野田内閣が沖縄の反対を無視していよいよ普天間飛行場の辺野古移設に向けて動き出した。環境影響評価(アセスメント)の最終段階となる「評価書」を今年12月に県に提出と、来年6月をメドに県に対して移設先の名護市辺野古沿岸の埋め立て申請を行う方針を固めたとマスコミが報じている。
これは野田首相が国連総会出席のためにニューヨークを訪れた際の9月21日に行われたオバマ大統領との日米首脳会談で、大統領から直々に普天間の辺野古移設への具体的な進展を求め、「結果が必要だ」とせっつかれたことから動き出した方針なのは誰の目にも明らかである。
野田首相が心得としている“安全運転”志向からしたら、ギリギリまで放っておくことだったに違いないが、そのギリギリがアメリカの強硬な態度によってこの時期の前倒しになったということなのだろう。
なぜなら、普天間移設はそもそもからして卵アレルギーの子どもが卵を受けつけないように“安全運転”を受けつけない、逆にヤケドを誘って政権運営に致命傷を与えかねない厄介な安全保障問題となっていて、野田首相の“安全運転”志向とは相反する位置にあったのだから、余程の覚悟を持って首脳会談に臨まなければならなかったはずだが、そうはなっていなかったことがギリギリまで放っておくことを決めていたことの証左となる。
《米大統領 日米合意実施へ結果を》(NHK NEWS WEB/2011年9月22日 11時47分)
本来なら野田首相の方から持ち出すべき事柄だが、“安全運転”に徹していたのだろう、記事はオバマ大統領の方から普天間基地の移設問題を持ち出したと書いている。
オバマ大統領「結果が必要だ。これからの進展に期待している」
結果を出せと突ついた。
野田首相「両政府の合意に従って協力を進めていきたい。地元沖縄の理解が得られるよう全力を尽くす」
オバマ大統領から直接「結果が必要」と求められたのに対して何度でも言って遣り過ごしてきたために手垢がついて月並みとなった常套句を野田首相も用いて遣り過ごそうとした。
「地元沖縄の理解が得られるよう鋭意努力している最中です」と言えば済むのだから、これまでも済ませてきたのだろうから、ギリギリまで放っておく意思がなければ口に出して言えない常套句であろう。
ホワイトハウス高官(NHKの取材に対して)「来年夏までに具体的な進展を求めるというアメリカの立場は明確だ」
記事は書いている。〈来年夏までに滑走路建設のための手続きに着手するなど、目に見える進展が必要だという考えを示し〉たと。
当然オバマ大統領も共有していた「来年夏まで」の「具体的な進展」ということでなければならないから、首脳会談でも持ち出した「来年夏まで」の期限であったはずだ。
ところが野田首相は“安全運転”志向が全身の隅々にまで染み付いてしまっているのか、往生際の悪さを引きずるに任せていた。《普天間移設:首相 米大統領の「結果求める」発言を否定》(毎日jp/2011年9月26日 21時50分)
9月21日のオバマ大統領との日米首脳会談から5日後の9月26日の衆院予算委員会。
野田首相(普天間の辺野古への移設時期について)「いつまでにと明示するのは困難だ。誠心誠意、説明しながら、(沖縄県側の)理解をなるべく早い段階で得られるようにしたい」
日米首脳会談でアメリカ側が要求した「来年夏まで」の「具体的な進展」を否定している。〈ニューヨークでの日米首脳会談後、米側はオバマ大統領から「結果を求める時期が近い」と早期実現を求めたことを発表した〉ことに関して――
野田首相「(記者に)ブリーフした方の個人的な思いが出たのではないか。大統領は『その進展に期待する』という言い方だった」
要するに具体的な結果への要請は「ブリーフした方の個人的な思い」から出たもので、大統領自身の思いではないと、結果を求められたことも、結果の期限についても否定して、オバマ大統領は期限を区切らない進展を単に期待したに過ぎないとしている。
