無責任な民主党の無責任な社会保障改革
2月10日衆院予算委員会で民主党が掲げる年金制度抜本改革の柱の1つとしている「最低保障年金」に関わる鴨下一郎自民党議員の質問に対する岡田副総理の答弁。《岡田副総理、「最低保障年金」撤回の可能性示唆》(YOMIURI ONLINE/(2012年2月10日20時32分)
岡田副総理「各党合意の上で、やっぱり今の年金制度でいく方が弊害が少ないということになれば、そういう選択肢もある」
記事はこの発言を以って、民主党が2009年の衆院選政権公約(マニフェスト)で掲げた年金抜本改革案の柱の一つである「最低保障年金」についての、与野党協議開始後に於ける撤回能性の示唆だとし、同時に、〈当面の消費税増税を含む社会保障・税一体改革の与野党協議の実現に向け、柔軟に対応する方針を示したものだ。〉と解説している。
国会終了後の記者会見。
岡田副総理(国会答弁趣旨を)「協議する時にどちらが駄目とか、どちらがいいと、前提は置くべきではない。二つ並べて議論してもらいたいという趣旨だ」
そして、〈与野党協議の前に最低保障年金を取り下げる考えはないことも強調した。〉という。
あくまでも与野党協議で「やっぱり今の年金制度でいく方が弊害が少ないということになれば」、現行制度の手直しでいき、「最低保障年金」撤回という「選択肢もある」ということらしい。
原理主義者の評判も高く、自身もそのことを自認しているコチコチの原理主義者に相応しくないご都合主義なところを見せている。
その理由は、マニフェストに掲げる各政策とも、これこれこういう政策を法案化して国民のみなさんの生活を向上させます、経済や社会を活性化しますと公に約束する公約とする前に他党の政策に優る自党の政策の確固たる優越性を基本的な根拠として打ち出した政策でなければならないからだ。
でなければ、公約とすることはできない。
各党とも、掲げる政策のテーマは殆ど変わらない。子育て政策、雇用政策、景気政策、農業政策、社会保障政策、少子化政策、教育政策、外交政策、国防政策等々――
違いは中身であって、その中身は他党の政策に優る自党の政策の確固たる優越性を証明するものでなければならない。
そのような優越性を備えていなければ、掲げる政策に関してだけではなく、党自体の存在意義を失う。
このことは選挙の審判の結果としての議席数となって現れる。
選挙にしても国会論戦にしても、各党の政策の優越性と優越性のぶつかり合いを中身としていて、いずれの優越性が優るか、最終的に国民に選択させることになる。
マニフェストに掲げたということは他党の政策に優る自党の政策の確固たる優越性を策して掲げたはずだから、そうである以上、自党の政策の他党に優る優越性の信念を堅持していなけれがならないはずだ。
堅持し、政策の優越性を証明し続ける使命を担っているはずだ。
もし堅持することを放棄し、証明し続けることをやめた場合、政権担当の資格を失う。野党の政策の前に自らの政策の優越性を投げ出したことになるからだ。
民主党はそのような信念を持って選挙を闘い、悲願の政権を獲得し、現在、国民に約束した他党の政策に優る自党の政策の優越性を証明する各政策の実現段階に入っている。
政策の優越性に対する信念は最後まで堅持しなければならないし、その証明にしても自らの使命として最後まで担い続けなければならない。
だが、岡田副総理の「各党合意の上で、やっぱり今の年金制度でいく方が弊害が少ないということになれば、そういう選択肢もある」という発言は自党の政策の優越性に対する信念とその証明の放棄に当たる。
「協議する時にどちらが駄目とか、どちらがいいと、前提は置くべきではない。二つ並べて議論してもらいたいという趣旨だ」という発言も同じであろう。
勿論、政策の実現を通した自党政策の優越性の証明に関して参院与野党逆転が障害になっているという事情はある。
