3月28日(09年)の「NHK」インターネット記事。
≪“国際社会で厳しく対応を”≫
麻生総理大臣は高知市で開かれた大学生との意見交換会に出席し、北朝鮮が人工衛星の打ち上げを名目に長距離弾道ミサイルを発射する構えをみせていることを非難し、発射を強行した場合は、国際社会が連携して厳しく対応すべきだと強調しました。
この中で、麻生総理大臣は「来週、4月4日から北朝鮮がロケットと称してミサイルを撃つと言っている。途中で失敗したら分解されたものが日本に落ちるが、世界中で人の国の真上に向けて自国の衛星やロケットを実験している国は北朝鮮しかない」と述べ、北朝鮮を非難しました。
そのうえで、麻生総理大臣は「国連の安全保障理事会で発射に断固反対と言っているのは、日本やアメリカ、韓国などで、発射してもいいのではないかという国もある。日本だけで『おかしい』と言っても、ずっとやり続けられるので、みんなで『ダメだ』と言うことが必要だ」と述べ、北朝鮮が発射を強行した場合は、国際社会が連携して厳しく対応すべきだという考えを示しました。
一方、公明党の太田代表は京都市で講演し、北朝鮮が長距離弾道ミサイルを発射した場合には、日本独自の追加の制裁措置に踏み切る方向で検討すべきだという考えを示しました。このなかで太田代表は、北朝鮮が事実上長距離弾道ミサイルを発射する構えをみせていることについて、「日本ひいてはアジアの安全を脅かす、たいへんな事態であり、何としても発射の中止を求めたい。仮に発射された場合には、日本独自の追加の制裁措置も積極的に検討すべきだ」と述べました。
動画は麻生の発言の一部のみ取り上げている。太字は言葉を強めて強調した箇所。例のだみ声と語尾をことさら伸ばす話しぶりを想像して欲しい。
「世界中で、人のォ、国のォ、真上に向けてェ、自国のォ、衛星やら、ロケットやらを実験している国は、世界中、北朝鮮しか、ありません。日本だけがおかしいと言っているだけでは、絶対にィ、ずっとやり続けられるから、みんなでダメよと、いうことを言っていく・・・・・」
手振りよろしく話しているが、自分は人気があると見ている若者世代の大学生が相手だからなのか、普段よりも語尾をことさら伸ばす気取りを見せた言葉遣いになっているのはいいとして、その分、記事の「国際社会が連携して厳しく対応すべきだという考えを示しました」という解説の言葉とは裏腹に顔の表情共々全く緊張感を欠いた意見表明となっている。
いくら相手が大学生だとしても、国際社会のルールや常識が通じない唯我独尊の独裁国家の国際社会の反対を押し切って行おうとしている世界に脅威を与えかねないミサイル実験を断念させるメッセージに「みんなでダメよ」は言葉として幼稚に過ぎるのではないだろか。
緊張感を欠いていたから、「みんなでダメよ」などという言葉を飛び出させることになったのか、そういう話し方しかできないから、緊張感を欠くことになるのか、多分後者ではないだろうか。
その程度の日本国総理大臣だと言うことである。
国際社会のルールや常識が通じないのは前々から分かっていることで、そのことを前提に通じる言葉を工夫して初めて外交と言えるのだが、その努力さえ怠っている「外交の麻生」に逆説する幼稚な言葉と言えないだろうか。
麻生自身の幼稚さに合わせたというなら、納得がいく。
聞いていた大学生の中で、これが日本の総理大臣なのか、もっとましな言葉遣いができないのだろうか、情けないなと何人ぐらい思ったのだろうか。
それとも言葉への向上心もなく、分かりやすい、同じ目線で話をしていると感心し、すっかりファンになったといったところなのだろうか。日本の大学生の程度の低さは前々から有名とはなっている。
だが、「みんなでダメよと、いうことを言っていく」と言っていたにも関わらず、ミサイル発射を阻止できなかった。4月5日、北朝鮮は予定のコースでミサイルを発射させた。「みんなでダメよと、いうことを言っていく」という戦術が何ら役に立たなかった。「外交の麻生」は今回も虚構でしかなかったということなのだろう。。
3月28日の大学生との意見交換会に2週間遡る3月14日にソマリア沖へ向かう護衛艦見送りのために訪れた広島県呉市で講演して、「衛星と称してロケットを打ち上げると言ってきた。日本の上を通過すると言っている。真下にいる県の人たちにしてみれば、途中で落っこちたら『てめえのところに落ちるなあ』と計算する。ふざけた話じゃないかという国が隣にある」(「asahi.com」)とさも勇ましくタンカを切るみたいに断罪しておきながら、タンカ紛いのその断罪も単なる言葉で終わってしまった。
麻生首相は北朝鮮のミサイル発射を「極めて挑発的な行為で、日本として断じて看過できない。国際社会と協力して、安保理決議違反であることははっきりしている(ので)、そういうところも含めて対応していきたい」(「asahi.com」)として、安保理で拘束力のある新たな決議案の採択を求めて常任理事国への働きかけを開始した。
記者会見での質疑応答。
< --日本は北朝鮮の今回の行為が安保理決議に違反しているという立場を取っている。安保理で新たな決議案の採択を求めているが、中国やロシアはこれに慎重な姿勢を取っている。両国への働きかけをどうすべきと考えるか