「NHK NEWS WEB」記事はオバマ大統領は「結果が必要だ。これからの進展に期待している」と言ったと書き、「毎日jp」記事は「結果を求める時期が近い」と言ったと書いているが、両者の表現に通じていることでもあるが、アメリカ側が言っている「進展」とはアメリカ側の立場として当然のことだが、具体的な「結果」を答とする具体的な進展のことであり、早期実現という「結果」を求めない「進展」ではない。
例えオバマ大統領が「結果」を求めなかったとしても、日米合意を謳っている上に結果を出さなければならない立場に立っているのは野田首相の方であることを弁えて、自ら率先して「結果」を出すべく行動することを伝えるべきを、伝えなかっただけではなく、結果ではなく、進展を期待しただけだと責任を放棄するようなことを言う。
余っ程安全運転を身体に染み付かせていなければできない現状維持志向と言わざるを得ない。
だが、アメリカは期限つきの段階的進展を伴った具体的な「結果」を求めた。野田首相が言っているように単に「進展に期待」したわけではない。「評価書」の沖縄県への提出を今年12月までに。そして来年6月をメドに名護市辺野古沿岸の埋め立て申請をと。
ホワイトハウス高官が言っていた「来年夏までに」に符合する期限である以上、オバマ大統領がせっついた「結果」であり、野田首相が逃げ込もうとした「いつまでにと明示するのは困難だ」の現状維持だったのだろう。
対して沖縄側は仲井真県知事も移転した場合、辺野古基地を抱えることになる稲嶺名護市長も反発している。
但し仲井真知事の反発が事実かどうか疑わせる面白い記事がある。《改めて問われる野田政権の説明責任 戦略のない政権に怒りと不信感》(MSN産経/2011.10.17 22:19)
仲井真知事「名護市前市長は(移設に)賛成していたが、市長選で民主党は反対派を応援した。にもかかわらず辺野古に回帰したことに県民は怒っている。海兵隊のこと(存在)はわれわれなりにわかっているが政府としての説明が欲しい。質問書を出したが回答がない。再質問も出したが返事をもらっていない」
知事側近「知事は県外説を繰り返しているが、本音では辺野古案以外にはないと考えている。県民にも本音の部分では辺野古移設は仕方がないと考えている容認派も多い」
地方議員「早急に普天間の危険を除去するために辺野古に移したい――というのが知事の本音だ。県外移設を訴えて知事選に再選した以上、簡単には振り上げた拳をおろせない。知事は辺野古回帰の理由を説明するようメッセージを送っているが、政府には真意が伝わらない」
県幹部「ほかの自治体にも打診したというなら、政府はどの自治体に打診したのか、反応はどうだったのか、そしてなぜ沖縄なのかなど具体的な説明をし、けじめをつけるべきだ。振興策と並行して辺野古に回帰した経緯を論理的に説明しないと前に進まない」
鳩山元首相が言っていた県外(=本土)の自治体に基地受入れを打診したが、答を得られなかったために仕方なく辺野古回帰を選択をせざるを得なかったと言っていたことを指すのだろう。
仲井真知事が「質問書を出したが回答がない」と言っている質問の一つでもあるのだろう、どこにどう説明して、どう断られたのか具体的に情報公開せよと言っていることになる。それが辺野古を納得させるための虚偽情報なら、県外自治体に対して改めて打診を迫るよう求めることにつながるが、実際に打診して、引受け手がなかったが事実の情報となった場合、それを以て沖縄側自身が辺野古以外に答えはないとする口実につなげる可能性も考えることができる。いわば「前に進」むことになると。
この後者への疑いは知事側近の、知事は辺野古をホンネとしているとする発言に合致する。
前者だとしても、やはり辺野古以外にないと辺野古へとつなげるための情報公開請求ではないかという疑いは捨てきれない。
