特集が柳田國男に決まった当初、それに乗じてカッパが作れると喜んだのだが、背景は遠野ではなく、都営地下鉄は牛込柳町駅周辺である。 『遠野物語』は遠野出身の佐々木喜善から聞いた民話を柳田がまとめた物である。柳田の背景に具体的な形を持った“物の怪”を配するのは違うのではないか。まして遠野特有の『赤河童』というわけにもいかない。頭の中でイメージしてみると、天狗や河童に囲まれ、柳田が居心地悪そうにしているので、その類は登場させないことにした。それに前号の『円谷英二と勝どきを歩く』では巨大ダコを登場させたりして少々調子に乗りすぎたので、今号は落ち着いた物にしたい。 とりあえず近辺の神社仏閣など検索してみた。駅のすぐ近くに神社が在ったが、都心の神社だというのに画像が1カットもでてこないし、詳しい住所も判らない。今はもうないのではないか、もしくはデジカメ片手の散歩者が歯牙にもかけない神社であろう、と記録的な猛暑の中歩き回り、あるお寺の中庭を鬱蒼とした森に見立てることにした。多少妖しく色調を変え、いつになく早めに背景が準備できた。 編集部の方針としては、とにかく特集駅近辺での撮影を、ということで、画にもなっているしこれで良いのだが、背景がただ樹木では牛込も柳町もない。わざわざ現場まで出向いて撮っていることが、たんなる馬鹿正直に思える。柳田は今までアダージョで扱った人物で、もっとも顔が知られていない人物であろう。このままでは、ただ森を散歩しているご隠居である。私としては、円谷ほどでなくても、多少“その筋の人”ということが表現したいところである。そうこうして編集会議の日、取材で撮られた小さな没カットの中に件の神社があった。そのカットでは表紙に使えるかどうかは判断できない。時間的に無理だと思いながら、気になって仕方がない。結局我慢できずに締め切り直前。小雨降る中、近くの交番でもしばらく判らなかった『中守稲荷神社』に向かった。小雨のおかげで敷石など、しっとりとした味を出していたし、なにより注連縄、狐など柳田的アイテムを入れることができて、いくらかでも“その筋の人”ということが表現できたのではないだろうか。
過去の雑記
HOME