安倍晋三の新型コロナウイルス感染「多くは軽症」発言から見る危機感と現状認識の希薄さ マスク準備、検査体制遅れに現れている

2020-03-16 12:27:50 | 政治

 2020年3月9日参院予算委員会 

 自民党の武見敬三が新型コロナウイルス感染に関して質問に立ち、安倍晋三をお神輿のごとくにヨイショ、ヨイショと担いだ。担がれた安倍晋三は心地よかったはずだ。

武見敬三「今世界はまさに新型コロナウイルスの感染拡大で、これを如何にすべての国々がお互いに協力をしながら、この感染拡大を抑止して、一人でもその健康を害し、命を落とすことがないように今必死になって、多くの国々が国境を越えて協力をしようとしてるところであります。

 このようなときに今朝、北朝鮮が弾道ミサイルと思わしきものを発射したというニュースが入ってきて、おりまして、私は、びっくり致しました。こうした国際社会の困難な状況の中にこのような弾道ミサイルなどを発射する、というのは、これはもう言語道断であって、それを私は厳しく非難をしたいものがあります。是非、総理のご所見を伺っておきたいと思います」

 安倍晋三「本日7時34分から7時35分頃、北朝鮮の東岸から複数発の弾道ミサイルと見られるものが発射され、日本海海上に落下したものと推測されますが、詳細は分析中であります。なお、いずれも落下したのは我が国の排他的経済水域EEZ外と推定されます。また付近を航行する航空機や船舶への情報提供を行ったところ、現時点に於いてこれらへの被害報告等の情報は確認されていません。

 私からは本件について直ちに報告を受け、情報収集・分析に全力を挙げ、国民に対して迅速・的確な情報提供を行うこと、航空機・船舶等の安全確認を徹底すること、不測の事態に備え、万全の体制を取ることの3点について速やかに指示を行ったところであります。また政府に於いては北朝鮮情勢に関する官邸対策室に於いて情報を集約すると共に緊急参集チームを招集し、対応について協議を行いました。

 さらにこのあと、国家安全保障会議を開催し、情報の集約及び対応について協議を行う予定であります。今般の北朝鮮の行動は我が国と地域の平和と安全を脅かすものであり、これまでの弾道ミサイル等の度重なる発射も含め、我が国を含む国際社会全体にとっての深刻な課題であります。政府としては引き続き米国等とも緊密に連携しながら、必要な情報の収集・分析及び警戒・監視に全力を挙げ、我が国の平和と安全の確保に万全を期してまいります。

 武見敬三「それではこの新型コロナウイルスに関わる課題に入らせて頂きたいと思います。我が国はこの感染症と如何に戦うか。これはもうグローバルヘルスと言われる分野の中でも最も世界で大きく、優先度の高い課題として認識されております。

 この分野で我が国は実は、安倍総理、非常に大きな中心的役割を担ってきました。2014年に西アフリカでエボラ出血熱が発生をし、そしてこれを踏まえて、2015年に今度はユニバーサルヘルスカバレッジ(「すべての人が、適切な健康増進、予防、治療、機能回復に関するサービスを、支払い可能な費用で受けられる」ことを意味し、すべての人が経済的な困難を伴うことなく保健医療サービスを享受することを目指すこと―ネット知識)がこの持続可能な開発目標の中に位置づけられました。そしてその後最初のG7のサミットというのが、実は我が国がホストしたG7伊勢志摩サミットでした。

 従ってその伊勢志摩サミットの中で総理ご自身の極めて強いイニシアチブで三つの重要な議題のうちの一つをこうした保健医療の分野に位置づけて、そして三つの大きな柱を基本とする、この伊勢志摩フレームワークというのをお出しになった。

 第一がこうしたエボラ出血熱のような危険な感染症に対して世界が協力して如何にそうした感染症に対して戦う、そうした体制を整えるか。二つ目は今度はユニバーサルヘルスカバレッジというものを如何に効果的に達成するか。3つ目は常にこのボディブローのように危険な感染症の中でも危険な感染症として湧き上がってきているAMRという多剤耐性菌にどう対処するかでありました。

