<世界三大アパレル小売業H&M社 バングラデシュで工場火災>
世界三大アパレル小売業の一つ、スウェーデンのヘネス・アンド・マウリッツ> (以下「H&M」)の世界二〇〇〇店舗目となる店が六日、大阪・心斎橋にオープン
した。関西初出店ということもあり、徹夜組を含め二五〇〇人が列をなしたと いう。しかしその出店の前週、二月二五日午後九時半頃、バングラデシュのH&M
下請け縫製工場で二一人が死亡する火災事故が発生していた。 バングラデシュと言えば日本でもユニクロの工場一部移転などで話題になった
が、今では中国と並び、欧米向けの下請け縫製工場が集中している国だ。バン グラデシュの縫製工場においてこうした事故が頻発している。背景に見えてく
るのは世界の衣料産業の安値競争と衣料消費の格差だ。
火災事故が起きたのは首都ダッカ近郊のガジプール県にあるガリブ&ガリブ社(以下「ガリブ社」)のセーター縫製工場。ガリブ社はH&Mの他にも、これまで
米ウォルマートなどから委託を受けてきた。現地メディアによると、事故の主な原因は電気のショートと推定されているが、そもそも換気設備や防火器具が
未整備だった上に非常口が機能せず、さらに最上階出口が施錠されていたため、煙で窒息死する被害者が続出したとみられている。同工場では昨年八月にも火
災が発生し消防隊員一人が感電死しており、行政から消火栓等の防火設備を整備するよう指導されていた。
今回の事故は、バングラデシュ衣料産業労働者が抱える問題の縮図とも言われている。バングラデシュ衣料産業は、輸出収入の約七五%を占める最大の輸出
産業(輸出額約一兆円)で、現在四〇〇〇以上の工場で二〇〇万人以上を雇用している。労働者の八割を女性が占め、多くが地方出身で劣悪な労働環境の中で
働いている。
今回も死亡者二一人のうち一四人が女性。現地の繊維系労働組合は、そもそも禁止されている女性の深夜労働を行なっていた企業側の罪を糾弾、現地とダッ
カでデモを行なった。縫製業における労働法や安全基準違反は常態化しており、この二〇年間で二〇〇人以上が火災事故により死亡したという。
さらに事故の背景にあるのが、世界の衣料産業の安値競争、そしてファスト (高速)化だ。ファスト化とは、流行のファッションを逸早く導入し、短期間で
作り消費者に安く提供すること。H&MやGAPは「ファストファッション」とも呼 ばれるこの経営手法で業績を急伸させてきた。日本のユニクロが導入したのも
この手法だ。大きな特徴は自社工場を所有せず、生産を労働力や土地が安い国の工場に委託することだ。
H&Mは現在世界二〇力国、七〇〇の生産拠点に委託しており、その一つがガリ ブ社だった。ファスト化の問題は、発注数が膨大な一方で納期が短く、さら
にコスト削減が常に求められるということだ。発注単位は数百万枚に上る一方、 発注日から店頭に並ぶまでの日数は平均一〇日とも言われており、二四時間体
制で製造しないと追いつかない。 一方、H&MのCSR(企業の社会的責任)評価は国際的にも高く、監査員を雇い労働 条件や労働環境に関連する三〇〇以上の
項目に沿って調査を行なっているとさ れている。実際H&Mは昨年一〇月の監査時には、非常ロや緊急避難ルートはチェックしたと主張している。
しかし現地の労働運動側は、年に数度の監査だけで現 地企業が日常業務において労働規則を遵守するはずがないと批判する。
今回の事故から私たちが考えるべきは、いびつなグローバル競争下におけるCSRの限界、そして安い商品自体が持つ問題だ。
特に日本では衣服がデフレの先頭を走り、終わりのない安売り競争を続けているが、そのしわ寄せは常に弱いと ころに及ぶ。
欧米では労働者を抑圧する工場をスウェットショップ(搾取工場)と呼び消費者団体が批判してきた。
米国でもスウェットショップ規制法が存在するほどだ。日本でもこうした活動の展開が望まれる。
松平尚也・AMネット、アジア農民交流センター