孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

タイ  若者層の支持を受けて王政改革にも切り込む前進党が第1党に ピタ党首を軸に政権協議

2023-05-21 23:28:02 | 東南アジア

(前進党・ピタ党首【5月16日 日経】 選挙戦で見せた上着なし・ノーネクタイのシャツ姿の方が颯爽としていますが、今後の政権協議にはこういうエリート然とした固いイメージの方がいいのか・・・)

【支持率急上昇前進党・ピタ党首が、その勢いで第1党に躍進】
Ⅰ週間あまりスリランカを旅行している間の14日に行われたタイ総選挙では若者層の支持を得た王政改革や徴兵制廃止も掲げる革新系野党「前進党」が第1党となりました。

投票日のひと月ぐらい前までは、タクシン元首相の次女ペートンタン氏が前面に立って牽引する最大野党「タイ貢献党」が地滑り的圧勝を収めるのではないかと予想していました。

しかし、投票日が近づくにつれて、前進党・ピタ党首の人気がうなぎ上りに上昇。選挙情勢も急変。

前進党のピタ党首(42)は名門タマサート大で学び、米ハーバード大ケネディ行政大学院などで修士号を取得したエリートで、若さとクリーンなイメージ、巧みな演説で都市部の若い世代を中心に支持を広げました。
ピタ氏だけではなく、前進党の議員らは国会でも存在感を見せていたようです。

****前進党、9分野で300の公約****
(中略)例えば、ランシマン・ローム下院議員は、ミャンマー人実業家らが麻薬密売やマネーロンダリング(資金洗浄)で摘発された事件を巡り、プラユット首相に近いウパキット上院議員の関与を追及した。

タオピポップ下院議員は大手2社の寡占となっているビール市場に風穴をあけようと、酒類製造の規制緩和を求め、税法改正案を国会へ提出した。

最低賃金の即時引き上げや全ての都県での知事選の実施など、前進党が発表した総選挙での公約は、完全な民主主義や包括的な福祉、教育改革など9分野の計300に上る。【5月16日 東京】
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それでも東北部・北部中心に固い支持基盤を持つタイ貢献党が第1党になるのでは・・・と考えていましたが、結局地滑り的に勝利したのは前進党でした。特に首都バンコクでは圧勝でした。

分裂選挙となった与党の親軍政党が大きく議席を減らしたのは、大方の予想通り。

****反軍革新系が第1党=野党で過半数、与党議席減―タイ総選挙、連立調整へ****
タイで14日、4年ぶりとなる下院(任期4年、定数500)総選挙が実施された。

選挙管理委員会の暫定開票によると、2014年のクーデター後の軍政を引き継ぐ親軍中心の与党は議席を減らし、軍や王制の変革を訴える革新系野党「前進党」が第1党となった。最大野党だったタクシン元首相派の「タイ貢献党」との合計は半数を大きく超え、焦点は連立調整に移る。

選管の15日未明(日本時間同日早朝)の発表によると開票率98%で、3月下旬の解散時に44議席だった前進党は151議席に躍進。ピタ党首(42)は「政権をつくる。首相になる準備はできている」と勝利を宣言した。また、貢献党は140議席になる見通しとなった。

一方、連立与党側は経済特区新設などの実績をアピールしたが苦戦。「民主党」などが議席を減らし、合計190議席に満たない。最大が「タイ誇り党」の71議席で、陸軍司令官としてクーデターを実行したプラユット首相(69)の「タイ団結国家建設党」は36議席にとどまる。

前進党は軍改革などを掲げて都市部の若者らを中心に支持を集め、バンコクの小選挙区33議席中32議席を獲得した他、貢献党が強かった北部でも勝利。貢献党は地盤の東北部を中心に議席を獲得した。【5月15日 時事】
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コロナ禍で基幹産業の観光業が大ダメージを受け、ロシアのウクライナ侵攻の影響でエネルギー価格も高騰という経済低迷に対し有効な対策をとれなかった政権への不満、軍に近い政権のもとで自由にものが言えず、王政改革などがタブー視され、むしろ締め付けが強化される現状への不満が状況を大きく動かしたように見えます。

有力視されていたタイ貢献党も王政改革など基本的なところでは軍・現政権に宥和的で、結局、既存の枠組みから抜け出せないと見なされたようです。また、タクシンvs.反タクシンの政治・社会混乱を再現することへの嫌気もあったのでしょう。

【前進党・ピタ党首を軸に進められる政権協議】
選挙結果を受けて前進党・ピタ党首を軸に政権協議が進められています。
下院では前進党やタイ貢献党などの野党勢力が圧勝していますが、最初のハードルは、軍事政権下で任命された上院議員250人を含めた議員750名の過半数376議席をいかにしてクリアするかです。

****前進党ピタ党首、8党による連立構想を発表****
前進党のピタ党首は18日、首都バンコクで記者会見を開き、8党による連立政権の樹立を目指す構想を明らかにした。当初案である6党・310議席の連立構想を拡大させた。

ピタ氏は14日の総選挙後、前進党の152議席とタイ貢献党の141議席、国民党の9議席、タイ建設タイ党の6議席、セーリールアムタイ党(タイ自由党)とペンタム党(公正党)の1議席で合わせて310議席の連立構想を発表した。今回、1議席を持つパランソンカムマイ党(新しい力党)、2議席を獲得したプータイルアムパラン党が新たに構想に加わった。

■「クーデターの日」に覚書締結へ
8党の議席数は合計で313となり、新政権は上院議員との交渉などを通じて首相選出に必要な376議席の獲得を目指す。

8党はピタ氏を首相に選出することで合意している。新政権樹立に向けた覚書は、週明けの22日に結ばれる見通し。同日は2014年に国軍がクーデターを起こし、政権を奪取した日にあたる。

前進党は不敬罪にあたる刑法112条の改正を公約に掲げているが、ピタ氏は「22日の覚書締結後に協議を開始する」とし、改正実現に向けて障壁を取り除いていく考えを示した。

上院議員との交渉については、対策チームを設ける方針。すでに新政権を支持している上院議員については「国民の投票を尊重する態度に感謝する」とコメントしている。

■民主党は「ピタ首相」支持
与党第3党で、総選挙で25議席を獲得した民主党のアロンコン副党首代理は18日、首相候補としてピタ氏を支持するとの声明を発表した。アロンコン氏は「国民の声を尊重し、すみやかな政権移行を重視する」との党の方針を示した。一方で、民主党としては「野党として活動する」としている。【5月19日 NNA ASIA】
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前進党・ピタ党首としては、しばらくは野党間でも意見の相違がある王政改革・不敬罪廃止などは「協議の開始」という形で、あまり前面にださずに連立を重視するのでしょう。

“王室への侮辱を罰する不敬罪の改正に意欲を示す前進党とは溝がある貢献党のチョンナン氏は、「デリケートな問題の解決策を見いだすために議論する必要がある」と述べた。”【5月18日 東京】

上院議員の状況については以下のようにも。
****前進党やタイ貢献党など8党が連立政権樹立で大筋合意 不敬罪改正は「議論が必要」****
(中略)
上院議員は多くが軍の意向に従うとみられるが、これまでに16人がピタ氏支持を示唆。ただ上下両院の過半数には届いていない。

地元メディアによると、上院議員250人のうち6割弱は現首相派と副首相派。このほかに地元名士や法律専門家、公務員、独立系などのグループがあり、ピタ氏はこれらの議員に支持を呼びかけていく考えだ。【5月18日 東京】
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今回の選挙結果では、親軍勢力によって政権を樹立することは困難であり、すでに上院議員の中からもピタ氏支持が出ていることも考えると、前進党やタイ貢献党を中心とする勢力が“376議席”を超えてピタ首相選出という流れになるのではないでしょうか。

ただ、タイ貢献党と前進党の間で政策や大臣ポストをめぐって激しい争いが起きることが予想されますが、そこがこじれると、タイ貢献党と親軍勢力の連立という可能性も残されています。

【陸軍司令官はクーデターを否定・・・とは言うものの拭いきれない不安も】
更には、タイ政治につきまとうのが「軍によるクーデター」の影。

今回、選挙前にナロンパン陸軍司令官は「私が陸軍司令官である限りクーデターは起きない」と力説しています。

****タイ陸軍トップが明言 「軍事クーデターは起きない」****
タイでは「政治の混乱を解消する」などの理由で過去に複数回にわたって軍事クーデターが起きており、「今回の総選挙の結果次第ではクーデターが起こりかねない」との指摘もあるというが、ナロンパン陸軍司令官は5月11日、「私が陸軍司令官である限りクーデターは起きない」と力説した。

タイ軍では陸地における作戦、戦闘を担う陸軍が軍部の中で最強とされており、そのトップである陸軍司令官の主導によるクーデターが何度も起きている。

最近ではタクシン派と反タクシン派の対立で政治が混迷を極めていた2014年に当時陸軍司令官だったプラユット現首相の主導で5月20日に軍事クーデターが起きている。タイの軍事クーデターは第二次世界大戦後だけで十数回に及ぶ。

ナロンパン司令官は、「将来において国内が混乱し、これに軍部が反応する可能性を懸念しているか」との質問に対し、「何も心配していない。我々は過去の教訓でたくさんのことを学んだ」と返答した。同司令官は今年9月30日に定年退官する。【5月12日 バンコク週報】
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タイでクーデターが頻発するのは、軍の力が強いだけでなく、民主主義を求める民意も強く、両者が拮抗しており、軍がクーデターで実権を掌握しても、数年後には民政移管されるためとか。 民主主義の基盤がなければいつまでも軍政が続きます。

ナロンパン陸軍司令官は上記のように発言はしていますが、それでも不安が拭えないのがクーデター。

なお、前進党が掲げる徴兵制廃止について、ナロンパン陸軍司令官は「彼らは政権についた場合、政策を実行する権利がある。しかし、軍にもなぜ徴兵制が必要かを説明する権利がある」と語っています。

【前身「新未来党」と同じ運命の不安も】
一方、ピタ氏は“15日の記者会見でクーデターについて問われ、「今回の選挙はより良い政治や暮らし、未来を求める人々の勝利だ。もはやクーデターが起きる余地はない」と軍をけん制した。”【5月16日 東京】

もう一つの不安は、前進党の前身である新未来党をも襲った司法攻撃 新未来党同様に「再解党」の不安も。

****改革望む声で躍進 「再解党」懸念も 第1党の前進党・タイ総選挙****
タイ下院総選挙で第1党となった革新系の野党「前進党」が躍進した背景には、若者らを中心に軍や王室といった現在のタイ政治を特徴付ける存在の改革を望む声があった。  

ただ、同党の前身となる党は4年前の選挙後に解党処分を受けており、同様の事態が再び起きる懸念もある。  

前進党は公約で、徴兵制の廃止を掲げた。さらに、タイではタブー視されてきた王室批判を巡り、不敬罪の改正も盛り込み、バラマキ色の強い経済対策を掲げる他の政党とは一線を画した。  

これら国の制度の抜本的な改革を打ち出した政策は、若者を中心に受け入れられた。(中略)

前進党躍進の布石は、2014年のクーデター後の民政復帰を目的とした19年の下院総選挙にあった。反軍を掲げた同党の前身の「新未来党」は、選挙直前の結党だったがSNSを駆使するなどして若者の支持を集め、80議席を獲得して野党第2党となった。  

しかし、憲法裁判所は20年2月、当時のタナトーン党首による党への1億9000万バーツ(約7億6000万円)の資金提供は政党法に違反すると判断。新未来党の解党を命じ、同党首ら幹部の政治活動を10年間禁止した。  

これを受け、親軍政権に反発する学生らのデモが活発化。批判の矛先は王室にも向けられ、参加者らが不敬罪で逮捕される事態が相次いだ。  

新未来党の解党後、残った下院議員らは前進党を設立し、ピタ氏が党首に就任した。ピタ党首の人気は徐々に高まり、タイ国立開発行政大学院の世論調査によると、次の首相候補としての支持率が3月の時点では15%だったが、5月には35%まで上昇した。  

勢いに乗る中で総選挙を迎え、前進党は都市部だけでなく中部や北部の地方でも多くの議席を獲得。ピタ氏は「首相になる準備はできている」と意気込んだ。  

ただ、ピタ氏は選挙期間中、メディア関連株の保有を巡り選挙管理委員会に告発された。ピタ氏は「株は私のものではなく、心配していない」と説明しているが、政治アナリストは「選管や憲法裁が前進党に不利な判断をする恐れがある」と指摘した。【5月16日 時事】
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G7 中国との関係では温度差も 中国は米主導の国際秩序に対抗 ゼレンスキー大統領、支援の裾野を広げたい思惑

2023-05-20 22:50:11 | 国際情勢
(18日、中国陝西省西安市で、歓迎式典に臨む習近平国家主席(左から5人目)と中央アジア5カ国の首脳ら【5月18日 時事】 いかにも中国らしいド派手な歓迎セレモニーだったようです)

(習近平主席夫妻 唐の伝統的式典で中央アジアの首脳らを歓迎【5月19日 CRI】 ただ、唐の時代は突厥との抗争の時代であり、唐の最大版図は中央アジア諸国を呑み込む領域に達しています。そのあたりを中央アジア諸国側はどのように考えているのか・・・)

【G7 対中国では温度差も】
G7のメインテーマはウクライナ支援ですが、もうひとつは中国との関係。
ウクライナ支援では各国の立場に大きな差異はありませんが、中国との関係については対抗姿勢を強めるアメリカと経済関係を重視する欧州各国では温度差もあるようです。

****フランス「反中G7にするな」 立場各様、ウク支援は一****
19日開幕の先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)を前に、参加国・機関が討議に向けた立場を表明した。

