、独立運動を象徴する黄色い旗を持った参加者たち。https://www.rt.com/news/315070-catalan-independence-rally-barcelona/

【「私は自分のことをカタルーニャ人だと思っている」】
欧州における分離独立運動と言えば、イギリスからのスコットランド分離独立の問題が先ず思い浮かびますが、スコットランドと並んで現実の政治問題化しているのがスペインのカタルーニャの扱いです。

****カタルーニャ****
カタルーニャについては、その州都、バルセロナの名前の方が、オリンピック開催や建築家ガウディ、あるいはサッカークラブのFCバルセロナなどでよく知られているでしょう。

歴史的には、1137年にアラゴン王国との同君連合が成立。1479年にはカスティーリャとバルセロナ=アラゴンが同君連合となった・・・・等々の経緯、1714年にはスペイン継承戦争でバルセロナ陥落、また、現代に飛ぶと、フランコ将軍によるスペイン内戦時の文化的弾圧などがあったようです。
【2012年10月22日ブログ「スペイン バスク、カタルーニャで強まる自立を求める動き」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20121022)より再録】
**************

“1714年にスペイン・ブルボン家が武力でカタルーニャを占領してから、以後抑圧され続けてきた”【ウィキペディア】・・・と言っても、日本人にはピンときません。

ただ、カタルーニャの文化はいわゆるスペインの文化とは大きく異なり、例えば、スペインからすぐに連想する闘牛はカタルーニャのものではありません。また、「明日できることは、明日へ」といったスペイン人気質に対し、カタルーニャの人々は勤勉な節約家だとか。

****カタルーニャ独立問題の背景****
◆なぜ独立?
カタルーニャ州バニョラスで特殊教育の仕事に携わるジョルディ・マジョールさん(45歳)は住民投票が実現した場合、賛成票を投じたいと考えている。スペイン政府の強硬姿勢が主な理由だ。

「私は自分のことをカタルーニャ人だと思っている」とマジョールさんは話す。

「国籍だけの問題ではない。心の奥に息づく伝統のようなものであり、それがある種の民族意識を芽生えさせる。
しかも、このような状況を招いたのはカタルーニャではなく今のスペイン政府だ。われわれは長年、スペインの1つの州として問題なく暮らしてきた。ところが、カタルーニャの伝統を巧妙なやり方で抑圧する法律が次々と成立している」

これは独立派からよく聞かれる不満の一例だ。(中略)

◆カタルーニャの独自性
約1000万人が話すカタルーニャ語はスペイン語よりフランス語に近い。かつてピレネー山脈を越えてフランスにまたがる自治区の一部だった事実を考えれば驚くことではない。

また、カタルーニャには独自のテレビ局が複数あり、2005年には.catという独自のドメインが承認されている。

そして何より、カタルーニャの人々が独自性を感じている。サルダーナ(Sardana)というダンスや世界屈指のサッカーチームであるFCバルセロナ、サルバドール・ダリやアメリカのプロバスケットボールリーグNBAで活躍するパウ・ガソルといった文化的なヒーローの存在が大きい。

◆富の原動力
バルセロナは、今となってはその面影はあまりないが、常にスペインの産業革命、技術革新の中心地だった(内燃機関と酸素源を搭載した潜水艦はここで発明された)。

独立派を最も勢い付けているのはカタルーニャの経済的な影響力だ。カタルーニャ自治州の人口は約750万で、スイスの人口に匹敵する。カタルーニャの人々はスイス人と同じく、勤勉な倹約家だ。

カタルーニャ自治州には4000の多国籍企業があり、GDPは2200億ユーロ(約30兆円)に達する。スペインのGDPの約5分の1がここで生まれている。(中略)

カタルーニャの人々が特に腹立たしく感じているのは、マドリードとカタルーニャの著しい経済的な不均衡だ。2012年の時点で、スペイン政府に納めていた税金は政府からの分配金より年平均で120億~160億ユーロ(約1兆6000~2兆1700億円)多い状態だった。

スコットランドで先日行われた住民投票と同様、マス氏が独立を目指す理由の一つは、カタルーニャが自ら税金を徴収し、その使い道を自由に決められるようにすることだ。

ただし、スコットランドと同様、カタルーニャが独立すればいくつもの経済的な障害に直面することになるだろう。

「Economist」誌のカラム・ウィリアムズ氏は、「通貨同盟をどうするかが明確になっていない」と指摘する。

「欧州連合(EU)の市場から切り離されないよう、企業はスペイン側に移転するかもしれない。もちろん、スペイン側も痛みを伴う。税収とGDPへの貢献を失うためだ。基本的には、双方に不利な状況だ」。【2014年10月16日 NATIONAL GEOGRAPHIC】
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文化的独自性、歴史的経緯、スペイン国内総生産(GDP)の5分の1を生み出すカタルーニャが納めた税金が貧しい州に再分配されることへの反感・・・・。

更に、EUや北大西洋条約機構(NATO)への加盟が実現すれば、独立のコストは高くつかないとの判断もあるようです。(それが認められるかどうかについては、高いハードルがありますが)

昨年11月には違憲状態で住民投票を強行
カタルーニャの独立問題が大きくクローズアップされたのは、2014年11月にカタルーニャ自治州が独立の是非を問うための非公式な住民投票を行おうとしたときでした。

中央政府の提訴を受けたスペインの憲法裁判所は全会一致で凍結を命じました。また、中央政府の制止を受けて「表現の自由を侵害された」と主張した自治州からの提訴を退けました。

