現在判明している金額では5万円ずつ4年間で20万円外国人から献金を受けていたことが国会で2月4日(2011年)追及を受けた前原外相が続投意欲を伝える記事があったにも関わらず、3日後の2月7日日曜日の夜辞任の記者会見を開いた。3日後の急転直下の辞任劇の裏側に何があったかは窺い知れないが、辞任のメリット・デメリットをなまくらな頭で考えてみた。
最大のデメリットは辞任によって野党の追及が菅首相の任命責任に向かうことであろう。このことは誰にでも予測可能な展開であって、マスコミも早速このことを伝えている。
当然、前原外相自身もこのことを予測していた辞任でなければならない。菅内閣はそう長くは持たないと見られていたものの、その命運をより縮めることになりかねないデメリットを孕ませる辞任劇とも言える。
昨日の当ブログ《菅首相の前原献金国会質疑に見せた総理大臣資格なしの合理性なき判断能力に基づいたお粗末な対応能力 - 『ニッポン情報解読』by手代木恕之》にも書いたが、西田昌司自民党参議員は追及を通して菅首相の責任に言及し、切り上げる最後の質問で、「いずれにしてもですね、早急に調べてください。そして処分をしなければならない、そのときは前原大臣だけじゃなく、菅総理、あなたの政治責任もあるということを、付言しておきます」とダメ押しの矢を放っている。
追及を受けた国会質疑で参考人で出席していた田口選挙部長が「故意にその規定に反して、寄付を受けた者については罰則の定めがございます。なお一般論として申し上げますと、故意がなければ、罰則の対象となりません」と、故意か故意でないかが罰則の判断基準となると説明していた。この点を責任有無の争点とすれば争えないはずはないし、本人も「故意ではない」と一度は発言し、辞任記者会見でも同趣旨のことを述べている。
だが、故意か故意でないかを争点とせず、余りにも潔くと言うべきか、少なくともあっさりとし過ぎるくらい辞任のデメリットを選択した。菅内閣に与えるデメリットに反して、そのメリットはどこにあるのだろうか。
続投意欲を示し、故意ではないの発言を伝えている記事を見てみる。《前原外相 続投に意欲示す》(NHK/2011年3月5日 21時9分)
3月5日、北九州市での記者会見。
前原外相「知らなかったとは言え、このようなことを事務所に徹底できていなかった私の監督責任だ。政治献金を頂いていたことで、外務大臣としての職務が左右されたことは全くないし、今後一切、そのようなことはありえない」
前原外相「福田元総理大臣が、4年前に北朝鮮系の企業から献金を受けていたことが発覚した際には、故意ではないと説明した。自民党が私を批判するなら、そのことと整合性をつけて説明してもらいたい」
先ず「知らなかったとは言え」と故意を否定している。だが、「政治献金を頂いていたことで、外務大臣としての職務が左右されたことは全くないし、今後一切、そのようなことはありえない」は自身が正当化し得る事実を持ってきて、他のすべてまで正当化しようとする意図を持たせた発言であろう。
また福田元首相の事実を持ち出して、「自民党が私を批判するなら、そのことと整合性をつけて説明してもらいたい」は、故意の有無は自身、もしくは民主党が証明する問題なのだから、責任責任の転嫁以外の何ものでもない。
一方で前原外相は次のような発言も行っている。
前原外相「閣僚という立場なので、外交のみならず、政府全体にどういう影響を与えるのか、私心を捨てて大局的に判断したい。最終的には、菅総理大臣の判断を頂く」
前段の発言は自己正当性の訴えとなっていて、後段は菅首相の判断に従うとする趣旨となっている。菅首相としたら続投が内閣運営の絶対条件となるだろうから、支え切ることができる場面まで続投を引っ張るという手段を取ることを予測して、延命を図ったと考えることもできる。
だが、辞任したということは「私心を捨てて大局的に判断した」ことが理由となるが、辞任の自身に与えるデメリットと菅首相とその内閣に与えるデメリットに反したそのメリットは何なのだろう。
《前原外相:外国人献金で辞任論 民主幹部「世論次第」》(毎日jp/2011年3月5日)では、前原外相自身とその他の発言を伝えている。
前原外相「献金を受けているとの認識はなかった」
故意性の完全否定である。
山本一太自民党参院政審会長「認識がなかったという言い訳は通じない。今週末には決断されるのではないか。外相辞任はやむを得ない」
高木公明党幹事長代理「民主党は『政治とカネ』の問題でけじめをつけていない。前原氏は責任をとるべきだ」