 そして我が国はまさにこのユニバーサルヘルスカバレッジを達成するプロセスの一環としてこの危機管理というものに関わるこのプリベンション(事前予防や一時予防)とプリペアドネス(preparedness・準備)と言う、まさに準備と予防というものに焦点を当てて、そしてこの危機管理に於ける体制づくりの準備と予防の分野というのは平時に於いて行われるものであって、そしてそれはまさにユニバーサルヘルスカバレッジを達成する一部である。そしてこのユニバーサルヘルスカバレッジと危機管理の体制強化というのはまさにこの予防と準備というものを通じて結ばれていて、この2本柱をしっかりと世界で充実させていこうという、そういう大きな方針を世界に総理、示されました。

 これはまさにグローバルヘルスの分野では今もう金字塔になっている。そして、その中で日本は中心的役割を果たしました。今日に於いてもその重要な役割を果たしていることに何ら変わりはありません。加えて21世紀に入ると、様々な感染症が実は発生しました。アジアでもサーズが発生をし、それからマーズという中東呼吸器症候群というのようなものも発生をしました。

 そしてさらには5年程前ですか、H1N1という豚インフルエンザというのが新型インフルエンザとして発生しました。しかしこれらの状況を翻ってみたときに我が国に於ける罹患者の数、そして特に亡くなった方、死亡者数というのは極端に少なかった。世界の多くの国々がびっくり仰天しまして、何で日本だけ、こんな感染症が蔓延したときにこのように死亡者数を少なく抑えることができたのかいうことを調べた結果、これはまさに我が国の地域医療を中心とする医療制度というものが実に良く出来ていて、そしてアクセスがしやすくて、そしてまた同時に質が非常に高い、こういった強靭な保健システムというのが日本にしっかりあるから、こうした感染症が拡大したときにも、そこが底力を発揮して、しっかりとその死亡者数等を抑え込むことができるんだという点で非常に高い評価を我が国は得ています。これは基本、全く今日においても変わりがありません。

 その上で我が国に於いてさらに残された課題というのはそうした強靭な保健システムというものを踏まえて、さらに強固な、こうした危機管理体制を如何に構築していくかということが我が国の課題であるというふうに私は考えます。で、その途上でまさに今回の新型コロナウイルスの感染の拡大が始まったと思いますが、こうした状況認識についての総理のご初見を先ずは伺っておきたいと思います」

 安倍晋三(殆ど原稿読み)「武見委員に於かれましてはユニバーサルヘルスカバレッジについてまさにこの考え方は日本そして世界でリードしてこられますことにまさに敬意を評したいと思います。

 そして今回の新型コロナウイルスへの対応に当たっては現在、私を本部長として全閣僚メンバーとする対策本部を設置をし、同本部とそのもとに置かれた専門家会議の元、政府一丸となって対応に当たっております。国立感染症研究所に於いて実地疫学専門家の養成を行うと共に今般の対応に当たっても、クルーズ船を含む複数の事例に於いて専門家の派遣を行っております。

 ご指摘の通り、今後ですね、さらにこの組織を強化をして、そういう努力をしていくことは大変重要であろうと、こう思っております。今般の事案対応も踏まえつつ、今後感染症の危機管理体制の不断の見直しを進め、危機管理への対応力をですね、高めていきたいと考えています」

 武見敬三「そして我が国のこの新型コロナウイルス関わる今までの対応というものについて私自身は非常に不当にさまざまな批判が、その内外でも起きていることを非常に残念に思います。その中で実際に我が国の中でこうした罹患されて入院治療をした方々といったものが実際、どのようにその後、その症状いうものが回復をされておられるのか、実はなかなか今までその情報の公開がありませんでしたが、それを実はちょっと調べさせて頂いて、先週金曜日の時点のこのデータ情報であります。これ厚労省などから聞いて作ったものでありますけれども、(パネル提示)これ見ますと、大体ですね、この国内事例で407のPCR検査の陽性者がいて、既にもうそのうち76名退院されておられました。

