孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中印国境問題  両国の協議物別れで非難の応酬 中国はブータンとの関係強化

2021-10-19 23:20:14 | 南アジア(インド)
(【10月19日 朝日】)

【クアッドへのシフトを強めるインド】
日本、アメリカ、オーストラリア、インドの4カ国(通称クアッド)の首脳が9月24日に初の対面での会談を開催しました。

新たに創設された米英豪の「AUKUS(オーカス)」が軍事・安全保障面に重点を置くのに対し、クアッドは経済などより広範な分野を対象としているとされますが、いずれもアメリカ主導の対中国戦略です。

****対面でのクアッド首脳会議、米の強い意向で開催 対中シフトを強調****
日米豪印(通称クアッド)による対面での初の首脳会議は、バイデン米大統領の強い意向で開催された。バイデン政権には8月末のアフガニスタン戦争の終結後、早期に首脳会議を開くことで、外交・安全保障の軸足を中東地域から中国への対応にシフトさせたことをアピールする狙いがある。
 
バイデン政権は、中国が経済・軍事面で影響力を強めるインド太平洋地域を最重要地域と捉えている。なかでも民主主義や法の支配などの価値観を共有するクアッドは「地域における政策立案の根本的基盤」との位置づけで、専制主義と批判する中国に対抗するための中核的な枠組みだ。
 
バイデン政権は3月にオンラインながらクアッドで初の首脳会議を開催するなど、対中シフトへの環境整備を進めてきた。アフガン戦争の終結もその一環だ。

しかし、駐留米軍撤収に伴う混乱で、バイデン氏の支持率は急落。撤収理由に挙げていた「差し迫った脅威」である中国への対応を本格的に始動させ、撤収を正当化するとともに強い指導力を示す必要に迫られていた。
 
バイデン政権は今回の首脳会議前には、英国とオーストラリアと共にインド太平洋地域での安全保障の新たな枠組み「AUKUS(オーカス)」の創設も発表している。クアッドで経済安保の協力を強化しつつ、オーカスでは軍事的な連携を進める方針で、バイデン政権は重層的な多国間連携で中国に対抗する戦略を描いている。
 
ただし、バイデン政権の戦略が、思惑通りに進む保証はない。オーカスでは、オーストラリアがフランスと共同で進めていた潜水艦開発計画を破棄し、米英の支援による原子力潜水艦の配備に切り替えた。秘密裏に進められた米英豪の計画にフランスは猛反発し、欧州連合(EU)も不快感を表明。バイデン氏がマクロン仏大統領と22日に電話協議し、関係修復を試みているが、対中国で歩調を合わせたい欧州との間に亀裂が生じている。
 
また、東南アジア諸国連合(ASEAN)の一部の国は露骨な対中シフトには警戒感を示しており、オーカスについては「軍拡競争につながる」と懸念の声も上がる。

クアッドの一角を占めるインドも中国との経済的な結びつきが強く、米国が対中強硬姿勢を強めれば、足並みが乱れる可能性がある。【9月25日 毎日】
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上記記事最後にあるように、伝統的に非同盟主義を掲げてきたインドは、中国とのライバル関係にあり、中国のインド洋進出に神経をとがらせているのは事実ですが、一方で、経済的には中国と不可分の関係にあり、また、国境問題という慎重な扱いを要する問題を中国との間で抱えていますので、「中国包囲網」という形で過度に中国を刺激することには及び腰の面もあります。

日本は、そういう慎重なインドを引きずり込むような働きかけを行ってきましたが、初の対面での会談実現は、日本にとってはそうした努力の成果とも評価されているようです。

****日本、インド引き込みが奏功 日米豪印首脳会談****
日本、米国、オーストラリア、インド4カ国(クアッド)の首脳が24日に初の対面での会談を開催することになったのは、伝統的に「非同盟」の立場を続けてきたインドが積極的になったことが大きい。対中国を念頭に日本はインドとの2国間関係を強化してきており、働きかけが実りつつある。

「(法の支配などの)『自由で開かれたインド太平洋』の実現に向けた重要なパートナーだ」
菅義偉首相は23日、クアッドの首脳会合前に会談したインドのモディ首相にこう語りかけた。対面の会談は初めてだったが、次第に打ち解けた雰囲気になったという。
 
クアッドの原点は2004年のスマトラ沖地震の際の4カ国の被災地支援だ。以前は当局間の会合を開いても公表しないことがあったというが、17年が過ぎ、ようやく初の対面の首脳会合が実現する。外務省幹部は「要するにモディ氏が出てきたということだ」と解説する。
 
インドは特定の国と同盟関係を築かず、全方位外交を展開してきた。ロシアからは武器を輸入し、中露の主導する上海協力機構(SCO)や、新興5カ国(BRICS)にも参加する。
 
日本政府は表向き、クアッドについて「対中包囲網ではない」として、軍事同盟にすることも考えていないと強調する。インドの離反を招かないためだ。
 
一方で、安倍晋三前首相は中国を念頭にインド太平洋構想を打ち出す中、モディ氏と相互往来を重ね、関係を築いてきた。政府関係者は「日本は伝統的にインドと(対立する)パキスタンと等距離で外交を行ってきたが、安倍さんはインドにかじをきった」と打ち明ける。菅首相も今年4月末からの大型連休中にインド訪問を検討していた。

そのインドがクアッドへのシフトを強める「分水嶺になった」(外務省幹部)とされるのが、新型コロナウイルス禍にかかわらず、各国外相が顔を合わせた昨年10月の東京での会合だ。インドとしては、中国の影響力がアジア地域で拡大していることに加え、国境付近で中印両軍が衝突し、昨年6月に45年ぶりに死者が出たことも後押ししたとみられる。【9月25日 SankeiBiz】
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【中印国境に関する協議が物別れ クアッドを背景にインドが強気姿勢?】
インドと中国は、昨年6月に中国チベット自治区とインド北部ラダック地方の係争地域パンゴン湖周辺での衝突で45年ぶりに死者が出ましたが、今年2月に両軍は撤退に合意しています。

ただ、両国の国境での衝突・小競り合いは毎度のことで、中国メディアによると最近も国境付近で両軍が一時衝突したと報じられています。【10月11日 共同より】

そうしたなかで、2月の両軍撤退合意後も話し合いは続けられていますが、10月10日に行われた両軍の協議は紛糾したことが伝えられています。

背景には、インドがクアッドに参加してアメリカに接近したことで自信を深め、強気に出ているとの中国メディア
報道も報道もありますが、そこらはどうでしょうか・・・。9月の首脳会議出席に見られるように、インドが対中国で真正面から向き合うような流れになっているのかもしれませんが、もう少し状況をみないとなんとも言い難いところです。

****インド、中国との対立再燃 米国への接近で「自信」―軍高官会談物別れ****
中国とインドの国境地帯に再び緊張が走っている。中印両軍が小競り合いを起こし、10日に開かれた国境問題をめぐる軍高官会談は物別れに終わった。インドが米国に接近し強気に転じていることが、対立再燃の背景にあるという見方も浮上している。

中印は3000キロ以上の未画定国境を抱え、事実上の国境となる実効支配線をはさみ対峙(たいじ)してきた。両軍は昨年6月、インド北部ラダックの国境地帯の渓谷沿いで衝突。45年ぶりに双方に死者が出た。両軍はその後もヒマラヤ山脈の国境地帯でにらみ合いを続け、今年2月に一部地域で撤退を始めた。
 
だが、中印メディアによると、先月下旬になってインドが実効支配し中国も領有権を主張するアルナチャルプラデシュ州タワン近郊で、両軍の小競り合いが発生した。中国軍兵士がインド側に一時拘束されたという情報も流れ、英字紙チャイナ・デーリーが中国軍関係者の話として「完全なでっち上げ」と報じる一幕もあった。
 
インドのナイドゥ副大統領は今月8日、同州を空軍機で訪問し、中国をさらに刺激。中印両軍は10日、にらみ合いが続いている地域からの撤退について軍高官会談を開いて協議したが、「インド側が不合理かつ現実離れした要求を掲げた」(中国軍西部戦区)「中国側はいかなる前向きな提案もしなかった」(インド外務省)と非難し合う結果に終わった。
 
中国ではインドの一連の対応について、同国と日米、オーストラリアの4カ国連携枠組み(通称クアッド)と結び付ける論調が出ている。

日米豪印は14日までの日程で合同海上演習「マラバール」をインド東方のベンガル湾で実施し、軍事面で存在感を誇示。中国紙・環球時報は、クアッド参加がインドに「これ以上ない自信」を与え、軍高官会談に影響したという専門家の見解を伝えた。
 
中国の疑念を裏付けるように、インドでもクアッド重視の機運が高まっている。ただし、インド側で指摘されるのは、対中包囲網の一環として米英豪が立ち上げた安全保障枠組み「AUKUS(オーカス)」の影響だ。
 
印オブザーバー研究財団のハーシュ・パント研究主任はヒンドゥスタン・タイムズ紙への寄稿で、「米国がAUKUSを特別視してクアッドが希薄化するとインドは懸念している」と分析。こうした危惧が、インド政府をクアッドへの関与強化に向かわせている可能性があると解説した。【10月14日 時事】
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もともとインドはクアッドにそう積極的でもありませんでしたが、アメリカの関心がAUKUSに移るかも・・・という事態になると、置き去りにされるような不安感からクアッド重視に傾く・・・といった話でしょうか。

【中国は、インドの影響力が強いブータンとの関係を深める】
一方、中国は、インドの影響力が強いブータンへの働きかけを強めているようです。

****中国とブータン、国境画定へ加速 覚書に調印 対インド狙いも****
国境を巡る対立が長年続いてきた中国とブータンが、問題解決に向けて動き始めた。両国は国境画定交渉を加速させるための覚書に調印し、国交の樹立にも意欲を示した。

中国にとってブータンとの関係安定を図る動きは、同様に国境問題を抱えるインドを揺さぶる狙いがある。ブータンに影響力を持ってきたインドは、交渉の行方を注視している。
 
14日、中国の呉江浩外務次官補とブータンのタンディ・ドルジ外相がオンラインで会談し、国境交渉を3段階で進める計画に関する覚書を交わした。
 
詳細は明らかにされていないが、中国外務省によると、呉氏は「今日の調印は国交樹立プロセスにも有意義な貢献になると信じている。中国は親善、誠実、互恵の周辺外交を実践する」と表明。ブータン外務省も「この工程表の履行により、両国が受け入れ可能な結論を導くことが期待される」と発表した。
 
国境が400キロ以上に及ぶ中国とブータンは、国境画定に向けた協議を1984年に始め、これまで24回の交渉を重ねてきたが、合意には至っていない。主な係争地はブータン西部のドクラム地域だったが、中国は昨年、東部のサクテン野生生物保護区についても「国境は未画定」と主張し、問題を複雑にした。
 
中国が陸地で国境を接する14カ国のうち、現在も境界が画定していないのはブータンとインドの2カ国で、国交がないのはブータンのみだ。中国にとって文化や宗教でチベット自治区とつながりが深いブータンとの関係を築くことは、チベットを安定させる意義がある。
 
さらに中国の思惑が透けるのは、対インド関係だ。
 
昨年、両軍の衝突で45年ぶりに死者が出た中印国境では緊張が続く。今月9日、インドのナイドゥ副大統領が中印の係争地でインドが実効支配するアルナチャルプラデシュ州を訪問すると、中国外務省の趙立堅副報道局長は「州の設立が違法であり、指導者の活動など認めない」と抗議。10日に開かれた軍団長級の会議も、物別れに終わった。
 
インドは中国とブータンが対立するドクラム地域に軍を駐留させるなど、ブータンの後ろ盾として強い影響力も持つ。中国ではブータンとの交渉が難航してきた背景に、インドの存在があるとの見方が強い。
 
共産党機関紙・人民日報系の環球時報は「インドが妨害しなければ、中国とブータンの交渉は成立する」と題した16日の社説で、「インドが国境に関する国益をブータンにまで拡大させて『対中前線』をつくることは、国際関係における違反行為だ」と非難した。
 
インド外務省のバグチ報道官は、中国とブータンの覚書について「両国で締結があったことは把握している」と語るにとどめている。
 
インドの安全保障にとって、ブータンは重要な国だ。近くには、首都ニューデリーがあるインド主要部と北東部をつなぐ「チキン・ネック(鶏の首)」と呼ばれるインド領の細い地域があり、ここを中国に攻められれば、国土が分断されるとの懸念がある。【10月19日 朝日】
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インドが後ろ盾となって軍を駐留させてきたブータンが、インド抜きで中国と交渉を進める・・・という話であれば、インドにとっては手痛い失点でしょう。

更に、「チキン・ネック」への中国の圧力が強まる事態になれば、戦略的にもインドは不利です。

やっぱり、中国の方が一枚上手かな。というか、ブータンを直接交渉に引き込むほどに、中国に勢いがあるというか、影響力が強いといったところでしょう。
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ロシア  収まらない感染拡大 進まないワクチン接種 国民の不信感 強硬措置に及び腰の政権

2021-10-17 22:34:21 | ロシア
(ロシアのコロナ新規感染者・死者の推移 【ロイター COVID-19 TRACKER】)

【進まないワクチン接種 根深い不信感】
ワクチンの接種拡大もあって、新型コロナ感染が一定の落ち着きを見せ、関心がワクチン接種証明書などを活用した「ウィズ・コロナ」の社会のあり方に移っているなかで、ロシアは依然として感染拡大を止めることができずにいます。

****ロシア、1日の死者が初めて1000人超える 不信感からワクチン接種進まず****
ロシアで16日、新型コロナウイルスによる1日あたりの死者数が、パンデミック開始以来初めて1000人を超えた。ロシア政府が発表した。新規感染者は約3万3000人だった。

ロシアの死者数はこの1週間、増加し続けた。ロシア大統領府は、国民が新型ウイルスワクチンを接種していないことを非難している。

ロシアではワクチンへの不信感が広がり、国民の約3割しか接種を受けていない。直近の世論調査では、接種を全く望まない人の割合が50%を超える可能性が示された。

ロシアの新型ウイルス感染症COVID-19による累計死者数は21万8362人と(米ジョンズ・ホプキンス大学の集計、日本時間17日午前時点)、欧州最多となっている。

また、現感染者数は約75万人で、2020年2月の統計開始以来最多となっている。累計感染者数は800万人に迫る勢いだ。

厳しい規制を導入せず
ロシア政府は経済活動を維持する必要があるとして、新型ウイルス対策の厳しい規制の導入を避けている。代わりに、ワクチン接種に対する国民の関心の低さに焦点を当てている。

ドミトリー・ペスコフ大統領報道官は今週、「感染が拡大している状況下では、国民にワクチン接種の必要性を説明し続ける必要がある」と述べた。「接種を受けないのは実に無責任だ。(感染で)死んでしまうのに」

ロシア政府は、国内の医療機関はひっ迫しておらず、新型ウイルス患者の増加に対応できると主張している。
しかし、ミハイル・ムラシュコ保健相は、新型ウイルスを恐れて診療所を離れた医師たちに、ワクチンを接種して職場復帰するよう求めた。【10月17日 BBC】
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ロシアは昨年8月、世界で最初に新型コロナウイルスのワクチン「スプートニクV」を承認していますが、14日時点で2回の接種を終えた人は31・3%にすぎません。

国際的にはロシア製ワクチン「スプートニクV」の効果は高いとの評価もありますが、ロシア国民の「不信感」は相当に根深いようです。

****ロシアの感染、過去最悪 政治不信招き「国産ワクチン打ちたくない」****

(フードコートに設けられたワクチン接種会場で来場者を待つ医師=2021年10月14日、モスクワ)

(中略)人気レストランが数多く入居するモスクワ最大級のフードコートに併設された接種会場を14日に訪ねると、来場者の姿はほとんどなかった。職員は「1日に約500人を受け入れられるが、昨日は80人しか来なかった」と話した。
 
街中を歩くと、マスクを着けている人はまれで、地下鉄車内でも未着用が目立つ。まるでコロナ危機が終息したような雰囲気だ。
 
しかし、ロシア政府によると、16日は1日あたりの感染者数が3万3208人、死者数は1002人と、いずれも過去最悪になった。感染者数は昨年12月の約3万人をピークに一時は1万人以下に減ったが、感染力の強いデルタ株が広がり今年6月から急増している。
 
背景にあるのが、ワクチン接種率の低さだ。国内の関連データを集めているサイト「GOGOV」によると、14日時点で2回の接種を終えた人は31・3%。政府が目標とする接種率70%に届くまで1年以上かかるペースだという。
 
昨年、病床確保などに取り組んだ成果か、医療崩壊は伝えられていない。ただ、あまりに社会の緊張感が薄く、政府は危機感を強めている。

ロシア大統領府のペスコフ報道官は14日、ロシアメディアにこう訴えた。「死亡率や感染率の拡大など最悪の事実も隠さず伝え、国民にワクチン接種を説かなければならない」

弱腰の対策 支持率の低下恐れ
ロシアは昨年8月、世界で最初に新型コロナウイルスのワクチン「スプートニクV」を承認。政権は世界初の「偉業」を誇り、12月に国民への接種を始めた。
 
だが、最終段階の大規模な臨床試験は省略。さらに3種類の国産ワクチンを承認したが、スピード優先の姿勢は効果や安全性に対する国民の不信を招いた。
 
しかも、ロシアで接種できるのは国産だけ。

英医学誌ランセットは今年2月、スプートニクVの感染予防効果が91・6%に上るとする論文を掲載したが、独立系世論調査機関「レバダセンター」の9月の調査によると、「国産ワクチンを打ちたくない」と答えた人は52%だった。ボルコフ所長は「ワクチンは開発より接種の方が難しいことが明らかになった」と指摘する。(後略)。【10月17日 朝日】
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ワクチンへの不信感もさることながら、1日の死者が1000人を超える状況でも“地下鉄車内でも(マスク)未着用が目立つ”という緊張感のなさは、感染者数などの動向に過敏ともとれるような日本とはまったく異なります。
国民性でしょうか。

【国民不満を警戒して強硬な措置に及び腰な政権側】
不思議なのは、こういう深刻な状況にあって、ロシア政府がロックダウンとかワクチン接種義務化といった強硬な措置をとっていないことです。

****新型コロナの死者数と症例数が過去最多に、ロックダウンは否定 ロシア****
(中略)それでも議会は全土のロックダウンには踏み切らない姿勢を変えていない。国営タス通信によると、ロシア連邦院(上院)のワレンチナ・マトビエンコ議長は「簡単な状況ではない。だが連邦ロックダウンを導入する根拠はない」と述べ、ロックダウンは理にかなわないとの見解を示した。(後略)【10月17日 CNN】
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個人の自由を重視する欧州各国は、ロックダウンを実施し、「ウィズ・コロナ」にあってはイタリアのように全労働者にワクチン接種を義務化する国もあります。

****イタリア、「ワクチン証明書」提示を全職場で義務化…各地で抗議デモも****
イタリアで15日、新型コロナウイルスのワクチン接種完了を示す「ワクチン証明書」などの提示を全職場で義務化する措置が始まった。違反者には最大1500ユーロ(約19万8000円)の罰金、出勤停止、給与差し止めなどが科される。
 
9月中旬に義務化が発表されて以降、駆け込みで接種する人が増え、イタリア全体の接種完了者は7割を超えた。
 
ただ、健康上の懸念などから接種を拒む人もいることから、各地で抗議デモが起きるなど、義務化には反発も広がっている。
 
伊ANSA通信によると、同国有数の港町北部トリエステでは、5000人以上の港湾労働者らが集まり、港の一部を封鎖した。北部トリノ近郊のフィアット製造工場付近などでも従業員らによるデモが起きた。
 
イタリアでは長距離列車、飛行機、船などの公共交通機関の利用や、美術館などの文化施設、ジムなどの運動施設の利用にも接種証明の提示が義務づけられている。【10月16日 読売】
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失礼ながら、イタリアなど欧州各国に比べ、ロシアで個人の自由がより重視されているとは思えませんが、ロシアはなぜ欧州各国のような強硬な措置をとらないのか?