仲井真県知事とその周囲が実際に辺野古をホンネとしているなら、沖縄は上層部にユダを抱えていたことになり、辺野古反対派にとって最も恐れる事態が生じることになる。
記事の結び。〈条件付き受け入れの姿勢を崩していない辺野古の容認派住民の声を忖度(そんたく)せず、県側を説得する努力を怠る。沖縄の思いを尊重するといいながら、頭越しに移設を強行しようとする政府。移設賛成派の中にも「国家統一の危機だ」と「独立論」の台頭を危惧、沖縄県民の誇りを背景に不信感が広がっている。(那覇支局長 宮本雅史)〉――
既に当ブログ記事――《前原・石破の沖縄依存安保論は首都東京の福島・柏崎刈羽両原発依存と同根の論理 - 『ニッポン情報解読』by手代木恕之》に取り上げたことだが、9月25日(2001年)のフジテレビ「新報道2001」に前原民主党政調会長と石破自民党政調会長が出演、それぞれが次のように発言している。
石破「日米安全条約というものは日本だけのものじゃない。アジア・太平洋全体のものなのですよ。そのために沖縄にあるのだということを本当にみんなが理解していますか」
前原「石破さんもおっしゃるように日本の安全保障だけではなく、この地域全体のための公共財なんだということを沖縄のみなさん方にもお話しすることは、日本全体にもお話をし、(グアム一部移転や負担軽減等の)このパッケージが動き始めると、沖縄だけじゃなくて、他の所にも色んなお願いをしていかなくてはいけないわけです」
沖縄に海兵隊を置く日本の安全保障は「日本だけのものじゃない。アジア・太平洋全体のものなのです」と言っている。
だとしたら、アジア・太平洋地域の国々も平等に負う安全保障でなければ、「アジア・太平洋全体のもの」とはならない。〈米軍基地は九州であっても、四国地方であってもいいわけであるし、ベトナムやフィリッピンに米軍基地建設を求めてもいいわけである。〉とブログに書いた。
アメリカは6月14日(2011年)から10日間、フィリピン、シンガポール、マレーシア、タイ、インドネシア、ブルネイの各海軍と海上合同軍事演習を実施している。名目は海上テロ、海賊、多国間犯罪、密輸等の取締りに置いているが、真の狙いは防衛力の近代化と増強を図り、海洋進出を進めている中国を対象とした訓練でもあったはずだ。
参加国の多さがそのことを証明しているし、大は小を兼ねるが、小は大を兼ねない。兼ねない軍事訓練はカネのムダ遣いとなる。
そして10月半ばのアメリカとフィリッピンの合同軍事演習はフィリピンと南沙諸島の領有権を巡って対立する中国を牽制する狙いからのものであった。
アメリカ、フィリッピン双方の海兵隊合わせて3000人が参加したことがそのことの補強証拠となる。
かつてフィリッピンには米軍基地が存在したが、1991年のピナトゥボ山大噴火がクラーク米空軍基地機能を損ない、撤収することになり、1992年にスービック海軍基地からも撤収、フィリッピンには米軍基地は存在しなくなった。
だが現在、フィリッピンは自国の安全保障上、中国に対抗するために米軍の軍事力を必要としている。
勿論、フィリッピンだけがアメリカの軍事力を必要としているわけではなく、シンガポール、マレーシア、タイ、インドネシア、ブルネイ、さらに日本も韓国も台湾も必要としている。
それぞれがお互いに分かち合わなければならない、中国対象の安全保障であるはずである。分かち合って初めて、安全保障は沖縄を離れて真正な意味で「アジア・太平洋全体のもの」となり、前原、石破両氏の発言にも添う、満足な結果を得ることができる。
日本本土で普天間移設先の引受け手がないというなら、自国の安全保障上、アメリカの軍事力を必要としているアジア・太平洋地域の国々が引き受けるべきだろう。
アジア・太平洋地域の国外とした場合、機動性・即応性の点でも、沖縄に遜色ない確保が可能となるはずであるし、距離的に沖縄を上回る国もあるはずである。
日本は既に多くを引き受けている。特に沖縄は過重なまでに引き受け過ぎている |