ロシアに侵略されるウクライナへの支援では一致しているが、対中政策を巡る温度差は否めない。3日間の議論で踏み込んだメッセージを打ち出せるかが問われる。

「岸田文雄首相と私は、インド太平洋地域の平和と安全を守る重要性で立場が一致している」
スナク英首相は17日の声明で、そう強調した。スナク政権は、台湾海峡危機も念頭に、軍事面でも日本と連携を強化する方針だ。

対中政策を巡っては、欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長が15日の記者会見で、「中国との経済関係は多角的なアプローチが必要だ。デカップリング(切り離し)ではなく、デリスキングだ」と説明した。

「デリスキング」は対中依存の「リスクを除去する」という意味で、米国がトランプ前政権以降、中国の経済孤立を図る「デカップリング」に傾いていった対中姿勢の修正といえる。

一方、ドイツのショルツ首相は今月上旬の演説で、「中国はパートナーであり競争相手だが、競合が強まった」と述べた。経済面で中国と関係が深いドイツだが、警戒をにじませた。

フランスのマクロン大統領は4月の訪中時、台湾問題を巡り、欧州は米中のいずれにも追随すべきでないとの立場を示して波紋が広がった。仏大統領府筋は15日、記者団に「米中の緊張が高まる中、ルールを明らかにし、国際的な協力ができるようにすべきだ」とし、中国との協力の余地を探る構えを示唆した。

さらに「われわれにとって、G7は反中G7ではない」とも指摘。「中国を協力の相手役として前向きなメッセージを送ることができる」と語り、G7が敵対的なトーンを打ち出すことにくぎを刺した。

ただ、G7はウクライナへの支援姿勢で足並みをそろえる。カナダのトルドー首相は、参加国を結びつけるのは「人権や民主主義、法の支配という価値だ」と強調。ロシアの侵略を厳しく非難する見通しだ。【5月18日 産経】
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こうした温度差もあるなかで、各国首脳は“中国の「経済的威圧」に対する懸念を共同声明に盛り込む方向で調整”しているとのこと。

****EU大統領、中国との「安定的・建設的」な協力関係呼びかけ****
欧州連合(EU)のミシェル大統領は19日、中国との「安定的かつ建設的」な協力を維持することがEUにとって利益になるとの見解を示した。主要7カ国(G7)首脳会議の開催地である広島市で記者団に述べた。

米当局者によると、G7首脳は中国の「経済的威圧」に対する懸念を共同声明に盛り込む方向で調整している。

ミシェル氏は「国際社会における役割と経済規模を考えると、中国は世界で特別な責任を負っており、国際的なルールに従わなければならない」とも述べた。

また、ロシアに対する影響力を行使してウクライナでの戦争を終わらせるよう中国に呼びかけた。【5月19日 ロイター】
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【中国 「中国・中央アジアサミット」でアメリカ主導の国際秩序に対抗】
これに対し、中国は警戒を露わにしつつ、G7と同時期に中央アジア5カ国の首脳と「中国・中央アジアサミット」を開催し、アメリカ主導の国際秩序に対抗する姿勢を明らかにしています。

****中国がG7に警告、利益損ねれば「断固とした対抗措置」****
在英国の中国大使館は20日、主要7カ国(G7)に対し、中国の利益を損ねる言動には「断固とした対抗措置」を講じると表明した。大使館のウェブサイトに声明を掲載した。

G7広島サミットは同日、経済安全保障をテーマに議論し、「経済的威圧」への対処を進めていくとする首脳声明を発出した。【5月20日 ロイター】
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****中国、国際秩序で米に対抗姿勢 中央アジアとの「サミット」で共同文書****
中国の習近平国家主席は19日、陝西(せんせい)省西安で中央アジア5カ国の首脳と「中国・中央アジアサミット」を開き、共同文書「西安宣言」に署名した。

同文書に「国際秩序やグローバル・ガバナンスを公正で合理的な方向に発展させる」と明記。G7広島サミットが19日から日本で開かれる中、国際秩序を巡り米国などに対抗姿勢を示した。

習氏は19日の演説で、中央アジア諸国との関係が「新しい時代に入る」と強調し、中央アジア5カ国との関係を誇示した。習氏は、アジアへの関与を拡大している米国の存在を念頭に、「外部勢力が地域国の内政に干渉することに断固反対する」と訴えた。

サミットには、中国のほか、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタンが参加した。6カ国首脳が対面で集まるのは初めて。会議では2年に1度の定期開催を決め、次回は2025年にカザフで開くこととなった。

中央アジアは、中国の巨大経済圏構想「一帯一路」の主要ルートとなっている。習氏は、共同記者会見で、一帯一路が今年で10年の節目を迎えるとして、中央アジア諸国と産業・投資の協力拡大などを進める方針を表明した。

中国としては、中央アジアと連携を強化し、隣接する中国新疆(しんきょう)ウイグル自治区へのテロ流入を防ぐ狙いもある。習氏は演説で、旧ソ連諸国で相次いだ政変「カラー革命」や宗教過激主義などを共に防ぐよう呼び掛けた。(後略)【5月19日 産経】
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「西安宣言」には、「人権問題などの政治化に反対する」、「どのような統治様式を選択するかは、その国の権利であり、干渉の余地はない」といった西側の価値観とは一線を画した内容が盛り込まれています。

中央アジア諸国にしてみれば、中国がどれだけカネを出してくれるかが関心事でしょう。習近平主席は、新たに260億元、およそ5100億円の支援などを行うと明らかにしました。

【グローバルサウスを意識する中国・G7】
“中国は、欧米諸国とは距離をおく国々との連携を強化し外交で存在感を示すことで影響力を誇示したい考えです”【5月19日 日テレNEWS】

“欧米諸国とは距離をおく国々”・・・近年、グローバルサウスと称される国々をいかに取り込むかが、欧米側・G7にとっても重要課題となっています。今回G7でもそのあたりが強く意識されています。

ウクライナ支援など、欧米の「常識」がグローバルサウスでは必ずしも通用しないという現実が露わになっているためです。

しかし、現実は厳しいものがあるようにも。

****ロシア語が優先する中国主導の国際会議…「広島サミット知らない」希薄なG7の存在感****
(中略)
■広島G7サミットの開催を知らない記者たち
今回の「中国・中央アジアサミット」は、日本で開かれるG7の「広島サミット」とほぼ同じタイミングで開かれる点でも、注目されている。

記者としてはもちろん、西安の「中国・中央アジアサミット」と、広島の「G7サミット」について、日本や中国以外の国の人たちが、どのように見ているのかは、当然気になるところだ。(中略)

しかし、(インタビューを申し込んだ会議を取材している記者たちから)そのようにして返ってきた答えは、面食らうものだった。多くの記者たちが、日本でサミットを開催していること自体を知らなかったのだ。

■したたかな中国の戦略 低下するG7の存在感
話を聞いたのはウズベキスタンの記者3人と、カザフスタンの記者1人、カメルーンの記者1人の、合計5人だ。
中国については、文化的な共通点は全くないものの、やはりその「経済力」に期待するという声が多かった。中央アジアの国々にとっては、これまで頼りにしてきたロシアが、ウクライナ侵攻によって国力が落ちてきているので、相対的に中国の重要性が高まっているのかもしれない。

また、アフリカも、地理的には全く離れているが、現地でインフラ建設などを積極的に行っている中国の存在感は高いものと思われる。

さらに中国は、遠方の国の記者たちを呼び寄せ、自分たちの活動をアピールすることに長けている。今回の「中国・中央アジアサミット」でも、ウズベキスタンの記者を西安市内の観光名所に案内し、『中国文化』を熱心に宣伝していたのが印象的だった。

一方、それらの記者から聞かれた日本の印象は非常に薄く、5人中3人が、G7サミットが広島で開かれることさえ知らなかった。「『グローバルサウス』を重視する」と、岸田総理は国際会議のたびに強調するが、こちらのサミットでは、日本の存在感をそこまで強く、感じることはできなかった。

「国際社会では英語が通じるものだ」という私の常識が通じなかったように、「G7サミットの一挙手一投足に世界中が注目している」という考えも、もはや過去のものなのかもしれない。【5月19日 テレ朝news】
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【ウクライナ・ゼレンスキー大統領 G7・アラブ連盟首脳会議参加 支援の裾野を広げたい思惑】
グローバルサウス重視ということでは、G7にサプライズ対面参加したウクライナのゼレンスキー大統領も同じです。
G7参加の目的としては、「支援疲れ」が云々される欧米諸国の支援を確実にすることに加えて、必ずしもウクライナ支援が「常識」としては通用しないグローバル諸国への対応もあるようです。

****ゼレンスキー大統領が来日 G7広島サミット“対面参加”に強くこだわったワケ***
ウクライナのゼレンスキー大統領が20日午後、G7広島サミットに出席するため、広島に到着しました。ロシアから侵攻を受けて以降、初めてのアジア訪問となったゼレンスキー大統領。“戦時下の大統領”として、ウクライナから8000キロ以上離れた日本まで足を運ぶ狙いとは…。(中略)
   ◇
ゼレンスキー氏がG7広島サミットに参加することは、今年3月に岸田首相がウクライナを訪問した際に決まっていましたが、対面ではなく“オンライン”の予定でした。しかし外務省によると、その後、ゼレンスキー氏から「実際に出席したい」との強い希望があったということです。

■ゼレンスキー氏の狙い(1) G7との連携
ゼレンスキー氏は先週から今週にかけて、イタリア・ドイツ・フランス・イギリスとG7各国を相次いで訪問しました。G7の首脳が一堂に会する場で、支援の継続を訴えるとともに、“ウクライナ支援についてG7とウクライナが一枚岩であること”をアピールする狙いがあるとみられます。

■ゼレンスキー氏の狙い(2) グローバルサウス
今回のサミットにはG7のほかに、インドやブラジルなど、対ロシアで中立的な立場をとる国々が招待されています。インドの地元紙によると、ゼレンスキー氏はモディ首相と会談する予定があるといいます。

ウクライナ情勢に詳しい慶応義塾大学の廣瀬陽子教授は、インドなど「グローバルサウス」と呼ばれる新興国・途上国への説得も、ゼレンスキー氏の狙いの1つだと指摘します。

慶応義塾大学 廣瀬陽子教授
「『グローバルサウス』などの、かなりこの戦争で鍵を握る国と一度に会える機会があるかもしれないというのは、非常に大きなメリットだと思います。とりわけインドは、戦争開始以前と比べて22倍ものエネルギーをロシアから買っている。インドの存在が、ロシアの経済を支え、ひいては継戦能力を高めて いるということがあります。インドをウクライナ寄りにすることができれば、『ロシアの支援をやめてほしい』ということを訴えていく可能性は、極めて高いです」

■ゼレンスキー氏の狙い(3) 核の脅威
また廣瀬氏は、被爆地・広島でロシアの核の脅威に対抗する狙いもあると指摘します。

慶応義塾大学 廣瀬陽子教授
「ウクライナ戦争の中で度々、ロシア側は核のどう喝ということをやってきています。改めて核問題を広島で提起することによって、ロシアを国際的にけん制していくという狙いもあると思います」(後略)【5月20日 日テレNEWS】
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ゼレンスキー大統領は広島入りする直前に、シリアの復帰で注目されたアラブ連盟首脳会議にも出席していますが、その狙いも、アラブ諸国の支援取り付けにあるようです。

****来日予定のウクライナ・ゼレンスキー大統領、サウジアラビアに到着 アラブ連盟の首脳会議に出席へ****
G7広島サミットへの出席のため20日から来日する予定のウクライナのゼレンスキー大統領はアラブ連盟の首脳会議に出席するため、サウジアラビアに到着しました。

ゼレンスキー大統領はサウジアラビア西部のジッダで開催されるアラブ連盟の首脳会議に出席する予定です。

サウジアラビアはこれまでもロシアとウクライナの仲介を繰り返し申し出ていました。多くのアラブ諸国は欧米のロシアに対する経済制裁などに参加せず、ウクライナ侵攻について「中立」の立場をとっているところが多く、ゼレンスキー大統領としてはアラブ諸国の理解と支援を取りつける狙いがあるものとみられます。

ゼレンスキー大統領はサウジアラビア訪問後に日本に向かう予定です。【5月19日 日テレNEWS】
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軍事面では欧米諸国の支援が不可欠ですが、国際社会でウクライナの立場をアピールするためには、欧米支援だけでは足りない、支援の裾野を広げないと・・・ということでしょう。

就任当初は資質についてとやかく言われたゼレンスキー大統領ですが、堂々たる戦時大統領ぶりです。
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スリランカ  イスラム教徒ムーア人の問題と野生の象についてチャットAIに訊いてみた

2023-05-17 01:13:19 | 旅行

(救出されたタイから寄贈のサックスリン(ムトゥラジャ)。スリランカ・コロンボ近郊のデヒワラ動物園で(2003年5月13日撮影)【5月16日AFP】)

【複雑で緊張したイスラム教徒との関係】
現在、スリランカの北端ジャフナを旅行中です。

昨日ブログで触れたように、スリランカには内戦を戦った多数派仏教徒シンハラ人(人口の約74%)と少数派ヒンドゥー教徒タミル人(18%)以外に、ムーア人と呼ばれるイスラム教徒が人口の1割弱存在します。

9・10世紀ごろに島に住み着いたアラブ系の人々を主体とするスリランカ・ムーアと、インドから移住してきたインド・ムーアに分かれます。

たまたま検索サイトBingのAIチャットのページが開いたので、試しにムーア人に対する「差別」「政治的状況」について訊いてみました。

問い)スリランカのイスラム教徒であるムーア人が受けている差別はどんな状況ですか?
回答)
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ムーア人は、スリランカ内戦の間にタミル・イーラム解放のトラ(LTTE)から多くの迫害や暴力を受けました。

1990年には、LTTEが95,000人以上のムーア人を北部州から強制的に追放しました。 これは、タミル人単一民族国家建設のための民族浄化と見なされています。 この追放は、ムーア人の間ではいまだ苦い記憶として残っています。

ムーア人は、スリランカの東部州や西海岸に多く住んでいます。
東部州のムーア人は、タミル語を第一言語として使用し、母系社会でシャリーアを行動規範としています。 
西海岸のムーア人は、シンハラ語や英語を話し、多言語民族の宗教集団と言えます。
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なるほど・・・・タミル人とは問題があったようですね。
多数派シンハラ人とは?

