菅首相自らが「1期生議員は国民の声に最も近い」とクスグリを入れた案内状を民主党衆参新人議員に送って出席を求めた最初の意見交換会が昨23日に午前と午後の2回に分けて行われたという。場所は衆院議員会館の自身の事務所だという。首相官邸だと、首相官邸で公務ではない代表選の選挙活動をしたのかと批判される危険性を前以て避ける危機管理からの選択だったのだろうか。
例え公務ではなくても、首相としての身分と首相としての意識で新人議員と対面している。それを個人事務所で行うのは内閣総理大臣何の何某(なにがし)と記帳し、内閣総理大臣何の何某(なにがし)の意識で靖国神社を参拝しておきながら、私人としての参拝だと使い分けるのと似ていないことはない。首相官邸が公務以外の使用を禁止していたとしても、これは選挙活動ではない、純粋に新人議員との意見交換会なのだから公務だと突っぱねることができる程には腹が据わっていないということなのだろうか。
非公開で行われたから、菅首相の発言は終了後の記者会見や新人議員に対するインタビュー等で明らかにしたものなのだろう。《衆参同日選時期に言及し協力要請》(NHK/10年8月23日 19時17分)
菅首相「野党時代から掲げている政治主導で、去年の衆議院選挙の際の政権公約を着実に実現していきたい」
菅首相「縦割り行政の打破や財政改革などは、今後、3年間、腰を据えてしっかりとやっていきたい。そうすれば政策も実行でき、有権者の信頼も得られる。そして、衆参のダブル選挙をやればいい」
〈党内から挙党態勢の確立を求める声が出ていることについて、〉――
菅首相「みんなが『これならやれる』と前向きになれる挙党態勢を作りたい」
小沢前幹事長の起用について、
菅首相「小沢氏のような人材が必要な場面もある。小沢氏の手腕は高く評価しており、その腕力を活用していきたい」
出席議員「衆議院選挙の際の政権公約をどう実行していくのか、日本をどういう社会にしていきたいのか、明確に発信すべきだ」
まさしく選挙活動以外の何ものでもない。しかも3年間は解散しないと新人議員に約束して、その生活保障をエサに支持を釣ろうとしている。身分保障といってもいいが、鳩山兄弟のような大金持ちでない限り、一般的な新人議員にとっては身分保障=生活保障であろう。
国民の大多数を占める中低所得者層の生活が向上しない中、逆に低下している中、景気回復が足踏みしている。年金や医療費の負担世代が少子化で減少して、高齢者や高齢予備軍世代に将来への強い不安を与えている。ゆくゆくは導入される消費税増税による可処分所得の相対的減少がもたらす近い将来の生活不安も待ち構えている。
こういったことを解決して国民に生活への安心感を与え、与えることによって国民の活力を引き出すことが政治の務めのはずだが、そうする前に身内の新人議員に3年間は解散しませんと生活保障し、菅支持に向けた彼らの活力を引き出そうとした。
まさしく一国の首相として本末転倒行為ではないだろうか。
尤もこの3年間の生活保障、保証の限りではないとする発言もある。《山岡氏 小沢氏に立候補要請へ》(NHK/10年8月23日 19時17分)
山岡民主党副代表「野党は、菅総理大臣と連立を組むわけにはいかないと言っており、とても3年はもたない。このままでは、解散・総選挙と引き換えに来年度予算の関連法案を通してもらうことになる」
新人議員ならずとも、生活保障は重大な自己利害であって、双方の陣営が解散・総選挙の有無を前面に出すと、主義主張ではなく、解散・総選挙の有無が一票の基準となる危険性を抱える。野次馬的には結構な現象ではあるが。
菅首相は「小沢氏のような人材が必要な場面もある。小沢氏の手腕は高く評価しており、その腕力を活用していきたい」と、代表に再選されたなら、要職として用いるかのような発言をしているが、今年6月3日の民主党代表選出馬記者会見で小沢前幹事長に対して、「少なくとも暫くは静かにしていただいた方が、ご本人にとっても、民主党にとっても、日本の政治にとっても良いのではないかと、このように考えております」と小沢外しに取り掛かり、代表再選の場合も「脱小沢」路線で行くことを確認している。
