07年9月にミャンマーで仏教僧を中心にその他市民による民主化要求デモが発生、ミャンマー軍政当局は武力で弾圧。その際日本人映像ジャーナリスト長井健司氏がデモ鎮圧の官憲に至近距離から銃で謀殺される事件が起きている。軍政当局は9月27日未明に民主化要求の芽を潰す目的で旧首都ヤンゴン市内の僧院を急襲して仏教僧100名を拘束、軍事独裁による人権の抑圧統治の原状回復に無事成功した。
(タン・シュエ議長の写真とともに、どれも「軍の指導の下でミャンマーは分裂・弱体化を免れて着実な発展を遂げた」と軍の実績を強調し、国民は軍の下に一致団結し、国内と海外の妨害勢力を排除し規律ある民主化を進めなければならない、としている。/「NHK解説委員室ブログ」)
また日本人映像ジャーナリスト長井健司氏殺害に関わる日本政府の再三に亘る真相究明と遺留品変換の要求を言葉でのみ約束し、実際行動で責任を果たすことを無視、日本政府の要求の無力化にも成功している。
このような軍事独裁政治維持・国民抑圧政治維持の成功は安保理常任理事国の中ロの強い擁護があってのことなのは改めて断るまでもない周知の事実となっている。07年1月12日、国連安全保障理事会はミャンマー(ビルマ)の軍事政権を非難し、自宅軟禁中の民主化指導者アウン・サン・スー・チー氏の釈放などを求めた米英提案の決議案を採決したが、中ロがミャンマーの現状は安保理の取り扱う「国際平和と安全に対する脅威」に当たらないとして拒否権を行使、同案を否決している(≪ミャンマー非難決議で安保理 中ロ拒否権、否決≫(07.1.13/『朝日』朝刊から)。
揃って拒否権を行使したのは旧ソ連時代の72年以来35年ぶりだという。記事は「拒否権行使」の経緯を次のように伝えている。
<決議案はミャンマーにおける人権状況の悪化に「深刻な懸念」を示し、「地域の平和と安全に対する危機を最小化する明確な前進が必要だ」と主張。軍事政権に対し、速やかな民主化移行に向けた話し合いを進め、表現や政治活動の自由を認めて、すべての政治犯を無条件解放するよう求めた。
中国の王光亜・国連大使は反対演説で「ミャンマーの問題は主権国家の内政問題であり、隣国のいずれも地域的な平和と安全に対する脅威だとは認識していない」と主張。ロシアのチュルキン大使も「問題は国連総会や人権理事会の枠組みで検討されており、安保理がこれを代行するのは逆効果」と同調した。>・・・・
要するにミャンマー問題は「内政問題」だとする中国の基本姿勢は「見て見ぬ振りをしろ」論に当たる。近所で父親が子供に暴力を日常的に振るって虐待し、子供が生命の危機に相当する深刻な被害を受けているが、あくまでもその家庭内の問題であって、向こう三軒両隣及び地域の「平和と安全に対する脅威」とはなっていないから干渉すべきではない、見て見ぬ振りが妥当だと主張するのと同列の行為となっている。
そう、ミャンマー国民が独裁国家権力にどう自由を抑圧され、どれ程に非人間的な扱いを受け、政治活動を如何ように制限されていようとも、それがミャンマーの国境を越えて隣国にまで波及して「地域的な平和と安全に対する脅威」となっていない以上、ミャンマー自身の問題、「内政問題」で収めるべきだと主張したのである。
そして中国及びロシアのそのような基本姿勢は上記07年9月のミャンマー国民の民主化要求デモに対しても基本姿勢として維持・踏襲された。米英仏などの欧米先進国の強い非難、経済制裁要求に対して特に中国は「中国は他国の内政に干渉しない」という姿勢を取り続け、「隣国としてミャンマー情勢の安定と経済発展を期待しており、ミャンマー政府、国民が現在の問題に適切に対応していくと信じる(中国外務省・姜瑜副報道局長)」(≪ミャンマー情勢:事態の早期沈静化を望む姿勢…中国≫毎日jp/ 07.9.25)としてミャンマーの民主化を軍事政権にゲタを預ける倒錯行為によって対ミャンマー政策を維持・踏襲した。
これは児童相談所が子供を虐待する恐れのあると分かっている親に子供を渡す倒錯行為になぞらえることができる。「現在の問題に適切に対応」とは軍事政権によるより強固な政治活動の制限、人権抑圧以外にないからだ。
その結果、国連安全保障理事会でミャンマー軍事政権に対して民主化要求デモの「弾圧的措置の停止」を求めた米英等の議長声明案は中ロの反対にあって「強い遺憾を示す」とするミャンマー軍政を擁護する弱い表現に変えられ、採択されることとなった。
ミャンマー軍政当局にしても、中国の強い後ろ盾を受けて民主化デモ武力弾圧を「国内問題」とする態度を固守した。
