「米下院議長は女性」発言、「資料請求制限」発言、麻生の「民主党はナチス」発言に見るゴマカシ
ごく当たり前のことを言うが、言葉はその人の思想・信条を表現する。このことをそのまま裏返すと、言葉はその人の思想・信条と密接に結びつき、それらを関連づける形で発せられると言える。
自分が発する言葉に対する姿勢によって、その人間の人となり、即ち人間性、あるいは人格が判断される。
また言葉は何らかの事実、あるいは自身が事実としている事柄を踏まえ、それらと関連づけて発せられる。存在しない事実、あるいは存在しないとしている事実と言葉を関連づけることは不可能であろう。
勿論、最初に言ったようにどのような事実と関連づけられた言葉であっても、その人の思想・信条を表現する。
但し、自分の思想・信条を隠した偽りの発言も存在する。だが、言葉がその人の思想・信条を表現する以上、どうしても無理が生じる。いくら隠しても、思想・信条がどこかで現れるものである。
10月1日の「毎日jp」記事。≪米国:金融安定化法案否決 「下院議長は女性。それで破裂」 自民・笹川氏が発言≫
<自民党の笹川尭総務会長は30日、国会内で記者団に、米下院が金融安定化法案を否決した問題で「特に下院議長は女性。ちょっと男性とはひと味違うような気がする、リードが。それで破裂した」と語った。女性差別とも受け止められる発言で、物議を醸すことも考えられる。
その後、笹川氏は前橋市で記者団に「失言でも何でもない。『下院がまとめられなかった。議長は女性だ』と言っただけ。女性だからまとめられなかったとは一言も言っていない」と述べた。>――
確かに「女性だからまとめられなかったとは一言も言っていない」のは言葉通りにはという条件付で真正な事実だが、「それで破裂した」と同じ趣旨のことを言っている。
言葉に関わる最初に述べた「言葉は何らかの事実、あるいは自身が事実としている事柄を踏まえ、それらと関連づけて発せられる。」とする考えからすると、「女性だからまとめられなかったとは一言も言っていない」と弁解するなら、下院の否決という“事実”とどのような関連づけで「議長は女性だ」という“事実”を持ち出したのか聞くべきだった。
下院の否決という“事実”と「議長は女性」という“事実”を関連づけた発言だったからこそ、「特に下院議長は女性。ちょっと男性とはひと味違うような気がする、リードが。それで破裂した」とする言葉を飛び出させたはずである。
もし双方を関連つけていないなら、「議長は女性だ」という“事実”はどのような“事実”を踏まえ、それと関連づけた言葉なのか、明らかにさせるべきだろう。どのような関連づけによる趣旨で「ちょっと男性とはひと味違うような気がする」と言ったのかと。
如何なる“事実”との関連づけもなく「議長は女性だ」という言葉が突然口を突いて出たとしたら、笹川尭の精神状態を疑わなければならない。
頭の中で議長を裸にしていて、その裸に性欲を催していたと言うなら関連づけが証明できる言葉となり、理解もできるが、精神状態から言えば、なおさら疑わなければならなくなる。
下院議長とは国会運営に関わる職務である。その事実と関連づけた「ちょっと男性とはひと味違うような気がする」とする発言であって、組織のトップに於ける男性と女性の能力の違いに言及した言葉であろう。
笹川尭にとっては「否決」という容認できない否定すべき出来事(=事実)に関連づけた能力の違いに対する指摘だから、女性の能力を男性の能力よりも一段下に置く見解であり、否応もなしに性差別を自分の見解あるいは思想・信条としていることを証明している。
そうであるにも関わらず、「『下院がまとめられなかった。議長は女性だ』と言っただけ」だと弁解しているが、前後の事実を関連づけもなく結びつけていることとなって、言葉のルールに反する構成を取ることになる。
明らかにウソの弁解であって、笹川尭の自分が発した言葉に対する姿勢とは国会議員でありながら、それも党の要職に就く程の政治家でありながら、ウソをついてまで言い逃れする人間――責任感のない人間だと人格判断されても仕方がないだろう。
次に農水省が「野党からの資料要求は、自民党国会対策委員会にあらかじめ相談する」とした内部文書を作成していて、資料請求に制限を加えようとしていた動き(=事実)に対する自民党の村田吉隆国対筆頭副委員長の自己正当化の弁解。
「膨大な資料要求で役所はまひする。ルールづくりのために実態把握が必要だから『ご相談ください』と申し上げた。(情報を)止めることはまったくない」(≪野党の資料要求「自民に相談を」=農水省が内部文書≫時事通信社/2008/10/01-12:27)
まさか野党のみに適用する、野党のみにタガをはめると言ってもいいが、「ルールづくり」ではあるまい。即情報公開に対する制限(=国民の知る権利の制限)となる。