問い)ムーア人とシンハラ人の関係はどうですか?
回答)
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ムーア人とシンハラ人の関係は、歴史的にも現代的にも複雑で緊張したものです。

ムーア人は、スリランカのイスラム教徒の大部分を占める民族で、タミル語やシンハラ語を話します。シンハラ人は、スリランカの多数派民族で、仏教やキリスト教を信仰し、シンハラ語を話します。

ムーア人とシンハラ人の間には、経済的、政治的、宗教的な対立があります。

1915年には、ムーア人の商人や金貸しに対する暴動が起きました。 これは、シンハラ・ナショナリズムの高まりと関係していました。

スリランカ内戦では、ムーア人はタミル・イーラム解放のトラ(LTTE)から迫害されましたが、政府軍とも協力しませんでした。

そのため、シンハラ人からは不信感や敵意を持たれることもありました。

ムーア人とシンハラ人の関係は、地域によっても異なります。 東部州では、ムーア人はタミル語を話し、タミル人と近い関係にあります。 西海岸では、ムーア人はシンハラ語や英語を話し、シンハラ人との交流が多いです。

しかし、どちらの地域でも、ムーア人はイスラム教の文化やアイデンティティを保持しています。
********************

なるほど・・・・チャットAIは便利です。
Bingチャットでは、情報の出典も明示してくれます。

今回旅行のシンハラ人ガイド氏に訊くと、シンハラ人政府とムーア人の間では対立がない訳ではないが、それが大きくならないように互いに自制しているとのことでした。

ただ、親近感・縁遠さのという話で言えば、タミル人のヒンドゥー教は、仏教徒シンハラ人にとってもなじみやすいものであるのに対し(昨日ブログで書いたように、ヒンドゥーは(仏教国を含めて)南アジア・東南アジアの文化の根底にある共通文化です)、イスラムは非常に縁遠い存在。

ガイド氏も、生まれてから一度もモスクに足を運んだことはないとのこと。

【チャットAI ときどき「奇妙」な回答も それに気づけるか・・・・】
チャットAIの話で言えば、非常に便利・・・ですが、情報が正しい保証はありません。

ちなみに、帰国時の成田空港から浜松町へのアクセスを訊いてみたところ、詳しく・具体的に教えてくれました。

ただ一つだけ「奇妙」だったのは、日暮里から東京までは山手線、その後、東京で京浜東北線に乗り換えて浜松町に・・・という案内になっていたこと。

「山手線でそのまま浜松町まで行けるじゃないか」という事前情報があれば、その部分は無視すればすみます。

しかし、前出のムーア人に関する回答のなかに、そうした「奇妙」な部分があるのか、ないのか・・・事前情報がないのでそこらはわかりません。信用していいのかどうか・・・。

【野生の象に対する国民感情なども訊いてみた】
今日目にしたスリランカ関連のニュース。

****タイ寄贈のゾウ、虐待されていた寺院から救出 スリランカ****
スリランカでこのほど、虐待されていたとみられるゾウが救出された。13日には、コロンボ近郊のデヒワラ動物園で静養する姿が見られた。
 
ゾウは、2001年にタイ政府からスリランカに贈られた3頭のうちの1頭、サックスリン。スリランカではムトゥラジャと名付けられた。飼われていた寺院で虐待されていたとみられ、在コロンボ・タイ大使館の介入により保護された。 【5月16日 AFP】
********************

ガイド氏に「スリランカ人は象嫌いですか?」って尋ねたら、「そんなことないです」って言っていました。それはそうでしょう。

スリランカには野生の象がすんでいます。
アヌラダープラからジャフナへの移動中に、道路わきに鉄線が張られていることがありましたが、象が侵入しないように電流を流しているとのこと。

道路標識にも「象に注意」みたいなものがあります。

スリランカの象についても、前出Bingチャットに訊いてみました。

先ずは単純な問い。

問い)スリランカには野生の象は何頭ぐらいいますか?
回答)
********************
スリランカには約7,500頭の象が野生で生息しているとみられています。

スリランカの中でも野生の象が最も見られる場所がシーギリヤの近くにあるミンネリヤ国立公園です。シーズンは5月〜10月で、特に象が多いのが7月〜9月と言われています。多いときで300頭ほどの象が見られることもあります。
********************

続いて本題に。

問い)スリランカでは、野生の象による被害は出ていますか?
回答)
*********************
はい、スリランカでは野生の象による被害が出ています。

スリランカでは2019年の1年間に、史上最多の361頭の象が死んだ。その内85パーセントは、「農作物荒し」に対する仕返しとして殺されている。

毎年数10名が象に殺され、象による被害は農作物及び生計手段にも被害が及んでいる。

スリランカ政府は、ゴミ投棄場の周りにゾウ侵入防止のための電気フェンスを張るなどの対策を講じていますが、すべての場所で完全に実施されていないという。
************************

問い)スリランカの一般市民の象に対する感情はどのようなものですか? 大切なものだと思っているとか、可愛い生き物だと思っているとか、あるいは農作物を荒らす困った生き物だとおもっているとか。

回答)
************************
スリランカの一般市民の象に対する感情は、地域や状況によって異なると思います。

象はスリランカの国の象徴であり、仏教の信仰にも深く関わっています。多くの人々は象を大切なものだと思っているでしょう。

しかし、農民と象の間には衝突が起こっており、象は農作物を荒らしたり人間に危害を加えたりするという問題があります。そのため、一部の人々は象を困った生き物だと思っているかもしれません。

スリランカ政府は、人間と象の衝突を最小限に抑えるために様々な対策を講じていますが、効果は限定的です。

2020年1月には、人間と象の衝突が最も激しい地域において、防御組織の要員2500名を志願制により一般市民から募集し、銃器を支給する計画を発表しました。 これに対して自然保護活動家や法律家は反発し、銃器が象の殺害や密猟に悪用される恐れがあると指摘しました。

一方で、スリランカでは象の保護や救済に取り組む施設もあります。例えば、ピンナワラ象の孤児院は、傷ついたり孤立したりした野生の象を保護し、飼育しています。ここでは約100頭以上の象が暮らしており、観光客は象と触れ合ったり水浴びを見たりすることができます。

ピンナワラ象の孤児院はスリランカでも有名な観光スポットであり、多くの人々が象の可愛さや魅力に感動しています。

以上のように、スリランカの一般市民の象に対する感情は一様ではなく、複雑な問題が絡んでいます。しかし、象はスリランカの自然や文化に欠かせない存在であり、共存の道を探る努力が必要だと思います。
*********************

なかなか立派な回答で、特に付け加えることもありません。

前述の「信頼性」「正確性」の問題のほかに、人間は何も考える必要がなくなるという問題も。

電卓が普及して計算する必要がなくなり、パソコンの変換に頼るようになって漢字を忘れ、チャットAIに頼るようになって情報を集めたり、判断したりすることもなくなり・・・・。
 
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スリランカ  旅行で遭遇した国民の間で言葉が異なることの問題

2023-05-16 01:42:18 | 旅行

(ジャフナからカイツ島への海中土手道 記事のトラブルは、この道をジャフナ側の公園から撮影していたときに発生)

現在スリランカを旅行中です。
今回の目的地は、少数派のヒンドゥー教徒タミル人の居住エリア最大都市である北端のジャフナ。
スリランカ内戦の被害が甚大だった地域でもあります。

ジャフナは島の最北端で、海を隔ててインドも間近。
紀元前3世紀、インド・カニシカ王の時代、お釈迦様がその木の下で悟りを開いた菩提樹の枝をカニシカ王の娘がスリランカにもたらすべく船でやってきたのも、ジャフナ郊外の海岸です。

当時のスリランカの王は、海中に入って彼女を迎えたとのことです。

前回ブログでも、シンハラ・タミルの間で言葉が通じない問題は触れましたが、昨日もそのことで面倒なことになりかけました。

ジャフナの沖合にはジャフナ諸島と呼ばれる島が点在していますが、手前側の島とジャフナは海中の土手道で繋がっています。

14日、その島のひとつカイツ島観光に行く際、まずジャフナ側の海岸で、海中をまっすぐに伸びる土手道の写真を撮っていました。

すると警備員のような男性が笛を吹いて、写真を撮るなとのこと。
何のことかよくわからず、ガイド氏が理由を訪ねますが、警備員はタミル人、ガイド氏はシンハラ人ということで言葉が違うため、相手の言っていることが理解できません。

その警備員は英語も通じないとのこと。

やはりシンハラ人のドライバーも加わっていろいろ言い合っていましたが、どうも、スマホ撮影なら構わないが、一眼のようなカメラで撮影するためには、チケットを購入しなければいけない・・・みたいなことを言っているようだというところまではわかりました。

埒が明かないので、車に戻り、移動しようとしていたら近くに警官が。
警官に事情を話すと、「写真を撮るのに制約はない」とのこと。

そこで、改めて車外に出て撮影再開。

すると再び別の警備員が撮らないようにとのこと。
ガイド氏「いや、ポリスはかまわないといってるぞ!」ということで、警官を呼んで、ガイド、ドライバー、警備員、警官が集まって協議。

警官が警備員を押し切ったようでしたが、私も撮影はほぼ終了。
「トラブルのは困るので、次へ移動しましょう」ということに。

本当に警備員の言うようなローカルルールがあるのかどうかは知りません。
ガイド氏に言わせれば「ああいう難癖をつけてカネをとろうとしているだけ」とのこと。

ことの真相はよくわかりませんが、話がこじれる大きな理由は、言葉が違うため相手の言い分が理解できないところにあります。

当然ながら、どちらかの言葉で統一すれば意思疎通は簡単になります。
ただし、この問題は非常に敏感な問題。そのやり方が、他方の言語を否定することになると、否定された方は激しく反発します。

****多民族国家スリランカにおける公用語政策と教育の課題****
1948年にイギリスから独立して 8年後、スリランカの政治的、社会的状況はまったく変わった。

スリランカではこれまで、シンハラ語とタミル語 の両言語公用語案が提示されていたが、 1956年 になり、シンハラ語のみが公用語と規定された。 

タミル語が公用語として認められなかったため、 反シンハラ主義の若者を中心として一部のタミル人が激しく抗議し、テロ運動が始まった。(後略)【2008年9月 日本学習社会学会年報第 4号】
********************

言語だけでなく、シンハラ人による政府がシンハラ民族主義的政策を強行し、タミル人の立場を顧みなかったことが、夥しい犠牲者を生む二十数年に及ぶ内戦を惹起したと言えます。

****タミル・イーラム解放のトラ(LTTE)設立の背景*****
スリランカは多民族国家であり、人口の約74%がシンハラ人、約13%は古くから住んでいる「スリランカ・タミル人」、約5%がイギリス植民地時代にプランテーションへの労働力として移住させられてきた「インド・タミル人」である。

植民地時代、シンハラ人(主に仏教徒)はイギリスの支配に対立・抵抗を続けたのに対し、比較的従順だったタミル人(主にヒンドゥー教徒)がイギリス政府に重用されていた。

1947年の議会選挙では1人1票制が採用され、シンハラ人がセイロン(当時)の政府で多数派を得た。

1944年に設立されていた全セイロン・タミル会議(ACTC)はレバノン型の権力分割(50:50)を主張していたが、高地ではシンハラ人よりもインド・タミル人が多数派であり、独立直後の政府にとって脅威であったため、受け入れられることはなかった。

その後インド・タミル人は1948年制定の『セイロン市民権法』により公民権を失い、1949年の『国会選挙法』により選挙権を失った。さらに1956年、ソロモン・バンダラナイケ政権は「シンハラオンリー法」を採択し、タミル人への差別が始まった。

セイロン政府は、悪化するスリランカ経済に対する不満をそらすために、シンハラ政策を推し進め[、1965年にはシンハラ人による反タミル人・キャンペーン、民族浄化を提唱するスリランカ人民解放戦線が創設された。

1970年に就任したシリマヴォ・バンダラナイケも、1978年に大統領に就任したジュニウス・リチャード・ジャヤワルダナもタミル人政策には着手しなかった。

1972年制定のスリランカ共和国憲法でも、1978年制定のスリランカ民主主義共和国憲法でも、『仏教に至高の地位を与える』という条項は残り、タミル人への差別は続いた。【ウィキペディア】
*******************

人口の約74%がシンハラ人、約13%は「スリランカ・タミル人」、約5%が「インド・タミル人」・・・・残りは?

