孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

生かされない留学生、実態と乖離した技能実習制度 秩序だった外国人受け入れに向けて

2018-01-11 22:48:51 | 人口問題

(5年前に比べて外国人の新成人が5倍に増加した東京・中野区の成人式に出席した台湾人留学生の二人【1月8日 NHK】)

日本の若者の減少を補う形で海外から留学生や技能実習生が入ってきている
先日の成人の日に、東京23区では新成人の8人に1人が外国人で、新宿区などは半数近くを占めるという数字が話題になりました。

****東京23区の新成人 8人に1人が外国人****
東京23区の新成人およそ8万3000人のうち、8人に1人に当たる1万人余りは外国人であることがわかりました。新成人の半数近くを外国人が占める区もでていて、専門家は「近年の留学生や技能実習生の急増によるものと見られ、外国人が地域や社会を担う非常に有力な存在になってきている」と分析しています。(中略)

外国人の新成人の数を区ごとに見てみると、最も多かったのは新宿区でおよそ1700人、次いで豊島区でおよそ1200人、中野区のおよそ800人などとなっています。このうち、中野区は、外国人が昨年度よりも200人余り増えていて、5年前と比較すると5倍と急増しています。

また、それぞれの区で新成人に占める外国人の割合を見てみると、新宿区が45.7%とほぼ半数を占めているほか、豊島区で38.3%、中野区で27%などと、23区のうち6つの区で、その割合が20%を超えていることがわかりました。

外国人の新成人が急増している背景には、留学生や技能実習生の増加があると見られ、東京都内では5年前と比べてすべての年代合わせて留学生が1.7倍のおよそ10万4800人、技能実習生が3.4倍のおよそ6600人と急増しています。

有識者「外国人が社会担う有力な存在に」
東京23区で外国人の新成人が増えていることについて、外国人の定住に詳しい公益財団法人、日本国際交流センターの毛受敏浩さんは「日本の若者がどんどん減っていくのを補う形で海外からの留学生や技能実習生として入ってきている。

もともと外国人が多い東京でまずは外国人の急増が顕著になっているが、人口減少が非常に厳しい地方でも同じような現象が今後続いていくだろう。

外国人が日本の地域・社会を担う非常に有力な存在になっていて、外国人がいなければ社会が回らないという現実があり、日本人と外国人が手を携えて社会を担っていけるような仕組みをしっかり作るべきだ」と話しています。(中略)

外国人対応の成人式も
外国人の新成人の増加を受けて、外国語で書かれた案内状を送るなどの対応を取っている区もあります。(中略)


23区 日本人と外国人の内訳
(中略)5年前、平成24年度の詳細なデータがある15の区について今年度と比較すると、すべてで外国人の新成人が増え、このうち12の区では2倍以上と大きく増加しています。(中略)

一方、5年前のデータがある区の合計の増加数で見てみると、日本人がおよそ2790人と1.05倍でほぼ横ばいだったのに対して、外国人はおよそ5290人と2.54倍となっていて、外国人の増加数が急速に伸びているのがわかります。【1月8日 NHK】
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日本での就職が困難な留学生 「宝の持ち腐れ」】
外国人の増加と聞くと、何かと問題も多い技能実習生が思い浮かぶのですが、東京23区の場合、その特殊性から留学生が中心的存在であるようです。(すべての年代合わせた実数で、留学生が技能実習生の約16倍)

全国的には、2017年6月末時点で、在日外国人247万人のうち留学生が11.8%、技能実習生は10.2%となっています。

【2017年11月20日 朝日】

留学生については、日本政府は2008年に、当時14万人だった留学生を2020年をメドに30万人まで増やす「留学生30万人計画」を打ち出して積極的に受け入れることとしていることもあって、2016年5月1日の数字で、対前年度比14.8%増と大幅に増加しています。

もっとも、留学生の増加はそれ以前から見られますので、政府の施策というより、もっと別の要因の影響が大きいようにも思われます。

地域別ではアジアからの留学生が全体の93%と大部分を占めており、国別では、中国が41.2%、次いでベトナム22.5%、ネパール8.1%となっています。

【平成28年度外国人留学生在籍状況調査結果 日本学生支援機構】

人口や教育環境などを考えると、ベトナム、ネパールからの留学生が際立って多いように思われ、まったくの憶測ですが、本当に“留学”なのか、それとも“就労”が目的なのか?・・・という疑問も感じます。

そうした疑問はともかく、留学生は、少子化で人材が減少する日本にとって日本企業のグローバル化に貢献しうる貴重な財産であり、また、帰国後は母国と日本の架け橋となってくれる存在でもあります。

しかし、彼らが卒業後に日本で就職するには高い壁が存在しています。

****外国人留学生がガッカリする日本の就職事情****
政府も企業も大学も「宝の持ち腐れ」だ

「就職の面接で『いずれは母国に戻る』と回答したら不採用になると聞きました。せっかく日本で勉強したのだから、まずは日本で仕事してみようというのが素直な気持ちですが、正直に答えてはいけないのは変だと思います」

「日本で働きたいと思っても、大企業ならともかく、そもそも名前を知らない中小企業と出合うチャンスはほとんどありません」

「大学の留学課は生活や履修のことには相談に乗ってくれますが、就職のこととなると、まるで取り合ってくれません。『キャリアセンターに相談してください』と言われ、キャリアセンターに行ったら『留学課で相談してくれ』とたらい回しにあいました」

「工場や小売り・サービス業で働くために日本へ留学に来たワケではないのですが、就職できそうな企業はそれらばっかりです」

これは海外から日本へ学びに来ている外国人留学生の声です。彼ら、彼女らの多くが日本国内で就職をしようと思っても、さまざまなハードルに阻まれ、うまくいく人は多くありません。(後略)【2017年07月20日 加島 禎二氏( セルム 社長) 東洋経済online】
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上記では、問題点として、「外国人=低賃金労働者」と考えている企業が多いこと、母国での就業経験が認められず、しかも新卒としての年齢制限があること、会話力以上の資料作成や稟議書作成が可能な日本語能力を要求されることなどがあげられています。

【“本音”と乖離した“建前”の外国人技能実習制度
一方、外国人技能実習制度に関しては、多くの問題が指摘されていることは周知のところです。

*****外国人技能実習制度****
途上国の外国人を期間を区切って実習生として日本に受け入れる制度で、1993年に始まった。対象職種は農漁業や建設、食品製造などに11月から「介護」が加わり、77職種になった。

非営利の事業協同組合や商工会が「監理団体」として受け入れ、傘下の中小・零細企業や農家で実習させるのが一般的。監理団体が契約を結んだ送り出し国の会社が、現地で実習生を募集する。【2017年12月13日 朝日】
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“失踪”する実習生が多いことがまず指摘されています。“失踪”が多発する背景には、雇う側の“割安な労働力の確保”、実習生側の“お金稼ぎ”という「本音」が存在しています。

****外国人実習生の失踪、急増 半年で3000人超 賃金不満、背景か****
日本で働きながら技術を学ぶ技能実習生として入国し、実習先の企業などからいなくなる外国人が急増している。

法務省によると、今年(2017年)は6月末までに3205人で半年間で初めて3千人を突破。年間では初の6千人台になる可能性が高い。

実習生が増える中、賃金などがより良い職場を求めて失踪するケースが続出しているとみられている。

近年の失踪者の急増を受けて、法務省は失踪者が出た受け入れ企業などへの指導を強化。賃金不払いなど不正行為があった企業などには実習生の受け入れをやめさせたりした。その結果、一昨年に過去最多の5803人となった失踪者は昨年、5058人にまで減っていた。
 
今年の失踪問題の再燃を、法務省は「率直に言って遺憾だ。さらに分析しないと、何が原因か示せない」(幹部)と深刻に受け止めている。
 
法務省によると、日本にいる実習生は6月末時点で25万1721人。ベトナム人が10万4802人と最も多く、中国人(7万9959人)が続いた。
 
この半年の失踪者もベトナム人が1618人で最多。次いで中国人(859人)、ミャンマー人(227人)、カンボジア人(204人)だった。昨年上半期に比べ、ベトナム人は793人、ミャンマー人は160人も増えた。
 
失踪者の増加ペースは7月以降も落ちていないといい、最多記録を更新するのは確実な情勢だ。
 
「国際貢献」をうたう実習制度は、人手不足に悩む日本企業にとって割安な労働力の確保策となっている。一方で、来日する実習生の多くは「実習」よりも「お金稼ぎ」が目的だ。
 
法務省が、昨年に不法滞在で強制送還の手続きをとった実習生、元実習生の計約3300人に失踪の理由を聞いたところ、大半が「期待していた賃金がもらえなかった」「友人から『もっと給料が良いところがある』と聞いた」といった賃金を巡る不満だった。最低賃金未満ではないものの、より手取りの多い会社を求めて失踪するケースも少なくないとみられる。パワハラやセクハラの被害を訴える声もあったという。
 
厚生労働省によると、監督指導した実習実施機関のうち7割に、実習生への賃金不払いや過重労働などの労働基準法違反があったという。【同上】
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“割安な労働力の確保”(実習生側からすれば“お金稼ぎ”)という実態があるなかで、日本で獲得した技能を帰国後に生かして母国発展に寄与する・・・という“建前”がまったく機能していません。

「実習を終えた帰国者の9割は、日本の経験とは関係のない仕事をしている」(外国人の人材派遣会社のトップで、名古屋入国管理局相談センターの責任者である西村英継氏)【2017年12月20日 朝日】

****技能実習」建前に限界 帰国者大半、関係ない職****
(中略)今月1日に施行された技能実習適正化法は、実習生の技能習得を促進する態勢を手厚くしたが、母国で生かさないと意味がない。
 
技能実習制度は、日本企業のための割安な労働力確保策ではないか――。日本政府は国会審議などで問われるたびに、実習生の受け入れを支援している公益財団法人の毎年のアンケートを引っ張り出してきた。
 
帰国後数カ月の実習生の約7割が「技能が役に立った」と答えているとの内容で、「だから労働力不足対策ではない」と主張してきた。一方で、厚生労働省の担当者は取材に「技能移転を示すデータと言っているわけではない」と語った。
 
技能実習制度に詳しい東海大学の万城目正雄准教授は「2年後、3年後と事後の状況を把握しないと人材育成の効果を十分には測れない」と指摘する。

 ■経歴偽り来日要件パス
「国際貢献」の建前を支えているのが、もうひとつの建前だ。
 
改革開放に伴い、実習生送り出しが急増するミャンマー。8月、最大都市ヤンゴンで、送り出し会社などでつくるミャンマー海外人材派遣業協会のミンフライン会長は取材にこう明かした。「ミャンマーからの実習生の9割の経歴は事実ではない」
 
実習生は、日本で習得を目指す技能と同じ業務を母国で一定期間、経験していないといけない。「日本でさらに腕を磨いて母国に貢献する」との意欲を持つ若者こそが対象だからだ。
 
この「前職要件」は、日本と産業構造が異なる途上国からすれば「ないものねだり」の側面があり、厳格に運用すると人が集まらない。そこで日本側が募集する業種を志望者の経歴に書き込むことになる。
 
ミャンマー側は「日本政府も経歴のウソを知っているはずだ」といらだつ。(中略)

 ■受け入れ負担、納税者にも
建前を支えるコストは小さくない。途上国側の送り出し会社、日本側の監理団体といった複数の仲介者がいるためだ。
 
「私は100万円」「僕は70万円」。ベトナムとミャンマーで計33人の元実習生に話を聞くと、大半が来日前に多額の借金を背負っていた。送り出し会社への手数料や同社に紹介してくれた人への謝礼などだ。(中略)

今月からの新制度では受け入れ企業の負担が増す。
国は、実習生に対する違法な長時間労働やパスポート取り上げなどの人権侵害行為を防止し、技能移転を促進する目的で、「外国人技能実習機構」を新設した。受け入れ企業は一人一人の実習計画について機構の認定が必要になり、手数料が取られる。
 
負担は実習生と直接は関係がない納税者にものしかかる。機構は3月、常勤150人、非常勤120人で発足。人件費約20億円は国の交付金約35億円(今年度)で賄う。約14億円は一般会計からの支出だ。
 
新制度では、優良な監理団体の受け入れ枠が広がる。実習年数の上限も3年から5年に延びる。(中略)

検査院局長の経験がある有川博・日大教授は「技能が移転しなくても良いのだとすれば、これほど建前と本音が背離した政策は聞いたことがない。建前をそのままに次の施策が展開されるとしたら茶番だ」と指摘。「政策の効果をしっかり把握するよう求められるだろう」と話す。

 ■<視点>労働力不足、直視し議論を
外国人受け入れの場当たり的な対応は、社会不安を引き起こす恐れさえある。
 
日本は1988年の第6次雇用対策基本計画で非熟練の単純労働者の受け入れについて「慎重に対応する」と表明、この方針を維持してきた。

現実はというと、技能実習生と日系ブラジル人ら定住者が単純労働を担っている。近年は「出稼ぎ留学生」も目立つ。
 
なかでも急増しているのが技能実習生だ。産業界の人手不足の悲鳴に押されて間口をどんどん広げており、「将来どれだけの人数になるか分からない」(厚労省)。全体的な外国人受け入れ政策に責任を持つ行政機構もない。
 
英国では学識者と行政官による政府の諮問機関が、人材不足の職種リストをつくり、受け入れを認める職務のレベルや給与水準などを検討。受け入れの経済的、社会的影響を分析して政府に提言している。
 
日本総研の野村敦子・主任研究員は「送り出し、受け入れ双方の政府が協定を結んで責任をもって管理する制度や、英国のように透明なシステムのもと、適切に労働者を確保できる枠組みを検討する必要があるのではないか」と言う。
 
労働力不足の根っこにあるのは急速な人口減だ。減少のペースを緩やかにしないと、あらゆる産業が縮み、既存の社会システムを維持できなくなる。

だが、実習制度が当面の人手不足感を和らげ、「人口減」に真正面から取り組む機運をそいでいる。実習制度という「茶番」に幕を引き、秩序だった外国人受け入れ策に踏み出すときが来ている。【2017年12月20日 朝日】
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制度整備・社会的合意形成のもとで、秩序だった外国人受け入れ策を
制度が実態を全く反映しておらず、なし崩し的に外国人労働者が増加しているのが現状です。

もとより外国人が日本で生活するうえでは様々な困難があり、日本社会との軋轢もあります。

本来はそうした問題をフォローして防止・緩和すべき制度が実態を反映しておらず、未整備状態にあり、社会的にも外国人受け入れに関する本格的な合意が形成されていない状況では、ますます困難・軋轢が増幅し、場合によっては犯罪等に関与する事例も生じ、外国人への不安感・嫌悪感を増長するような結果ともなります。

急速な人口減に伴う労働力不足に対応していくためには、外国人受け入れの制度を確立し、社会的な受け入れに関する合意を形成して、しっかりと受け入れる必要があります。

日本社会・文化に不案内な外国人が増えることで、いろいろな問題が生じることは当然のことです。
重要なのは、そうした問題を恐れるのではなく、いかにして防止・緩和していけるかに知恵を絞り、努力することかと考えます。

日本は古代帰化人以来、多くの外国人・外国文化を受け入れて、それらを融合することで日本的な社会・文化を創り出してきました。

今後、日本で暮らす外国人が増えることは、新たな日本文化・社会への進化のステップだとも考えます。
伝統とか社会秩序を掲げて、いたずらに外国人を嫌悪するような姿勢は、自国文化・社会に対する自信のなさの表れでしょう。
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大寒波で温暖化を揶揄する“無責任なやから” 海洋で急速に広がる低酸素の窒息状態

2018-01-10 20:27:51 | 環境

(メキシコ、バハ・カリフォルニア沖のコルテス海を泳ぐクロカジキ【1月10日 NATIONAL GEOGRAPHIC】)

アメリカでは記録的寒波 オーストラリアは記録的熱波
私が住む鹿児島も今日はみぞれ模様の寒い一日でした。この寒さは明日・明後日も続くようで、原付(屋根付きではありますが)で2時間ほど走らなければいけない外出予定をどうしようか迷っています。

世界的には、アメリカの記録的大寒波が報じられています。

****米 記録的な寒波で空港閉鎖 住宅地で高潮被害も****
発達した低気圧の影響で大雪に見舞われているアメリカ東部では、これまでに空の便4000便以上が欠航したほか、沿岸部で高潮が発生し住宅地などで被害が出ています。今後、気温がさらに下がる見通しで、気象当局は路面の凍結などに警戒を呼びかけています。

年末から記録的な寒波が続いているアメリカでは、発達した低気圧が大西洋を北上している影響で4日、ニューヨーク州など東部の広い範囲で吹雪となりました。気象当局によりますと、4日夜までの降雪量は、マサチューセッツ州ボストンで35センチ、ニューヨークのマンハッタンで25センチなどとなっています。

この影響で、ニューヨークのケネディ国際空港などが閉鎖され、アメリカ東部を離着陸する便を中心に合わせて4000便以上が欠航しました。

また、マサチューセッツ州では低気圧の接近に伴って高潮が発生し、ボストンやその周辺の沿岸部では海水が堤防を越え、住宅地や商業地などで被害が出ています。

このほか交通事故が各地で相次いでいて、これまでに4人が死亡したほか、一時、最大で10万戸が停電しました。

気象当局によりますと、雪は一部の地域で5日朝まで続き、その後、7日にかけて各地で気温がさらに下がる見通しで、気象当局は路面の凍結などに警戒を呼びかけています。【1月5日 NHK】
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1月1日にマサチューセッツ州ナハントで起きた住宅火災の消火活動を終えた後の消防隊員の1人【1月5日 Huffington Post】

寒さも、見ているだけならいいのですが・・・・。下記は“大寒波、熱湯が空中で凍る! シャボン玉も!”【1月10日 NATIONAL GEOGRAPHIC】の美しい映像。

上記サイトに動画でアップされていますが、分解写真で“空中で凍る熱湯”のさわりを。





“凍るシャボン玉”は動画でないと、シャボン玉表面に広がる結晶がクルクル回転しながら拡大する様子の美しさが伝わらないので、上記サイトをご覧ください。

アメリカなど北半球の寒波の一方で、南半球のオーストラリアでは猛烈な熱波が。

****オーストラリアは熱波 アメリカは滝も凍る大寒波*****
アメリカの各地では寒波の影響で厳しい寒さが続いています。一方、夏を迎えた南半球のオーストラリアは記録的な猛暑に見舞われています。

オーストラリア・シドニーの西部・ペンリスでは7日、最高気温が47.3度まで上がりました。CNNによりますと、この記録は実に79年ぶりだということです。ニューサウスウェールズ州カムデンで45.7度、リッチモンドで46.3度を観測するなど、オーストラリア各地で熱波に見舞われています。当局は高温による熱中症、そして、火事などに注意するよう呼び掛けています。遠く離れたアメリカ・ニューヨーク州では滝や噴水が凍るなど、年末からの寒波が今も続いています。【1月8日 FNN】
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まあ、一時的な天気というのは場所・時間でさまざまに変化しますので、こんなものでしょう。当然ながら、長期的気候変動とは別物です。

一時的な寒さを理由に、地球温暖化は偽りだと主張しようとする無責任なやから
米紙ワシントン・ポストは「一時的な寒さを理由に、地球温暖化は偽りだと証明されたなどと主張しようとする無責任なやからがいるといけないので」と警告していたのですが、やはり“無責任なやから”がいたようです。

****北米寒波、トランプ大統領が温暖化あざけるツイートで物議****
北米が猛烈な寒波に襲われる中、フロリダ州マーアーラゴの別荘で休暇中のドナルド・トランプ米大統領(71)は28日、気候変動説を揶揄(やゆ)するコメントをツイッターに投稿した。

「東部では史上『最も寒い』大みそかになるようだ。たぶんわれわれは、古き良き地球温暖化をもうちょっと活用してもいいんじゃないか。わが国は他の国々とは違い、温暖化対策に『何十兆ドルも』つぎこむ予定だったのだから。暖かい格好をしよう!」
 
このトランプ氏の投稿には、寒波を利用して気候変動の科学的根拠をあざけっているとして、多くのツイッターユーザーからあきれた声が上がっている。

「天気と気候は違うものだ。大統領はその違いを理解するべきだ。難しいことではない」と、ワシントン州選出のプラミラ・ジャヤパル米下院議員はツイートした。
 
カリフォルニア科学アカデミーのジョン・フォーリー館長は、「信じようが信じまいが、地球の気候変動は正真正銘の現実だ。たとえ今まさにトランプタワーの外が寒くてもだ。あなたがビッグマックにかぶりつこうとする瞬間にも、世界では飢餓に苦しむ人がいるように」と投稿した。
 
