司会「今回の選挙で有権者に一番訴えたいことは何か。持ち時間2分で――」
麻生「麻生太郎です。私が最も訴えたいことは責任力です。自民党には一貫性ある公約とそれを実行する力があると存じます。
訴えたい政策は3点。景気最優先・安心社会の実現。そして日本を守る。私は内閣総理大臣に就任して以来、経済対策に全力を挙げてきました。その結果景気の先行きに明るい兆しが見えてきました。今日発表された経済成長率は1年3ヶ月ぶりにプラスになりました。しかし国民の皆様に景気回復を実感していただくまでには至っておりません。未だ道半ばです。景気最優先。私は日本の景気を必ず回復させます。戦略なきバラ撒きでは経済は成長しません。
次は安心社会を実現します。一言で言えば、子供に夢を、青年に、若者に希望を、そして高齢者に安心を、です。行過ぎた市場原理主義とは決別します。改めるべきは改め、国民の暮らしを守ります。
そしてもう一つ守るのが日本の安全です。北朝鮮は日本人を拉致し、核実験やミサイル発射を強行いたしております。その明白な脅威から、日本を守らなければいけないと存じます。
また海賊対策。テロ対策。日米同盟。いずれも強化して、日本人の生命と安全を守り、国際貢献にも引き続き取り組みます。
安全保障の基本がフラフラしていては日本の安全は守ることはできません。麻生太郎と自由民主党は日本の、守り(ママ)、日本の安全に責任を持ちます」――――
我が日本の偉大なる総理大臣麻生太郎は最初に「私が最も訴えたいことは責任力です」と自信たっぷりに「責任力」を請合っている。自分では「責任力」があると頭から信じているからだろう。
そして引き続いて「自民党には一貫性ある公約とそれを実行する力があると存じます」と断言している。
「麻生内閣には一貫性ある公約とそれを実行する力があると存じます」とは言っていない。歴代自民党政権は各内閣と自民党が一体となり、自民党全体で推し進めてきた政権なのだから、「自民党には」云々は当然の言い回しであろう。麻生太郎自身、第二次橋本内閣で経済企画庁長官として初入閣(1996年)以来、自民党役員としては政務調査会長、副幹事長、幹事長を、閣僚としては総務大臣、外務大臣等を歴任している。自らも自民党の重要な一員として自民党政治及び自民党政権に深く関わり、自民党が伝統的に自らの体質としてきた「一貫性ある公約とそれを実行する力」を肌に感じて自らの体質とし、それを推し進めてきた一人となっていたはずである。
もし以前の内閣には「一貫性ある公約とそれを実行する力」がなかったが、麻生内閣にはそれがありますと言ったなら、自己矛盾そのものとなる。以前の内閣と与党としての自民党との一体性からしたら、自民党自体にも「一貫性ある公約とそれを実行する力」を持ち合わせていなかった、そのためにそれを内閣が守ることができるように後押しする力がなかったことになり、にも関わらず、以前の内閣は成り立ってきた。さらに「一貫性ある公約とそれを実行する力」を持ち合わせていないし、内閣に後押しする力もない自民党を母体として麻生内閣が成立したことになり、滑稽な矛盾を来たす。
あくまでも「一貫性ある公約とそれを実行する力」の主体は自民党でなければならないし、そのような自民党を母体とした内閣だからこそ、内閣と自民党は「一貫性ある公約とそれを実行する力」をブレること一切なく響き合わせることが可能となって、「自民党には一貫性ある公約とそれを実行する力があると存じます」と断言することができることになる。麻生太郎が言っていることは正しい。
だが、「自民党には一貫性ある公約とそれを実行する力があると存じます」と断言しながら、「行過ぎた市場原理主義とは決別します」とその「一貫性ある公約」に反した政策転換を宣言している。政策の転換は「一貫性ある公約」の転換をもたらす。
「改めるべきは改め」ると言っているが、そう言えば格好がつくように見えるが、麻生太郎は「行過ぎた市場原理主義」を推し進めた小泉内閣で総務大臣と外務大臣を務めて、自民党とも一体、小泉内閣とも一体を演じてきたのである。「改めるべきは改める」前に「自民党には」あるとする「一貫性ある公約とそれを実行する力」を土台として一体となって「行過ぎた市場原理主義」を推し進めてきた責任から自分自身を外していないだろうか。
