相変わらず学習しない、相変わらず非効率な同じ繰り返しの自然災害時の救出・捜索活動

2021-07-19 11:01:06 | 政治
 梅雨前線に伴う7月1日からの大雨は各地に土砂災害をもたらし、7月3日午前10時30分頃、静岡県熱海市伊豆山地区逢初川中流部山腹を起点に土石流が発生、土石流は山中の谷に沿って1キロメートル下り、傾斜地の伊豆山地市街地に襲いかかって、住宅を押し流し、家々を破壊し、さらに東海道新幹線と東海道本線の高架下を潜り、海にまで達したという。流速は時速約40キロに達したと報道されている。

 土石流の発生要因は降雨であるが、逢初川上流部山腹の盛土が長雨を受けて崩落、約5万立方メートルの盛土が土石流となったと推定されている。10トンダンプの平均積載量が6立方メートル前後ということだから、約8333台分の土石となる。この約8333台分が盛土崩落地点から下流に約500メートル程の場所にあった高さ10メートル(ビル3階建に相当する)、長さ43メートルの砂防堰堤を乗り越え、逢初川沿いに流れ下って市街地を襲った。砂防堰堤上流側に約7500立方メートルの土砂がたまっていたと報道されているが、堰堤に貯まった岩、土砂や流木は次の土石流に備えて取り除くことになっているということだが、今年の梅雨前に万が一の大雨に対する危機管理として堰堤内の土砂等を取り除いていたとしたら、約7500立方メートルの土砂はほぼ盛土の一部と推定できて、その量の土砂を堰堤内にとどめたと計算可能となるだけではなく、約5万立方メートル+約7500立方メートル=5万7500立方メートルの土砂が崩落したことになる。

 逆にもし取り除いていなかったとしたら、既に土砂が内側に埋まっていた堰堤は最初からスキージャンプ競技で言うところのジャンプ台の助走と踏切台の役目を果たして、土石流の時速、いわば勢いを早めたと想定することもできる。堰堤はその内側に土石が溜まっていないことによって土石流に対して最大限の力を発揮するのだから、大雨に備えて土石を取り除いていなかったのか、いたのかも検証しなければならない。

 土石流によって120棟あまりの住宅が被害を受け、合計7人の死亡が確認された。安否不明者は当初113人としていたが、215人記載の住民基本台帳上と避難所の名簿を照合、64人へと変更、市内の他の場所、市外・県外の家族のところ、あるいは旅行といった形で移動しているケース、別荘を所有する県外居住者が多いことから、被害に巻き込まれたケースを考慮して、64人の氏名を公表、安否情報を求めることになった。

 氏名公表後、7月7日の時点で県と市は安否不明者を27人に絞ったが、他にも安否不明の通報が警察に6人あり、確認作業が進められることになった。そして安否確認作業と捜索活動の結果、7月17日時点で13人が遺体となって発見され、安否不明として15人が残された。

 人間が飲まず食わずで生き延びることができる生死を分けるタイムリミットが3日間、72時間とされていて、72時間以降、生存率が下がるとされているが、一般的な自然災害の場合であって、建物を破壊する衝撃力を持った土石流に建物ごと飲み込まれた場合、酷な話だが、水や泥濘が破壊された建物内の隙間全てを埋め尽くすして空気をシャットアウトする(空気を閉め出してしまう)確率が高く、先ず数十分のうちに窒息死してしまうことになり、救助活動はその数十分内に行われなければ、生存は難しく、その数十分以降は救出活動ではなく、遺体の捜索活動となるはずである。

 地震で建物が破壊された場合でも、津波に襲われなければ、水が破壊された建物内の隙間全てを埋め尽くして空気をシャットアウトする(閉め出してしまう)ということは殆どなく、身体自体が倒れてきた柱や落ちてきた天井によって受ける何らかの衝撃を避け得て、壊れた家具や折れた柱が支えとなって少々の空間に恵まれた場合、少なくとも72時間か、体力があれば、それ以上は持ちこたえる可能性は出てくる。