一方、米紙ワシントン・ポストの気象欄「キャピタル・ウェザー・ギャング」の公式ツイッターアカウントは27日、トランプ氏の投稿に先立ち、寒さが1週間続くとの予報に続けて次のように警告していた。

「世界の他の地域では平年よりかなり暖かい天候が続く点にご留意ください。米国の一時的な寒さを理由に、地球温暖化は偽りだと証明されたなどと主張しようとする無責任なやからがいるといけないので」
 
トランプ氏は地球温暖化を中国人の作り話だと主張。温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」からの離脱を表明し、環境関連の主要政権ポストに化石燃料推進派を起用した。また、トランプ政権の国家安全保障戦略では、米国を脅かす脅威の項目から地球温暖化が削除された。(後略)【2017年12月29日 AFP】
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子供じみた自称“天才”の言動にいちいち反応していても仕方がないのですが、その者が世界で最も大きな権力と影響力を持つ人物であり、日本も安全保障を含めて大きく依存しているという話になると・・・・困ったものです。

週内に予定されているトランプ大統領の健康診断に精神衛生に関する検査が含まれているのか記者から質問が出て、報道官は「ない」と簡潔に答え、「大統領は頭脳明晰だ」と述べたとのこと。【1月9日 AFP】

世界の海はわずか50年の間に約2%の酸素を失った
話を戻しましょう。

地球温暖化については、様々な議論・検証がなされていますが、海水温の上昇や海の酸性化以外にも、温暖化によって“海が窒息する”状況が広がっているとのことです。

****温暖化で「窒息」する海が世界的に拡大、深海でも****
10年以上前のある日、研究用のタグを付けた魚を追跡していたエリック・プリンス氏は奇妙なことに気がついた。米国南東部沖に生息するニシクロカジキは獲物を追って800メートルは潜るのに対し、コスタリカとグアテマラ沖では海面付近にとどまっていて、潜っても100メートルを超えることがめったになかったのだ。(中略)
 
調査してわかったのは、カジキたちが窒息を回避していたことだった。グアテマラとコスタリカ沖のニシクロカジキは淀んだ深海に潜らない。そこには巨大な低酸素海域があり、さらに拡大を続けていた。

カジキが深く潜らなくなったのは、まだあまり知られていない海の変化に反応した海洋生物の行動変化の一例だった。

気候変動により、近海だけでなく外洋まで酸素濃度が低下して、海洋生物の生息地や生き方に大きな影響が出ているのだ。
 
米スミソニアン研究センターの上席科学者デニース・ブライトバーグ氏は、「これは地球規模の問題で、地球温暖化が状況を悪化させています」と言う。「解決には地球規模の取り組みが必要です」
 
ブライトバーグ氏らはこのほど、海洋酸素濃度の低下に関する主要な研究を検証した論文を1月5日付けの科学誌『サイエンス』に発表した。

論文によると、海洋酸素濃度の低下により広大な海域から生物が消え、海洋生物の生息地や食物が変化している。その結果、魚の個体数が減り、魚のサイズが小さくなり、乱獲につながりやすくなっているという。

海水温の上昇や海の酸性化と同様、海洋酸素濃度の低下も気候変動の最も重要な副産物の1つだが、ほとんどの人がこれを理解していない。

「酸素濃度の低下は、多くの点で生態系の破壊につながります」とブライトバーグ氏は言う。「陸上にそうした広大な領域ができて、動物が住めなくなったとしたら、誰でも気がつくでしょう。けれども同じことが水の中で起こっている場合には、わからないのです」

25年間で酸素濃度が30%も低下した深海域も
ブライトバーグ氏の研究には、メキシコ湾の原油流出事故により汚染されたような沿岸の「デッドゾーン(死の水域)」だけでなく、外洋で数千キロにわたって広がる深海の低酸素海域も含まれている。
 
深海の低酸素海域は、20世紀半ばから面積では450万平方キロ以上拡大している。これは、EUと同じくらいの広さに相当する。原因の1つは水温の上昇だ。
 
水温が上昇すると海水に含まれる酸素の量は低下する。また、温かくなると微生物や大型の生物の代謝がさかんになり、酸素消費量が増える。

さらに、温暖化により海が表面から温められると、温かい水は冷たい水より軽いために表面の水が上層にとどまりやすくなり、空気中の酸素が深層の低酸素海域まで届きにくくなる。
 
現在、深海の低酸素海域は年間1メートルのペースで海面に向かって拡大している。太平洋東部とバルト海のほとんどでそうした状況にある。

米カリフォルニア南部沖のある深海では、わずか25年間で酸素濃度が30%も低下した。アフリカ沿岸付近の大西洋の低酸素海域は米国本土の面積より広く、1960年代から15%も拡大している。
 
この新たな研究結果によると、世界の海はわずか50年の間に約2%の酸素を失い、酸素が全くない海水の量は4倍に増えたという。

現在、沿岸のデッドゾーンは500カ所ほど知られているが、そのうち20世紀半ば以前から酸欠状態だったところは10%未満である。(後略)【1月10日 NATIONAL GEOGRAPHIC】
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トランプ大統領にはニシクロカジキの話より、下記のお金の話のほうが伝わりやすいかも。

****米 去年の自然災害被害 過去最大34兆円余****
アメリカの政府機関は、ハリケーンや山火事などの自然災害による去年1年間の被害額は日本円で過去最大の34兆円余りに上ったと発表し、専門家は気候変動による異常気象が原因だと指摘して警鐘を鳴らしています。

アメリカ海洋大気局が8日に発表した報告書によりますと、去年1年間にアメリカで起きた自然災害による被害額は、およそ3060億ドル(34兆円余り)に上ったということです。

これは1800人以上が死亡したハリケーン「カトリーナ」による被害があった2005年の2150億ドル(24兆円余り)を大きく上回り、1980年の集計開始以来、過去最大になったということです。

報告書によりますと、去年は、被害額が10億ドルを超える災害が16回発生し、このうち南部テキサス州を直撃したハリケーン「ハービー」による被害は1250億ドル余り、カリフォルニア州で相次いだ大規模な山火事では、合わせて180億ドルの経済損失が生じたということです。

相次ぐ自然災害について専門家は「最近起きたいくつかの異常気象は気候変動が原因だ。慎重にこの事態に向き合わなければならない」と指摘し、警鐘を鳴らしています。【1月10日 NHK】
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世界に残されている時間はあまりないのですが、その貴重な時間を自称“天才”にゆだねなければならいのは、アメリカだけでなく世界全体の不幸です。

100年後の人類は「どうしてあのとき、あの男を・・・」と悔やむかも。

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ロヒンギャ難民  栄養失調・ジフテリアなどの人道危機 難航が予想される帰還作業

2018-01-09 22:25:25 | 難民・移民

(ロヒンギャ難民キャンプ【12月19日 PR TIMES】)

難民キャンプで深刻化する人道危機
昨年アジアで起きた大きな問題のひとつが、ミャンマー西部ラカイン州でのイスラム系少数民族ロヒンギャに対する民族浄化と国際批判される迫害の問題でした。

周知のように、65万人ほどのロヒンギャ難民が隣国バングラデシュに流入して越年する事態となっています。

経済的に、自国のことだけでも手が回らないバングラデシュですから、食糧や環境など、大量の難民が厳しい状況に置かれていることは誰しも想像に難くないところです。

実際、人道危機の状況が伝えられており、ミャンマーへの帰還が進まないなかで事態は深刻化しています。

****ロヒンギャ難民の子供、4分の1が栄養失調で命の危機 ユニセフ****
国連児童基金(ユニセフ、UNICEF)は22日、ミャンマーからバングラデシュに逃れたイスラム系少数民族ロヒンギャ難民のうち、5歳未満の子供の4分の1が、生死にかかわる深刻な栄養失調に陥っていると発表した。
 
今年10月22日から11月27日の間に3回実施された調査の結果、過密状態にある難民キャンプに収容された乳幼児の約25%が急性栄養失調となっていることが分かったという。

スイス・ジュネーブで記者会見したユニセフのクリストフ・ブリアラク報道官は「調査を受けた子供たちの半数近くが貧血、40%が下痢、最大60%が急性呼吸器感染症を患っている」と述べた。
 
ミャンマーのラカイン州では、軍事作戦によって今年8月以降に難民化したロヒンギャの数が65万5000人を超えており、うち約半数が子供となっている。国連(UN)は、この軍事作戦は民族浄化であるとの見方を示している。【2017年12月23日 AFP】
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食糧不足だけでなく、衛生環境の劣悪さからの感染症も当初から懸念されていましたが、現在、ジフテリアが蔓延する状況となっています。

****ロヒンギャ難民に感染症広がる=人道危機、深刻に―バングラ****
ミャンマー西部ラカイン州で迫害を受けたイスラム系少数民族ロヒンギャが、隣国バングラデシュに大量脱出を始めてから4カ月超が経過した。ロヒンギャ難民の数は推計65万人超。

過密で衛生状態が悪化した難民キャンプでは、「予防接種で防げる」(専門家)はずの感染症ジフテリアが子供らの間で広がり、死者も増えており、人道危機は深刻度を増している。
 
バングラデシュ南東部コックスバザール周辺には約10カ所のキャンプがある。国連児童基金(ユニセフ)などによると、昨年11月中旬以降に難民キャンプ内で確認されたジフテリア感染が疑われる症例は3000件以上に達し、28人が死亡した。死者の約半数は子供だ。
 
発症した子供らは、ラカイン州で予防接種を受けていなかった可能性が高い。現場で支援に当たるユニセフの日本人職員、ロビンソン麻己さん(38)は喉の腫れや発熱を引き起こすジフテリアについて、「通常、致死率は5〜10%ほど。日本にいれば死亡例はあまり聞かないと思う」と指摘。他国での勤務経験がある同僚の医師も「実際の感染者はめったに見ない」と語る。
 
ロヒンギャの大量流入で、キャンプの衛生施設整備などの支援が追いつかないことも、病気の流行に拍車を掛けている。「テントはあっても、その中で地面に直接座って生活せざるを得ず、トイレなどの排水がすぐそばを流れている場所もある」(ロビンソンさん)という。
 
ミャンマーとバングラデシュ両政府は昨年11月、ロヒンギャの早期帰還で合意、今年1〜2月には帰還事業が始まる予定だ。だが、ラカイン州では多くの家が燃やされたとされ、帰還後もロヒンギャの生活環境の改善は大きな課題となる。
 
ロビンソンさんは「バングラデシュは日本から遠く、なかなか伝わらないが、問題は悪化している」と強調。支援の継続を呼び掛けている。【1月6日 時事】
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熱帯地域にあるバングラデシュですが、今年は史上最低レベルの寒波にも襲われ、8日は国内の数か所で、2.6度まで冷え込んだと報じられています。

この寒波の影響で北部では少なくとも9人が死亡しています。【1月8日 AFPより】

難民キャンプがある地域は南部ですので上記のような寒波はないとは思いますが、粗末なテント暮らしのロヒンギャ難民への影響も懸念されます。

帰還作業を急ぎたいバングラデシュ政府
いずれにしても、難民キャンプは飽和状態で、地元住民の負担や不満も高まっています。ロヒンギャが国内のイスラム過激派組織に勧誘される恐れなど治安上の懸念も指摘されています。

バングラデシュ政府には大量のロヒンギャ難民は“重荷”ともなっており、以前批判を受けて立ち消えとなった無人島への移送計画も浮上しています。

****<ロヒンギャ難民>バングラ、治安に懸念 無人島に10万人****
バングラデシュは、隣国ミャンマーで武力衝突が発生しロヒンギャ難民が急増した8月以降、国境を開放し、60万人超を受け入れた。だが、難民流入による治安悪化に対する国民の懸念は強い。

政府が推進中の無人島に難民を一時期移住させる計画は、ミャンマーへの帰還作業が難航した場合に備え、難民を「隔離」することで国民の批判をかわす狙いがありそうだ。
 
バングラは1978年と92年、ミャンマーと難民帰還の合意を交わし、これまでに約24万人を戻した。両国は先月、今回の難民危機を受け改めて帰還に向けた覚書を交わしたが、ミャンマー側は難民に紛れたロヒンギャの武装勢力は受け入れを拒否する方針を示しており、難民の選定作業は難航が予想される。
 
ロヒンギャ難民を巡っては、難民キャンプが麻薬の密売や人身売買など「犯罪の温床」とも言われてきた。またロヒンギャの武装組織の戦闘員は10月、毎日新聞の取材に対し、難民キャンプに「少なくとも30人のメンバーがいる」と証言、当局が警戒を強めている。
 
無人島移住計画は法王訪問直前の先月28日、政府に承認された。地元メディアなどによると、約2億8000万ドル(約315億円)をかけてベンガル湾のテンガルチャール島に居住区を整備し、2019年までに約10万人を移送するという。
 
この島は06年、本土から約60キロ沖合に土が堆積(たいせき)してできた。広さは約3万ヘクタールだが、雨期にはサイクロンや高潮のため大部分が水没すると言われる。

15年から計画の検討が始まったが、「非人道的」との批判を受け棚上げになっていた。今回の大量の難民流入で再浮上した格好だ。
 
ダッカ大のデルワル・ホセイン教授は無人島計画について「(ロヒンギャ難民は)地元経済や治安への影響は大きく、将来的にはテロの懸念もある。政府は住民の不安を考慮したのだろう」と話す。

また、難民の帰還条件としてミャンマーでの居住証明が必要だとするミャンマー政府の立場は、身分証を持たずに逃れた多くの難民が除外されると指摘し「本当にミャンマーが帰還を望むならば条件を緩和すべきだ。政治的意思がなければ解決しない」と語った。【2017年12月2日 毎日】
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“地元紙によると、政府高官は約10万人を移送する方針を示した。政府は12月から島で住居や道路、水道などのインフラ整備を始め、移送は来年5月ごろに始めたい考えだという。ロヒンギャの帰還後には、バングラデシュの貧困層の居住地区にする可能性もあるという。”【2017年11月29日 朝日】とも。

ただ、半年ほどで準備を進めるのは現実的ではなく、また移住を強行したり、移住後に災害がおきたりすると国際的批判を浴びることにもなるので、移住計画は難民に厳しい国内世論向けの“総選挙前のポーズ”にすぎないとの指摘もあるようです。【上記朝日より】

ただ、難民による無秩序な伐採による環境破壊、避難民の一部が安い賃金で道路工事やバイクタクシーの仕事を始めたことで、地元の人の賃金が下がり始めるような事態など、地元住民との軋轢が高まっているのも現実です。

****バングラ側にも焦り****
ロヒンギャの人たちの帰還について、両国政府は(2017年11月)23日、2カ月後から手続きを始めることで合意書を交わしたが、文書は公開されず、具体的な方法は不明のままだ。
 
90年代の当時の軍事政権の迫害で、25万人以上がミャンマーからバングラデシュに逃れた際は、92年に両国が帰還手続きに合意し、多くが帰還した。
 
ミャンマー側はこの時の合意に沿って「ミャンマー国内に居住を証明する身分証」を持つロヒンギャを受け入れるとしている。

しかし、今後同じ事態を避けたいバングラデシュ側は、ロヒンギャの国籍認定にまで踏み込んだ明確なルール作りを求め、綱引きは続く。
 
「1年以内の帰還完了」を求めるバングラデシュ政府側には、早期に問題を解決したい事情がある。
「長引けば来年末の総選挙でロヒンギャ問題が争点になる」と同国首相府の幹部は取材に明かした。国民の不満が高まれば政権への打撃になりかねず、同国のハシナ首相も「(ロヒンギャ問題は)重荷になっている」と焦りを隠せない。
 
バングラデシュ政府による正式な「難民認定」作業も進まない。IOMの担当者は、「居住が長期化することを恐れているからではないか」とみている。
 
ミャンマー側も、ロヒンギャが元の村に戻れる環境作りを進められていない。難民の動きを調査しているIOMやUNHCRによると、帰還したいと希望する難民はほとんどいないという。UNHCRの担当者は、「治安への不安から、数年キャンプで暮らすと話す人が多い」と話す。【2017年11月28日 朝日】
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バングラデシュ政府は昨年末に、10万人の帰還を1月中に始めることを発表しています。
ミャンマー政府は、の帰還受け入れを1月23日から実施する予定とも報じられています。

****ロヒンギャ10万人のミャンマー帰還を1月中に開始へ 帰還拒否で調整難航も****
ミャンマー西部ラカイン州からイスラム教徒少数民族ロヒンギャが隣国バングラデシュに大量に流入している問題について、バングラデシュ政府は30日までに、難民のうち10万人が1月中に本国への帰還を開始できる見込みであることを明らかにした。

ただ、ミャンマーに戻ることを拒否する難民も多く、順調に手続きが進むかは不透明だ。
 
英字紙ダッカ・トリビューンなどが伝えた。両政府は11月23日にロヒンギャの平和的な帰還で合意し、方法などを協議していた。
 
バングラデシュのオバイドゥル・カデル運輸相によると、今月29日に第1陣となる10万人分のリストをミャンマー側に手渡したという。バングラデシュ政府は難民を記録したデータベースを作成済みで、2016年以降にバングラデシュに移り住んだロヒンギャが帰還の対象となる見通し。(後略)【2017年12月30日 産経】
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国軍襲撃事件で帰還作業は更に難航か
帰還に関しては、ミャンマー側がミャンマーでの居住証明が必要だとしていることや、多くの難民が帰還後の治安への不安から帰還を望んでいない等の問題がありますが、ここへきてラカイン州でのロヒンギャ武装勢力による国軍襲撃事件が起きており、帰還作業への影響が懸念されています。

****武装組織がミャンマー軍襲撃、ロヒンギャ軍が犯行声明 難民帰還作業に影響も****
ミャンマー西部ラカイン州で国軍の車両が武装集団に襲われる事件があり、昨年8月に治安当局と衝突したイスラム教徒少数民族ロヒンギャの武装集団の中核組織「アラカン・ロヒンギャ救世軍」(ARSA)が7日、犯行声明を出した。
 
ミャンマー政府は、隣国バングラデシュに渡ったロヒンギャ難民の帰還受け入れを23日から実施する予定だが、ARSAと国軍の衝突が再び拡大すれば、帰還作業などに影響が出る可能性がある。
 
襲撃は5日午前、ラカイン州北部の中心都市マウンドー郊外であり、現地メディアによると、兵士6人が負傷し、うち1人は重傷。兵士を移送中の車両が遠隔操作の地雷とみられる爆発物で攻撃された後、近くで待ち伏せしていた武装集団から銃撃を受けた。
 
犯行声明は、ARSAの掃討作戦を昨年9月5日以降は停止したとのアウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相の説明が「あからさまな嘘」だと批判。ミャンマー国軍によるロヒンギャの女性や子供への「無差別殺人」が続いているとして、国軍への攻撃を正当化した。【1月7日 産経】
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事件を受けて国軍の掃討作戦が再び激化すれば、もともと受け入れ態勢が整っていなかった難民帰還は更に困難となります。そうした危険な場所に帰りたい難民は多くはないでしょう。

ただ、“帰還したいと希望する難民はほとんどいない”【前出 朝日】とは言うもの、国軍の暴力さえ収まれば一日も早く帰還したいとして、バングラデシュ側の難民キャンプにも入らず、国境の緩衝地帯で帰還を待つ人々も多くいるようです。

****<ロヒンギャ>少しでも母国近くに ミャンマー帰還うかがう****
60万人を超えるミャンマーの少数派イスラム教徒「ロヒンギャ」難民が流入したバングラデシュ南東部コックスバザール郊外のトンブルライト。

浅い小川の向こうに、ビニールシートで作られた粗末な小屋が並んでいるのが見える。避難してきたロヒンギャが暮らすキャンプだ。「ここから先はだめだ」。バングラ側から小川を渡ろうとすると、国境警備隊員に制止された。「川の真ん中が国境で、その先はミャンマーだ。外国人は行ってはならない」
 
国境である川と、ミャンマー側が設置した国境フェンスとの間は「ゼロポイント」と呼ばれる緩衝地帯だ。幅数十メートルのわずかな土地に、約6000人が暮らす。多くはミャンマー国境近隣の村から逃れ、帰還のチャンスをうかがう人たちだ。
 