自分自身を自民党政治の責任外に置いているからこそ、麻生自身も重要な協力者として加わり、自民党共々一体となって「行過ぎた市場原理主義」政策を強力に推し進めた結果、この党首討論の中の鳩山民主党代表からの麻生への質問でも、「子供から夢を奪ったのは誰でしょうか、若者から希望を奪ったのは誰なんでしょうか、特にお年寄りから安心感を全く奪ってしっまたのは、どの政権でしょうか」と言っているが、多くの国民が同じ印象を共有しているに違いなく、子供から夢を、青年、若者から希望を、高齢者から安心を奪う不安心社会を実現させておきながら、いわば麻生太郎も共犯者の一人だったにも関わらず、その責任を自らに問わないまま、「次は安心社会を実現します。一言で言えば、子供に夢を、青年に、若者に希望を、そして高齢者に安心を」と矛盾をサラサラ感じずに自信たっぷりに言っている。
不安心社会をつくり出した自民党政治の責任から自分を外に置いている麻生が「最も訴えたい」能力として「責任力」を言う。
単に「改めるべきは改め」、「決別すします」で済ますことのできる問題ではないということである。一蓮托生、共に進めてきた市場原理主義政治であり、新自由主義政治だったのだから。
麻生は自分もその一味となって子供から夢を、青年、若者から希望を、高齢者から安心を奪う不安心社会を構築した責任を取らないまま、「景気最優先。私は日本の景気を必ず回復させます。戦略なきバラ撒きでは経済は成長しません」と言って憚らない。
このような発言の経緯を可能とすることができるのは国の景気・経済があくまでも主で、国民の生活は従に置いているからだ。国民の生活の守りを基本に置いて景気対策に取り組むのと、日本の経済の守りを基本に置いて国民の生活を守るのとでは大きな違いがある。前者は国民の生活の守りを目的に据え、そこからスタートさせた日本の経済の守りとなるが、後者は国民の生活の守りはあくまでも日本の経済の守りを受けた結果生じる生活の守りとなる。
前者の場合勿論のこと政治の主役の座は国民が占めることになるが、後者は表立って経済活動をする大企業等を主役に位置づけることになる。
国民の生活を主に据えた経済政策なら、戦後最長の好景気時期に大企業は軒並み戦後最高益を出しながら、その利益を国民に還元しないで済ませて企業一人勝ちといった現象は決して起きなかったろう。
こういった経緯からも自民党政治が日本の経済の守りを基本に置いて国民の生活は従に位置づけた経済政策を行っていることが理解可能となる。麻生は単にこのような自民党の歴史・文化・伝統を受け継いでいるに過ぎない。
麻生が高らかに「景気最優先」と言えるのも、自民党が主として大企業の利害代弁を自らの伝統・文化・歴史としてきた、体質としてきたことを受けた「景気最優先」だからなのである。「国民の暮らしを守ります」は2007年7月の参議院選挙で与野党逆転の敗北を受け、政権放棄の危機が迫ってから言い出した国民目線に過ぎない。
このことは安全保障に関わる発言からも窺うことができる。
「そしてもう一つ守るのが日本の安全です」と安全保障の観点から「日本人の生命と安全を守」るとしているが、「日本人の生命と安全」の保護は何も安全保障に限ったことではなく、「国民の暮らし」の保護も重要な要件に加えなければならないはずである。
安全保障面からいくら領土を守っても、国民の生活が満足に成り立たなければ強い国とは言えないし、国を守ったとも言えない。北朝鮮みたいに国家とは名ばかりとなる。領土保全も国民の暮らしの充実も同等に必要優先事項でなければならない。領土保全と国民生活保全とは同時併行の両者一体のものとして相並び立てて初めて「日本人の生命と安全を守」ったと言えるはずである。
だが、麻生にはそのような考えはない。何度でも言うように自民党は子供から夢を、青年、若者から希望を、高齢者から安心を奪う不安心社会構築の政治を行って国民生活の保全を欠き、領土保全からのみの「日本人の生命と安全を守」るに傾いて両者の一体性を既に壊している。
麻生にはその認識がないから、北朝鮮の日本人拉致だ、核実験だ、ミサイル発射だ、海賊対策だ、テロ対策だ、日米同盟だ等々、日本の安全保障に於ける必要政策事項を並べ立てて力説することができる。
この点からも麻生が不安心社会をつくり出した自民党政治全体の責任から自分を外していることが分かる。
麻生の言っていることを譬えるなら、家庭内別居だ、夫も妻も愛人を抱えて好き勝手に振舞っている、大きくなった子供は引きこもりだ、娘は家出して若い男と同棲しているといった家庭の事情を抱えていながら、そういった中身を問題とせずに建物としての家は耐震補強が施してあって阪神大震災並みの地震に耐えられる強度がある、耐火構造の上、スプリンクーラーも設置してある、すべての出入口、すべての窓の防犯対策は万全だと誇るのと同じである。
「自民党には一貫性ある公約とそれを実行する力ある」とした自民党政治の一体性が果たすべき責任から、あるいは不安心社会をつくり出した自民党政治の一蓮托生が負うべき責任から自分を外に置く麻生の姿と、国の景気・経済をあくまでも「最優先」(=主)と位置づけて、国民の生活を従に置いている姿勢が党首同士の議論でも当然の姿として現れることになる。