 東日本大震災の地震で家が倒壊した2階に閉じ込められ、その後津波に襲われて、水位が倒壊した2階にまで到達、水位の上昇は収まらず、天井近くにまで達したが、天井との間に10センチだか、20センチだかの隙間を残して水位が止まり、その隙間に顔を突き出して呼吸して生命を維持、後に救出された事例が確かあったと思う。

 大きな怪我をしていなくて、空気さえ確保できる状況なら、大体は72時間の生存は可能で、その間の救助活動がその後の生存を左右することになるが、こういった幸運は津波や土石流に襲われた場合は皆無に近い。救援隊は救助活動ではなく、遺体捜索となると分かっていても、被災者に1日も早い日常を取り戻して貰うために一刻も早い遺体発見が求められることになる。

 当然、残る安否不明者15人は遺体の捜索活動の対象となる。7月17日時点までの13人の遺体発見に約2週間かかったことになるが、警察や消防、自衛隊が1000人体制で捜索に当たったものの、全てスコップ等を使った手作業で行わなければならなかったからである。勿論、大量の土砂が障害となって重機を現場に持ち込むことができなかったから、止むを得ず効率の悪い手作業となった。土石流の最も被害が大きかった熱海市伊豆山地区に中型・小型の重機が投入されたのは7月16日となっている。7月3日土石流発生から13日目である。重機投入によって遺体の捜索活動は捗ることになる。

 だが、土砂災害や地震や津波、大雨・洪水等々によって唯一の交通路だった道路が寸断された、崖崩れて道路が塞がった、橋が落ちたといった理由で重機の搬入ができず、手作業での非効率な救出・捜索活動を強いられ、重機搬入までに多大な時間を取られる同じケースが繰り返されている。遺体捜索活動となりがちな土石災害や津波被害だけではなく、津波を伴わない地震による、生存の可能性は決して否定できない建物倒壊被害であっても、重機が入れずに手作業を強いられ、72時間を費やしてしまう同じ繰り返しが延々と続けられている。非効率な手作業によって救える命が救えなかったケースが存在しなかっただろうかといったことは考えないのだろうか。

 但し過去に道路が寸断されて、重機が搬入できず、手作業で捜索活動を強いられていたが、道路復旧前に重機を搬入した例がある。2008年6月14日午前8時43分発生のマグニチュウード7以上の岩手・宮城内陸地震の際、宮城県栗原市を流れる北上川水系迫川(はさまがわ)の支流三迫川(さんはさまがわ)上流の東栗駒山の斜面を崩壊源とした大規模な土石流が発生、栗駒山側の中腹にある「駒の湯温泉」を直撃、建物を倒壊し、1階部分が泥流に埋没、宿の住人と宿泊客7人が行方不明となり、後に5人が遺体で発見され、残る2人の捜索に手間取った。手間取った理由は例のごとく道路が寸断されたために重機が搬入不可能だったことと、寸断された道路が復旧して例え搬入できたとしても現場付近が大量の土砂と川水でぬかるみ、重機が使えなかったからだという。

 足場が大量の土砂と川水でぬかるんでいたとしても、元々の地面は固い土で覆われていたはずで、重機さえ搬入できれば、重機のマフラーは一般的にはバケットで容量以上の土を掬い取っても、前に突んのめらないように車体尻部分にカウンタウェイト(重り)を取り付けていて、カウンタウェイトの運転席側がエンジン部であって、そのエンジン部の後尾に垂直に取り付け、口を斜め上に向けている。あるいは運転席とエンジン部が一体となって回転するエンジン部の下側、キャタピラの上部に取り付けてある。どちらであっても、運転席に水が入らず、キャタピラが8分目程度が水に埋まっても、マフラーに水が入る心配はない(カウンタウェイトの上部に取り付けてあるのが最適であるが)。例え水深が目視できない状態で急に深くなっている場所があったとしても、アームを前に降ろして、バケットで水深を測りながら前進することができ、水深の程度で作業ができるかどうかは判断できる。

