孤帆の遠影碧空に尽き

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イタリア  ドラギ政権崩壊で民族主義政党「イタリアの同胞」が政治の中心に 従来政治批判の背景

2022-08-01 22:59:05 | 欧州情勢
(「フォルツァ・イタリア」のベルルスコーニ元首相(右)、「同盟」のサルビーニ党首(左)と歓談する「イタリアの同胞」のメローニ党首(中央女性)=ローマで2021年10月20日、ロイター【8月1日 毎日】)

【大連立ドラギ政権崩壊】
イタリアの政治状況については、多党化が進み、軸になる政党がなく目まぐるしく変化するイメージも。
一昔前は、中道右派のベルルスコーニ元首相の政治勢力や、中道左派の民主党が中心的存在でしたが、様相が変わったのが2018年総選挙。

この選挙で台頭したのがベルルスコーニ氏や民主党による既成政治を批判する左派ポピュリズムの「五つ星運動」と移民を敵視する排外主義の右派ポピュリズムの「同盟」 両者ともEUと距離を置く立ち位置で、EUとの関係が注目もされました。

その後の経緯・混乱は省略しますが、2021年2月、元欧州中央銀行(ECB)総裁のドラギ首相が右派急進の「同盟」、ベルルスコーニ元首相の中道右派「フォルツァ・イタリア」、中道左派の民主党、左派急進の「五つ星運動」の全ての勢力の「大連立」を率いる現体制が成立しました。

当時イタリアでは欧州でイギリスに次いで多い約9万3千人が新型コロナで死亡。感染拡大防止と経済復興策の両立が急務となる中、ドラギ氏は非政治家も閣僚に含めた「挙国一致内閣」を実現させました。

ドラギ政権は右派も左派も、中道も急進も、すべてを取り込んだ「大連立」政権ですが、“多党化が進むイタリアでは単独で与党を担うことができる政党が存在しない。コロナ禍という緊張した環境の下で解散総選挙となれば政局はさらに混迷しかねず、どの政党も国民の不信を買うことになりかねない。こうした消極的な妥協の産物として、ドラギ政権は誕生したといわざるを得ない性格を持っている。”【2021年2月22日 三菱UFJリサーチ&コンサルティング】とも。

一方で、コロナ禍からの復興に関す元欧州中央銀行(ECB)総裁ドラギ首相の実務能力・人脈も期待されていました。ドラギ首相ものとでイタリアは束の間の安定も。

ただ、これだけの「大連立」となるとその維持は困難ですし、特に選挙が近づくと各政党とも独自色を出そうとしますので、なかなかまとまらない・・・ということにも。

****イタリア、ドラギ政権崩壊 総選挙へ 極右台頭で欧州不安定化の恐れ****
イタリアのマッタレッラ大統領は21日、ドラギ首相の辞意を受け入れ、上下院の解散を表明した。2023年の春までに予定されていた総選挙は9月25日に前倒しで実施される。21年2月に発足し、イタリアに安定をもたらしたドラギ政権は、1年5カ月で崩壊した。

イタリアで予算案の成立時期にあたる秋に総選挙が行われるのは、戦後初めて。ドラギ氏は新政権が発足するまで暫定政権を率いるとし、「新型コロナウイルス、ウクライナ侵攻、物価高騰に緊急に取り組まねばならない」と述べた。

ドラギ氏は、コロナ禍で混迷する中、欧州中央銀行(ECB)総裁として欧州債務危機に対処した手腕を買われて首相に就いた。

左右の主要政党が一致して支える大連立政権を率い、欧州連合(EU)から経済立て直しのための新型コロナ復興基金を確保。ロシアによるウクライナ侵攻では6月、独仏首脳と首都キーウ(キエフ)を訪問するなど、外交でイタリアの存在感を高めた。

だが、総選挙を控え、各党は連立政権への支持よりも、有権者へのアピールを優先し始める。

左派「五つ星運動」は、連立与党の一角を占めながらドラギ氏に対しては「是々非々」の立場を強調する戦略で、14日に重要法案に反対。

これをきっかけに中道右派「同盟」と「フォルツァ・イタリア(FI)」の2党も、経済政策の違いから五つ星の排除を主張するなど連立与党内の対立が表面化。

選挙を経ない実務家のドラギ氏は主要政党の結束にこだわる姿勢を見せたが、3党は20日に行われた政権の信任投票に参加せず、事実上の不信任を突きつけた。

ロイター通信によると、最新の世論調査では、ファシスト政党の流れをくみ、大連立に参加していない極右「イタリアの同胞」が支持率トップを走る。前倒しの総選挙では、EUに懐疑的な同党を軸とした右派政権が誕生する可能性があり、イタリアを起点に欧州の不安定さが深まるおそれがある。【7月22日 毎日】
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【“主役”に躍り出た、ムッソリーニのファシスト党の流れをくむ「イタリアの同胞」】
「大連立」ドラギ政権崩壊の混迷のなかで、一躍“主役”に躍り出たのが、大連立に加わっていなかった極右「イタリアの同胞」