しかし、カタルーニャ自治州は中央政府・憲法裁判所の制止を振り切って、2014年11月9日、独立の是非を問う非公式の住民投票を強行しました。

****<カタルーニャ>独立賛成8割 反対派大半は投票せず****
スペイン東部カタルーニャ自治州で9日、独立を問う非公式の住民投票が実施され、独立賛成が約80%を占めた。反対派の大半は投票しなかったとみられる。

マス州知事は公式の住民投票実施に向け中央政府と交渉する意向を表明するとともに、2016年の州議会選を前倒しし、中央政府に圧力をかける考えも示唆した。(中略)

投票所での毎日新聞の取材では、複数の有権者が「今回は法的拘束力のない投票で、結果が実際の独立に直結しないから、独立に賛成した」との趣旨の回答をし、自治権拡大が最終目標の有権者も多いとみられる。(後略)【2014年11月10日 毎日】
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スペインのラホイ首相は、カタルーニャ自治州が実施した独立の是非を問う非公式の住民投票について、投票者数が全有権者数の3分の1程度にとどまったことを理由に「独立運動の重大な失敗だ」と述べ、賛成派は住民の十分な支持を得られなかったとの認識を示しました。

州議会選挙で勝利すれば、1年半で独立を実現・・・・
最近になって、再びカタルーニャ独立問題が表面化しているのは、今月27日に州議会選挙が行われるためです。

****来月(9月)27日に州議選=スペインからの独立争点―カタルーニャ****
AFP通信によると、スペイン東部カタルーニャ自治州のマス州政府首相は3日、州議会選挙を9月27日に実施する政令に署名した。マス首相は「州の自由と尊厳を問う事実上の住民投票だ」と述べ、州独立の是非が主要な争点と説明している。

スペイン中央政府はカタルーニャ州の独立を断固阻止する構えで、選挙の結果、独立賛成派が過半数を維持すれば両者間の緊張が高まるのは必至。

中央政府は「州議会選は議員を選ぶためで、それ以上の意味はない」との見解を示し、独立の是非は争点ではないと否定している。

自治州政府は昨年11月、中央政府の反対を押し切って独立の賛否を問う非公式の住民投票を強行。有権者540万人のうち230万人が投票し、約8割が独立を支持した。

州議会選をめぐる最近の世論調査では、マス首相率いる与党を含む独立派勢力が僅差で過半数の議席を獲得するとの結果もある。【8月4日 時事】
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11日には、独立賛成派の大規模デモが行われました。

****<スペイン>バルセロナで独立賛成派の140万人デモ****
スペイン東部カタルーニャ自治州の州都バルセロナで11日夕、スペインから同州の独立を訴える独立賛成派による大規模デモがあり、独立運動を象徴する黄色い旗を持った参加者たちが大通りを埋め尽くした。

地元警察は、デモの参加者を140万人と発表。中央政府は52万〜55万人と推定した。

マス州知事は9月27日投票の州議会選挙を独立への信任投票と位置づけ、勝利の場合、「18カ月以内の独立」を主張している。中央政府は自治州の独立を認めない方針で、激しい対立が続いている。

主要な世論調査は州議会135議席中、独立賛成派が過半数を上回る見通しを伝えている。同州では、独自の言語や文化があることや、経済危機の中、中央政府による税の再配分への不満が高まったことから、独立賛成派が伸長した。【9月12日 時事】
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現段階での予測では、上記記事にあるように独立賛成派が過半数を上回ると勢いとのことです。

****州議会選、独立派が優勢=中央政府と緊張も―スペイン・カタルーニャ****
スペイン東部カタルーニャ自治州で27日、州議会選挙が行われる。

州の独立の是非が最大の争点で、マス州政府首相率いる中道右派の与党・民主集中(CDC)をはじめとする独立賛成派が優勢。結果次第では、州の独立を断固阻止したい中央政府との緊張が高まる可能性もある。

欧州メディアによると、州都バルセロナでは11日、140万人(警察集計)が独立を求めるデモ行進を実施。マス首相はこれに先立つ記者会見で「われわれが要求しているのは夢物語ではない。欧州諸国の多くは20世紀初頭には存在していなかった」と訴えた。

今月上旬の各種世論調査では、CDCや左派の連立与党・共和主義左翼(ERC)などの独立賛成派政党が計45%前後の支持率を獲得。定数135のうち70程度と過半数の議席を占める勢いとなっている。

マス首相は州議選について、独立の賛否を問う事実上の住民投票だと主張。賛成派が勝てば、統治機構や憲法の整備といった新国家樹立の準備に着手し、1年半で独立を実現すると説明する。

カタルーニャの独立構想に対し、中央政府のラホイ首相は「スペインの統一は誰にも破壊できない」と繰り返し反対してきた。

欧州連合(EU)が新国家をすんなり承認する見込みはなく、ハードルは極めて高いのが実情だ。

とはいえ、独立運動を放置すれば政治の混乱が他地域に飛び火しかねない。
ガルシアマルガリョ外相は10日、独立派の意向を尊重して同州の自治拡大に道を開く憲法改正の可能性に言及。「政府は対話を求めている」と平和的解決に向けて譲歩もあり得ることを示唆した。【9月12日 時事】
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「欧州諸国の多くは20世紀初頭には存在していなかった」・・・・日本という国家をなんとなく自明のものと認識している多くの日本人とは認識が異なります。

くすぶるイギリスのスコットランド・北アイルランド問題
イギリス・スコットランドの問題も、来年5月に行われるスコットランド議会選でスコットランド民族党(SNP)が前回に続き再び過半数を制して自治政府を主導する事態となれば、独立を問う2回目の住民投票への機運が広がることも指摘されています。

