谷垣自民党総裁の今回の靖国参拝は票獲得のご都合主義?

2009-10-22 00:55:48 | Weblog

 党の再生、政権奪還を願って止まない我が日本の自民党総裁谷垣禎一が19日(09年10月)、秋季例大祭中の靖国神社に恭しくも堂々の参拝を行った。石原伸晃組織運動本部長も腰巾着よろしくなのかどうか分からないが、同行したそうだ。

 尤も自民党総裁の肩書だけではなく、日本国総理大臣の肩書を共に戴いていたなら、我が麻生太郎がそうしたように08年10月の秋季例大祭と09年4月の春季例大祭の靖国神社に直接参拝に訪れるのではなく、一歩退いた真榊奉納でショックアブソーバーを働かせていたかもしれない。

 麻生の前の首相であった安倍晋三も首相就任前は「小泉首相の次の首相も靖国神社に参拝すべきだ。国のために戦った方に尊敬の念を表することはリーダーの責務だ」とワシントンの講演、その他で言っていながら、小泉の跡を継いで日本国総理大臣の肩書を戴くと、その言葉をボロ雑巾のようにどこかに打ち捨て、直接参拝ではなく、同じく真榊奉納で綺麗さっぱり事勿れを図っている。

 谷垣禎一も2006年9月の安倍・麻生・谷垣と3人が立候補した自民党総裁選で、〈小泉純一郎首相(当時)の靖国参拝が外交問題化していたことを踏まえ、首相就任後の参拝自粛を表明した経緯がある。〉(《谷垣総裁:靖国神社参拝 参院選にらみ遺族会に配慮か》毎日jp/2009年10月19日 19時44分)
 
 具体的には06年9月11日の日本記者クラブ主催の公開討論会で次のように述べている。

 「第2次世界大戦は、中国との関係で言うと侵略戦争だったことははっきりしている。そこを前提に考えないと、安定した日中関係はつくれないのではないか」(asahi.com

 日中間に外交上の緊張関係をもたらした小泉首相の参拝姿勢に異を唱えて、「安定した日中関係」を構築するためには参拝は避けるべきだと主張したのである。

 総理大臣ではなく、総裁だけでは「中国との関係」に直接関わるわけではないからと、それを「前提に」参拝に踏み切る君子豹変を演じたのだろう。立場立場で目敏く態度を変える。安倍晋三にしても真榊奉納ではなく、今回参拝しているのは総理大臣という資格を欠いた自由の身だったからだろう。

 今回はこのことのみの目敏さからではなく、記事が題名に書いているように〈来年夏の参院選をにらみ、支持団体の日本遺族会に配慮したとみられる。〉とする、その目敏さも加わった谷垣参拝ということらしい。

 ということは、自民党総裁という現在の立場では「安定した日中関係」よりも選挙の票に直接的な利害を置き、優先順位を目敏くも票に置いていることを示している。

 参拝後、我が谷垣自民党総裁は記者団に次のように語ったという。

 「日本の近代史の中で、この前の戦争に限らず亡くなった方がたくさんおられる。その霊をなぐさめる気持ちだ」(同毎日jp

 06年の自民党総裁選時は「第2次世界大戦は、中国との関係で言うと侵略戦争だったことははっきりしている」と、「第2次世界大戦」――いわば「この前の戦争」を「侵略戦争だった」と位置づけ、そこに問題を置いていた。そのハードルをいともたやすく外して、日露戦争、日清戦争、さらには戊辰戦争までかもしれない、遥か過去にまで遡って戦争の対象を広げる幅の広さ、懐の深さを見せ、直前の戦争が正体としていた侵略的側面をそれらの戦争とこねくり合わせて中に潜り込ませてしまう詐術を巧妙に行い、参拝の自己正当化を策している。

 また「msn産経」記事――(《谷垣氏、秋季例大祭の靖国神社を参拝 自民総裁では3年2カ月ぶり》(2009.10.19 18:36) には、〈鳩山由紀夫首相が意欲を示す国立追悼施設の建設には「『戦死したら靖国にまつられるんだ』と思って亡くなった方がたくさんいる。その重みはある」と反対の考えを示した。〉と出ている。

 「戦死したら靖国にまつられるんだ」は戦前の国家体制が国民に強制的に植えつけた全体主義的行動意識からの因果性を物語っているに過ぎない。天皇のため、国のために命を捧げることを求めた国家主義を起因として、最も忠義ある自らの生き方・国家への奉仕を「戦死したら靖国にまつられる」ことを以って結果とする因果性である。表向きは自らの個人性を捨象して、常に国家性を体現すべく努めさせられた。

 このことは“全体主義”という言葉の意味が如実に示している。
 
 〈個人は全体を構成する部分であるとし、個人の一切の活動は、全体の成長・発展のために行わなければならないという思想または体制。そこでは国家・民族が優先し、個人の自由・権利が無視される。〉(『大辞林』三省堂)