残りの大多数はムーア人(9,2%)と呼ばれる人々。
ムーア人も9-10世紀ごろに島に住み着いたアラブ系の人々を主体とするスリランカ・ムーアと、インドから移住してきたインド・ムーアに分かれますが、一般的認識としてはイスラム教徒を差します。言語はタミル語をつかうことが多いようです。

シンハラは仏教、タミルはヒンドゥーですが、その宗教的対立はあまりないと推察されます。
仏教徒シンハラ人でもヒンドゥー寺院に参拝することは極めて普通のことです。(日本人がお寺にも神社にも行くようなものでしょうか)

スリランカに限らず、タイのような仏教国でも、ヒンドゥー由来の宗教・文化が根付いており、ヒンドゥー文化は南アジアから東南アジアにかけての共通文化になっています。ちなみに、仏教国タイの国章はヒンドゥー由来のガルーダです。

非常に近しい関係にある仏教・ヒンドゥー教に対し、イスラムはかなり異色。
仏教国ミャンマーではロヒンギャなどのイスラム教徒は強烈に排除されます。差別というより、「彼らはミャンマー人ではない」という形で。

タミル人との内戦や差別はよく話題になりますが、スリランカにおけるイスラム教徒・ムーア人はどういう立場にあるのでしょうか・・・・今後、少し関心を持っていこうと思っています。
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スリランカ  内戦の「記憶」

2023-05-14 22:10:21 | 旅行
(キリノッチ 内戦時にタミル人武装勢力LTTEが政府軍キャンプ襲撃に使用した改造兵器)

11日から1週間、4回目のスリランカ旅行中です。

スリランカにについては前回記事にも書いたように、観光的な関心以外に内戦(多数派・仏教徒のシンハラ人政府と少数派・ヒンドゥー教徒のタミル人武装勢力の間で1983年7月から2009年5月まで戦われた内戦で、政府軍勝利で終結)に関する記憶がいくつかあります。

スリランカ内戦が国際的に問題となったのは、タミル人側が最後の拠点に追い詰められた最終段階。
タミル人側は住民を「人間の楯」とすることで、政府軍の最終攻撃を防ごうとしました。

強硬な軍事的制圧を行うと多数の住民被害が出ることが予想される状況で、国連・欧米はスリランカ政府に自制を求めました。

しかし、スリランカ政府はそれを拒否して軍事作戦を強行。結果、多数の犠牲者も出ました。
そのことで、スリランカは欧米から制裁を受けることにもなりました。

民間人犠牲を顧みないのはタミル人側武装勢力も同じで、、武装勢力LTTEは逃げようとする民間人を銃撃しているとも報じられていました。

****スリランカ内戦:「病院に多数の避難民ら」戦闘地域の医師****
「この状態では脱出すらできない」。スリランカ政府軍が北東部に立てこもる反政府武装組織「タミル・イーラム解放のトラ」(LTTE)への最終攻撃を本格化した14日、戦闘地域に閉じ込められた病院の男性医師(39)は毎日新聞の電話取材に切迫した状況を伝えた。

医師は「武装ヘリが飛び回り、あちこちに迫撃砲が撃ち込まれている。ここには2000人以上の患者や避難民がいるが、薬や食料、飲用水のない危機的状況だ」と訴えた。
「病院の外に一歩出れば、戦闘に巻き込まれる」。医師は早口で言った。非戦闘員の保護を定めたジュネーブ条約に反し、政府軍とLTTEの戦闘で多数の民間人が犠牲になっていることを物語る。

医師によると、戦闘は10日ごろから散発的に始まった。LTTE支配地域に取り残された多くのタミル人市民が、「病院なら攻撃されない」と信じて駆け込んできた。治療が必要な数百人以外は建物の外で野宿している。

LTTE側は10日、この病院について「政府軍の攻撃で2000人以上死亡した恐れがある」と主張していた。医師は「死者は推定数百人。病院の敷地外に放置されたままの遺体も多く、実際の数は分からない」と言う。

戦闘には、政府が民間人への被害を防ぐため「使用しない」としていた迫撃砲も使われているようだ。ただ、医師は「どちらの攻撃かなんて分かるはずがない」と打ち明けた。

病院の様子は悲惨だという。頭に包帯をぐるぐる巻いた幼児が、行方不明の母親を捜して泣き叫ぶ。骨が浮き出るほどやせた老人たちが床の上で息を引き取っていく。

次々と負傷者が運び込まれてくるが、ベッドは足りず、医薬品不足などで手術もままならない。野戦病院のような混乱の中、医師と看護師の計10人が不眠不休で治療しているという。

戦闘の影響なのか、電話回線は数分おきに途切れる。通算20分間、言葉を選びながら語った医師は、「病院にLTTEか政府軍はいるか」との質問をきっぱり否定。「最後の患者が保護されるまでここに残る」と語った。【2009年5月15日 毎日】
**********************

今回旅行で専用車のドライバーを努めてくれた男性は、内戦当時政府軍兵士としてこの北部地域に駐屯し、今は観光地となっている「ジャフナ・フォート」(17世紀のポルトガルやオランダ支配当時からの要塞で五稜郭と同形)に政府軍兵士650名ほどが立てこもり、約1か月に及ぶLTTEの攻撃を耐えた経験があるとのこと。包囲されているので、食糧などは空輸したとか。

フォートの石垣には今も内戦当時の弾痕が多数残っていますが、ドライバー氏も足首あたりに被弾し、頭皮には弾丸がかすめた傷跡が残っています。弾道があと数cm低ければ即死でした。

彼の運転で13日、観光地アヌラダープラから北部の拠点都市ジャフナに移動しました。

途中、昼食をとったレストランでは、支配人男性とフロアマネージャー的な女性の二人がシンハラ人で、あとのスタッフはタミル人とのこと。

ガイド氏に意地悪い質問を。「ようするに、偉い人はシンハラ人で、タミル人はその下で働いているということですかね?」

シンハラ人男性のガイド氏(日本で数年働いた経験がある40歳ぐらいの方)は、その問いを否定せず、「そうですね」とも。

ただ、そのレストランの収益は、体の不自由な方々への支援に使われているということで、社会的に有意義な活動を行っている見せです。

更に進んで、LTTEの最後の拠点があったキリノッチ付近の道路際にブルドーザーを戦闘用に改造したようなものが展示されていました。軍の兵士が管理していました。

当時、政府軍の駐屯地があり新兵を徴用していたそうですが、そこをLTTEが上記改造兵器で攻撃してきたとのこと。

そのとき政府軍兵士の一人が、手りゅう弾を手にしてこの改造兵器の中に飛び込み自爆し、LTTEの攻撃を阻止したそうです。

かれはシンハラ人の英雄となって、その行動を称えるビデオなどもそこで見ることができます。

そこには大勢のスリランカ人観光客が来ていました。

私「あの観光客は(この付近に住む)タミル人ですか?」 ガイド氏「いいえ、シンハラ人です。」

シンハラ人にとっては英雄の記念碑ではあっても、敗者タミル人の目には・・・・
ガイド氏も、いたずらに両者の溝を深めるような展示については、あまり賛成していない様子でした。

シンハラ人とタミル人の溝・・・・もっとも基本的なところでは、言葉が通じません。シンハラ語とタミル語はまったく異なります。

ガイド、ドライバーもシンハラ人ですからタミル語がわかりません。

そのため、ジャフナのホテルに着くと、ホテルスタッフとガイド氏は英語で会話・交渉することに。

ともに英語を理解できる場合は、こういうコミュニケーションも成立しますが、そうでない場合は会話できません。

ジャフナのレストランで夕食を食べた際にも、ガイド氏はレストランスタッフに英語でオーダーしていたのですが、そのスタッフ男性が「私はシンハラ人です」 そういうこともあります。

あと、私のまったくの印象にすぎませんが、昼食をとったレストランのレジ係をしていたタミル人女性スタッフの様子や、ホテル女性スタッフ(子供時代から若い頃に内戦を経験した年齢)の言動から「数字・計算について十分な教育を受けていないのかな・・・」と感じたことも。

まったくの個人的印象で、私の勘違いにすぎず、事実はまったく異なることが大いに予想されますので、この件の詳細は省きます。

そんなこんなで、特に内戦の記憶・残影を求めて旅行している訳ではありませんが、ちょっとしたことに内戦の「記憶」がのぞくこともあるみたい・・・・。
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スリランカ旅行中 内戦の中心都市ジャフナへ

2023-05-13 02:12:16 | 旅行
(2006年、2回目のスリランカ旅行の際のネゴンボの海)

現在スリランカを旅行中です。

スリランカ旅行は4回目
ただ、これまでは内戦のため、北部と東部は行けませんでした。

スリランカでは多数派の仏教徒が多いシンハラ人主体の政府と少数派ヒンドゥー教徒タミル人武装勢力の内戦が二十数年続きました。

北部と東部はタミル人居住地域のため観光はできませんでした。

****スリランカ内戦*****
スリランカ内戦は、1983年から2009年にかけて展開されたスリランカ政府とタミル・イーラム解放のトラ (LTTE) による内戦。スリランカ政府軍がLTTE支配地域を制圧して26年にわたる内戦は終結した。【ウィキペディア】
****************

今回は内戦時、LTTEが拠点としていた北部の中心都市ジャフナに滞在する予定です。内戦の被害が大きかった地域でもあります。

最初のスリランカ旅行(1993年)のときは、大統領ラナシンハ・プレマダーサがLTTEの自爆テロで殺害される事件が起き、旅行中に外出禁止令が出される経験もしました。

そのため、スリランカ内戦はやや身近に感じるところもあります。

当時、旅行を世話してくれていたシンハラ人男性が、タミル人も多く住むエリアを車で通り抜ける際に、傍目でもわかるぐらいに緊張ていたことをよく覚えています。

また、コロンボにもどった際に、その男性の奥様が、普段は温厚な方なのに、タミル人の話になると非常に厳しい言い様になったことなどからも、ふたつも民族の間の溝の深さを感じたりもしました。

内戦が終わった後の2010年の3回目の旅行は西部の都市ゴールが中心でしたが、広場に大勢が集まっている催しがあったので私も出かけたところ、LTTEからの戦利品である武器の展示会でした。

こうした催しが敗者のタミル人の目にはどのように映るのだろうか・・・という感じもありました。

今回の旅行で行くジャフナは、観光的にはそれほどのものもありませんが、個人的にはそうした内戦の中心地だったところということで、興味がある場所です。

11日夜にスリランカに到着し、海辺の都市ネゴンボに宿泊。
12日は日本語ガイド同行で仏教遺跡が多い世界遺産都市アヌラダープラに移動しました。

13日はジャフナに入る予定です。

旅行中のため、ブログ更新は「もし可能であれば」といったところです。
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スリランカ  IMF融資、債権国協議でデフォルトからの再建スタート

2023-05-10 19:42:34 | 南アジア(インド)
(4月11日、コロンボ 【4月24日 ロイター】)

【「債務の罠」代表事例ではあるが、破綻は中国の「罠」によるものでもない】
昨年5月19日、スリランカが国家としてデフォルト(債務不履行)に陥り、ゴタバヤ・ラジャパクサ大統領が7月13日未明、軍用機で夫人とモルディブに逃亡したことが分かりました。

スリランカは、中国の「債務の罠」の典型事例としていつもあがります。
確かに、2017年7月に、中国からの借金が膨らみ返済不能になったため、スリランカのハンバントタ港を99年間にわたり中国国有企業・招商局港口に租借することが決まりました。

ただ、もともとスリランカは借金まみれであり、必ずしも「中国の唐の過剰な債務」で財政が破綻したという訳でもありません。

中国問題グローバル研究所所長・遠藤誉氏は“主たる原因は大統領の気まぐれな有機農業命令で、中国からの債務はわずか10%だった”と指摘しています。

****スリランカ大統領「デフォルト」で国外逃亡:主原因は有機農業、中国債務わずか10%***
(中略)
◆気まぐれな大統領の思い付き「有機農業を始めよ!」
ではいかなる事情があったのか?
その最も大きな原因は、実は大統領の気まぐれ的な思い付きにあり、化学肥料の輸入に国家予算の2%を費やしているので、その2%を減らそうとして、いかなる前触れも準備もなく、いきなり2021年4月29日に、「今日から化学肥料を輸入してはならず、農業は化学肥料も農薬も使ってはならない。すべて有機農業に切り替えよ!」という命令を出したからだ。(中略)

この凶作の惨状を見て大統領は「化学肥料を輸入してもいい」と前言を翻したが、時すでに遅し。今度は輸入するための費用もないところに追い込まれた。

スリランカは紅茶が有名だが、化学肥料も農薬も全て禁止されたため、大きな損害が出ている。すべての農産物は壊滅的打撃を受けて、破綻状態に至ったわけだ。(中略)

◆スリランカの債務の割合
(中略)(対外債務について)スリランカの財務計画省対外支援局(Department of External Resources)が発表したデータに(中略)によれば「資本市場による借入」が47%と、最も多い。(中略)

中国はスリランカの対外債務総額の10%しか占めていない。
日本も10%で、アジア開発銀行が13%、世界銀行が9%だ。インドが2%ほどを保有している。(

但し、融資の際の利子は異なる。(中略)日経新聞は中国は3.3%で、日本の利子は平均0.7%であると伝えている。もっとも、日本の外務省の発表によれば、2017年4月12日に提携した円借款および無償資金協力の利子は1.4%((コンサルティングサービス部分は年0.01%)となっている。したがって日本の利子が0.7%と異様に低いのはODA予算の中からの捻出であるためかもしれない。(中略)

◆BRICS陣営構築のため、習近平は一帯一路参加国が豊かにならないと困る
(中略)習近平は西側先進国であるG7陣営に対して、新興国や発展途上国を中心としたBRICS陣営を強大化したい。なぜならいずれアメリカによる対中制裁はいっそう厳しくなっていくだろうことは明らかだからだ。
 
(中略)現在世界190ヵ国を対象として調査した中で、128ヵ国が中国を最大貿易国としているが、特にその中の新興国や発展途上国に関しては、経済繁栄してもらわないと中国は困るのだ。したがって特にウクライナ戦争後は、一帯一路参加国が債務の罠に入らないよう、むしろ支援しているという側面が否めない。