「私の母国はミャンマーだ。他国に住みたくはない。ここなら母国の空気が吸える」。ミャンマー西部ラカイン州の村から逃れてきたムハンマド・アリフさん(42)はバングラ側で取材に応じ、緩衝地帯にとどまる理由をこう語った。
 
ロヒンギャの武装集団とミャンマーの治安部隊との武力衝突が起きた8月25日未明。アリフさんは突然の銃声にとび起きた。「戦争か?」。妻と母、4人の子供を外に連れ出し、近くの森に隠れた。

村は軍の掃討作戦の対象になったとみられ、その日朝に戻ると、家は焼かれていた。再び森に戻った後、27日の夜を待ってミャンマー側の国境フェンスを乗り越えたが、川岸でバングラの国境警備隊に制止された。緩衝地帯で数日過ごした後、警備隊は国境を開放したが、ここに残るのも選択肢に思えた。
 
ただ、緩衝地帯での暮らしは楽ではない。国境開放後、住民は小川を越えてバングラ側で買い物や支援物資の受け取りができるようになったが、近くには医療施設もない。それでも、バングラ内のキャンプへ向かう住民は少ないという。
 
「我々がバングラのキャンプに行かないのは、恒久的な難民になりたくないからだ」。緩衝地帯のキャンプリーダー、ムハンマドさん(51)はこう語り、母国への帰還実現に期待を示す。一方で、ミャンマー政府への不信感も強い。「帰還するにあたっては、ミャンマー政府に奪われた国籍が我々に与えられ、身の安全も保障されることが必要だ」と訴える。
 
国境の小川沿いを歩くと、難民の小屋の奥にミャンマー側が設置したフェンスが見えた。その向こうに赤いシャツの人影がのぞく。「ミャンマー軍だ。ああやって時々、監視に来る」。ムハンマドさんが吐き捨てるように言った。【2017年12月26日 毎日】
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ミャンマー側にも、バングラデシュ側にも正式に把握されていない、こうした緩衝地帯で待つ人々の帰還を、ミャンマー政府がすんなり受け入れるのでしょうか?難しいようにも思えます。

声が聞こえてこないスー・チー氏
ラカイン州での治安状況の安定にしても、難民の帰還作業にしても、非常に難しい作業ではありますが、これまで同様、この問題に関するスー・チー国家顧問の声が聞こえてこないのは非常に残念なことです。

****U2ボノ氏、スー・チー氏は「辞任を」 ロヒンギャ問題で姿勢転換****
ミャンマーでイスラム系少数民族ロヒンギャが迫害を受けているとされる問題で、アイルランドのロックバンド「U2」のボーカル、ボノ氏は、ミャンマーのアウン・サン・スー・チー国家顧問は辞任すべきとの見解を示した。ボノ氏は自宅軟禁下にあった当時のスー・チー氏の支持者として知られていた。
 
ボノ氏は、米情報誌ローリング・ストーン最新号に掲載された同誌創刊者のジャン・ウェナー氏とのインタビューで、ロヒンギャをめぐる状況を考えると「吐き気がする」と表明。

「あらゆる証拠が示していることを信じられず、本当に気分が悪くなった。だが、民族浄化は実際に起きている。それを知っている彼女(スー・チー氏)は退陣しなければいけない」と語った。
 
また、スー・チー氏は辞任すべきかをあらためて問われると、「最低でも、もっと意見を発信すべきだ。それで人々が聞く耳を持たなければ、辞任すべきだ」と語った。
 
一部の専門家らは、仏教徒が多数を占めるミャンマーではロヒンギャに嫌悪感を抱く人が多いことから、スー・チー氏は政治的リスクを取らない判断をしたとみている。また、同氏はいずれにせよ軍を統率する立場にはないとの見方もある。
 
ボノ氏はこうした見方について、「彼女は国を軍政に戻したくないのかもしれない。しかし、状況が私たちの見解通りなのであれば、彼女はすでに国を軍に渡している」と述べた。【2017年12月29日 AFP】
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もちろん、スー・チー氏の立場に立てば・・・という話はありますが、軟禁状態を脱して彼女が今の地位にあるのは、人権問題に関する強い国際世論があったからです。ロヒンギャ問題で同様の国際世論に“内政干渉”として苛立つ今の姿勢はいささか・・・・。
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モロッコ  英明な国王夫妻のもとでの改革 それでも消えない人権問題・社会不安も

2018-01-08 22:36:00 | 北アフリカ

(モロッコの抗議運動リーダー、ゼフゼフィの逮捕に抗議して釈放を求める支持者たち(昨年6月)【2017年10月31日 Newsweek】)

サルマ妃のもとで進んだ女性の権利向上
先ほど夕食を食べながら何気にTVを観ていると、「世界プリンス・プリンセス物語」(NHK)という番組をやっていました。

“池上彰と有働由美子が世界の王室を探る”という番組ですが、その冒頭で北アフリカ・モロッコのサルマ妃を取り上げていました。

美貌と知性を併せ持った平民の女性が英明な国王と結婚し、女性の権利向上に大きな役割を果たしている・・・・という趣旨の番組内容でしたが、それは一定に事実のようです。

モロッコではイスラム社会にあって女性は“影の存在”でしたが、国王の妃の名前が公表されたのも、結婚式が公開されたのも、妃の顔が公にされたのもサルマ妃が最初のことでした。

****美と教養を併せ持つ世界の王妃(写真特集*****
モロッコ王室のラーラ・サルマ妃は国を変革させた人物だといえる。ムハンマド6世とサルマ妃が初めて出会ったのは1999年初頭で、当時サルマ妃はまだ大学生であった。

サルマ妃は皇太子であるムハンマド6世がプライベートで開いたパーティーに招かれ、ムハンマド6世はここで王妃に一目惚れする。その後二人は交際を始め、最終的にムハンマド6世がプロポーズした。

しかし、サルマ妃はすぐには受け入れず、皇太子にある条件を出した。それはなんと「王室の一夫多妻制を止め、自分一人だけを妻として娶ること」であった。【2014年4月28日 Japanese.CHINA.ORG.CN】
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2005.2.25放映の「NHKBS地球街角アングル」によれば、1957年制定の家族法では
・妻は保護者である夫に従うこと
 ・女性は結婚に際し男性家族の許可を得ること
 ・一夫多妻を認める
 ・夫は同意なく妻を離婚することができる
といった内容でしたが、ムハンマド6世とサルマ妃のもとで2004年2月に制定された新家族法では
・家庭における夫婦の責任を同等とする
 ・女性は自分自身で結婚を決めることができる
 ・結婚時に妻は夫に複数の妻を持たないよう求めることができる
 ・女性からも離婚を請求できる
 と、大幅に女性の権利が認められています。【「現代世界をどう捉えるか」より】

2004年1月には家庭裁判所が初めて創設されています。

ただ、2005年の上記番組では“新家族法は、まだまだ国民全体に根付いていないのが現状です。その原因の一つは、女性の教育の遅れです。”という現状も紹介されています。

それから10年以上が経過して状況は変わっているのでしょうが、女性に関してはまだまだ改善の必要があり、改善に向けた取り組みも行われていると思います。

****不当な刑法で身の危険にさらされる女性たち****
2012年3月、モロッコ人少女アミーナ・フィラリさん(16歳)は、自分を強かんした相手との結婚を強要されたため、殺鼠剤を飲み自殺した。

フィラリさんのような悲劇は、モロッコでは珍しいケースではない。刑法第475条によれば「強かん犯罪者は被害者と結婚するとその罪を免れる」と されているからだ。しかし、今回の悲劇的な死はモロッコ社会に大きな衝撃を与え、今年1月にはこの常軌を逸した条項の改正を強く訴える動きが起 こった。

アムネスティなどの人権団体はこれに賛同する一方、女性や少女たちを暴力や差別から守るには、第475条以外のいくつかの条項も改定する必要があると訴えた。(中略)

女性を守るには不十分な新憲法
モロッコは2011年7月、男女平等を保障する新憲法を採択した。しかしアムネスティは、女性や少女らを暴力や差別から守る上で、その条項は十分ではないと考えている。

女性の権利を保護する上で重要なのは、モロッコの法律が国際人権基準に合致しているかどうかである。単なる法律の改正だけでは不十分だ。女性が男 性と同等の権利を得ることができない社会では、法律だけでなく、社会に根差した考え方が女性差別に結びついている。

警察や司法当局は、女性や少女らが受けた暴力の申し立てに対してどのような点に配慮して対応すべきか、また、被害者のいわゆる名誉やモラルではなく、彼女たちの身をどう守るべきか。警察や司法当局の教育を抜本的な施策に入れるべきである。【2013年3月11日 アムネスティ国際ニュース】
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上記事件を受けて、モロッコでは抗議運動が激化し、2014年に加害者の刑事免責を定めた条項が撤廃されています。

「強かん犯罪者は被害者と結婚するとその罪を免れる」というルールは、モロッコだけでなく中東・北アフリカのイスラム国家で多くみられますが、国内外の批判を受けて近年その改正が進んでいます。

****性暴行犯「結婚すれば赦免」、非難受け次々撤廃=中東各国****
中東や北アフリカのアラブ諸国で、性的暴行の加害者が被害者と結婚すれば罪を問われないと定めた旧態依然の法律の撤廃が相次いでいる。

人権団体から「暴行犯との結婚強要」と非難がやまず、こうした国々での女性の権利向上を阻害してきた。同様の規定が残る各国へさらに波及するか、期待が集まっている。
 
レバノンの首都ベイルートでは昨年12月、赤く染まる包帯を巻いたウエディングドレス姿の女性が街頭に繰り出した。男性が性的に暴行した女性と結婚した場合、一定の条件で男性を訴追停止とする刑法に反対するデモだった。
 
ある調査結果では、こうした「赦免」を知っていたレバノン国民はわずか1%で、6割が廃止に賛成した。国会は16日、こうした世論の後押しも受けて規定撤廃を承認。地元のNGOは「女性の尊厳の勝利だ。無理やり暴行した罪からはもはや逃れることはできない」と評価した。
 
同様の規定は、エジプトでは1999年に撤廃された。結婚を強要された16歳の少女が自殺し、法改正を求めるデモが起きたモロッコでも2014年には廃止された。
 
加害者と被害者の結婚では、暴行や虐待が一生続く危険もある。にもかかわらず、性的事件が公になって不都合を被りたくない一族の圧力を受けて結婚させられ泣き寝入りすることも少なくない。根深い因習に阻まれ、撤廃の動きは遅れていた。
 
7月にチュニジア、今月1日にはヨルダンの国会で撤廃が認められ、バーレーンでも見直しが進んでいる。国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチによると、似たような赦免はイラクやクウェート、アルジェリアなどの中東・北アフリカに加え、中南米の一部やフィリピン、タジキスタンでも認められている。【2017年8月17日 時事】
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王室は社会安定装置たりうるか?】
冒頭紹介した「世界プリンス・プリンセス物語」(NHK)では、池上彰氏が、多くの共和制の中東・北アフリカ諸国が「アラブの春」で混乱する中で、王制モロッコがその混乱を免れたことを取り上げ、王室の存在が社会安定に寄与しているのでは・・・といった趣旨の発言もありました。

共和制・大統領制国家では誰でもトップになれる権利を有しているため、多くの者が権力を目指し、あるいは軍が武力を背景にクーデターを起こし、社会が混乱することも・・・・。

モロッコやヨルダン、サウジアラビアなど王制国家が比較的安定しているのに対し、「アラブの春」を経験した多くの共和制国家が(比較的民主化が進んでいる、それ故に「アラブの春」のスタート国家にもなったチュニジアを除き)改革に失敗した・・・というのは事実ではありますが、それをもって王室・王制の社会安定効果を一般化していいかどうかは、慎重に判断すべきところです。

混乱を伴う民主主義よりは、英明君主による賢人政治や共産党一党支配の優位性を正当化する話にもつながってきます。(もちろん、池上氏もそこまでの趣旨ではなく、単に「アラブの春」の一側面として触れたにすぎませんが。ブータンが上からの改革で民主制を導入した際に、「今の王制で十分じゃないか」と反対する国民に、前国王が「今はりっぱな王様だからいいが、悪い王様になったら困るだろう」と説得した・・・という話も)

見方によっては、批判・混乱のないところからは前進も生まれないとも言えます。混乱は改革・前進のための陣痛のようなものかも。

「アラブの春」にしても今回は多くの国で失敗しましたが、これで終わった話でもなく、今後、第二・第三の「アラブの春」が形を変えながら繰り返されるのではないでしょうか。

モロッコでも改革を求める空気が
「アラブの春」は起きなかったモロッコですが、そうした改革を必要とする社会問題が無い訳ではなく、昨年末には一部不穏な空気もありました。

****アラブで高まる「第2の春」の予感****
<中東各国で強権支配が一段と強化されるなか、人々の怒りのマグマは再び煮えたぎっている>
アラブ世界で吹き荒れた民主化運動の嵐「アラブの春」の幕開けから6年余り。11年当時と比べ、アラブ人の生活はさらに耐え難いものになっている。

中東と北アフリカでは15~24歳の若年層が総人口に大きな割合を占めているが、失業は今も深刻で、若者は希望が持てない。しかも、この地域の政権は軒並み市民の政治的な発言を封じ込め、民衆の抗議に暴力で応じる姿勢を強めてきた。

アラブ諸国は「強権支配の罠」から逃れられないようだ。エジプト、サウジアラビア、さらにはモロッコでも、その病弊が表れている。

革命はしばしば裏切りに終わる。いい例がエジプトだ。アブデル・ファタハ・アル・シシ大統領の強権体質は、11年の騒乱で失脚したホスニ・ムバラク元大統領より始末が悪い。(中略)

サウジアラビアと同様、モロッコの王制も「アラブの春」の影響をほとんど受けなかった。国王モハメド6世が世論に耳を傾け、国王の権限を縮小する憲法改正と選挙の前倒し実施という賢明な対応を取ったからだ。

「上からの革命」が必要
そのモロッコが今、「アラブの春」前夜のチュニジアを彷彿させる危機に直面している。チュニジアで民主化運動が高まったきっかけは10年暮れ、露天商の若者が路上で野菜などの売り物を警官に没収され、抗議の焼身自殺をしたことだった。

モロッコでは昨年10月、魚売りのムハシン・フィクリが当局に押収された魚を取り戻そうとしてゴミ収集車の粉砕機に巻き込まれ、死亡する悲劇が起きた。

この事件が起きたのは、ベルベル人が多く住み、歴史的に抵抗の戦いで知られる北部のリフ地方。多くの住民が当局の仕打ちに怒り、抗議の波はすぐさま全域に広がった。

革命の機運が高まる時期には、無名の人物が民衆の指導者として頭角を現すもの。リフ地方では、39歳の失業中の男性ナセル・ゼフザフィがその役を担った。

彼はインターネットで公開された動画で、政府の腐敗とモロッコの「独裁体制」をベルベル語で痛烈に批判して逮捕された。ゼフザフィの演説は多くの人々を動かし、今年6月には首都ラバトで大規模な抗議デモが行われた。

国王はリフ地方の経済開発に力を入れる姿勢を見せており、国民の不満をくみ取る点では他のアラブ諸国に一歩先んじている。

実際、為政者が人々の声に耳を傾けて「上からの革命」に着手しなければ、はるかに激烈な「下からの革命」が荒れ狂うのは必然の成り行きだ。

若年層の怒りは荒れ狂う魔神のようなもの。魔法のランプから抜け出したが最後、補助金というアメをちらつかせても、弾圧というムチを振るっても、決して鎮められない。【2017年10月31日 Newsweek】
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こうした不穏な空気がその後どうなったのかは知りませんが、モロッコの抱える社会問題を伝える記事が年末にもう1件ありました。

****食料配給行事に数百人の女性殺到、15人死亡 モロッコ**** 
モロッコ西部沿岸の観光都市エッサウィラ近郊で19日、食料の配給に大勢が殺到し、女性少なくとも15人が死亡、5人が負傷した。当局と目撃者らが明らかにした。
 
事故が起きたのは、エッサウィラから約60キロのシディブラアラム。最大都市カサブランカ在住で同域出身の著名な慈善活動家が毎年行っている、小麦粉の配給行事だった。
 
ある目撃者がAFPに語ったところによると、会場には数百人の女性が殺到していたという。やはり現場に居合わせた医師は、死者は全員女性で負傷者は10人、うち2人が重体だとしている。
 
活動家らが運営するフェイスブック上の「エッサウィラ・オンラインTV」に投稿された画像には、市場が設けられた広場に集まった大勢の人々に交じって、遺体が地面に横たわっている様子が捉えられていた。
 
キャプションには、「飢餓のせいで数十人の貧しい人々が犠牲になった」「この悲劇は…議員らと当局者らの恥だ」と記されている。【11月20日 AFP】
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国王の動静を伝えるニュースとしては・・・

****国王令の下、国を挙げて雨乞い モロッコ****
農業の盛んなモロッコで24日、国王令の下、国内全土にわたってモスクで雨乞いの祈りがささげられた。映像はサレ(Sale)のモスクや、コーラン学校の生徒ら。【11月25日 AFP】
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もちろん、雨ごい以外にも取り組むべき課題は多いなか、国王は雨ごいだけを取り仕切っている訳でないでしょう。

懸念されるモロッコの人権問題
ただ、モロッコの人権・民主化については、懸念される話もいくつかあります。

****市民記者用アプリの指導でジャーナリストらを起訴****
市民ジャーナリストにスマホで記事を発信できるアプリの使い方を指導したとして、ジャーナリストや活動家ら7人が、起訴され、裁判にかけられた。この裁判をきっかけに、今後表現の自由が制限される危険性がある。

7人は、市民が記事を発信することができるスマホアプリの講座を開催した。

この裁判は、モロッコが報道の自由を守るのか制限するのか、重大な試金石となる。ジャーナリストや市民が自由に情報発信することが、国家の治安を脅かすとして起訴され、投獄される可能性がある。非常に気がかりだ。(後略)【2016年7月 1日 アムネスティ国際ニュース】
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下記は、前出【2017年10月31日 Newsweek】でも取り上げられている、リフ地方の政府に対する抗議行動に関するものです。

****抗議参加者らを多数逮捕****
モロッコ北部のリーフ地方でこの数カ月、地域の住民サービスの改善を求める抗議行動が続く中、5月末、当局は抗議参加者、活動家、ブロガーらを大量に逮捕した。

リーフ地方では、抗議行動を率いるナセル・ゼフザフィさんが5月26日に、抗議に反対する発言をした聖職者を批判したことをきっかけに、抗議行動が相次いでいた。批判する様子を撮った動画がソーシャルメディアで流された数日後、ゼフザフィさんは逮捕された。

5月26日から31日にかけて、複数の町で抗議活動があり、少なくとも71人が逮捕された。治安部隊はデモ隊に対して、時に放水銃や催涙ガスを使った。参加者の中には、投石する人もいた。双方に負傷者が出たようだった。

逮捕された人たちの中には、平和的に抗議する人やソーシャルメディアでこの様子を伝えようとするブロガーもいた。

現在は少なくとも33人が起訴され、裁判を待っている。容疑には、公務執行中の職員に対する暴力、侮辱、投石、反乱、また無許可での集会もあった。

勾留中の26人に、釈放は認められなかった。また、裁判は6月6日に延期された。彼らはアルホセイマの刑務所に拘束されている。(後略)【2017年6月14日 アムネスティ国際ニュース】
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西サハラ問題再燃の不安も
あと、モロッコが抱えるもうひとつの大きな問題は西サハラの分離独立問題です。

****西サハラで再び緊張、国連事務総長が「深く懸念****
国連(UN)のアントニオ・グテレス事務総長は、モロッコと地元武装組織の双方が領有権を主張する西サハラの緩衝地帯で再び緊張が高まっていることに「深く懸念している」と表明した。グテレス事務総長の報道官が6日発表した。
 
モロッコは、西サハラ南部のモーリタニア国境に近いゲルゲラット地区に設けられた緩衝地帯にアルジェリアの支援を受けた武装組織「ポリサリオ戦線(Polisario Front)」が繰り返し侵入していると非難している。
 
グテレス事務総長は6日の声明の中で、問題の当事者らに対し「最大限の自制」をもって緊張の増大を回避するよう求めた。
 
昨年ポリサリオ戦線がゲルゲラットに侵入した際は国連が介入しモロッコとポリサリオ戦線の双方を撤退させていた。

国連のホルスト・ケーラー西サハラ特使が数十年におよぶモロッコとポリサリオ戦線間の対立を終結させる和平交渉の再会に向けて尽力している。【1月7日 AFP】
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英明なムハンマド6世とサルマ妃が、こうした問題にも賢明に対処されることを期待します。
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インド  ヒンズー至上主義によるダリットへの暴力 そのダリットが差別する「ネズミを食べる人」