《菅首相、代表再選後も「脱小沢」維持 幹事長に起用せず》(asahi.com/2010年8月17日4時1分)
〈菅直人首相は9月の民主党代表選で再選された場合、小沢一郎氏を幹事長に起用しない方針を固めた。首相周辺には、小沢氏の幹事長起用で政権基盤の強化を図るべきだとの声もある。だが、小沢氏が「政治とカネ」の問題で世論の反発を受ける中、首相は「脱小沢」路線を徹底する方が得策と判断した。〉
「脱小沢」路線の急先鋒は前原、野田であり、他に蓮舫、仙谷といったところだろう。
〈6月の代表選で菅氏を支持した前原誠司国土交通相や野田佳彦財務相らは、小沢氏が幹事長として人事権と党の資金を一手に握ることへの警戒感が強い。首相は世論や党内情勢を踏まえ、小沢氏を幹事長に起用しないことで、首相支持グループの結束を図る狙いがある。〉
記事発行の日付は8月17日である。6月3日の民主党代表選以降から少なくとも8月17日まで、「脱小沢」の強い意志で自らの態度を首尾一貫させていた。
だが、一週間経つか経たない昨23日の意見交換会では首尾一貫させていた態度を一変させた。これを意志薄弱と取るか、ご都合主義を取るか。共に指導力、リーダーシップに関係してくる精神要素である。
出席議員が「衆議院選挙の際の政権公約をどう実行していくのか、日本をどういう社会にしていきたいのか、明確に発信すべきだ」と言っているが、要するに“明確な発信”を行い得ていない状況に対する批判であろう。
“明確な発信”も指導力、リーダーシップに欠かせない能力であり、それを欠いていることの指摘となっている。
このことは同じ意見交換会を扱った記事、《“問題突破していく姿を国民に”》(NHK/10年8月23日 16時13分)にも表れている。
出席者「菅総理大臣が厚生大臣として薬害エイズの問題に取り組んでいたころは、省庁や業界の癒着構造に絡むいろいろな問題を突破していく姿が見られた。そうした姿を国民にしっかり見せてほしい」
要するにかつて厚生大臣だった頃に見せていた「問題を突破してく姿」が首相になってから見られなくなったと言っている。これは現在の否定的姿に対する指摘であろう。「国民にしっかり見せてほしい」肯定的姿が期待できなくなっている。
何もかも、すべてが指導力、リーダーシップのなさが成さしめている否定的姿である。
そもそもからして「問題を突破していく姿」は消費税増税騒動でメッキが剥がれている。6月17日のマニフェスト記者会見で消費税増税問題を持ち出したはいいが、政策をリードする責任を負う政権党でありながら、なぜ10%なのかの説明もないままに増税率を野党自民党の10%を参考にすると言い、増税の理由を“ギリシャの威し”まで用いてさも切羽詰った緊急実現事項であるかのように言って置きながら、このことが主たる原因となって参院選に大敗し、参議院で野党に転落すると、9月の代表選では消費税について議論はしないといった羹(あつもの)に懲りて膾(なます)を吹く類の自己保身は「問題を突破していく姿」とは正反対の利害表現であろう。
また野党時代の発言と政権党の閣僚となってからの数々の発言の不一致も「問題を突破していく姿」とは相容れない風景を成す。
「国民にしっかり見せてほしい」「問題を突破していく姿」こそが指導力、リーダーシップをよりよく表現するはずだが、それを見せることができない政治家が政権政党の代表選に出馬し、総理大臣の続投を目指す。何という逆説なのだろうか。
新人議員に当てにもならない3年間の生活保障を与えることぐらいがふさわしい菅首相に思える。
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