ムッソリーニのファシスト党の流れをくむ「イタリアの同胞」は、“極右”かどうかは評価がわかれますが、ナショナリズム・伝統的家族主義を重視し、国家主権を制約するEUには批判的です。

****「イタリアの同胞」*****
ファシスト党の流れを汲む旧国民同盟派議員の政党として民族主義(イタリア・ナショナリズム)的な政治行動も示している。一般的には右派あるいは中道右派とされる場合が多いが、ファシスト党からの流れもあって極右政党とする意見も少なくない。(中略)

(政治主張は)保守主義と国粋主義(ナショナリズム)であり、またリスボン条約以降の欧州懐疑主義の主張も存在している。経済面では経済的自由主義を採用している。欧州懐疑主義の観点から五つ星運動、同盟といった他の反EU政党と協力する場合もある。【ウィキペディア】
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現時点での支持率はトップにあり、“右派「同盟」とベルルスコーニ元首相率いる「フォルツァ・イタリア」を合わせると、3党で議席の過半数獲得の可能性が高い”ということで、選挙後に「イタリアの同胞」が主導する右派政権、初の女性首相誕生の可能性が高くなっているようです。

****支持率トップの右派「イタリアの同胞」とは 西側との結束危ぶむ声も****
ドラギ首相の辞意表明を受け9月25日投開票が決まったイタリアの総選挙を前に、各政党のうち右派「イタリアの同胞」が支持率でトップを走っている。ジョルジャ・メローニ党首(45)が率いる同党が勝利すれば、イタリア初の女性首相誕生の可能性もある。ムソリーニの「ファシスト党」の流れをくむとされる同党は、どんな政党なのか。

政治メディア「ポリティコ」の世論調査によると、総選挙を想定した支持率で「イタリアの同胞」は24%で首位。2018年の総選挙で中道右派連合を組んだ右派「同盟」とベルルスコーニ元首相率いる「フォルツァ・イタリア」を合わせると、3党で議席の過半数獲得の可能性が高い。

支持率2位の中道左派・民主党は、1ポイントの差で「イタリアの同胞」を追うが、ドラギ氏に不信任を突きつけて政権崩壊のきっかけを作った左派「五つ星運動」との溝が深く、左派はまとまりきれていない。

21年に発足したドラギ政権は、同盟、フォルツァ・イタリア、民主党、五つ星などを糾合した大連立政権だが、「イタリアの同胞」の人気は、大連立に参加しない「唯一の野党」という立場を維持する戦略が奏功した。

左右の政策の違いを超えて団結した与党に対し、保守政党の「一貫性」を強調。18年総選挙で得票率は4%程度だったが、トップだった五つ星や、同3位だった同盟などポピュリズム(大衆迎合主義)色の強い政党の支持層を取り込んでいるとみられる。

「イタリアの同胞」は、ムソリーニの側近らが第二次大戦後に結成した「イタリア社会運動(MSI)」を源流に持つ。MSIは1995年に解散し、穏健化した「国民同盟」に引き継がれた。メローニ氏は同党から06年下院選に出馬して29歳で初当選。12年に「イタリアの同胞」を旗揚げした。

メローニ氏は08年、ベルルスコーニ政権で史上最年少の31歳で閣僚(青年相)に抜てきされるなど、早くから保守政治家として注目を集めてきた。ムソリーニの思想とは一線を画す姿勢を示しつつも、ムソリーニについて否定的な評価はしていない。

「イタリアの同胞」が掲げるのは、伝統的な家族主義の尊重で、同性婚に反対し、低迷する出生率の回復を重要課題に据える。

イタリアの社会学者、マウロ・マガッティ氏は政治メディア「フォルミーケ」で「メローニ氏は、ハンガリーやポーランドなど(与党による強権統治が目立つ)東欧諸国と非常に近い政治を目指している。経済界を重視したベルルスコーニ氏のような従来の中道右派とは異なる政治モデルを持つ」と指摘する。

同党の躍進で懸念されるのは、イタリアと欧州連合(EU)との関係や、ウクライナへの支持など、ドラギ政権からの転換だ。

ドラギ氏は、新型コロナウイルス危機からの復興計画をまとめ、EUの支援を確保した。ウクライナ支援を示すため独仏首脳とともに6月、首都キーウ(キエフ)を訪問し、天然ガス輸入のロシア依存を減らす、輸入国の多角化に動いていた。