2018-01-07 23:10:07 | 南アジア(インド)

(インド・ビハール州に住む「ムサハール」の人々(2017年8月18日撮影)【1月6日 AFP】)

ヒンズー至上主義者のダリットへの暴力も
インドのカースト制最下層というか、カースト制枠外に置かれた被差別民“ダリット”(不可触民)については、2017年7月18日ブログ“インド 被差別民ダリット出身の新大統領選出でも続く、よそ者には理解しがたい差別社会
など、これまでも何回か取り上げてきました。

比較的最近のダリット関連のニュースには、以下のようなものも。

****弁護士目指す最下層出身の女子学生をレイプし殺害、被告に有罪判決 印****
インド南部ケララ州の地方裁判所は12日、同国の身分制度カーストの最下層「ダリット(Dalit)」出身で、弁護士を目指していた女子学生をレイプし、刃物で殺害した罪で起訴された被告の男に対し、有罪判決を言い渡した。この事件はその残虐性から、インド国内で激しい怒りの声が上がっていた。(中略)

インドでは女性に対する性犯罪が記録的な件数に上っており、政府の資料によると2016年には3万9000件近くのレイプ事件が報告されている。【12月12日 AFP】
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インド社会の抱える大きな問題であるダリット差別と性犯罪が融合した事件のようです。

また、モディ首相のもとでヒンズー至上主義が強まっている最近の風潮は、上位カーストによるダリットへの攻撃・排斥という社会現象も生み出しているようです。

****印カースト最下層出身者ら、ヒンズー至上主義に抗議デモ****
インドの身分制度カーストの最下層「ダリット(Dalit)」の出身者らが3日、ムンバイでヒンズー至上主義者らの暴力に対する抗議デモを行い、道路や線路を封鎖するなどした。(中略)
 
デモは、西部マハラシュトラ州プネで1日に行われた「コーレーガーオンの戦い」200周年の記念式典における暴動で1人が死亡したことを受けて行われた。

コーレーガーオンの戦いは1818年にダリット出身者らが英国軍を支援してカースト指導者層を破った戦闘である。
 
ダリットの指導者らは、ムンバイがあるマハラシュトラ州各地に広がった暴動をヒンズー至上主義者らが扇動したと非難。一方、州政府は暴動に関して司法調査を行うよう命令を出している。【1月4日 AFP】
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ダリットなど被差別者への優遇制度が、一部では「カーストの固定化」を生む現実も
部外者には理解しづらいインド・カースト制やダリットについては、多くの研究や啓蒙書などがあるとは思いますが、私を含めてそうしたものに接する機会は現実にはあまりないので、最近目にした比較的わかりやすい記事(橘玲氏)を一つだけ紹介します。

****インドのカースト制度は「人種差別」。カースト廃止を望まない被差別層もいる現実****
インド社会を体験したときに日本人がもっとも戸惑うのはカーストの存在だ。(中略)カースト制をどのように理解したらいいのだろうか。ここではそれを考えてみたい。

カーストによる職業分業は共同体を安定させるための知恵
インド旅行で驚くのは、レストランに女性の従業員がいないことだ。(中略)インド(ヒンドゥー教)では女性の顔をヴェールで覆うような習慣はないが、ウェイトレスはもちろん女性が厨房で料理をつくることもない。
 
高級ホテルのレストランでは美しく着飾った女性が受付にいるものの、彼女たちの仕事は客をテーブルに案内することで、料理を運んだりはしない。(中略)

これはヒンドゥーの“浄”と“不浄”の文化からきている。最高位のカーストであるブラフミン(バラモン)はもっとも浄性が高いが、それは不浄のものに触れると穢れてしまう。
 
浄と不浄は厳密に決められており、もっとも不浄なのは体外に排泄されるものだ。ここから月経中の女性は不浄であるとされ、その女性が触れた水や食べ物も不浄で、それを飲食することで浄性が穢れるという観念が生まれた。

さらに、女性が月経かどうかは外見から判別できないため、見知らぬ女性が触れた飲食物はすべて忌避されることになった。これが、インドのレストランに女性従業員がいない理由だ。

「女性の穢れ」という文化はインドに特有のものではなく、日本でも神社仏閣には女人禁制のところがあるし、大相撲の「神聖な」土俵に女性知事が上がることをめぐって紛糾したこともあった。「伝統」という美名でごまかされているものの、その理由は女性が「不浄」だからだ。
 
しかしだからといって、日本では、カフェやレストランでウェイトレスが持ってきた飲み物や料理を「穢れている」と感じるひとはいないだろう。

インドの特徴は、この「穢れ」の感覚が社会のすみずみまで徹底されており、街の飲食店はもちろん外国人客の多いレストランやカフェ、さらにはホテルのバーですら女性従業員が排除されてしまったことにある。
 
インドのレストランのもうひとつの特徴は男性従業員がやたらと多いことだ。

これにも理由があって、カーストの低い者が触れた飲食物は穢れており、浄性が落ちるとされている。そのため本来は、料理をつくるのも運んでくるのも高位カーストでなければならないことになる。
 
とはいえ、さすがにこれは現実的ではないから、都市部の飲食店では厨房の料理人のカーストまでは気にしないだろう。

だがウェイターの場合は、誰が高位のカーストで誰が低位のカーストかが一目瞭然になる。ゴミや食べ残しに触れるのは低位のカーストだけなので、同じウェイターが客に食べ物を運ぶことは許されないのだ。
 
こうしてインドのレストランはどこも、飲食物をサーブする係と汚れた皿を片づける係が必要になる(ゴミを拾ったり掃除をする係が別にいることも多い)。日本のレストランで1人でやる仕事を2人や3人に分けるのだから、必然的に、店は男の従業員で溢れることになるのだ。
 
このことからわかるように、カーストには分業によってできるだけ多くの男に仕事を分け与える機能がある。

女性は家庭で男に従属して生きることを強いられるが、これは労働市場から女性を締め出すわけだから、男性のあいだの競争率は下がるだろう。

身分差別と性差別は、人口圧力がきわめて高い社会で共同体を安定させるための「工夫」でもあったのだ。

インドでは3500年も前に生まれた身分差別が連綿と現在まで受け継がれている
カースト制度は3500年前までさかのぼるといわれている。
 
この頃インド大陸では、インダス川流域(現在のパキスタン)に高度な農耕文明が発達していた(インダス文明)。その北西の中央アジアには「アーリヤ」と称する遊牧民がおり、紀元前1500年頃、その一部が南下を開始してインダス川流域(パンジャーブ)に移り住んだ。これが「インド・アーリヤ人」だ。
 
その後、紀元前1000年頃に中央アジアから南のイラン方面に大規模な移動が始まった。彼らは「イラーン」と自称したが、これは「アーリヤ」と語源を同じくする。

インド・アーリヤ人とイラン人は、人種的には同じアーリヤなのだ。古代ペルシアの宗教ゾロアスター教の聖典『アヴェスター』の神々と、ヒンドゥー教のヴェーダ聖典の神々に共通するものが多いのはこれが理由だ。(中略)
 
アーリヤ人は先住民のダーサを「黒い肌の者」と呼び、自分たちの「白い肌」と比べた。さらにダーサは、「牡牛の唇を持つ者」「鼻のない(低い)者」「意味不明の敵意ある言葉をしゃべる者」とも呼ばれている。

こうした先住民の多くは、現在、南インドに多く住むドラヴィダ系のひとたちだと考えられている(山崎元一『古代インドの文明と社会』)。
 
カースト制度というと「ブラフミン(司祭階級)」「クシャトリア(軍人階級)」「ヴァイシャ(商人階級)」「シュードラ(奴隷)」を思い浮かべるが、この身分の区別は「ヴァルナ」と呼ばれている(このうちブラフミンからヴァイシャまでが高位カースト)。

ヴァルナの原義は「色」だ。ここから、カースト制の起源は(白い肌の)アーリヤ人による(黒い肌の)先住民の征服にあると考えられている。この4つのカーストの下に、「アンタッチャンブルズ」と呼ばれる不可触民がいる。
 
(中略)今日の日本で、「弥生系」と「縄文系」のあいだに身分差別があるなどということはなく、そもそも自分が弥生系なのか縄文系なのか誰も気にしない。弥生人と縄文人という異なる「人種」は、完全に融合してしまったのだ。(中略)

ところがインドでは、3500年も前に生まれた身分差別が連綿と現在まで受け継がれている。この気の遠くなるようなタイムスパンが、カースト制のいちばんの特徴だ。

カースト制の本質は「人種差別」
「カースト」の語源はポルトガル語で「血統」を意味する「カスト」で、その後のイギリス統治時代に、インド社会に固有(とみなされた)の複雑な身分・職業区分が「カースト制」として整理された。

こうした経緯から「(現在の)カースト制は植民地時代にイギリスがつくった」との主張もあり(これについては次回述べる)、その立場からはカースト制を安易に古代インドにまでさかのぼって説明するのは「偽歴史」と批判されるかもしれない。
 
しかしそれにもかかわらず、古代インドの身分差別(ヴァルナ)は現在のインドを理解する鍵となっている。なぜならこれが、「不可触民(アンタッチャブルズ」と呼ばれる差別されているひとたちが、自らの来歴を語る物語だからだ。
 
彼らの物語によれば、アーリヤ人という「人種」が先住民という「人種」を支配し、奴隷化したことで身分差別が生まれた。

これは時代が異なるものの、アメリカ南部において白人農場主がアフリカの黒人を奴隷として使っていたのと同じだ。

すなわちカースト制の本質は「人種差別」であり、反カーストの運動はインド社会に固有の問題ではなく、人種差別に反対する世界的な運動とつながっているのだ。(中略)

現代インドは3500年前と同じく、アーリヤ人種(白人)が先住民であるダリット(黒人)を差別し、抑圧し、奴隷化している「人種差別国家」なのだ。

「カースト制はバラモンたちが作ったものであり、それを先住民に強制したのです」と、(不可触民の政治団体)バムセフ委員長はいう。

「彼ら(バラモン)は被征服者であるダリットを3000ものジャーティ(職業区分)に分断し、そのジャーティーの中で互いに憎み合わせ、闘わせてきました。そして一切の知的能力、知識を奪い取り、物事を正しく見、判断する力を根こそぎにしました。(中略)
 
不可触民の政治団体の委員長がここまで激しく高位カーストを批判するのは、ナレンドラ・モディ現首相が率いる政権与党BJPが、ヒンドゥトヴァ(ヒンドゥー・ナショナリズム)による民族融和を進めるために、「アーリヤ種族はもともとインドにいた先住民だ」と主張しているからだという。

アメリカの人種問題にたとえるなら、これは白人が「人類の故郷はアフリカなのだから、自分たちもアフリカ起源だ」というようなもので、これまで差別されてきたダリットからすれば許しがたい主張なのだ。

被差別層が必ずしもカーストの撤廃を求めているわけではない
カースト問題が難しいのは、被差別層(ダリット)が必ずしもカーストの撤廃を求めているわけではないことだ。

そもそもインド憲法は、17条で「不可触民制は廃止され、いかなる形式におけるその慣行も禁止される。不可触民制より生ずる無資格を強制することは処罰される犯罪である」としてカーストによる差別を禁じているものの、カースト制度そのものの撤廃を宣言したわけではない。
 
なぜこのような条文になったかを説明しようとすると、インド独立をめぐるさまざまな利害対立が顕在化した1930年代の複雑な交渉過程から説き起こさなければならないが、要約すると次のような経緯だ。
 
ムスリム勢力が「自分たちはマイノリティ(少数民族)ではなく一民族である」として独立を強行したことで、ガーンディーは残されたインドを「ヒンドゥーの国」として統一するほかなくなった。
 
当時、ヒンドゥーの進歩派(改革派)のあいだでは、「ヴァルナは差別的なヒエラリキー(階層構造)ではなく、たんなる分業形態に過ぎず、本来、不可触民を含めすべてのカーストは平等である」という思想が唱えられていた。

いわば、カーストから差別性を取り除き近代的な平等に適合させようとしたのだが、ガーンディーがかなり無理のあるこの「進歩主義」に与したのは、ヒンドゥーを全否定することで社会が混乱し、イギリスに介入の口実を与えインド独立が頓挫することを恐れたからだった。

「カースト制は差別ではない」という“きれいごと”に対して真っ向から反論したのは、不可触民出身の政治家で、インド憲法の起草者でもあったアンベードカルで、「差別され、排除されてきた不可触民がヒンドゥーの一部であるわけがなく、(ムスリムと同じ)独立した民族として分離選挙(自治)を認められるのが当然だ」と主張した。
 
しかしガーンディーは、アンベードカルのこの分離主義をぜったいに認めることができなかった。イギリス植民地政府がイスラーム勢力の要求をいれて分離選挙を認めたことがパキスタン建国につながったからで、4000万~5000万人といわれる不可触民に分離選挙が認められれば、独立インドが内部から解体してしまうおそれがあった。

1932年、イギリス首相マクドナルドが、カースト差別撤廃運動の高まりを受けて不可触民への分離選挙を認めると(コミュナル裁定)、ガーンディーが断食によって抗議したのはこれが理由だ。
 
この「生命を賭した抗議」によってアンベードカルは妥協を余儀なくされたが、ガーンディー側も「カースト差別はヒンドゥー教徒のこころの問題」というきれいごとで済ますことはできなくなった。

こうしてインド憲法に、カースト間の差別を禁止するとともに、カースト制度によって差別されてきたひとびと(指定カーストおよび指定部族)に対する特別規定が設けられ、衆議院および州立法議員の議席が「留保(リザーブ)」されることになった。

分離選挙を撤回する代償として、被差別層に対する政治的権利の優遇を憲法で定めたのだ。この「リザーブ制度」が、インド版のアファーマティブアクション(少数民族優遇措置)になる。
 
このようにして独立後のインドでは、特別な教育的・福祉的支援によって不可触民の地位を引き上げると同時に、大学や行政機関において「特別枠」を用意することで、彼らをヒンドゥーに「包摂」することが国是となった。

リザーブ制度によって、不可触民のなかから高等教育を受け、行政機関で高位の職に就いたり、経済的・社会的に成功する者が現われ、バムセフのようなダリット(不可触民)のための政治団体も誕生するようになる。
 
リザーブ制度は不可触民の権利拡大運動の成果であり、差別の解消に寄与したものの、その反面、ダリットの政治活動は深刻な矛盾にさらされることになった。

彼らが求めるのはカーストの撤廃だが、そうなると「指定カースト」への優遇措置もなくなってしまうのだ。こうしてダリットのあいだに、自らのアイデンティティは「被差別」にあるとして、これまでの既得権を守りつつより大きな政治的権利を求める動きが主流になっていく。これが、「カーストの固定化」と呼ばれる現象だ。
 
不可触民たちの政治活動は、差別撤廃を求めつつ差別に依存するようになった。現代のインドでは、カーストが解消されるどころか、低位カーストが政治団体化し国政や州議会で政治家に圧力を加えることで、それぞれのカーストの政治的利益を競っているのだ。
 
マイノリティ(差別される少数者)への優遇措置は彼らの地位向上に資すると同時に、深刻な社会の対立を引き起こす。同様の政治現象は、アメリカの人種(黒人)問題だけでなく、アパルトヘイト後の南アフリカで黒人を対象に行なわれているアファーマティブアクションでも起きている。

カースト制はインド特有の宗教や文化ではなく、「差別のない社会をいかにつくるか」というグローバルな課題の困難さを象徴してもいるのだ。【2017年5月25日 橘玲氏 「橘玲の世界投資見聞録」】
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上記“カースト制の本質は「人種差別」”という主張がどこまでオーソライズされた見解かは知りませんが、”被差別層が必ずしもカーストの撤廃を求めているわけではない”というインド建国時の経緯と現状分析は非常に参考になります。

多くのダリットからも差別される「ムサハール」(ネズミを食べる人)】
カースト制のもので差別を受けるダリットですが、どんな差別を受ける者であっても、人間は見下す者をつくり出し差別する生き物であり、ダリットからも差別を受ける人々が存在するとのことです。

****印カースト最下層にさげすまされる社会集団「ネズミを食べる人****
インド・ビハール州に住むペカン・マンジーさん(60)は、ちょろちょろと腕を這いあがってくるネズミのすばしっこさに苦労させられたようだったが、何とか捕らえて地面に押さえつけ、その頭部を数回叩いて殺した──。
 
(中略)ペカンさんは、インドで最も疎外された社会集団の一つ、「ムサハール(Musahar)」に所属する一人だ。約250万人いるムサハールの人々は別名「ネズミを食べる人」と呼ばれ、カースト(身分制度)の最下層「ダリット(Dalit)」からもさげすまれている。
 
近所の住民、28歳のラケシュ・マンジーさんは自らの暮らしを嘆き、「1日中何もせずに家で座っている。農場で仕事がある日もあるが、他の日は何も食べないか、ネズミを捕って手に入るだけの穀物と一緒にそれを食べる」と説明した。
 
ペカンさんはこんがりと焼けたネズミを火から下ろし、肉の柔らかい部分をつつきながらこう語った。「国や州の政府は変わったのかもしれないが、われわれにとっては何も変わっていない。これまで通り食べて、生きて、眠るだけ。先祖たちと同じように」(中略)
 
こうした状況について、ビハール州で2014年にムサハールとしてインド初の州首相に就任したジタン・ラム・マンジー氏は、「われわれの生活や将来を変えられるのは、教育の他にない」と語る。

「私の出身コミュニティーは非常に虐げられてきた。政府の記録にさえ実際の人口は記載されていないと思うが、ざっと800万人はいるだろう」
 
マンジー氏がインド最大の人口を抱えるビハール州のトップを9か月間務めたことは、ムサハールにとって大きな前進だったと考えられている。(後略)【1月6日 AFP】】
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なお“ムサハール”と“ダリット”の関係については、“国内に29あるダリットの中でも最下層と言われる「ムサハール」(野ネズミを捕る人々)”【2014年8月24日 「カトリック新聞」】とも。
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フランス・マクロン大統領  外交面で存在感 国内改革断行も乗り切る EUの顔となれるか?

