菅首相が3月1日(2011年)の閣議後の閣僚懇談会で国家公務員の総人件費2割削減実現のため、各閣僚が削減に指導力を発揮するよう指示したと、《“定員削減 閣僚が指導力を”》(NHK/2011年3月1日 13時35分)が伝えている。
片山総務相「国家公務員の総人件費の2割削減に向け、各省の定員を、仕事を見直すことを通じて減らしていきたい。ポイントは、仕事をいかに減らしていくかだが、それで生じた人員の配置転換を行うことも必要になってくる。また、職員の新規採用についても、これから検討していく過程で、抑制せざるをえないことになれば、協力をお願いしたい」
菅首相「総人件費削減は、内閣の最重要課題だ。役所任せにしていると、この問題は進みにくいので、各閣僚が実情をよく把握したうえで、みずから創意・工夫をして、イニシアチブをとって問題に当たってほしい」
「役所任せ」にせず、「イニシアチブ(主導権)をとって」とは、菅首相お得意の「政治主導」を発揮して事に当たれの指示なのはわざわざ断るまでもない。
だが、政治主導の政権運営を掲げ、政治主導が進んでいると常々公言していることからすると、副大臣・政務官を含めた各閣僚共に菅首相に右へ倣えで政治主導の姿勢が浸透しているはずだから(浸透していなければ、政治主導が進んでいるとは口が裂けても言えない)、「役所任せ」は菅内閣に於いては先ずは存在しない状況、既に死語となっていていいはずである。
「役所任せ」が死語とはなっていなくて、依然として存在する状況にあるなら、いわば“生語”として生き永らえているとしたら、菅首相の「政治主導」は偽りの実態と化す。
要するに「役所任せにしていると、この問題は進みにくいので」と言うこと自体が政治主導の状態となっていないことの証明となっている。
菅首相の発言は《首相が公務員定数削減指示 「厳しい目で見直しを」》(MSN産経/2011.3.1 12:33)では次のようになっている。
菅首相「役所任せにしていてはなかなか進みにくい。国家公務員の定員純減では各省庁ごとの工夫も必要だ。しっかり先頭に立って厳しい目で見直してほしい」
「役所任せ」ではダメだ、「しっかり先頭に立って」とわざわざ「政治主導」を指示しなければならないところに逆に官僚主導の影を嗅ぎ取らざるを得なくなる。
だが、この問題では何よりも菅首相自身の政治主導が如何にいい加減なものか、架空のこととして終わっているかをも証明している。民主党は2009年マニフェストで目玉の公約とした子ども手当、高校無償化、農業の戸別補償制度、年金制度改革、医療・介護の再生、高速道路無料化等に要する財源16.8兆円を国の総予算207兆円の全面組替えと税金のムダづかいの根絶、さらに天下り根絶等で捻出すると明記。
「ムダづかいをなくすための政策」として、国家公務員総人件費2割削減、衆議院の比例代表定数80削減、参議院については選挙制度の抜本的改革の中で、衆議院に準じて削減すると謳っていたのである。
広い意味で言えば、国の総予算207兆円の全面組替えもムダ削減に入るはずである。不必要・過大な事業の廃止・縮小をも含んでいるだろうからだ。
また菅首相が主体となって作成した《2010年参院選マニフェスト》では次のような「政治改革」を謳っている。
●参議院の定数を40程度削減します。
●衆議院は比例定数を80削減します。
●国会議員の歳費を日割りにするとともに、
●国会の委員長手当などを見直すことで、
●国会議員の経費を2割削減します。
ここにある「国会議員の経費を2割削減します」は2009年マニフェストが謳っていた〈政治家、幹部職員などが率先し、国家公務員の総人件費を2割削減します。〉をしっかりと引き継いだ政策であり、その他の多くの政策と同様に二重の約束となる。
菅首相は常々「マニフェストは入りと出の両方を含めた約束であり、トータルだ」と言っている以上、少ない入り(歳入)を効果的な使い方で出(歳出)に役立たせて公約の実現に資するためには先ず取り組むべきは国の総予算207兆円の全面組替えであり、同時併行的に国家公務員総人件費2割削減、衆議院の比例代表定数80削減、参議院定数40程度削減、さらに天下りの根絶等による財源の捻出であったはずだ。
《民主党政策集INDEX2009》の「天下りの根絶」の項には次のように記載されている。
〈独立行政法人・公益法人など4504法人に2万5245人もの国家公務員が天下り、天下りを受け入れた団体に対して12兆1334億円(2007年度)もの資金が流れていることが、民主党の要請によって行われた衆議院の予備的調査で判明しました。
役所のあっせんによる天下りは、官製談合や随意契約など税金のムダづかいの原因となっています。そのため、中央省庁による国家公務員の再就職あっせんを禁止するとともに、天下りの背景となっている早期退職勧奨を廃止します。また国家公務員の定年を段階的に65歳まで延長することによって、年金受給年齢まで働ける環境を整えます。〉――