(中略)中国外交部の汪文斌報道官は以下のように回答している。

 ――何度も繰り返し述べているように、中国はスリランカが直面している困難と課題に共感し、食糧や医薬品を含む緊急の人道支援をスリランカに提供してきた。中国側はまた、政府、地方自治体、友好団体などのチャンネルを通して、スリランカのあらゆる分野にさまざまな支援を提供してきた。 中国は引き続きスリランカの経済的・社会的発展を最大限に支援し、スリランカの経済回復と人々の生活の向上を支援していく。

中国に関連するスリランカの債務については、中国は関連する金融機関がスリランカと交渉して適切な解決策を模索することを支援している。 私たちは、関係国や国際金融機関と協力して、スリランカが現在の困難に対処し、債務負担を軽減し、持続可能な開発を達成するために積極的な役割を果たし続けることをいとわない。(報道官回答ここまで)

また駐スリランカの中国大使館は、さまざまな支援をスリランカに対して行っていることを発表しており、その中には今年4-5月の間に中国政府が5億人民元(約100億円)の緊急人道支援を提供したことも挙げられている。
 それ以外にも、今年5月27日におけるファイナンシャル・タイムズFTの取材で、スリランカ総理が中国は既に数億ドルを提供したと発言している。

したがって、中国としてはBRICS陣営に経済メルトダウンをしてほしくなく、決して中国が自ら「債務の罠」に支援相手国を陥れようとしている事実はデータには出てこない。

ウクライナ戦争はこの傾向を加速させているのではないだろうか。日本はむしろ、そのことに警戒した方がいい。【2022年7月14日 遠藤誉氏 YAHOO!ニュース】
********************

中国が“関係国や国際金融機関と協力して、スリランカが現在の困難に対処し、債務負担を軽減し、持続可能な開発を達成するために積極的な役割を果たし”てきたかどうかには、やや疑問もありますが、「中国が無理な債務を押しつけ、借金のかたに権益を取得すべく、意図的に財政が破綻するように仕向けている」といった解釈はやや単純にすぎるでしょう。

スリランカについて言えば、最大の責任はラジャパクサ一族が大統領や首相など要職を占める縁故主義、そこからくる非効率・非合理な政策、蔓延する腐敗にあると言えます。遠藤氏が指摘する“思い付きの有機農業”は、その一例です。

【物価ひと頃より落ち着く 24年にはプラス成長予測も】
スリランカ経済については、2022年はGDP成長率は-7.8%でした。今年もマイナスが続くものの、24年には持ち直すだろうとの予測も。

****スリランカ、22年は7.8%のマイナス成長****
スリランカ政府が15日発表した統計によると、2022年の国内総生産(GDP)は前年比7.8%減少、第4・四半期は同12.4%減少だった。

米格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスは13日、スリランカの今年のGDPは3%減となるが、24年には持ち直すとの予想を示した。

経済運営の失敗と新型コロナウイルス禍の影響で、スリランカは昨年初めに必需品輸入向けのドルが深刻な不足状態となり、1948年の独立以来最悪の経済危機に見舞われている。IMFは29億ドル規模の4カ年救済措置を20日に最終承認するとみられている。(後略)【3月16日 ロイター】
****************

また、極めて高いインフレと燃料不足が深刻化しましたが、インフレはやや落ち着く傾向のようです。

****
スリランカCPI、3月は前年比+49.2%に減速 昨夏以来の50%割れ****
スリランカ統計局が21日発表した3月の全国消費者物価指数(NCPI)上昇率は前年比で49.2%と、2月の53.6%から減速した。50%を下回るのは昨年8月以来。

食品は42.3%上昇したが、前月の49%から減速。非食品は54.9%上昇した。

スリランカでは深刻な外貨準備不足などを背景に過去70年超で最悪の金融危機が発生し、昨年初めから高インフレに見舞われている。

中央銀行は今月、国際通貨基金(IMF)による30億ドルの支援を獲得してから最初の金融政策決定会合で政策金利を据え置き、インフレは今後数カ月に大きく鈍化すると楽観的な見方を示した。

ウィーラシンハ中銀総裁は、来月から好ましいベース効果が始まり、インフレ率は年内に1桁台に低下すると予想した。【4月24日 ロイター】
*******************

【IMF融資承認 大統領「もはや破産国でない」】
上記記事にもあるように、スリランカ経済再建のスタートとなるのが、IMF融資承認です。

****IMF、約30億ドルの対スリランカ金融支援を承認****
国際通貨基金(IMF)は(3月)20日に開いた理事会で、スリランカに対して約30億ドルの金融支援を提供することを承認した。

約3億3300万ドルの融資を即時実行する。IMFは、今回の融資承認が他のパートナーの支援を促し、過去70年以上で最悪の金融危機からの脱却を目指すスリランカを後押しするとしている。

ゲオルギエバIMF専務理事は、スリランカはさまざまな改革を行う必要があると強調。「危機を克服するためには、改革に対する強いオーナーシップの下で、EFF(拡大信用供与措置)プログラムを迅速かつタイムリーに実施することが重要だ」と述べた。

スリランカのウィクラマシンハ大統領は、IMFプログラムは国際資本市場における同国の地位向上に役立ち、投資家や観光客にとっての魅力を高めるとする声明文を発表した。【3月21日ロイター】
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このIMF融資承認はウィクラマシンハ大統領にとって、強い後押しにもなっています。

*****IMF融資第1弾を受領=大統領「もはや破産国でない」―スリランカ*****
経済危機にあるスリランカのウィクラマシンハ大統領は22日、議会で演説し、国際通貨基金(IMF)からの金融支援の第1弾として約3億3300万ドル(約440億円)を受け取ったと明らかにした。
 
ウィクラマシンハ氏は、IMFの融資により「国際社会からの認識が改められ、もはや破産した(国)とは見なされないだろう」と強調。融資条件となっていた経済の構造改革や汚職の撲滅にも取り組むと説明した。【3月22日 時事】
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【債権国の債務軽減に向けた協議開始】
更に、IMF融資と連動して、債権国間の債務再編に向けた協議も始まりました。
日本もその協議の主導国のひとつです。

****スリランカ救済、広範な債権国間の協調は「歴史的快挙」=鈴木財務相****
訪米中の鈴木俊一財務相は現地時間13日、インド、フランスとともにスリランカ債権国会合を発足することについて「歴史的快挙」との認識を示した。伝統的なパリクラブ議長国であるフランスのムーラン経済・財政省国庫総局長は、早期の初会合開催に意欲を示した。

現地でメディア向けのイベントを開催し、新たな会合発足を表明した。鈴木財務相は冒頭、「スリランカの債権国会合の発足に合意したことを大変嬉しく思う」と言及。「スリランカが未曽有の危機から脱却するにはパリクラブ、非パリクラブの債権国が一堂に会して債務再編を協議することが重要」と強調した。

スリランカは中所得国と位置付けられ、20カ国・地域(G20)が低所得向けに創設した共通枠組みのような債権国協調のメカニズムが存在しない。

鈴木財務相は「広範な債権国間の協調体制が生まれることは歴史的快挙。すべての関係者の協調により、早期に債務再編が合意されることを期待している」との考えも示した示した。(中略)
スリランカの公的債務817億ドル(2022年9月末時点)のうち、対外政府債務は351億ドルとされ、主要債権国である日本や中国、インドのほか、民間が抱える債権も多い。

スリランカが22年に対外債務の一時的な支払い停止を宣言して以降、中国やインドを含む全債権国や民間債権者で債務をどう再編するかが課題となっていた。【4月14日 ロイター】
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今月9日には初協議が行われましたが、債務軽減に向けた国際協調での積極的役割云々を主張していた中国はオブザーバー参加にとどまっています。

なお、「パリクラブ」とは、債務国の経済事情を踏まえて、返済負担を軽減させ、返済しやすい条件を議論する債権国の代表者による友好的かつゆるやかな集まりです。日本は参加していますが、中国は参加していません。

****スリランカ救済巡り初の債権国会合、中国はオブザーバー参加****
22年に債務不履行(デフォルト)状態に陥ったスリランカ救済を巡り、日本とインド、フランスが主導して発足した債権国会合が9日、初協議を開いた。主要債権国の中国はオブザーバーとして参加した。

インド、フランスとともに共同議長を務めた日本の神田真人財務官によると、会合には26カ国が参加した。スリランカに債権を持つ参加国は19カ国で、このうち伝統的なパリクラブメンバーが15カ国、非パリクラブが4カ国だった。スリランカに債権を持たない国も7カ国参加した。

神田財務官は初会合後、「パリクラブ、非パリクラブ債権国が一堂に会して債務再編の条件合意を目指すことが(会合の)目的。中所得国の債務問題への対処に当たってのモデルケースになることを期待している」と省内で記者団に述べた。

会合では、国際通貨基金(IMF)や世界銀行がスリランカの経済状況などを説明。スリランカ政府が経済財政改革の進捗状況を共有し、改めて債務の透明性確保にコミットしていることを表明するとともに、各債権国が協調して債務再編を進めていくことを確認した。今後、担当者間での交渉を通じて具体的な債務再編の内容を詰める。

巨額の2国間債権を抱える中国にも正式な参加を打診したが、初会合ではオブザーバー参加にとどまった。神田財務官は「中国政府の判断として、オブザーバーとしての参加があった。引き続き中国には正式な参加を呼び掛けており、中国が参加した場合はこれを歓迎したい」と語った。

スリランカの公的債務817億ドル(2022年9月末時点)のうち、対外政府債務は351億ドルとされ、主要債権国である日本や中国、インドのほか、民間が抱える債権も多い。

スリランカが22年に対外債務の一時的な支払い停止を宣言して以降、中国やインドを含む全債権国や民間債権者で債務をどう再編するかが課題となっており、新たな会議体での協議を踏まえ、危機からの脱却に弾みを付けられるかが焦点となる。

債権国会合は4月に発足。スリランカが中所得国と位置付けられ、20カ国・地域(G20)が低所得向けに創設した共通枠組みのような債権国協調の枠組みが存在しない現状を踏まえ、日本がインド、フランスと主導した。

財務省によると、初会合はオンラインで約1時間実施実施した。【5月9日 ロイター】
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これで債務負担を軽減して経済・財政を再建していく道筋がついた・・・というところですが、当然ながらまだスタートラインにたっただけで、スリランカの真摯な取り組み次第です。
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アメリカ  5月11日で移民流入制限措置「タイトル42」が失効 緊張するメキシコ国境

2023-05-09 22:37:05 | 難民・移民

(メキシコ側から川を渡って来る移民を、馬に乗って阻止する米国境警備隊員ら=2021年9月、米テキサス州(AP=共同)【5月3日 共同】)

【増加する不法移民 緊迫するメキシコ国境】
アメリカを目指す不法移民がメキシコ国境に押し寄せており、その対応にバイデン政権が苦慮していることは、これまでも度々取り上げてきました。

与党民主党内左派には移民への寛容な対応を求める声が強く、バイデン氏自身、大統領選挙ではトランプ前政権の非寛容な対応を批判して政策転換を掲げてきました。

しかし、現実問題としては、寛容な施策をとれば更に大勢の移民が殺到し、アメリカ国内世論が硬化するということがあり、結局、前政権時とあまりかわらない対応に終始しています。

そうした状況でも不法移民流入は止まりません。その過程で、多くの犠牲者が生まれます。今日も、悲劇一歩手前の事態が報じられています。

****貨物列車に100人超の不法移民、メキシコ国境付近 米テキサス州****
米テキサス州のメキシコ国境付近で先週、貨物列車に乗り込んだ100人あまりの不法移民が見つかった。
地元保安官事務所によると、乗務員からの通報で捜査当局者らが出動し、不法入国の外国人100~150人を発見した。

酷暑の中だったが、けが人はいずれも軽傷。1人は列車から降りる時に気を失ったが、地面に落ちる前に捜査当局者らが受け止めた。

車両は極度の高温に達していた。地元当局者は、目的地の同州ユバルディまで乗り続けたら全員死亡していただろうと述べた。

保安官事務所によれば、不法移民の一部は捜査チームが到着する前に逃走したとみられ、列車に乗っていた正確な人数は不明だが、86~90人が操車場で国境警備隊に拘束された。鉄道への不法侵入罪に問われる見通しだという。

米国ではトランプ前政権の下、新型コロナウイルス感染対策として導入されていた不法移民の即時送還措置「タイトル42」が、11日に失効する。これにともない、越境者が急増する事態が懸念されている。【5月9日 CNN】
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記事最後の「タイトル42」失効の件は、後ほど。

流入した不法移民もすぐにメキシコに移され、更に本国へ強制送還されてしまうことで、その不満が爆発することも。

****移民収容施設で火災、39人死亡=送還への抗議発端か―メキシコ北部****
メキシコ北部シウダフアレスの移民収容施設で27日夜、火災が発生し、収容者少なくとも39人が死亡した。原因は調査中だが、本国への送還を懸念した収容者の一部が火を付けたとみられる。

現場は、米国南部テキサス州エルパソと川を挟んで接している国境の街。メキシコ当局などによると、火災発生当時の施設には中南米出身の成人男性68人が収容されていた。29人が負傷して病院で手当てを受けた。

メキシコのロペスオブラドール大統領は28日の定例記者会見で、火災に関して本国送還を知らされた一部の収容者が「抗議」のためにマットレスに火を付けたことから起きたと指摘。「(放火した収容者は)こうしたひどいことになるとは想像していなかった」と語った。【3月29日 時事】
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上記だけではよくわかりませんが、シウダフアレスの移民収容施設に収容されていた移民というのは、アメリカに入ったものの、新型コロナウイルスのパンデミックを理由とする「タイトル42」によって、亡命申請できないままメキシコなどに送り返す「門前払い」された者ではないでしょうか。