要するに「地域的な平和と安全に対する脅威」の「脅威」とは軍事独裁国家権力の人権抑圧・自由の抑圧、政治活動の制限等によって受ける国民の「脅威」であることは断るまでもないことで(まさか反軍事政権・民主化要求デモを軍事政権が「脅威」としているという意味の「脅威」ではあるまい)、それが「地域的な平和と安全に対する脅威」とまでなっていない、つまり国内問題にとどまっているからと「内政問題」だとして「内政不干渉」の原則に立つべきだとする主張はその「脅威」を過小評価もしくは無化するするもので、そのような姿勢はそのまま軍事政権擁護、あるいは軍事独裁政治肯定につながる主張であり、結果的に軍事政権の国民に対する自由と人権の抑圧、政治活動の制限に水戸黄門の「葵の御門」のついた印籠同様の強力な免罪符を与える政策行為そのものと言える
そのような中ロの「内政不干渉」、「内政問題」を正当理由としたミャンマー軍事独裁政権肯定及び人権と自由の抑圧、政治活動の制限の免罪に欧米先進国の強い反対姿勢とは一線を画して日本を始めASEAN諸国が中途半端な姿勢で追随している。
そして今回の大型サイクロン「ナルギス」の襲来による死者4万人を超える死者と行方不明者3万人近くという現時点での人的被害がインド気象局や「アジア災害予防センター」の警告を無視してミャンマー軍事政権が国民を守るための適切な危機管理対応を行わなかったことが原因であることと、国際社会からの緊急援助物資は積極的に受け入れているものの、医療関係者を始めとした支援要員や専門家といった人的支援の受け入れは遅まきながらタイや中国、インドなど近隣国と一部国際機関に限定して災害支援のエキスパートを揃えた欧米先進国や日本からの受け入れを拒否していることが被災地の復旧及び被災者の救援を遅らせている要因となっている。
その上被災者救援を後回しにして新憲法草案の賛否を問う国民投票を強行、現軍事独裁政権の正当性認知を優先させた。
こういったミャンマー軍事独裁政権の国民福祉を無視する態度は中国やロシア、その他の国が長年「内政不干渉」、「内政問題」を理由に軍事政権の軍事独裁政治及び国民に対する人権と自由の抑圧、政治活動の制限を肯定することでそのことに免罪符を与えたことと地続きとなった国の姿であろう。別個の出来事ではありようがない。
国際社会が中ロその他の国の「内政不干渉」論、「内政問題」説に如何に無力であるか物語って余りあるが、中ロの強力と国際社会の無力がない交ぜとなったミャンマー国民の悲惨な悲劇としか言いようがない。
日本政府は<1988年9月の国軍による全権掌握後、1989年2月現政権が客観的に見て政府承認を行うための国際法上の要件を既に満たしていると判断するに至ったため同政権を承認>(外務省HP)している。日本政府は機会あるごとにミャンマーに対して民主化及び人権状況の改善を促してきたとしているが、それがまったく効果を見ていない以上、日本にとってはミャンマー軍事政権承認以来の地続きとなる、軍事独裁政権肯定と肯定による独裁政治免罪符付与によってもたらされたミャンマー国民の今回の惨状と言える。
我々はこのことを記憶の歴史に刻みつけ、例え他国の問題であっても、自由と人権の抑圧に関わる「内政不干渉」、「内政問題」の姿勢がいずれの国の国民の生命・活動を如何に蔑ろにする危険要素であるかを訴え続けていなければならない。
このことは中国・四川省巨大地震の被災者にも言える国家権力との関係ではないだろうか。
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「いずれは、イラク国民が自らの手で、自らの考える民主主義国家を立ち上げる可能性は0%ではないと思います」
だとしても、現在と同じ結果を招いたでしょうね。宗派闘争、アラブとクルドの民族間闘争。同じシーア派でも、主導権争い・・・・。
<国際テロ組織アルカイダなどイスラム過激派の思想的基盤をつくったといわれているエジプト・ジハード団の元指導者(ドクトル・ファドル)が獄中から「転向」を表明>(『朝日』記事から)、<「背教者へのジハード(聖戦)は義務」としたこれまでの主張を否定、外国人への攻撃をいさめている。>と言うことです。
所詮、「ジハード(聖戦)」と言おうが言うまいが、終わりのない報復合戦で終わっている。
「アメリカの民主主義」の元に、イラクに戦争を仕掛けておいて、手に負えない状態になったならば、「イラク国民の問題」というのは、何とも無責任な「干渉」ではないでしょうか。
世界統一な幸せというには、本当にあるのでしょうか。
世界中の80%の人間が幸せと思うことが、正しい幸せということができるのでしょうか。
ということを考えると、「干渉」というのは、非常に繊細な問題であり、自国での当たり前が、全世界の当たり前ではない、ということを肝に銘じて行動しなければ、第2、っ第3のイラク戦争が勃発しかねない、のではないでしょうか。
アメリカがフセインを倒さなければ、子の代、孫の代にまで独裁体制は受け継がれ、最大人口を占めるシーア派とクルド人は抑圧され続けた可能性・不幸せを考えるべきでしょう。