また、キャメロン首相が2017年末までに行う予定の国民投票で、イギリスのEUからの離脱が多数を占めた場合、スコットランドで独立とEU再加盟を問う2度目の住民投票が実施される可能性も指摘されています。

なお、泥沼の宗教対立・イギリスへの帰属問題を政治的には(住民間の心の壁は別として)克服した形の北アイルランドも、話はそう簡単ではないようです。

かつて30年にわたり、カトリック過激派アイルランド共和軍(IRA)は英国統治の継続を望むプロテスタント系の組織や住民を標的とする爆破事件や銃撃事件を繰り返してきましたが、IRAの武装闘争は、1998年の和平合意によってほぼ終焉し、プロテスタントとカトリックが共同で運営する北アイルランド議会設置に道が開かれました。

****北アイルランド首相が辞任=IRAの存続疑惑に反発****
英国北アイルランドのプロテスタント強硬派の民主統一党(DUP)党首であるロビンソン自治政府首相は10日、カトリック過激派のアイルランド共和軍(IRA)が依然存続している疑いが出ていることに絡み、辞任すると発表した。

長い紛争の末に実現した北アイルランドのプロテスタント、カトリック両派の権力分担による自治が危機に陥っている。
3人のDUP出身閣僚も辞任、同党のフォスター財務相だけが残り首相代行を務める。

ベルファストで8月、IRAの元メンバーが射殺される事件があり、警察はIRAが関与しているとの見方を示した。また、IRA政治部門が前身で、DUPとともに自治政府を構成するシン・フェイン党幹部が事件に関連して一時警察に拘束された。

これを受けてDUPは、2005年に武装闘争終結を宣言したIRAが存続し活動を続けているならシン・フェイン党は自治政府に参加できないと指摘。この問題を協議する間、自治議会の休会を求めたが、議会はこれを否決していた。

シン・フェイン党は、IRAはもはや存在しないと主張している。【9月11日 時事】
*****************

2012年にはエリザベス女王が元IRA司令官のマーティン・マクギネス氏と握手、今年5月19日には、チャールズ英皇太子がアイルランドを訪問し、シン・フェイン党のジェリー・アダムズ党首と初めて握手した・・・ということで、イギリスとシン・フェイン党の和解が演じられてきました。

チャールズ英皇太子との握手後、シン・フェイン党のアダムズ党首は「これほど象徴的なことが起こるとは予想もしなかった。我々は(和解に向け)前進しなければならない」と語っていました。
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ベネズエラ  迫るデフォルトの足音 野党指導者逮捕で政府批判を圧殺 国内コロンビア人の難民化

2015-09-11 22:47:26 | ラテンアメリカ

(8月25日、ベネズエラ国境のタチラ川を、冷蔵庫などの家財を担ぎながらコロンビアに戻る人々(ロイター)【9月9日 産経ニュース】)

デフォルトは「時間の問題」?】
“チャベスなきチャベス体制”のもとでの市場経済を無視した経済運営によるインフレと物不足に加えて、昨年後半以来の急激な原油安で、デフォルト候補一番手をギリシャと争うような状態に追い詰められていることは、昨年12月5日ブログ「ベネズエラ 原油価格下落で経済悪化が加速 迫るデフォルト・社会不安の危機」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20141205でも取り上げたところです。

また、経済破綻から国民の目をそらすかのように野党有力者を逮捕・拘束するマドゥロ大統領の強権的姿勢、そうした経済破綻・強権政治への抗議デモ、反政府行動への強硬な姿勢を続けるマドゥロ政権に対するアメリカの制裁措置とマドゥロ政権の対米反発・・・・等の混乱状況については、3月17日ブログ「ベネズエラ 対アメリカ関係悪化 国民の不満を国外に向け、支持者の結束強化を図る思惑も」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150317でも取り上げました。

ベネズエラ・マドゥロ政権の経済・政治状況は好転していません。

原油依存のベネズエラ財政を決定的に左右するのが原油価格で、“原油価格が1ドル下がるたびにベネズエラ政府の歳入は7億ドル減少する”とか。

その原油価格は、4~5月頃にはWTI原油先物で1バレル=60ドル付近に持ち直した後、再び下落し、8月末には40ドルを割り込む場面も。ここのところは45ドル付近で推移しています。ベネズエラにとっては苦しい状況が続いており、デフォルトは「時間の問題」ではないか・・・とも見られています。

****原油安でベネズエラの債務返済能力に疑問符****
現金かき集めるマドゥロ政権、デフォルトは時間の問題か

ニコラス・マドゥロ氏は2年半前にベネズエラの大統領に就任した際、前任のウゴ・チャベス氏から、国の債務の元利返済は必ず行うという約束と、1バレル=110ドルを超える値がついていたベネズエラ産原油とを引き継いだ。

しかし、それも過去の話となった。原油価格は先週になって再び下落し、ベネズエラ産原油の値段は1バレル=40ドルに向かっている。

国際通貨基金(IMF)によれば、ベネズエラの今年の経済成長率は7%のマイナスに落ち込む見通しだ。
また、格付け会社ムーディーズの推計によれば対外収支の赤字は今年だけで300億ドルに達する勢いで、その穴埋めに外貨準備が使われているという。

ベネズエラ国債を保有する投資家は、来年にも予想されるデフォルト(債務不履行)から身を守ろうと躍起になっており、今週、ベネズエラのクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)の需要が記録的な水準に増加した。