与野党共に適用させる「ルールづくり」を目的としていなければならないはずだから、野党も同じ協議の土俵に乗せるべく前以て「膨大な資料要求で役所は麻痺させてはまずい。役所を麻痺させないようなルールをつくりたいがどうだろうか」と相談があって、協同してルールつくりに取り掛かるのが常識であろう。
いや、それ以前の問題として、自民党側が「野党の資料請求が集中して役所の仕事がマヒ状態になっている」という農水省の事実をどうして知ったかである。その“事実”を知らなければ、「ルールづくり」を思い立つはずがない。
農水省の方から「野党の資料請求が集中して仕事がマヒ状態になっている、どうにか解消するようなルールづくりをしてもらえないか」と相談があって、自民党の国会対策関係が動き出したという事実の関連づけがなければならない。
野党の集中的な資料請求という“事実”は取り敢えずは認めよう。その“事実”を受けて、農水省のマヒという“事実”があり、その“事実”を踏んだ農水省から相談の“事実”があって初めて、自民党国会対策関係の「ルールづくりのために実態把握が必要だから『ご相談ください』と申し上げた」“事実”と関連づけ合うことができる。
確実に言えることは、この一連の“事実”の関連づけの中にルールづくりの相談が野党にはなかったという“事実”の存在である。相談という“事実”を関連づけもせずに「野党からの資料要求は、自民党国会対策委員会にあらかじめ相談する」(同上記記事)とした内部文書を作成していた。
いわば野党の集中的な資料請求という“事実”に関連づけて「ルールづくりのために実態把握が必要だから『ご相談ください』と申し上げた」“事実”が生成した一連の流れの中で野党に向けたルールづくりの相談という“事実”のみ抜け落ち、その“事実”は前の“事実”と関連づけられることはなかった。
無視していたということだろう。いや、秘密裏にどんな資料請求か前以て知らせろと情報漏洩を通告したということではないか。
省庁は政権党の内閣が所管し、その責任を負う。だからと言って、その権限は運営に関わる管理・監督のみで、所有権まで与えられ、自民党の所有物と看做されているわけではない。野党に知らせないまま、野党から資料請求があったなら、「自民党国会対策委員会にあらかじめ相談する」と自分たちだけで分かっていることとしたのは役所の独断的な私物化に他ならない。
「(情報を)止めることはまったくない」とした村田吉隆国対筆頭副委員長の弁明は薄汚い責任逃れの自己正当化に過ぎないと言える。当然、その人格を疑われても仕方があるまい。
最後に我が日本の総理大臣閣下・麻生太郎の言葉。昨10月1日、衆議院本会議で麻生首相に対する代表質問があった。民主党の鳩山幹事長が中山成彬を国土交通大臣に任命したことと民主党をナチスに譬えたことに対する麻生首相の責任を質した。
鳩山民主党幹事長
(中山任命について)「あなたは所信でいとも簡単に中山国土交通大臣に触れただけで、あなたの任命責任については、まるで述べられませんでした。中山議員について任命したときは適任だったと語ったと伺いましたが、その言葉は任命責任を回避する発言であります。元々は中山議員は偏向した発言を繰返していたではありませんか。それとも歴史観と国家観を共有する同志と思って任命されたんでしょうか。あなたもかつては日本は一国家、一民族であると発言されておりました。その言葉はひょっとしたらホンネじゃありませんか。アイヌ民族が先住民族であることが認められた記念すべき年に、何という発言をする大臣を任命してしまったんでしょうか。成田空港問題や大分の教育委員会汚職の事実すら正確に把握していなかった人を閣僚に任命し、5日で辞職させなければならなかったと言うことは、単なる失言問題ではなく、重大な不祥事であります。任命責任についてしっかりと国民にお詫びし、あなた自身を含めて二度と同じことを繰返さないと誓うべきであります。如何でしょうか」
(民主党をナチスに譬えた麻生発言に関して)「自分に賛成しない者は敵であり、悪であるとして攻撃する路線。それを人はファッショと呼ぶんです。あなたは民主党をなぜかナチスになぞらえました。あなたに民主党がなぜナチスなのか、この場でご説明をいただきたいと存じますが、あなたの質問は政策が異なる政党に対して、きわめて傲慢・不遜であります。それがあなたの質問に対する民主党の回答であります」
麻生
「鳩山議員の質問にお答をさせていただきます。まず中山前大臣の任命責任と私の発言についてご指摘がありました。中山前大臣の一連の発言は閣僚として誠に不適切であります。関係者のみなさま、国民のみなさまに深くお詫びを申し上げる次第です。任命責任は私にあります。今後仕事で成果を出すことにより、国民に対して責任を果たしてまいりたいと存じます。
私の過去に対する不用意な発言で関係者のみなさまに不快な思いをさせたことにつきましても、お詫びを申し上げさせていただきます。今後総理大臣として言葉の重みを弁えつつ、発言してまいりたいと思います」