何と言っても「私が最も訴えたいことは責任力です」と胸を張っているくらいだから、麻生らしく現れていることに知らぬが仏で気づかない。各党首が2分ずつ有権者に一番訴えたい主張を終えてから党首同士のテーマ自由の議論に移った。最初に鳩山民主党代表が自民党麻生に議論を仕掛けた。
鳩山「私はそれでは麻生総理にお尋ねします。先程麻生総理は演説の中で子供に夢を、若者に希望を、さらにお年寄りには安心をとおっしゃいました。子供から夢を奪ったのは誰なんでしょうか。若者から希望を奪ってしまったのは誰なんでしょうか。特にお年寄りから安心感を全く奪ってしまったのは、どの政権なんでしょうか。むしろ、そのことを厳しく問いたいと思います。国民の多くはそこに怒っている。私はそう確信をしています」
ここで質問をとめて、この質問に限っての麻生の答を聞くべきだったが、質問が続いた。
鳩山「景気が回復する兆しが出てきたと、そのような話がありました。私は、まるでこれは国民の実感から外れていると思います。特にリーマンショックの頃も、その前、10年間、自民党さんは景気は回復している。あるいは景気はいいんだと、いざなぎ景気を超えているんだと、そのようなことをおっしゃっていました。
しかしその10年間で家計の収入というものは100万円落ちているのでございます。景気がいいはずなのに、国民のみなさんの懐は100万円減ってしまっていると。ここにこの国の大きな難しさがある。そう私は思っています。
しかし麻生総理は、そのような形で景気の回復の兆しだと。2%、来年は末までに必ず景気を回復させる、そのときは消費税の増税だと、そのように公約されたわけであります。国民のみな様方の実感とはまるでかけはなれた現実にあるにも関わらず、このような数字の上での景気が、例えば2%回復したと、いう状況になれば本当に麻生総理は消費税の増税されるんでしょうか」
麻生「昨年の10月、当時は政策より政局、経済対策より解散・総選挙という声が大きかったと存じます。私は少なくとも今、経済対策・景気対策・雇用対策は優先される。少なくともアメリカ発の、世界発と言えます、同時不況ということになりました。過去60年間でこんなことはありませんから、その意味でこれに集中するというのは、当然だということで、この10カ月の間で、約4回の予算編成、をさせていただき、経済対策というものに集中させていただいたと存じます。結果として、今日の経済指標の発表を見ましても、間違いなく1年3カ月ぶりに経済指標は上がった。プラス3%台まで乗ってきた。こういったのは、これまでの対策の成果だったと思っております。
また雇用、そういったとこに非常に大きなしわが寄ったという事実は率直に認めた上で、雇用調整助成金などで、少なくとも、確かあれは産経新聞でしたか、あの雇用調整助成金がなかりせば失業率8.8%になっていたであろうと、書いてあったと記憶しています。少なくとも、そういう成果がやっと出てきた。
しかし、これはいわゆる数字の上の話であって、国民が肌でその景気回復を実感しているか、言えば、そこまで至っておりません。従って、景気回復を最優先させると、私は就任のときに申し上げたことが、全治3年とも申し上げました。まだ道半ばだと思っておりますんで、引き続きこの景気対策、最優先でやらなければならないものだと思っております」
鳩山代表「麻生総理、私の質問にまったくお答えになっておられないんでありまして、このような状況で数字が上がっただけでは、それでは(消費税は)上げないと、上げるとは決めてはいないというふうにおっしゃってるのか、やっぱり公約として来年度末には2%、そして今も3%という話であれば、もう上げてもいいような時期になっているのかもしれませんが、本当にこのような状況の中で、上げてしまうのかどうか、イエスかノーかでお答え願いたいと、私は敢えてまたお願いします」
麻生「そうではなく、理解しておられないと思います。少なくとも我々は法律の付則できちんと、この点は書いてお示しをしたと思います。そこで十分に答えております。
問題は景気回復というのを大前提になっておりますんで、景気回復が大前提の、景気回復というものに今、指標ができつつあると、いう段階ですが、まだ国民が肌で実感するまでに至っていない。まだ10カ月余ですから。その意味では引き続き、景気対策を最優先にやっていく。その結果、我々の所期の目的に達成し、景気回復を実感していただけるような、数字、また実感としても、双方ともに景気回復というものが国民の間に浸透していけるような段階までどうやってするかというのが、今最大の問題でありまして、消費税というものはその段階に於いて、ということは既に法律の付則で書いてあると記憶しています」
