野島康三作品の代表的モデルに『モデルF』という女性がいる。私は野島の絵画主義的作品にうたれたと同時に、女中だったというF嬢の眼差しにうたれた。現在ならアジアの山岳民族でも探さないといないような面構えである。 90年代の初め、オイルプリントの実験を始めた。ブロムオイルをやるつもりであったが、使用可能な印画紙が判からず、仕方なく一世代前のオイルプリントにした。感度が低く、作品大のネガが必要であるため、引き伸ばした印画紙を使うブロムオイルに淘汰されたのであろうが、今となればデジタルによる拡大ネガの時代であるし、印画紙の製造中止を心配する必要がなく、かえって良かった。 ところでこの『モデルT』である。写真好きでなかったはずの私が突然8×10インチのカメラを入手し、納得した画が1カット出来たら止める。と自分にいい聞かせながら仕事そっちのけで奮闘していた頃の撮影である。Tさんに「やり方は間違っていないはずなんだけど、野島みたいにならないんですよー」。などといいながら撮影したのを覚えている。ようやく20年を経て、オイルプリント化ということになる。Tさんはとっくに故郷に帰ったと聞いた。
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