もっとも、ロシアはこれまで、そうした措置をとってこなかった訳ではなく、とろうとしたけど国民の不満を恐れて撤回したというのが実際のところのようです。

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政府や自治体の感染対策も迷走する。モスクワで6月、飲食店の入店に接種証明の提示義務が導入されたが、経済界が激しく反発し約3週間で撤廃された。
 
モスクワの企業は従業員の60%以上が接種しないと罰則を受けることになったが、「事実上の強制接種だ」との批判を受け、市長が「実態調査はしない」と表明した。
 
対策が弱腰なのは、全国各地で昨年、罰金がある厳しい外出規制を導入した後、プーチン大統領の支持率が過去最低の59%に低下したことがあるとみられる。
 
政権は感染予防を理由に反政権デモを禁じる一方、戦勝記念日の軍事パレードや五輪選手の凱旋(がいせん)イベントなどの国威発揚行事を実施するなど姿勢が一貫していない。

地方では知事の判断で再び規制も強まりつつあるが全国統一の方針を打ち出せておらず、政権として国民に厳しい規制を強いるのは難しい状況だ。【前出 10月17日 朝日】
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【イメージよりは脆弱なプーチン体制?】
ロシアに関してはプーチン大統領の強固な支配体制・・・というイメージがありますが、国民不満の高まりを恐れ、支持率のつなぎ止めに汲々としている・・・そんな実態も浮かび上がってきます。

プーチン体制はイメージほど強固なものではないようにも見えます。

9月19日に行われた下院選ではプーチン政権与党の「統一ロシア」が、定数450の3分の2を超える324議席を獲得して圧勝しましたが、拘束されている反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏を支持する反政府勢力を事実上選挙戦から締め出すなどの、“あの手この手”を使って達成した数字でもあります。

その“数字”に関しても、野党・共産党は不正があったとして抗議しています。

****ロシア下院選、電子投票に不正疑惑 公表に14時間、形勢逆転も****
ロシアで9月中旬実施された下院選を巡り、一部地域で導入された電子投票で不正疑惑が浮上している。苦戦を伝えられた政権与党が目標議席に達したが、電子投票が実施された一部の選挙区では不可解な票の動きが判明しており、野党や支持者は抗議の声をあげている。
 
「我々の勝利は電子投票のおかげで盗まれた」
投票締め切りから6日後の9月25日、モスクワ中心部で野党・共産党が開催した抗議集会。小選挙区で落選した議員らが電子投票による不正を訴えると、1000人を超えるとみられる支持者らが「我々は選挙結果を認めない」とシュプレヒコールを上げた。
 
集会に参加した会社員のアレクセイさん(48)は「電子投票は完全ないかさまだ。透明性がなく、開票は監視されていないし、当局に票が操作されていてもおかしくない」と憤りを語った。
 
ロシアでは2019年の統一地方選から、インターネットを通した電子投票が試験的に導入され、今回の下院選では七つの地方で実施された。希望者が国や市のポータルサイトやアプリで事前に登録すれば、投票期間中にどこからでもパソコンやスマートフォンを使って投票できる。今回はプーチン大統領も電子投票を行うなど、政権側がシステムの安全性や便利さを強調して、利用を呼びかけてきた。
 
だが、ロシアメディアによると、モスクワ以外の地方では投票終了後、1時間程度で電子投票の結果が明らかになったのに対し、モスクワでは公表まで約14時間かかった。

開票終盤に投票所での集計結果に電子投票の結果が加えられると、それまで共産党などの野党候補がリードしていた八つの小選挙区で形勢が逆転し、モスクワ市内の15選挙区全てで政権が推す候補が勝利する結果になった。
 
選挙前は過去最低の支持率に苦しんだ与党・統一ロシアだが、324議席を獲得。前回よりも19議席減らしたが、目標とした300議席をクリアした。
 
選管当局は開票の遅れについて、モスクワで電子投票の利用者が約200万人に上ったことや、モスクワだけ投票先を後で変更できる機能を導入したことにより、「暗号化された票の解読作業に時間がかかった」と説明。不正の可能性を否定している。

プーチン氏も25日、不正の指摘が出ていることについて「誰かが選挙結果を気に入っていないからだ」と述べ、「技術の進歩は止められない」と今後も電子投票を推進する考えを示した。
 
だが、開票時に監視員が電子投票用のサーバーに接続できなくなり、解読作業の監視が十分にできなかった問題が報じられたほか、電子投票のデータを解析した専門家が一部の票が解読されていない可能性を指摘するなど、データの不自然さを訴える声も相次ぐ。
 
電子投票の不正を訴える抗議の動きに対しては、治安当局が無許可の抗議活動を呼びかけたとして共産党の活動家らを相次いで拘束するなど圧力をかけている。
 
モスクワの小選挙区で敗北した共産党のパルフョノフ下院議員は毎日新聞の取材に「選挙結果が奪われたのは明らかだ。清廉な選挙のために闘う」と電子投票に反対し続ける考えを強調。選挙結果の無効を求める訴訟の動きも出ており、電子投票に反対する動きが続く見通しだ。【9月30日 毎日】
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真相はわかりませんが、上記記事を読む限り、不正の臭いも・・・という感が。

ただ、政権側は共産党がこれまでの「体制内野党」から変質しないように気を使い、共産党側は見返りポストを要求する・・・といった水面下の現実政治の交渉があるようです。

****露下院選不正疑惑、共産党が抗議集会強行…事態収拾の見返りに要職ポスト求める?****
ロシアの最大野党・共産党は、19日に実施された下院選で不正があったとして、モスクワ中心部で25日、抗議集会を開いた。独立系ニュースサイト「メドゥーザ」によると、約1000人が参加した。検察当局は参加者を拘束すると事前に警告したが、共産党は集会を強行した。
 
共産党は、電子投票の開票作業が不正に行われたと主張し、20日に初めて抗議集会を開いた。共産党によると、集会後、治安当局は下院選候補者や現職市議らを拘束した。
 
プーチン政権は、政権との共存を前提としてきた「体制内野党」の共産党が変質し、全国規模の反政権運動を起こすことがないよう、抗議行動の収束に躍起となっている。
 
メドゥーザは25日、共産党のゲンナジー・ジュガーノフ議長がプーチン大統領の側近と頻繁に接触していると伝えた。事態収拾の見返りに、下院の重要ポストを求めているという。ジュガーノフ氏はプーチン氏や各党党首とのテレビ会議を理由に25日の抗議集会を欠席した。
 
下院選ではプーチン政権与党の「統一ロシア」が、定数450の3分の2を超える324議席を獲得して圧勝した。共産党は14議席増の57議席だった。【9月25日 読売】
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話がコロナからあらぬ方向にそれてしまったので、今日はここまで。

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アフガニスタン テロと飢餓に直面するタリバン統治 タリバンに求められる国内外の声に耳を傾ける姿勢

2021-10-16 22:39:26 | アフガン・パキスタン

(カブールで6日、タリバンがパスポート発行を再開すると発表したことを受け、オフィスに殺到した人々=ロイター。パスポートを取得して国外に脱出したいと願う人たちが多い【10月15日 朝日】)

【タリバン支配を不安定化させるテロ攻撃と食糧難・飢餓】
タリバンが統治するアフガニスタンでは、敵対するIS系勢力による大規模テロ攻撃が続いており、また、食糧難・飢餓が深刻化していることで、タリバンの統治能力に疑念を抱かせるような不安定な状況が続いています。

****2週連続で大規模テロ タリバンに打撃 ISが犯行声明****
アフガニスタン南部カンダハルのイスラム教シーア派のモスク(礼拝所)で起きた爆発で、スンニ派過激派組織「イスラム国」(IS)系の「ホラサン州」(IS−K)が15日、犯行を認める声明を出した。AP通信は爆発による死者が47人、負傷者が70人になったと報じた。

国内では8日にも北部クンドゥズでIS−Kによる自爆テロが発生し、50人以上が死亡した。2週連続で大規模テロが起きたことで、国内の実権を握ったイスラム原理主義勢力タリバンの治安維持能力が疑問視されている。

声明によると、IS−K戦闘員2人が警備員を射殺してモスクに侵入し、礼拝中の住民の間で自爆したという。IS−Kは敵対するタリバンへの攻撃とともに、国内少数派のシーア派住民を狙ったテロも繰り返している。【10月16日 産経】
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かつては、タリバン自身が(IS系と異なり、一般市民は対象としないとはしていましたが)自爆テロなどで政権を揺さぶっていましたが、現在はIS系勢力のテロに苦しむというのも皮肉な事態です。

テロも重大な問題ですが、より深刻・広範な問題は食糧難・飢餓の問題。

今日、10月16日は「世界食料デー」とのことですが、WFP(国連世界食糧計画)日本事務所は15日、「アフガニスタンの95%の家庭が十分な食料を得ることができていない」と支援を呼びかけています。

アフガニスタンの食糧難はタリバン支配以前からの問題ですが、タリバンが支配権を掌握して以来、経済は混乱し、頼みの綱の国際支援も滞り、事態は更に深刻化しています。

****アフガ二スタン 多くの国民が食事をとれない危機的な状況****
アフガニスタンでは、ことし8月にイスラム主義勢力、タリバンが再び権力を掌握して以降、現金不足などで経済の混乱が続いていて、多くの国民が十分な食事をとれない危機的な状況となっています。

アフガニスタンでは、海外にある政府の資産が凍結されるなどして現金が不足しているため、多くの人が給料を受け取れないうえ、仕事を失った人も多く、経済状況が極端に悪化しています。

さらに、ことしの干ばつの影響に加えて、再び権力を握ったタリバンの統治の行方を見極めようという各国の人道支援も滞り、食料不足が深刻化しています。

WFP=世界食糧計画によりますと、アフガニスタン国内で毎日の食事を十分にとれない人は、ことし8月のタリバンの復権の前でも80%いましたが、その数はタリバンが権力を握ったあと急増して、現在は、国民の95%に上るということです。

中でも子どもたちの食料不足は深刻だということで、WFPは、年末までに5歳未満の子どもたちのおよそ半数が急性の栄養失調となり、少なくとも100万人が命を落とす危険性があると警告しています。

WFPが人道支援に必要な資金は、年末までに1億ドル(日本円でおよそ110億円)が足りないということで、各国に対し緊急の支援を呼びかけています。

子どもたちの施設 支援届かず 食事提供できなくなるおそれ
首都カブールにある施設では25年余りにわたり、親を失った子どもたちなどに簡単な読み書きを教えたり、温かい食事を提供したりしてきました。

毎日この施設に通うアリシュ・シャハユムさん(13)は5年前、アフガニスタン政府軍の兵士だった父親がタリバンとの戦闘で亡くなりました。

母親と2人の弟を養うため、路上でプラスチックの袋を売る毎日ですが、一日の稼ぎは400円足らずほどしかありません。

学校にはこれまで一度も通ったことがないといいます。日々、厳しい生活を送るアリシュさんにとって、施設で提供される温かい食事がいちばんの楽しみだといいます。

この日出されたのはごはんと豆の煮込みで、アリシュさんは「ここの食事はおいしいです。一日のうちで食事と呼べるのは、このランチしかありません」と話していました。

しかし、タリバンの復権以降、アフガニスタンの経済が危機的な状況となり、施設では子どもたちに食事を提供できなくなるおそれが出ています。

これまでNGOを通じて施設を支援してきたアメリカやヨーロッパ各国はタリバンの統治の行方を見極めようと、援助を見合わせました。

その後、各国は今月になって国連を通じた人道支援への資金の拠出を表明しましたが、まだ施設への援助は届いていません。

もともと施設の予算が限られ、肉などの高価な食材は使えませんでしたが、物価の高騰もあって十分な食材を調達することができず、保存していた米や豆を使った料理で何とかしのいでいるといいます。

施設の担当者は「支援金が届かず困難に直面しています。いつになったら資金が調達できるのか、いつまで子どもたちへの支援が続けられるのか分かりませんが、最善を尽くしたいです」と話していました。

食事を終えたアリシュさんは「施設は僕にとって家のようなものです。もし行けなくなったら食事も食べられなくなり、どうしたらよいか分かりません」と不安な様子で話していました。

WFP「目の前で状況がみるみる悪化している」
NHKのインタビューに応えたアフガニスタン事務所のメアリー・エレン・マクグロアーティ代表は、現在のアフガニスタンの食料不足について「200万人以上の子どもたちが栄養失調の危機にあり、信じられない割合に増えています。これが本当の危機です。目の前で状況がみるみる悪化しています」と話し、強い危機感を表しました。

そして「最も苦しむのは子どもと女性です。彼らは食べることもできず、体を温めることもできないのです」と訴えました。

支援が必要な人が増える中、WFPは今、深刻な資金不足に直面していて、冬が近づく中、状況の悪化に懸念を強めています。

冬になると特に北部の山岳地帯では、支援物資を運ぶルートが雪に覆われて通行できなくなるため、今のうちに物資を調達する必要がありますが、資金不足で確保できず、食料などを届けられないおそれがあるということです。

マクグロアーティ代表は「年末までに1400万人に支援を行いたいので、緊急にあと1億ドルが必要です。私たちは家族や子どもの平和やよりよい暮らしを願いますが、それはアフガニスタンの人も一緒です。世界のどこに住んでいても、私たちは同じ人間なのだということを忘れないでほしい」と訴えました。【10月16日 NHK】
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WFPの支援活動については、タリバンもその活動を保証しているようです。しかし、女性の就業について現時点では限定的にしか認めていないタリバンの姿勢によって、女性スタッフは不安を抱えながらの活動にもなっています。

そのたりの事情について、WFP日本事務所は以下のようにも語っています。

****支援活動の安全を確保も、女性スタッフに不安****
(中略)
――支援活動で危険を感じることは?

タリバンは、自分たちが人道支援を必要としていることを理解していて、私たちは標的ではないと保証しました。私たちは何年にもわたってタリバンに対応してきました。アフガンは一夜にしてタリバンに占拠されたわけではありません。私たちはタリバンと交渉して人道的アクセスを確保し、戦闘に巻き込まれることを回避してきました。そのため、国連WFPの活動に関しては、継続するのに十分な安全性があると考えています。(中略)
――女性スタッフへの影響は?

その質問に一言で答えるなら「ある」です。女性スタッフは大きな不安を抱えています。現在、80人の女性スタッフが働いています。何人かはマザリシャリフ(北部バルフ州の州都)やファイザバード(北東部バダフシャン州の州都)、そして私たちがカブールで運営している国連人道支援航空サービスで、すでに仕事に復帰しています。

しかし、タリバン暫定政権のトップレベルから女性スタッフの職場復帰が認められているとの確証が得られているとはいえ、仕事をすることに不安を感じる人もいます。現地のタリバン指揮官によって、状況が違うことがあります。女性スタッフは、出勤した場合に標的にされる可能性があることを非常におそれています。

――どのように対処している?

スタッフを強制的に出勤させることはありません。彼女たちが不安を感じた場合、可能な限りリモートで作業します。私たちはタリバンの指導者に対して、性別を問わず、すべてのスタッフの出勤を認め、国連機関が取り組んでいる職務の遂行を妨げてはならないと訴えています。私たちは人道的な理由で、人道的な原則に基づいて活動しています。独立し公平であり、私たちの活動やスタッフに対するいかなる干渉も受け入れることはできません。【10月15日 日テレNEWS24】
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【国際社会は人道支援では一致するも、制裁解除などについてはタリバンの姿勢を見極めてから】
こうした事態に国際社会も児童支援の必要性では一致していますが、欧米諸国はタリバンの人権、特に女性の権利に対する姿勢が明確に示されていない現状では制裁解除や国家承認は行わない方針で、人道支援が十分に機能するか不透明な部分もあります。

また、中国も人道支援では一致するものの、欧米とは異なる独自のアプローチに力点を置いています。

****G20首脳がアフガン情勢を協議 首相、年内220億円の支援表明****
主要20カ国・地域(G20)は12日、アフガニスタン情勢について初めてとなる首脳レベルの臨時会合をオンラインで開いた。岸田文雄首相にとって就任後初の国際会議への参加となった。

各国は人道支援の重要性を強調。ただ、中国の習近平(シーチンピン)国家主席やロシアのプーチン大統領は参加せず、足並みの乱れが懸念されている。

8月にタリバンが権力を掌握して2カ月近くが経ち、アフガニスタンでは人道危機が深刻化。国連世界食糧計画(WFP)によれば、1400万人が深刻な食料不足にあり、320万人の子どもたちが深刻な栄養失調に陥る恐れがある。
 
一方で、タリバンへの経済制裁による資産凍結や援助資金の停止によって国内経済は財政難にある。

国連のグテーレス事務総長は11日、人道支援を続けるためにも「アフガン経済の崩壊を何としても防ぐ必要がある」と訴えた。だがタリバンへの制裁解除に応じるかどうかは各国の意見が割れており、人道支援に向けてG20が歩調を合わせられるかが焦点となっている。
 
米ホワイトハウスは会合後、テロ対策や国外退避を望む人々の安全確保について議論したと発表した。また「国際機関を通じてアフガニスタンの人々に直接人道支援を届け、女性や少数派を含む全ての人々の基本的人権を促進することを各国が再確認した」とした。
 
ただ、米国はタリバンをテロ組織に指定しており、経済制裁を早期に解除するつもりはない。制裁維持によってタリバンに圧力をかけつつ、女性の権利尊重やテロ対策などの要求事項を守らせたい考えだ。タリバンへの圧力を強めるためにも、各国との協調が重要となる。
 
日本政府によると、岸田首相は人道危機に対応するため、6500万ドル(約71億円)規模の新規分を含め、今年中に総額2億ドル(約220億円)の支援を行う考えを表明。「タリバンがテロ組織との関係を断ち切ることが不可欠」との認識を示した。

対タリバン、米中の違いが浮き彫りに
また、「すべてのアフガニスタン人の人権、特に女性が学び、働くことができる環境を守ることは将来の発展に不可欠だ」と指摘。タリバンに対し、国際社会が一致して粘り強く働きかけていくべきだと訴えたという。
 
欧州連合(EU)もアフガニスタンの国民と近隣国のためだとして、約10億ユーロ(約1300億円)の支援を申し出た。

EUはアフガンへの開発支援を凍結したままで、タリバンの暫定政権も認めていない。だが、経済状況の悪化が進むなかで、飢餓などの人道危機を回避するためだとしている。

行政を担う欧州委員会のフォンデアライエン委員長は会合前、「私たちはアフガン当局とのいかなる約束にも明確な条件を設けているが、市井の人々がタリバンの行動の代償を払うべきではない」とした。すでに計画していた人道支援に加え、予防接種や市民の避難などの専門的な支援をするという。
 
一方、この日の臨時会合に中国からは習氏は参加せず、王毅(ワンイー)国務委員兼外相が出席。アフガン問題を議論した9月の上海協力機構(SCO)首脳会議には習氏がオンラインで参加しただけに、米欧より、SCOに加盟するロシアやパキスタンなどとの協調を重視する姿勢がにじんでいる。
 
中国政府は先月、SCO加盟国のロシア、パキスタンとそろってアフガニスタンに特使を派遣し、タリバン側と会談。タリバンに対して一定の影響力を持つ両国と歩調を合わせて接触を重ねつつ、穏健な政権づくりを促す方針だ。
 
米国とはテロ対策の必要性では一致するが、タリバンとの向き合い方が異なっている。中国は医薬品など総額2億元(約35億円)分の支援をすでに約束し、暫定政権へ受け渡しを始めた。中国外務省によると、王氏は会合で一刻も早い援助の必要性を主張した上で、「一方的な制裁は解除すべきだ」と呼びかけた。
 
