イエオニグモ クモは下をむいているのが普通である。うっかり回転させてしまった。
居間からトイレに通じる中廊下にイエオニグモが網をはった。ライトがトイレの前あたりなので、網のあるところは薄暗く、クモは天井からぶら下がっているように見える。懐中電灯で照らしてみると、ちゃんときれいな円形の網がはってある。その網の真ん中にクモは陣取っていたのだ。
「こんなところで獲物がかかるのかなぁ」といぶかしがっている。
「とうとう、クモのエサの心配までし始めた」とは連れ合いの弁。
毎日、網を見上げているのだが、ちっとも獲物がかかったようには見えない。そこでお節介おばさん、蚊をつけてやることにした。蚊を叩くのだが、これが結構難しい。力を入れるとぺしゃんこになってしまうし、そっと過ぎると生き返って逃げてしまうのだ。何度か試みたが、結局は死んでしまった。蚊の羽を指先でつまみ、イスにのって、そっと網につけてやった。クモの網は横糸に粘着物質がついているというので横糸をねらって。蚊はうまくついたが、クモは気がつかないのか知らん顔だ。そこで封筒の角で網の隅っこをちょんと揺らしてやった。
クモが蚊に気がついた。よほどお腹が空いていたらしく、いきなり蚊をむさぼり始めた。
大成功！よし、これならもっと蚊をつかまえてやるよ。
蚊の姿はなくなった。全部食べてしまったらしい。
そこで蚊を捕まえてはピンセットで挟み、網につけてやること3匹。しかし、その後、クモは蚊には知らん顔。1匹食べれば十分なのかな。網には3匹の蚊がかかったままだ。クモは死んだエサは食べないと言うから、あの３匹を食べることはないだろう、とお節介おばさんはがっかりしている。
ところが３日後、蚊の姿が無い。クモが食べたのか、落ちてしまったのか、下を探したが蚊の姿は無かった、それとも他のものが食べたのか、そこら辺はわからない。いぶかしがって、懐中電灯で照らすので、クモはうっとうしかったのか、網を離れて天井にへばりついてしまった。
「冬のポーズだね」、と下から見上げている。
寒い日が続いた。クモは天井にじっとしたままだ。冬の体勢に入ったのだろう、と思っていたら、今日はまた網に戻っている。あれから網に獲物がかかった様子は無い。まだぞろ、お節介な気持ちがわいてきた。蚊をつかまえなくっちゃ。
オニグモの仲間は夜型のクモだそうだ。関西方面ではオニグモ類は夜に網を張り、朝に撤収する。ところが関東にくると、張りっぱなしが多くなると聞いた。関東のクモは無精なんだろうか。ウチのイエオニグモも張りっぱなしだ。昼、天井にへばりついているのは、その習性が残っているのかもしれない。