 要するに川水でぬかるんでいたとしても、水深が作業の可否を決める。キャタピラの上部まで水が達して、作業できない水深なら、近くの山肌の土を削って、それを埋めて足場を作る方法を取る。重機なら、簡単にできる。

 政府は地震発生の6月14日から12日後の6月26に陸上自衛隊の大型ヘリで吊り下げて中型ショベルカー(重さ4・4トン)を搬入している。重機搬入を阻んでいたという「道路寸断」を一気にクリアしてしまった。結果、道路が寸断され、重機搬入ができず、手作業での捜索活動で安否不明者の所在発見に手間取ることになったという経緯は時間と手間をムダに費やしたという結末を迎えたことになる。

 この岩手・宮城内陸地震が発生した2008年6月14日から約1カ月遡る2008年5月12日午後のマグニチュード7.9~8.0、死者7万人近くの中国中西部の四川省で発生した四川省大地震では中国政府は大型のヘリコプターMi-26 型(最大吊り下げ重量20t、世界最大)2台を用いて大型重機を運搬している。

 このMi-26はソ連製で、中国が買い取ったのか、中国でライセンス生産したのか、いずれかであろう。

 日本で自然災害現場に自衛隊の大型ヘリでの重機搬入例は後にも先にもこの一件で、再び自然災害が起きるたびに道路寸断等の理由で重機搬入ができず、手作業での捜索活動で行方不明者の所在発見に手間取ることになった、あるいは難航しているという光景が再び繰り返されることになった。今回の熱海市伊豆山地区土石流災害でも同じである。多くの報道で「手作業」という文字を散見することになった。泥と苦闘し、捜索活動が難航している云々と。

 勿論、手作業であっても、安否不明者の遺体発見はできる。重機で行うよりも時間と手間がかかるだけのことでしかないのかもしれない。あるいは土石流災害の場合は短時間で生存可能性はゼロに近づくから、72時間の壁は意味を持たない制約でしかなく、単純に遺体捜索と認識しているから、重機の搬入は通路の確保後だと、従来どおりの発想で割り切っているのかもしれない。だが、手作業が長くなればなる程、つまり重機の搬入が遅くなればなる程、遺体捜索の次の段階の瓦礫撤去完了が遅くなり、遅くなれば、街の原状回復が先送りされることになって、生存被災者の日常生活への戻りが順送りされる可能性が生じる。

 但し国家の大事を預かる国側としたら、数百人の住民の日常生活への回復が少しぐらい遅れても大したことはないと考えているのかもしれない。考えていないとしたら、自然災害発生のたびに初期的には手作業という人力に頼る光景が繰り返されることを当たり前の光景としていることから少しぐらいの工夫はあっていいはずである。

 例えば画像で載せておくが、この自走式除雪機は歩きながら作業する器械で、バッケとを持ち上げることができないが、3馬力の力があるから、雪を押し寄せる代わりに土砂や残材を寄せ集めたりすることができる。1馬力とは「75kgの重量の物体を1秒間に1m動かす(持ち上げる)力」のことで、「コトバンク」に「成人で短時間なら0.5馬力程度、連続では0.1馬力程度である」と出ているから、3馬力となると、スコップを動かして土石を取り除くよりも遥かに仕事量も仕事のスピードも早いことになる。

 使い方は雪かきとほぼ同じで、瓦礫の山の端に機械を斜めに据えて、瓦礫の山を斜めから少しずつ削っていく形で取り除いていく。雪かきと異なる点は一人が瓦礫が取り除かれていくときに瓦礫の中に万が一埋まっていた遺体を発見した際はバケットで傷つけないように監視役を務めることである。この監視役は重機を使うときも同じように務めるはずである。衣服の端らしき物を見つけたら、重機をストップさせて、手作業で周囲の土砂・残材を慎重に取り除き、遺体かどうかを確かめる。

 この除雪機は本体乾燥質量が71kgだから、4人が天秤棒でロープに釣るせば、1人当て18kg程度の重量だから、少しぐらい足場が悪くても必要現場に持ち込むことができる。
 
