無言館は上田市の小高い丘に十字架の形に作られた美術館である。ここを訪ねたのは大分前になる。このごろは無言館を訪れる若い人が増えたと言うことだ。言ってみれば、若者とは、時間を越えて、同じ世代の人たちになる。
山田洋次監督がこことは関係あるらしく、ゲストとして参加していた。山田監督曰く「無言とは言いたい多くのことを持っている」と。監督はかかっている絵の作者の死亡時を確認すると昭和19年、20年に集中している。戦争が2年早く終わったら、彼らは死ななくてすんだのではないか、と。
亡くなった若い人たちの絵はお世辞にも上手いとはいえない。どれも平和な情景を写している。しかしその平和な情景の裏には何があったのか。これを描き残していかなければならない、思いついた瞬間があったはずだ。「あと5分描かせてくれ」といった言葉が今日伝えられた。それを思うと、彼らの絵には何かがにじんでいる。
私が行ったとき、展示物保護のため、美術館の内部は薄暗かった。作品だけが淡い光に照らし出されていた。観客もほとんどいなかった。その薄暗闇の中に一人で絵に見入っていると、背後に人の気配がして振返った。一度ならず、何度も。しかし何度振返ってもそこには静かな闇があるだけだった。きっと彼らは私に何か訴えたかったんだろう、と思った。
何を訴えたかったのか、もちろん生を生きて絵を描きたかったと言いたかったのだろう。
アートシーンでは都写真美術館の「アンコールワット展」が紹介されていた。8月14日までだ。アンコールワットもバイヨン遺跡も行ったことはある。その時木が遺跡にヘビのように絡みついている様を目のあたりにしてきた。遺跡保護のためには木を切るのもやむなしだと思っていたが、その木が実は遺跡を守ってきたのだという話。ほっとした。これはうれしいニュースだった。
「アンコールと生きる」
■会 期 : 2005年7月16日(土)~8月14日(日)
■休館日 : 毎週月曜日(休館日が祝日・振替休日の場合はその翌日)
但し、7/25、8/1は開館
■会 場 : 地下1階映像展示室
写真美術館では特別企画展「写真はものの見かたをどのように変えてきたか」の三部「再生」も始まっている。12人の写真家による戦争の記録だ。ぜひ見に行こう。両方あわせて14日までには行かなければ。
12人の写真家たちと戦争
■第3部 [再生] 7月23日(土)~9月11日(日)
■3階展示室