安倍晋三の東京オリンピック「完全な形で」発言はアスリートのことを考えない自己都合だけを優先させた開催願望

2020-03-23 14:06:31 | 政治
 新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、2020年3月16日夜、G7=主要7か国の首脳による緊急のテレビ会議が行われ、安倍総理大臣は、治療薬の開発を加速し、世界経済への影響を食い止めるためG7の結束を呼びかけ、東京オリンピック・パラリンピックの完全な形での開催を目指す考えを示し、各国首脳の支持を得たと2020年3月17日付マスコミが一斉に伝えていた。文飾当方。

 「G7首脳テレビ会議」(外務省/2020年3月16日)  

 3月16日(月曜日)23時から約50分間,安倍晋三内閣総理大臣はG7首脳テレビ会議に出席したところ,概要は以下のとおりです。今回の会合は,仏からの提案を受けて,本年のG7議長国米国の呼びかけで開催されました。G7首脳間でテレビ会議が行われるのは初めてです。また,会合後,首脳宣言(英語(PDF)別ウィンドウで開く/仮訳(PDF)別ウィンドウで開く)が発出されました。

1 参加したG7首脳は,新型コロナウイルス感染症に関し,各国内の経済状況や感染拡大防止策について意見交換を行いました。
2 安倍総理からは,1点目として,現下の厳しい状況を収束させるためには,治療薬の開発が重要であり,G7の英知を結集させ,開発を加速させることが必要であること,2点目として,経済に悪影響がある中,G7が協調して必要十分な経済財政政策を実施するという力強いメッセージを出すべきであるとの点を述べ,G7の賛同を得ました。また,今回の首脳間のテレビ会議は非常に有意義であり,必要に応じ再度開催することで一致しました。
3 また,安倍総理は,東京オリンピック・パラリンピックについて,人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証として,完全な形で実施したいと述べ,G7の支持を得ました。
4 参加したG7首脳間では,新型コロナウイルス感染症への対応に際し,国際社会が一丸となった取組が求められていることを確認し,首脳間で率直な意見交換を行い,G7として引き続き協力することで一致しました。

【参考】G7首脳テレビ会議出席者
 日:安倍総理,米:トランプ大統領,独:メルケル首相,加:トルドー首相,伊:コンテ首相,英:ジョンソン首相,仏:マクロン大統領,EU:ミシェル欧州理事会議長,フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長

 我が日本の偉大なる総理大臣安倍晋三は〈東京オリンピック・パラリンピックについて,人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証として,完全な形で実施したいと述べ,G7の支持を得た。〉

 現時点では人類は未だに新型コロナウイルスに打ち勝っていない。当然、「打ち勝った」は過去完了形の事実提示ではなく、未来完了形の事実提示としなければならない。未来完了形の事実提示である以上、その「証」は今後のいずれかの時点で〈打ち勝った〉結果として手に入れることを予定していなければならないことになる。

 でなければ、「人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証として」と発言することはできない。

 要するに新型コロナウイルスの終息宣言となる。東京オリンピックの日程は7月24日~8月9日(パラリンピックは2020年8月25日~ 2020年9月6日)だということだから、開催のための準備もあることから、最低限6月中の終息宣言でなければならない。しかもオリンピックもパラリンピックも世界的なスポーツの一大祭典だから、日本だけの終息宣言ではなく、世界的な終息宣言ということでなければならない。「打ち勝った」主語を「日本人」ではなく、「人類」に置いていることからも、世界的な終息宣言ということになる。

 安倍晋三の「人類」を主語に使った勇ましい宣言に反して日本だけが終息、日本以外の各国の感染が終息しないままに世界的規模で感染が引き続いていた場合の状況下でオリンピック開催ということなら、日本は外国人アスリートに対しても観戦目的で入国する外国人訪日客に対しても、入国後2週間の指定場所での隔離・観察期間を置くといった措置を取らざるを得なくなって、そうした場合、外国人アスリートから見ても、観戦目的の入国外国人観戦客から見ても、一定の制約を課せられることになる以上、4年毎通りの「完全な形」「実施」ということにはならないはずだ。

