幼稚園での記憶。お絵描きの時間。クレヨンを手にしながら、あるいは工作をしながら、自分の中に何かが起きている感覚があった。今思うとある種の快感物質が出ていたのだろう。幼い子供が口を開けたまま東の空でも眺めていたら危険である。お隣のおばちゃんに「ボク、口を開けてると埃が入るわよ。」とよくいわれた。母はさすがに異変を感じていた。自分と何かを比較して考えるという、おそらく社会人として生きるために用意されている、そんな部分が欠如していた。おかげで思い付いたら躊躇せず作る。 唯一躊躇といえば、陰影を排除した時。良かれと思って作った陰影である。何事もそうだが、何かを得るためには何かを捨てなければならない。この理屈は理解していた。引き換えに構図の自由を得た。そしてまた再び陰影を与えようとしている。