 またクルーズ船に関してみれば、656名、陽性者が出たうちに既に退院された方が245名。従って、この両者も合わせても、既に321名、まさに300名を超える方々がこうした我が国の治療を受けて、実際に元気に退院されて、日常生活に戻られております。

 こうした力こそが実は我が国が国際社会の中で評価しているところでございまして、こうしたまさに的確な情報というものを私は内外にしっかりと発信していくことが私は必要だと思っております。総理のご初見を伺っておきたいと思います」

 安倍晋三(殆ど原稿読み)「この新型コロナウイルスについてはですね、多くの国民のみなさんが様々な不安を感じておられるんだろうと思います。我が国に於いても、連日感染者が確認されている状況には、状況にあり、政府としては感染拡大の防止のために対策を徹底していく考えであります。

 なお、委員ご指摘の通り、クルーズ船を含めこれまで日本国内で陽性と判定された方々のうち、3月7日時点で325人となっている、あの、これ、ほんのちょっと違うのは、今日さらに、最新は325人の患者が既にですね、回復をして、そして退院をしておられることも事実でございます。

 あの、これはあまり報道されてないところもございますので、ま、こうしたこともですね、しっかりと発信をしていきたいとこう思っております。一時重症状態だった方が軽症・中程度に改善されている方も、まあ、20名程度おられるわけでございます。

 専門家によればですね、このウィルスに感染しても多くは軽症であると共に治癒する例も多いとのことであります。委員ご指摘のとおり、このような感染後の状況も国民の皆様に適切に情報発信していくことはこの感染症を正しく理解をして頂く上でも、大変重要ではないかと思っております。引き続き、私も含めて、国民の皆様への正しく分かりやすい情報発信に努めていく考えでございます」

 武見敬三が新型コロナウイルス関わる安倍政権の対応に対して内外で不当な批判が様々に起きている、先週金曜日の時点に於けるPCR検査407名の感染陽性者に対して既に76名も退院している、クルーズ船での集団感染でも656名の陽性者に対して既に退院者が245名、合計300名を超えて退院、日常生活戻に戻っている、「こうした力こそが実は我が国が国際社会の中で評価している」点だ、このような評価点は「内外にしっかりと発信していくことが必要だ」云々の文言で内外の不当な批判に反して安倍晋三陣頭指揮の政府対応の成果だとばかりにヨイショしている。

 対して安倍晋三は一時重症状態だった罹患者のうち20名程度が軽症・中程度に改善、専門家の話として新型コロナウィルス感染者の多くは軽症で、多くが治癒していると、武見敬三のヨイショに応じている。但し「多くは軽症」という状況は新型コロナウィルス自体が持つ特徴的傾向であって、安倍晋三陣頭指揮の政府対応の成果とは関係しないし、当然、武見敬三が指摘しているように安倍晋三陣頭指揮の政府対応に基づいた国際社会の中での日本の評価点とすることはできない。

 中国で感染確認の5万5924人のデータに基づいたWHO派遣の各国専門家と中国保健当局の専門家による2020年2月20日までの中国現地調査の分析結果を2020年2月29日付記事として伝えている「NHK NEWS WEB」は安倍晋三が言う「多くは軽症」を、〈感染者のおよそ80%は症状が比較的軽く、肺炎の症状がみられない場合もあったということです。〉と、特徴的傾向の一つとして示している。

 だが、安倍晋三は武見敬三が新型コロナウイルスの特徴的傾向を安倍晋三陣頭指揮の政府対応の評価点としていることに対して「これはあまり報道されてないところもございますので、ま、こうしたこともですね、しっかりと発信をしていきたいとこう思っております」の文言で、安倍晋三陣頭指揮による政府対応の成果に位置づけ、なおかつマスコミがこの点について報道に熱心でないことに暗に不満を示して、より発信されるべきだと訴えている。