 観戦目的の入国外国人は2週間の隔離・観察期間後に陰性と確認されなければ、各競技場に入れないことになるし、特に外国人アスリートに対しては2週間隔離した状態でそれぞれに十分にトレーニングできる場所と機会を提供しなければならない。場所はともかく、個人競技ならまだしも、団体競技であるサッカーの11人、ラグビーの15人などが2週間の隔離・観察期間中、メンバー同士がお互いに接触せずに1メートルから2メートルの間隔を常に置いた状態でのトレーニングを強いられることになれば、十分なコンディショニング(スポーツパフォーマンスを最大限に高めるために、筋力やパワーを向上させつつ、柔軟性、全身持久力など競技パフォーマンスに関連するすべての要素をトレーニングし、身体的な準備を整えることと定義される。 NSCAジャパン)の機会を提供したことになるのだろうか。

 要するに安倍晋三の言う「完全な形で実施」は最低限6月中の世界的な終息の状況下でなければ、実現不可能となる。果たして安倍晋三が勇ましく掲げた6月中の世界的な終息は可能だろうか。

 この電話会議を伝えた2020年3月17日付「NHK NEWS WEB」記事では、外務省の「打ち勝った証として」となっているところが、「全力で準備を進めており、人類が新型コロナウイルスに打ち勝つ証しとして完全な形での開催を目指したい」と述べたとなっている。

 未来完了形ではなく、明確な完了時期を示さない未来進行形となっていて、発言としてはある程度妥当性を持つことになる。当然、「完全な形での開催」にしても時期が不特定となり、安倍晋三のこの発言から延期を示唆ものだとか、延期の伏線だと伝えるマスコミも現れた。

 だが、発言が未来完了形であろうと、未来進行形であろうと、安倍晋三は人類が新型コロナウイルスに打ち勝つであろう根拠は何一つ示していない。ワクチンを開発したとも言っていないし、例え開発していたとしても、臨床試験開始から実用化までには1年以上かかるとされていて、今年夏のオリンピック開催にまでは間に合わない。

 あるいは既存の対感染症ワクチンが新型コロナウイルスにも有効であることが証明されたと発言しているわけでもない。打ち勝つであろう根拠は何一つ示さないままに発言が実質的にこの夏の開催であろうと、一定期間を置いた延期であろうと、「完全な形での開催」を宣言した。

 オリンピックそのものはIOCや国や自治体が運営する。だが、各競技そのものはアスリートたちのパフォーマンスによって成り立っている。アスリートたちは自分たちのパフォーマンスを最大限・最善の形で見せるためにオリンピックの場合は7月24日から8月9日にかけた期間に、パラリンピックの場合は8月25日から9月6日かけた期間に照準を合わせて精力的にコンディショニングに取り組んでいるはずである。

 要するに東京オリンピックとパラリンピックに関わるアスリートたちのコンディショニングは前回のリオオリンピックが終了した時点から開始されていたと見ても過言ではない。当然、このようなアスリートたちのコンディショニングがオリンピックという実際の舞台で形を取るパフォーマンスに応えるためには「完全な形での開催」は照準通りに期間をずらしてはならないことになる。少しでもずらせば、アスリートの立場からしたら、「完全な形での開催」は崩れる。

 要するに最低限、安倍晋三の6月中の世界的な終息宣言通りに終息しなければ、「完全な形での開催」は不可能となる。無理に開催可能とするなら、アスリートたちのコンディショニングやパフォーマンスを現在以上に犠牲にしなければならない。

 3月16日のG7首脳テレビ会議から3日目の3月19日の参議院総務委員会での東京五輪に関わる安倍晋三の発言を2020年3月19日付「NHK NEWS WEB」記事が取り上げている

 G7首脳テレビ会議で完全な形での開催を目指す考えを示し、各国首脳から賛同を得たことを説明してから。

 安倍晋三「『完全な形』と申し上げたが、まず、アスリートと観客にとって安全で安心できるものでなければならない。そして、規模は縮小せずに行う、かつ、観客にも一緒に感動を味わっていただきたいということだ」

 片山虎之助(維新の会共同代表)「東京オリンピックは、ことし7月24日に始まるが、『完全』の中に時期のことも入るのか」

 安倍晋三「延期や中止については、一切言及はしていない。大切なことは、完全な形で、オリンピック・パラリンピックを日本で開催をすることだ」

 中止ならなおさら、延期にしても、アスリートたちからしたら、「完全な形での開催」を崩すことになることを認識して発言しているのかどうか分からないが、安倍晋三自身の認識としては延期と中止は「完全な形」から外していることになる。