蘭州大学アフガニスタン研究センターの朱永彪主任は「タリバンに対する姿勢の違いが、アフガン問題で中米の協調を難しくしている」と語る。
 
先立って9月にオンラインで開催されたG20外相会議では、女性の権利尊重をタリバンに求めることで各国が一致したものの、対タリバン制裁をめぐっては米中の姿勢の違いが浮き彫りとなっていた。【10月13日 朝日】
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【現場において変化が認められないタリバン統治の暴力性】
日本を含めた欧米諸国もタリバン支配のアフガニスタンにどのように向き合うか悩ましいところです。
人道支援は必要ですが、人権を十分に保証していない現状においてタリバン統治を認めることもできません。

タリバン側の姿勢にも、目だった変化も見られていません。

****記者を暴行、脅迫、出勤停止… タリバン支配2カ月、言論の危機****
アフガニスタンでイスラム主義勢力タリバンがガニ政権を崩壊させ、権力を握ってから、15日で2カ月となる。タリバンは報道の自由をうたうが、実際には嫌がらせを受けた報道機関の休業や記者の拘束が相次いでいる。
タリバンによる支配への抗議や弱い立場にある女性の声は、ますます届きにくくなっている。
 
政権崩壊直前の8月中旬、東部ジャララバードのテレビ局「エニカスTV」でショクルラ・パスン記者(43)は番組の準備をしていた。そこに突然、タリバンの戦闘員らが現れた。戦闘員は「メディアは外国勢力の差し金だ」とののしり、局内を見回した後、取材車両3台を奪って帰ったという。
 
激戦地で取材するエニカスTVは、2018年に経営者が一時誘拐され、今年3月には女性局員3人が帰宅中に射殺されるなど繰り返し武装勢力の標的にされてきた。「市民と政治をつなぐ橋になる」ことを目標に報道を続けたが、タリバンの復権は記者たちを動揺させた。経営陣が国外脱出し、局の閉鎖が決まった。
 
閉鎖前から、パスン記者の携帯電話には不審な着信があったという。「タリバンはメディアを萎縮させ、批判を封じ込めている。市民の声を代弁する批判こそが政治を鍛える土台となることを理解していない」と憤る。現在は東部の自宅を離れ、親戚宅を転々として暮らす。
 
現地のジャーナリスト保護団体の調査によると、この2カ月間で国内の報道機関の約7割が休業したという。地元テレビは、政権崩壊から1カ月ほどで休業した活字メディアが153社に上ったと伝えた。米国の制裁などで経済がまひし、広告収入の減少で、記者に給料が払えないことも一因となっている。
 
特に苦しんでいるのはタリバンが敵視してきた女性記者たちだ。タリバン傘下に入った国営テレビ「RTA」では女性キャスターが出勤を止められた。国際NGO「国境なき記者団」が8月末に公表した報告によると、首都カブールの女性記者約700人のうち政権崩壊後も働いているのは100人に満たないという。
 
北部バルフ州のラジオ局などに人権擁護を訴える記事を届けてきたフリーランスの女性記者(25)は「タリバンから親戚伝いに執筆をやめるよう脅され、いま首都に逃げている」と話す。欧米メディアの現地スタッフとして働いた記者が退避対象になるなか、フリーランスの多くは脱出できずにいるという。
 
国内では抗議デモを取材する記者がタリバンに暴行されたり、機材を取り上げられたりする事案が相次いでいる。記者が減った東部ではタリバンの車両を狙った爆発が続発しているが、タリバンは取材を規制し、被害規模を公表しない。
 
一方、タリバンは見せしめ的な処刑や財産没収を公表し、反対派を牽制(けんせい)している。処刑や財産没収の法的根拠は明らかでない。
 
女性記者は「監視の目がなくなれば、誰も説明責任を果たさなくなる」と危惧する。これまでも女性の立場は弱かったが、児童婚や家庭内暴力に苦しむ女性の記事を書けば、NGOや人権活動家が動く希望があった。

女性記者は訴える。「堂々とものが言える社会には、内外の厳しい目が欠かせない。どうかアフガニスタンに目を向け続けてほしい」【10月15日 朝日】
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タリバンは長年、外国勢力を排除し、イスラム法による統治を実現することを掲げて戦ってきましたが、いざ政権を手にれると、国を統治することの難しさを今実感しているのではないでしょうか?

国際的な協力、国民の理解なくしてまともな統治はできません。そのためにはタリバン自身が国内外の声に真摯に向き合い、一定に譲歩し、変化していかなければなりません。
タリバンにそれができるか・・・・口ではいろいろ言ってはいますが、いまのところ実行が伴っていません。

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中国  習近平主席の語る民主主義とは・・・ 中国政治の実態は・・・

2021-10-15 23:21:36 | 中国
(【2019年8月21日 人民網日本語版】中国ファッションにおいても、漢字をプリントするなど、中国伝統文化を重視した「国潮」がブーム。それを支えるのが愛国的若者たち・・・ということのようです)

【習近平主席の語る「民主主義」とは】
中国・習近平国家主席が民主主義のあり方について語っています。

****中国・習氏、選挙は「真の民主ではない」 国家指導層の交代にも言及****
中国の習近平(シーチンピン)国家主席は13、14日に北京で開かれた議会制度についての会議で演説し「国の政治制度が民主的かという評価は、国家指導層が法に従い、秩序をもって交代できるかどうかで決まる」と発言した。

長期政権に意欲的とされる習氏だが、過度な権力集中への懸念もくすぶる。終身制を否定することで、政権の正統性を示す狙いがある。
 
中国には日本の国会にあたる全国人民代表大会(全人代)のほか、各地方政府にも議会があり、村レベルでは直接選挙も実施されている。だが、議会活動は共産党の指導下で行われることが原則だ。議会制度のあり方を議論する初の会議で、習氏ら党最高指導部メンバーなどが出席した。
 
習氏は民主主義について「全人類共通の価値であり、中国共産党と国民が堅持する重要な理念だ」と強調した。民主主義の評価は指導層の健全な交代のほか、公平な競争で指導体制に参加できるか▽政権党が憲法や法律に沿って国家事業を指導できるか▽権力の運用が効果的に監督されるか――などで決まるとした。
 
一方、選挙制度について「国民が選挙の時だけ聞こえの良いスローガンを聞かされ、選挙後は何の発言権もなく、票を集める時だけ甘やかされて選挙後は疎外される。これは真の民主ではない」と西側諸国を牽制(けんせい)。「民主主義は少数国の専売特許ではない。一つの物差しで世界の多彩な選挙制度を測ること自体が、非民主的だ」とした。
 
国家指導者の交代については、習氏は2014年の全人代成立60年記念大会でも同様の発言をしている。ただし、その発言内容は19年まで明らかにされなかった。18年の憲法改正で国家主席の任期を撤廃した習氏にとって、こうした発信は毛沢東のような終身制の指導者は目指さないことをアピールする意味を持つ。【10月15日 朝日】
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国際政治的に意味があるのは“毛沢東のような終身制の指導者は目指さないことをアピールする意味を持つ”という点ですが、個人的に興味があるのは習近平主席の語る民主主義とは・・・というあたり。

口は便利なもので、もっともらしい内容です。

「国の政治制度が民主的かという評価は、・・・・秩序をもって交代できるかどうかで決まる」
ごもっとも。 特に昨今は選挙結果に異議が唱えられ、なかなか結果が確定しないという事態は珍しくありませんので。

菅首相から岸田首相への交代が粛々と進む日本などは、極めて民主的と言えるのでしょう・・・ただ、“粛々と”し過ぎてるきらいはありますが。

「国民が選挙の時だけ聞こえの良いスローガンを聞かされ、選挙後は何の発言権もなく、票を集める時だけ甘やかされて選挙後は疎外される。これは真の民主ではない」
これまた、ごもっとも。 日本の政治家も肝に銘じて欲しいものです。

【民主主義と相容れない中国政治の実態 偏狭・過剰な愛国主義も】
ただ、「一つの物差しで世界の多彩な選挙制度を測ること自体が、非民主的だ」とは言っても、そのことは、中国的統治体制を正当化するものではありません。

選挙制度を含めた「国の政治制度が民主的かという評価」は、やはり人権の尊重、民意の尊重、報道・表現の自由などの基準に照らしてチェックされるべきものと考えます。

習近平氏に言わせれば、それが「一つの物差しだ」ということになるのでしょうが、民主主義を「全人類共通の価値」たらしめている「核心」であると考えます。

そういう考えに立って中国の政治制度・実態を見たとき、甚だ問題が大きく多いことは、今更言うまでもないことです。

自国への批判、負の側面の指摘を許さないというのも、誤りを正す機会を失わせ、民主主義を大きく損ないます。

****中国、海外メディア通報で表彰 負の側面報道を敵視****
中国貴州省当局は10日、同省で貧困脱却の取り組みの「マイナス面」を取材していた「反中」海外メディアを通報した地元当局者が、「国家安全への危害」を防ぐのに貢献したとして政府から表彰されたと発表した。

中国では最近、社会の負の側面を伝える海外報道を、中国への攻撃や中傷とみて敵視する風潮が強まっている。
 
貴州省司法当局は通信アプリ「微信(ウィーチャット)」で、複数の同省畢節市当局者が「国家安全に関する重要な手掛かりを通報し表彰された」と発表。「脱貧困関連の負の情報を違法に取材・報道し、海外で騒ぎ立てたと通報した」と例を挙げた。【10月10日 共同】
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国内であれ、国外であれ、社会の負の側面を伝える報道を自国の攻撃や中傷とみて敵視する姿勢というのは、現在の体制を絶対化するものであり、多くの異なる考えを前提にした民主主義とは相容れません。

****中国・共産党側の「英雄を侮辱」、SNS投稿の女性に懲役7月****
14日付の香港紙・明報などによると、中国北京市の裁判所は12日、「抗日戦争」後の国民党との内戦で戦死した共産党側の「英雄」をSNS上で侮辱したとして、英雄や烈士の名誉を傷つけた罪に問われた女性に懲役7月の実刑判決を言い渡した。インターネットやメディアを通した公開謝罪も命じた。
 
女性は3月、中国版ツイッター・ 微博ウェイボー に、国民党の軍事施設を自爆攻撃した若い兵士の名誉を損なう内容の投稿をし、当局に拘束されていた。

裁判所は、女性の投稿が「多くの人々の憤慨を招き、社会に悪影響を及ぼした」と指摘した。愛国精神を強調する 習近平シージンピン 政権は思想統制の一環として、英雄らを侮辱する行為を厳しく取り締まっている。【10月15日 読売】
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国家の英雄を侮辱することを許さない・・・と言うこと自体は中国だけでなく、多くの国で見られることですが、最近強調されている愛国精神の一環ということで、きな臭いものも感じます。

自国への批判、負の側面の指摘を許さない姿勢同様、盲目的な愛国精神の強調は自己を正当化し、改善・改革の機会を封じ、他との協調をゆがめます。

そうした偏狭な、あるいは過剰な愛国精神は、「反日」にも向かうことになります。

政治的にはひと頃に比べて「反日」を露骨に出すことは少なくなり、米中対立という状況のもと、日本には融和的な姿勢も多くなったように見え、また、社会的にも(今はコロナで中断していますが)人的往来の増加に伴って、日本に対する“自分の目で見た”評価も次第に増えているようにも思えますが、根底に歴史認識の問題があるだけに偏狭・過剰な愛国精神は「反日」に向かいやすい傾向があります。

****反日感情の高まりか? 中国で日本人学校に対する反発の声****
中国では最近、日本に絡んだネット炎上事件が頻発している。靖国神社で記念撮影した中国人俳優が激しいバッシングを受け、事実上の芸能界追放となったことは記憶に新しく、日本関連のことは何でも問題視されているかのようだ。

中国メディアの百家号はこのほど、日本は「100年前にも中国に学校を建設していた」とし、日本人学校に警戒しなければならないと主張する記事を掲載した。

記事の中国人筆者が言う「100年前に存在していた日本の学校」とは、1901年に上海で設立された「東亜同文書院」のことだ。特に、「東亜同文書院」の学生が卒業前に中国各地へ散らばって旅行に行き、地理や文化、天気など様々なことを調査して学校に報告していたことを問題視し、「これは典型的なスパイ養成学校だった」と主張した。

実際のところ、「東亜同文書院」は日中友好協力の基礎を固めるための人材育成が目的で設立されたが、上記のような旅行と調査報告を行っていたことを「スパイ行為」と疑う中国人はいまだに少なくないようだ。

「東亜同文書院」は、終戦のため廃止されたが、記事の中国人筆者は東亜同文書院に絡めて上海にある日本人学校を問題視した。上海日本人学校では基本的に日本人だけしか受け入れていないと指摘し、「日本はここでスパイを養成しているに違いない」と根拠のない主張を展開している。

さらに、中国の土地に建てた学校に中国人が入れないのは「中国人に対する侮辱」であり、完全封鎖された学校内で何を教えているかも分からないというのは、「非常に恐るべきこと」だと読者の不安を煽った。

そして、「中国に建てた学校なのに中国教育部の管理を受けないのはなぜか?中国の法律に従わなくて良いのか?」と疑問を呈し、「中国に建てた学校では中国政府の管理を受けるべきで、校内では中国国旗を掲揚し中国国歌を歌うべきだ。それが受け入れられないなら中国から出ていくべき」と独自の主張をしている。

最近の中国では日本に絡むことに対する風当たりが強くなってきており、ネット上の意見を見ていても反日感情が徐々に高まっていることが感じられる。【10月15日 Searchina】
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【かつての盟友・ナンバー2の王岐山国家副主席も排除の対象】
一方、現実政治の世界にあっては、これまでも再三取り上げてきたように国家・党の統制・管理があらゆる分野で強化されていますが、中国政治にいつも見られるように、政治の動きは権力闘争的な側面も併せ持って行われています。

****中国、大手国有銀など25機関に汚職一斉調査…「恒大集団」問題など受け金融界引き締めへ****
中国共産党機関紙・人民日報は14日、党の汚職摘発機関である中央規律検査委員会が、大手国有銀行など金融分野の25機関に対し、汚職特捜チームに当たる「巡視組」を派遣したと伝えた。 

習近平シージンピン 政権は、経営危機に陥る不動産大手「中国恒大集団」の乱脈経営などを問題視しており、巨額融資に走る金融界を引き締める狙いとみられる。
 
金融分野での一斉調査は中国の株式市場で株価が暴落した2015年以来で、習政権発足後で最大規模となりそうだ。調査は約2か月を予定しており、「金融分野の腐敗を処罰し、金融リスクを防ぐ」(人民日報)ことに重点を置く。
 
金融当局の中国人民銀行(中央銀行)や銀行保険監督管理委員会、中国建設銀行や中国工商銀行など4大国有銀行、政府系複合企業の中国中信集団などを対象とする。米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(電子版)によれば、中国恒大集団や巨額の負債を抱えた複合企業「海航集団」への融資が調査される見込みだ。
 
調査は、電子決済サービス「アリペイ」を運営するアント・グループや配車サービス大手の 滴滴出行ディディチューシン などへの投資も対象となるとの見方が浮上している。中国政府はこの2社などへの統制を強化している。
 
金融界では、かつて中国建設銀行を率いた 王岐山ワンチーシャン 国家副主席の影響力が指摘される。習氏の3期目政権発足が確実視される来年の党大会を控え、一斉調査が王氏の影響力低下につながる可能性がある。昨年10月には王氏の腹心の部下だったとされる「巡視組」の元次官級幹部が失脚している。【10月14日 読売】
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国家副主席の王岐山・・・「トラもハエも叩く」反腐敗キャンペーンを主導し、習近平政権の基盤を固めたナンバー2の存在でしたが、風向きは変わったようです。一強体制を固めた習近平主席にとって王岐山はもはや用済みとなったということでしょうか。

****習近平の独裁がついにここまで、中国報道機関がすべて国営に****
中国のメディア弾圧にはそれなりの長い歴史があるのだが、10月8日に国家発展改革委員会が打ち出した「市場参入ネガティブリスト」(2021年)で、メディア産業から民間資本を締め出す政策が打ち出されたときは、いよいよ来るべき時が来た、という気がした。(中略)

■ 政敵となった王岐山  
なんでも権力闘争の視点から解釈するのはチャイナウォッチャーの悪い癖ではあるが、今回のメディア産業からの民間企業排除方針についても、こうした権力闘争の要素が読み取れそうな気がする。  

ターゲットにされているのは、おそらく第一財経や財新などのいくつかの媒体、そして民営インターネットプラットフォーム企業のニュースアプリやSNS上の世論誘導・形成機能ではないか。個々人が運営するセルフメディア退治は、革命烈士侮辱罪や社会擾乱罪、挑発罪といった既存の法律の乱発と見せしめでいくらでも刈り取れる。(中略)
また(排除される民間メディア)「財新伝媒」を創業した胡舒立は王岐山と近しい。  

王岐山は現国家副主席、そして習近平政権第1期目では中央規律検査委員会書記として反腐敗キャンペーンの陣頭指揮をとって官僚汚職を成敗してきた。

彼の反腐敗キャンペーンにおける功績は間違いなく習近平政権の地盤固めに寄与したはずだが、今は王岐山と習近平の信頼関係は完全に崩れている。

王岐山は実務能力にたけた有能な官僚であり、習近平が王岐山に自分の権力が脅かされるのではないかと恐れたため、と言われている。

だから、習近平は王岐山の海南航空集団における利権をつぶし、圧力をかけたのだ、と。(中略)つまり習近平にとって王岐山はすでに政敵であり、王岐山から恨まれている自覚もある。

来年秋に長期独裁政権を打ち立てる前に、反撃に出られるのではないかと恐れているとしたら、王岐山が財新のような国内外に影響のあるメディアを使って世論誘導戦を仕掛けてこないように財新は締め付けておく必要がある、などと考えたかもしれない──もっとも、これはあくまでも私の勝手な想像であるが。 

■ 精神の自由と知性を奪う独裁者  
もう少し俯瞰的に見れば、習近平は鄧小平の改革開放路線から毛沢東回帰路線に逆走中で、経済成長よりも、格差を解消して「共同富裕」を実現することを優先し、「国進民退」(国有化を進め民営企業を排除)路線をあらゆる領域でやり始めている。

国有化を通じて、不動産市場も、教育産業を通じた子供の思想教育も、ネットやエンタメを通じた世論誘導も、習近平はすべてを完璧にコントロールしたいのだ。ニュースメディアもそうだ。  

だが、すべての統制の中で、メディア、報道のコントロールは、人の精神の自由と知性を奪う最も悪辣な独裁者の手法である。習近平よ、ここまでやるか、という思いだ。  

今年のノーベル平和賞は初めて「報道の自由」がテーマになり、フィリピンのマリア・レッサとロシアのドミトリー・ムラトフという、独裁権力と戦う2人のジャーナリストに授与された。中国ではこのニュースは国営華僑向け通信・中国新聞社が速報を流した後、すぐに報道規制対象となっている。

ノルウェー・ノーベル委員会は今年のノーベル平和賞にもう1人、たとえば蘋果日報(ひんかにっぽう、アップルデイリー)を創刊し、今は獄中にある黎智英(ジミー・ライ)のような中国の独裁権力と戦うメディア人を加えるべきだった。

そうすれば、たとえ中国で報道規制にあっても、中国国内の記者やメディア人たちにひそやかに伝わり、今後、より一層厳しくなるであろうメディア冬の時代を生き抜くために多少の勇気を与えてくれたであろうに。【10月14日 福島 香織氏 JBpress】
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かつての毛沢東時代の林彪を持ち出すまでもなく、どこの世界にあっても「ナンバー2」というのは微妙な立ち位置。だからこそ不倒翁・周恩来の偉大さがある訳ですが・・・。