 新型コロナウィルス感染者の80%程度が軽症者で、一定程度の入院で済み、程なくして日常生活に無事戻ることができるパターンが固定化されていて、新たな感染者が出た場合でも、そのパターンが繰り返されることを常識とすることができたとしても、一人でも重症者が存在し、死者が出ている以上、「多くは軽症」だと片付けることはできない。一度ブログに利用した、《医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応ガイド》(一般社団法人 日本環境感染学会/ 2020年2月13日)には次のような下りがある。文飾当方。

 〈発生状況

 国内の感染者数は増加していますが、軽症例や無症候病原体保有者が多くを占めています。〉

 〈臨床的特徴(病態、症状)

 新型コロナウイルスは呼吸器系の感染が主体です。 ウイルスの主な感染部位によって上気道炎、気管支炎、および肺炎を発症すると考えられます。本ウイルスに感染した方全員が発症するわけではなく、無症状で経過してウイルスが排除される例も存在すると考えられます。〉(一部抜粋)

 ブログに次のように書いた。

 〈本人が知らないままにウイルスを抱え込んだとしても、発症しないままに過ごして、知らないままにウイルスが消滅してしまう例があると言うことは、本人は無事であったとしても、ウイルスを抱え込んでいる間、そのウイルスに第三者が感染、発症する例もあることを意味することになる。

 特に体力が低下している高齢者や、高齢者ではなくても、何かの病気治療中で体力が万全ではない中高年層がコロナウイルス感染の症状が出ていない、いわば野放し状態となっている無症候病原体保有者と何らかの接触をした場合、ヒトからヒトへの感染が起こり得る可能性は否定できないばかりか、一人の発症から感染経路を辿る作業にしても、感染元が無症候病原体保有者で、既にウイルスを消滅させていた場合は事前の感染者が特定不可能となって、感染元を一人ひとり探し当てて、入院隔離するなりして感染拡大を阻止するローラー作戦にしても、全てがうまくいかないことになって、感染経路を辿る作業が往々にして迷路に迷い込むことになりかねない。〉・・・・・・

 このことは2020年2月23日付「asahi.com」記事も専門家の指摘として伝えている。

 国際医療福祉大の和田耕治教授(公衆衛生)は「無症状でもウイルスを排出している可能性を指摘する報告もある。心配な人は、2週間程度は家族と別の部屋で過ごしたり、食事は離れてとったりするなどの対策を念のためとってほしい。手洗いの徹底も大事だ」

 それゆえに新たな感染者が出るたびに住居地の自治体は新規感染者の感染経路を辿るべく、その行動歴を洗い、濃厚接触者の有無を探し歩いて、濃厚接触者と思しき人物に行き当たったなら、検査を指示しなければならない。検査の結果、陽性なら、入院を求めると同時に今度はその陽性者の感染経路を辿るために行動歴を洗い、濃厚接触者の有無を探し歩いて、濃厚接触者と思しき人物に行き当たったなら、検査を指示する繰り返しに出る。

 そしてこの繰り返しは新規感染者が複数人出たとしても、新型コロナウィルスの特徴的傾向として「多くは軽症」だと分かっていても、新たな感染が止まらない限り続けなければならない。

 そしてこの感染が止まらない状況は、断わるまでもなく、その状況に応じた自治体の繰り返しの作業にとどまらない。感染防止のための人の移動制限は経済の停滞・縮小に向かい、特に不特定多数の人間を相手に商売や業務を行う何らかの営業体内に小規模の集団感染でも発生した場合は、他への感染を防ぐ観点から一定期間の休業を迫られることになり、そういった休業が各地に続くと、経済の停滞・縮小にととどまらずに、国民生活の停滞・縮小を必然化することになる。

