拉致被害者家族会の飯塚繁雄代表らが8月25日、文部科学省を訪れ、尾崎春樹・大臣官房審議官と面会、「高校無償化」制度の朝鮮学校への適用に反対する要請文を手渡したとの新聞記事を読んで、家族会のHPを調べてみた。《「救う会 全国協議会」に面会者と要請先と要請文の全文が記載されていた。
面会――
文科省――尾崎春樹大臣官房審議官(初等中等教育担当)、和田勝行初等中等教育局高校教育改革PT財務課高校修学支援室長。
拉致問題対策本部――三谷秀史事務局長代理、山口英樹総合調整室長。
要請先――
菅直人内閣総理大臣・拉致問題対策本部長と中井洽拉致問題担当大臣、及び川端達夫文部科学大臣。
朝鮮学校への国庫補助に反対する要請文
私たちは、拉致問題への悪影響などに関する十分な議論がなされていない現段階での朝鮮学校への国庫補助決定に強く反対します。政府におかれては拙速に補助を決めないよう強く要請致します。
そもそも北朝鮮は中学生を含む多くの日本人を拉致していまだに返さず重大な主権と人権の侵害を行い、核とミサイル問題での傍若無人な振舞により国際社会から強い非難を受けています。そのため我が国は、北朝鮮に対して人道支援停止、船舶入港禁止、貿易禁止などの厳しい制裁を課しています。
国庫補助の実施は、拉致問題で誠意ある行動を取らない限り北朝鮮に制裁を強め支援をしないという従来の方針に反するものです。北朝鮮に対して拉致問題で日本が軟化したという間違ったメッセージとなる危険が大きいと考えます。
朝鮮学校の教科書では「2002年9月、朝日平壌宣言発表以後、日本当局は《拉致問題》を極大化し、反共和国、反総連、反朝鮮人騒動を大々的に繰り広げることで日本社会には極端な民族排他主義的雰囲気が醸成されていった」とだけ記して、金正日が拉致を認めて謝罪したことや、朝鮮総連が拉致はでっち上げだと強弁してきたことについて謝罪したことを全く取り上げていません。
朝鮮学校の生徒らは、学内で組織運営されている「在日本朝鮮青年同盟(朝青)」という政治組織に全員加盟して、北朝鮮の金正日政権を支える政治活動に参加しています。金正日政権は昨年夏以降、「拉致問題はすでに決着したという立場で日朝国交を促進せよ」と指令を出しました。それを受けて総連は世論喚起のデモや集会に朝鮮学校生徒を「朝青」組織を通じて大々的に動員しています。朝鮮学校は純粋な教育機関ではなく、拉致被害者をいまだに返さない朝鮮労働党の日本での工作活動拠点なのです。朝鮮学校への国庫補助は、このような拉致を棚上げにしようとする総連と朝鮮学校の政治活動を公認、支援するものとなります。
以上のような点を十分、公開の場で議論することなく、国庫補助を決めるならば、拉致被害者救出に大きな妨げとなります。私たちは朝鮮学校への国庫補助決定に強く反対します。政府におかれても拙速に補助を決めないよう強く要請致します。
以上
朝鮮学校の全生徒が「在日本朝鮮青年同盟(朝青)」なる政治組織に参加、北朝鮮の金正日政権を支える政治活動を行っているということが例え真正なる事実だとしても、かつてのナチスドイツのヒトラーユーゲントみたいにドイツで活動して大人から若者にまで影響を与えたのとは違って、ときには北朝鮮に渡って何かの催しに参加することはあったとしても、直接的には現地で活動しているわけではなく、そのことが金正日政権維持にどれ程役に立っていると言えるだろうか。
金正日政権を実質的に支えているのは金正日自身による軍人重用・側近重用の権謀術数であり、国民に対しては自由と人権抑圧の恐怖政治の活用であろう。
要請文に書いてあるように金正日政権が「拉致問題はすでに決着したという立場で日朝国交を促進せよ」と指令を出し、それを受けて総連が世論喚起のデモや集会に朝鮮学校生徒を「朝青」組織を通じて大々的に動員していたとしても、そのことが日本政府と日本の世論を金正日政権が望む方向に動かすことができているかどうか、何ら役に立っていないことは日本政府の態度と日本の世論が証明している。
また拉致問題解決への進展は、「拉致問題はすでに決着した」とする金正日側が設定したハードルを日本政府が如何に突破するかの政治能力にかかっているのであって、朝鮮高校生の活動や学校の授業が直接的な阻害要件となって立ちはだかっているわけではない。
いわば単に活動していますという事実を示す程度の役にしか立っていないと見るべきではないだろうか。中には少人数いるとしても、全体的にはすべての生徒がその活動に学校生活のすべてを捧げているわけではないだろうから、多くは朝鮮総連の言いなりになった学校のスケジュールの一つだからと機械的に参加しているといった状況でもあるに違いない。
言ってみれば、北朝鮮という犯罪集団の使いっ走り程度といった立場にあるのではないのか。それを北朝鮮と同じ犯罪集団として扱い、それ相応の懲罰を与えようとしている。
何よりも拉致を犯したのは北朝鮮当局であり、金正日本人であろう。いくら総連と朝鮮学校の生徒が拉致を棚上げにしようとする政治活動を行っていたとしても、あるいは朝鮮学校が純粋な教育機関ではなく、拉致被害者をいまだに返さない朝鮮労働党の日本での工作活動拠点になっていたとしても、さらに「拉致問題はすでに決着したという立場で日朝国交を促進せよ」との指令に従って総連が世論喚起のデモや集会に朝鮮学校生徒を「朝青」組織を通じて大々的に動員していたとしても、だからと言って高校無償化の朝鮮高校への適用に反対すると言うのは、金正日と北朝鮮当局の拉致犯罪の罪を朝鮮高校生にもかぶせる類の行為となる。