【政府は実現できない約束をするべきではない・・・ごもっとも】
なお、「共同富裕」については、2050年ごろまでに実現するとのこと。かなりの長期目標です。
「共同富裕」の理念が一人歩きして、現在の格差社会の怨嗟が自身にむけられることのないよう、予防線を張ったということでしょうか。

****中国の共同富裕、2050年ごろまでに実現へ=習主席****
中国の習近平国家主席は、2050年ごろまでに「共同富裕」の実現を目指す方針を示した。

共同富裕は格差是正を目指す広範な政策。この政策の下でハイテク産業や民間教育産業の行き過ぎを取り締まる動きも出ている。

習主席は、共産党の理論誌「求是」に公表した論文で、政府は実現できない約束をするべきではないと指摘。「福祉主義」の「わな」に陥ってはならないと述べた。【10月15日 ロイター】
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「政府は実現できない約束をするべきではない」・・・・これも、習近平主席の言うとおりです。

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ブラジル・米 マスク・ワクチンは政治的分断雄の象徴 地域的に分断を示すカリフォルニアとテキサス

2021-10-14 23:33:10 | アメリカ
(9月19日、ニューヨーク市の歩道でピザを食べるブラジルのボルソナロ大統領(左から3人目)と閣僚ら【9月21日 時事】)

【ブラジル・ボルソナロ大統領の新型コロナ対策軽視姿勢】
トランプ前大統領が退いた後、お騒がせ発言でメディアを賑わすことが多いのがブラジルのボルソナロ大統領。

その世の中の流れに対応するような言動は、女性、LGBTなどの少数派の権利、アマゾン開発など各方面にわたりますが、メディアに取り上げられる機会が多いのが新型コロナ関連。

新型コロナ犠牲者数がアメリカに次ぐ60万人超となっているブラジルにあって、頑なにワクチン接種を拒否しています。なお、同大統領はかつて新型コロナに感染しています。

****ワクチン接種拒む決心表明、くじの例えも ブラジル大統領****
南米ブラジルのボルソナーロ大統領は14日までに、新型コロナウイルスのワクチン接種を受けないことを決めたと表明した。

地元ラジオ局との会見で述べた。大統領はこれまで、最後のブラジル国民が投与を受けた後、自らも接種に応じるとの考えを示していた。

ボルソナーロ氏は接種はもう受けないと決心したと説明。新たな研究結果を見ており、(感染によって)自身が保持する抗体の水準が非常に高いと主張。「ワクチンをなぜ打たなければならないのか?」とし、「2米ドル(約228円)の当選のため10ドルの宝くじを買うようなものだ。問題外だ」と続けた。

その上で、ブラジル国民は未接種の権利を有しているとも強調。「私にとってそれは全てを上回る自由だ」とし、「仮にある国民が打ちたくなかったらそれは彼の権利。それに尽きる」と説いた。

大統領は新型コロナや予防対策を軽視するなどして国内で強い批判を浴びてきた。米ニューヨークでの国連総会に出席した先月には、国連本部に入る外国代表団は事前の接種を義務づけるとの規定も無視。ブラジル代表団の多数がその後、陽性反応を示す結末ともなっていた。

米ジョンズ・ホプキンス大の集計によると、ブラジル国民の多数は接種に賛同しており、投与を完了した比率は総人口のうちの約47%。英オックスフォード大の研究者らによる「アワー・ワールド・イン・データ」のまとめによると、少なくとも1回の接種を受けた国民は72%となっている。

ブラジルの新型コロナ感染の規模は深刻で、犠牲者数は米国に次ぐ60万人超となっている。【10月14日 CNN】
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****「死者いない国あるのか」=コロナ死60万人問われ「逆ギレ」―ブラジル大統領****
新型コロナウイルス対策への消極姿勢が批判されているブラジルのボルソナロ大統領は11日、記者団に同国でコロナによる死者が60万人を超えたことへの見解を問われ、「死者が出ていない国なんてあるのか!」と「逆ギレ」した。地元メディアが伝えた。
 
休暇でサンパウロ州の海岸保養地グアルジャを訪れていたボルソナロ氏は、「死者が出ていない国なんてあるのか!」と何度も反問。「うんざりするために(保養地に)来たわけではないんだ」といら立ちをあらわにした。【10月12日 時事】
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ワクチン未接種ということで、国連総会出席でアメリカ・NYを訪れた際には、レストランに入店することができず、閣僚らとともに路上でピザを食べる様子も話題になりましたが、ブラジル国内でもサッカー観戦が拒否されています。

****大統領サッカー観戦お断り ブラジル、ワクチン未接種****
ブラジルのボルソナロ大統領がサンパウロ州サントスで行われたサッカー全国選手権の観戦を、新型コロナウイルスのワクチン未接種を理由に断られた。同氏が10日、現地メディアに話した。
 
同州では4日から、観戦する際はワクチンパスポートか陰性証明書の提示を求めている。新型コロナに昨年感染したボルソナロ氏は「試合が見たかったのにワクチン接種が必要だと言われた。なぜだ。私はワクチンを接種した人よりも抗体がある」と持論を展開して抗議した。
 
ボルソナロ氏は、マスク着用も嫌い、公共の場で着用を義務化している自治体の規則に違反し何度も罰金を科されている。【10月11日 共同】
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国内には、こうした新型コロナ対策を軽視する大統領に対する批判があります。

****ボルソナロ大統領は退陣を ブラジル全土で大規模デモ****
ブラジル全土で2日、新型コロナウイルス対応などをめぐって人気が低迷する右派のジャイル・ボルソナロ大統領の退陣を求める大規模デモが行われた。
 
左派政党や労働組合が支援する全国運動の一環で、リオデジャネイロやサンパウロ、首都ブラジリアをはじめ、現地メディアによれば全27州・連邦区のうち24州・連邦区の14州都を含む84都市でデモが開催された。
 
ブラジルでは新型コロナウイルスにより60万人近くが死亡しており、ボルソナロ氏は対応をめぐって激しい非難を浴びている。下院にはボルソナロ氏の罷免を求める弾劾請求が100件以上提出されているが、政権寄りのアルトゥール・リラ下院議長はどれも取り上げていない。
 
最高裁判所は、虚偽の情報を広めたなどとして、ボルソナロ氏と側近の調査を命じている。 【10月3日 AFP】
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批判が出るのは当然として、8月の世論調査で、新型コロナ対策に消極的な大統領の姿勢を「良い」「非常に良い」とするのが23%、「悪い」「非常に悪い」とするのが54%だったとのことですが【9月8日 テレ朝newsより】、この23%の支持者の声も聞きたいものです。

なお、ボルソナロ大統領の経済政策はアマゾン熱帯雨林の破壊を助長しており、人道に対する罪に当たるとして、国際環境NGOが10月12日、同氏をオランダ・ハーグの国際刑事裁判所(ICC)に告発しています。

“アマゾン破壊助長は人道犯罪=ブラジル大統領をICCに告発―国際NGO”【10月13日 時事】

【政治的分断の象徴となったマスク・ワクチン】
ボルソナロ大統領の新型コロナに対する考えは、もはや疫学・公衆衛生の問題というより、政治的信念の問題に見えますが、同様にマスク・ワクチンへの対応が政治的分断の象徴となっているのがアメリカです。

****我が子のマスク姿に激怒する親も…米でワクチン、マスクめぐるトラブル増加 背景に政治的信条の分断****
新型コロナウイルスのワクチン接種証明義務化が進むアメリカ。接種を拒否する社員の大規模な解雇が行われたほか、飲食店などには接種証明なしには入ることができないなど、生活に大きな影響を与えている。そんな中で接種を拒否する人々の胸には、政治への反発があるようだ。AERA 2021年10月11日号で取材した。

ニューヨーク市内で自宅勤務するエンジニアのイアン・パラデス(33)は、喘息が持病であるため、ワクチンに関する情報を注意深くみてきた。ニューヨーク市内では9月24日から、65歳以上の市民と持病がある成人が、ファイザーの3回目の接種(ブースター)を受けられることになり、パラデスは即日接種を受けた。

「現時点でワクチンを受けていない米国民は、政治的に抗議する意思を込めて拒否していると思う」とパラデスは分析する。

■賛成と反対で真っ二つ治安悪化の原因にも
歴史的には、感染症に対するワクチンの開発は心待ちにされ、教育現場でははしかなどのワクチンを義務化してきた。しかし、深刻な経済危機まで引き起こした新型コロナのワクチンだけなぜこれほどまでに抵抗があるのか。それは、保守とリベラルの間にある政治的信条による分断が背景にある。

新型コロナが米国で広がり始めたのち、トランプ前大統領は、新型コロナについて「アンダー・コントロールだ」「すぐに消える」「インフルエンザのようなものだ」と、深刻な事態とは異なる発言を続けた。自らが感染したのちも「コロナのニュースに市民はうんざりしている」とし、今年9月に入ってからは、ブースターの接種を受けない意向さえ示している。

同時に、保守派に根強いトランプ支持者の間では、ワクチンに関する陰謀論が広まった。「ワクチンこそがコロナ感染を広げている」「超小型チップが体に入れられ、マイクロソフトに行動を監視される」といった誤った情報が、ソーシャルメディアを通して現在も広まっている。

ニュージャージー州のラジオDJ、ジョー・イリザリ(中略)はまくしたてた。
「マスクやワクチンをするかしないか、政府に言われる筋合いはない。アメリカ合衆国憲法に定められた個人の権利を侵害している。個人の自由を奪っている。つまり、バイデン政権は違憲行為を繰り返している」

個人の自由を侵害している、というのがマスク・ワクチン拒否派が繰り返す主張だ。イリザリは、9.11テロの犠牲となった義理の弟の死を悼んでいた。にもかかわらず、ワクチンを拒否し、他人や家族に新型コロナを感染させる可能性があることには無関心だ。政治的信条は、それほどにマスク着用やワクチンに対する理解を歪めている。

ニューヨーク市は、ワクチンは有効だと強調する。1月17日から8月7日まで、新型コロナに感染したケースの96.1%がワクチンが未接種の市民で、死亡者の97.3%も未接種だったとしている。

喘息が持病でブースター接種を既に受けた前出のパラデスも、こう言う。
「誰も死にたくない。医療関係者など、患者や同僚などの健康や生死に関わる職業や、大企業でのワクチンの義務化には、全面的に賛成だ」

しかし、マスク・ワクチン拒否派の行動はエスカレートする一方だ。空港と機内でのマスク着用を義務づけている米運輸保安庁(TSA)によると、マスク着用を拒否し、客室乗務員と口論したり、暴力を振るうなどのトラブルが年初から4千件も発生している。児童を学校に迎えに行った父親が、我が子がマスクをしている姿を見て激怒し、教師を殴ったケースもある。

一連の「ワクチン解雇」によって、自治体や雇用主に暴力を振るう事件が起きないとも限らない。

米市民は過去1年超、新型コロナの感染拡大による不安と闘い、家族や友人の犠牲や失業、生活苦などに直面してきた。ところが、新型コロナから解放してくれるはずのマスク、ワクチンを巡って、賛成と反対の真っ二つに分断され、治安の悪化も引き起こしている。

米メディアは、黒人の奴隷解放を巡って国が分断した「南北戦争」のような状況だとさえ指摘する。互いの命を守ろうとして浮上したワクチン・パスポートや企業でのワクチン義務化は、火に油を注ぐような現象にもなりかねない。【10月8日 AERAdot.】
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なお、トランプ前大統領はワクチンに関しては肯定的で、8月21日の集会で、「あなた方の自由は尊重するが、ワクチン接種を勧める。私は打った。ワクチンはいい。効果がある」と語り、デルタ株が猛威を振るう中で自身の支持者にも接種するよう呼びかけましたが、聴衆からブーイングを浴びる一幕も。

次期大統領選挙に意欲を見せるトランプ前大統領のカリスマにも陰りが見え、その支持率も低下している・・・という話題もありますが、それはまた別機会に。

【政治的分断を地域的に象徴するカリフォルニア州とテキサス州の対比 しかし、そのテキサスはやがて・・・】
アメリカ各州の対応も、知事の政治姿勢によって分断されています。

****米テキサス州知事、州内のコロナワクチン接種義務化を禁止****
米テキサス州のアボット知事(共和党)は11日、州内での新型コロナウイルスワクチン接種義務化を禁止する行政命令を出した。民間企業を含むあらゆる団体による接種義務化を禁じる。

バイデン大統領は9月、従業員にワクチン接種か週1回の検査を義務付けるよう国内企業に要請しており、アボット知事の決定はこれに逆行する。

知事は声明で「新型コロナワクチンは安全かつ有効で、コロナに対する最善の防衛策だが、引き続き任意であるべきで、決して強制されるべきではない」とした。【10月12日 ロイター】
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この政治的分断を地域的に象徴しているのがカリフォルニア州とテキサス州の対比です。

****米国を象徴するカリフォルニアとテキサスの壮絶な争い****
(中略)カリフォルニアのライバルといえば、かつてはニューヨークだった。
 
ところがここ10年、人口、GDP(国民総生産)、先端技術力、労働力においてカリフォルニアはニューヨークに大きく水をあけ、名実ともに全米最大州となった。
 
人口数で言えば、カリフォルニア州は2019年7月現在、3951万2223人。第2位はテキサス州2895万5881人、次いでフロリダ州2147万7737人、ニューヨーク州は1945万3561人と第4位に陥落してしまった。

GDPでもカリフォルニア州は3兆2901万ドル、2位はテキサス州(1兆9503万ドル)、3位はニューヨーク州(1兆8682万ドル)。
 
カリフォルニア州は英国(3兆1246万ドル)を抜いて世界5位、テキサス州はカナダ(1兆8834万ドル)を抜いて世界9位だ。(中略)

ブルー・ステート対レッド・ステート
カリフォルニア州とテキサス州は人口やGDPだけで競い合っているのではない。
 
カリフォルニア州はギャビン・ニューサム知事を擁する「民主党の牙城」。米議会の「女帝」、ナンシー・ペロシ下院議長はじめカマラ・ハリス副大統領(前上院議員)、アダム・シェフ下院議員らを中央政界に送り出している。
 2020年の大統領選挙ではジョー・バイデン候補は全投票数の63.48%を得た。ドナルド・トランプ氏は34.32%しか獲得していない。
 
一方のテキサス州はグレッグ・アボット氏が現在州知事の共和党の金城湯池。
ワシントンには次期共和党大統領候補の一人と目されるテッド・クルーズ上院議員を送り出している。
2020年の大統領選ではトランプ氏は全投票数の52.06%、バイデン氏は46.48%を獲得している。(中略)

人口規模、GDP、生産力だけでなく、民主党、共和党の政治主導権争いでも真っ向から対立している。「分裂する米国」の縮図といってもいい。
 
保守対リベラルの対立の構図は、政治理念だけでなく、社会的、文化的分野にまで及んでいる。まさに「カルチャー戦争」が繰り広げられている。
 
今年に入って、シンボリックな事案が表面化した。人工中絶や性犯罪に関しての両州が対照的な判断をしたからだ。
テキサス州は5月、妊娠6週間前後のごく初期の人工中絶を禁止する法律を制定した。
 
同州には人口中絶や同性愛に対して激しく反対するエバンジェリカルズ(キリスト教原理主義者)が総人口の31%を占めている。共和党にとっては重要な支持層であり、エバンジェリカルズが同法制定を強く要求していた。(中略)

カリフォルニア州は中絶については原則的に合憲だ。その一方で性犯罪については女性を保護するスタンスで終始一貫している。その好例がニューサム知事が10月8日署名し、制定された「ステルシング法」(Stealthing)だ。
 
ステルシングとは、(中略)「合意の下で行っているセックスの最中に相手が拒否しているにもかかわらずコンドームを外し、膣内に射精する行為」を指す。カリフォルニア州は、こうした行為を「強姦」とみなし、刑事罰を科すことを決めたのだ。
 
全米で同法を制定したのはカリフォルニア州が初めてだ(英独などでは「ステルシング」はレイプとみなして懲役刑を科している)。

ワクチン接種義務化でも対立
いまだに猛威を振るっている新型コロナウイルスに対するカリフォルニア州とテキサス州の対応も対照的だ。

カリフォルニア州は2020年のコロナ感染の初期段階から州民に対し、マスクの着用やソーシャルディスタンス厳守を奨励、2021年秋学期が始まる公立小中高校の教師・職員、生徒にワクチン接種を義務付けた。
 
一方のテキサス州のアボット知事は、感染対策の行動制限に反対し、経済活動の再開を優先してきた。
今年春にはマスク着用義務を解除、7月には小中高の学区などによるマスク着用義務を禁ずるなどバイデン政権の感染対策には終始反対の態度をとってきた。
 
だがその後、コロナウイルスのデルタ異変株が猛威を振るう中で、同州でも新規感染者が急増、医療体制が逼迫している。知事自身コロナ感染してしまった。(後略)【10月11日 高濱 賛氏 JBpress】
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近年、カリフォルニア州で営業・生産活動をしてきた大企業が本社機能や工場をテキサス州に移す事例が増えていますが、理由は、テキサス州野ほうが賃金や不動産価格が安く、州法人税も無税など各種税率が低く(ただし固定資産税はその分高くなっている)、事業コストが比較的低く抑えられること。

面白いのは、その結果、テキサス州への人口流入が増大し、「深南部」(ディープサウス)の一員として、かって「南部連合」の一角を占めていた、白人至上主義の信奉者や北西部の石油成金や「ハルマゲドン」を信じるエバンジェリカルズが多いというイメージのテキサスがリベラルな方向に変化していることです。

****「ローン・スター・ステート」が青になる日****
(中略)「テキサス州と言えば、昔は白人一色の保守的なルーラル(非都市の地方)な州だと思われていたが、今や人口の40%弱が非白人州民だ」
「過去10年でテキサス州民となった白人1人に対し、黒人は3人、アジア系は3人、多人種混血は3人、ヒスパニックは11人の割合で州民は増えている」

「ダラス・フォートワース、オースティンなど大都市圏には全米から高学歴、高収入のプロフェショナル、エンジニア、教育関係者、医師、弁護士らが移住し、保守的な社会理念の殻を打ち破ったエリートたちが住み着き始めている」
「1980年代にカリフォルニア州が経験した激変をテキサス州は今経験し始めている」
 
テキサス州がすべての分野でカリフォルニア州を追い抜いた時、「ローン・スター・ステート」(Lone Star State=同州の愛称)はもはや「レッド・ステート」ではなくなる可能性すら出てくるというわけだ。【同上】
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テキサス州は、ダイナミックに変動するアメリカを象徴しているように見えます。

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「パンドラ文書」が明かした現旧首脳のオフショア蓄財 独裁者のマネロンに群がる欧米民主主義国

2021-10-13 23:31:07 | 民主主義・社会問題
(【10月4日 中日】)

【「共同富裕」と「成長と分配の好循環」が重視する格差解消・分配】
中国では習近平国家主席が鄧小平が唱えた先富論の後半である「共同富裕」に力を入れ「先富者からの第三次分配」を推進する方向性を打ち出していますが、日本では岸田首相が「新自由主義からの転換」、「新しい資本主義」として、分配を重視した「成長と分配の好循環」を掲げています。

その類似性や特徴、相違はさておき、中国にしても日本にしても「分配」が重視されるというのは、格差の拡大が深刻化しており、この格差を放置しては、社会主義であろうが資本主義であろうが体制がもたない・・・という認識があってのことでしょう。

コロナ禍にあっても富裕層の資産は増え続け、格差は拡大し、しかも多くの富裕層は様々な節税対策などで税金もほとんど払っていない・・・という実態については、8月7日ブログ“格差社会への処方箋としてのベーシックインカム”でも取り上げました。

【「パナマ文書」に続く「パンドラ文書」が暴く現旧首脳の資金運用の実態】
今回の話題は、その(合法・違法の様々な回避手段で)「税金もまともに払っていない」というあたりの話。