(ナチスに譬えたことについて)「民主党をナチスに譬えたとのご指摘がありました。私は議会が国民の負託に応えることができず、その機能を果たさなくなったときにナチスが政権を獲った事実を指摘したのでありまして、民主党とナチスを譬えたことはありません」――
中山を国土交通大臣に任命したと言う事実があり、中山自身の不適当な発言という事実が生じ、麻生太郎は「指名した段階に於いては適任だった」という事実を突きつけ、辞任という事実で幕を閉じた。断るまでもなく後の“事実”は前の“事実”に関連づけられて姿を現す。国土交通大臣に任命されなかったなら、一連の問題発言は飛び出さなかったろう。
問題発言がなかったなら、麻生太郎は「指名した段階に於いては適任だった」といった奇妙な“事実”を突きつけることもなかったろう。
最初に言葉はその人の思想・信条を表現する。このことをそのまま裏返すと、言葉はその人の思想・信条と密接に結びつき、それらを関連づける形で発せられると言った。
中山成彬の一連の問題発言にしても中山自身の思想・信条に関連づけられて発せられた言葉であるのは誰も否定することはできないだろう。いわば中山自身の思想・信条に関連づけられて任命から辞任までの“事実”が推移した。
「元々は中山議員は偏向した発言を繰返していたではありませんか」と鳩山幹事長が指摘するまでもなく、偏向した思想・信条の持ち主だった中山を「指名した段階に於いては適任だった」としたのだから、例え麻生太郎が「この種の発言は、普通、閣僚になったらしない。政治家としての気持ちと閣僚としての立場は、同じ政治家とはいっても重さが違う。こういうことは、普通、発言する種類のことばではない」と断罪したとしても、中山自身の思想・信条を肯定して「適任」としたのである。
そしてその肯定は同時に麻生太郎の思想・信条と関連づけられた肯定だったはずである。例えそれが福田前首相が麻生太郎を後継に意図したのが政策や国家観の相違を無視して政権維持という打算からであったように別の打算からの肯定であったとしても、思想・信条が無節操という名のものに変わるだけのことで、それらとの関連づけあることに変化はない。
いわば中山の思想・信条と麻生太郎の思想・信条は麻生太郎がどう弁解しようと、どう言い逃れようと、響き合っていたのである。
もし麻生太郎が中山が発言した「単一民族」といった言葉自体を問題としたなら、自分自身の「単一民族」発言に撥ね返ってくることとなって、任命責任どころか首相としての適格性を問われることになり、決して口にしない。
麻生は福田改造内閣で自民党幹事長に就任、その挨拶に江田五月参院議長を訪れた際、<江田氏が「自民党から民心が離れている」と指摘したのに対し、麻生氏は「歴史を見れば政権与党から民心が離れた結果、ナチスのような政党が政権を取った例もある」>(「日経ネット」)と言ったという。
「毎日jp」記事によると、「民主党が政権を取るつもりなら、ちゃんと対応してもらわないといけない。ナチスドイツも国民がいっぺんやらせてみようということでああなった」となっている。
どちらの記事の言葉であっても、与党から野党への政権移行を想定した場合の、その“事実”と関連づけた「ナチスドイツ」の譬えであり、現在日本の政治で自公政権から民主党を主体とした野党政権への移行が想定されている以上、民主党=「ナチスドイツ」としたことは間違いのない事実であろう。
それを「私は議会が国民の負託に応えることができず、その機能を果たさなくなったときにナチスが政権を獲った事実を指摘したのでありまして、民主党とナチスを譬えたことはありません」と薄汚く言い逃れる。
もしこれが薄汚い言い逃れでないと言うなら、この現在の日本に於いて「議会が国民の負託に応えることができず、その機能を果たさなくなった」場合の“事実”とどこをどう関連づけることによって「ナチスが政権を獲った事実」の譬えを生じさせることができるのか、説明すべきだろう。
ナチスと民主党と関連づける意志があったからこそ、前の文脈に関連づけて後の文脈をつくり出したとしなければ、発言の整合性を失うことになる。
総理大臣としてのと言うよりも、それ以前に一個の人間としての人格を疑わざるを得ない
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『椿事件』
1993年9月21日、民間放送連盟の「放送番組調査会」の会合の中で、
テレビ朝日報道局長の椿貞良が、選挙時の局の報道姿勢に関して
「小沢一郎氏のけじめをことさらに追及する必要はない。
今は自民党政権の存続を絶対に阻止して、
なんでもよいから反自民の連立政権を成立させる
手助けになるような報道をしようではないか」
との方針で局内をまとめたという趣旨の発言を行う。
(ウィキペディア「椿事件」)