朝、久しぶりにT屋に朝食を食べに行くと、Kさんが、私が部屋で倒れているんじゃないかと心配した、という話を、ここにも報告に来たらしい。前日夜中まで一緒に飲んでおり、実質、半日携帯電話に出なかっただけである。もし私が実際死んでいたとしても、まだフレッシュで腐敗も始まっていなかったであろう。しかも肝腎な私の部屋のチャイムを鳴らす前に、周囲に電話してしまうは、管理人の所に行くは。あげくに無事を確認して涙が出たとは。勝手に泣いてろ、という話である。呆れるのも少々飽きてきた。
撮影用の血糊を注文する。血糊といえば、江戸川乱歩の『盲獣』の撮影の時、ペットボトルに絵の具を溶いた物を用意して雪を求めて撮影に行ったが、イチゴのカキ氷にしか見えなかった。リアルにすることが目的ではなかったので、最終的には血糊を消し、切断された足先が、積もった雪の間から覗いているだけにした。 絵の具でなくインク系の物を使うとか、やりようがあるだろうが、メーカーは血糊に見えるよう研究しているだろうし、安い物なので一瓶注文してみた。私は独身である。入浴の際、鏡の前で鼻や口から垂れ流したり、プロレスの流血試合風に額から大流血してみることも、我慢する理由がない。三島由紀夫は血糊はマックスファクターだか何処かの何が良い、といっていたらしいが、どうせなら三島と同じものを使いたいではないか。証言者は肝腎なことを覚えておいてもらいたい。 Kさんは酔っ払ってコタツの角に額をぶつけて大流血。旗本退屈男を超えるトレードマークを額に刻印した。しかしよく四十七文字の中から“へ”を選んだものである。Kさんこそ“持っている男”といえるだろう。畳の血痕は消えないらしい。
過去の雑記
HOME