5年前の2016年に「パナマ文書」というものが明らかにされ、世界中で話題になりました。

****パナマ文書****
パナマの法律事務所、モサック・フォンセカによって作成された、租税回避行為に関する一連の機密文書である。
この文書は、1970年代から作成されたもので、総数は1150万件に上る。

文書にはオフショア金融センターを利用する21万4000社の企業の、株主や取締役などの情報を含む詳細な情報が書かれている。これらの企業の関係者には、多くの著名な政治家や富裕層の人々がおり、公的組織も存在する。【ウィキペディア】
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世界にはカリブ海の英領バージン諸島、ケイマン諸島、富裕層への税優遇制度の手厚いオランダやアメリカのデラウェア州、サウスダコタ州など、税負担が軽減・免除され、かつ、他国の税務当局が求める納税情報の提供を企業・個人情報の保護などを理由に拒否して他国が干渉出来ないことから富裕層の資金が集まるタックスヘイブンが存在します。

モサック・フォンセカ法律事務所は富裕層クライアントのために、税務調査官が金融取引を追跡できない複雑な財務構造を作るサービスを提供していましたが、その情報が暴露されたのが「パナマ文書」でした。

そして今回は「パンドラ文書」

****「パンドラ文書」 世界の首脳らの租税回避が明らかに****
国際調査報道ジャーナリスト連合は3日、世界の現旧首脳35人が、巨額資産を隠すためタックスヘイブン(租税回避地)を利用していたと発表した。広範に及ぶ調査で明らかになったもので、ヨルダン、アゼルバイジャン、ケニア、チェコなどの首脳が名指しされている。
 
世界各地の金融サービス企業14社から入手された約1190万件の文書は、「パンドラ文書」と名付けられた。調査には、米紙ワシントン・ポスト、英国の公共放送BBCやガーディアン紙などの報道機関から、ジャーナリスト600人以上が協力している。
 
文書を分析したICIJによると、各国の現旧首脳35人が汚職やマネーロンダリング(資金洗浄)、租税回避などに関与してきたという。
 
ICIJは、多くの国では財産を外国に置くことや、外国のダミー企業を利用することは違法ではないと強調する。だが合法・違法にかかわらず、今回のような情報の暴露は、租税回避や腐敗の撲滅を公言してきた首脳らにとって不名誉なものとなる。
 
ICIJは、租税回避地にある企業約1000社が、各国の政府高官や上級公務員ら336人とつながっていることを突き止めた。うち10人以上が、現職の首脳や閣僚、大使らだったとしている。 【10月4日 AFP】
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膨大な情報量の「パンドラ文書」では、各国の現旧首脳の資金運用の実態が明らかにされていますが、その中からいくつかあげると・・・

****パンドラ文書が明かしたオフショア蓄財、特に「不都合な」6件の手口****
国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)が公表した「パンドラ文書」と呼ばれる膨大な財務資料は、世界の現旧首脳や政治家の多くがタックスヘイブン(租税回避地)を利用して資産を蓄えていたことを明らかにした。
  
この資料は法務・金融サービスを手掛ける14社からICIJが入手したもので、合計1190万点、ファイルサイズは2.94テラバイトに上り、規模は2016年のパナマ文書を上回る。

「民主主義大国を含む世界の隅々でオフショアのマネーマシンが稼働し」、知名度の高い世界有数の銀行や法律事務所が複数関与していることが明らかになったと、ICIJは指摘した。パンドラ文書で明るみに出た取引のうち、特に目を引く内容は以下の通りだ。

ヨルダン国王の不動産帝国
ヨルダンのアブドラ国王はスイスの会計士と英領バージン諸島の弁護士を使って、総額1億600万ドル(約120億円)相当に上る高級住宅14件を秘密裏に購入したと、ICIJは伝えた。海岸を見下ろすカリフォルニア州の物件、2300万ドル相当も含まれるという。

ヨルダンは国民や数百万人規模の難民の生活支援で外国からの援助に頼っている。

同国王の弁護士らはICIJに対し、ヨルダン法で国王は税金の支払いを義務付けられておらず、公金を流用したことは一度もないとし、「オフショア企業を通じて不動産を保有しているのは安全とプライバシーの理由からだ」と説明した。

チェコ首相の南仏邸宅
チェコで首相再選を目指し選挙運動中のバビシュ氏は、「2009年に南フランスの高級不動産を秘密裏に購入するため、オフショア企業を通じて2200万ドルの資金を動かした」とICIJは指摘。

この不動産は「シャトー・ビゴー」と呼ばれる邸宅で、バビシュ氏が保有するチェコ企業の子会社が所有し、画家のピカソが晩年を過ごした村にあるという。

女王とアゼルバイジャン
ICIJに参加する英紙ガーディアンによると、アゼルバイジャンのアリエフ大統領の家族はここ数年で約5億4000万ドル相当の英不動産を取引した。このうち約9100万ドル相当の物件をエリザベス女王の不動産を管理するクラウンエステートが購入していた。

この購入についてクラウンエステートは内部調査を現在進めていると、広報担当者が同紙に語ったという。アリエフ一族はコメントを拒否した。

サウスダコタ、ネバダのヘイブン
米国にとって特に「不都合な真実」は、「オフショア地域」に匹敵する金融の秘密性を法律で保証するサウスダコタやネバダなどの州の役割で、オフショア経済における米国の複雑さが増していることを示していると、ICIJに参加する米紙ワシントン・ポストが報じた。

同紙によると、ドミニカ共和国の元副大統領はサウスダコタ州に複数の信託口座を設け、個人資産とドミニカ製糖大手の株式を保管している。

パキスタンの政治エリート
パキスタンでは現旧閣僚を含むカーン首相側近や身内が「数百万ドルの財産を多数の企業や信託に隠している」とICIJは伝えた。

反汚職を旗印に首相に就任したカーン氏にとって、政治的な頭痛の種になりそうだ。パンドラ文書の公表前に首相報道官は記者会見で、首相はオフショア会社を保有していないが、閣僚や顧問の行動は各自の責任になると述べていた。

ブレア元英首相の不動産購入
ブレア元英首相と夫人はロンドン中心地に立地する約900万ドル相当のオフィス購入にオフショア会社を活用し、およそ42万2000ドルを節税したと、ガーディアンが報じた。この物件の一部はバーレーンの閣僚の一族が保有していた。

取引に違法性はないが、「英国の一般市民には当然の税負担を、不動産を保有する富裕層には回避の抜け道があることを示している」と同紙は指摘した。【10月6日 Bloomberg】
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【他国のタックスヘイブンを非難してきたアメリカ自身が租税回避地に】
名前があがっているパキスタン・カーン氏は、首相就任前の2016年、「パナマ文書」で表面化したエリート層の資産移動について調査を求める運動の先頭に立っていました。

同じような話は、他国のタックスヘイブンを非難してきたアメリカについても言えます。

****富豪資金流入、米が租税回避地に サウスダコタ州に信託資産40兆円****
国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)が入手した「パンドラ文書」から、米国がタックスヘイブン(租税回避地)化している実態の一端が判明した。他国のタックスヘイブンを非難してきた米国だが、中西部サウスダコタ州などが世界の富豪や政治家らの資金の有力な流入先になっている。(中略)

ICIJの調査によると、サウスダコタ州の信託会社に預けられている顧客資産は総額3600億ドル(約40兆円)で、この10年間で4倍以上に膨れあがった。州内最大の信託会社の一つ「サウスダコタ・トラスト・カンパニー」は54カ国からの顧客を抱えていた。
 
サウスダコタ州の人口は全米50州のうち46番目の約89万人。同様の規制緩和は、人口が少ないアラスカ州やデラウェア州などにも広まった。信託を新たな産業として育て、経済活性化の起爆剤にしたいという思惑があった。
 
タックスヘイブンは秘匿性の高さから、不正資金の洗浄や資産隠しに利用される場合がある。そのため国際社会は、カリブ海の島国など主要なタックスヘイブンに顧客情報などの透明性を確保する法令の導入を求めてきた。(ドミニカ共和国元副首相)モラレス氏の一族がサウスダコタ州に資産を移したのは、バハマで規制が強化された翌年だった。
 
ICIJは、「成長する米国の信託産業は、国外のタックスヘイブンをしのぐレベルの財産保護と秘密保持を約束することで、国際的な富豪らの資産をかくまっている」と指摘する。

米政府は今年1月、企業に実質的所有者の開示を求める「企業透明化法」を制定したが、信託の受益者などについての言及はない。【10月5日 朝日】
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【国家の富を私物化する「泥棒政治家」のマネーロンダリングを助ける「民主主義国」の巨大なネットワーク】
単に租税回避地になっているというだけでなく、「民主主義」を掲げるアメリカなどの国々が、独裁者や強権支配者の資産のマネーロンダリングを助ける巨大なネットワークを形成しているという「不都合な真実」が明らかになっています。

****パンドラ文書が暴き出した民主主義の錬金術****
人々を抑圧し国家の富を貪る「泥棒政治家」の蓄財を助けるシステムが明らかに

自由と民主王義の旗を高々と掲げるわが陣営は世界中の専制主義国家と互いの存続を懸けて戦っている・・・・欧米諸国の指導者はそう豪語する。まさにその戦いのために、ジョー・バイテン米大統領は今年12月に「民主主義サミット」を開催すると宣言した。
 
バイテンやその呼び掛けに応じた首脳たちの現状認識は間違っていない。確かに今中国からロシアまで専制政治や強権支配がまかり通り、民主化の動きを圧殺し、リベラルな国際秩序を脅かしてい。

だがそれを阻止しようとするバイテンらの試みには重大な「見落とし」がある。それは欧米の民主国家とその指導者らが独裁者の不正蓄財を助けている、という事実だ。
 
欧米には世界中の独裁者が不正に蓄えた資金を動かし、隠匿し、洗浄できる仕組みがあり、当局もそれを黙認しているのだ。
 
不正資金の最初の引き受け手はペーパーカンパニーだ。そこに資金を移せば、個人を特定できる情報は全て剥ぎ取られ、いわば「匿名の資金」となる。その金が不動産や高級品、美術品などの資産に化ける。この手の取引では、仲介業者や売り手は出所不明の金を喜んで受け入れ、法外な手数料や暴利を貪る。
 
法の網の目を巧みにかいくぐるこうした資金の流れは、世界中の独裁者にとって願ってもない仕組みだ。それがあるおかげで彼らはこっそり欧米に資金を移し、欧米の金融機関の個人情報保護ポリシーを悪用して匿名の資産を保有できる。
 
この巧妙なカラクリを白日の下にさらしたのが、10月3日に公開された「パンドラ文書」だ。国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)が法律事務所や金融サービス会社から入手した膨大な財務資料などを分析してまとめた。 

パンドラ文書はアメリカ、イギリス、カナダ、フランス、ドイツなどの当局が不正資金の取引を黙認し、独裁者の蓄財を助けてきた実態を暴き出した。資料から国家の富を私物化する「泥棒政治家」のマネーロンダリング(資金洗浄)を助ける巨大なネットワークの全貌を詳細にたどれる。
 
このネットワークを通じて、世界中から欧米に何十億ドル(場合によってはそれ以上)もの単位でどんどん資金が流入しているのだ。それが国庫からくすねた金だろうと、少数民族から搾取した金だろうと、それで儲けた業者の法的責任が問われることはない。
 
例えばアゼルバイジャンの独裁的なイルハムーアリェフ大統領の一族は何億ドルもの資金をロンドンの金融会社に託していた。EU離脱後のロンドンはますます資金洗浄の中心地になり、この手の不正資金の流人は珍しくない。

ブレア元首相の隠し資産
(中略)
民主国家の指導者は、欧米の最大の利益、つまりは民主主義の最大の利益のために働くというそぶりさえ見せなく
なった。それどころか、欧米の元指導者は泥棒政治家を利用し、泥棒政治家は欧米の業界をいくっも利用して、それぞれ私腹を肥やしている。
 
一方で、不動産やプライベート・エクイティ(未公開株)の取引、オークションなどで泥棒政治家の富のおこぼ
れにあずかろうとしている欧米の金融プロフェッショナルにとって、重要なのは富の蛇口が開けっ放しであることと、おいしい手数料を得ることだけのようだ。コンサルタントやロビイスト、弁護士たちは、国境を越えた資金の流れが規制によって脅かされないように奔走している。
 
匿名のペーパーカンパニー、匿名の信託、規制や監督のない匿名の金融取引を基盤とする業界・・・。欧米の秘密主義の金融ツールは、限られた少数の支配者や反民主王義の有力者が自国の人々から好きなだけ富を奪い、市民を困窮させ、地域全体を不安定にし、自分の意のままに非自由主義的な活動に資金をつぎ込むことを可能にしている。

カギは金融取引の透明性
もっとも欧米諸国が、例えば独裁者たちの金融ネットワークを遮断して破壊するために制裁を発動しても、彼らは秘密保持を可能にする金融ツールに守られて制裁を逃れることができる。失脚した後でさえ、残虐行為で得た果実を享受しているのだから。 

これは泥棒政治というコインの裏表のようなものだ。中国の太子党(共産党幹部の子弟)、ロシアのオリガルヒ(新興財閥)、ベネズエラの政権を支持する実業家、イランの役人、ハンガリーの極右ネットワーク、アゼルバイジャ
ンのギャング兼政治家など、彼らは皆、欧米の同じサービス、同じネットワーク、同じオフショア企業、同じ金融ツールを利用している。 

彼らは国内に向けて反欧米や反民主主義のたわ言を吐きながら、その欧米の民主国家に頼って自分たちの富を守り、
資金洗浄をして、隠した資産を必要なときにどんなことにでも使う。

今、私たちがやるべきことは分かっている。政治的立場を超えたグループが、既に賢明な政策提案を行っている。
 
カギとなるのは透明性だ。ペーパーカンパニーや信託、財団に関する透明性であり、不動産、美術品、高級品に関する透明性だ。これらの金融ツールに関わる弁護士ら欧米のプロフェッショナルに対する規制と合わせることによって、秘密を担保する金融ネットワークを表舞台に引きずり出すことができるだろう。
 
最近では、英政府が海外領土に企業の受益所有権の公的登録制度を整備させ、アメリカやカナダがペーパーカンパニー部門の浄化に乗り出すなど、進展も見られる。EUは弁護士や信託業者などに対する規制の強化を進めている。
 
ただし、このまま終わることは決してない。こうした解決策を実行するためには、重大な政治的意思が必要だ。アメリカ、イギリス、カナダ、フランス、ドイツ、バルト諸国などは、自らオフショア経済を支える柱になってきた。そして、その全てが世界各地の泥棒政治に利用され、悪用されてきたのだ。
 
パンドラ文書の流出を機にこうした仕組みが終焉を迎えるだろう、などと考える理由は見当たらない。【10月19日号 Newsweek日本語版】
**********************

とりあげられている取引の多くは「合法」なのでしょう。
ただ、そのことが格差社会の下層で喘ぎながら租税回避などの手段を持たない多くの人々の不満・怒りを更に増長させるところでしょう。

なお、違法性が疑われる案件に関しては
“チリ検察、大統領を捜査 パンドラ文書で疑惑”【10月9日 共同】
“「パンドラ文書」で大統領を調査=租税回避地利用か―エクアドル議会”【10月12日 時事】
といった、国内での疑惑追及も始まっています。
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新興国で拡大するデジタル通貨 中米エルサルバドルはビットコインを法定通貨に その“裏事情”

2021-10-12 23:38:31 | 経済・通貨
(ビットコインが法定通貨になったエルサルバドル【8月10日 BUSINESS INSIDER】)

【各国で導入される中央銀行デジタル通貨】
****デジタル通貨も「周回遅れ」の日本 今さら「新一万円札」の時代錯誤****
途上国が中央銀行デジタル通貨(CBDC)を開発、発行する動きが急展開している。

ナイジェリア中央銀行が十月一日からデジタル通貨の試験運用を始めたほか、ガーナ、モロッコ、ブータンなども発行に向け動いている。中米のエルサルバドルはCBDCではないが、仮想通貨のビットコインを法定通貨に採用した。

主要国では中国がCBDCの実用化の先頭を走り、研究段階にとどまる先進国を引き離し、新たな国際送金、決済の枠組みで途上国に強い影響を与えつつある。

こうした潮流に対して、日本は新一万円札紙幣の印刷を開始するなどデジタル化への逆走、暴走で世界を唖然とさせている。
 
ナイジェリアは通貨「ナイラ」のデジタル版となるCBDCの「eナイラ」の運用を開始。スマートフォンのアプリにeナイラをチャージして店舗での支払い、スマホ問での送金、振り込みなどに使う計画。

リアル通貨との併用になるため、「中央銀行の通貨管理や金融政策に変わりはない」とナイジェリア政府は表明しているが、新規の紙幣の発行は抑制すると関係者はみている。
 
ナイジェリアがCBDCの導入に動いた理由は大きく三つある。
第一に、国民のうち銀行口座(モバイル口座含む)を保有する人の比率が約四〇%にとどまり、金融サービスを利用できない国民が過半である一方、銀行が店舗、ATM網を整備する投資負担に耐えられないためだ。
 
第二に、スマホ・携帯は人口千人あたり九百十台と高い普及率に達しており、スマホを使った送金、支払いアプリの利用が広がっていること。

第三に、海外で働くナイジェリア入からの本国送金が年間百七十二億ドル(一八年)と外貨収入の柱となっており、送金手数料の引き下げが国民にとって重要な課題となっているためだ。

「金融包摂」という視点
「電気料金のお支払いはエアテル・マネーで」アフリカ南東部の小国、マラウイの首都リロングウェの目抜き通りの看板や雑誌でみかける広告だ。

エアテルはインドに本拠を置く携帯電話会社で、契約者数は世界第六位。インド、バングラデシュ、スリランカなど南アジアにとどまらず、アフリカ十五力国に進出しているが、収益源は通話・データ使用料だけではなく、モバイル決済の「エアテル・マネー」の手数料。

アフリカの大半の国では銀行やコンビニでの振り込みが難しく、庶民はエアテルの店舗や取扱店で事前に一定金額をスマホ・アプリにチャージし、公共料金や買い物の支払いを行う。

アフリカでは二〇〇七年にケニアの「M-PESA(エムペサ)」がモバイル・マネーを開始、各地に広がった。今やモバイル・マネーが最も普及した決済インフラとなっている。
 
日本はSuicaなど交通系ICカード、PayPayなどQRコード決済、d払いなど携帯電話会社の一括請求型など一見、多様なモバイル・マネーが普及しているようにみえるが、交通機関、Eコマース、コンビニなど店舗支払いなど得意分野がバラバラに分かれており、すべての支払い需要に応えられるモバイル・マネーは存在していない。
 
さらに日本は、現金が最大の決済手段という世界でも特異な状況にある。紙幣を印刷、硬貨を鋳造し、輸送・保管・警備・流通・回収するためのコストは概算で年間二兆円を超える。
 
人口が二億人を超えるナイジェリアが同じように国内で必要とする紙幣などを用意するコストは国内総生産(GDP)の四~五%との見方がある。また、ナイジェリアの国土一千平方キロメートルあたりの銀行店舗数は五店舗、ATM台数は二十台と両方ともに日本の二十分の一しかない。

ナイジェリアや同水準の途上国がこれからリアルの紙幣、硬貨をベースにした金融インフラを構築することは、コスト的に不可能といってよい。そのために各国がCBDCに急激に傾斜しているわけだ。

もうひとつ見逃せないのはSDGsで主要なテーマの一つとなっている「金融包摂」である。
零細な農民、手工業者、小売業者などが仕入れや商品売り上げの決済をするにはモバイル決済が最も便利である一方、モバイル決済で受け取ったモバイル・マネーは法定通貨ではないため、二次利用できる範囲は限られる。

顧客からモバイル・マネーで支払いを受けても、従業員への給与や税金の支払いには使えない。海外送金も困難だ。CBDCであれば無限に二次利用を重ねていくことができる。「CBDCは途上国経済の救世王」との見方が世界に広がっている。
 