だが、民主党政権下でも天下りは止まない。菅内閣は「省庁斡旋ではないから、天下りではない」と言っているが、2月23日(2011年)の衆院予算委をNHKの国会中継を見ていたところ、平将明自民党衆院議員の「官僚の再就職先の報告を受けているのか」との追及に対して、出席していた各閣僚はすべて「報告を受けていない」だった。
報告を義務づけ、それを記録して再就職を常に把握できる状態にしておく初歩的な政治主導さえも発揮できないのだから、この一事を取上げただけでも菅内閣の政治主導は心許ないものとなる。テレビ中継を見ていて、「何をやっているのだ」と情けない気持になった。
省庁斡旋が隠れた場所で行われ、天下り先法人や天下り先企業から求めた形にする、あるいは天下り官僚との直接交渉の結果纏まった再就職の形を取れば、表向きはすべて省庁斡旋と別物の天下りとすることができる。
だが、再就職先を把握しておくことによって、省庁からの天下り先の法人・企業への資金の流れや委託業務、もしくは請負業務の流れを見ることによって、例え表向き省庁斡旋ではいとしていても、常識に反した潤沢なカネの流れ、あるいは業務の流れ、つまり過大な契約の存在があった場合、限りなく省庁斡旋に近い天下りであることを炙り出すことができる。少なくとも省庁と天下り先との深く関わった関係を証明できることになる。
手をつけた天下り根絶にしてもあやふやな結果となっている。さらにマニフェスト実現を目指す財源確保のために政権発足早々に第一番に取り組まなければならない政治行為の一つである「国家公務員総人件費2割削減」はこれからだとしている。
しかも「役所任せ」ではダメだとわざわざ断らなければならない。
但し菅首相自身、このことに関しては「聞いたときに一瞬ちょっとびっくりしたことを覚えております」などとは決して言うことはできない、自身がリーダーとして関わって参議院選マニフェストに掲げた参議院の定数40程度削減と衆議院比例定数80削減に関しては数字を挙げた重点的な触れ方は特にしていない。
《議員削減案、6月までに=「一体改革」へ環境整備-菅首相》(時事ドットコム/2011/02/26-20:16)が「国会議員経費2割削減」と国会議員定数に関するニュースを
伝えている。
先ず民主党政治改革推進本部(本部長・岡田克也幹事長)が「国会議員経費2割削減」実現までの暫定措置として、歳費1割カットを目指す方針を決めたとなっている。
2月26日(2010年)午後の首相官邸で開催の社会保障改革集中検討会議での菅首相の議員定数と歳費に関する発言。
菅首相「議員の数や歳費の問題なども、6月に一体改革を打ち出す時には、少なくともしっかりした対応を、内閣としても(民主)党としても同時並行的にやらなくてはいけない」
記事は国会議員自ら身を削る姿勢を鮮明にすることで、6月取り纏めの消費税増税を含めた一体改革に対する国民の理解を得る狙いがあると解説している。
そして最後にこう書いている。〈ただ、比例削減には公明党などが強く反対している。定数削減は議員の身分に直接関わるため、具体論に入れば与党内でも抵抗が予想され、6月までにどこまで踏み込めるかは不透明だ。首相は、民主党が惨敗した参院選直後の昨年7月、定数削減問題で同年中の与野党合意を目指す考えを表明したが、実現していない。〉――
この解説によって数字を挙げて重点的に触れないのは実現が困難な状況にあるからだと理解できるが、このことは菅首相のこれらのことに関する実現に向けた政治主導を逆に断ち切っていることの証明にしかならない。
元々指導力を欠いていることに連動して政治主導にクエスチョンマークがついてまわっていたのだが、菅首相がリーダーシップを発揮して作成したはずの、財源捻出のために先ずは取り組むべき参院選公約さえも実現が怪しい状態となっている。
だとしても、最初に取り組んで財源捻出の目途をつけるべき政治改革・行政改革を後回しにして、出(歳出)がままならない状況のまま、やれ子ども手当は約束どおりにいかないだ何だと大騒ぎしている。菅首相自身の口で「マニフェストは国民との約束」だと言いながら、その言葉を軽くすることになる高速道路原則無料化の見直しを示唆、一方で2009年マニフェストで4年間は消費税を増税しないと言いながら、社会保障の財源捻出のためには消費税増税は止む得ないなどと言っている。
まさしく順序が逆の国家公務員総人件費2割削減指示であり、菅首相が「役所任せにしていてはなかなか進みにくい」などと言っているようでは、役所任せ=官僚主導の横行を暗黙の状況としていることになり、「政治主導」を言う資格はないことになる。
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