原油価格が1ドル下がるたびに歳入が7億ドル減少
インフレが手に負えなくなり、国民が基本的な物資の不足に苦しむ中、債務に関する前任者の約束を守りたいというマドゥロ氏の気持ちもついには折れてしまうのでないか――。そんな疑問を投資家たちは抱くようになっている。(中略)
大手産油国の中で、今回の原油安の痛みをベネズエラほど強く感じているところはない。この国では、輸出の96%を原油販売が占めているからだ。エコノミストらの試算によれば、原油価格が1ドル下がるたびにベネズエラ政府の歳入は7億ドル減少する。(中略)

来年デフォルトする可能性は50%以上
ムーディーズは、2016年にデフォルトが発生する可能性が50%より高いと見ている。
ベネズエラが返済しなければならない債務は、向こう24年間の合計で1280億ドルある。

だがバンクオブアメリカによれば、マドゥロ氏にとってはその額よりも、このうちの約25%が向こう3年以内に期日を迎えることの方が心配なのだという。

バンクオブアメリカのベネズエラ人エコノミスト、フランシスコ・ロドリゲス氏は、ベネズエラ政府にはまだいくらか余力があり、穴埋めのために国有資産を610億ドルほど売却できるかもしれないと見ている。

また、今年12月に議会選挙が控えていることを念頭に、「ベネズエラは国債保有者への元利金支払いを、マドゥロ氏への給与の支払いよりも長い期間続けられる可能性がある」と述べている。

公式の統計がないため、インフレ率(年率)の推計値はムーディーズによる115%から722%までかなり幅がある、とケイトー研究所のスティーブ・ハンク氏は話している。(中略)

デフォルトは時間の問題か
・・・・国際エネルギー機関(IEA)によれば、世界全体の原油供給は少なくとも2016年後半までは需要を上回る。
石油に依存するベネズエラにとって、デフォルトは時間の問題でしかないのかもしれない。【8月19日付 英フィナンシャル・タイムズ紙】
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【「今のベネズエラでは、政府と違う考えを持ち、声を上げることが犯罪とみなされている」】
強権的政治姿勢の方も相変わらずです。

****政治弾圧の“象徴”的リーダーに禁錮13年 ベネズエラ、対立激化は必至****
ベネズエラの裁判所は10日、反米左翼マドゥロ政権に対する暴力的な反政府デモを扇動したとして昨年2月から拘束されている反政府指導者レオポルド・ロペス氏に禁錮約13年9月を言い渡した。ロイター通信などが伝えた。

ロペス氏は野党側にとって、政権による政治的弾圧の犠牲者として象徴的な存在。12月に議会選を控え、与野党対立が激化するのは必至だ。政権が関係改善を探る米国も反発するとみられる。

判決前、首都カラカスの裁判所付近ではロペス氏の支持者と政権支持者が衝突、ロペス氏の妻がペットボトルを投げつけられるなどした。

ベネズエラでは昨年2月以降、生活必需品の不足や高インフレへの不満からマドゥロ政権に対する抗議行動が全国に広がり、約4カ月間で43人が死亡した。【9月11日 産経ニュース】
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マドゥロ政権の政府批判を許さない姿勢については、下記のようにも報じられています。

****ベネズエラ、強まる弾圧 政治犯の妻ら、支援訴え****
南米ベネズエラのマドゥロ政権が、経済危機や治安悪化に不満を抱く野党や市民への弾圧を強め、体制に批判的な政治家や学生を次々と逮捕している。政治犯として拘束されている野党指導者の妻らが、国際社会の支援を求めて声を上げている。

「89人もの政治家や学生が不当に拘束されている。危機的な状況だ」。ブラジル・サンパウロで5日、ベネズエラ人のリリアン・ティントリ氏(37)とミッシ・カプリレス氏(64)が記者会見を開き、ベネズエラの人権侵害の深刻さを訴えた。ともに、暴力的なデモを扇動したなどとして逮捕された野党政治家の妻だ。(中略)

ティントリ氏の夫は野党指導者のレオポルド・ロペス氏(44)。昨年2月、マドゥロ政権に抗議するデモで演説した直後に逮捕され、現在まで刑務所に収容されている。

カプリレス氏の夫は現カラカス市長のアントニオ・レデスマ氏(60)だ。今年2月、武装した情報機関の部隊が執務室に突入し、クーデターを企てたとして逮捕された。

両氏は会見で、「マドゥロ大統領と違う考えを持てば、夫のように拘束される。意見を述べると罪になるのがベネズエラの現状だ」と説明。「私たちの国で起きていることを世界に知ってほしい」と訴えた。(中略)
 
チャベス前大統領の死後、ベネズエラでは経済政策の失敗から物不足やインフレが深刻化。マドゥロ政権は反政府勢力への弾圧を強め、野党政治家やデモ参加者を逮捕してきた。昨年のデモでは学生ら40人以上が死亡。今年2月のデモでは、14歳の少年が治安部隊の発砲で死亡した。

こうした状況について、国連は「人権侵害」として懸念を表明し、ロペス氏らの早期釈放を要求。4月には、中南米各国の大統領経験者ら20人以上が、同国の人権侵害の改善を求める宣言に署名し、米州機構に提出した。

 ■「抗議しただけで逮捕
リリアン・ティントリ氏が、サンパウロで朝日新聞の取材に応じ、ベネズエラの政治弾圧の状況を語った。
 ――夫のレオポルド・ロペス氏はなぜ逮捕されたのですか。
マドゥロ政権に抗議し、市民にデモへの参加を呼びかけたから。政府からは何度も国外に去るよう要求されたが、夫は断り続けていた。逮捕後は約2メートル四方の牢獄で、非人間的な扱いを受けている。今のベネズエラでは、政府と違う考えを持ち、声を上げることが犯罪とみなされている。