エルサルバドルが今年九月、ビットコインを法定通貨にした理由はやや異なる。
ビットコインは世界で広く取引されるが、支払いに利用できる商品・サービスや場所は限られている。世界でいち早くビットコインを法定通貨にすれば、ビットコインを使ったエルサルバドルの不動産、株式への投資、商品の購入が活性化することへの期待からだ。

仮想通貨とCBDCはブロックチェーン技術を使万点では共通性があるが、中国は仮想通貨が自由な資金移転につながるとみて、九月二十四日、禁止措置を発表した。(後略)【「選択」10月号】
*********************

日本の中央銀行デジタル通貨(CBDC)に関する取り組みについては以下のようにも。

****************
これまで、「発行の予定はない」としていた日本においては、2020年7月発表の「骨太の方針」の中でCBDCについてふれ、「日本銀行において技術的な検証を狙いとした実証実験を行うなど、各国と連携しつつ検討を行う」としています。

それを受けて、直後の同月20日には、日本銀行内に「デジタル通貨グループ」が設置されました。【三井住友カードHP】
*****************

中央銀行デジタル通貨(CBDC)もビットコインなどの仮装通貨もデジタル通貨ではありますが、国家管理の面では正反対の性格も。

****仮想通貨とは何か?****
仮想通貨とは、国家に依存せずに流通する、非中央集権的な通貨です。日本円にしろ米ドルにしろ、国家の中央銀行が発行する通貨は、その価値を国家が保証しています。つまり、国のお墨付きがあるというわけです。

それゆえに、経済が安定していて信頼のある国家の通貨は国際市場でも高値になりますし、反対に経済が不安定な国家の通貨は、価値が低かったりします。
しかし、仮想通貨は、基本的にあらゆる国家や組織の管理を受けない通貨であり、需要と供給のバランスによって、その価値が決まります。【同上】
*****************

“仮想通貨は、基本的にあらゆる国家や組織の管理を受けない通貨”ということで、マイニングが世界でも最も多く行われていた中国では禁止となっています。

こうしたデジタル通貨の流通拡大にIMFは懸念を示していますが、その対象は主にビットコインのような仮装通貨でしょうか。

下記記事で「クリプト化」という耳慣れない言葉が出てきますが、日本で「仮装通貨」と呼ばれるものは、一般的には「クリプトカレンシー」と称され、クリプトは「暗号」の意味です。

“地域経済の「クリプト化」”・・・エルサルバドルで懸念されているような、国家・中央銀行の監視・管理がなされず、証拠を残さず不正なマネーのやり取りが可能になるような事態をさしているのでしょうか・・・。

****新興国でのデジタル通貨台頭、金融安定脅かす恐れ=IMF****
 国際通貨基金(IMF)は1日、新興市場国におけるデジタル通貨の台頭が地域経済の「クリプト化(クリプトイゼーション)」を招き、為替・資本規制を弱体化させ、金融安定を脅かす恐れがあるとの認識を示した。

中米エルサルバドルでは9月、暗号資産(仮想通貨)ビットコインが法定通貨となったほか、ベトナムやインド、パキスタンなどでも利用が急速に拡大している。

IMFは、不健全なマクロ経済政策や中銀に対する低い信認、非効率な決済システムなどが、新興国におけるドル化(ダラーライゼーション)を加速させ、デジタル通貨普及の要因にもなっていると指摘。

「ドル化は、中銀による効果的な金融政策運営を妨げ、銀行や企業、家計のバランスシートにおける通貨のミスマッチを通じ金融安定リスクにつながる」と警鐘を鳴らした。

さらに、デジタル資産が脱税を助長する可能性があり、「クリプト化」が財政政策に脅威をもたらす恐れもあるとの認識を示した。【10月2日 ロイター】
********************

【エルサルバドルがビットコインを法定通貨にした理由】
中米エルサルバドルがビットコインを法定通貨にした背景には、マイニングのアドバンテージと米ドル依存から脱却があると指摘されています。

****存在感増す仮想通貨 エルサルバドルは法定通貨、中国はサービス禁止…その未来は?****
仮想通貨(暗号資産)に国家権力が「関与」する事例が相次いでいる。中央アメリカのエルサルバドルが世界で初めて仮想通貨のビットコインを法定通貨に採用することを決定したかと思えば、中国の中央銀行が仮想通貨の関連サービスを全面的に禁止すると発表した。

両国の対応はまるで正反対だが、いったい仮想通貨の世界で今、何が起きているのか。今後の見通しも含めて解説する。

仮想通貨とはインターネット上で送金や決済ができる電子データで、法定通貨の円やドルなどと交換できる。
法定通貨のように中央銀行が発行、管理するのではなく、仮想通貨は「ブロックチェーン」という技術を使って、送金や決済に関わる複数のコンピューターで管理し、偽造を防ぐ仕組みだ。

国家による「裏付け」がなく、価格が乱高下することもある仮想通貨の賛否が割れる中、エルサルバドルは9月8日、仮想通貨の一つであるビットコインを法定通貨に加えた。元々の法定通貨であるアメリカ・ドルと並び、2通貨体制となった。

ビットコインを法定通貨にする「旗振り役」だったブケレ大統領は「利便性が向上し、経済的メリットがある」と強調する。

国民の7割が銀行口座を保有しておらず、まともな金融サービスを受けることができていない。
一方で、海外から同国への送金額は、国内総生産(GDP)の2割に達するほど大きな割合を占める。背景には、多数の国民がアメリカで出稼ぎし、本国の家族らに送金している実態があり、送金コストが安い仮想通貨を利用すれば国民のメリットが大きいし、送金額が増えて経済が活性化する可能性もあるというわけだ。

ただ、この政策には国民からの反発も大きい。世論調査では国民の3分の4以上がビットコインの法定通貨採用に懐疑的という結果で、多くの国民は引き続き米ドルを使用することが予想されている。

このように、世間一般のエルサルバドルに対する評価は「危ない実験をしている新興国」、だろう。
仮想通貨は価格が1日で10%上下、1年間では数倍にも数分の1にもなることがある。それを国家の法定通貨にしようとしているのだから無理はない。

実際、正式に法定通貨となった9月8日、ビットコインの価格は17%も下落した。これは投資家がブケレ大統領の政策について、その実効性と持続性に疑念を持っており、エルサルバドルがビットコインの値動きに振り回された挙句、結局は法定通貨から外すという未来を予想しているのだろう。(中略)

国民からは多くの反発があり、国の信用力も右肩下がり、今のところ福音はないように思える。しかし同国には仮想通貨を法定通貨とする真の狙いは二つある、と筆者は考える。

一つは、自国での「マイニング(採掘)」である。マイニングとはコンピューターの計算によって仮想通貨を新規発行することである。

前述のように、エルサルバドルはこれまでアメリカ・ドルを法定通貨としてきた。それまでは独自通貨コロンがあったが、価格が不安定なため2001年にドルに切り替えたのだ。

外貨を法定通貨とした国にとって、通貨の発行は「かなうことのない夢」であったろう。だが、仮想通貨であればマイニングによって発行が可能となる。外貨を購入するのではなく、マイニングによって仮想通貨を「生産」し、国家資産として積み上げ、財政を安定化することもできる。ブケレ大統領はそう考えているのではないだろうか。

実際、エルサルバドルはマイニングによって有利な条件を持っている。マイニングは膨大なコンピューターによる計算が必要で、そのためにはコンピューターを稼働させる電力が必要だ。エルサルバドルには23の火山があり、地熱発電によって電力は潤沢だ。実際、ブケレ大統領は国営の地熱発電会社にマイニングの計画を立てるよう要請している。

もう一つの狙いは、アメリカ・ドル依存からの脱却だと、筆者は推測する。アメリカ・ドルだけが法定通貨の場合、通貨に関する全ての権限はアメリカのコントロール下に置かれ、同国の政治や経済の影響を大きく受けることになる。

アメリカとの関係が悪化した場合、そもそもアメリカ・ドルを使用できなくなる可能性もある。通貨を「使わせてもらっている」以上は無言の主従関係にあるといっても過言ではなく、貿易や国交で対等に交渉できるわけがない。
米ドル以外の法定通貨を持てばその「呪縛」から解放される可能性がある。(後略)【10月1日 GLOBE+】
**********************

前政権がアメリカに保有していた資産が凍結されたアフガニスタンでも、タリバンはアメリカの影響を排除するために仮想通貨を法定通貨に採用するのではないかとの臆測が広がっているそうです。【上記記事より】

イスラム原理主義のタリバンと仮想通貨・・・なかなかシュールな組み合わせです。

【もっと生臭い“裏事情”も】
話をエルサルバドルに戻すと、ビットコイン導入の背景としては、もっと生臭い“裏事情”も。

****国民猛反対でもエルサルバドルが「ビットコイン」を法定通貨にした裏事情***
今年9月、世界で初めてビットコインを法定通貨として正式に採用し話題となったエルサルバドル共和国。しかしその裏には、権力者たちの良からぬ思惑も存在しているようです。

今回の無料メルマガ『出たっきり邦人【中南米・アフリカ編】』ではエルサルバドルの首都サンサルバドル在住の日本人著者・ピンクパールさんが、同国がビットコインを国として認める真の目的を暴露しています。

当国・エルサルバドルのニュースが世界中を一瞬ですが騒がせました。なんと、バクチの対象で実体のない暗号通貨であるビットコインを国の公式通貨として認めたのです。しかも、指定のアプリをインストールして登録すると、30ドル分を進呈するというのです。

はっきりいって、大義名分なんか嘘っぱちです。

一応、銀行口座を持てない国民の、アメリカからの送金を受け取る窓口として、手数料が爆安のビットコインを使えるようになんてアナウンスしています。しかしですね、これを発表した途端に、ビットコインは17%も下落したのですよ。

価値の変動幅が定まってないうえに、実体のない暗号通貨を国として認めると、今後はマネーロンダリング(以下、マネロンと表記)が追えなくなるということです。

これまで、過去の大統領や国の機関のトップは、退任後に、軒並み国のカネの横領で裁判にかけられています。ビットコイン使うと、これが証拠も残さずに横領やり放題、ってことになるのですよ。

国は国民に30ドルという餌を最初に撒き、指定のアプリを使わせて、個人番号(日本のマイナンバーに相当)により出入金を把握できます。これで、アメリカからの送金を丸裸に出来るって寸法です。

ただ、ビットコインを扱う業者や口座は世界中に存在します。これを現政府高官の連中が使って横領したカネをマネロンしたら…、そう、退任後に摘発される可能性が限りなくゼロになるのです。これこそが暗号通貨・ビットコインを国として認める目的なのですよ。(後略)(『出たっきり邦人【中南米・アフリカ編】』より一部抜粋)【10月7日 ピンクパール氏 MAG2NEWS】
********************

ありそうな話ですが・・・どうでしょうか?
いずれにしても、ビットコインは極めてハイリスクな投資商品というイメージ。それを法定通貨に・・・というのは難しい面がありそうです。
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中国の石炭・電力不足、原油・天然ガス価格上昇などの背景に「脱炭素」からの供給抑制による需給ギャップ

2021-10-11 23:03:29 | 経済・通貨
(【8月12日 エコノミストOnline】)

【石炭不足による電力不足】
現在、天然ガス、石炭、原油などの価格高騰で世界経済に大きな影響が及びつつありますが、その一つの事例がインド北部における電力不足、背景には発電所が使う石炭の不足があります。

****インド北部州、石炭不足で停電頻発 電力供給巡る政府説明と矛盾****
インドの北部州では、石炭不足のためにたびたび停電が起こり、電力危機が深刻化していることが政府データの分析と住民への取材で分かった。十分な電力供給能力があるとしたインド政府の説明との矛盾が浮き彫りになっている。

インドは、同じく石炭不足に伴う電力危機に見舞われている中国に次いで、世界で2番目に石炭消費が多い。

連邦政府系の送電網運営会社POSOCOのデータによると、インドの電力の約70%を供給している石炭火力発電所135カ所のうち半数以上で燃料在庫が3日分を割り込んでいる。インドの電力省はコメント要請に応じていない。(中略)

インド鉱業連盟(FIMI)は7日、石炭不足により、工場閉鎖や雇用喪失の恐れがあると警鐘を鳴らした。【10月11日 ロイター】
************************

****インドも電力不足の恐れ 需要急増****
(中略)インドの電源構成の70%近くを石炭が占めている。原料の石炭の約4分の3は国内で採掘されている。
国内向け石炭の大半を生産する国営インド石炭公社は、供給を確保するため「戦時体制」を敷いているとしている。
 
アジア第3位の経済規模のインドでは、新型コロナウイルス流行後の経済再開により電力需要が急増している。また、先のモンスーンによる大雨で鉱山が浸水し、石炭輸送が中断されたたため、石炭価格は高騰した。
 
石炭価格は国際的に高騰しており、輸入も難しい状況だ。【10月6日 AFP】
******************

上記記事の表題に“インドも”とあるのは、石炭不足で停電の事態に陥っている中国東北部や天然ガス価格高騰で事態が逼迫している欧州同様に・・・との意。

その中国では・・・

****中国東北部で電力不足深刻、当局が石炭増産要請も価格高騰****
「中国のラストベルト(錆びついた工業地帯)」と呼ばれる東北3省の中で最大規模の遼寧省が11日、電力不足が悪化するとし、上から2番目に高い第2級電力不足警報を出した。過去2週間で5回目となる。(中略)

同省は東北3省のうちで、最も経済規模が大きく、電力消費量も最大で9月中旬から広範な地域で電力不足に見舞われている。

現地では午前6時から節電命令が出されている。同省では9月最後の3日間も第2級警報が発令され、数十万世帯が停電し、工場も操業停止を強いられた。

電力不足の背景には、石炭の不足と価格高騰があるが、アナリストは今冬の石炭生産が不足し、第4・四半期は電力消費を約12%削減する必要があると指摘している。

中国当局は先週、二大石炭生産地域の山西省と内モンゴル自治区に対し、生産の拡大と、遼寧省を含む東北地域の発電所への供給を優先するよう指示した。INGは、当局が供給不足の緩和に乗り出していると指摘した。

しかし、山西省では8日時点で約60の炭鉱が閉鎖され、大雨の影響で鉄道路線の寸断も起きている。

11日の原料炭先物は中心限月が過去最高値を更新、コークス先物も6週間ぶりの高値を更新した。
シティのアナリストは8日付のノートで「石炭火力発電所の70%超が赤字」と指摘した。(中略)

国家発展改革委員会(発改委)は11日、電力会社に石炭の備蓄拡大を呼び掛けていると述べた。【10月11日 ロイター】
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石炭増産に関しては“中国内モンゴル自治区、72炭鉱に即時増産を指示 年1億トン増産へ”【10月8日 ロイター】とも。

石炭不足の背景には、中国では炭鉱事故が相次ぎ当局が安全強化を図ったことで自国内の石炭増産が進まないこと、(中国の需要増大で)海外の石炭価格も高騰し入手が困難になっていることなどが指摘されており、影響は長期化するとの予測も。

****中国の石炭買い占めで世界的な資源争奪が激化―米華字メディア****
2021年10月3日、米華字メディア・多維新聞は、電力危機に陥っている中国の影響で国際的な石炭価格が高騰し、世界的な資源の奪い合いが激化していると報じた。

記事は、米ブルームバーグの1日付報道として、世界最大の燃料炭市場で、アジア市場価格の基準とされるオーストラリア・ニューキャッスルの上質燃料炭価格が1トン当たり203ドル20セントと、これまの最高値だった2008年7月の記録を塗り替えたと紹介。天然ガス価格が上昇している欧州では、石炭も需要の加熱に伴って価格が高騰する可能性があることを伝えた。

そして、燃料炭価格が項としている背景として、石炭のサプライチェーン問題があると説明。中国では炭鉱での事故が相次ぎ当局が安全強化を図ったことで自国内の石炭増産が進まないことに加えて、豪雨や新型コロナなどの問題に伴ってオーストラリア、コロンビア、南アフリカなどの国から中国への石炭輸出が滞っていると紹介した。

記事はまた、中国中央テレビ(CCTV)が先日「中国各地で発生している電力制限は主に、全国的な石炭不足、石炭コストと電力基準価格の著しい逆ざや状態、連絡線の送電能力低下などの影響を受けたものである。現在中国国内の燃料炭、原料炭の生産能力が明らかに縮小しており、加えてモンゴルからの供給を始めとする石炭輸入量が減少しており、経済回復に伴う電力ニーズとのアンマッチが起きている」と説明する評論を発表し、中国自身も石炭供給不足と電力不足を認めていることを伝えた。【10月5日 レコードチャイナ】
********************

****中国の電力不足はまだ序章?「さらに広範囲で深刻な電力不足が起こる」と専門家―米華字メディア****
2021年10月4日、米華字メディア・多維新聞は、石炭の供給不足により中国各地で発生している電力供給制限について、中国の専門家が向こう5年間は同様の状況が頻発する可能性があると指摘したことを報じた。

記事は、中国各地の電力供給制限の原因が石炭の供給不足にあると伝えた上で、華北電力大学経済管理学院の袁家海(ユエン・ジアハイ)教授が「2016〜20年末までに、中国の石炭生産能力は年間10億トン以上減少した。減少前は年間50億トン程度生産されていたのが、減少後は37.5億トン程度になった。

また、生産量が多い内モンゴル自治区では昨年より石炭生産に関連する汚職スキャンダルが取り沙汰されていること、石炭採掘に対する安全管理や環境保護の強化も石炭生産減少の要因になっている」と語ったことを紹介。

一方で、石炭需要は17年以降再び増加傾向にあり、年間40億トン前後になっていると伝えた。

また、特に電力供給状況が厳しいとされる東北地域でも石炭生産の減少が顕著になっているとし、16年に1.13億トンあった東北三省(黒竜江、遼寧、吉林)の原料炭生産量が20年には0.93億トンにまで減ったことを紹介するとともに、石炭の輸入価格が高騰し、モンゴルやオーストラリアといった大口の輸入相手からの石炭輸入量も減少しているとした。

中国社会科学院財経戦略研究院の馮永晟(フォン・ヨンチョン)副研究員は「再生可能エネルギーによる発電は随時性、波動性、間欠性という特性を持っているため、『カーボンピークアウト』『カーボンニュートラル』という目標達成に向けて電力システムへの新エネルギー利用率を高めるに伴い、電力の需給ギャップの可能性が増えていくことになる。21〜25年の第14次5カ年計画期間中は、より大きな範囲で、より深刻な電力不足が頻発することが見込まれる」と予測したという。【10月5日 レコードチャイナ】
**********************

【世界各地及び各エネルギーの間の連動】
上記のような石炭不足は、「脱炭素」を目指す中国政府の方針による供給抑制と依然として大きい需要の間のギャップが顕在化したと理解できます。

****中国で大停電、「脱炭素」の動きがもたらすエネルギー危機****
深刻な資金難に陥っている不動産開発大手の中国恒大集団の経営危機で大きく揺れる中国経済だが、「深刻な電力不足」という次なる危機が発生しつつある。
 
中国政府が環境対策として石炭を主燃料とする火力発電所の抑制に動いたことが主な要因で、全国の約3分の2の地域で電力供給の制限が実施される異常事態となっている。

全産業、市民生活に及び始めた電力不足の影響
中国政府は、二酸化炭素の排出量を2030年までに減少に転じさせ、2060年までに実質ゼロにする目標を掲げている。この目標達成に向け、今年のエネルギー強度(GDP1単位当たりのエネルギー消費量)を前年に比べて3%削減する目標を設定した。

だが、今年(2021年)前半に目標を達成したのは30の省や地域のうち10省・地域にとどまった。このため目標未達の地方政府は最近、二酸化炭素排出量削減措置を強化した。電源構成で約7割の比率を占める石炭火力発電所が次々と操業停止に追い込まれたことから、深刻な電力不足が生じてしまったのだ。
 