一方、不法移民が多く入ってくるテキサス州などの国境地帯では不穏な空気も。

テキサス州ブラウンズビルで7日朝、車がバス停に突っ込みました。地元メディアなどは、8人が死亡、少なくとも11人がけがをしたとしています。付近には移民の避難施設があり、犠牲者の多くはベネズエラ出身者だったということです。【5月8日 TBS NEWS DIGより】

****メキシコ国境・米テキサスで暴走車がバス停突入…8人死亡 “移民侮辱”の言葉も 規制失効で移民流入加速か****
「運転していた男は移民を侮辱していた」メキシコに近いアメリカ南部テキサス州で、車が移民たちに突っ込み8人が死亡した事件、犯行の瞬間の証言です。

メキシコと国境を接するテキサス州で、事件は起きました。(中略)

7日朝、バス停に暴走した車が突入。死亡したのは、保護施設で一夜を過ごしたベネズエラ移民など8人でした。(中略)

目撃者 ベネズエラ出身 ハビエルさん 「理不尽すぎます。被害者の一人は8か国を経て、ようやくここに着いたんです。アメリカンドリームを実現させるために」

車を運転していたのも中南米系の男で、悪意をむき出しにしていたといいます。
目撃者 ベネズエラ出身 ハビエルさん 「『ここから出ていけ、仕事を奪いに来ているんだろう』などと言っていました」

実は現地では。
記者 「川を渡って来た人たちがアメリカ当局に、これから拘束されるものとみられます」

不法入国者が急増し、事件前には非常事態宣言が出されていました。今週、トランプ前政権で始まったコロナ対策に伴う入国規制が失効しますが、移民支援に携わる人は(中略)「移民の入国規制が失効したら、政府は十分な態勢を整えるべきです」

移民流入はさらに加速するとみられますが、テキサス州知事は、新たに450人の州兵を国境沿いに配置し、徹底的に取り締まると発表。さらなる混乱への懸念が強まっています。【5月9日 TBS NEWS DIG】
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【今月11日で「タイトル42」失効】
これまでの記事にもしばしば登場するのが“「タイトル42」失効”という話。

****タイトル42*****
(トランプ)前政権下では20年3月、新型コロナウイルスのパンデミックを理由に、「タイトル42」が発令された。この規則では、米国入りした移民希望者を亡命申請させないまま、メキシコなどに送り返す「門前払い」ができる。

バイデン現政権は今年(2022年)4月、規則を5月に停止すると表明したが、裁判所が認めず、効力は現在も続く。停止されれば、移民希望者のさらなる増加が予想されるため、民主党内にも現状を肯定する意見がある。【2022年10月21日 読売】
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これまで先延ばしされてきた、また、バイデン政権も実質的にそれを容認してきた移民流入制限措置「タイトル42」が、いよいよ5月11日で失効します。

****バイデン政権、メキシコ国境に部隊1500人派遣 不法移民対策で****
バイデン米政権は2日、メキシコ国境からの不法移民流入に備え、国境地帯に軍部隊1500人を追加派遣する方針を明らかにした。

トランプ前政権で新型コロナウイルスの流行を理由に導入された規制措置が11日に失効するのを受け、不法移民の流入が加速すると予想されるための措置。

バイデン政権は、前政権の強硬な移民対策に反対の立場をとってきたが、有効な代替策は打ち出せないまま後手に回っている。

国境地帯にはすでに2500人の部隊が配置されている。国境警備を担う国土安全保障省の要請に基づくもので、新たに派遣される部隊は国境監視や不法移民を収容する施設の運営などに当たる。

ホワイトハウスのジャンピエール大統領報道官は2日の記者会見で、「国防総省は過去20年間にわたって国境警備を支えてきており、(部隊派遣は)珍しいことではない」と述べ、事態を深刻視するべきではないと強調した。

メキシコ国境から流入する中南米系の不法移民を巡っては、共和党のトランプ政権が2020年3月、感染症対策で政府に広範な権限を認める法律を根拠に、拘束した不法移民を強制送還しやすくする措置を導入。バイデン政権はこれを引き継ぎつつも、中南米諸国への支援を強化することで不法移民の発生そのものを抑制する方針をとってきた。

だが、不法移民の流入に歯止めはかからず、昨年は国境で拘束された不法移民数が5月だけで22万人超に上るなど過去最多規模で推移。同措置が失効する今月11日以降はさらに増加すると見込まれている。

24年大統領選での再選を目指すバイデン大統領としては、軍部隊を追加派遣することで、不法移民問題で過度に「弱腰」だとの批判を受けることを回避したい思惑もあるとみられる。【5月3日 産経】
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【バイデン政権 類似制度創設で実質的に移民を締め出すことを検討しているとも】
現実世界で問題となるは、移民対応の在り方云々というより「選挙」 大統領選挙を前に不法移民殺到といった事態になれば、バイデン氏・民主党にとっては苦しい展開ともなります。

失効する「タイトル42」と似たような新制度を創設することが検討されているとも報じられています。

****米バイデン政権、不法移民の送還継続へ新措置****
ジョー・バイデン米大統領は選挙期間中に、迫害を逃れて米国への難民を希望する人々の受け入れに努めることを誓った。

だが大統領就任から2年がたった今、選挙公約とは裏腹に、メキシコ国境に押し寄せる難民希望者の抑制を目指す新制度の策定に動いている。こうした方針転換は幅広い政治的シフトを反映したものだ。

新型コロナウイルスの感染拡大対策として不法越境者の送還を認める「タイトル42」という措置を導入してから3年。数十年にわたり難民希望者に認められてきた権利を聖域としない将来について、民主・共和両党の議員とも違和感を抱かなくなりつつある。

バイデン政権はタイトル42が11日に期限を迎えた後、同様の措置を導入する計画だ。既存の法律は難民希望者の不法越境を明確に認めているが、新たな措置では不法越境者を直ちに厳しい難民基準で審査することになる。

審査基準はほとんどの申請が通らないよう設計されており、通過しなかった人は母国またはメキシコに送還されることになる。【5月9日 WSJ】
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民主党党内では揉めるかも。

【ゼロコロナ政策で急増した中国人不法移民】
コロナ禍では、ゼロコロナ政策を嫌気して、メキシコ国境を超える中国人移民も急増したとか。

****ゼロコロナ余波か、メキシコから米国目指す中国人移民が急増 SNS駆使して情報交換****
中南米を陸路で横断し、メキシコ国境から米国を目指す――。ラテンアメリカからの移民の多くが使うルートであるが、米税関国境警備局(CBP)によると過去半年間で、このルートで米入国を目指す中国系移民が増えているという。 

米メキシコ国境で最近よく見られる光景――米国境警備隊員の聴取を受ける、中国出身者の長い列だ。 
「ここの人たち、ここの警察はとても親切だ。これこそ私が思い描くアメリカだ」 

中南米を経由して、メキシコから陸路で非正規に米国へと渡る中国人移民が増えている 。ロイターは3週間にわたって取材を重ね、テキサス州南東部で数百人の中国人を目撃した。そのうちの20数人から話を聞くことができた。

取材に応じた全員が、陸路で移動することを思いついたきっかけはソーシャルメディアだったと語った。インフルエンサーやプライベートグループ、コメントなどの情報を参考に、渡航計画を立てたという。 

取材に応じてくれた人々は、顔の部分をぼかしてある。 「私はまず湖北から香港に行き、香港からタイに飛行機で渡った。さらにタイからトルコに飛行機で飛び、エクアドルから南米を経て、米国を目指した」 

駐米中国大使館は、メールで次のように述べた。中国政府は不法移民には反対の立場であり、それは「国際的な問題であり、多国間の協力が必要だ」としている。 

中国経済がゼロコロナ政策の余波を受ける一方、米国のビザ取得が困難であることから、メキシコ国境から米国を目指す中国人が急増しているのだ――移民問題の専門家や弁護士、現役およびOBの米政府関係者らは、そう指摘する。 

移民問題に詳しい弁護士はこう話す。 
弁護士 シャオシェン・ファン氏 「中国は非常に厳しいゼロコロナ政策をとっていた。基本的にすべてが閉鎖され、住居も閉ざされ、職場も閉ざされ、国全体が閉ざされた。国民は家でずっと壁を見つめているわけにはいかない。生活するためにお金を稼がなければならない。住宅ローンを払い、食費を稼がなければならない。なのにその機会がなくなった」 メ

キシコ国境で検挙された中国人は、2022年10月からの半年間で6500人以上に達した。これは米税関国境警備局(CBP)が発表した資料によるものだ。

米南西部の国境に到着する数十万人の移民の、ほんの一部に過ぎないが、CBPによると、中国人はこの半年間で最も急増した。

中国人の移民の中には、靴の選び方から信頼できる現地ガイドの探し方、そして支払い方法など移動に関する細かい情報を、SNSに頼る人も。多くの移民が利用するのが、TikTokの中国国内版ともいえるショートビデオアプリ「抖音」だ。(後略)【5月2日 ロイター】
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ただ、中国もすでにゼロコロナを止めて、中国経済も変化している最近でも、中国人不法移民がまだいるのでしょうか?

それにしても、米中対立が険しい今日、「中国に強制送還されたら収容所送りになる」と移民から言われたら、アメリカ当局も・・・・どうするのでしょう?

もっとも、中南米出身者については、送還後どうなろうが、飢え死にしようが、ギャングに殺されようが、「知ったことではない」と強制送還していますけどね。
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EV(電気自動車)普及の流れは世界で加速 取り残された日本自動車産業の「落日」

2023-05-08 22:52:09 | 日本

(今年の上海モーターショー【4月19日 日経ビジネス】 BYDの新車でしょうか 車に関心がない私としては美しい女性の方に目が行ってしまいますが・・・そんなことを言っている状況ではないようです)

【EV普及を「バイ・アメリカン」で進める米政府 影が薄い日本車】
世界的に自動車販売の中心はアメリカと中国。
その「中心地」での自動車ショーの中心は、やはり電気自動車、EV。そして日本の影は薄く・・・

****NY自動車ショーが開幕 EV脚光も日本勢の新型車なく****
米国の主要な自動車ショーである「ニューヨーク国際自動車ショー」が開幕した。7日から始まった一般公開は16日まで続く。電気自動車(EV)の普及拡大が見込まれるなか、米韓勢がEVの新型モデルを出す展開となったが、日本車メーカーでEV関連の新型車を出した企業はなかった。

見本市では、韓国・現代自動車グループや欧州ステランティス傘下の米国ブランド「ラム」がEVの新型モデルを披露した。ラムのモデルは、米国で人気のあるピックアップトラックのEVだ。米フォード・モーターなどライバルの車に対抗する。

一方、日本車で新たなEV関連の出展はなかった。SUBARU(スバル)が多目的スポーツ車(SUV)のオフロード仕様車の新型を公表したが、EVではない。

自動車情報の米ケリー・ブルー・ブックによると、2022年に米国のEV販売台数は21年比66%増の約80万9000台となったが、日本メーカーのシェアはあわせて2%に満たない。車種別で販売台数が1万台を超えているのは日産自動車「リーフ」だけだ。

米国ではバイデン米政権がEV販売補助金の支援対象を北米生産車に限り、米国メーカー優遇との批判が出た。米政権の政策に修正を求めた点では日欧韓とも共通だが、そのうち韓国勢は現代自グループがシェア7%。欧州勢も独フォルクスワーゲンだけで2%超で、日本メーカーすべてのシェアを上回る。

日本勢はシェアだけでなく、EVの北米生産でも欧韓にも後れを取っている。

米国でも、自動車ショーは新型車の発表が少なくなった。車両を展示するだけにとどめるメーカーが多く、米ゼネラル・モーターズなど米主要メーカーも今回は新型車を出していない。ただEVに関しては新型モデルを出すメーカーがあり、日本車の勢いのなさが目立っている。【4月9日 日経】
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アメリカのEV販売補助金は、単にEV普及対策だけでなく、あからさまにアメリカ産を優遇する「バイ・アメリカン」施策でもあります。

****米国企業だけが「EV補助金」…韓国の現代自動車も、日本の日産も除外****
アラバマ工場で生産する現代自動車の車は、バッテリーが中国製で除外
米政府が「インフレ抑制法」(IRA)に基づき最大7500ドルを支給する補助金支給対象の電気自動車(EV)車種は、全て米国メーカーのものだけが選ばれた。

韓国の現代・起亜自動車はもちろん、補助金支給対象だった日本とドイツのメーカーのEVも除外された。(中略)

現代・起亜自動車のEV車種は予想通り一つも補助金支給対象にならなかった。現代自動車が米アラバマ工場で今年3月から生産するGV70は、最終生産地が北米という条件は満たしたが、バッテリーが中国製という理由で選ばれなかった。

過去の基準では補助金支給対象だった日本の日産やドイツのフォルクスワーゲンの一部のEV車種をはじめ10車種は、新しい基準適用によって補助金を受けられなくなった。  

インフレ抑制法の詳細指針は、北米で最終生産されたEVのうち、今年の場合、バッテリーが北米で製造・組み立てられた部品を50%以上使っていれば3750ドルを支給するようにした。

バッテリーの主要な鉱物は米国または米国と自由貿易協定(FTA)を結んでいる国で採掘・加工したものを40%以上使っていれば3750ドルの補助金がもらえる。両方の条件を満たせば7500ドルが支給される。