 ――人権侵害の状況は。
これまでに89人の野党指導者や学生が不当に逮捕・収容された。そのうち43人は政府に抗議しただけだ。200件以上の拷問も明らかになっている。デモ鎮圧には武器が多用され、たくさんの死傷者が出た。
 
――国内経済は深刻な状況が続いています。
食べ物や生活必需品を買うために何時間も並ばなくてはいけないし、並んでも買えるとは限らない。昨年のインフレ率は約70%。病院では薬の不足で死者が出ている。治安の悪化も危機的で、20分に1件のペースで殺人が起き、昨年は約2万5千人が銃などで殺された。殺人や誘拐の恐怖から、子どもを公園に連れていくことすらできない。国民は変革を望んでいるのに、その声が封じ込められている。

――国際社会に望むことは。
 ベネズエラの現状を知り、政治弾圧と人権侵害に抗議してほしい。【5月11日 朝日】
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6月時点の報道では、12月の総選挙に関して下記のようにも。

****支持率低迷の大統領に試練=12月に総選挙―ベネズエラ****
・・・地元報道によると、最新の世論調査での与党の支持率は21.3%。野党の40.1%を大きく下回った。

ただ、議席の3分の1弱を占める野党も一枚岩ではない。陣営内で路線対立を繰り返し、有力指導者は投獄中。支持を急拡大させているとは言い難く、「打倒マドゥロ」で一致協力できなければ「与党に切り崩される恐れもある」【6月23日 時事】
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シリア難民受け入れ表明・・・一方で、コロンビア人1万5千人超が難民化
経済的にも、政治的にも厳しい局面にあるマドゥロ政権ですが、欧州を揺るがす難民問題で、シリア難民受け入れを表明しています。

“一方、反米路線でシリアと連携するベネズエラのマドゥロ大統領は7日、「何人の難民が命を落とさなければならないのか」と演説。「2万人のシリア難民を受け入れたい」と言明した。”【9月9日 時事】

難民問題では欧州以外でも、オーストラリア、ニュージーランド、アメリカなど従来シリア難民などに厳しい姿勢をとってきた国でも、受け入れの表明がなされています。
南米では、ブラジル・ルセフ大統領も「わが国で暮らすことを望む人々に手を差し伸べる」と語っています。

難民受け入れは結構な話ですし、反米ベネズエラからすればアメリカの中東政策の犠牲者とみなされるシリア難民に連帯を示すのは自然なことかもしれませんが、ベネズエラの現在の危機的状況を考えると、そうした余裕があるのだろうか・・・と訝しく感じてしまいます。

何より問題なのは、ベネズエラ・マドゥロ政権自身が隣国コロンビアとの関係で大量の難民を発生させているという皮肉な現実です。

****ベネズエラから避難 コロンビア人1万5千人超 迫害恐れ 近隣国も動揺**** 
南米ベネズエラの西部に住む多数のコロンビア人が先月半ば以降、母国への帰還を余儀なくされている。

コロンビア人の密輸業者らが食料などの価格統制品をコロンビアで安く転売しているなどとして、マドゥロ政権がコロンビア人約1300人を強制追放。迫害を恐れた1万5千人以上が家を捨てて母国に逃れる事態となり、近隣諸国にも不安が広がっている。

ベネズエラでは、反米左派のマドゥロ政権が誕生した2013年4月以降、価格統制された廉価な商品の不足が目立っている。

こうした中、小麦やガソリン、などの統制品がコロンビアで安く転売されている事態に政権が頭を痛め、密輸業者の摘発を進めてきた。

マドゥロ政権は先月19日、コロンビアとの国境付近で治安部隊兵3人が密輸業者らとの銃撃戦で負傷したことを受け、ベネズエラに住むコロンビア人約560万人のうち約1300人を強制追放。令状もなく一帯で家宅捜索を進め、民家を無差別に破壊した。

コロンビアのサントス大統領は「コロンビア人をこのように扱うのは許せない」と憤慨し、大使の召還を発表。これに対し、ベネズエラ側も大使召還を発表するなど、非難の応酬合戦が続いている。

国連によれば、密輸と関係ないコロンビア人が危機感を募らせ、1万5千人以上がコロンビア東部のククタなどに避難。ロイター通信によれば、親子が引き離されている例もある。

冷蔵庫や家具などを家から運び出し、着の身着のままヤギや鶏を連れて国境の川を横断する様子は近隣国に衝撃を与えている。

ブラジルとアルゼンチンの両外相は今月4日、コロンビアの首都ボコタで会談し、人道上の観点から早期に対話を開始するよう2国に求める声明を発表した。【9月9日 産経】
******************

反米のリーダーを自任するベネズエラと、中南米にあっては例外的な親米コロンビアは、チャベス前大統領の頃から関係悪化と緩和を繰り返しており、2008年には、コロンビア軍が隣国エクアドル領内にあったコロンビアの左翼ゲリラの基地を越境攻撃したのを機に高まったコロンビアとエクアドル、ベネズエラの緊張が戦争に突入する直前の状態まで至ったこともあります。

今回のベネズエラ・マドゥロ政権による密輸業者取締りを名目にした“コロンビア人追放”は、国内の政治・経済危機を糊塗するために、外に“敵”をつくり国民の目を国内危機からそらす・・・という手垢のついた権力者の常套手段のようにも思われます。

シリア難民より先に自国内コロンビア人の難民化をなんとかしたら・・・というのは誰しも思うところですが、マドゥロ大統領には通じないようです。
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シリアで軍事的プレゼンスを強化するロシアの狙いは?