特に影響が大きいのは鉄鋼・アルミニウム・セメント産業だ。生産抑制措置が採られ、アルミニウムの生産能力の7%、セメントの生産能力の29%に影響が出ている。韓国ポスコのステンレス鋼生産工場も一時生産中止を余儀なくされている。
 
電力不足の影響は全産業に及び始めている。米アップルや米テスラ向け部品を生産している工場が操業を停止した。自動車や家電を生産する日系企業にも影響が出始めている。
 
東北部の黒竜江省や、吉林省、遼寧省では工場だけでなく、市民生活にも影響が及んでいる。信号灯が消えて大渋滞となり、至るところで停電や断水が起きている。
 
地域別に見てみると、広東省が最も深刻だ。同省では今年初め頃から電力不足となっていたが、最近、省内各市は計画的な操業停止を各企業に通達した。多くの工場は週4日の操業停止、場合によっては週5日の停止を命じられているという。
 
中国政府は9月26日、冬場にエネルギーの十分な供給を確保するため、石炭・天然ガス開発企業に生産の拡大を要請したが、来年2月の北京冬季五輪に向けた「青空」確保の対策を緩めるわけにはいかない。早期に電力不足が解消する目途は立っていないと言わざるを得ない。
 
政府の環境対策に加え、石炭価格の上昇による火力発電所の稼働率低下も電力不足の原因となっている。中国政府は昨年10月、豪州産石炭を外交上の理由で輸入停止としたが、代替輸入先が見つからず、このことが輸入石炭価格の上昇を招く結果となった。

中国の石炭在庫量は今後2週間で底を突くとの憶測も出ている。国際的にも石炭価格が1年前に比べ3割以上も上がっており、欧州では13年ぶりの高値となっている。天然ガス価格が高騰したことから、相対的に価格が安い石炭への需要が急増したのである。(後略)【10月1日 藤 和彦氏 JBpress】
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アジアの天然ガス需要が増せば価格が上昇し、欧州市場でも上昇する。
欧州での天然ガス価格高騰によって、石炭への代替需要が増大し、石炭価格が上昇する。
石炭価格が上昇すれば、中国では海外からの石炭調達が難しくなり電力が不足する。
天然ガス・石炭価格の上昇は原油価格にも波及する。

という形で、世界各地及び各エネルギーの間では互いに影響が波及しあう関係がります。

【「脱炭素」による化石燃料供給抑制と旺盛な需要の間のギャップ】
総じて化石燃料に関しては、「脱炭素」の流れで化石燃料産出・投資が抑制されている一方で、コロナ禍からの回復で需要は依然として大きいという需給ギャップが存在します。

原油価格も高騰しています。

****原油先物が上昇、エネルギー需要増で WTI80ドル超え****
11日の原油先物は上昇。新型コロナウイルス禍からの景気回復を受けて燃料需要が高まっていることを受けた。

0212GMT(日本時間午前11時12分)時点で、北海ブレント原油先物は0.81ドル(1%)高の1バレル=83.20ドル。先週は約4%値を上げた。

米WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)先物は1.15ドル(1.5%)高の1バレル=80.50ドル。2014年終盤以来の高値。先週は4.6%値を上げた。

ただ、米国の在庫が再び積み上がる中、今後は軟化も予想される。

キャピタル・エコノミクスのチーフコモディティーエコノミスト、キャロライン・ベイン氏はノートで「今四半期の原油価格が大幅に上値を伸ばすのは難しいとみており、来年に徐々に下落すると依然として予測している」と指摘した。(後略)【10月11日 ロイター】
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上記記事では、“今後は軟化も予想される”との見立てですが、“この上、中東地域での地政学リスクが上昇することになれば、原油価格の100ドル超えの可能性は格段に高まる。1リットル当たり150円台で推移している日本国内のガソリン価格が200円を超える事態になるかもしれない。
 
石炭や天然ガスに続き原油まで高騰するような事態になれば、2度の石油危機が起こった1970年代のように世界経済は、物価圧力が高い中で景気回復が減速する、いわゆるスタグフレーションに陥ってしまうのではないだろうか。”【前出 藤 和彦氏 JBpress】といった懸念も。

これまでだと、一定に原油価格が上昇するとアメリカでのシェールオイル産出が増大し、結果、価格上昇は抑制されるという需給バランスがあったのですが、昨今の「脱炭素」の流れで、アメリカでの生産拡大が抑制され、結果、価格が上がり続けるということいにもなっています。

****戻らない米国のシェール生産 原油価格は100ドル超え視野=岩間剛一****
(中略)新型コロナウイルス禍からの経済活動の再開といった需給の引き締まりという要因に加え、何よりこれまで原油価格の上値を抑えてきた米国のシェールオイル生産が活発化しないことも一段高を招いている。
 
(中略)米国のシェールオイル生産が本格化して以降の動きを振り返ると、WTIが1バレル=50ドルを超えるとシェールオイル生産が増加し、国際石油需給が緩和して原油価格の上値を抑えるというサイクルが繰り返されてきた。
米国のシェールオイルの開発コストは、条件が良い鉱区の場合は1バレル=30ドル程度であり、50ドルを超えれば生産企業に利益が出るためである。

気候変動対策の強化
しかし、米国の原油生産量は19年11月に日量1286万バレルと史上最高に達した後、コロナ感染拡大による原油価格の暴落もあり、今年2月には日量977万バレルまで減少した。(中略)

米国のシェールオイル生産企業が新規油田の開発に慎重なのは、借入金の返済など財務の健全化を優先し、新規投資を抑制していることが要因に挙げられる。これまで原油価格上昇時は、利益よりも量を追い求め、借入金を増加させてきたシェールオイル生産企業だが、現在は増加した現金収入を内部に留保し、自己資本比率の引き上げを図っている。
 
その背景には、今年1月に発足したバイデン新政権の気候変動対策の強化がある。バイデン大統領は就任後、温室効果ガス排出削減を目指す大統領令に署名し、政府保有地における新規のシェールオイル開発を規制するなどした。

生産企業には長期的には新規油田が不良資産となる懸念が高まっており、大手から中堅・中小に至るまで開発投資を抑制している。
 
金融機関や投資家も、原油価格上昇による収入増加を、新規油田開発ではなく財務の健全化や株主還元に充てるよう圧力を強めている。

また、米石油メジャーのエクソンモービルは今年5月の株主総会で、アクティビスト(物言う株主)が提案した脱炭素派の取締役3人の選任を余儀なくされるなど、生産企業にとって気候変動問題が大きな逆風となっている。(後略)【8月12日 岩間剛一氏・和光大学経済経営学部教授 エコノミストOnline】
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アフリカ  先端テクノロジーが「カエル跳び」的に段階を超えて拡大

2021-10-10 22:30:41 | アフリカ
(ライオンに1勝したことのあるマサイ族の戦士 それと同時に、iPhoneとAndroidのスマホを使いこなすIT戦士でもある【2020年8月25日 ROCKET NEWS24】

なお、上記によれば、マサイ族の村では大人の半数程度が携帯を保有し、そのうちスマホは大人の1割ぐらい・・・といったところではないか・・・とのこと)

【日本で新しい技術を生かそうとしても規制が山ほどあり、既得権益者がそれにしがみついている。アフリカなら・・・】
アフリカを取り上げる場合、内戦や飢餓といった問題で扱うことが多いですが、いつも言うように、一方でアフリカは急速に経済成長しているという別の側面も併せ持っています。

更に言えば、先端テクノロジーを使用した制度の導入も進んでいるようです。

今回は、そんな従来イメージとは異なるアフリカを紹介した記事。
マサイ族でスマホが普及し、「今ライオンに襲われているから助けに来てくれ」とメッセージを送り助かった・・・なんて話は(出来過ぎた話ですが)笑えます。

****スマホを持ったマサイ族の劇的な変化に見る日進月歩のアフリカ****
最後に残された巨大市場と言われるアフリカ。飢餓や貧困、あるいは内戦のイメージが強いが、近年は各国、特に中国が積極的に開発や投資を進め、加速度的に経済発展を遂げている。
 
ルワンダは「アフリカのシンガポール」を目指して、先進国の先端テクノロジーの試験場となる道を進み、ワクチンや血液を運ぶAIドローンが空を飛ぶ。

ケニアではキャッシュレス決済サービスが社会インフラとなり、GDPの半分を超える取引額を達成した。
ケニアではベンチャー企業が救急車の配車プラットフォームを構築し、年間3000件以上の救急対応をしている。
 
アフリカで今、何が起こっているのか。『超加速経済アフリカ:LEAPFROGで変わる未来のビジネス地図』(東洋経済新報社)を上梓したAsia Africa Investment & Consulting(AAIC)の椿進・代表パートナーに話を聞いた。(聞き手:山内 仁美、シード・プランニング研究員)

──本書の中で、先進国のベンチャー界で起きている一つのモデルとして、先進国で研究開発し、商用サービスは最初にアフリカで行う方が先進サービスを迅速に展開できるというメリットが書かれています。将来、先進国の先端テクノロジーの試験場は発展途上国となり、人口の多いアフリカはその中で有望な候補になっていくということでしょうか。

椿進氏(以下、椿):例えば、遠隔診断AI診断サービスを提供する英国のベンチャー企業、babylon/babelのサービスは240万人が利用しています(2019年時点)。この会社が商用サービスを本格的にスタートさせたのは、本拠地の英国ではなくルワンダでした。
 
ドローンや自動運転は、その頭脳となるAIが多くのデータを読み込まないと賢くならないので、実際に商用しないと進化しません。日本で新しい技術を生かそうとしても規制が山ほどあり、既得権益者がそれにしがみついている。それだったらアフリカでやった方が早いし、いろいろな可能性を試すことができます。

──米国ではAmazonがドローンを使った配送を10年以上前から発表していますが、法規制の面から実現することができずにいます。これに対して、米サンフランシスコの企業がルワンダとガーナで「Zipline(ジップライン)」という商用物流サービスを展開し、血液や医薬品をドローンでデリバリーしていると本書にあります。ドローン配送がアフリカで商用化される可能性はあるのでしょうか。

椿:もう始まっています。Amazonのドローンの最大の問題はコストです。例えば1000円のピザに対して、往復2万円の配送料がかかるのに注文する人がいるでしょうか。ドローンはパイプラインを上空から確認するとか、映像を撮影するには適していますが、物流や配送で使うにはコストに見合いません。
 
世界のドローン会社のうち、最も多くの飛行実績があるのがZiplineです。Ziplineはドローン専用空港をルワンダで2カ所、ガーナで4カ所持っています。ガーナではワクチンもデリバリーしています。
 
1日3回、ドローン空港からワクチンを積んだドローンを飛ばすと、地方のヘルスセンターまで自動で飛んでいきます。目的地に着くと、パラシュートでワクチンを落下させて自律運転で帰ってきます。
 
1回のペイロード(積載量)が1.7kg程なので、1回の飛行でワクチン2000本を積むことができます。ワクチンには温度管理が必要ですが、地方のヘルスセンターにはその設備がないからストックしておけない。だから、その日に使う分のワクチンをドローンで素早く届けられるというのは合理的なんですね。1配送2000円なので、ワクチン2000本ならコストに見合います。

──アフリカの現地では、海外の先進的なテクノロジーがテスト的にアフリカに入ってくることを歓迎していますか?

椿:ルワンダは直接投資がほしいし、現地に来てほしいから海外の先進的なシステムや技術の導入を歓迎しています。事実、アフリカのシンガポールになりたいと、大臣自らが「何やりたいんだ?どんどん実験してくれ」と言ってきます。しかも、そうした実験を受け入れて実行するリーダーシップが現在のカガメ大統領にある。

──発展途上国で試験的にサービスを開始するという流れは、今後ビジネスの新しい常識になっていくということでしょうか。

椿:それが当たり前になってきましたね。モバイル式超音波診断器を開発した米Butterflyのハンディタイプの超音波診断器は、研修を受けた人が操作してデータをクラウドにアップし、それをAIや医師がチェックして診断するという仕組みです。電源がなくても、その場に医師がいなくても使えるので検診などに利用されています。既に商用サービスが始まっており、データを数多く集めてAIに学習させ、医療機器を深化させています。

──多くの先進国では公的な機関が血液を生産し、各医療機関に配布していますが、アフリカの多くの国々ではそのようなシステムが確立していません。そこで、「LifeBank」のような民間のスタートアップ企業が、血液デリバリー事業を手掛けていると本書で書かれています。仕組みやインフラが未整備であるがゆえに、可能性を秘めているということですね。

椿:アフリカで救急車制度があるのはケニアだけです。救急車は各病院に1台か2台ありますが、救急車を呼んでも来るまでに3時間かかるから、ほとんど間に合わない。そこで「Flare」というスタートアップがUber型の救急車の仕組みを作りました。ナイロビに約100台ある救急車にGPSを付けて、配車プラットフォームを構築したんです。
 
それによって最も近くにいる救急車を手配し、症状に合った救急の病院の空き状況を確認して搬送することができるようになりました。また、救急の医師を200人確保し、24時間いつでも対応できる体制を構築したことで、2019年に約3000人の命を救ったと聞いています。
 
血液バンクも新興国では民間企業がやっています。アフリカで使われているのは「全血」(先進国では成分輸血)で、長く保存しておけないから病院には輸血用の血液のストックがないんですね。だから必要な時に電話して、必要な血液をすぐ届けるというところに切実なニーズがある。

アフリカで大成功したカネカの秘訣
(中略)
──アフリカで成功している日本企業の例として、しばしば引き合いに出されるのが化学メーカーのカネカです。人工毛髪用の原料繊維の提供を通して、女性用のウィッグやエクステンションといった髪関連用品がアフリカで普及しているとの話です。アフリカに進出してもうまくいかない日本企業もたくさんありますが、なぜカネカは成功することができたのでしょうか。

椿:豊かになってきたアフリカの女性たちの、素敵なヘアスタイルにしたいというニーズは非常に高い。化粧品よりも髪にかける時間やお金が多く、髪関連市場は巨大な市場になっています。(中略)
 
日本企業の方はよく、これはいい商品だからアフリカで売りたいんです、とおっしゃいます。しかし、相手がそれを本当に求めているかどうか、ニーズがあるところにきちんと商品が提供できるかどうか、それが出発点なんです。

マサイ族がスマホを持って変わったこと
──ケニアでは、人口の7割、成人の9割以上がモバイルマネーを使っており、ホームレスでさえもモバイル決済プラットフォーム「M-PESA」を活用しているという話です。また、ケニアではSIMベースの携帯の普及率が113%であり、そもそも電話を持っていなかった人たちが一気にスマホを持ち始めた状況についても書かれています。ケニアでは何が起きているのでしょうか。

椿:新興国においては基本プリペイド携帯です。アフリカでは携帯電話の98%、インドネシアは約8割、マレーシアは約5割、シンガポールは約3割がプリペイドです。アフリカで銀行口座を持っている人は約2割、クレジットカード持っている人は約5%しかいないので、後から携帯料金の請求がほとんどできない。
 
サファリコムの「M-PESA」の面白いところは、チャージしたお金を「人にも送れて、現金に払い戻せる」という点です。このサービスが大ブレイクした理由はここにあります。
 
例えば、ケニアのナイロビで1日働いて5ドルを稼いだ息子が、田舎のお母さんに仕送りをするとします。息子が5ドルチャージして、そのうちの3ドルをお母さんに送ったら、お母さんはその3ドルを現金で受け取ってもいいし、そのままお店で買い物をして使ってもいいわけです。お互いに銀行口座がなくてもやり取りができる。
 
2018年時点で「M-PESA」のトランザクションは年間4兆5000億円規模になりました。ケニアのGDP10兆円の約半分に当たるということは、そこに本質的なニーズがあったということでしょう。

──マサイ族がスマホを持ち始めたというお話を紹介されています。SNSなどを突然始めたりするとこれまでの文化が崩壊しないのでしょうか。

椿:マサイ族も日常生活でスマホや携帯電話を使っています。「今ライオンに襲われているから助けに来てくれ」とメッセージを送ったら仲間が助けに来てくれて、携帯電話があってよかった!ということもある。

現金を人に送ったり、情報を得られるようになったら仲買に騙されなくなったり、羊の売り時が分かるようになったりと利点も多い。スマホが彼らをエンパワーメントするツールになっています。(中略)

「日本は真の開国をすべき」と主張する理由
──椿さんが感じたアフリカ大陸内での文化の違いを教えてください。ビジネスのやりにくさややりやすさ等、国ごとの違いはあるのでしょうか。

椿:中国やインドより、アフリカの方がやりやすいですね。中国は歴史の問題や日本企業から技術を盗もうとするなど問題があります。インドビジネスは人口が多い分、既存のプレーヤーが多くいて、そこに日本企業が入ろうとするのはなかなか難しい。(中略)
 
──コラムの中で「日本は真の開国をすべきだ」と書いています。椿さんの考える真の開国とはどのようなことなのか教えてください。

椿:本当の開国とは、世界から人や企業、お金、情報がもっと自由に日本に入ってくることだと考えています。
現在の日本の最大の課題と閉塞感の原因は人口減です。歴史を振り返ってみても、人口が減って繁栄した国はありません。今後50年間、日本では人口が年間80万〜100万人ずつ減り続けますが、これは1年に県一つが消えていくようなものです。

シンガポールやオーストラリア、カナダなど、多くの国が移民による人口増加の計画を立てています。各国で有能な人材を取り合うのは世界では当たり前のことです。
 
今の日本のように単に労働者が足りないという文脈で技能実習生制度のようなことをやると、現代の奴隷制度みたいになってしまう。海外のように仕事の内容や年収、学歴でビザの種別や年限を決めればいい。これは大きな政治の課題ですが、民間でもできることはたくさんあります。
 
多文化共生をどう作ればいいか。これは海外を見れば既に解は出ています。中学生とか高校生あたりの人生の早い段階で、海外から日本に留学してもらうことです。アフリカも含めて日本に来たい人はたくさんいるのですから、どんどん進めればいいんです。【10月9日 JBpress】
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“日本で新しい技術を生かそうとしても規制が山ほどあり、既得権益者がそれにしがみついている”・・・結果、日本は世界の流れからどんどん遅れていく・・・というのは日本の大きな問題です。

【段階を飛び越えて一足飛びに先端テクノロジーが発展する「リープ・フロッグ現象」】
順を追って段階的に発展していく従来の発展プロセスに対し、従来技術が十分に展開されていない途上国で、先進国で使用されている最先端テクノロジーを利用し、段階を飛び越えて一足飛びに発展する現象を「リープ・フロッグ現象」(カエル跳び)と呼んでいますが、今アフリカで展開されているのは、この「リープ・フロッグ現象」です。

****アフリカ急発展!リープ・フロッグ現象とは****
近年、アフリカでは水や電気すら届かない場所でスマホを操り、電子決済をする人々が増えている。開発途上国で最先端の技術が普及する背景には、「リープ・フロッグ」とよばれる現象が。なぜアフリカなのか?その背景にあるものとは?
    ◇
鉄筋の建物やガラス張りのビルが立ち並び、当たり前のようにスマホで決済する。欧米ではなく、アフリカ・ナイジェリアの話だ。

実は今、アフリカではナイジェリアを始め多くの国が急速に発展を遂げる「リープ・フロッグ現象」が起きている。

「リープ」は飛ぶ「フロッグ」はカエルの意味で、ある国がまるでカエルが飛ぶように一気に発展を遂げることを「リープ・フロッグ現象」という。

■「リープ・フロッグ型」の発展とは
これまでの典型的な発展のプロセスは、まず、水道や電気など最低限の生活を送るためのいわゆる「衣食住」が整備され、次に鉄道や道路などのインフラが整備される。これにより、ヒトやモノの往来が増え、経済が活性化される。