消費者価格が乗用車は5万5千ドル以下、SUV、バン、ピックアップトラックは8万ドル以下でなければ補助金の対象にならない。  

今回の補助金支給対象選定で、米国メーカーのEVは米国市場で相当な優位につくことになった。(後略)【4月18日 the hankyoreh】
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アメリカは今後も、EV販売補助金に加えて排ガス規制の面でもEV普及を加速させる方針です。

****バイデン政権が新たな排ガス規制案を公表 2030年に新車販売の6割をEVに****
アメリカのバイデン政権は、自動車の新たな排ガス規制案を発表しました。EV=電気自動車の販売をより加速させる内容です。

アメリカ環境保護局が12日に発表した新たな排ガスの規制案は2027年から2032年にかけてつくられる車が対象で、CO2=二酸化炭素の排出量基準を毎年、段階的に厳しくしていきます。

2032年型の乗用車は、2026年型と比べてCO2排出量を56%削減する必要があります。

バイデン政権は2030年に新車販売の5割をEVなどの電動車とする目標を掲げていますが、今回の規制案によってEVの普及が加速し、2030年にはEVが新車販売の6割を占めるとみています。

規制案は企業や環境団体などから意見を公募した後、決定されます。【4月13日 TBS NEWS DIG】
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【世界最大の自動車市場・中国も“EV一色” EVだけで、日本の新車販売台数を上回るEV大国へ】
もうひとつの「中心地」中国も“EV一色”という状況です。
14年連続、世界最大の自動車市場を維持する中国は販売台数の25%以上がEVなど新エネルギー車、いまやEVだけで、日本の新車販売台数を上回るEV大国となっています。

****上海モーターショーはEV“一色” 中国「BYD」のスポーツカーに注目****
世界の電気自動車市場をリードする中国では18日午後から上海モーターショーが始まっています。

(高橋大作記者報告)
東京ドーム8個分という非常に広い会場に1500台の新車が並べられた最大規模な展示会ですが、なかでも注目を集めているのが中国国内EV市場、急成長したBYDです。

去年、中国では2680万台の自動車が販売され、14年連続、世界最大の自動車市場を維持しました。

去年販売された車のうち25%以上が電気自動車などの新エネルギー車で、モーターショーの会場では国内外のメーカーが新型のEV車を発表するなど、しのぎを削っています。

中国勢主導で急速に電気自動車の普及が進むなか、中国政府は去年末、一定の役割を終えたとして新型エネルギー車に対する国内での補助金を打ち切りました。

中国メディアは電気自動車の競争はこれからもっと激しさを増し、多くの新興メーカーは淘汰(とうた)されるだろう、代わりに生き残ったメーカーだけが成長する「EVの新時代が始まるであろう」と報じています。【4月18日 テレ朝news】
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これまでEVの問題点とされていた走行距離について、各社とも改善を続けており、メーカーによっては、1回の充電で1千キロ超を続けて走れるものも出てきたとか。新興EVメーカーのEVは10分間の充電で最大300キロ走れるとのこと。

専用ステーションでの電池交換というアプローチも進められています。

【EVの予想を超える普及スピードに日本メーカー“ようやく”覚醒 遅れを取り戻せるのか?】
アメリカにしろ、中国にしろ、影が薄い日本車・・・・日本国内でも普及が進んでいない状況ですから当然と言えば当然ですが。

****中国のEV化のスピードに衝撃受けた日系メーカー、軒並み覚醒―中国メディア****
2023年4月29日、経済観察報は、中国での電気自動車(EV)が予想を超えるスピードで普及していることで、日本の自動車メーカーが「集団覚醒」したと報じた。

記事は、これまで電動化に向けた動きが遅かった日本メーカーが、先日開催された上海モーターショー期間中に突然覚醒したとし、トヨタ、ホンダ、日産がそれぞれ明確なEV化計画を立て、なおかつ中国市場を超重要市場に位置づけたと伝えた。

そして、トヨタが26年までにEV販売台数150万台を実現し、日産も26年までに中国市場でEV7車種を出して30年までに中国市場でのEV比率を80%にまで高め、ホンダに至っては35年までに新車販売におけるEV比率を100%にする計画を発表するとともに、各社の幹部の発言からもEV化への強い意志がうかがえるようになったと紹介している。

その上で、日本メーカーの姿勢が大きく変わった最大の要因が、中国のEV普及ペースが予想を完全に上回ったことだと指摘。

19年には120万6000台だった中国国内のEV販売が3年後の22年には5倍以上の688万7000台にまで増える
一方で、化石燃料を主体としている日本メーカーの22年の販売台数は前年比10.3%減の409万2000台に留まっており、EVを発展させなければ日本メーカーは中国市場での業績を維持できなくなっているとした。

世界的な脱炭素社会に向けた取り組みの中で、日本メーカーもカーボンニュートラル推進の必要に迫られているという要因もあると解説した。

また、日本メーカーは近頃、EVへのモデルチェンジを加速するための人事変更を相次いで行ったとも伝え、トヨタでは佐藤恒治新社長が就任直後にEV販売を26年までに60倍まで増やす計画を打ち出し、ホンダも4月1日に電動事業開発本部を立ち上げて中国本部長だった井上勝史氏が本部長に就任したと紹介している。

さらに、EV事業では「後発」となる日本メーカーは中国での研究開発や提携を加速しているとも紹介。

トヨタは中国を柱とするインテリジェント化、電動化研究開発体系の構築を目指し、今後は中国での製品について開発や生産の多くを現地のエンジニアや合弁会社に委ねる姿勢を示し、日産も中国国内のパートナーを通じて中国市場への理解を深めるとともにソフトウェア分野の提携を展開し、ホンダも多くの製品の開発権限を中国のパートナーに付与すると伝えた。【5月2日 レコードチャイナ】
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「今頃“覚醒”かよ!!」というのが正直な感想。
日本メーカーは、当分EVは普及しないという確信があったから、これまでEVに本格的に取り組んでこなかったのでは? その判断は間違っていたのか? 今頃ようやく間違いに気付いたのか?

ガソリン車で技術的優位を誇っていただけに、そこに固執し、新しい流れへの対応がとれてこなかった・・・素人目にはそのように映ります。「技術革新」が起きるとき、旧技術でのトップ企業がまだ低レベルの新技術を見下し、結果的に革新の波から“取り残される”というのはよくある話です。 驕り・傲慢の結果でしょう。

もちろん自動車メーカーだけの問題ではなく、充電施設など使用環境の整備を怠ってきた政府を含めての問題でしょうが。

覚醒したとのことですが、遅れを取り戻せるのか?

****EV急伸する中国市場、落日の日本勢は販売台数3割減 EV出遅れのツケ大きく価格競争でも「最大の敗者」****
世界最大の自動車市場、中国での日本車メーカーの販売減少が深刻だ。急速な電気自動車(EV)シフトにさらされ、日本勢の中国での乗用車販売台数は2023年1─3月累計で前年同期から3割以上落ち込んだ。ガソリン車でブランド力を維持してきた日本勢は苦戦し、三菱自動車はガソリン車の現地生産停止にまで追い込まれた。

日本勢は巻き返しを図るが、EVの普及スピードを読み誤ったツケは大きく、収益力のあるEV開発で、かつての地位を取り戻せるか見通せない。

S&Pグローバル・モビリティの西本正敏プリンシパルリサーチアナリストは、世界第2位の自動車市場である米国でも政府がEVの普及を進めようとしており、日本勢は「米国でも中国と同じように苦戦を強いられる可能性がある」とみている。世界2大自動車市場でシェアを失うことは日本勢にとって「非常にリスクだ」と指摘する。

ロイターが分析した各社発表と業界団体のデータによると、日本勢の今年1─3月の中国の新車販売台数は前年同期比32%減った。トヨタ自動車(高級車ブランド「レクサス」を含む)が14.5%減だったほか、日産自動車が約45%減、ホンダが38%減と大きく落とした。マツダ(約66%減)と三菱自(約58%減)は半分以下になった。

デンソーの松井靖経営役員は4月27日の決算会見で、取引先の日本車メーカーの中国での販売状況は「足元の計画に対して落ちている。計画の6割くらいのところもある。新車の在庫が多くなっている」と説明。別の部品メーカー幹部も「トヨタ、ホンダ、日産全てが計画割れで、問題になっている」と話した。(中略)

価格競争でも敗者に
中国では今年に入り、EVの値引き合戦が繰り広げられている。テスラが1月に値下げしたのを機に、中国勢、欧州勢、日本勢が追随。テスラは需要拡大を受けて値上げにも転じているが、それでも1月の水準を下回っている。

中国・上海を拠点とするコンサルタント会社オートモビリティのビル・ルッソCEO(最高経営責任者)は「価格競争の最大の敗者は今のところ日本勢だ」と指摘。「EVがより手頃になればなるほど、外国車ブランドの購買層にとってEVはより魅力的になる」とし、日本勢にとって「不吉な前兆がみられる」と語った。

S&Pグローバル・モビリティの西本氏は、特に中国の若年層は「ハードウエアの品質や耐久性ではなく、エンタテインメントなどのソフトウエアを重視してEVを購入している」といい、日本勢の中国でのシェア回復には「中国の顧客ニーズにあったEVの開発・投入が非常に重要だ」と話す。

トヨタの佐藤恒治社長は4月21日の合同取材会で、価格の問題は「普及を考える時には大事なファクター(要因)だが、まず今やらなければいけないのはEVとしての基本性能をしっかりつくり込み、その上で特に知能化に対して付加価値を実現していくこと」と述べた。

EVの出遅れを指摘する声は「『トヨタもっとがんばれ』という声だと受け止めている」と認識。販売台数では他社に遅れているが、二酸化炭素(CO2)削減の点では「むしろ先を走っている」とし、「しっかり中国市場に向き合いEVを加速していきたい」と語った。

ホンダの三部敏宏社長も4月26日の合同取材会で、ソフトウエアや自動運転などの分野で「中国勢は相当、先を行っている」と認めた。「このままでいいとは考えていない。反撃する」と述べた。詳細はまだ話せないとしつつも、ホンダもソフトウエアなどの分野で「十分戦える」として「中国勢とは違う攻め口」で必ず形勢を逆転させるとしている。【5月3日 Newsweek】
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【日本車の「牙城」“だった”東南アジアでもEV普及の流れ】
単に、中国市場やアメリカ市場だけでなく、日本車が約9割を占めるという日本自動車の「牙城」、インドネシアでも中韓メーカーが先行するEVの販売台数が急拡大しており、日本メーカーは対応できずにいます。

インドネシアのEV市場は2021年の685台から2022年は1万327台と15倍になっていますが、そのほとんどを中韓メーカーが占めており、日系メーカーはトヨタと日産の合計で21年は計95台、22年は計203台と微々たる数字になっています。

インドネシアにおけるEV加速には政府の後押しも。
インドネシアはEV電池の材料となるニッケルの産出国で、インドネシア政府はそれを生かしてEV生産のハブになる構想を持っています。また、ガソリンなどの燃料の輸入に投じる多額の国家予算を減らしたいという思惑も。

そのため、日本メーカーはハイブリッド車の技術的優位性を主張しても、インドネシア政府のEV優先は今後更に加速すると思われます。

EVに主軸を移した対応はタイ、マレーシアなど他の東南アジア諸国でも同様です。そしてEV販売が増えると、そのほとんどが中韓メーカーということで、日本メーカーの影は日本車の「牙城」東南アジア市場でも薄くなることが予想されます。

欧州が脱炭素でEVを推し進める方針なのは言ううまでもないところ。(ドイツのごり押しで「合成燃料」容認といった話はありましたが、EV化の基本線は変わらないでしょう)

【10年後、20年後、一体何が日本経済を支えるのだろうか?】
かつて世界市場を席巻した日本の家電製品は今や見る影もありません。

日本は自動車でもガソリン車・ハイブリッド車に拘ってガラパゴス化するのか・・・。

私自身は車はおろか普通免許さえ持っていませんので(原付のみ)、EV自体には全く関心がありません。ただ、これまで日本経済を支えてきた日本自動車産業の「落日」が予想もされるとなると、「10年後、20年後、一体何が日本経済を支えるのだろうか?」と不安になります。
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中国  想定以上に進行する少子化 中国版「異次元の少子化対策」を模索 「新しい家族の形」への道も

2023-05-07 23:19:48 | 中国

(【5月1日 Newsweek】 一人っ子政策から様変わり 巷では、二人目以降の大学入試に加点するとか、更には、例えば2人の子供をつくるまではコンドームを買えないようにするといった過激な案とか・・・いろいろあるようですが)

【四川省では未婚女性の出産児も届け出容認、医療保険も適用】
中国の統計数字はどこまで信用できるのか・・・という問題はさておき、今年1月、およそ14億人とされる中国の人口が想定より早く減少に転じたことを中国政府も認めました。

****中国で始まった人口減少 その裏側にある、2つの切実な「大問題」****
(中略)中国国家統計局は先週、去年年末の総人口が前の年と比べて85万人少ない14億1175万人と、61年ぶりに人口が減少したと明らかにした。(中略)

(中国国内事情に詳しい講談社編集次長)近藤氏は人口減少の背景について、「中国は1980年代から2015年までおよそ35年間一人っ子政策を続け、その結果、急激に子供が減る反面、高齢化が進み、人口ピラミッドがいびつな形となった」と指摘した。

また一人っ子政策を推進した鄧小平氏の政策について、「“大事な子供を全員、大学に入れよう”と、大学の数を急速に増やした。経済発展をするためには高学歴の若者を増やす必要があるという側面もあった。ところが、去年大学を卒業した中国人は1076万人、今年は1100万人以上。中国経済は減速しており、大卒の全員が就職するのは到底難しく、就職難に陥っている。これを『卒業即失業』と呼び、流行語になっている。」と述べた。