2015-09-10 22:45:28 | ロシア

(2013年12月10日 シリア・ラトキアの空港に人道支援物資を載せて到着したロシア航空機 【9月9日 AFP】)

シリアでの対IS空爆に英仏も参加
4年半にわたる内戦が続いているシリアでは、全人口の約半数が家を離れ、国外に脱出した人は内戦前の人口の20%近くに迫っています。

「アサド政権」対「反政府勢力」という構図で始まった戦闘は、「イスラム国(IS)」という対立軸が加わり、多くの武装勢力・関係国が入り乱れる複雑な様相を呈していることは、これまでも何度も取り上げてきたところです。

ここにきて、欧州に押し寄せる難民・不法移民の問題もあって、難民の最大の発生源であるシリアへの関与、特に混乱の根源となっているISへの軍事措置を強める動きが英仏で見られます。

****<フランス>シリア空爆参加へ 対IS、難民問題で方針転換****
フランスのオランド大統領は7日、米軍など有志国がシリア領内で実施している過激派組織「イスラム国」(IS)に対する空爆に参加する意向を表明した。8日からシリア領内の偵察を開始する。

フランスはこれまで、ISと敵対するアサド政権を利するとして、イラク領内での空爆にだけ参加していた。

アサド政権に近いイランやロシアとの関係強化や、シリア難民の流出を止めようとする姿勢を内外に示そうという意図が、方針転換の背景にある模様だ。(中略)

フランスは2014年9月にイラク領内での空爆を開始したが、シリア領内については「たとえ過激派が存在しても、独裁政権に有利となる行動を取ることはできない」(オランド大統領)として、参加してこなかった。(後略)【9月7日 毎日】
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****シリアで初空爆、3人殺害=難民2万人受け入れへ―英首相****
キャメロン英首相は7日、議会下院で演説し、英空軍がシリア国内で無人機による空爆を行い、過激派組織「イスラム国」の英国人戦闘員2人を含む3人を殺害したことを明らかにした。英軍がシリア国内で空爆を行ったのは初めて。

空爆は8月21日、シリア北部ラッカで実施された。
英国は昨年9月以降、有志連合による同組織への空爆に参加しているが、イラク国内に限定していた。首相は英国内でのテロを防ぐための「正当防衛」だと主張した。(後略)【9月8日 時事】
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これでアメリカの主導する対IS空爆には、当初からのサウジアラビアやヨルダンなどの中東諸国に加え、トルコも参加し(狙いは対ISというより、対クルドという感がありますが)、更にフランス・イギリスも参加という形に拡大しています。

ロシア・プーチン大統領の「大連合」構想
一方、ロシア・プーチン大統領は、アメリカが主導してサウジアラビアなど中東諸国が参加する対ISの戦闘に、自らが支援するアサド政権やイラク政府軍を加えた「大連合」の形成をこれまで模索してきました。
「大連合」により、空爆だけでなく、地上戦も可能となります。

ロシアの思惑については、「大連合」形成によってアサド政権生き残りを狙うものとも言われています。

8月11日にモスクワで行われたサウジアラビア外相とロシア・ラブロフ外相の会談でも、この「大連合」が話されたようですが、アサド政権を否定するサウジアラビアは受け入れなかったとされています。

シリアでの軍事プレゼンスを増強するロシアへのアメリカの懸念
そうした状況にあって、8月中頃から、アサド政権を支持するロシアのシリアへの軍事プレゼンスの増強が見られます。

今月初め、ロシア軍のシリア投入決定という報道を受けて、プーチン大統領はロシア軍のシリアでの軍事作戦参加は「時期尚早」と否定しています。

****ロシア参戦は「時期尚早」=対「イスラム国」でプーチン大統領****
ロシアのプーチン大統領は4日、過激派組織「イスラム国」に対する軍事作戦に関し、ロシアの参加を検討するのは「時期尚早だ」と指摘した。極東ウラジオストクで記者団に語った。ロシアは同組織と戦うシリアのアサド政権を軍事支援している。

これより先、イスラエルのメディアが「ロシアが兵員数千人と航空戦力の投入を決めた」と伝えていたが、報道を否定した形だ。米国務省は情報を精査中としている。

プーチン大統領は「あらゆる選択肢を想定しているが、(作戦参加は)検討課題ではない」と指摘した。

一方で「シリアの友人や(中東)地域諸国と協議を続ける」とも述べ、自身が提唱したアサド政権を含む対テロ共同戦線の創設を目指す考えを示した。【9月4日 時事】 
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イラン核問題協議ではロシアの協調姿勢を高く評価したアメリカですが、シリアに関してはロシアの軍事介入を「紛争を激化させ、罪のない人々の命を奪い、難民の流出に拍車をかける恐れがある」として強く警戒しています。

ロシア・プーチン大統領の不介入発言があてにならないのは、ウクライナで実証済みです。

****ロシア、シリアで軍事増強か 米国務長官が懸念表明****
米国務省は5日、ジョン・ケリー国務長官がロシアのセルゲイ・ラブロフ外相と電話で会談し、内戦が続くシリアにおける切迫したロシア軍部隊の増強に対する懸念を表明したことを明らかにした。

米国務省は、「ケリー長官は(ラブロフ外相に対し)、もし報道が真実であれば、一般市民の死者数や難民の増加、ISILと対抗する勢力との戦闘などで、内戦がさらに悪化する可能性があると明言した」と述べた。