2018-01-06 21:58:29 | 欧州情勢

(昨年12月22日 パレスチナ自治政府アッバス議長との共同記者会見で 【在日フランス大使館HP】)

外交 トランプ大統領に臆することのない“活躍”で存在感 トランプ氏とは個人的関係も
昨年5月にフランス大統領に選出されたエマニュエル・マクロン氏は39歳での大統領就任、19世紀に40歳で大統領となったナポレオン3世よりも若く、フランス史上最年少です。
年末12月21日に誕生日を迎え40歳となりましたが、まだまだ若き大統領に変わりはありません。

そのマクロン大統領、トランプ大統領が「アメリカ第一」で引きこもり、世界に関心を示さない、あるいは混乱させるなかで、中国・習近平国家主席と並んで、空白を埋めるかのように外交面では存在感を強めています。

トランプ大統領のエルサレム首都発言で中東世界は混乱し、パレスチナ自治政府は、アメリカはもはや和平協議で仲介者たり得ないと反発していますが、12月22日、マクロン大統領はアッバス議長と会談、アメリカに代わる仲介役に名乗りを上げています。

共同記者会見では、「私はアッバース大統領に、アメリカ大統領が下したエルサレムに関する決定に賛成していないことを改めて伝えました」「フランスはパレスチナの友好国です。私たちは(中略)、今後数週間もイスラエルとの対話と建設的な作業を継続することを希望しつつ、パレスチナの側に立ち続けます。」【在日フランス大使館HP】とも。実にはっきりした言い様です。

レバノンのハリリ首相の辞任騒動やカタール問題でも、事態安定化に向けて一役買って出ています。

その“活躍”の背景には、“握手対決”が評判になったトランプ大統領との強い個人的関係があるとも指摘されています。一定に信頼関係があるから、異なる対応も臆せずできる・・・ということでしょうか。

****マクロン仏大統領、臆せず中東仲介役名乗り・・・評価と危うさ同居****
トランプ米政権の中東外交が迷走する中、フランスのマクロン大統領が中東の新たな仲介役として名乗りをあげている。成果を挙げられるか否かは未知数だが、臆するところがない。
 
マクロン氏は22日、パレスチナ自治政府のアッバス議長とパリで会談した。聖都エルサレム問題で、アッバス氏が「米国はもう和平交渉の仲介役ではない」と訴えると、「米国は和平交渉から置き去りにされた。私は同じ失敗はしない」と応じた。今月10日にはイスラエルのネタニヤフ首相を大統領府に招き、ユダヤ人入植凍結を促した。
 
アラブ圏への関与にも積極的だ。11月、レバノンのハリリ首相がサウジアラビアで突然辞任を表明すると、即座にサウジ入りし、皇太子と会談。ハリリ氏をパリに招いて首相留任につなげ、レバノン安定に一役買った。
 
今月7日には、サウジやエジプトが断交するカタールを訪問。クウェートの仲介を支持した。

シリア情勢では内戦終結を視野に「アサド政権と話さないわけにいかない」と発言し、アサド大統領退陣を求めたオランド前政権の方針を修正した。

活発な外交の背景にあるのは、トランプ大統領との個人的関係への自信。立場は異なっても、欧州首脳の中でもっとも頻繁にトランプ氏と電話会談する。英独首脳は国内政治でもたつき、外交の余裕がない。
 
一方、マクロン外交は危うさもはらむ。イランの弾道ミサイル開発では、トランプ政権と共に圧力強化を主張。イランの反発を買い、イラン核合意の順守を求める欧州の足並みを乱した。

入植凍結の提案では、ネタニヤフ首相から何の返答も得られなかった。
 
仏国内で、マクロン外交への評価は高い。フィガロ紙は「フランスがやっと外交の中心に復活した」と論評した。世論調査の外交への支持率は61%に達した。【2017年12月24日 産経】
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マクロン大統領が、電話会談などでトランプ大統領とどこまで意思疎通をはかっているのかは知りません。

地球温暖化問題では、トランプ大統領の協定離脱を受けて、環境問題を牽引していく姿勢を示しています。
環境問題に深い関心があるというより、うまく利用している・・・という指摘も。

****<仏大統領>環境問題けん引役 米離脱で国際社会結束を確認****
パリで12日開催された地球温暖化対策に関する国際会議「ワン・プラネット・サミット」を主催したフランスのマクロン大統領は、地球温暖化対策の新枠組み「パリ協定」からの米国の離脱を受けて国際社会の結束を確認し、環境問題のけん引役を果たしてフランスの存在感を高めることを狙っている。
 
「再交渉する用意はないが、(米国が)戻るなら歓迎する」。開催前夜の11日、マクロン氏は米テレビにそう述べた。就任後は「気候外交」を推進し、トランプ氏を含む各国首脳に環境問題への取り組みの必要性を説いてきた姿勢の反映だ。

とはいえ4〜5月の仏大統領選では、環境問題に「無関心」と批判された。(中略)
 
マクロン氏は大統領就任後、オランド前政権から引き継いだパリ協定というフランスの「成果物」を国内外で最大限に活用した。

6月にトランプ氏がパリ協定離脱を表明した際は「米国と地球にとり誤り」と英語で失望を表明。トランプ氏の売り文句「米国を再び偉大に」を使い、「地球を再び偉大に」と呼びかけた。

環境問題で国際的影響力を高め国内での支持にもつなげたいマクロン氏にとり、米国の協定離脱は「望外の贈り物」(仏紙リベラシオン)だった。(後略)【2017年12月12日】
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マクロン大統領はアメリカに拠点を置く複数の科学者に対し、フランスに拠点を移し温暖化研究を行うための助成金を付与するとも発表しています。

こうした一見アメリカに対し挑戦的とも思える行動ができるのも、トランプ大統領との個人的関係があるからでしょうか。

【“EUの顔”“トランプ暴走に歯止めをかける最後の砦”への期待感も
これまで欧州世界をリードしてきたドイツ・メルケル首相が連立交渉に苦しみ、イギリス・メイ首相は離脱問題に埋没している状況で、“EUの顔”となることも期待されています。(あるいは、本人が希望しています。)

****EUの顔となれるか 仏マクロン大統領****
2017年11月、フランスのマクロン大統領がアメリカの雑誌「タイム」の表紙を飾り、「欧州の次の指導者」と評された。

39歳の若さで大統領に就任したマクロン氏。EU(=ヨーロッパ連合)からの離脱を決めたイギリスのメイ首相や、2017年9月の議会選挙で大幅に議席を減らし指導力低下が目立つドイツのメルケル首相とは対照的に、欧州でその存在感を増している。

「欧州の次の指導者」を自負するかのようにマクロン大統領は就任直後から国際舞台での言動を活発化させている。EUの政策をめぐっては、ユーロ圏共通の予算や財務相創設などさらなる欧州の統合を提案。

また、アメリカのトランプ大統領が中東のエルサレムをイスラエルの首都と認めた問題ではイスラエルとパレスチナ自治政府、双方の首脳と相次いでパリで会談し、仲介役に名乗りを上げた。

2017年12月には120か国以上が参加する環境サミットを自ら主催。トランプ政権が脱退を決めた「パリ協定」の促進を確認するなど、矢継ぎ早に動いている。

一方、フランス国内では国際競争力強化のための規制緩和や痛みを伴う経済改革に着手。企業が労働者を解雇する際の手続きや負担を軽減する労働法の改正で硬直的な労働市場にメスを入れた。

また、予算削減のため低所得者向けの住宅補助を削減する一方、経済活性化のため企業や富裕層に対する減税を打ち出した。

国内経済の成長率見通しも2011年以来の高水準で、“マクロン改革”が結実すれば経済成長は一段と加速する可能性も指摘されている。

しかし、一連の改革に対しては「金持ち優遇」との批判も一部で上がっており、労働組合や年金生活者などの反発は大きくなっている。支持率は、大統領就任直後の60%台から2017年9月には40%台に急落した。失業率は2018年6月末で9.4%と予想され、雇用の創出が遅れている現状も浮き彫りになっている。格差拡大への不満が国民のグローバリズムやEUへの疑念や反発につながるとの指摘もある。

今後、経済政策で後回しにされている、と感じる人たちの底上げを図ることができなければ4年半後の大統領選挙で極右政党が再び台頭する筋書きが現実味を帯びてくる。

2018年は大きな政治イベントが予定されていないだけにマクロン大統領は、さらに年金改革や議会の定数削減などに乗り出すとみられている。

AFP通信によると、大統領の側近の1人は「大統領は非常に長期的な視野で改革に取り組んでおり、譲歩するつもりはない」と語っている。改革の果実を広く行きわたらせることができるのか。マクロン大統領の手腕が問われる1年となりそうだ。【1月3日 日テレNEWS24】
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内政 不人気な“マクロン改革”断行で支持率を落とすも、異例の回復 今後は改革の成果次第
上記記事にもあるように、国際面での“活躍”の一方で、国内的には“マクロン改革”断行によって支持率を減らしています。

あるいは、国民の一部に不人気であることは最初から分かっている“改革”ですから、“支持率低下にこだわることなく改革を進めている”と言うべきでしょうか。

****マクロン仏大統領就任半年】支持率低下も改革まっしぐら 大統領選の全公約に着手****
フランスのマクロン大統領は14日、就任から半年を迎えた。国の競争力増強を目指し、大統領選の全公約を実現、あるいは国会に提案し、猛スピードで規制緩和に取り組んでいる。
痛みを伴う経済改革で支持率は30%台まで急落したが、「フランスには意識革命が必要」とお構いなしだ。
 
今秋、パリではマクロン改革に対する抗議デモが相次いだ。労働組合や年金生活者、学生らが「大統領は金持ちびいき」「労働者を守れ」と連呼した。ただ、規模や迫力は今ひとつ。改革に好機を見いだす若者も多いからだ。
 
たとえば、日曜日の百貨店営業。以前は「労働者保護」のため禁じられていたが、規制緩和で可能になった。社会党のオランド前政権時代、経済相だったマクロン氏が雇用創出を目指して実現したものだ。中心部の店はいま、どこも週日に買い物に行けない共働きカップルであふれている。
 
大統領就任後、ただちに硬直的なフランスの労働市場にメスを入れた。最大の成果は、9月の労働法改正。企業の解雇手続きを簡略化し、負担も軽減した。
 
仏企業は独英に比べ、解雇が困難。外国企業が景況悪化で人員削減しようとすると、「本国の業績はどうなっているのか?」と調べられた。

労働裁判所に提訴され、多額の賠償金を要求されるケースが多く、進出した日本企業に「できるだけ人を雇うな」と弁護士が助言するほど。これが約10%で高止まりする失業率の一因だった。25歳未満では4人に1人が失業者だ。
 
オランド前大統領は同様の雇用改革を模索したが、党内の造反と労組の反発に合い、ついには再選断念に追い込まれた。マクロン氏は今年6月の下院選の大勝利の勢いに乗って、国会審議を経ずに政令で法改正する「離れ業」で一気に実現させた。
 
目下の課題は富裕税の廃止。ミッテラン社会党政権が1980年代、「所得再配分」を目的に導入した。マクロン氏は「金持ちに課税しようとしても、みんな海外に逃げるだけ。雇用創出には企業家が必要」と主張して先月、国会下院で可決させた。

経済学者のトマ・ピケティ氏は「歴史的過ち」と批判したが、大統領はテレビのインタビューで「金持ちへの嫉妬で国を麻痺させてはいけない。私は若者が立身出世できる国にしたい」と反論。さらに「改革の結果は2年以内に出す」と公約した。
 
社会党政権の経済相だったとは思えない右旋回で、マクロン当選を支えた中道左派の失望は強い。「伝統破壊の大統領」(左派系リベラシオン紙)の批判も強く、最新の世論調査で支持率は38%に低下した。
 
だが、パリ政治学院のザキ・ライディ教授は、「彼の改革は英独など他の国では当たり前のこと。保革2大政党制ではしがらみで実現できなかった。マクロン氏は大統領の指導力を回復した。5年後の大統領選までに国民に『わが国も変われる』と実感させることが重要だ」と指摘する。(後略)【2017年11月14日 産経】
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マクロン大統領にとって好都合なのは、改革への不満の受け皿となるはずの野党が総崩れ状態にあって、マクロン追撃に乗り出せないことです。

****がたつく対抗勢力 共和党や国民戦線は内紛****
・・・・一方、支持率が下がるマクロン氏に攻勢をかけたい野党だが、いずれも党勢回復はおぼつかない。
 
FN(極右国民戦線)は、ルペン氏の右腕だった戦略担当のフィリポ副党首が離党し、独自の政治運動体「愛国者」をつくった。大統領選の敗因の一つとされる「脱ユーロ」路線の見直しに異を唱えたうえでの行動だった。

ルペン氏の求心力の衰えは隠せない。立て直しに向けて、極右のイメージが拭えない党名の変更も視野に入れている。
 
最大野党の中道右派・共和党は、マクロン陣営が総選挙で圧勝した国民議会(下院)で会派が分裂。12月に党首選を予定するが、大物は参戦しなかった。最有力の党内右派の候補に対して穏健派はすでに不支持を明言しており、挙党態勢を取るのは難しい情勢だ。
 
社会党は下院議員が10分の1ほどに激減した。党公認で大統領選に挑んだアモン元国民教育相は下院選でも落選。党内の支持が十分に得られなかったしこりを抱えて離党した。党トップの第1書記も下院の議席を守れずに辞任。リーダー不在の状態が続く。党本部の建物も、資金難から売却に追い込まれた。
 
既存の政党に属さずに大統領の座を射止めた「マクロン旋風」は、各党に深い爪痕を残している。【2017年11月20日 朝日】
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こうした政治状況も幸いして、改革への批判は予想されたほどの大きなうねりとはならず、マクロン大統領の支持率は回復傾向にあります。

****フランスを古臭い規制の封鎖から解放する」マクロン政権の1年に見る“小泉純一郎節****
「秋には、政権を揺るがす大混乱が国内で起きるだろう」。2017年5月、マクロン大統領が誕生した時、フランス中の誰もがそう思っていた。
 
2016年春、オランド大統領のもとでエルコモリ労働大臣が労働法改正を行ない、連日激しいデモに見舞われていたが、マクロン氏は、選挙戦中から労働組合が「XXLサイズ」と皮肉を込めて呼んだ、よりドラスティックな「労働法改革」を掲げていた。

そして大統領に当選するとすぐに公約通り法改正に着手。しかも国会から授権されて政令で立法するオルドナンス(委任立法)という手法を使って、9月に労働法改正を実現し、企業の解雇手続きを簡略化。国会審議を封じ込めた。

マクロン政権の支持率は急落した。たとえばJDD(ジャーナル・ドゥ・ディマンシュ)紙では、2017年6月には64%あった支持が8月には40%にダウン(フランスの世論調査機関であるIfopのデータに基づく)。

一般的に、大統領選出から3カ月間は「100日間の恩赦期間」といわれ、国民もあまり批判せず様子見する時期だ(サルコジ氏などは同時期に65%から69%にあがっていた)。

ふと、あの「異色の宰相」の顔がよぎった
ところが、冒頭の「2017年大混乱」予想は見事に外れた。デモは起きたが、その動きは全国的に広がらなかった。それどころか、12月17日付のJDD紙では支持率52%に回復したのだ。

調査機関Ifop関係者は「近頃、フランス元大統領たちの支持率はいったん低迷すると誰一人として回復していない」と語っている。JDD紙とは別のメディアでも、マクロン政権の支持率は30%で底を打って横ばいから上昇。異色の大統領だといえる。
 
増え続ける失業、社会格差、治安の悪化。サルコジ、オランドは何の結果も出せず、事態はますます悪化するばかりだったフランス。そこに、彗星のごとく現れて、当選。すぐ後の日本の衆議院にあたる国民議会選挙でも圧勝して「マクロン改革」を断行……。
 
マクロン政権の大躍進を目の当たりにして、私の頭には、ふと、あの異色の宰相小泉純一郎元首相の顔がよぎった。(中略)

マクロン大統領が目論む「2022年の再選」と「外交シフト」
マクロン大統領がこれだけ急いで改革を行ったのには、とにかくはじめの1年で大きく変革して、結果を待ち、2022年の再選を狙うという目論見がある。(中略)

(改革の“痛み”で)マクロン大統領の支持率も再び下落するかもしれない。しかし、ポピュリストであったサルコジ、オランド両大統領とは異なり、国民と一定の距離を置くスタンスのマクロン氏は、一喜一憂することはないだろう。

 
2018年、マクロン大統領は外交に重心を置くようになると思われる。フランスでは、アメリカと違って内政は首相の責任である。経済産業デジタル大臣時代からの「マクロン・マター」だった労働法改正が終わったので、内政でわざわざ矢面に立つ必要もない。
 
ドイツが組閣すらできない状況が続くなかで、マクロンの外交シフトは、EUひいては国際情勢全般にとって好都合である。なぜなら、EUで勃発している諸問題の「仲介役」をマクロン大統領が果たすと期待されるからだ。
 
現在のEUでは、ポーランドやハンガリーによるEU基本理念からの逸脱行為や、賃金格差による東側から西側への労働者の流入など、「EU内部の東西問題」が顕在化している。「エルサレム問題」に象徴される中東問題も喫緊の課題としてあげられるだろう。

 さらに言えば、マクロン大統領には、アメリカの暴走に歯止めをかける最後の砦としても機能することが有望視されているのだ。【1月2日 広岡 裕児氏 文春オンライン】
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アフリカ  資源バブルが終わり中国のアフリカへの関心も低下? 日本に求められるものは?

2018-01-05 22:21:50 | アフリカ

(中国企業「中国伝声」は「眼」と「歯」によって「顔」を認証する「美黒撮影」などを開発するなど、アフリカの現地ニーズに応えることで急成長したとのこと。【2017年12月7日 「すまほん」】)

現地ニーズに的確に応えてアフリカで急拡大した中国企業も
世界各地で中国製品が氾濫していることは今更の話です。

先月、15年ぶりに観光したカンボジア・シェムリアップに到着した際の街の第一印象は、中国語の看板を掲げた商店が多いことでした。観光客に中国人が多いことは言うまでもないことです。

それでも、シェムリアップに暮らす日本人に聞いた話では「首都プノンペンは中国化が著しくなじめない」とのこと。今回プノンペンは1泊しただけでよくわかりませんでしたが、中国の影響はシェムリアップの比ではないようです。

上記のような話は、アジアでもアフリカでも、その他地域でも同様でしょう。

アフリカについてみると、中国のアフリカ進出は資源確保目的で、現地住民の利益に必ずしもなっていないとか、現地での反発も強まっている・・・云々は、よく聞くところです。

ただ、中国製品がアフリカなど世界各地に浸透しているのは、中国の世界戦略に沿った国際政治的思惑とか、低価格路線だけの話ではないようです。

****美黒撮影」?中国人に無名の中国メーカー、アフリカで大人気****
(中略)
柔軟なローカライズでアフリカ市場で躍り出る
昨年、ある中国製スマホ・ケータイが、価格の安さ・耐久性・「美黒」や「歯と眼へのフォーカス」、「防油指紋識別」といった、柔軟なローカライズ設計により、アフリカ市場への進出に成功しました。
 
今年上半期、この中国メーカーがアフリカで5,000万台を売り上げ、SAMSUNGを追い抜いて、アフリカ市場販売台数第一位に躍り出たとの海外媒体から、「アフリカ人は中国の携帯電話(中国ではスマホもケータイと同じく「手机」と呼ぶ)をこう見ている」という記事が「北京時間」に掲載されました。

アフリカ大人気の中国メーカー、中国国内では無名
「北京時間」によれば、アフリカ市場で販売台数第一位となったのは、「中国传音控股」(中国伝音ホールディングス・Transsion Holdings、以下「中国伝音」)。

今年のグローバル販売目標は、41カ国で1億2千万台、創業者は現在の目標を南アジア市場としており、IDCのデータによれば、昨年第4四半期にインド市場で第2位になっているそうです。

「誰だこいつ?!」という感じですが、中国市場でも販売していないメーカーらしいです。(中略)

深圳の“山寨(パクリ)”から脱却、アフリカで苦節十年
中国伝音は2007年から、激戦地である中国・東南アジア市場でしのぎを削る深圳の同業者を横目に見て、サハラ以南のアフリカ市場に活路を見出したといいます。
 
ちなみに「サハラ以南」は「サブサハラ」とも呼ばれ、「世界最後発地域」の代名詞でもあります。
 
では、中国伝音がアフリカ市場でした努力とは?