 だが、「完全な形での開催」「人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証として」実現することになるのだから、「完全な形での開催」自体が6月中の世界的な終息宣言でなければならない。

 だが、6月中に終息させるまでの期間中、新型コロナウイルスの世界的規模での感染の危険性にアスリートたちが曝されている危険性については触れていない。もし触れていたなら、記事は伝えるだろうし、安倍晋三自身も、「延期や中止については、一切言及はしていない」と言い切ることはできない。

 「完全な形での開催」が安倍晋三の発言どおりに実現したなら、結果的に安倍晋三の利害とこの夏に照準を合わせているアスリートたちの利害は一応は一致することになるが、ここにきて一部アスリートたちの利害に狂いが生じていることを伝える報道が目につくようになった。利害の狂いは照準の狂いに原因を発している。照準に狂いがなければ、五輪が延期も中止もなく、「完全な形での開催」が実行されさえすれば、利害の狂いにしても生じない。

 2020年3月18日付のNHK NEWS WEB記事が「東京オリンピック “予定どおり開催へ” 方針に疑問の声も」と題してIOC委員やアスリートの声を伝えている。

 ヘイリー・ウィッケンハイザー女史(女子アイスホッケーなどのカナダ代表としてオリンピックに出場したIOCの委員)「今回の危機はオリンピックよりも大きい。IOCが開催に向けて進もうとしていることは、人間性の観点から無神経で無責任だ。

 オリンピックを中止すべきかどうか、今の時点では誰も分からない。ただ、IOCが開催に向かって進むのは、練習している選手や世界中の多くの人たちにとって正しくないことは確かだ」

 新型コロナウイルスの世界的な感染拡大の影響下にあるアスリートや観客の立場に立って、東京五輪の強行開催はアスリートや観客に対して人間性の観点から問題があると訴えている。

 エカテリニ・ステファニディ選手(2016年リオデジャネイロ大会陸上女子棒高跳び金メダル選手、ツイッターで)「IOCは大会に向けて練習しなければならない私たちや家族、公衆の健康を脅かしたいのか。あなたたちはまさに今、私たちを危険にさらしている」

 要するに東京五輪に向けて万全な練習を心がけるなら、国や自治体のコロナウイルス感染防止対策によって受けることになる様々な制約は練習の障害となる。その障害を無視して万全な練習を優先させれば、そうしたいが、感染の危険に曝されて、その心配だけではなく、万が一感染することになったなら、自身や家族、第三者の健康を脅かすことになると、思うようにならない練習と感染拡大の状況の間で気持ちが立ち往生している姿を覗かせている。

 2020年3月21日付「NHK NEWS WEB」記事が、〈イギリス陸上競技連盟のニック・カワード会長は、イギリスの新聞「デイリーテレグラフ」のインタビューに対し、東京オリンピックについて「政府が感染拡大を防ぐ策を講じる中、練習施設が閉鎖されたことで、選手たちはストレスを感じている。予定どおり開催できないと決めるべきだ」と述べ、延期するべきだという考えを示し〉、さらに、〈「選手たちの意見が表に出始めるようになれば、延期という決定が速やかに出されると信じている」と述べた。〉と伝えている。

 こういった声を受けてのことか、あれ程通常通りの開催を主張していたトーマス・バッハを会長に頂いていたIOC=国際オリンピック委員会は2020年3月22日に大会の延期を含めた具体的な検討を組織委員会などと共に始め、4週間以内に結論を出すと発表したと2020年3月23日付「NHK NEWS WEB」記事が伝えている。

 通常通りの開催から方針転換を見せなければならなかった背景として記事は、〈新型コロナウイルスの世界規模での感染拡大を受けて東京オリンピック・パラリンピックの代表選考に関わる大会が相次いで中止や延期となるなど影響が広がり、選手や競技団体、それに複数の国のオリンピック委員会から延期を求める声があがっていた。〉ことを挙げている。

