私は牡丹灯籠なる物の実物を見たことがない。たやすく入手できるだろう、とたかをくくっていたら検索しても出てこない。似たような雰囲気の物はあっても、吊り下げ用の2メートル近くの物だったりして、お露がカランコロンと下駄を鳴らして優雅に持ち歩くような物ではない。また作らなければならないのか? 『貝の穴に河童の居る事』では人間側の中心人物が持つ郷土玩具が出てくる。この笛吹の芸人は、もともとは麻布あたりの資産家であったが、地方の祭事や郷土玩具を研究しているうち、芸人になってしまった男である。河童に化かされながらもそれを持って街中を踊ってしまう。鈴をくわえた雀が弓状の物を伝って降りてくるような感じらしい。朗読ライブでも竹本越考さんの語る「チンカラカラ」に鶴澤寛也さんの三味線による擬音も効果的であったが、鏡花が書いた当時は、ポピュラーな玩具だったかもしれないが、どんな物か判らなければ頭に浮かびようがない。制作当時再現しようと作ってみたが、写真であるからにチンカラカラと動く必要はなかったが、雀らしい可愛い動きをしたときは嬉しかった。再演の機会があれば、その部分を動画にしてみるのもよいかもしれない。 探しても出てこない灯籠だが、やっと地方の製作所に、近いものを一つだけ見つけた。多少工夫すれば使えそうで安心する。やはり『貝の穴に河童の居る事』の時。巨大魚イシナギは不可欠である。もちろん巨大魚を使うわけにはいかないので手ごろなサイズを扱っている鮮魚店のHPを見つけ、安心していた。さてそろそろ撮影を、と連絡すると不通である。調べてみたら震災で跡形もなくなっていた。鮮魚店のページには魚のGIF画像が、いかにも活きが良さそうにピクピク踊り続けているのが哀しかった。
HP