政権が射程に入るメローニ氏は今、より幅広い層を取り込もうと過激なイメージの払拭(ふっしょく)に懸命だ。元々はEU懐疑派で「ブリュッセルの官僚主導」を批判してきた。だが、EUから支援を受けるコロナ禍からの復興計画は有権者の支持が多い。メローニ氏は遊説先で「選挙で全てが変わってしまうとおびえる人に言いたい。そんなことは起きない」と強調した。

ウクライナに関して、メローニ氏は地元紙スタンパのインタビューで「他の西側諸国とともに支援し続ける」と語った。だが、中道右派連合を組む「同盟」のサルビーニ党首やベルルスコーニ氏は、ロシアのプーチン大統領との距離の近さを指摘されてきた経緯があり、ウクライナへの武器供与に否定的だ。メローニ氏が右派連立政権を担った場合、ウクライナ支持を維持できるかは不透明で、ロシアに対抗する西側の結束を危ぶむ声も出ている。【8月1日 毎日】
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「イタリアの同胞」に限らず、フランス・ルペン氏など欧州の極右勢力はロシア・プーチン大統領と資金援助を含め強いつながりがあります。

プーチン大統領の非リベラル的な「強い指導者」イメージと親和性がいいのでしょう。
プーチン大統領からすれば、西欧民主主義的な欧州各国の現政権を揺さぶるために各国極右勢力との関係を強化してきたということも。

【「自由よりも毎日の生活だ」 ハンガリー・オルバン首相への国民支持 背景にEUへの失望】
ここ数年、世界では従来の人権や民主主義、国際協調といった価値観とは一線を画する、トランプ前大統領や「ミニ・プーチン」とも言われるハンガリー・オルバン首相、あるいは「○○のトランプ」と評されるフィリピン・ドゥテルテ前大統領、ブラジル・ボルソナロ大統領といった政治家が人々の支持を集めています。

****オルバン首相 再選の背景に迫る****
ロシアによるウクライナ侵攻から1か月余りが経った4月上旬。“ロシア非難”で結束していた欧州を揺るがす出来事が起きた。EU(ヨーロッパ連合)加盟国の首脳の中でも、プーチン大統領と“最も親しい”といわれる、ハンガリーのオルバン・ビクトル首相が、議会選挙で圧勝し、再選を果たした。

プーチン大統領との親密な関係が逆風になるのではないかという当初の予想を覆し、その強さを見せつけたのだ。

2月24日以降も、軍事侵攻には反対の姿勢を示すものの、ロシア産の石油や天然ガスの禁輸制裁措置には反対するなど、“独自路線”をとるオルバン首相。(中略)

私たちがハンガリーの首都ブダペストに降り立ったのは、6月上旬。空港で合流した現地コーディネーターと、初日の取材内容について打ち合わせをしていた時のことだった。

「このあとウクライナ大使館の前で集会があるけど、行ってみないか?」
ウクライナを支持する集会だろうか。詳しいことはわからなかったが、とにかく現地の空気感を知りたいと、早速向かうことにした。そこで私たちが目にしたのは、驚きの光景だった。

“Z”と書かれたTシャツを着た極右団体が、ウクライナ大使館の周りを取り囲み、ロシアによる軍事侵攻を支持する演説を繰り広げていたのだ。

極右団体の演説 「ウクライナは世界の中心ではない。謙虚に振る舞い、何が戦争を引き起こしたのか考えるべきだ」「ウクライナ人は、我々が彼らの味方をしないことを非難するが、我々を戦争に巻き込むな。自分たちでまいた種は自分たちで摘み取れ」

オルバン首相の“独自路線”を支持する声
こうした中、オルバン首相の“独自路線”を支持する声が広がっている。いったいなぜなのか。
私たちは、4月の議会選挙でオルバン首相率いる与党「フィデス」に投票したという市民に話を聞くことにした。

訪ねたのは、ウクライナとの国境に近い村できゅうり農家を営むトート・マーリアさん。自らの収入で、家族5人を養っているという。

(中略)トートさんが取り出して見せたのは、電気代の明細だった。
トート・マーリアさん 「オルバン政権のエネルギー政策のおかげで、これまで通りの料金で済んでいます。野党が勝っていたら、値上がりどころではなかったかもしれません」

トートさんが期待をかけているのが、オルバン政権が打ち出している独自のエネルギー政策だ。

実は、今年2月、各国がロシアの動きを警戒する中、モスクワを訪問し、プーチン大統領と会談を行っていたオルバン首相。この時、合意を取りつけていたのが、2035年までの天然ガスの安定的な供給についてだった。