 まさしく辞書が解説しているとおりの国の姿を取っていた。個人(=国民)は国家という全体のために存在させられ、個人の自由・権利が無視された中で、「戦死したら靖国にまつられるんだ」と、このことに国家への命の捧げを集約化させていた。

 安倍も麻生も谷垣もこのことを是としている。日本国民の生き方として優れたサンプルとしている。このような考え方を真の日本の保守というわけなのだろう。

 尤も国立追悼施設建設に賛成したなら、遺族会の神経を逆撫でして逆に票を失うことになるから、選挙の票の方に優先順位を置いた靖国神社の「重み」も含まれているに違いない。

 かくも自身が置かれた立場の違いで態度の使い分けを目敏く行う。自分で自分をピエロにする行為であるというだけではなく、この態度の使い分けは日本では通用しても、外国では本質のところで信用されないのではないだろうか。

 安倍、麻生、谷垣と争った自民党総裁選投票日は06年9月20日。その2ヶ月前の7月20日の「朝日」が当時の富田朝彦宮内庁長官(故人)がメモに記し、家族が保管していた昭和天皇の死去前年の1988年の発言を記事にしている。

 「私は 或(あ)る時に、A級(戦犯)が合祀され その上 松岡、白取(原文のまま)までもが 筑波は慎重に対処してくれたと聞いたが、松平の子の今の宮司がどう考えたのか 易々(やすやす)と 松平は平和に強い考(え)があったと思うのに 親の心子知らずと思っている。だから私(は)あれ以来参拝していない それが私の心だ」――

 松岡――日独伊三国同盟を推進し、A級戦犯として合祀された松岡洋右元外相。

 白取――白鳥敏夫元駐伊大使。外務省皇道派。対米英強硬派。国際連盟脱退推進派。

 筑波――66年に旧厚生省からA級戦犯の祭神名票を受け取ったが合祀していなかった筑波藤
     麿・靖国神社宮司。

 松平の子――終戦直後当時の松平慶民・宮内大臣の長男で、合祀に踏み切った松平永芳・靖
       国神社宮司

 記事は靖国神社への戦犯の合祀は1959年、まずBC級戦犯から始まり、A級戦犯は78年に行われた、対して昭和天皇は靖国神社に戦後8回参拝したが、78年のA級戦犯合祀以降は一度も参拝しなかったと書いている。

 天皇発言メモに関して安倍晋三は7月20日の午後の記者会見で、「政府としてコメントすべき立場ではない」と発言。

 谷垣財務相「天皇陛下がどういうふうにおっしゃったというのを政局と絡めて言うつもりはない」

 谷垣「陛下の言動を引用して政治的発言をするのは差し控える」

 A級戦犯合祀が参拝中止の理由だとする天皇の発言に対してそれを正直に解釈したなら、日本の保守として自分たちがこれまで取ってきたA級戦犯合祀を許容した靖国神社姿勢に矛盾を来たして大問題となり都合が悪いから、「政局」に関係するとか「政治的発言」になるとかの口実を設けて無視する、そのときの状況・立場に応じた態度を見せたのだろう。

 だが、2ヵ月後の自民党総裁選の際には、「第2次世界大戦は、中国との関係で言うと侵略戦争だったことははっきりしている。そこを前提に考えないと、安定した日中関係はつくれないのではないか」と発言した。

 「第2次世界大戦」、あるいは「この前の戦争」を「侵略戦争」だと否定的に認識するなら、一般的常識からすると、その戦争を指導したA級戦犯は靖国神社に合祀されるべきではない否定的存在だとする認識を同時併行させなければならないはずだから、死去前年の1988年の天皇の発言を当時の富田朝彦宮内庁長官がメモとして残していたことが2ヶ月前に明らかになった際に発言から容易に窺うことができる天皇のA級戦犯合祀に対する忌避感に少しは心に引っかかりを持たせてよさそうなものだが、我が日本の谷垣禎一の「天皇陛下がどういうふうにおっしゃったというのを政局と絡めて言うつもりはない」にしても、「陛下の言動を引用して政治的発言をするのは差し控える」にしても、些かも引っかかりを窺わせない、その場を事勿れに凌ぐ発言となっている。

 このことは06年自民党総裁選時の9月11日の日本記者クラブ主催公開討論会での「第2次世界大戦は、中国との関係で言うと侵略戦争だったことははっきりしている。そこを前提に考えないと、安定した日中関係はつくれないのではないか」とした発言が総理・総裁の立場に立って日中関係を考えた場合に限定した主張に過ぎないことを物の見事に証拠立てている。

 だから、06年自民党総裁選時には首相に就任した場合の靖国参拝の自粛を表明していながら、今回は自民党総裁の肩書のみで首相に就任しているわけではないと立場の異なりを利用してのことなのだろう、靖国神社に恭しくも堂々の参拝を敢行できた。

 大体からして政治家にはご都合主義者が多いが、谷垣自民党総裁にしても立場立場に応じて、あるいは各種状況に応じてご都合主義街道を今後ともひた走りにひた走っていくに違いない。「みんなでやろうぜ、全員ご都合主義野球」といったところなのだろう。


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