岡田民主党幹事長「外国人からの献金は違法だが、金額も限られている。事務的なミスを大臣の辞任に結びつけて大きく取り上げるのはどうなのか」
野党の辞任要求は内閣を追いつめる役柄を野党の務めの一つとしている関係上、当然の発言であろう。だが、与党岡田幹事長の発言は、「事務的なミス」と断定されたわけではない。
菅首相自身、上記3月4日の国会質疑の場で、「ご本人が全貌を調べてと言われたんですから、そのことを待ちたいということを申し上げてるんです」と調査の結果待ちの姿勢でいた。それを早々と「事務的なミス」だと独断している。
記事は、〈政府高官は「困った。公民権停止にもかかわる問題でもある」と語った。党幹部の一人は「世論の行方次第だ」と述べ、世論の動向によっては辞任もやむを得ないとの考えを示した。〉と書いている。
では、以上の発言と同趣旨の内容となっている辞任記者会見を見てみる。
《(1)「疑心暗鬼の目で見られ、外交の信頼揺るがすなら本意でない」》(MSN産経/2011.3.6 23:01)
前原外相「在日の外国人の方から政治献金をいただいていたなどの、私の政治資金をめぐる問題におきまして、この一両日、熟慮を重ねました結果、このたび、外務大臣の職を辞することといたしました。さきほど総理公邸に菅(直人)総理を訪問いたしまして、私の決意を申し上げまして、総理にご了解いただいたところでございます。この場をお借りをいたしまして、外務大臣を拝命してから、まあ6カ月足らずで職を辞することになりましたこと、また、クリーンな政治を目指していた、来たにもかかわらず、政治とお金の問題で不信を招いてしまったことに、まず国民の皆様におわびを申し上げますとともに、私が辞職を決意するに至った思いを説明をさせていただきたいと思います。
指摘を受けました在日韓国人の方は、在日外国人の方は、私は家族とともに山科に転居した中学2年生の頃より、引っ越しをいたしました団地の近所で、焼肉店を経営をされておられまして、それ以来、長年にわたりまして、公私ともに親しくお付き合いをさせていただいておりました。また、私が政治を志した時点から、今まで変わらずにずっと熱心に支援をしていただいた方でございます。ところが、私はこの問題が発覚をするまで、この方から献金をいただいていたという、基本的事実を承知しておりませんでした。もとより、こうした献金をいただいていたことをもって、外務大臣としての職務が影響を受けたということは全くございませんし、私の政治経歴において、献金をいただいたから便宜を図ったということもございません。
しかし、金額の多寡にかかわらず、また事実を認識していなかったといえども、外務大臣の職にある政治家が、外国人の方から献金を受けていたという事実は、重く受け止めざるを得ません。外国政府や国民の方から疑心暗鬼の目で見られるなどによりまして、日本の外交の信頼性を揺るがせるようなことになれば、私は、これは本意ではございません。また今回、別に政治資金収支報告書に誤記載があったなど、自らの政治資金の把握に不十分な点が相次いだことについて、責任を感じております。献金の処理は事務所に任せておりましたが、その内容に自ら十二分に目を通してなかったことは、政治家としての政治資金の管理が徹底できていなかったものと言わざるを得ません。その管理責任は私自身にあると考えております。今申し上げましたような観点から、この際、外務大臣の職を辞することで、政治家としてのけじめをつけるべきだと考えました。また、再びこのような問題が生じないように、自分の政治家としての足下を見つめ直して、しっかりと再構築に力を注いで参りたいと考えております。
なお、この、今問題となっております在日外国人の方からいただいていたものについて、現時点での調べは次の通りでございます。平成17年から20年、そして平成22年にも受領しておりました。その金額は各5万円でございます。なお平成16年、および平成21年は受領しておりません。また、平成15年以前につきましては、収支報告書の保存期間を過ぎておりますので不明でございます。また、この保存期間の政治資金収支報告書については、それ以外に外国の方からもらっていないかどうかということも、これ調べているわけでありますが、明確に名前がそれと分かる方ならまだしも、なかなか全体像を把握するというのは、相当な時間がかかるんじゃないかと思っておりますが、それについては今後もしっかりと調べさせていただきたいと、このように考えているところであります。