 除雪機では力不足なら、2020年7月の当ブログに使用したものだが、動画で紹介している除雪にも使用する日立歩行型ミニローダーML30-2は7馬力で、スコップ使用とは比較にならない大量の仕事をするが、バケットを最大限に持ち上げ、ダンプ姿勢を取ったときの地上よりバケット刃先までの高さを表す「ダンピングクリアランス」が1350ミリ。2トンダンプの床面地上高が940ミリ、軽ダンプの床面地上高が710ミリだから、両ダンプに積み込む作業ができる。この機体質量は335kgだから、道路寸断状態であっても、一般的な重機に先んじて災害現場にヘリコプターで吊り下げて、簡単に持ち込むことができる。

 軽ダンプは車両総重量が1430kg前後だから、これもヘリで持ち運び可能で、本格的な重機が入るまで土石を邪魔にならない場所にできるだけ集めておけば、重機が入ってからの片付けの期間短縮を図ることができる。

 道路が寸断されたからとスコップを主として使う手作業で安否不明者の捜索も瓦礫の片付けも時間をかける、相変わらず何も学習しない非効率な同じ繰り返しをするのではなく、街の可能な限りの早期の原状回復に務めて、生存被災者の日常生活の確立に手助けすることが国や自治体の役目であるはずである。だが、そうはなっていない。何も学習しない、非効率な同じ繰り返しが続いている。

 菅義偉は2021年7月12日に被災地熱海市伊豆山地区を視察し、現地で会見を行っている。一部抜粋。

 菅義偉「今日、災害現場を訪れました。大量の砂にうずもれた家屋だとか道路、2メートルを超えるそうした残土をかき分けながら人命救助のために取り組んでおられる皆さんから、お話も伺いました。大変厳しい中で、こうした行方不明の方の捜索をされている皆さん、正に警察、消防、海上保安庁、自衛隊の皆さんに心から感謝申し上げたい、そのような思いであります。

  ・・・・・・・・・・・・・・・

 皆さんが前を向いて生活することができるように、被災者生活・生業(なりわい)再建チームで、国の中で、そこはしっかり受け止めて、連携をしながら前に進めていきたいと思っています。それと同時に今お話がありました大規模被害、これは毎年続いています、線状降水帯、そういう中でその発生を予測するための資機材だとか、あるいは開発、これは思い切って前倒しで進めたいと思っています。こうした中で、大規模の災害対策というものをしっかりと進めていきたいと思います」

 警察、消防、海上保安庁、自衛隊の各メンバーの労苦に感謝申し上げる前に労苦を少しでも軽くすることを考えるべきだろう。前と変わらない同じ状況で繰り返す労苦を軽くする方策を考えもせずに言葉だけの感謝で済ます同じ繰り返しを見せるだけなのは芸がなさ過ぎる。

 「皆さんが前を向いて生活することができるように、被災者生活・生業(なりわい)再建チームで、国の中で、そこはしっかり受け止めて、連携をしながら前に進めていきたい」

 前を向いて生活することができる気分になるには少なくとも街が原状回復に向けてスタートを切り、それをキッカケに生存被災者たちが日常生活の遣り直しに向けて気持ちを新たにすることができてからであろう。安否不明者の捜索に手間取り、最も被害が大きかった熱海市伊豆山地区に重機が本格的に作業を開始したのは7月16日からで、作業開始4日前の、いつ重機が入るのかも分からない、原状回復どころではない、いわば被災者に対して前を向いて生活できる状況を与えることができていないままの7月12日に前を向いた生活の話をする。要するに被災者を真に思い遣った発言ではなく、自然災害時に決められた政府の手順を自らの責任として一つ一つ消化していくための発言だったのだろう

 街の原状回復と生存被災者たちの日常生活の遣り直しを早めるにはが安否不明者の捜索と瓦礫撤去を早めなければならない。当然、道路寸断等の理由で災害現場に重機搬入ができない状況下では、効率の悪い手作業での捜索活動や瓦礫撤去を効率が悪いままに繰り返すのではなく、効率よくする方策が必要になる。その効率化が被災者をして前を向いて生活する意欲・気力を早めに充実させる機会となり得る。
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