成功の秘訣は「眼認証」「歯認証」によるカメラ画質向上
(中略)では、暗いところで黒人をスマホで撮影するとどうなるか?「暗けりゃお前なんて見えねえよ」といわんばかりの写真になってしまいます。「アウトレイジ」みたいですね。
 
これではいかんと、中国伝声は「眼」と「歯」によって「顔」を認証する技術を開発しました。従来の「顔認証」は「顔面」だったんですね。
 
「美白」ならぬ「美黒」の美顔モードを発展させるべく、伝音は特別チームを編成。現地人の写真を大量に収集して、輪郭、露光補正、現像効果について分析。アフリカの消費者が満足できる写真を撮れるようにしたといいます。

アフリカらしい「防汗」「音楽」などの特色
また、灼熱の気候条件では、携帯電話を持つ手がすぐに汗でベチョベチョになることから、中国伝音は防汗、滑り止めなどを具えたスマホを開発したとも。
 
さらに、アフリカ朋友が音楽好きで、リズム感が強いことから、「音楽携帯電話」を開発したとか。「起動音楽は永遠に終わらない」くらい長く、「着信音は全世界に聞こえないのが残念」なくらい大きいようです。(中略)

中国伝音はテレビCMばかりでなく、電柱に広告を貼ったり、壁に直接ペンキで広告を描いているそうです。さらに、なにせ「農村で都市を包囲する」のが好きな中国なので、アフリカ市場でも大都市で販売するだけでなく、販売員に携帯電話を大きな箱に詰めさせ、田舎へやって行商までしているといいます。

現地のニーズを的確に把握、今後に注目
現地のニーズを研究しつくした商品開発、驚きの低価格、アフリカの田舎まで入り込む販売方針。市場を制覇するためにすべきことを、全部やっているのではないでしょうか。(後略)【2017年12月7日 「すまほん」】
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非常に興味深い記事です。
よく、日本国内でアメリカ車が売れず、アメリカが不満を言い立てることに関し、日本側の反応は「アメリカは日本人のニーズに沿った車を作っておらず、売れないことへの不満ばかり並べている」といったところでしょう。

上記「中国伝音」の開発・販売姿勢を見ると、日本企業も海外で売るための工夫・努力をどれほどしているのか?「いいものを作れば売れるはず」だけでは、アメ車が売れないことに苛立つ米企業と大差ないのかも・・・という感も。

中国の影響力・存在感に比べ、アフリカにおける日本の影の薄さはどうにも否定できないところですが、そもそも日本の場合、本気でアフリカに進出しよという考え自体が希薄だとも思えます。

“広いアフリカ大陸に日本人は8000人しかいませんが、驚くことに中国人は、あくまで推計値にすぎませんが約110万人も進出しているのです。”【1月5日 文春オンライン】

8000人対110万人・・・・話になりません。日本の影の薄さの原因でもあり、結果でもあるのでしょう。

こうした状況で、中国のアフリカへの投資・進出を、やれ資源確保目的だ、政治的思惑だ、「新植民地主義」だ等々言い立てても、“負け犬の遠吠え”でしかないでしょう。

【「アフリカから中国人の帰国ラッシュが始まった」】
「中国伝音」のような努力もあってアフリカに拡散した中国企業ですが、現在はむしろ“アフリカからの撤退”が進んでいるとの指摘もあります。

****中国人が蜜月関係だったアフリカから続々帰国している理由****
中国とアフリカの蜜月時代が変わりつつある
今年9月、英フィナンシャルタイムズは「アフリカから中国人の帰国ラッシュが始まった」と報じた。中国資本によるアフリカへの「走出去(中国企業の対外進出)」と呼ばれた投資や経済活動は、一時のブームに過ぎなかったのだろうか。
 
数年前、世界は中国による積極的な対アフリカ投資を「新植民地主義」だと非難した。とりわけ警戒したのは、中国のアフリカ資源外交だった。

2014年、新年早々に安倍晋三首相はアフリカを歴訪したが、そこにはアフリカにおける中国の影響力に一定の“くさび”を打つ意図があった。
 
中国が、アフリカで展開したのは資源外交だけではなかった。「メード・バイ・チャイナ」がアフリカの国々で瞬く間に普及。街を走るのは中国製の廉価バイク、市民生活に浸透するのは安価な中国の軽工業品、街を歩けば至る所に中国人──。中国による「走出去」の影響力は無視できないものになっていた。

アフリカのマリでは、「この国のコンクリート建造物はすべて中国によるもの」と言われているほどだ。
 
他方、植民地支配を経験したアフリカにとって、「真のパートナー探し」は独立後の一貫したテーマでもあった。中国の台頭とともに、「西欧からの影響を遠ざけ、むしろ手を握るべき相手は中国だ」という機運が高まっていたことは確かである。近年は「中国は敵ではない」という共通認識すら持たれるようになっていた。

アフリカから中央アジアへシフトか
英フィナンシャルタイムズによれば、アフリカには100万人の中国人が生活しており、その大多数が零細企業のため、近年の資源価格の下落に伴うアフリカ経済の落ち込みとともに商売が成り立たなくなってきたという。

あまりの勢いに警戒されていた中国資本の進出だが、アフリカでは今、大きな変化が起こっているようだ。
 
その変化が貿易に現れている。この5年間の中国とアフリカの貿易総額を見ると、2000年当時100億ドル程度だった貿易額は、2013年に2000億ドルと20倍にも増加した。

だが、それも2014年をピークに減少に転じたのである。
 
中国商務部によれば、アフリカにおける中国の貿易パートナーの「トップ10」は、南アフリカ、アンドラ、エジプト、ナイジェリア、アルジェリア、ガーナ、ケニア、エチオピア、タンザニア、モロッコの順であり、その国々の対中輸出の主要産品のほとんどが資源である。(中略)
 
背景には、2005〜2012年にかけての国際商品市場での原油、鉄鉱石、非鉄、穀物などのコモディティ需要の累積的拡大と、2011年以降に顕著となった中国経済の減速がある。(中略)
 
その一方で、柴田氏は「『一帯一路』における中国の開発発展の主軸が、資源ブームに乗ったアフリカから中央アジアに移ったのではないか」と分析している。

確かに、中国の「第13次五ヵ年計画(2016〜2020年)」が打ち出した「一帯一路」の主要6大ルートには、アフリカが含まれていない。(中略)

資源バブルが終わりアフリカブームは終わったか
アフリカ経済は、資源価格の落ち込みで大打撃を受けている。これに伴う本国通貨の下落を阻止するため、現地では外貨管理を統制したり、脱税を摘発したりするなど、規制強化に乗り出しているようだ。多くの中国人が帰国の途に就いているのは、治安悪化のためだとも言われている。
 
他方、「一帯一路」の参加国として中国と協議を結んだ国もジブチ、エジプト、エチオピア、ケニアの4ヵ国にとどまる。(中略)

中国の電子メディアには、金融の専門家が書いた「過去10年にわたってアフリカに対して行われた融資も、近年は『一帯一路』の参加国に振り向けられるようになった」とするコラムが掲載されている。中国の企業は新たに資金が向かう先へと、すでに投資の目的地を変更してしまった可能性がある。
 
アフリカも時々刻々と変化する。2015年から2016年にかけて、多くのアフリカの国々が発展計画を打ち出し、同時に貿易政策の見直しを図った。キーワードに据えられたのが「環境保護」と「品質重視」だったことからも、アフリカ諸国は従来行ってきた“選択”を見直したことがうかがえる。(中略)

アフリカの景気悪化とともに、「一帯一路」の政策外にアフリカが置かれたことで、対アフリカの“走出去熱”は冷めてしまったのだろうか。
 
また、「一帯一路」という長期的な発展を目指す枠組みを前に、アフリカの士気が落ちているのは注目に値する。アフリカは資源開発バブルがはじけた今、冷静さを取り戻し、国益とは何なのかを思考し始めた可能性は否定できない。
 
他方、「自由で開かれたインド太平洋戦略」、「アジア・アフリカ成長回廊」など、日本やインドが中心となって新たな外交戦略を打ち出した。こうした中で、「中国主導」が真に持続可能なものなのか、関係国が中国を選ぶのか否かは引き続き注視する必要がある。【2017年12月1日 姫田小夏氏 DIAMOND online】
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アフリカでの中国人を狙った犯罪の多発については、以下のような記事も。

****ザンビアで中国企業への襲撃、ナミビアでも事件多発で大使館が喚起****
人民日報系の海外情報サイト、海外網によるとアフリカ南部のザンビアで19日、中国企業が銃などで武装したグループに襲撃され、1人が死亡した。同じくアフリカ南部のナミビアでは中国人や中国人住宅が襲われる事件が多発しているとして、現地の中国大使館が注意を喚起した。(後略)【11月21日 Record china】
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中国へのアフリカ諸国からの資源輸出低迷は、資源価格低迷や中国経済の減速だけでなく、中国経済の重心がサービス業に移動していることも影響していると思われます。中国の資源需要低下は対中国貿易に依存しているアフリカ諸国にとって大きなリスクとなっています。

****サハラ以南アフリカ諸国、対中貿易依存度の高さが裏目に 報告書****
輸出市場として中国への依存度を高めているサハラ以南のアフリカ諸国が、中国経済の重心がサービス業にシフトしつつある現状に大きな打撃を受けているとの報告書が7日、発表された。
 
フランスの金融サービス企業コファスのエコノミストでサハラ以南のアフリカ諸国問題の専門家であるルーベン・ニザール氏は、中国とアフリカ諸国のここ数年の貿易関係を分析した報告書の共著者の一人。「原油と鉱物の生産諸国が中国に著しく依存していることは疑う余地がない」と主張する。
 
同報告書は、中国経済が原料へのニーズによってアフリカ大陸への関心を大幅に高めた期間について分析している。中国経済の比重がサービス業に再び移ったことにより浮き彫りにされたのは、中国への過度の依存によるリスクだ。(中略)
 
ニザール氏は、最も打撃が大きいのは原油輸出国だと指摘。コファスが分析したアフリカ諸国の対中依存度ランキングの1位は南スーダン、2位はアンゴラでいずれも原油を輸出している。3位は木材を輸出するガンビア、4位は原油を輸出するコンゴ、5位は銅鉱を輸出するエリトリア。【2017年11月8日 AFP】
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国内市場が縮小している分野ほど、アフリカで勝負すべき 中国との協調も
こうした状況にあって、日本に求められているアフリカ支援は?

****産業の多角化が急務のアフリカでは、日本に何が求められているのか****
(中略)
(1)不安要素はテロとリーダーシップ不在(中略
(2)資源価格の低迷で急務になっている産業の多角化
本来ならば、経済成長が政治の安定性を底支えするものですが、サブサハラ・アフリカ(サハラ以南49カ国)の経済は、資源輸出国を中心に停滞しています。2003〜2012年の10年間、アフリカ諸国は平均すると年間6%近い経済成長を遂げてきました。ところが、2017年はおそらく2%台で終わってしまう。(中略)

日本人の感覚からすると「3%も成長すれば万々歳だ」と思えますが、前提が大きく異なっているのです。日本の人口は減っていますが、アフリカの人口は年間2.7%前後で増加しています。つまり、日本は経済成長率0%でも1人あたりのGDPは増えますが、アフリカでは常に2.7%以上の成長を続けなければ1人あたりの所得は増えない。(中
 
そもそも、21世紀に入ってからのアフリカの急成長は、石油や鉄鉱石などの資源価格の高騰による恩恵を最大限に受けたものでした。(中略)

今後、アフリカ諸国に求められるのは産業の多角化ですが、結果的に中国の影響力がますます強まっていくことが予想されます。

というのも、アフリカ側のニーズは製造業、農業生産性の向上への投資と援助にあり、中国はこうしたアフリカ側のニーズに応える姿勢を鮮明にしているからです。中国の支援によってアフリカの人々の購買力は上がり、アフリカはこれまで以上に中国製品の有力な輸出先になっていくでしょう。

「アメリカ・ファースト」を掲げるトランプ大統領のもと、アメリカが世界に関する関心を失っているという現実もあります。(中略)

(3)少子高齢化の日本だからこそ、アフリカにビジネスチャンスがある
(中略)
日本政府は、アフリカ各国の首脳と日本の総理大臣が出席するアフリカ開発会議(TICAD)を1993年から開催しています。最初は5年に1度でしたが、2013年からは3年に1度になり、2016年には初めてアフリカ(ケニアの首都・ナイロビ)で行われました。

ここで安倍首相は「日本企業は、アフリカ全体に3年間で3兆円の投資をします」と宣言しました。しかし、残念ながらこの達成は厳しい状況にあると言わざるを得ません。

というのも、日本企業がアフリカはもとより、世界に打って出ていく体力を失っているからです。原発ビジネスは、3.11以降はとても外国に売れる状態ではない。家電メーカーも経営状況が厳しく、中韓相手には競争できないのは周知の通りです。通信も、保険・金融もガラパゴス状態です。世界で競争力を持っている日本製品は、自動車、半導体、工作機械など限られたものしかない状態です。

とはいえ、日本企業にもビジネスチャンスはあります。日本は少子高齢化社会に突入し国内の消費性向も変わってきているので、日本の国内需要に依存していたのでは立ち行かない企業が増えてきています。そうした状況を打開するためにアフリカに真っ先に進出した日本企業に味の素があります。(中略)

人口が増え、胃袋が増え、さらに所得水準が上がることで新たなニーズが生まれてくる。アフリカのマーケットには、現代の日本社会にはない特性があります。今後は、医薬品や紙おむつ、トイレットペーパーなども需要が増してくるでしょう。国内市場が縮小している分野ほど、逆に言えばアフリカで勝負すべきなのです。(後略)【1月5日 白戸 圭一氏 文春オンライン】
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やはり、今後も中国を軸にした展開となりそうですが、その中国と日本の協力も。

****アフリカ支援、中国構想に協調…日中協力提案へ****
政府が、基幹道路整備など日本が実施している複数のアフリカ開発事業で、中国に参入を呼びかける方針であることがわかった。
 
外務省幹部によると、日本が資金支援するアフリカの事業で中国に協力を提案するのは初めて。習近平(シージンピン)国家主席は、アジアからアフリカにまたがる巨大経済圏構想「一帯一路」を掲げており、同構想への協調姿勢を示すことで、北朝鮮の核・ミサイル開発阻止に向けた中国の努力を引き出したい考えだ。
 
日中協力を検討している主な事業は〈1〉西アフリカ諸国を基幹道路で結ぶ「成長の環(わ)」計画〈2〉ケニアの道路や橋の整備〈3〉カメルーンとコンゴ共和国を結ぶ道路「国際回廊」の整備〈4〉ルワンダの道路改良整備――の四つ。【2017年12月31日 読売】
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イギリス  対EUも、対国内強硬派も、難航必至の離脱交渉 残留や再投票を望む声が増加

2018-01-04 22:24:22 | 欧州情勢

(EU本部でメイ英首相(左)を出迎えたユンケル欧州委員長=ブリュッセルで2017年12月8日【12月8日 毎日】)

難航必至の「第2段階」交渉
イギリスのEU離脱にについては、昨年末にいわゆる“手切れ金”、アイルランド国境問題、イギリス国内に住むEU出身者の権利の保障などの離脱条件にかかる「第1段階」交渉で合意し、今年からは離脱後の自由貿易協定など「第2段階」に進むことになっています。

しかし、今後の交渉はこれまで以上に厳しいものが予想されています。

****英 EU離脱交渉 自由貿易協定などさらに厳しい交渉へ****
イギリスによるEU=ヨーロッパ連合からの離脱をめぐる交渉は、今月から交渉の第2段階として離脱後の自由貿易協定などについての交渉が始まりますが、国益に直結する課題をめぐってこれまで以上に厳しい交渉となることが予想されています。

イギリスとEUは離脱交渉の第1段階として去年6月から、イギリスがEUに支払うべき分担金の額や、離脱後に新たにイギリスとEUの境界となる隣国アイルランドとの国境の管理の問題などについて話し合ってきました。

EUは先月の首脳会議でこれらの協議で十分な進展があったとして、交渉の第2段階として双方の将来の関係についての話し合いを今月から始めることを承認しました。

第2段階の協議ではまず、イギリスが来年3月に離脱したあとの経済的な混乱を避けるために設ける「移行期間」の長さなどについて協議する予定で、イギリスが強く望んできたEUとの自由貿易協定については早くても3月以降に先送りされる見通しです。

このうち移行期間の協議ではEUは、イギリスの主張よりも短い2020年末までの1年9か月間にすべきだとしているほか、その期間中はイギリスの加盟国としての議決権は認めない一方で、EU予算の支払い継続を求めるなどイギリスにとって極めて厳しい提案をしています。

さらに、その後に予定される自由貿易協定の話し合いでも双方の国益に直結するだけに、交渉は厳しいものになり、これまで以上に難航することも予想されています。【1月2日 NHK】
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カネも支払い、制約も受けるが、議決権はない・・・そんな移行期間を期間限定とは言え、離脱強硬派が許容するのでしょうか?

イギリス側は、EUとカナダ間の交渉に8年を要した包括的経済貿易協定(CETA)をモデルにし、これに「プラスアルファ」した協定を想定しているとのことですが、そううまく事が運ぶか・・・・。

****<EU>「良いとこ取り」拒否 英離脱、貿易ルール作成多難****
英国の欧州連合(EU)離脱交渉は、15日のEU首脳会議での合意を受け、将来の関係を話し合う「第2段階」に移る。最大の焦点は、ヒト・モノ・カネ・サービスの移動が自由な単一市場を英国が出た後のルール作りだ。

新たに自由貿易協定(FTA)を締結する検討が進む見通しだが、多岐にわたる交渉テーマはどれも複雑な利害関係が絡むため、離脱条件を話し合った「第1段階」以上に厳しい交渉となりそうだ。
 
「目指しているのは『カナダ・プラス・プラス・プラス』だ」。英国のデービスEU離脱担当相は10日のBBC番組でこう述べ、EUカナダ間の包括的経済貿易協定(CETA)をモデルにする考えを表明。CETAには含まれていない金融サービスも対象とすることで、カナダ型に「プラスアルファ」した協定にしたい考えを示した。
 
EUとカナダの協定は昨年10月に調印し、今年9月に暫定発効した。双方の製品の98%で関税を撤廃したが、調印までに費やした歳月は8年。デービス氏はEUと英国の製品基準が一致していることを踏まえ、「交渉はそれほど複雑ではない」と自信をのぞかせた。
 
EUはノルウェーやスイスなどとも協定を締結している。両国の場合は単一市場で自由に活動できる一方、EUへの拠出金が必要で、EU規則も順守しなければならない。

これに対し、カナダ型には拠出金やEU規則を順守する義務がなく、EUからの移民を制限することも可能。単一市場の恩恵を受けながら移民を制限したい英国側の思惑に最も近いモデルといえる。
 
しかし、EU側はこうした「良いとこ取り」を許さない構えだ。交渉の基本方針には「英国がEU加盟国と同じ権利や便益を得ることはない」と明記しており、カナダ型に付け加えた「プラスアルファ」の度合いに応じ、拠出金などの負担を求める可能性がある。
 
個別テーマで難航しそうなのが漁業分野だ(中略)
 
英国の貿易と直接投資はEU加盟国が約5割を占めるため、暮らしや企業活動に直結するテーマは数多い。交渉では金融サービスのルールや企業の合併・買収(M&A)の審査、知的財産権の扱いなども焦点となる。
 
貿易交渉で合意できずに離脱した場合、英国には世界貿易機関(WTO)の協定に基づく貿易ルールが適用され、これまでなかった関税がかかることになり、貿易取引への打撃は必至となる。【2017年12月15日 毎日】
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【“合意した”「第1段階」も合意優先で内容先送り アイルランド国境問題はどうするのか?】
“合意した”ことになっている「第1段階」についても、とにかく合意することを最優先に、その合意内容については先送りした面があります。

*****英EU離脱】合意優先 英・EUともに妥協 課題積み残し今後も続く難交渉****
英国の欧州連合(EU)離脱交渉は、離脱条件をめぐり欧州委員会と英側が基本合意したことを受け、最初の大きなハードルを越えた。

ただ、交渉期間が少なくなる中、双方が合意を優先させるために歩み寄った形。積み残した課題もあり、今後も難交渉は続く。
 
「ここに至るには双方のギブ・アンド・テークが必要だった」。メイ英首相は8日、急遽(きゅうきょ)設定された記者会見でこう述べた。ユンケル欧州委員長も「互いに耳を傾け、それぞれが立場を調整した」と語り、合意は双方の妥協の成果とした。
 
6月に始まった離脱協議で当初最大の難点とされたのが未払い拠出金の精算。600億ユーロ(約8兆円)相当とされるEUの要求に折れたのは英側だった。英国は離脱後2年間の移行期間を設け、その間のEU予算の拠出金約200億ユーロを払う案を示したが、最終的にEUの要求にほぼ沿った。
 
英国の譲歩の背景には離脱決定後の経済の急速な減速がある。今年の英国の国内総生産(GDP)はフランスに抜かれて世界5位から6位に転落すると予測され、離脱で経済が強くなるとの離脱派の主張に冷や水を浴びせた。

産業界では経営環境の不透明感払拭のため、来春までの移行期間合意を求める声も強まった。
 
一方、EU側でも英国が離脱協定を結べずに離脱する事態や政権基盤が脆弱(ぜいじゃく)なメイ氏への不安が上がり、“政治決着”を図る必要があった。

合意では在英EU市民権保護のために求めたEU側の司法管轄権の主張を後退させ、EU司法の判断を仰ぐか否かは英国裁判所の判断に委ねた。
 
ただ、最後の争点となった英領北アイルランドとアイルランドの国境問題では自由往来を保つ方針を確認したが、具体策は将来協議に事実上棚上げした形だ。

メイ氏の土壇場の説得に政権を支える北アイルランドの地域政党が応じたものの、同党側は合意後、「もっとはっきりさせたい課題があった」と漏らした。
 
トゥスクEU大統領は8日、合意を歓迎する一方、「最も困難な課題がまだ待ち受けているのを忘れてはならない」と強調した。【2017年12月8日 産経】
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“手切れ金”はカネである程度解決できますが(離脱を問う国民投票時に離脱派が主張していた内容とは大きく異なりますが)、英領北アイルランドとアイルランドの国境問題はより複雑・困難です。

毎日多くの住民が“意識されることのない国境”を超えて通勤し、“意識されることのない国境”をまたいで物資が流れているという、すでに現在一体化しているEU加盟国アイルランドと北アイルランドの間に“明確な国境”を復活せせるのか?

それでは北アイルランド市民の生活が破壊されますし、アイルランドとのつながりを重視するカトリック系住民の反発が高まります。

“明確な国境”管理を行わないなら、どこでEU加盟のアイルランドとイギリスの間のモノ・ヒトの流れをコントロールするのか?
北アイルランドとイギリス本土の間で行うのか?

