明日できること今日はせず
人形作家・写真家 石塚公昭の身辺雑記
 



三島が喜びそうな死に方は、『仮面の告白』の以下の文章を読めば良く判る。私のイメージの元はこれであった。『希臘の兵士や、アラビヤの白人奴隷や、蛮族の王子や、ホテルのエレヴェーター・ボオイや、給仕や、与太者や、士官や、サーカスの若者などが、私の空想の凶器で殺戮された。私は愛する方法を知らないので誤って愛する者を殺してしまふ・あの蛮族の刧掠者のやうであった。地に倒れてまだぴくぴく動いている彼らの唇に私は接吻した。』『そこで私はいつになっても、理智に犯されぬ肉の所有者、つまり、与太者・水夫・兵士・漁夫などを、彼らと言葉を交わさないやうに要心しながら、熱烈な冷淡さで、遠くはなれてしげしげと見ている他はなかった。』 それにしても死の寸前、自ら魚屋になって、魚ぶちまけ、包丁を腹に刺して死んでいるところを撮らせていたとは畏れ入る。その代わり私は三島が幼い時に目撃し、「私が彼になりたい」「私が彼でありたい」という欲求にしめつけられたという糞尿汲取人にお望みどおりしてあげたが、倒した肥桶からこぼれるのは大量の血液だ、と思い付くまで不覚にもちょっと時間がかかってしまった。石塚版『男の死』を修正している。私の悪い所は作ってしまうと放ったらかしにしてしまうことである。震災の影響で、三島の命日に画廊にキャンセルが出て、そこから寝床に本を敷いて、寝心地悪くして睡眠時間を削って間に合わせた。近々田村写真で大きなプリントを試すことになっているが、この中からも、と見ているうちに気になるところを修正しはじめ、良くなった。 三島を制作するにあたり、せっかく関の孫六の模造刀を入手したのだから、窓に映った己の姿を見ながら振り回すだけでなく、いちおう“三本杉”の刃文もついているから撮影に使いたい。

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )