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寡黙なる巨人

2009-03-31 11:03:39 | 日記・エッセイ・コラム

「寡黙なる巨人」  多田富雄著  集英社

多田富雄さんが脳梗塞で倒れたのは2001年5月2日。アメリカから帰り、東北の恩師のもとを訪ね、その足で列車を乗り継いで金沢の友人を訪ね、そこで倒れ、金沢医大病院へ運ばれたのだった。それからの壮絶な闘病生活、リハビリ生活。多田さんは世界的な免疫学者、そして医師でもある。奥さんは内科医、私たち素人とは違い、健康には留意していた人の突然の脳梗塞による右半身不随、摂食・嚥下もままならず、言葉を失い、意思伝達も出来ない状況から、少しずつ回復して、それも「昔より生きていることに実感をもって、確かな手ごたえをもって生きている」という。その1年間の記録がこの本の内容である。

おそらくPapasanが嚥下障害にならなかったら、こういった本を紐解くことはなかっただろう。人生とはまさに出会いである。多田さんは若き日、文学青年で、江藤淳たちと同人誌を出していたくらいだから、文章もこなれていて読みやすい。題名の寡黙なる巨人とは、再生する自分の中に存在し始めた、話すことも不器用な新たなる巨人、しかし確実に存在する巨人、それを指している。

                                                                                       Papasanがプリンを食べて、ちょうど1週間になる。ひとさじのプリンが、彼のこれからの人生を変えたといっても過言ではない。当たり前の、ごくごく自然の嚥下が何かの原因か未だに分からないが、出来なくなって、3週間の入院の末、強引に退院したら、もちろん本人の努力はあったものの、とにかくごっくんと飲み込めたことは、奇跡とか言いようがない。それにしても多田さんと比べたら、嚥下以外は正常だったから、ほんとに幸いだったと言える。

                                                                                              日本の医療ではリハビリが遅れている、と多田さんは指摘する。リハビリは科学でなくてはならない。しかし、日本のリハビリは整形外科が中心となって来たから、つい最近まで骨折後のケアとかリュウマチの機能回復などのものが主流だった。

リハビリには3つのカテゴリーがある。歩行訓練を中心とした運動の訓練、Physical therapy(PT)、日常の仕事を中心とした訓練、Occupational therapy(OT)、言語療法、Speech therapy(SP)。この3つがなければリハビリとはいえない。アメリカでは3つがうまく機能するようにリハビリテイション医学が成立している。東京大学でもリハビリテイション科が独立したのはごく最近、それもST、OTだけでSTはない。STの療法士は少ないし、学問としての完成度も一番低いようだ。これから如何に人材を育てるかにかかっている。

たった3週間の入院だったが、Papasanにして見れば3週間はながったようだが、とにあれ、脳梗塞の気という判断で梗塞を溶かす薬の投与、それとチューブを使っての食品の投与。すぐに歩くことも、正常になったし、チューブでの食事が素人でも可能なら、入院している必要はなかった。あとはリハビリ以外に処置はない。だから本会議にも出席したし、チューブをつけたままだったが、湯河原との広域行政の会議にも出席、と公務もこなせたのである、そこでリハビリに私の視点が向かった。それもあいまって、多田さんの日本でのリハビリ医療が置かれている現状指摘にはうなづくことが多い。

Papasanが受けたリハビリは寝ていることで失われる運動機能回復、それと嚥下が出来るように刺激する2種類のリハビリだ。骨折後だったので、自分の自由がままならなかったから、じゃなければ野次馬、リハビリの見学に行ったんだが、物理的に出来なかったので、詳しいことは分からない、伝え聞いいただけからの判断である。入院時は内科、そして神経内科、そして最後は耳鼻咽喉科と担当はかわった。ここの病院でもリハビリに重点が置かれているようには思えなかった。それはよんどころなければ、外科手術をして、胃に直接管を通すということを医師たちは口にしていた。口から食物を食べることの意義を私は人一倍感じているから、それはいやだ、できれば口から食べさせてやりたいと思っていた。だからネットで嚥下障害のリハビリをしている専門病院を探したのだ。近くでは、東名厚木病院と伊東の丘リハビリセンターが見つかった。嚥下障害から回復した患者も多いと書いてあった。リハビリが可能かどうか診断してもらった方がいいかも、と思った。

でともかく、こういう病院を見つけたのだが、と内容をプリントし、診察にいったとき、担当医に相談して紹介状を書いてもらおうと持たせた。紹介状は書けないという。どうして?紹介状がなくても診察ぐらいは受けられるかも、と厚木病院へ電話をすると、紹介状はともかく処置がされている状態なら、経過処置をしりたいので、医師の報告が必要だといわれた。おやまぁ、患者は病院を選ぶ権利もないの??紹介状は無理でも、経過処置は本人が希望すれば出さないことはないのではないかと、処置をした神経内科に申し込もうと言っていたその日、嚥下が出来るようになって、不必要になってしまったが、すこぶる考えさせられた。

もうひとつ、鍼灸は普通は保健が効かないが医師が鍼灸マッサージの治療が妥当と判断してくれれば、保険適用になる。そこでこれも頼んだのだが、断られた。素人目にはなんか縄張り争いみたいに感じられたが。小田原医師会の中には鍼灸をマッサージを有効と認めている医師たちがかなりいる。医学とは単に科学的な要素だけでなく、心的要因も大きなウェイトを占めているはず。この世の中には奇跡のようなことも多々ある。私はあまり奇跡を信じる方ではないが、それでも奇跡があってもいいだろうとは思っている。人間は全能ではないのだから。それは人間の手を通して科学的にはまだ解明されていない何かが伝わっているのかもしれない。実際多田さんは役に立っていると書いている。

リハビリとはRehabilitation 「機能回復・社会復帰の支援活動、復権、名誉回復」などの意味がある。多田さんはいう、「リハビリは単なる機能回復ではない。社会復帰を含めた、人間の尊厳の回復である。」と。

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チューブがとれた

2009-03-28 23:51:11 | 日記・エッセイ・コラム

今日で鼻から胃に入れていたチューブが外れ、Papasan、普通の顔になって、晴れやかな表情で帰ってきた。嚥下は出来るようになってからは、やわらかいもの、と言ってもおかゆみたいなやわらかさではないが、普通食を食べている。

嚥下障害になってから、私なりにいろいろ調べている。そうしたら、近くでは東名厚木病院の看護部に摂食・嚥下のリハビリ専門のスタッフがいることがわかった。そこをたどると、リハビリの看護主事小山珠美さんたちがメディカ出版からでている「リハビリナース」の特集「どうすればうまくいく?摂食・嚥下はこうして援助する」に援助法を書いていることがわかった。そこでそれを注文して買った。

特集は、食べることのメカニズムから説明している。ここらへんは昔学校で習ったことだ。しかし、細かな絵をつかった説明は分かりやすい。口から食べることは脳から伝達され、口や舌だけでなく、手も目もと各部首をつかった全身活動で、単に生物学だけのことではなく、社会的なことだという説明はその通りだとうなずける。

摂食・嚥下障害の原因は多岐にわたっていて、脳血管障害やパーキンソン病などの神経・筋疾患は直接影響を与えるようだ。脳から指令が出ているのだから、脳に何か原因があったのだろうが、誘引する表を見ているのだが、これといって当てはまるものが見つからない。嚥下が出来なくなったのは事実だが、他の障害はなかったし、後遺症も残っていない。医師が原因が分からないというのだから、素人の私に分かろうはずもないが。

しかし、実際に脳血管障害で摂食・嚥下障害になってしまった人のリハビリは読んでいるだけでも大変だ。口を開けて歯も磨いてやらなければならないし、舌にカビが生えてしまうようだ。幸いにもPapasanは自分で歯は磨けたし、うがいは出来たし、だから舌がかびることもなかった。鼻から胃に入れていたチューブは細いものだったので、重湯やスープは薄めはしたが、それでも少し濃度があると詰まってしまったことがあった。ごっくんが出来た前日、詰まってしまって管を代えてもらいに行ったら、太い管と代えてくれた。はじめから太いのにしてくれれば良いのにと単純に思ったが、リハビリナースを読むと、細い方が咽喉に与える影響が少ない、太いと軟口蓋を傷つけたり、嚥下を阻害してしまう恐れがあるということだった。なるほどね。

papasanの入院中も、言語聴覚介護士によるリハビリは行われていた。氷で刺激したり、喉を外側から温めたりしていた。それは30分足らずだったように思う。若い言語聴覚士は熱心にやってくれたそうだ。彼はマッサージも鍼も有効だと言った。そこで鍼灸師の柳川さんに頼んで、鍼灸をしてもらった。時折、病室に寄ってくれ、筋肉を和らげるためにマッサージもしてくれた。いつもはマッサージ好きの私と違って、くすぐったいとマッサージもしたことがないのだが、一種の硬直した筋肉を揉み解すという意味からも、この物理的な鍼灸の方が効果があったようだ。リハビリナースに特集されている、リハビリは必要だし、効果をあげている。とはいえ、リハビリに重点を置いている病院はまだまだ少ないようだ。Papasanが入院していた3週間、私も付き添いをしていて、見聞きしてそう感じた。入院していたら、やはり朝からチューブの食事が続けられ、お腹は空かないだろうし、そうなれば口で食べようと言う努力もすくなくなる。周りに食べ物はいろいろあり、私たちが食べていることも食べたいという意欲をわかせる。その刺激もリハビリのひとつだろう。

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寒いなぁ

2009-03-26 22:50:44 | 日記・エッセイ・コラム

2 晴れたり曇ったりはいいが、気温が低い。咲きかけの我が家のソメイヨシノも踏みとどまってしまったみたいだ。

昨日は陶芸だったので、疲れてしまって、夜は沖永良部の従姉が送ってくれた新じゃがで肉じゃがをつくった。それに菜の花のおひたしと豆腐の味噌汁、ブロッコリーとごはんという献立。1時間かけて、Papasanは全部平らげた。まだ嚥下するとき、努力しているようだが、これが自然に出来るようになればOKだ。とはいえ、時間はかかっても自分で飲み込めるようになったのだから、もう大丈夫だ。

小田原に出かけた。けっこう渋滞していた。木曜日なのになぜだろう、車には子どもの姿が多い、あ~、春休みなんだ、と納得。春休みが終わるまで遠くへの外出は避けよう。

おすしが食べたいというので、すし屋によって、にぎりを食べた。さびをいっぱいつけて、美味しいと言って食べている。よかったねぇ、自分の舌で味わって食べるのは、最高だろう?って言ったら、Mamasanが病気になったら困るね、あれいやだ、これ不味いとうるさいだろうから、病気にならないでね、と言う。歳だから病気にならないとは言えないけど、まぁならないように気をつけましょう。とはいえ、健康のためにと言って、努力はしないけどさ。

大きな病気にならなかったから、入院することもなかったし、医療機関にも厄介にはならなかった。papasanの入院のおかげで、いろいろ気がついたことがある。すこしずつ調べて発言していこう。手始めに免疫学の世界的学者、多田富雄さんの「わたしのリハビリ闘争 最弱者の生存権は守られたか」と「寡黙な巨人」他を注文した。

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ひとまずほっと

2009-03-24 17:30:39 | 日記・エッセイ・コラム

昨日は飲み込めたが、筋肉は今日もまだ覚えているかな。

今日は生活学校の注文日なので、前の教室にいた。和美さんが大きなプリンを持ってきてくれたので、それを切っていただいていた。うん、プリンなら、Papasanも食べられるかも、と思っていると、そこへPapasanがやってきた。
「和美さん、少しで良いからPapasanに切ってやって。Papasan、食べられなくても良いから、少し口に入れてみたら」

みんなも[Papasan、やってみて」とはげました。
一口スプーンですくって、口に入れ、「飲めた」

まわりのみんなから歓声があがる。それに気をよくして、お皿が空になった。やめた方がいいという桜餅もすこし食べた。飲み込めたようだ。これならもう大丈夫だ。

用事を終えて家に戻ると、五穀米を炊いて、うんと咀嚼して梅干と食べたという。茶碗一杯食べたそう。

ちょっと、胃がびっくりしちゃうよ。徐々にしていかないと。ともかく、よかった、よかった。筋肉が嚥下を思い出したようだ。嚥下出来るようになれば、後はしめたもの。美味しいもの作ってあげるよ。

入院経験のある妹が、退院して家に帰れば、飲み込めるようになるよ、と励ましてくれたが(本人にもその言葉は伝えておいた)、ほんと、そうなった。自由がきくって意味でも家の方がよかったのかも。

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うれしい出来事

2009-03-23 22:57:39 | 日記・エッセイ・コラム

Papasanの食事は流動食なので、缶詰を補填するには牛乳が主体になる。卵黄も、イチゴも、ミルクを入れてミキサーにかけ、さらに漉している。野菜スープはあるので、今日はやわらかいやわらかいおかゆをつくり、さらにミキサーにかけこしてミルク粥にした。そこにこれまた煮て、煮汁ごとミキサーにかけたささみを少し加えた。なかなか美味しい。食べることは好きなので、料理は苦にならないから、頭でいろいろ考えて調理している。

ついでにケーキもシフォントチョコレートスポンジと2つ焼いた。

夕食がすんで、しばらくすると、Papasanが「Mamasan、Mamasan」と呼ぶ。何事かと思ったら、紅茶がごくりと飲めたと言って見せに来た。目の前で、ほんと、紅茶を一口だが、ごくりと飲んだ。「お~、できたじゃない、よかった、よかった」続けて、一回ずつだが、ごくりと飲めた。ほんと、よかった。筋肉が忘れないように、訓練してね。先が見えてきたよ。

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