しかし、北アイルランドをイギリス本土から分離するような方法には、イギリス本土との関係を重視するプロテスタント系住民(彼らを支持基盤とする地域政党との連立でメイ政権は成立しています)が強く反発します。

このように簡単に考えても、英領北アイルランドとアイルランドの国境問題はヒト・モノ・カネ・サービスの移動が自由な単一市場から抜けるという離脱の理念にも関わりますし、イギリスが多大な犠牲を払いながらようやく一定に落ち着かせることができた北アイルランド問題(住民間の分断は依然として解消していません)を再燃させることにもなりかねません。

****Brexitで北アイルランド国境問題はどうなるのか****
英国のEU離脱は、北アイルランド和平の基盤を崩し、北アイルランドとアイルランド間の国境管理の厳格化を招くので、同地域の国境問題が離脱交渉の大きな障害になってきた、と11月25日付の英エコノミスト誌が報じています。要旨は以下の通りです。
 
英国のEU離脱決定から約18カ月が経つが、北アイルランドをEU単一市場と関税同盟から離脱させつつ、北アイルランド・アイルランド間の検問なき国境を維持することは、どう考えても難しい。
 
英国は来月のEUサミットで承認を得て通商協議を始めるまで国境問題に取り組まないつもりだったが、アイルランド政府は英国が厳格な国境管理を回避する解決策を提示できなければ、拒否権を発動すると述べ、国境問題は突如、離脱協議の最大の障害となった。

メイ政権が北アイルランドの民主統一党(英本土との絆に執着)に支えられていることも、事態を面倒にしている。また、北アイルランド自体、1月から自治政府がない危うい状態が続いている。
 
アイルランドはEU加盟によって英国依存の経済から解放され、英国との関係も改善することができた。英国のEU離脱はアイルランドの繁栄を脅かすだけでなく、英アイルランド両国を交渉で対立する立場にしてしまった。

ただ、少なくともEU加盟国のアイルランドは、難局を乗り切る上で外交的、経済的にましな立場にある。
 
一方、北アイルランドはもっと切実な懸念に苦しんでいる。1998年の聖金曜日の和平合意により、北アイルランド人は英国籍かアイルランド国籍、あるいは両方を取得できるようになり、さらに、検問がなくなって国境地域は通商で大きな恩恵を受けるようになった。

英EU離脱はこれら全てを掘り崩してしまう。中でも、経済は深刻な打撃を受けるだろう。また、この1年で自警団や犯罪組織の活動が大幅に増加し、英EU離脱による事態の更なる悪化が懸念されている。
 
アイルランドは、逸早く国境問題を英EU離脱協議の優先課題にするようEU諸国を説得し、以来その立場を維持している。むしろバラッカー首相の課題は、強く出過ぎるのを避けることだろう。
 
アイルランドは、英政治家たちの発言にうんざりし、自らの考えを推し進めつつある。望みは、検問の必要を減らすべく、何らかの形で北アイルランドがEUの規制・関税制度の中に留まれるよう、メイが書面で請け合ってくれることだ。

また、アイルランド政府とEUは、今後の手本にすべく、電力などアイルランドと北アイルランドが既に共同管理している分野を調査している。
 
一部の英国人にとっては、この種の外国の干渉がそもそも彼らをEU離脱へと駆り立てたと言える。英国の懸念はもっともで、アイルランドは北アイルランドへの意図などないと言うが、北アイルランドとアイルランドを結ぶ動きは、北アイルランドが英本土と不可避的に疎遠になることを意味する。

英国は、北アイルランドの人々の英国かアイルランドかの二者択一の国籍選択の必要性を排除して過去の亡霊を葬ってくれたが、EU離脱はその亡霊を起こしてしまった。(後略)【1月4日 WEDGE】
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前出の「カナダ・プラス・プラス・プラス」といった貿易協定が成立すれば、国境管理の意味合いが減少することにはなりますが・・・。

もし、アイルランドが合意しなければ離脱交渉に「拒否権」を使うことが想定され、それは「合意なき離脱」というイギリスにとって最悪の事態ともなります。

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Brexitは英国にもEUにもアイルランドにも何の利益ももたらさないことがますます明らかになってきています。
離脱派にも間違ったと反省している人も多いのではないでしょうか。

しかし、国民投票で離脱すると決まり、メイ首相はそれをやらざるを得ない立場にあります。
 
尚、英国経済はこの離脱騒ぎのために振るわず、GDPの規模でフランスに追い抜かれました。

Brexitにともなう英国の苦難はなかなか終わりが見えません。勝手なことを言っている離脱派のボリス・ジョンソンを首にもできず、メイ首相の苦労は尽きないように思われます。【同上】
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議会承認の国内ハードルも
難航するのは対EUだけではありません。国内説得も大変です。
メイ首相は今後の交渉について、EUとの最終合意前に議会の承認を必要とするという“拘束”を課せられています。

****<英国>メイ首相、綱渡り政権運営 EU離脱の与党調整難航****
欧州連合(EU)首脳会議は15日、英国のEU離脱交渉を、通商関係などの協議に前進させることを決めた。経済問題など各国の利害が直接絡む今後の協議は、これまで以上に難航が予想される。

メイ英首相は交渉と並行して、与党内の残留派や強硬離脱派との調整が必要で、対応を誤れば進退問題に発展する可能性もある。
 
今年6月の総選挙で過半数割れしたメイ氏率いる与党保守党は、北アイルランドの地域政党、民主統一党(DUP)の閣外協力を得て、かろうじて半数を超えている。
 
英下院では13日、離脱条件に関し、EUとの最終合意前に議会の承認を得るよう求める修正法案を賛成多数で可決した。修正案は政府方針に反発する与党保守党議員が提出。残留派の保守党議員11人が造反し、メイ氏の求心力低下を露呈した。
 
メイ氏は「離脱方針は揺るがない」と強調する。だが離脱関連法案の審議は続き、政権運営は綱渡りだ。
 
保守党内では総選挙での敗北以降、首相の座を巡る駆け引きが浮上しては消えている。政治評論家のバストン氏は「首相の座を奪って最終的に離脱交渉をまとめても、昨年の国民投票で離脱、残留派に二分された国民から批判を受けるのは必至で、政治家としての利益はない」と説明。有力議員が様子見をしていると分析する。
 
一方、保守党有力議員の側近は「メイ氏は今回、離脱交渉を一歩進めた。これを功績として首相の座を降りてもらい、次の交渉は別の首相が担うという考え方もある」と話す。【12月16日 毎日】
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EU側も納得し、イギリス国内的に許容される・・・・そのな針の穴にロープを通すようなことができるのでしょうか?

もう一度最初から考え直すべきでは?】
毎回言っているように、イギリスは何のためにこんなに難しい問題にのめりこんでいるのか・・・不可解でもあります。
離脱するという最初の判断に問題があったのではないでしょうか?

****英世論調査、EU残留希望が国民の過半数に****
英インディペンデント紙電子版に掲載されたBMGの世論調査によると、欧州連合(EU)残留を望む英国民は全体の51%、離脱支持は41%だった。

EU離脱(ブレグジット)交渉は、貿易に焦点がおかれる第2段階に入りつつある。調査は5─8日、1400人を対象に実施された。

インディペンデント紙は、「残留」を望む回答のリードは国民投票以来最大だったと伝えた。

ただ同紙は、BMGの代表の発言として、今回の結果は国民投票に行かなかった人の意見が変わったためで、「離脱」に投票した人と「残留」に投票した人のどちらも、10人中9人が意見を変えていないと伝えた。

国民投票では、離脱支持は52%、残留支持は48%だった。【2017年12月18日 ロイター】
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****英有権者の半数、ブレグジットで再投票実施を支持=世論調査****
(12月)3日付の英日曜紙メール・オン・サンデーが掲載した最新の世論調査によると、英国の有権者の半数が欧州連合(EU)離脱に関する再投票の実施を支持していることが判明した。

また、英国がEUとの通商協定交渉に進むために支払わなければならない離脱清算金が多過ぎるとの意見が多数派となった。

調査は専門機関サーベイションが11月30日─12月1日に英国の成人1003人を対象に実施。ブレグジット(英のEU離脱)の最終条件の是非を問うためにもう一度国民投票を実施すべきかどうかで、50%が賛成した。反対は34%、分からないが16%だった。

メール・オン・サンデーによると、英国がEUに約500億ユーロの清算金を支払う意向だと複数のメディアが報じて以降、今回が初めての主要世論調査だった。こうした500億ユーロを払うべきだと答えた有権者はわずか11%にとどまり、31%はびた一文払う必要はないと主張した。

またブレグジット後に金銭的に苦しくなると予想した有権者は35%、楽になると答えたのは14%となった。【2017年12月5日 ロイター】
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もう1回やり直し方がいいように思うのですが。
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イラン  収束しない抗議行動 体制批判に先鋭化 武力鎮圧の懸念も

2018-01-03 22:43:44 | イラン

(【1月2日 WSJ】非常に印象的な写真ではありますが・・・・)

政権側が事態収束に向け本格的な武力弾圧に踏み切るかが焦点に
イランにおいて、核合意後も物価・失業などの経済困難が改善しない状況に対する不満が噴き出す形で始まった抗議行動が、イスラム支配の体制批判に先鋭化している状況については、12月30日ブログ“イラン 異例の抗議デモ 自身がイランの困難の元凶でありながらイランを批判するトランプ大統領”において取り上げました。

混乱は犠牲者増加を伴って拡大しており、収束にはいたっていません。

****<イラン>デモ死者21人に 全土に拡大、首都450人拘束****
イランで昨年12月28日に始まり全土に広がった反政府デモで、当局側との衝突による死者は今月2日までの6日間で少なくとも21人に達した。

警察官にも死傷者が発生。デモ隊などの拘束者は首都テヘランだけでも450人に上る。AFP通信などがイラン国営メディアの情報として報じた。

騒乱は収束の気配が見えず、イスラム体制打倒の主張や治安施設の襲撃も発生。体制護持が任務の「革命防衛隊」などが強硬な鎮圧に転じれば、反発で抗議活動が激化する懸念もある。
 
イランからの報道によると、死者は西部ツイセルカンと中部ガデリジャンで各6人、中部シャヒンシャハルで3人、西部ドルードで2人、南部イゼーで1人。中部ナジャファバードでは警官1人がデモ参加者に猟銃で撃たれ死亡し、3人が負傷した。今回の騒乱で治安当局者の死亡は初めて。
 
デモ隊の一部は暴徒化している。警察署や行政施設に投石を繰り返し、警察車両にも放火。治安部隊は催涙ガスや放水で鎮圧を図っている。また、政府はソーシャル・ネットワーキング・サービスを制限し、情報統制を強化している。
 
デモは最高指導者ハメネイ師の退任を求めるなど、反体制的色合いを強めている。ロウハニ大統領は31日「国民は政府を批判しデモをする権利があるが、暴力や公共施設の破壊は許容できない」と自制を呼びかけたが、効果は出ていない。
 
イランは1979年の革命で親米派の国王を追放。現在は政教一致の厳格な体制下、宗教的な権威の最高指導者が政治の広範な権限を握る。今回のデモでは王政時代を懐かしみ、一部で「シャー(国王)復活を」との声も上がったという。
 
イランでは2009年、大統領選で敗れた改革派候補の支持者らによる反政府デモを治安当局が鎮圧し、数十人が死亡。今回はそれ以降で最大規模の衝突となった。若年層の失業率が3割近くと高く不満が高まっていた。デモ隊は今回、シリアやイエメンの内戦など中東各地の紛争への政府の介入も非難し、「国内を見ろ」とも訴えている。【1月2日 毎日】
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政権は、革命防衛隊や民兵などによる武力鎮圧にはまだ踏み込んでいません。

****見えぬ打開策…武力弾圧踏み切るか****
イランで物価高への不満を機に起きた反政府デモは、大統領選の不正疑惑に端を発した2009年のデモ以降では最大規模となった。このときはデモの主導者がおり民衆の要求も明確だったが、今回は国のかじを取る中枢へと不満が拡大した上、各地でデモが同時多発的に進行している形だ。

打開策が見えない中、政権側が事態収束に向け本格的な武力弾圧に踏み切るかが焦点になってきた。(後略)【1月3日 産経】
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今回の抗議行動の様相・性格等については、以下のようにも。

****イランの反政府デモ、知っておくべき5つのこと****
先月28日にイランの各地で始まった反政府デモ。市民は40年近く続いてきた宗教指導者による支配に反発を強めている。
 
2009年大統領選の結果に対する暴動以来で最も広範かつ規模が大きい今回のデモで、参加者は政権交代を求めている。イランにはイラク、レバノン、シリア、イエメンといった中東諸国に対する大きな影響力があるので、政権交代となれば広範に大きな波紋が広がる可能性がある。
 
イラン反政府デモに関して知っておくべき5つのポイントをまとめた。

1. デモはどのようにして始まったのか
昨年9月以来、経済的不満が焦点だった小規模かつ散発的なデモはイランの複数の都市で広がってきた。人々は各地で汚職疑惑、宗教法人への予算配分、退職基金の破綻などに抗議してきた。
 
12月28日、イラン北東部の都市マシュハドでは、インフレやロウハニ大統領が経済的繁栄をもたらすという約束を破ったことへの怒りを表現するために人々がデモ行進した。

イラン国民はロウハニ政権と欧米など6カ国との核合意によってイランの孤立が終わり、外国からの投資、雇用創出、購買力の増加などがもたらされると期待していた。核合意を受けてイラン経済は成長したものの、政府のデータでは失業率が約12.5%、インフレ率が10%近くとなっている。
 
そうしたデモのニュースはテレグラム、ワッツアップといったイランで人気のソーシャルメディアで拡散された。すると数時間のうちにケルマーンシャー、イスファハン、テヘランなど、他の都市でも抗議行動が起きた。

2. デモ隊は何を要求しているのか
デモ隊は従来からある改革への要求を越え、政権交代と最高指導者ハメネイ師の退任を要求している。
 
テヘランではデモ隊がハメネイ師の壁画に向かって「死んでしまえ」と叫ぶ場面もあった。地球上での神の代理人と考えられているハメネイ師をあからさまに批判することは死刑に相当する罪である。

3. デモ隊はどういったスローガンを唱えているのか
イラン国民はペルシャ語で詩の一節であるかのように韻を踏んだ政治スローガンを作ることに長けている。
デモ隊が唱えているスローガンの一部は以下の通り。
 「われわれはイスラム共和国を求めていない、そんなものは求めていない」
 「彼らはイスラム教を人々を狂気に追いやる言い訳に使っている」
 「独立、自由、イラン共和国」
 「改革主義者よ、原理主義者よ、ゲームは終わった」
 「われわれは皆イラン人だ、アラビア人ではない」
 「われわれは貧しくなっているのに、イスラム教聖職者は高級車に乗っている」

4. 政権はどう反応したか
機動隊や私服の民兵がイラン各地の街に繰り出したが、取り締まりは以前の抗議デモよりもかなり緩くなっている。
 
一部の政府高官は経済的不満について、政府が対処する必要がある正当なものだと認めるなど、従来とは異なる方針も取っている。

それと同時に、抗議活動を乗っ取って政情不安を扇動しているのは外国メディアや亡命中の反体制派リーダーなど外的な力だとも主張した。

5. 抗議デモはどこへ向かうのか、米政権はどう反応するのか
イランでの抗議デモは、リーダーシップや明確な組織がないことから自然消滅する傾向がある。抗議デモが長引けば、政権は大量逮捕や軍による封鎖などでその取り締まりを強化するかもしれない。
 
ドナルド・トランプ米大統領はツイッターへの投稿で、イランで起きていることには世界が注視していると述べ、デモ隊への支持を表明した。ポール・ライアン下院議長(共和、ウィスコンシン州)やトム・コットン上院議員(共和、アーカンソー州)らもイラン国民との連帯を表明した。
 
イラン国内のデモ隊にとって、外国からの支持はありがた迷惑になることも少なくない。というのも、政権はそれを外国からの干渉と見なし、国内反対派からの要求を弱体化させるのに利用するからだ。【1月2日 WSJ】
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体制批判を強める抗議行動 ロウハニ大統領の立場は?】
TVニュース映像では、最高指導者ハメネイ師の肖像を群衆が踏みつけにするなど、行動は過激化してもいるようです。

体制側が管理しづらいソーシャルメディアで拡散した今回の抗議行動ですが、“リーダーシップや明確な組織がないことから自然消滅する”という限界もあります。

イスラム支配体制の閉塞感に不満を感じている国民がすくなからず存在するのは事実です。
昨年7月にイランを旅行した際にも、そのあたりは感じました。

ある者は「イランはイスラムではない」とも。その言わんとすることは、イランのアイデンティティーはペルシャ以来の歴史・文化にこそあるのであって、イスラムは数百年前にイランに入ってきたものでイランの本質に根差すものではない・・・ということでしょう。

実際、一介の旅行者の目からしても、イスラム支配体制という割には、イスラムがそれほど目立たないような印象も受けました。

ただ、そうしたイスラム支配体制に距離感を感じる一般国民が動かない限りは、体制の変革はなかなか実現しないようにも思えます。

体制批判があからさまに叫ばれる状況で、穏健派ロウハニ大統領の立場は微妙です。

ロウハニ大統領は、前回ブログでも取り上げたように、抗議行動が起きる直前に、「権利は政府にではなく、国民にある」と強調した上で、国民に対し、自らの権利を主張するよう呼びかけていました。

****イラン大統領、デモに自制促す=批判と暴力「違う****
イランのロウハニ大統領は12月31日、国内各地に波及している反政府デモに関連し「国民は憲法に則して自由に政府を批判したり、抗議したりできる。だが、暴力や公共物の破壊行為は批判とは異なる」と述べ、デモ隊に自制を促した。閣議での発言を国営メディアが伝えた。
 
28日に始まった反政府デモに大統領が反応を示したのは初めて。デモ隊は、当初の経済苦境に対する不満への抗議にとどまらず、最高指導者ハメネイ師の退任を求めるなど「イラン革命体制」への批判も強めてきた。抗議行動が収拾に向かうかは不透明だ。
 
首都テヘランでは31日も200人規模のデモが行われた。大量拘束の情報も伝えられる。
 
また、ロウハニ大統領は閣議で、トランプ米大統領が「抑圧的な体制が永遠に続くことはあり得ない」とツイートしたことに反論。「イランという国家を敵視する男がイラン国民に共感する権利はない」と強く反発した。【1月1日 時事】 
*******************

混乱が収束したのちに、体制批判ともなった混乱の責任を問われる事態も想定されます。

ただ、今回の抗議行動の発端は、保守強硬派側の“仕掛け”によるものとの指摘もあります。

“今回のデモの広がりは、反ロウハニ強硬派が意図したわけではなく、強硬派が開いた集会がたちまち制御不能となり各地に飛び火したもののようだ。”【12月30日 BBC】

“発火点は先月28日、北東部マシャドで起きた反政府デモだった。イランで信仰されるイスラム教シーア派の聖廟があるマシャドには、昨年の大統領選で穏健派のロウハニ現大統領の対抗馬として保守強硬派に支持されたライシ前検事総長が、管理を任された宗教関連財団もある。
 
このため、欧米メディアでは当初、ライシ師と関係が深く国内に大きな影響力を持つ革命防衛隊が、ロウハニ師の求心力を弱体化させるため、取り締まりの手を緩めたとの観測が出た。”【1月3日 産経】

そうした背景がイラン政治において、どのように扱われるのか?