 但し、〈一方で、「大会の中止は何の問題解決にもならず、誰の助けにもならない」と強調し、大会の中止は検討しないことも理事会で決まった。〉と伝えている。

 今朝(2020年3月23日)のNHK中継の参院予算委員会で自民党の佐藤正久が最初の質問に立ち、冒頭、IOCのこの方針転換を取り上げて、「人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証として,完全な形で実施したい」としていた安倍晋三の認識を尋ねた。

 この質疑に関しては「2020年3月23日 9時53分」の時点で「NHK NEWS WEB」が既に記事にしていたから、利用することにした。

 安倍晋三「私の考え方については、昨晩、組織委員会の森会長にも話をし、森会長からIOCのバッハ会長にも話をしたと承知している。IOCの判断は、私が申し上げた『完全な形での実施』という方針に沿うものであり、仮に、それが困難な場合には、アスリートのことを第一に考え、延期の判断も行わざるをえないと考えている。

 今後、IOCとも協議を行うことになるが、トランプ大統領をはじめG7各国の首脳も、私の判断を支持してくれるものと考えている。もちろん、判断を行うのはIOCだが、中止は選択肢にはないという点は、IOCも同様だと考えている」

 記事はG7テレビ会議で安倍晋三が〈東京オリンピック・パラリンピックについて,人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証として,完全な形で実施したい」と述べ,G7の支持を得た。〉としている部分については触れていないが、テレビ中継の質疑では佐藤正久に対して「打ち勝った証として、完全な形で実施したいと述べて、G7の支持を得た」と発言している。

 要するに「打ち勝った証として」と、未来完了形で発言、「打ち勝つ証として」と未来進行形では述べてはいない。但し「打ち勝った証」が6月中の世界的な終息宣言となることについては3月16日のG7首脳テレビ会議から6日経過した翌日の3月23日朝になっても気づいていない。

 つまり6月中の世界的な終息宣言となることを前提としてこそ、通常通りの「完全な形で実施」を訴えることができるはずだが、その前提を考えることもできずに、「IOCの判断は、私が申し上げた『完全な形での実施』という方針に沿うものであり」と、さも新型コロナウイルスが6月中に世界的に終息するかのようなストーリーで「完全な形で実施」の方針を安倍晋三が求めたのに対して、その方針にIOCの判断が添っているかのように自身の「完全な形で実施」を正当化している。

 この正当化はあくまでも6月中の世界的な終息を視野に入れていたものでなければ、「人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証として,完全な形で実施したい」は何の根拠もない口先だけの言葉となるが、結果として様々な事情によって6月中の終息が実現できたとしても、オリンピック期間に照準を合わせなければならない最大限・最善のパフォーマンスを見せるためのアスリートたちのコンディショニングの困難さは終息するまでの期間内は引き続くことになって、不満足なコンディショニングは最大限・最善のパフォーマンスを望むことができない要因となり、このような要因を強いられた場合、これも「完全な形で実施」から外れることになる。

 となると、「完全な形で実施」が「困難な場合には、アスリートのことを第一に考え、延期の判断も行わざるをえないと考えている」はアスリートたちのコロナウイルスの世界的な感染状況下でのコンディショニングの困難さを視野に入れていた発言に見えるが、最初から視野に入れていたなら、終息がいつとなるかは別問題として、通常通りの「完全な形で実施」は口にできるはずはなかった。

 この言葉を口にしたこと自体がアスリートが抱えることになる制約を何ら考えることもなく、決められたとおりに五輪を開催したいという、何の障害もないままに一つのレガシイとして記憶されることを望んだ自己都合優先の発言に過ぎないことになる。

 自己都合でなければ、期間どおりの「完全な形で実施」が6月中の世界的な終息宣言となることに気づくはずだし、「完全な形で実施」を言う前にアスリートたちのコロナウイルス感染状況下でのコンディショニングの困難さにも気づいて、「完全な形で実施」を言わずに、期限を設けて、〈フランスのオリンピック委員会の会長がロイター通信の取材に対し、東京オリンピックが予定どおり開催されるためには5月末までに感染拡大のピークを過ぎていることが目安になるという考えを示した。〉と「NHK NEWS WEB」が伝えているが、一定の期限を設けて、「アスリートのコンディショニングの問題もあるから、それまでの間に開催か延期かを判断することになるだろう」と発言していたはずである。

 どちらも気づかなかった。自己都合を優先させた東京五輪の期日通りの開催願望に過ぎなかったからだ。

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