 そして日本の現状は、日本は日本としてそのとおりの事実を招いている。「多くは軽症」だなどと言っている場合ではないし、新型コロナウィルスの特徴的傾向に過ぎない「多くは軽症」を感染症対策の功績と位置づけて、そのような日本の「力こそが実は我が国が国際社会の中で評価している」といった誇りは経済と国民生活の停滞・縮小を余りにも蔑ろにしている。

 現状の新型コロナウイルス感染に関わる安倍晋三と武見敬三の以上の認識はコロナウイルスに対する危機感と現状認識の希薄さなくして招くことはない。勿論、日本経済が感染でダメージを受けていることへの発言はあるが、「多くは軽症」で片付けることができる理由は経済の状況については経済の話題のみとし、感染状況については感染の話題として別個に取り上げて、双方を総合的に関連付けて議論する発想がないからだろう。その結果として危機感と現状認識の希薄さが現れることになる。

 安倍晋三のこの危機感と現状認識の希薄さは改正新型インフルエンザ対策特別措置法成立2020年3月13日の翌日の3月14日の「記者会見」発言からも窺うことができる。

 安倍晋三は冒頭発言で感染の現状を「国家的な危機」と位置づけている。

 安倍晋三「現時点において感染者の数はなお増加傾向にあります。しかし、急激なペースで感染者が増加している諸外国と比べて、我が国では増加のスピードを抑えられている。これが、専門家の皆さんが今週発表した見解です。
 WHO(世界保健機関)が今週、パンデミックを宣言しましたが、人口1万人当たりの感染者数を比べると、我が国は0.06人にとどまっており、韓国、中国のほか、イタリアを始め、欧州では13か国、イランなど中東3か国よりも少ないレベルに抑えることができています。」

 安倍晋三「現時点において感染者の数はなお増加傾向にあります。しかし、急激なペースで感染者が増加している諸外国と比べて、我が国では増加のスピードを抑えられている。これが、専門家の皆さんが今週発表した見解です」

 安倍晋三「未知の部分が多い新型コロナウイルス感染症でしたが、皆さんの御協力を頂き、これまでの対策を進める中で、多くのことが分かってきました。
 これまでのデータでは感染が確認され、かつ、症状のある人の80パーセントが軽症です。重症化した人でも半数ほどの人は回復しています。クルーズ船も含めれば、感染者の4割以上、600人に及ぶ方々が既に回復し、退院しておられます。他方、お亡くなりになった方は、高齢者の皆さんや基礎疾患のある方に集中しています」
 
 安倍晋三「感染力に関しても、これまで感染が確認された方のうち、約8割の方は他の人に感染させていません。つまり、人から人へ、次から次に感染が広がるわけではありません。
 他方でスポーツジムやライブハウスなど、特定の場所では集団での感染が確認された事例が報告されています」――

 以上の冒頭発言からは「国家的な危機」は見えてこない。どこが「国家的な危機」だと言いたくなる。

 新型コロナウイルス感染の現状に原因を置いて、「国家的な危機」だと切迫的に捉えていながら、「国家的な危機」の二次的原因となっている経済と国民生活の停滞・縮小には触れないままに諸外国と「人口1万人当たりの感染者数を比べると、我が国は0.06人にとどまっている」、「症状のある人の80パーセントが軽症」、「重症化した人でも半数ほどの人は回復」、「クルーズ船も含めれば、感染者の4割以上、600人に及ぶ方々が既に回復」、「感染力に関しても、これまで感染が確認された方のうち、約8割の方は他の人に感染させていません。つまり、人から人へ、次から次に感染が広がるわけではありません」云々とまるで重症者も死者も一人も出ないような、危機感と現状認識の希薄さを曝け出すことができる。

 だが一方で、「新型コロナウイルス感染症が経済全般にわたって甚大な影響をもたらしています。とりわけ、中小・小規模事業者の皆さんにとっては、事業存続にも関わる重大な事態であると認識しています」と、密接に関連しているはずの感染の状況と経済及び国民生活の停滞・縮小を別個に捉えて、論じている。