麻生首相「少なくとも安保理において、一致して迅速にメッセージを送る。そうしないと北朝鮮に、誤ったメッセージが伝わるというのを避ける。優先順位としてはそれが一番です。従って、米国、英国、フランス、P5(安保理常任理事国)のうちの3つは賛成をしている状況にもありますので、この状況に関して、われわれとしては引き続き中露に対しても働きかけをしていく。それが基本です」>(≪【麻生首相ぶら下がり詳報】北ミサイル「誤ったメッセージを避ける」(6日夕)≫msn産経/2009.4.6 20:22 )――
だが、 「外交の麻生」の力がなぜかと言うべきか、いつもどおりと言うべきか、及ばず、日本は働きかける主体から降り、逆に働きかける主体を中ロに譲って、拘束力のある新たな決議案の採択要求を断念、中ロが主張する拘束力のない「議長声明」を受け入れることとなった。
日本が議長声明の内容に拘ったとしても、中心はあくまでも中ロであった。中ロとも最初から落し所を議長声明と決めていて、その誘導に日本は乗らざるを得なかった。
麻生太郎は次のように述べたと言う。
「決議にこだわったために内容が分からなくなるのでは意味がない。・・・・国際社会全体の強い意思を早く示し、北朝鮮に明確なメッセージを送ることは極めて重要。決議だからといって、その内容が緩くても意味がない」(≪議長声明を容認=対北朝鮮「緩い決議意味ない」-麻生首相≫「時事ドットコム」/2009/04/10-19:21)
記事は麻生の言葉を次のように解説している。
<北朝鮮に対して国際社会が厳しい姿勢を示す内容が担保できれば、日本が主張する新決議ではなく、法的拘束力のない議長声明であってもやむを得ないとの認識を示したもの>であり、<安保理の結束を優先させる考えをにじませた>ものだと。
「決議にこだわったために内容が分からなくなるのでは意味がない」――決議に拘ると、どうして「内容が分からなくなる」のだろうか。「内容が分からな」い「決議」など二律背反以外の何ものでもなく、存在するのだろうか。
また「緩い内容」は決議とは言えない。決議の体裁を失うことになる。ミサイルの開発及び核開発を縛るために必要な禁止と履行の各項目を明確に備えてこそ、決議と言える。「緩い内容」など、入る余地はない。
要するに麻生の言っていることは「外交の麻生」及び日本政府の力不足を誤魔化す狡猾な詭弁に過ぎない。
尤もかつての決議「1718」が有効な力を持ち得なかったことがそれなりの内容を備えた新しい決議が採択されたとしても、北朝鮮を国際社会が望む体制でその行動を縛ることはできないことを教えている。例えどのような形式で採択されたとしても、受け容れるつもりはないだろうからだが、但し拘束力の有無は記録として残る。
いわば「議長声明」は拘束力がないものとして記録される。
となると、河村官房長官が記者会見で述べた「声明は、ミサイル発射を安保理決議1718違反として非難するとともに、決議履行を徹底するための具体的手続きを盛り込むなど、わが国の主張に沿った異例に強い内容だ。・・・・・形式より実を取りたい。実質的に決議と同等の効果を有する」(「時事ドットコム」)は得点を稼ぎたいだけの我田引水の類に堕す。
麻生首相の「国連決議1718への違反、(発射への)非難、決議の履行、この3つがきちんとした形でこの時期に出せるのは評価すべきことだ。・・・・決議にするために言葉の内容を弱めるなら、この方がいい。このスピードで、まとまったメッセージが正確に伝わることが大事だ」(「時事ドットコム」)にしても、拘束力を持たない以上、自分の都合だけのために言っている、それゆえに国内向けにしか通用しないご都合主義な自己採点に過ぎないだろう。
中ロとしたら、どうせ拘束力を持たないのだから、ここは妥協して強めの表現にしておこうといったところだったのかもしれない。
「CNN」が北朝鮮が議長声明に反発して、6者協議への不参加と核抑止力の増強を図るとの外務省声明を出したと伝えている。
体制の保障と経済支援を得る重要な窓口である6者協議である、その不参加表明は大方の予想通り問題を米朝直接交渉に持っていこうとする単なる駆引きに過ぎないだろうが、以前日本が拉致解決を優先させて北朝鮮に対するエネルギー支援の話し合いに加わらなかったとき、北朝鮮は日本を6者協議から排除する動きを見せて牽制した。
日本にしても6者協議は対北朝鮮政策最優先の課題としている拉致解決の重要な窓口である。今回の北朝鮮のミサイル発射、そして安保理決議採択への働きかけ、中ロの反対による決議採択の断念と議長声明に落ち着いた一連の経緯と並行させて、例え北朝鮮が日本の動きに対して6者協議から排除するような動きに出たとしても、あるいはアメリカの圧力で北朝鮮が排除の動きから一転して拉致問題で日本と直接交渉を持つことになったとしても、どちらでも対応できる拉致問題解決の成算ある道筋を練っていたはずである。
もしも安保理活動と併行させて拉致解決の成算ある道筋を計画立てるといったことをせず、そのことを抜きに安保理を舞台に北朝鮮に対する制裁だけを目指していたとしたら、拉致問題を対北朝鮮最優先の政策としていることに反すると言うことだけではなく、国民に対する裏切りを働くことになる。
「外交の麻生」は「外交の麻生」らしく、成算ある確たる道筋を拉致被害者家族及び日本国民に示して、日本の外交の健全さ、優秀さを示すべきだろう。
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