鳩山代表「何をもって景気回復というか、というかと、いうのが、全く明らかになっていないというのが、分かったわけでありますが、この話を伺っても押し問答だと思いますので、年金の話に移りたいと思います。
年金、いわゆる消えた年金、5千万件というものが発覚いたしました。それは民主党の長妻議員などが努力をして、ようやく分かった話でありまして、現実には無茶苦茶な、ボロボロの年金になっていたということが明らかになった。参議院選挙のときに、自民党さんは、これは1年で解決をするんだと、いう話をしました。いわゆる統合に関して、統合を1年間でやるというふうにおっしゃいました。しかし、あれから2年以上経っております。しかし、まるで何もできておりません。1千10万件というのが統合ができた数でありますが、まだ4千万件が残っていると。また殆んどが作業途中であると、目途が立っていない。この公約が全然守られていないことを、そしてなぜ解決ができなかったかということをお聞きしたい」
麻生「年金のことに関しましては、我々は残念ながら、これを目標と申し上げた年次内に解決できなかったことは事実であります。これは安倍内閣のときの公約だったと記憶します。それ以後、我々としては引き続き年金特別便などを出させていただきまして、多くの方々にご納得をいただいておるがゆえに返事が返ってこないという部分もあろうと思います。届いてない部分もあるかもしれませんよ。しかし、我々としてはこの点に最大限努力をし、引き続きその他の問題につきまして、年内を目途に、この問題については解決すると、いう話をさせていただいていると思います。
いずれにいたしましても、この年金の話というのは、色々な消えた年金、消された年金、色々あろうと存じますが、この問題に関しては、これはきちんと丁寧にやり続けていくという時間がどうしても必要だと、言うことだと思っております」
声・恰幅共にどこぞの暴力団の親分かと見間違えそうな堂々たる風情の公明党の太田代表から鳩山代表へと質問が移る。――
鳩山代表の最初の質問である、あるべき安心社会を損なったのは「どの政権なんでしょうか」との問いに麻生は全く答えていない。自民党に籍を置いている以上、自民党政治の責任に自らの責任を重ねる一体性を持たせた責任感を示すべきをそうはせず、自身の責任を自民党政治の責任から外に置いている。
そして答えたのは「間違いなく1年3カ月ぶりに経済指標は上がった」といった成果、「雇用、そういったとこに非常に大きなしわが寄ったという事実は率直に認めた上で」と断りを入れているものの、「雇用調整助成金」の成果の二つを最初に持ってきて誇っているが、その実「これはいわゆる数字の上の話であって、国民が肌でその景気回復を実感しているか、言えば、そこまで至っておりません」と最初の成果・誇りをいともあっさりと無意味とする“国民の実感”・国民の側の無成果を後に持ってきて差引きマイナスとしながら、何ら恥じるところがない。
「国民が肌でその景気回復を実感して」初めて、自らの景気対策・経済政策を誇り、成果とすべきを、そういった経緯を踏んでいないのはこれも明らかに国の景気・経済をあくまでも「最優先」(=主)と位置づけて、国民の生活を従に置いている姿勢の現れであろう。
また年金問題に関しても、「我々は残念ながら、これを目標と申し上げた年次内に解決できなかったことは事実であります。これは安倍内閣のときの公約だったと記憶します」と単に説明で済まし、ここでも自民党と一体であるべき責任の外に自分を置いている。例え「安倍内閣のときの公約だった」としても、「自民党には一貫性ある公約とそれを実行する力があると存じます」と自民党政治の一貫性・一体性を謳っている以上、「公約」とした責任は一内閣で終わるものではないはずだが、平気で一内閣で終わらせている。
自民党が国民の信を問うという責任を果たさずに総理大臣の首を次々と据え替えて平気でいられる理由はここにあるのだろう。長期政権の安心感から責任意識をなくしてしまった。
麻生太郎は責任を感じない自民党の中でも一番手に挙げてもいい責任を感じない政治家ではないだろうか。自分では「責任力」があると思っている錯覚は合理的自省心・客観的自己認識能力の欠如がそうさせている思い違いに過ぎないといったところだろう。
主要6政党党首討論会が17日(09年8月)、東京・内幸町の日本記者クラブで午後開催。一部分を『プレスクラブ - ビデオニュース・ドットコム インターネット放送局』ダウンロードの動画から見てみる。
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