まあ、こうした中でですね、喫緊の課題であります平成23年度の予算の参議院審議が重要局面に差し掛かっておりますし、私の政治献金をめぐる問題によりまして、国会の審議を停滞させるわけには参りません。また、国際情勢は申し上げるまでもなく、めまぐるしく動いておりまして、日本をとりまく外交、安全保障政策も一日の猶予もございません。今月14日からはフランスにおきましてG8外相会談が予定をされており、また、先ほど話をしましたように、ニュージーランド地震で被災をされた日本人、行方不明者の方々の安否確認や、リビア情勢など中東情勢への対応など、外務大臣としての課題は山積をしております。このような時期に、外務大臣を辞任することによりまして、各方面にご迷惑をおかけすることも十分認識しておりますが、しかし、逆に職にとどまることで、内外の国政課題、内外の国政課題の推進が滞ることも避けなければならないと考えております。特に私の目指してまいりました経済外交、あるいは日米同盟の深化というものが道半ばで、私からやることができなくなる、ということは、ざんきにたえない面もございます。しかし熟慮の末に、一刻も早くけじめをつけるべきだという結論に至りましたので、関係各位のご理解をお願いしたいと存じます。最後に改めまして、国民の皆様や同僚各位、あるいは支援者の方々、そして、この問題となりました焼肉屋の方にもですね、多大なご迷惑、ご心配をかけましたことを、改めておわびを申し上げたいと思います」 |
「私はこの問題が発覚をするまで、この方から献金をいただいていたという、基本的事実を承知しておりませんでした」と故意性を否定していながら、「私の政治献金をめぐる問題によりまして、国会の審議を停滞させる」ことと「内外の国政課題、内外の国政課題の推進が滞ることも避けなければならない」ことのデメリットを以って辞任理由としている。
だが、これらを避けるための辞任が下手をすると菅首相に対する任命責任追及によって最悪菅内閣自体を立ち往生させ、国会審議停滞、さらにその先の菅首相退陣の最悪のシナリオが決して予測不可能ではないことからすると、内外の国政課題とその推進停滞まで現実のものとしかねないデメリットを出来させかねず、意図したデメリットの回避を帳消しして、より一層のデメリットをもたらすことも十分に考えることができる。
例え内閣を維持できたとしても、求心力の低下、国民に与える悪印象、菅首相のリーダーシップに対するなお一層の信頼性の低下、これらのことが4月の統一地方選に与える影響等々のそれぞれに与えるデメリットを計算すると、果たして辞任のデメリットを差引き計算して内閣維持のメリットとなる辞任劇と言えるのだろうか。
だが、辞任によって菅内閣が持ち応えることができなくなる予測可能なデメリットを無視して自らの辞任というデメリットを選択した。辞任のデメリットよりもこのことが影響して引き起こすことになりかねない菅内閣が今後抱えるデメリットの方が小さいと見たことになるが、果してそうだろうか。
前原外相は1ヶ月前の2月4日(2011年)の記者会見で日本の政治が抱えるべき北方領土返還交渉の要件について次のように発言している。
前原外相「安倍さん(晋三元首相)以降、大体1年くらいで首相が代わっている。こんな国とはまともに議論できないなというのが向こう(ロシア)側から透けて見える。安定した政治をつくらないと、どっしりした相撲は取れない」(時事ドットコム)
「安定した政治」の中には菅内閣の長期化も願望として入れていたはずだ。
多分、この発言を受けた中国側の反応でもあると思うが、《「南シナ海の主権、明確に主張を」中国少将インタビュー》(asahi.com/2011年3月6日9時41分)が中国軍事科学学会副秘書長でもある現役軍人の羅援少将(60)に対する3月3日夜の朝日新聞のインタビューを伝えている。
――尖閣問題では、故・トウ小平氏(トウは登におおざと))が1978年に示した「棚上げ論」について否定的な意見が強まっています。
羅援少将トウ氏は当時から「主権は中国にある」という点を強調していた。釣魚島(尖閣諸島の中国名)は主権侵害の問題であり解決は難しい。両国はまず、経済や民間交流を深めてから話し合えばいい。ただ、日本の政権があまりにも早く代わることが両国関係の発展の障害となっている」
例え首相や外務大臣が頻繁に交代したとしても、友好関係を基本に据えた外交であるなら、その基本線は厳密に受け継いでいくはずであるし、受け継いでいかなければならないはずだ。受け継ぐことができない首相や外相が長く務めるよりも受け継ぐことができる首相や外相であるなら、「早く代わる」方がいいと言うこともできる。