同省によると、「ケリー長官とラブロフ外相は、シリア内戦をめぐる協議を、今月末に米ニューヨークで継続することで合意した」という。

米紙ニューヨーク・タイムズは、ロシアはシリアと協力関係を結ぶために先遣隊を既に送っており、米政府が恐れている、シリアのバッシャール・アサド大統領への軍事協力を増大させるための新たな手段を講じていると報道した。

同紙は、ロシアがシリアで軍隊増強を行っているサインとして、同国空軍基地にプレハブの簡易住宅ユニットや、移動可能な航空管制ステーションの輸送が行われたことを挙げている。(後略)【9月6日 AFP】
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ISに対する軍事介入について「まだ検討していない」というロシアですが、8日には、アメリカの要請を受けたブルガリアが、シリアに向かうロシア軍輸送機の領空通過を拒否する事態も生じています。

****<ブルガリア>ロシア機領空通過を拒否 シリア政権支援疑い****
ブルガリア外務省は8日、シリアに向かうロシア軍輸送機の領空通過を拒否したことを明らかにした。ロイター通信が伝えた。

「貨物について懸念すべき十分な情報があるため」という。シリアのアサド政権に対するロシアの支援強化を懸念する米国の要請を受けた措置とみられる。
ギリシャ外務省によると、米国はギリシャにも同様の要請をしている。

米露は、過激派組織「イスラム国」(IS)の勢力拡大を受けてシリア問題での協力を模索してきたが、今回の措置でロシア側が態度を硬化させる可能性がある。(中略)

プーチン大統領は4日、ISに対する軍事介入について「まだ検討していない」と述べる一方、「ロシアは(アサド政権との)契約に基づき、シリア軍に武器や技術を提供している」と述べていた。

ペスコフ報道官は7日、ロシアがシリア支援を強化しているかどうかについて「答えられない」と述べた。

こうした発言が、「ロシアがシリアへの本格的軍事介入を検討するのではないか」との臆測を広げている。【9月9日 毎日】
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ロシアは積み荷を「人道支援物資」と説明していますが、アメリカなどは「軍事支援物資」の疑いがあると見ています。

リャプコフ露外務次官は9日、「米政府や北大西洋条約機構(NATO)、欧州連合(EU)の圧力を受け、人道支援機の通過を拒否する国があり、遺憾だ」と批判しています。

地図を見るとわかるように、ロシアからシリアに向かうにあたってブルガリア上空を経由するというのは随分と大回りのルートになりますが、“シリア反体制派を支援するトルコはアサド政権と敵対し、ロシア機への飛行許可は非現実的だ。米国の影響下にあるイラク上空も難しい。そのため、黒海からブルガリア、ギリシャ、地中海に抜けるルートが合理的と判断された。”【9月9日 時事】とのことです。

9日にはイランがロシア機の通過を許可したとの報道があり、カービー米国務省報道官は「失望した」と不快感を表明していますが、事を荒立てずに済んだ・・・とも言えます。(‟米国の影響下にあるイラク上空も難しい”とのことでしたが、結局、カスピ海、イランからイラク上空を経由してシリアに入ったようです。)

なお、ロシアはシリアへの軍事専門家派遣は認めています。

****露、シリアに軍事専門家を多数派遣 内戦悪化の懸念も****
ロシア外務省のボグダノフ外務次官は8日、シリア政府軍がロシア製兵器の運用技術を習得するために、ロシアから多数の軍事専門家がシリアに派遣されていると明らかにした。インタファクス通信が伝えた。

ボグダノフ氏は、ロシアは契約に従いシリア側に武器を供給しており、政府軍がその運用に習熟するために「多くの装備や専門家を現地に送る必要がある」と主張した。またこれらの動きは「国際法に厳格にのっとっている」とも述べた。

米メディアは今月初め、ロシアが軍の先遣隊をシリアに派遣するなど、アサド政権への軍事支援を強化する動きを見せていると報道。内戦を悪化させかねない動きとして、欧米で懸念が強まっていた。【9月9日 産経】
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しかし、少数のロシア兵が政府軍側として戦闘に加わったとの情報などもあり、アメリカは懸念を強めており、9日には5日に続き2度目の米露外相電話協議が行われています。

****<米国>露に懸念表明 シリア政権支援「戦闘激化招く****
ロシアがシリアのアサド政権に対する軍事支援を強化していることを巡り、ケリー米国務長官は9日、ロシアのラブロフ外相と電話協議した。

ケリー氏は戦闘の激化につながりかねないとして懸念を表明した。カービー国務省報道官が同日の定例記者会見で明らかにした。

ロシアの軍事介入拡大に関する米露外相電話協議は5日に続き2度目で、米側の警戒感の高まりが顕著だ。

ロシアはシリアへの軍輸送機の追加派遣も図っているが、飛行ルートにあるブルガリアが8日、通過を拒否。9日になってイランが許可したとの報道があり、カービー氏は「失望した」と不快感を表明。周辺の友好国に対し、ロシアからの上空飛行要請があれば「意図を厳しく問いただすよう要請している」と説明した。

実質的に拒否を求めているものとみられる。シリア周辺国のイラク、トルコ、レバノン、イスラエル、ヨルダンは米国と友好的関係にある。

米CNNによると、ロシアはシリアに水陸両用作戦部隊の海軍歩兵約100人を派遣し輸送船2隻などで物資も運び込んだ。ロイター通信によると、少数のロシア兵が政府軍側として戦闘に加わったとの情報がある。