そもそも、核合意後も物価・失業が改善しないことの批判をロウハニ大統領は受けていますが、そうした経済状況の背景には、前回ブログでも触れたように、アメリカ・トランプ政権のイラン敵視政策があります。

それに加え、保守強硬派を支える革命防衛隊や宗教関連団体が経済を牛耳る構造も大きな原因としてきされています。

“ロイター通信に識者が語ったところでは、革命防衛隊や宗教関連団体は国内資産の6割に関与しているとされ、経済改革の大きな障害になっており、ロウハニ師が打てる手段はほとんどないとしている。同師への民衆の期待がしぼみ、反米を掲げる保守強硬派が大統領の“失政”を批判し続ければ、経済改革の実現がますます遠のくという悪循環に陥る事態も予想される。”【1月3日 産経】

アメリカなど“イランの「敵」”によって扇動されていると責任転嫁する体制側
一方、体制側は、“暴動”の背景にはアメリカなど外国勢力の画策があるとしています。

****イラン最高指導者、デモは「敵」のせいと非難 米は国連会合要請へ****
イランの最高指導者アリ・ハメネイ師は2日、同国各地でこれまでに21人が死亡した反政府デモの責任は「敵たち」にあると非難した。一方、デモへの支持を表明している米国はイランに対する圧力をさらに強め、国連(UN)での緊急会合開催を要請する方針を示した。
 
ハメネイ師は国営テレビで放送された演説で、先月28日に始まった抗議行動について沈黙を破り、「敵たちが団結し、あらゆる手段、金、兵器、政策、保安機関を用いてイランに問題を生み出そうとしている」「敵は常に、イランに侵入し攻撃する機会と隙を狙っている」と非難した。
 
今回の反政府デモや、同デモを支持する米国の姿勢については、2009年に行われた大規模な抗議運動を支持した改革派からも批判の声が上がっている。
 
米国のニッキー・ヘイリー国連大使は、イラン反政府デモの問題について国連安全保障理事会と国連人権理事会での緊急会合の開催を求めていくと言明。さらに、抗議行動がイランの「敵」によって扇動されたというハメネイ師の主張について、「完全なたわ言」だとはね付けた。【1月3日 AFP】
*******************

イランメディアは以下のようにも。

****イランが、同国での最近のデモに関するアメリカの内政干渉的な発言を非難****
イラン国連代表部が声明を発表し、イラン国内で最近発生した暴動や騒乱を支持するという、アメリカの政府関係者の内政干渉的な発言を強く非難しました。

イルナー通信によりますと、イラン国連代表部は2日火曜、この声明において、イラン国内で最近発生した暴力行為や放火などの行為をアメリカが支持したことは、アメリカとこれに同盟する地域諸国の政策の失敗を隠蔽するための工作であるとしています。

また、「アメリカによるこうした発言は、地域におけるアメリカとその地域同盟国の地域での失敗を隠蔽するためのものであり、このような方法によって勇敢なイラン国民に復讐しようとしている」としました。

さらに、「過去40年間においてイランの治安と安定は国民の力によるもので、イラン国民はメディアに惑わされることなく自らの業績を維持し、その本来の権利や歴史に残る業績が暴力によって破壊されることを許さない」としています。

この声明はまた、アメリカのヘイリー国連大使の脅迫的な発言が、イランにおける暴力主義や騒乱を支持するものであるとしています。(後略)【1月3日 Pars Today】
*******************

トランプ大統領は抗議行動を支持するツイートを行っていますが、“イラン国内のデモ隊にとって、外国からの支持はありがた迷惑になることも少なくない。というのも、政権はそれを外国からの干渉と見なし、国内反対派からの要求を弱体化させるのに利用するからだ。”【前出 1月2日 WSJ】とも。

****「抑圧政権は永続しない」 イランのデモでトランプ大統領がツイート****
イランで広がる反政府デモについて、トランプ米大統領は30~31日、ツイッターに「イランの善良な国民が変革を欲していることを世界中が理解している」「抑圧的な政権は永遠には続かない」などと投稿した。
 
トランプ氏は「イランで大規模な抗議活動が起きている。国民はいかに自分たちの金と富が(政権に)盗まれテロに浪費されているか、ようやく分かった。国民はもう現状を甘受しないつもりのようだ」ともツイート。イラン政府に言論の自由など国民の権利を尊重するよう訴えた。(共同)【1月1日 産経】
*******************

イランにおける抑圧的なイスラム支配体制を変えるには、アメリカ・トランプ政権がイラン敵視政策をやめて、イランの経済状況改善を支援し、国内で保守強硬派と対峙する穏健派・改革派の影響力を強めていく・・・というのが現実的方策だと考えますが、現状は逆方向にあるようにも思えます。
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日中関係  双方が警戒感を抱きつつも、歩み寄りの姿勢も

2018-01-02 21:49:14 | 中国

(【2017年12月14日 毎日】 短期間に大きく変動しますから、一時的な動向で両国関係を固定的にとらえないようにすることが大切かも)

世論調査で、日中関係の悲観論が両国で大幅に減少
日本を取り巻く国際環境を考えると、現在懸案事項となっている北朝鮮の問題は、長期的には落ち着くところに(それがどこで、どういう形でかはわかりませんが)落ち着くのでしょう。

アメリカとの関係はもちろん重要ですが、多少の波風や、トランプ大統領の巻き起こす突風などはあるにしても、ほぼ似たような価値観を持つ国ですから(多分・・・・違いも多々ありますが)、それほど深刻に悪化することもないでしょう。

韓国との関係はグジャグジャしていて、下手にさわらない方がいいような感も。

そういうことからして、長期的に、日本が主体的に取り組む必要があるのは、急速に国際的影響力を高める隣国・中国との関係ではないでしょうか。

二千年の日本の歴史的にも重要な要素でしたし、現在の政治・経済関係においても重要です。
(嫌いだからといって引っ越す訳にもいきませんので)中国の影響力・引力がますます強まるなかで、今後どのようにバランスを保つか、価値観の違いを超えて、日本の立場を維持しながら両国関係を良好な状態を作り出すかが、日本にとっての課題となります。

ここ数年は冷え込んでいた日中関係ですが、北朝鮮問題もあって昨年末あたりから、その改善を示唆するような話題・記事が目に付くようになりました。

****<日中共同世論調査>関係「悪い」…両国で大幅減****
非営利団体「言論NPO」と中国国際出版集団は14日、第13回日中共同世論調査の結果を発表した。現在の日中関係を「悪い」(「どちらかといえば」を含む。以下同じ)と答えた人の割合が日本側で44.9%と昨年の71.9%から大幅に減少した。50%を下回るのは7年ぶり。

中国側でも「悪い」は64.2%と昨年より14ポイント減少し、日中関係の悲観論が減少した。
 
北京で記者会見した言論NPOの工藤泰志代表は「両国間でこの1年、首脳間の交流に進展があった。北朝鮮の軍事的脅威も高まっており、相対的に日中関係の安定を際立たせた」と説明。

また、「相手国に対する印象」は中国側で「良い」が31.5%(前年比9.8ポイント増)。「良くない」は66.8%(同9.9ポイント減)となり、尖閣諸島国有化(2012年)の対立前の水準に戻った。

日本側も小幅ながら「良い」が11.5%(前年比3.5ポイント増)。「良くない」が88.3%(同3.3ポイント減)だった。

調査は10月20日〜11月5日、日中双方で18歳以上の男女を対象に、日本は1000人、中国は1564人から回答を得た。【2017年12月14日 毎日】
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中国の習近平国家主席が昨年12月13日、旧日本軍による南京事件(1937年)を記念する「国家哀悼日」の追悼式典に出席しながらも演説しなかったことで、“日本への配慮をうかがわせた”とも話題になりました。

首脳相互訪問、「一帯一路」への協力の動きも
こうした状況は、日中両政府が調整している首脳相互訪問への追い風になるのでは・・・との期待もあります。

****<日中共同世論調査>首脳相互訪問へ追い風 関係悲観論減少****
非営利団体「言論NPO」と中国国際出版集団が14日発表した第13回日中共同世論調査は、日中関係の悲観論が大幅に減少する結果となり、日中両政府が調整している首脳相互訪問への追い風となりそうだ。
 
言論NPOの工藤泰志代表は「昨年の調査(8月13日〜9月4日)から現在まで首脳会談は4回、外相会談は7回の計11回開催された。前回の調査期間の計6回を大幅に上回る形で、両政府は関係改善に動き始めている」と指摘する。
 
日中両政府が関係改善のテコにしているのが、来年の日中平和友好条約締結40周年にあわせた首脳の相互訪問計画だ。日本で開催予定の日中韓首脳会談に合わせた李克強首相の訪日▽安倍晋三首相の訪中▽習近平国家首席の訪日−−の順が想定されている。
 
日中外交関係者によると、中国外交当局は日本国内の対中世論の動向に関心を示している。特に習氏の訪日が実現すれば、2008年に訪日した胡錦濤前国家主席や1998年の江沢民元国家主席の接遇とも比較される。

幅広い日本国民から歓迎されるかは習氏の体面がかかる。両国の相手国への国民感情は、12年の尖閣諸島国有化でどん底まで落ちた。今回、信頼性の高い日中共同世論調査で、悲観論が大幅に減少する結果が出たことは非常に明るい材料だ。(後略)2017年12月14日 毎日】
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12月24日から訪中した自民党の二階俊博幹事長、公明党の井上義久幹事長らの与党訪中団の積極姿勢、これを厚遇する中国側対応も目立っています。

****与党、一帯一路に前のめり 慎重姿勢の政府と温度差****
中国の現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」をめぐり、自民党の二階俊博幹事長を団長とする与党訪中団の積極姿勢が際立っている。

訪中団は財界関係者も引き連れ、中国福建省を一帯一路推進の国際的モデル地区とすることでも合意した。だが、安倍晋三首相は透明性確保などを協力の条件とするなど慎重姿勢を崩しておらず、政府・与党間で温度差が生まれている。

二階氏は28日、習近平国家主席と面会した。5月に続き今年2回目で、与党幹事長としては異例の厚遇だ。政府が閣僚派遣を見送った一帯一路関連フォーラムに二階氏が出席したことが影響したとみられる。

「一帯一路協力の推進について突っ込んだ意見交換を行い、未曽有の実り多い成果を得ました!」

二階、習両氏の会談で、同席した中国共産党の宋濤中央対外連絡部長は、二階氏らが参加した25、26日の日中与党交流協議会の成果を習氏に報告した。

一帯一路の支持を取り付けることは中国側の最重要課題だ。安倍首相が9月に日中国交正常化45年の祝辞を送った際は、中国側が事前に「祝電に『一帯一路』を入れてほしい」と求めたという。

二階氏は24日に現地メディアに対し、一帯一路について「しっかり応援する。積極的に参加すると心に決めた」などと語った。交流協議会では、福建省をモデル地区とするため、中国政府担当者が来日することも決まった。

これに対し、安倍首相は第三国での日中協力を後押しする意向を示すが、透明性や公平性を協力の条件としている。外務省幹部は、スリランカ南部ハンバントタ港で中国国有企業が得た99年間の貸与合意などを念頭に「第三国で港湾をつくって中国が独占なんてことに協力できない」と警戒する。港湾が軍事利用されればインド洋のシーレーン(海上交通路)が脅かされるからだ。

ただ、政府内には一帯一路の商機を生かしたいとの思惑もある。民間協力を支援する指針策定に向けた動きもあり、一帯一路を疑問視する政府高官は「不愉快だ」と吐き捨てる。

一帯一路をめぐる日本政府内の綱引きが続く中で、中国側からすれば二階氏の訪中は渡りに船だった。習氏は28日の面会で、自身が勤務した福建省を二階氏らが訪問したことを踏まえ、こう語りかけた。「福建省以外の地方も回ってください」【2017年12月29日 産経】
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中国側の日本への警戒論
こうした流れを、中国側は“日本・安倍政権が日中関係改善に方向を変えつつある”と認識しているようです。

****安倍首相が日中関係改善を急ぐ3つの理由―中国メディア*****
2017年12月22日、海外網は記事「日本与党の幹事長が中国を訪問、首脳の相互訪問実現を期待する安倍首相」を掲載した。

安倍首相は22日、自民党の二階俊博幹事長、公明党の井上義久幹事長と会談した。両氏は24日から中国を訪問する。安倍首相は日中首脳の相互訪問実現と友好深化への期待を表明している。

日本・共同通信によると、日本外交は対中けん制から友好路線へと転換しつつあるという。日本政府が対中関係改善を急ぐ理由はどこにあるのだろうか。

中国外交学院の周永生教授は三つの狙いを指摘している。
外交で成果を挙げ、周辺国との関係を安定させる狙い
中国の「一帯一路」戦略に参加することで経済振興を図る狙い
対中関係強化に踏み切った米国外交と協調する狙いだ。

ただし周教授は日本が対中けん制という従来の方針を捨てたわけではないと警告している。従来の方針を守りつつも、日中関係改善に努力するようになったのが現状との分析だ。【2017年12月23日 Record china】
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もちろん、中国側には、日本への警戒感も根強くあります。

****中国はこの先30年、日本の和解への意欲を軽率に信じてはいけない****
2017年12月27日、米華字メディアの多維新聞は、「中国はこの先30年、日本を信じてはいけない」とする記事を掲載した。

記事はまず、自民党の二階俊博幹事長が25日、訪問先の中国で、日中関係について「対話と交流を途絶えさせてはならない。日中首脳は胸襟を開いた率直な意見交換を頻繁に続けていくべきだ」とし、現在の日中関係については「改善の道をまっしぐらに歩んでいる。努力を続ければ、国民感情は確実に改善される」と述べたことを紹介した。

二階氏はさらに、中国が提唱する現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」について「お互いの障害を取り除き、円滑にビジネスができるようになれば、日中は共に発展できると確信している」と協力姿勢を強調したという。

その上で記事は「日中関係改善の大勢については言うまでもない。日中関係はかつてないほどの和解の機会を迎えている」とした一方で、「長期的には、中国は今後30年、日本の和解への意欲を軽々しく信じることはできないだろう」と主張した。

その理由として記事は、「米国が離脱した後のTPP(環太平洋経済連携協定)を主導し、米国とインド太平洋戦略を掲げ、台湾の肩を持ち、中国が立ち上げた『一帯一路』をボイコットしてきた日本が突然、中国に対する態度を変化させたのは、米中の接近が日本に与える影響を無視できなくなったためであり、外交上で受け身となることへの不安と焦りを感じているためだ」などと指摘した。

記事はさらに「日本は長い歴史の中で、中国を信頼せず本能的に抵抗してきた」とも指摘。

「中国が、今後の15年で社会主義現代化を基本的に実現し、その後の15年で富強・民主・文明・調和の美しい社会主義現代化強国を築き上げるという戦略目標を予定通り実現させれば、日本は自然と中国と和解する。中国が全面的に台頭しない限り、日本が本当に中国に頭を下げることはない。日本の現在の中国に対する態度の変化は一種の『ストレス反応』であり、本物の「友情」ではない。従って、日中関係がどれほど温かさを取り戻したように見えようとも、中国は冷静を保たなければならない」と結んだ。【2017年12月29日 Record china】
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ほかにも、“日本がF―35Bを購入して「いずも」に搭載か?中国紙が強い警戒感”【2017年12月27日 Record china】とか、やはり防衛費の増加への懸念や「日本は18年度に(米国製の)F35A戦闘機6機を購入し、戦闘機から発射する長距離巡航ミサイル等の装備を導入するほか、新型潜水艦1隻と新型駆逐艦2隻を建造する予定だ」といった警戒論“「日中関係の改善は安倍首相の行動次第」と中国国営メディア”【2017年12月31日 Record china】なども。

中国の姿勢への警戒も
一方で、日本側には、“中国・習近平政権が日本への歩み寄り姿勢を見せている”との認識もありますが、当然ながら、そうした見方への警戒感がもあります。

****習近平の深謀が日中和解のサインに潜む****
<対日関係改善の意思をにじませる中国――狙いはアメリカの「対中封じ込め」封じ?>

日本が尖閣諸島(中国名・釣魚島)を国有化したのを受けて日中関係が冷却化してから5年余り。中国はやっと関係改善に意欲を示しているように見える。

実際、中国のサインは曖昧なものだった。17年12月13日、習近平(シー・チンピン)国家主席は「南京大虐殺犠牲者国家追悼日」の追悼式典に出席。5年前から「中国の夢」という国家主義的なスローガンを掲げている習だが、今回の式典では演説しなかった(14年に国家追悼日を制定し、初の式典に出席した際は演説している)。

日中関係を定義してきた事件から80年という節目だけに、異例ともいえる習の対応は、ようやく日本に歩み寄る用意ができたのかと臆測を呼んでいる。

問題は、習が安倍晋三首相との関係改善を望む動機だ。安倍は中国の国営メディアから反中政治家とたたかれてきた。中国がここへきて対日政策を転換するのには、差し迫った理由が少なくとも3つある。

最も基本的なレベルでは、中国の対日強硬策が逆効果になっていること。中国は13年に、尖閣諸島上空を含むADIZ(防空識別圏)を設定するなど強硬策に打って出た。尖閣諸島周辺海域に艦船を送り、日本の領空に国家海洋局の航空機を飛ばしたこともある。日本との高官レベルの接触も中断している。

中国にとってはあいにくだが、こうした戦術は期待どおりの効果を上げてはいない。(中略)

加えて、朝鮮半島の核危機も習に日中関係改善を迫っている。(中略)対日関係がより安定し改善すれば、朝鮮半島問題でドナルド・トランプ米大統領に対する影響力を手にできるはずだと、習は考えている。

対日政策の根本は不変
最後に、中国が日本に歩み寄るもう1つの重要な動機は、米中関係の大幅な悪化が見込まれることだ。最新の国家安全保障戦略が示すように、アメリカは今では中国を戦略上のライバルと見なしている。(中略)

中国に対する封じ込め政策は日本が参加を拒めば骨抜きになるだろう。中国にとってはアメリカを出し抜いて日本に働き掛けるのが一番だ。日中関係を改善できれば、日本はアメリカと共に中国を封じ込めることに消極的になるはずだ。

以上が安倍に対して習が態度を軟化させている理由だとすれば、目的達成を阻む「壁」も待ち受けている。

最も明白な壁は、習が日本に歩み寄りを見せているのは単に戦術的なもの、と見破られる可能性だ。言い換えれば、中国の対日政策は根本的には変わっていない。

中国が東アジアの覇権国家を自任し、日本を対等なパートナーと認めなければ、日本は今後も中国の長期的な狙いについて懸念するはずだ。

中国の経済・政治改革の後退を思えば、中国をアジアにおけるパートナーとして信頼することに日本がさらに懸念を深めるのも当然。こうした懸念から、日本はこの先も安全保障をもたらすことのできる唯一の同盟国アメリカから離れないだろう。

さらに、日本との関係改善を模索するのなら、中国は近年の強硬路線からの劇的な転換を示すため、はるかに多くのシグナルを送らなければならない。

例えば、中国の国営メディアは反日プロパガンダのほとんどをやめて、中国軍は日本付近の海域や空域での活動を大幅に削減するはずだ。(中略)

最後の壁はアメリカだ。トランプと国家安全保障顧問たちが習の動きを注視するだろう。アメリカは日中の緊張緩和は歓迎しても、中国が日米関係に亀裂を生じさせようとすれば黙ってはいない。

朝鮮半島の核危機やアメリカのアジア戦略といった非常に重要な問題について、アメリカは日本が今後もアメリカの忠実で頼れる同盟国であり続けるよう、あらゆる手を尽くすはずだ。

こういった理由から、中国が見せた日本に対する雪解けムードは、当面はうわべだけで中身のないものになる公算が大きい。

引き続き和解を目指すのなら、習はさらに多くの、より強力なシグナルを送るはずだ。近い将来、高官レベルの協議が再開され、ひいては習と安倍の公式首脳会談も実現するかもしれない。

そうしたジェスチャーは追い風にはなるが、日中関係の本質と根本にある戦略的力学を変えるものではない。アジアにおけるライバルである2つの国は、以前よりはましな関係になっても、決して警戒を解くことはできないはずだ。【2017年12月29日 Newsweek】
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前向きに状況をマネジメントする努力を
お互いが根強い警戒感を抱きながらも、双方が少しずつ歩み寄り姿勢も・・・といった現状です。

****日本が4月の日中韓首脳会談開催を提案、日中関係の改善に「本気」****
2017年12月31日、参考消息網は記事「日本、日中韓首脳会談を提案、真剣に日中関係の改善を図る」を掲載した。

日本メディアの報道によると、日本政府は2018年4月の日中韓首脳会談の開催を中国、韓国に提案した。韓国側は「調整する」と回答し、中国からはまだ返事を得られていないという。

18年は、日中平和友好条約締結40周年の節目に当たる。日本側は日中首脳の相互訪問実現を目指している。2月にも安倍首相が訪中し、4月の日中韓首脳会談で相互訪問の定着を目指す構えだ。【1月2日 Record china】
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双方に警戒感があるのは当然ですが、そうした警戒感による負の連鎖を断ち切るためにも、首脳間の会談が重要でしょう。

中国の影響力拡大という“見たくない現実”から目をそらしているだけではどうにもなりませんし、中国との不毛の対抗関係にのめりこむのも日本の安全保障・経済上の利益にはなりません。

状況を前向きにコントロール・マネジメントする努力が必要です。
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