 この認識も危機感と現状認識の希薄さから出ている。

 この希薄さは感染症に必需品となるマスクの充当にも現れている。日本国内で出回るマスクの7割は中国製で、中国からの出荷が滞っていることに対してマスク不足を予見しなければならなかったにも関わらず、新型コロナウイルス感染症対策本部がマスクメーカー及びマスク卸売販売業者の団体に対してマスクの増産等について要請したのは2020年2月13日の「新型コロナウイルス感染症に関する緊急対応策」によってであり、今年度予算の予備費103億円からマスク増産への補助として4億5000万円を充てている。

 この増産要請はいずれはマスクが品薄となることを見込んだものではなく、既に品薄状況を受けた要請だとマスコミは伝えている。

 この品不足状況に対して安倍晋三が月内に月6億枚以上のマスク供給を確保すると表明し、それに応えたのか、防衛相の河野太郎は2020年3月6日の記者会見で自衛隊保有のマスク155万枚のうち突発的な大規模災害に備えて3週間後に新規マスクを自衛隊に返納してもらう前提で100万枚を拠出する方針を表明、6日後の3月12日に35万枚を、残り65万枚は3月13日午前中に自衛隊のトラック2台で都内の倉庫に搬入、その後全国の医療関係者や介護関係者に配布されるとマスコミが伝えていた。

 そして河野太郎3月6日の表明4日後の2020年3月10日付の「新型コロナウイルス感染症に関する緊急対応策第2弾について」(厚生労働省医政局地域医療計画課)で、マスクに関わる次の対策を打っている。

◆需給両面からの総合的なマスク対策
・ネット等での高額転売目的のマスク購入を防ぐため、マスクの転売行為を禁止
・布製マスク2,000万枚を国で一括購入し、 介護施設等に緊急配布
・ 医療機関向けマスク1,500万枚を国で一括購入し、 必要な医療機関に優先配布
・ マスクメーカーに対する更なる増産支援

 この要請の3日後の2020年3月14日付「NHK NEWS WEB」記事が、「京都や大阪の大規模病院でもマスク不足が深刻」と題して次のように伝えている。

 〈複数の病院関係者によりますと、京都市の京都大学医学部附属病院では、今月に入って医師や看護師に対し、病院から支給されるマスクが制限されるようになり、ほとんどの部署で毎日1人1枚から1週間に1枚程度になったということです。

 新型コロナウイルスの感染者を受け入れる病院には指定されていませんが、高度な医療を行う病院で多くの入院患者がいて、マスク不足の中で感染症対策が十分なのか、働く人たちから懸念の声が上がっているということです。〉・・・・・

 マスク不足だけではない、検査体制の不備・不足も予見しなければならなかったはずだが、その構築の遅れも国民の不安を掻き立てた。

 肝心な必要性を予見した前以っての対応ではなく、後手後手の対応のみからも、危機感と現状認識の希薄さしか浮かんでこない。

 この程度の危機感と現状認識の希薄さしか持ち合わせてないにも関わらず、安倍晋三は記者質問に対する答弁で、「国内の感染の状況については、様々な手を打った結果、現時点では爆発的な感染拡大には進んでおらず、一定程度、持ち応えているのではないかというのが専門家の皆様の評価であろうと思います。今後とも、依然として警戒を緩めることができない状況でありますが、国民の健康、命を守るために全力を尽くしていきたいと思っています」と、各自治体の努力の成果を自らの成果のように刷り込んで、「国民の健康、命を守るために全力を尽くしていきたいと思っています」と国民の健康と命を請け合っている。

 危機感と現状認識の希薄さの上に請け合っている国民の健康と命に過ぎない。要するに実の伴わない、上辺だけの言葉で成り立たせた「国民の健康と命」が実態だということである。

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