また、アサド氏の支持基盤であるシリア北西部ラタキアでロシア軍が航空基地の整備を行っているとの情報もあり、アサド政権と対立している反体制派を攻撃する準備の可能性があるとの見方も出ている。(後略)【9月10日 毎日】
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米軍の対アサド政権攻撃を回避させる「トリップ・ワイヤ」】
シリアでの軍事プレゼンス強化を進めるロシアの狙いについて、小泉悠氏はロシアの軍事評論家で有力紙『独立新聞』の軍事問題記者であるウラジミール・ムーヒン氏の見解を紹介したうえで、その存在によって米軍の対アサド政権攻撃を回避させる一種の「トリップ・ワイヤ」にあるのではと指摘しています。

*****シリアへの軍事介入を始めたロシア ロシア側の見方とその狙い****
・・・・ロシアがシリアに軍事プレゼンスを展開し、しかもそれがシリア軍と一体となってしまえば、米国は容易にアサド政権への攻撃を行う訳にはいかないとムーヒンは見ている。

記事中でも触れられているように、米国はロシアの軍事プレゼンスが紛争の「エスカレーション」につながりかねないとの懸念を示しているが、むしろこのような懸念を惹起することこそがロシアの狙いであるのかもしれない。

いうなればシリアに展開するロシア軍は単にアサド政権を支えるだけでなく一種の「トリップ・ワイヤ」(朝鮮半島で最前線に配備されている米軍と同様、同盟国への攻撃があれば域外大国の介入につながりかねないことを相手国に認識させるためのもの)としての役割を期待されているのであり、その存在によって米軍の対アサド政権攻撃を回避することがロシアの狙いなのだと考えられよう。

米軍は2013年からシリア領内への空爆を開始し、今年8月にはトルコのインシルリク基地を拠点として無人機及び有人機でISの拠点を攻撃しているが、今のところアサド政権側の部隊には攻撃は及んでいない。

また、記事中でも触れられているように、ロシアは今後、シリア紛争をISに対する「対テロ戦争」と再定義することを狙っている。

つまり、「アサド政権vs反体制派」であった当初のシリア内戦にISが参入してきたことを契機に、「IS vs 反IS連合(アサド政権+反体制派+その他諸国)」へと紛争の構図を書き換えてしまおうということだ。(中略)

ところでロシアがシリアで軍事プレゼンスの増強を始めたのは今年8月半ば以降と見られるが、これはムーヒンが触れている9月の国連総会を見据えたものであろう。

シリアにおける軍事プレゼンスによって米国の対アサド政権攻撃を封じた上で改めて対IS連合構想を提起し、これを認めさせる思惑があるものと思われる。

その背景には、IS対策のためにアサド政権を容認してもよいのではないかとの空気が一部の西側諸国に見られるようになってきたことであろう。

今年3月、ケリー米国務長官が「最終的にはアサド政権と交渉する必要がある」と述べたことや、記事中で触れられているイスラエルの態度に見られるように、ロシアは「大連合」構想でアサド政権の生き残りを図るチャンスが出てきたと読んでいるのではないか。

ただし、サウジアラビアとの交渉決裂からも想起されるように、「大連合」構想の成立は簡単な話ではない。

この場合、まさにプーチン大統領が「将来の可能性」として示唆しているように、ロシアが公にシリアで対IS軍事作戦に踏み切ることも考えられよう。

いずれにせよ、目前に迫った国連総会でプーチン大統領が何を語り、各国がどのような反応を示すかが注目される。【9月10日 小泉悠 氏 Wedge】
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アサド政権存続容認については、9日、オーストリア外相も賛同しています。

****アサド政権「取り込み」も=「イスラム国」対策で―オーストリア外相****
ロイター通信によると、オーストリアのクルツ外相は8日、訪問先のイランのテヘランで記者団に対し、シリアで活動する過激派組織「イスラム国」と戦う上で、アサド大統領を取り込むべきだと述べた。西側諸国の大半がアサド政権の退陣を主張する中、異例の発言といえる。

クルツ外相は「アサド大統領による戦争犯罪を忘れるべきではないが、この戦いでわれわれが同じ側にいる事実も忘れてはいけない」と指摘。同組織の打倒へ「現実的で共通したアプローチが必要だ」と述べた。【9月9日 時事】 
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大量の難民・犠牲者を生み出しているシリアの混乱を早期に収め、一定の秩序をもたらすためには、当然の発想と思われます。仮にアサド政権が崩壊したら、その後にシリアを襲うのは、今以上の混乱ではないかと思われます。

ポスト・アサドを睨んだ思惑も?】
ただ、アサド政権は最近軍事的には劣勢にまわっており、アサド政権崩壊という事態も現実味を帯びています。

ロシアの軍事介入は、「トリップ・ワイヤ」といった、単に劣勢のアサド政権を支えるという意味合いだけでなく、もしアサド政権が崩壊した場合のシリアにおける影響力と、新たな枠組み形成への発言権を確保する狙いもあるのではないでしょうか。

現地に軍隊を派遣しているか否かは、影響力・発言権に大きな差異をもたらします。
第2次大戦末期のソ連の対日参戦のような感も・・・。

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米政府当局者は、シリア内におけるロシアのこれらの動向の真意の把握に努めている。過激派「イラク・シリア・イスラム国(ISIS)」の拠点攻撃やシリア政権軍と交戦する反体制派の穏健派武装勢力の掃討などをにらんでいる可能性がある。

また、アサド政権が倒れた場合、ロシアがシリアの国内情勢を管理することを見据えた初動的な措置とも受け止められている。【9月10日 CNN】
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