その上で、情報や通信網などより便利で快適な生活を送るための基盤が整備され、携帯電話なども登場する。

このように順を追って、段階的に発展していく従来の発展プロセスと比べ、「リープ・フロッグ現象」は先進国で使用されている最先端テクノロジーを利用し、段階を飛び越えて一足飛びに発展するのが特徴だ。日本などが数十年かけたプロセスを、数年で達成するイメージだ。

■サバンナでもスマホ!?
一例がスマホの急速な普及だ。固定電話の回線を国の隅々まで整備するよりも、スマホをつなぐ基地局を作る方が低コストで済む。その結果、各地に基地局ができてどこにいてもスマホがつながるようになった。固定電話すらなかった地域に一気にスマホが普及したのだ。

さらに、スマホの普及で発展したのがモバイルマネーシステムだ。ケニアでは住所を証明する公的な書類を持っていない人が多く、人口の約7割が銀行口座を所有していない。しかし、「M−PESA」というモバイルマネーサービスの登場で状況は一変した。

■デジタルがインフラ整備を後押し
スマホに通話料をチャージし、ショートメッセージ機能を使って送金できるほか、決済や預金、ローンを組むことも可能で、銀行のあらゆる機能を集約したサービスだ。

また、このM−PESAはリープ・フロッグ現象で「飛び越されてしまった」部分の発展にも一役買っている。M−PESAの「納税」機能だ。

ケニアの成人の96パーセントがこのシステムを使用し始めたことから税金の徴収率が向上し、結果としてインフラ整備が進んだという事例もある。

■なぜ“アフリカ”なのか?
「リープ・フロッグ現象」がアフリカを中心に起きている要因はいくつかある。

一つはアフリカの多くの国が開発途上だからこそ、既存のインフラや既得権益者が少なく、その分、先端技術が素早く浸透しやすい土壌があることだ。

また、成長著しいケニアやナイジェリア、南アフリカ共和国などはいずれも公用語が「英語」で、一般国民が最先端の情報を入手しやすいという利点もある。

■さらに“発展”のカギは?
今後、さらに発展を遂げるための条件とは何か。

アフリカへの企業進出の支援やコンサルを行うAAIC代表の椿進氏によると、「リープ・フロッグ現象」がうまくいくかどうかは、海外からの投資を受け入れるための制度が整っているか、指導者がその柔軟性を持ち合わせているか、などによって変わってくるという。

つまり、「その国の政治体制や指導者の資質」が今後の発展のカギを握っているといえそうだ。【7月14日 日テレNEWS24】
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中国  ノーベル平和賞を黙殺、規制強化 一連の規制強化で政権に疑問を持たない人間が育つ懸念

2021-10-09 23:14:55 | 中国
(習近平国家主席の政治理念を教える小学校教材【9月1日放送「日テレNEWS24」】)

【ムラトフ氏の平和賞受賞はロシアに報道の自由が存在している証?】
今年のノーベル平和賞が、ロシアとフィリピンで強権支配政権を批判して活動してきたジャーナリストに授与されたのは周知のところです。

****強権批判、2記者にノーベル平和賞 フィリピン・ロシア 屈さず報道、表現の自由守る****
ノルウェーのノーベル委員会は8日、2021年のノーベル平和賞を、いずれも強権的な政権への批判を続けてきた、フィリピンのジャーナリスト、マリア・レッサさん(58)と、ロシアの独立系リベラル新聞「ノーバヤ・ガゼータ」の編集長ドミトリー・ムラトフさん(59)に授与すると発表した。

ノルウェー・ノーベル委員会のライスアンデシェン委員長は発表の会見で「民主主義と恒久的な平和の前提である表現の自由を守るために努力してきた」と2人の実績をたたえた。
 
さらに、2人は「民主主義と報道の自由がますます不利な状況に直面している世界」で、表現の自由のために闘う「全ジャーナリストの代表だ」と述べた。(後略)【10月9日 朝日】
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両名に批判されてきた政権側の反応が気になるところですが、ロシア・プーチン政権は、ムラトフ氏の受賞を歓迎し、ロシアに表現の自由が存在することの証だと言いたいようです。

****プーチン政権、「言論の自由」アピール?…政権批判ジャーナリストへの平和賞授与を祝福****
ロシアのプーチン政権が、政権批判を続ける独立系新聞「ノーバヤ・ガゼータ」のドミトリー・ムラトフ編集長(59)へのノーベル平和賞授与を祝福している。欧米向けにロシアには「言論の自由」があるとアピールしようとしているようだ。
 
タス通信によると、ミハイル・ミシュスチン露首相の報道官は8日、内閣を代表し「彼にふさわしい賞であり、我々は祝福する」と述べた。ムラトフ氏のプロ意識や人格も称賛した。
 
人権問題などに関するプーチン大統領の諮問機関トップは「ロシアには活気に満ちたジャーナリズムが存在することを示している」と評した。ノルウェーのノーベル賞委員会の決定を「内政干渉だ」とする批判はほとんど出ていない。
 
ロシア政府は、多くの独立系メディアを「外国の代理人」に指定することで「欧米のスパイ」のレッテルを貼ってきたが、ノーバヤ・ガゼータは指定を免れてきた。露有力紙コメルサントは、ノーバヤ・ガゼータが言論の自由の象徴として政権側によって「保護されてきた」と指摘する。
 
ただ、プーチン政権は実質的にはメディアへの弾圧の手を緩めていない。露法務省は8日、ロシアの反政権運動指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏の毒物襲撃事件の真相を調べてきた国際的な民間調査機関「ベリングキャット」など3団体と記者9人を「外国の代理人」に追加した。【10月9日 読売】
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“言論の自由の象徴として政権側によって「保護されてきた」”・・・政権側も狡猾です。

マリア・レッサ氏に「麻薬問題」での超法規的殺人を批判されている直情径行なフィリピン・ドゥテルテ大統領にはそうした狡猾さはないかもしれませんが、今のところ大統領の反応に関する記事は目にしていません。

フィリピンでは次期大統領選挙がスタートしたところで、今回の授与はその混戦模様の選挙戦に影響するかも・・・との報道もありますが、多くのフィリピン国民はドゥテルテ大統領の強硬姿勢を受け入れてきた経緯もありますので、影響云々はどうでしょうか・・・。

【今回平和賞を黙殺し、報道規制を強化する中国】
注目されるの、やはり「報道の自由」が圧殺されている中国の反応です。今回授与を黙殺する構えのようです。

****中国、ノーベル平和賞の報道を規制か 速報削除、主要メディア報じず****
ノーベル平和賞の報道を規制したのか――。中国では8日発表された同賞について、一部メディアが速報を流したが、その後に削除されて閲覧できない状態となった。

ノーベル賞委員会が、強権下で「表現の自由を守るため努力をした」と評価したジャーナリスト2人の受賞の報道について、当局が不適切と判断した可能性がありそうだ。
 
インターネットなどで速報を流したのは、中国の通信社である中国新聞社や中国共産党紙・人民日報系の環球時報。中国新聞社はノーベル賞委員会が発表した直後、受賞が決まった2人を似顔絵入りで紹介した。しかし速報はすぐに削除され、一部の転載されたもの以外は閲覧できない状態となった。また、その後も国内の主要メディアは平和賞に関して報じていない。
 
ロシアやフィリピンで公然と体制批判を続けてきたジャーナリストへの授与に、中国当局が強く反応したとみられる。ノーベル賞全般については中国国内でも関心が高く、平和賞以外の各賞は連日報道されていた。
 
中国でメディアは中国共産党の「喉と舌」と位置づけられる。2010年に中国の民主活動家の劉暁波氏(17年に事実上獄中死)に平和賞が授与されたが、当局は国内での報道を封殺し、各メディアは授賞決定を非難する当局の談話を伝えただけだった。【10月9日 毎日】
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ロシア・プーチン政権の鷹揚さを取り繕うような狡猾さと違って、中国・習近平政権はピリピリしているようです。
今でも圧殺されている報道の自由ですが、更にその度合いが強まるようです。

****中国政府 民間の報道事業参入禁止の方針****
中国政府は8日、民間企業が報道関連の事業に参入することを禁止する方針を明らかにしました。さらなる情報統制の強化で、政権への批判を抑え込む狙いがあるとみられます。

これは、中国の国家発展改革委員会が公表したもので、新聞やテレビ、ネットメディアなどの報道事業に民間企業が参入してはならないとしています。

また、民間企業が政治、経済、外交や、重大な社会問題などを発信することも認めないということで、今月14日まで意見を募集するとしています。

中国では、経済分野などで既存の共産党系メディアとは異なる視点で情報発信する民間のネット企業が成長を続けていますが、習近平指導部は今後、さらなる情報統制の強化で世論をコントロールし、政権への批判を抑え込む狙いがあるとみられます。【10月9日 日テレNEWS24】
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【一連の規制強化は「文化大革命」か?】
こうした統制強化は、最近中国・習近平政権が進めている、かつての“文化大革命”を彷彿とさせるもろもろの統制・管理強化の一環のようにも思えます。

規制の標的とされた業界はバラバラです・・・・アリババグループなどIT企業、配車サービス最大手・滴滴(ディディ)、セレブな芸能人、「推し(応援対象)」にお金を使うファン活動、ゲーム産業、学習塾・・・等々。

それぞれには、それぞれのもっともな理由もあります。規制を必要する過熱ぶりなどもあります。

中国政治事情に詳しく、中国に対し厳しい指摘を常々行っている遠藤誉氏(中国問題グローバル研究所所長)などは、日本メディアの“文化大革命”云々の捕らえ方には批判的なようです。

文化大革命の何たるかも知らないくせいに皮相的に物事を言ってはならない・・・といったところでしょうか。

****中国政府「飯圏(ファン・グループ)」規制の真相****
中国政府による「飯圏」規制を、日本では「思想統制」とか「文革への逆戻り」などと解説しているが、笑止千万。飯圏はアイドルへの狂信的な十代前半のファンの心を操り暴利をむさぼっている闇ビジネスの一つだ。

「飯圏(ファン・チュエン)」とは何か?
「飯圏」の「飯」は中国語では[fan](ファン)と発音し、日本語の「ファン」を音に置き換えたもので、「飯圏」とはアイドルを追いかけるファンたちのグループ」のことだ。

(中略  「えげつないほどに」ビジネス化した中国の“推し”活動の詳細が記述されていますが、スペースの都合で割愛します。)

「飯圏」のメンバーの多くが社会的判断力をまだ養われていない十代前半の青少年が多いため、自分でお金を稼ぐ能力はない。そこで両親や祖父母のクレジットカードを盗み、両親や祖父母が生涯かけて貯めてきたお金を、アイドル事務所に煽られるままに「飯圏」が応援するアイドルのために使い果たしてしまうというケースも散見される。

何も持たない12歳とか、せいぜい15歳くらいの青少年が、「投げ銭」をアイドルに投げ続けることによって、そのアイドルを人気者にしていったのは自分であり、まるで「自分が育てたのだ」という自己満足を得ることによって自分の存在感を認識するという、ネット社会が生んだ「歪んだ衝動」であり「哀しい現象」の一つだ。

青少年の心を破壊していくだけでなく、家の財産全てを悪徳業者のような闇ビジネスに吸い取られていく不健全な「中国の闇」がそこにはある。

「飯圏」の規制に出た中国政府
そこで、中国政府のネット管理に関する部局である「中央網絡安全和信息化委員会弁公室秘書局(中央ネット安全と情報化委員会秘書局)」は今年8月25日、<"飯圏"の乱れた現象の管理をさらに強化する通知に関して>という通達を出した。(中略)

中国政府の規制を「文革の再来」、「思想統制」、「来年の党大会への警戒感」と分析する日本メディアの罪
この規制に関して日本の大手メディアが、これは
●習近平による思想統制の強化(独裁性が強まった) ●文革への逆戻りだ ●「飯圏」は組織化されているので、反共産党に傾くのを中国政府が恐れている。●習近平は、来年の党大会が順調に行くように警戒している(国家主席2期10年の任期撤廃をしたので、党大会で中共中央総書記に選出されなければならないから、その邪魔をされることを警戒している、という意味)
などが背景にあるといった趣旨の説明を展開しているのを、偶然、夜9時のテレビニュースで見て非常に驚いた。(中略)

日本のメディアの中国報道はほとんどが間違っているが、それにしても、これはいくら何でもあんまりではないかと唖然としてしまったのである。

どんなことでも「文革の再来」と言えばすむような風潮が日本にあるが、文革とは何かを本当に知っているのだろうか?

文革の目的は「政府の転覆」にある。
国家主席の座を退かざるを得ないところに追いこまれた毛沢東が、国家主席になった劉少奇を倒そうと、1966年に「敵は中南海にあり!」と上海から叫び始まったものだ。

国家主席であり、中共中央総書記および中央軍事委員会主席でもある絶対的権限を持った習近平が、自分の政権を倒してどうする? あり得ない発想だ。(中略)

日本でも、ここまで激しくはないが、2012年に自民党の礒崎陽輔参院議員が、ツイッターで「 アイドルユニットAKB48の総選挙では、投票券付きのCDを1人で大量に買うファンがいて、イベントのあり方が論議になったこと」について、疑問を呈したことがある。

「飯圏」規制は、まさに磯崎議員のこの疑問と同じで、結果日本では2019年に中止になったようだ。
このプロセスが、中国では大規模に起きただけだ。

なぜ日本で起きると「歪んだ社会を是正した」ものと位置付けられるのに、中国が日本のあとを追いながら規制したことは「思想弾圧」であり「文革への回帰」であり「来年の党大会への習近平の警戒感」に変質していくのか。

日本の大手メディアが解説した理由とは程遠い現実が中国にあり、その真相こそが中国の弱点でもあるのに、これらを次々と決まり文句で位置付けて視聴者の耳目におもねる日本のジャーナリズムこそは、ビジネス化してしまって正常な役割を果たしていない。

視聴者が喜ぶ方向に事実を捻じ曲げていくことを、ジャーナリストは恥ずかしいとは思わないのだろうか?
虚偽の事実を日本の視聴者に拡散させていくのは、日本を誤導し国益を損ねるのではないかと懸念し、本稿をまとめた。【10月9日 遠藤 誉氏 Newsweek】
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中国で教育を受け、長春包囲戦を体験し、朝鮮戦争時は延吉にいた遠藤氏にすれば、何も知らずに皮相的に書き立てる日本メディアのあり様が我慢ならないようです。

【政権に疑問を持つことすらしない人間が育つことへの懸念】
ただ、確かにファン活動規制などは必要性があってのことでしょうが、一連の動きは、社会経済活動・市民活動の「あるべき姿」は“社会主義”の理念に照らして、国家・党が決める、そこからの逸脱は許さない・・・という党の強い意思が感じられます。

もちろん、それは共産党政治が以前から持っている傾向ではありますが、最近とみに強まっているのではないか・・・というように思えます。

****文化大革命の再来なのか?習近平指導部の「急進的な締め付け」 その狙いと「最も心配な副作用」****
中国・習近平指導部の一挙手一投足に、チャイナ・ウォッチャー(中国観測者)たちが繊細な注意を払っている。
習近平指導部が、IT企業や芸能界、それに学習塾など複数の業界で締め付けを急速に強化している。中には「富裕層叩き」とみられる動きもある。(中略)

■専門家はどう見る?
一見すると、規制の標的とされた業界はバラバラだ。しかし中国政治が専門の学習院大学の江藤名保子教授は「世論誘導」という狙いが通底していると指摘する。

「二つの特徴があると考えています。一つは『社会がより良い方向に向かっている』と世論を誘導するメッセージが盛り込まれていること。もう一つは、『中国が非常に良くなっていることを外国は理解していない』というもので、排外的な傾向が強まっています」(中略)

江藤さんは、今回の習近平政権による規制は「文革とはいえない」という立場をとる。

「毛沢東の時代は国内だけを見ていて、劉少奇とその一派を押しのけることが最大の目標でした。しかし習近平は、自身が権力を握りつつ、アメリカとの競争に勝つことも目標としています。それが自身の権力を確定させることにつながりますから、表裏一体なのです。そのために、国内向けには『挙国一致』という言葉を使いますが、対立が表面化しない方がいいというプラグマティック(実利的)な判断が働いています」

一方で、文革と似通う部分も出てくる。
「カリスマ的なリーダーとして自身を位置づけるとか、あるいはメディアや芸能を通じて人々の認識に働きかける。さらに若者への習近平思想の打ち込みも毛沢東のとった手法と似ています。文革的な効果というのもおそらく副作用的に現れるでしょう。それを恐れた中国社会の中から『文革の再来なのか』という声が出ることは非常に健全なことだと思います」(中略)

一方で、江藤さんが「最も心配」だという副作用は別の点にある。
「今ですら、中国の若年層の人たちは国際社会に対する認識が私たちとは違っていると感じることがあります。そうした対外的な誤認識に加え、習近平思想がボトムラインとして組み込まれてしまうのは非常に懸念すべきではないでしょうか」

学校教育で段階的に習近平思想を習ったところで、全ての人が感化されるとは限らない。一方で、中国共産党は思想面でも漏れが出ないように対策をしていると江藤さんは分析する。

「共産党は『複合的な傘』で人々をコントロールしようとしています。『社会主義』という1つの傘ではコントロールできる時代ではなく、例えば学校教育を受ける年代層に加え、起業家や知識人、党外人士(共産党に所属しない人たち)や宗教関係者。

誰かしらが必ず、どこかの『傘』に入って世論誘導の影響を受ける形で社会統制を進めています。これまで中国では、40代以上の人たちなどは、表に出さないまでも、政権に疑問を持つ部分がありました。しかし30代以下の人たちは、もしかすると政権に対する信用・信頼が非常に高くなることがあり得ると思います」【10月6日 HUFFPOST】
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小学校でも「習おじさん」の思想を学び、政府に批判的な報道は一切存在する余地もない・・・そういう社会でどのような人間が育つのか?

今はまだ、愛国主義とか共産党的な日本認識に対しても、冷静にものを言える風潮もあるようです。

****日本文化が好きなだけで批判されるなんておかしい! 中国ネットの声は****
中国ではますます愛国精神を強調するようになっており、他国の文化を褒めただけで「愛国者ではない」と言われるほどになってしまったようだ。中国のQ&Aサイト・知乎はこのほど、「日本文化が好きな人は愛国者ではないのか」と題するスレッドを掲載した。

スレ主は、日本をはじめとする外国の文化や事物を好きだと言うだけで叩かれる中国社会の風潮に疑問を呈し、「愛国は形だけではないはず」と主張している。「今は鎖国の時代ではない」ので、愛国者であっても外国の文化を好きになるのは当然ではないのかと問いかけつつ、「外国人には中国文化を好きになって欲しいと願いながら、中国人が外国の文化を好きになると批判されるのはおかしい」と主張している。

スレッドに集まったコメントを見てみると、その多くがスレ主の意見に賛同するもので、「日本好きと愛国とは全く別の話」との意見が大半を占めた。

外国の文化を褒めただけで「愛国者ではない」と言われるのは「前世紀にも見られた風潮」、「自信がなかった昔ならいざ知らず、今は2021年だぞ」という声もあったので、中国国内にも時代に逆行した風潮と感じている人は多いようだ。「この考え方からするとスーツを着たら愛国者ではないことになるのか」など、矛盾点が多く指摘されていた。

むしろ、愛国のためには外国を排斥するのではなく、外国と交流を図り、学び合い、国を発展させて世界平和を目指すべきとの意見も多く、孫子の言葉である「敵を知り己を知れば百戦負けなし」を引用する人もいた。また、大国としての度量を示すべきと言う意見も少なくなく、大国なら「海納百川」つまり大海のような包容力を持とうと呼びかける人もいた。(後略)【10月9日 Searchina】
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現実には、日本を称賛するだけで批判されることが多々あるのでこういう議論にもなるのでしょうが、現在の統制・管理の強化の結果、こういう議論さえ消えてしまうようなことはないのか・・・そこを心配しています。
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