百歩譲って拉致被害者家族の主張が全面的に正しいことだとしたとしても、この情報が北朝鮮に伝わらないはずはなく、北朝鮮側から見た場合不当だとされて拉致解決に役立つどころか、却って心無い北朝鮮人によって生存しているかもしれない日本人拉致被害者に対する厭がらせとなって撥ね返る危険性を抱えない保証はない。
最悪、北朝鮮当局によって生存しているかもしれない日本人拉致被害者に対する労働刑等の報復のための懲罰の形を取る危険性も考え得る。
こういったことの危険性は日本人自身が朝鮮学校の生徒に対して行ってきた報復としての厭がらせが証明することで、単に推測を超えて断定に近いと言えるかもしれない。
1990年代半ば頃の北朝鮮のノドン・ミサイルの発射実験と核開発疑惑が盛んに報道されていた頃、北朝鮮憎しの感情を北朝鮮に向けて直接晴らすことができないからだろう、その身代わりに朝鮮学校の女子生徒に向けて、彼女たちが着る民族服のチマ・チョゴリをカッターナイフ等で切り裂くことで北朝鮮憎悪を晴らす事件が起きた。
但し、インターネット上にはこの事件を朝鮮総連による“自作自演”だとする説が流布している。「Wikipedia」も“自作自演”説を掲載している。
〈事件が発生した頃は北朝鮮による核開発疑惑をめぐって朝鮮半島情勢が緊迫し、世論の批判が高まっていた時期である。 本件チマチョゴリ切り裂き事件は朝日新聞が中心となって報道された事件であるが、朝日新聞は朝鮮総連の発表の多くをニュースソースとしてそのまま報道しており、事件について、その多くが独自の調査や警察の捜査によって、犯行の裏付けが取られている訳ではなかった。
特に犯行の意図については、総連による政治的背景の指摘に対して、成人式や正月の和服の女性への切り裂き行為や、日常頻発する痴漢や暴行行為と比べた時、そして犯人が総連等の主張のように、政治的・民族的な憎悪を背景に持つ犯行であると判断できる根拠は示されていない。また、根拠になりそうな犯人の犯行声明はなく、検挙実績も少なく、検挙された事件に政治的・民族的憎悪の背景は認められていない。
そのことから、朝鮮人を迫害するという意図を持った行為であるという主張を根拠無く示すことによって、北朝鮮や、その支持勢力(朝鮮総連)に対する核疑惑の批判をかわす為の、在日朝鮮人による「自作自演」の可能性が指摘された。「朝鮮総連による政治的キャンペーン」と指摘する全国紙記者が存在する。ジャーナリストの金武義は、「女子生徒は在日の広告塔か」と問題提起した。金は事件の翌年に「怪死」( 週刊文春 1999年11月4日号)している。〉(Wikipedia)
〈根拠になりそうな犯人の犯行声明〉の有無だが、確固たる思想を背景とした犯罪ならともかく、面白くない感情を当事者にではなく、単に国籍が同じと看做した対象に向けて晴らすケチ臭い犯罪に犯行声明は似合うだろか。
また、確固たる思想を背景としていたなら、チマ・チョゴリをカッターナイフ等で切り裂くといったケチ臭い犯罪で自己満足できるだろうか。自己満足できたとしたら、思想そのもの正体が怪しくなる。
“自作自演”の根拠の一つに検挙実績が少ないことを挙げているが、この手の犯罪は性格上通り魔犯罪に分類されるから、ある種の病癖からの犯罪の場合のように再犯を繰返さない限り、その匿名性・不特定性から検挙の困難を強いられるのが一般的であるはずである。
百歩譲って朝鮮総連による“自作自演”が事実だったとしても、面白くない感情を当事者にではなく、何らかの関連を持つだけの非当事者に向けて晴らす歪んだ行為は国籍を問わない。
その象徴的な一つの例が関東大震災時の朝鮮人虐殺であろう。
1923年9月1日の関東大震災では数千人の朝鮮人が日本人によって虐殺されたが、その背景として日本が支配した植民地の国民として日本国内の朝鮮人に対しても二等国民と看做す差別視が存在していたことと、関東大震災の1923年を遡る4年前の1919年3月1日を期して日本植民地韓国で日本からの独立を目指す三・一運動が展開され、朝鮮全土に拡大、日本軍は朝鮮人の死者7500人、負傷者4万5千人、検束者4万6千人を記録し1年以上をかけて鎮圧したものの、それ以降も日本からの独立を目指す運動が絶えなかったことが日本人をして差別感と作用し合って朝鮮人に対する憎しみ、面白くない感情を内側に充満させていたことが指摘されていて、こういったことが地震直後、朝鮮人が井戸に毒を投げ込んだというデマに容易に信憑性を与え、パニック状態となって無差別な虐殺へと走ったとされている。
多分、差別感と憎悪をベースとした独立運動に対する報復の感情を込めていたに違いない。
このような犯罪の基本構造は、殺人を犯した人間の子どもだから付き合うなと大人が自分の子どもに指示する場合の殺人を犯した人間とその子どもをすべてに亘ってイコールと把える関係判断と似ている。
拉致被害者家族にしても、拉致犯罪の実行者である金正日及び北朝鮮当局と朝鮮高校の生徒をイコールと同一視、同じ犯罪性の網を掛けて、高校無償化の対象から外そうとする心無い懲罰を以って報復しようとしている。
北朝鮮に於いてその報復の報復が連鎖することになったとしても、拉致家族は何ら非難する資格を持たないことになる。
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