前原辞任が菅内閣に引導を渡す引き金の役割を担う可能性を考えると、「安定した政治をつくらないと、どっしりした相撲は取れない」の自身の発言自体を裏切る辞任ともなりかねず、そのデメリットの可能性を無視する辞任だと言うこともできる。
このように見てくると、辞任がどうしても菅内閣運営に与えるデメリットよりも小さなデメリットには思えない。もし菅内閣に与えるデメリットよりもメリットと考えた前原外相の辞任だと考えたなら、どうなるだろうか。
菅内閣に対して3月危機だ、4月危機だと騒がれている中での2月25日、前原外相が率いる議員グループ「凌雲会」(約40人)の有力幹部が早期の衆院解散・総選挙に備えてグループ若手議員に準備を詳細に指示していたと、《前原G、衆院選準備を指示 早期解散へ臨戦態勢》(47NEWS/2011/02/26 02:02 【共同通信】)が伝えている。
〈前原グループは枝野幸男官房長官や仙谷由人代表代行らが政府与党の枢要なポストを占め、党内基盤の弱い菅直人首相を支える主流派の役割を担う。一方、参院で与党が過半数割れの「ねじれ国会」で予算関連法案の成立めどが立たず、菅政権の3月以降の行き詰まりは現実味を帯びている。〉状況下で、〈関係筋によると、グループ幹部が今週前半、都内の日本料理店に当選1、2回の衆院議員十数人を集め「衆院選がいつあるかもしれない」と表明。選挙に臨む心構えに加え、具体的な対策として後援会組織の拡大方法や解散から公示日までの態勢づくり、最終盤の戦術などを細かく指南した。〉――
さらに記事はグループのこの指示について解説している。〈臨戦態勢とも受け取れる今回の動きは(1)菅首相が「破れかぶれ解散」で局面打開を図る(2)菅氏が退陣し次期首相が早期解散に踏み切る―の両にらみの戦略とみられる。〉――
菅首相と内閣を支えなければならない主要閣僚中の主要閣僚のグループが支えることに反する解散への備えを指示したことに少なからざる物議を醸した。
このことは菅内閣に対する少なくとも心理的には一種の離反となる動きであろう。前原外相の指示なくして解散への備えは考えにくいから、前原外相は内々菅内閣に離反にも等しい距離を置いたことになる。
このような関係の中での辞任の一見デメリットに見える、実際はメリットが実態だと考えたなら、どうなるだろうか。
辞任によって見せることができたメリットは「政治とカネ」の問題に対して自らの閣僚としての職務を犠牲とするまでに潔癖であること、潔いこと、退き際の見事さを演じることができたことであろう。
次の首相として呼び声が高かったものの、菅内閣が持ち応えることができずに倒れ、跡を引き継いだとしても、参院のねじれは変わらないから内閣運営の困難な状況は変わらないし、総選挙となれば民主党の大敗が予想されていて、一切をを失うデメリットを覚悟しなければならない。
現状では菅内閣を引き継ぐメリットは想像できず、逆にデメリットは十分に計算ができる不利な状況にある。
現況の外交問題でも外相として重点的に取り組まなければならないロシアが実効支配している北方四島問題はロシアの領土化が着々と進み、状況は後退することはあっても進展することは期待が持てないところにまできて、返還の目途さえつかない。また沖縄の普天間基地移設問題も時間の経過と共に解決を遮る壁が立ちはだかることになる。
こういったマイナスの外交要素に加えて、例え外国人からの献金問題を乗り越えることができたとしても、待ち構えている可能性の高い菅首相の辞任と運命を共にしなければならない沈没を考えた場合、菅内閣の外相にとどまっているメリットは殆んどないことになる。
辞任によって、「政治とカネ」の問題に潔いことと退き際のよさというメリットを保持した状態で少なくとも菅内閣と運命を共にするデメリットを避けることができる。この差引きのメリットは菅内閣が前原辞任によって受ける差引きしたデメリットと比較して遥かに大きいはずだ。
解散・総選挙で民主党大敗ということなら、政界再編の機運が期待できる。前原外相率いる凌雲会が早々に解散に備えたということは民主党敗北の予想の中でグループの生き残りを他グループに先んじて賭けたということであり、生き残ることが政界再編が起きた場合の地位確保の有利なメリット=カードとなる。
いわば政界再編を狙った有利な地位確保をメリットとした、何らデメリットはない外相辞任ということではなかったのではないだろうか。
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