現在、EU加盟国の多くが、ロシアから石油や天然ガスの供給を大幅に減らされ、価格の高騰に喘いでいるが、ハンガリーは、いまも変わらず供給を受けられているという。

トートさん「オルバン首相は、国民に戦争の影響が及ばないよう、最大限の努力をしてくれています。戦争の影響を最も受けるのは、貧困層です。私たちは農業をしていますが、肥料や農薬が値上がりし、食料も軒並み値上がりしました。ウクライナの方たちには同情しますが、やはり何より大切なのは自分や家族の生活です。人道主義だけで家族を食べさせることはできません」

“ハンガリー車以外お断り” 深まるEUとの分断
ロシアと良好な関係を維持することで、エネルギー価格の上昇を抑えることに成功しているハンガリー。EUとの間には亀裂が生じ始めていた。(中略)

給油のため、市内のガソリンスタンドに立ち寄った時のこと。

(中略)2月24日以降、ハンガリーのガソリンスタンドには、少しでも安くガソリンを入れたいと、周辺国から給油に訪れる客が殺到する事態になっていた。これを受けて、政府は「外国ナンバーの車両からは別料金を徴収する」と発表。

一方のEUは「人や物が自由に移動できるというEUの規則に反している」と批判するなど、対立が生じているのだ。(中略)

強権化を進めるオルバン首相
自国第一主義を掲げて、国民の支持を集めるオルバン首相。しかし、その影では強権化を進めているといわれている。その一つが、メディアへの介入だ。

訪ねたのは、ハンガリー最大の独立系オンラインメディア「インデックス」の元編集長ドゥル・サボルチさん。

政権批判を恐れず、オルバン首相とも対峙してきたが、おととし、突如解任に追い込まれた。

ドゥル・サボルチさん「突然、外部の顧問から、編集部門の組織改革を行うと告げられました。編集スタッフを切り離し、外部に委託すると言ったのです。現在、オルバン政権は、戦略的に政権寄りのメディアの数を増やしています。この国の報道の自由は、急速に失われつつあります」

メディアの実態を調査するNGOの分析では、いまや報道機関の約8割がオルバン首相に近い実業家などに経営資本を押さえられているという。(中略)

独自路線の背景にあるEUへの失望
なぜ、自由や民主主義を掲げるEU加盟国でありながら、メディアへの締め付けや、“反移民・難民”の姿勢を打ち出すなど、EUの価値観に挑戦するのか?その背景に何があるのか?

長年、オルバン首相を支持しているという市民への取材から、その一端が見えてきた。
ぶどう農家のセチュクー・フェレンツさんが話し始めたのは、ハンガリーがまだ社会主義政権下にあった1980年代のこと。

民主化し、西側諸国の一員になれば、同じ豊かさを享受できると信じていたという。(中略)1989年に悲願の民主化を果たしたハンガリーは、2004年にEUにも加盟。

しかし、現実は思い描いていたようなものではなかった。それまで経験したことがなかった市場の競争にさらされ、自分たちのぶどうが安く買い叩かれるようになったという。

セチュクー・フェレンツさん
「市場はイタリア産やスペイン産など、西ヨーロッパの商品であふれ返っています。取引を握っているのは、外資系の大企業だけですが、彼らが求めているのはハンガリー産の商品ではありません。私は、ただ平等に扱ってもらえることを望んでいただけなのに、結局ただの生産工場になってしまいました」

EUに加盟しても、経済格差が埋まらない現実。
市民への取材を続けると、フェレンツさんのように、かつて抱いたEUへの憧れが、失望へと変わった人が少なくないことが分かってきた。

そうした人々の多くが、EUが掲げる価値観に挑戦し、“国益”を重視した独自路線を打ち出しているオルバン首相に期待を寄せているのだと感じた。

世界の潮流を理解するために
(中略)ブダペストの中心部で私たちは1枚の旗を目にした。中央の焼かれた部分には、旧ソビエトの国章が描かれていたそうだが、民主化を求める市民たちが、抵抗の印として燃やしたという。

かつては、自由と平等を求め、旧ソビエトなど大国の支配からの脱却を目指していたハンガリーの人々。

その彼らが、いま「自由よりも毎日の生活だ」と口にし、独自路線をとるオルバン首相を支持する姿を見て、この数十年の間に彼らに何が起きたのかを、もっと知りたいと強く感じるようになった。

それを知ることこそが、現在、世界各地で、欧米型の民主主義に背を背ける国が増えている背景を少しでも理解することにつながると考えたからだ。(後略)【7月22日 NHKスペシャル】
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