中国の人口減少の裏側で問題となっているのはこうした『若者の就職難だけではない』という。近藤氏は、「中国では結婚適齢期の男性が女性より3000万人多い。3000万人という数は日本の人口の4分の1に匹敵し、大変な男女比となっている。よって男性が結婚できないという深刻な問題が起こり、さらに人口減に拍車をかけている」と解説。(後略)【1月25日 ニッポン放送NEWS ONLINE】
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人口減少は日本でも社会・経済に大きな変革を促す大問題ですが、中国の場合、長年の人為的“一人っ子政策”及び根強い男子尊重の風潮などから、人口構成が非常に“いびつ”になっているという問題もあります。

習近平国家主席は5日、第20期中央財経委員会第1回会議を開催し、「質の高い人口発展で中国式現代化を支えることに関する問題を検討する」ことを強調しています。

****習近平総書記「質の高い人口発展で中国式現代化を支える」****
(中略) また、会議では、「現在中国の人口発展には少子化や高齢化、地域人口増減分化という傾向・特徴が見られる。こうした中国の人口発展の新たな状況を全面的に認識し、正しく捉えなければならない。

強国建設と民族復興という戦略的方針に着眼し、新時代の人口発展戦略を整備し、人口発展の新たな常態を認識し、これに適応し、導いて、人口の全体的資質の向上に力を入れ、適度な出生水準と人口規模の維持に努め、資質が優れ、総量が十分で、構造が最適化され、分布が合理的な現代化人的資源の育成を加速させ、質の高い人口発展で中国式現代化を支える必要がある。

系統的観念で人口問題を統一的に計画し、改革・革新によって質の高い人口発展を後押しし、質の高い人口発展と人民の質の高い生活とを密接に結び付け、人の全面的発展と人民全体の共同富裕を促進する必要がある」という点が強調された。【5月7日 レコードチャイナ】
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相変わらず、読むのに苦労する難解な共産党用語羅列ですが、要するに、国家発展のためにバランスのとれた人口増加に資するように務めなければならない・・・ということでしょう。

そうした習近平国家主席など党中枢の危機感も反映して、このところ中国版“異次元の少子化対策”とも言えるような、これまでの政策から大きく転換する施策が実施されています。

****中国・四川省、未婚女性の出産児も届け出容認へ…少子化進み「結婚の有無より産みたい意思」****
中国の四川省政府は、少子化対策の一環として、出産の際に未婚者が既婚者と同様に医療サービスを無料で受けることなどを可能にするために、関連法規を改正した。未婚女性が出産する際の不利益をなくし、出生数の増加につなげる狙いがあるとみられる。

四川省では現在、既婚カップルのみが、合法的に出産した子供を登録できる。2月15日以降は、既婚、未婚を問わず、生まれた子供を登録できるようになる。また、出産時の医療保険も、既婚者と同様に未婚者にも適用される。
 今回の改正について、四川省の衛生担当部局は、「結婚の有無よりも産みたいという意思に重点を置いた措置だ」と説明している。(後略)【1月31日 読売】
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“現在、既婚カップルのみが、合法的に出産した子供を登録できる”・・・・「未婚女性が出産した子供はこれまでどうしてのか? 戸籍外の「黒孩子」(闇の子)か?」というそもそもの疑問がありますが、日本でもとかく公的サービスから漏れてしまう未婚女性出産をカバーしようというのは前進でしょう。

30日の「結婚奨励有給休暇」あるいは「妊活有給休暇」の取り組みも。

****中国の一部省政府、結婚に30日の有給休暇 出生率向上を期待****
中国共産党機関紙、人民日報健康号は21日、国内のいくつかの省政府は結婚するカップルが増え、低迷する出生率が上昇するのを期待して、若い新婚夫婦に30日間の有給休暇を与えていると報じた。

中国では結婚の有給休暇は最低3日だが、2月以降、各省がより長期の休暇を独自に設定することが可能になった。甘粛省と山西省は30日間の有給休暇を出すようになったが、上海は10日間で、四川省はまだ3日間だという。(後略)【2月22日 ロイター】
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中国の場合、一部の省・都市で先ずやってみる・・・結果がよければ範囲を拡大して、やがて全国で・・・という方法がごく普通に取られます。

この点は、全国一律に拘り、とかく対応が遅れがちな日本も参考にすべきかと思いますが、“横並び意識”が強い日本では難しいのかも。そもそも“先ずやってみる。その後は結果を見て”という発想が日本にはない。
リスクを極限まで減らした全国一律の制度が出来るまで待っていたら、いつになってもスタートしないことにも。

【未婚女性の体外受精治療も容認】
少子化対策としての体外授精も重視されるようになっています。

****中国で急激な少子化…精子バンク登録で10万円も 名門大学で「頭に脱毛がない人」「身長165cm以上」が精子提供者の条件に***
最新の統計で人口減少局面に入った中国。急速に進む少子化を食い止めようと、「精子バンク」への登録が奨励されるなど、さまざまな対策が取られています。(中略)

未婚で長女を出産した女性  「(父親になるはずだった男性から)『もし男の子なら結婚を考えるけれど、女の子なら結婚しない』と言われました。価値観が合う人と家庭を作るのが一番ですが、『未婚の母』を選ぶのも悪いことではないと思います」 いまは子育てに専念していますが、ゆくゆくは仕事を再開し、自分の力で育てていくつもりです。 

(中略)四川省では先月からこれまで結婚している夫婦にしか認められていなかった子どもの戸籍登録が未婚者でもできるようになりました。これにより、出産時に医療保険が適用されるようになったほか、身元確認書類も発行されます。 

未婚で長女を出産した女性 「いろいろな意見はありますが、政府が支援するからこそ、(未婚での出産も)世間が受け入れやすくなります」 
シングルマザーを支援する弁護士 「これまで(出産時の)医療保険がもらえなかったので、制度改正はいいことです」 

さらに、いま中国で呼びかけられているのが… 「精子を提供するボランティアに5000元(約10万円)を支払います」 「精子バンク」への協力です。精子を不妊で悩む夫婦に提供することで、子どもを産んでもらおうというのです。 

東部の山東省政府は先月、精子を提供した20歳から45歳の中国人男性に対し、日本円でおよそ10万円を支払うとSNSで呼びかけました。 

さらに、上海の名門大学では精子を提供する人に対してこんな条件も… 「頭に明らかな脱毛がない人」 「身長は165センチ以上」 

当の男性たちはどう受け止めているのでしょうか? 「正常なことだと思います。これもある意味で良い精子を選ぶためです」 「応援します。国に貢献できるから」 

ただ、少子化の原因は晩婚化のほか、教育費などの経済的負担とみられています。 「経済が良くなって、物価もずっと上がっています。今の給料では、自分一人しか生活できません」 「世話をしてくれる人がいなくて、子どもを産んだ後に仕事ができない」 矢継ぎ早に打ち出される中国の少子化対策は、政府の危機感の裏返しともいえそうです。【3月1日 TBS NEWS DIG】
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精子提供を呼び掛けるのはいいとして、そこに外見的条件をつけるというのは日本ではNG。いかにも中国らしい“現実的対応”です。

前出の未婚者が既婚者と同様に医療サービスを無料で受けることなどを可能した四川省の場合、未婚女性の体外受精も認められています。

****中国人口減に歯止めか、独身女性の体外受精 一部で解禁****
人口減少にブレーキをかける取り組みを進めている中国にとって、33歳の女性チェン・ルオジンさんのケースが1つの打開策になる可能性を秘めている。

離婚を経験したチェンさんが暮らす四川省の省都、成都市は今年2月、婚外子の出生登録を合法化。これによって以前は結婚したカップルにだけ付与されていた出産休暇や児童手当の受給資格が、結婚していない女性にも認められた。

チェンさんから見て重要だったのは、市当局が民間医療施設における体外受精(IVF)も解禁したことで、今彼女は妊娠10週目に入った。

物流現場の仕事に携わるチェンさんは「シングルマザーになることはみんなにとって幸せとは言えないが、私は喜んで決めた。結婚するのと同じく、しないのも個人の判断だ。私はIVFを受けている多くの独身女性を知っている」と話した。

中国政府のアドバイザーは3月、過去60年で初めて人口が減少に転じ、急速な高齢化が進行する社会への懸念から、結婚していない女性に卵子凍結とIVF治療の利用を認めるよう提案した。

IVFが中国全土で自由化されれば、既に世界最大の不妊治療市場となっている中国で需要がさらに拡大してもおかしくないため、投資家の間でも期待が広がっている。

INVOバイオサイエンスのアジア太平洋事業開発ディレクター、イブ・ライペンス氏は「中国が政策を変更して独身女性が子どもを持つのを許したなら、IVF(体外受精)需要の増加につながる可能性がある」と述べた。同社は現在、中国でIVF技術を展開するため当局の承認を待っている状態で、昨年には広州市の企業と提携契約を結んでいる。

ただライペンス氏は、突然需要が上向けば中国が抱える供給制約の問題も一層大きくなってしまうと警告した。

中国国家衛生健康委員会(NHC)はIVF解禁についてのコメント要請には応じていないが、多くの若い女性が結婚や子どもを持つ予定を先送りし、教育費や育児費用の高さのために婚姻率が低下してきたと認めている。

NHCの四川支部は2月に婚外子登録やIVFを承認した際に、これは長期的にバランスの取れた人口の進展を促す狙いだと説明した。

上海市と広東省も婚外子登録は認めたものの、独身女性のIVF利用は引き続き禁止している。

<膨大な需要>
ライペンス氏は、新型コロナウイルスの流行前にフル稼働していた中国のほとんどのIVFクリニックは、再び同じ状況に直面する公算が大きいと予想する。IVFを受けたくても受けられない人々の具体的な推計値は存在しないが、治療中の何人かの女性は、診察を受けるまで数時間かかると明かした。

四川省の重慶市でIVFを受けている34歳の既婚女性は「病院には順番待ちの非常に長い列ができている」と語った。

学術誌や業界専門家によると、中国の官民の病院やクリニックは年間で約100万ラウンドのIVF治療サイクルを提供している。他の外国は通常150万ラウンド。治療費は中国では3500―4500ドルと米国のおよそ4分の1に規制されている。

中国にある官民のIVF取り扱い施設は539カ所。NHCは2025年までに230万人当たりに1カ所の割合で設置する方針で、実現すれば施設数は600カ所を超える。

中国のIVF市場は治療、医薬品、関連機器を含めて25年には足元の497億元の2倍近い854億元に達するとの調査結果もある。

中国のIVF施設に製品やサービスを供給しているメルク・チャイナのマネジングディレクター、ビビアン・チャン氏は、経済的にはあまり豊かでない内陸部の都市でも、北京や上海と似たような不妊治療施設の整備が急速に行われていると述べ、この分野で満たされない膨大な需要がある以上、中国のIVF市場の先行きを「とても楽観している」と付け加えた。(中略)

<広がる選択肢>
米国ではIVFサイクルの平均成功率は52%。これに対して北京の不妊治療専門病院のディレクター、リン・ハイウェイ氏によると、中国の場合、女性が受けるストレスの高さや平均出産年齢の上昇などのため成功率は30%強しかない。

人口問題の専門家は、中国には所得の低迷や教育費の高さ、社会的な安全網の不備、男女格差といったもっと関心を払うべき別の要素があるので、不妊治療サービスを提供しても人口減少の解決にはつながらない、とも主張している。

それでもIVFを全面解禁すれば、一定の影響は及ぼしそうだ。
リン氏の試算では、既に中国でIVFを通じて生まれた子どもは30万人前後と、新生児全体の約3%を占める。

同氏は「近くこれに関連した政策が打ち出され、子どもをほしがっている多くの人々を満足させ得ると信じている」と語った。

確かに中国では近年、出産をあきらめたり先送りしたりする女性も増えてきたとはいえ、全体的に見れば母親になりたい女性はなお多い。

湖南省出身で国際金融論を専攻する22歳の大学生ジョイ・ヤンさんは、テレビでIVFの話を最初に耳にした時、中国全土で解禁してほしいと思ったと話した。そうなればパートナーは探さなくとも金銭面の条件次第で子どもが持てるからだ。

「結婚はしたくないが、それでも子どもはほしいと思う相当数の女性はいる。私はIVFを選択するかもしれない」と語った。【5月7日 ロイター】
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【「新しい家族の形」】
中国政府が人口減少対策として全国的に公認する形になれば、未婚女性の体外受精、精子提供者の拡大、結婚を取り巻く厳しい環境・・・いよいよ結婚せずに、子供だけは体外受精で欲しいという社会スタイルが一般化しそうにも思えます。

日本では、第三者からの精子提供について、日本産科婦人科学会のガイドラインは「夫が無精子症などで、法的に結婚している夫婦」に限り、人工授精のみ認めています。そのため出産を希望する未婚女性は海外精子バンクなどを利用することが多いようです。

****「結婚より子どもが欲しい」 私がシングルマザーを選んだ理由****
結婚はしないが、子どもを持ちたい――。さまざまな理由から、あえて未婚のまま妊娠し、母となることを選ぶ女性たちがいる。

日本では長年、「結婚」と「出産」がセットで語られることが普通だった。経済的に自立した女性が増えたことなどを背景に、「新しい家族の形」が生まれている。(後略)【3月7日 毎日】
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人口減少以上に、大問題かも。
私個人は、付随する問題はあるにせよ、基本的には、結婚する・しない、出産する・しないは個人が選択する問題だと考えますので「いいんじゃね?」と思いますが、あくまでも結婚が社会の原則的構成単位で、未婚女性などの権利は一定に認めるにしても、あくまでもイレギュラーの扱いと考える伝統的価値観からすれば、社会の在り方を揺るがす問題とも思えるでしょう。

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