だとしても、「どちらが駄目とか、どちらがいい」といった優劣に重点を置くのではなく、「二つ並べて議論」する協議方法は自党の政策の優越性の放棄によって可能となる協議であって、政権担当の信念と使命をどこに置いていたか疑わせることになる。
逆に「どちらが駄目とか、どちらがいい」といった優劣を前提とした議論――与野党お互いにそれぞれの政策の優越性を徹底的に証明する議論を尽くすべきであり、その帰趨としてのよりよい内容への帰着を図るべきであろう。
記事が伝えている与野党協議の前に最低保障年金を取り下げる考えはないとしていることも、協議しないうちから議論次第で取り下げる意思の表明であって、各発言と合わせると、優越性の放棄以外の何ものでもない。
岡田副総理が原理主義者であるなら、自党の政策の優越性に対する信念とその証明を自らの使命として最後まで堅持しなければならないはずだが、原理主義は他者からの贈り物をそのまま返す、誰かと飲みに行くと、必ず割り勘とするといった日常不断の生活慣習に関してのみのルールであって、政治に関しては状況次第でルール変える至ってご都合主義者の二面性を見せている。
ご都合主義とは無責任の言い替えであるはずである。自他ともに原理主義者を任じていながら、状況に応じてご都合主義に変身するから、余計に無責任が際立つことになる。
岡田副総理の無責任なご都合主義は同じ2月10日の衆院予算委員会で、茂木自民党議員に対する答弁の中でも見い出すことができる。《衆院予算委の質疑要旨》(時事ドットコム/2012/02/10-21:17)
茂木議員「民主党の年金抜本改革案を一体改革の素案から外すことが協議のスタートラインだ」
この発言は民主党の政策の優越性を自ら否定せよの最後通知に相当する。
岡田副総理「自民、公明両党は今の制度を改善する路線、われわれは今の制度の延長では無理があるとして新しい制度を提案したが、欠点があることは承知している」
優越性を競うべき自党の政策に「欠点がある」と自らその優越性を否定し、政権党の立場にありながら、そ存在意義を自ら貶めている。
原理主義とご都合主義の二面性に敗北主義を加えて三面性としなければならない。そもそもからして、何のために年金抜本改革案を掲げたのだろうか。
フジテレビとMSN産経の合同世論調査で「首相にふさわしい政治家」として原理主義者とはその実体がご都合主義者に過ぎないこの岡田副総理が10・4%とトップを着けたとは驚きである。
このような無責任なご都合主義は野田政権内に於いて岡田副総理一人のものではない。野田内閣全体の体質となっている。
同じ記事から質問者は最初の記事の鴨下自民党議員。
鴨下議員「最低保障年金はいつもらえるのか」
小宮山厚労相「40年後だ。マニフェスト(政権公約)の段階で説明できていなかったことは申し訳ない」
民主党2009年マニフェストの「最低保障年金」の記載は次のようになっている。
〈消費税を財源とする「最低保障年金」を創設し、すべての人が7万円以上の年金を受け取れるようにすることで、誰もが最低限の年金を受給でき、安心して高齢期を迎えられる制度にする。〉・・・・・
マニフェストは4年間の実現を約束している。それを裏切って、40年後の実現だとさも簡単なことのように言う無責任さは立派である。
また、「マニフェスト(政権公約)の段階で説明できていなかった」ということはマニフェストに掲げる政策が他党に優る優越性を骨格としていなければならないことに反する無責任、ご都合主義の自己否定そのものであろう。
民主党歴代内閣のすべてがマニフェストを軽いものにしている。
最後に野田首相。1月16日(2012年)民主党定期大会挨拶。
野田首相「マニフェストは状況の変化、現在の到達点を踏まえ、政策選択と優先順位を踏まえ、今後も出来る限り実現を目指していかなければなりません。
但し、できないことも出てくるかもしれません。できないことはなぜできなかったのか、率直に国民のみなさんに説明していく勇気を持たなければいけないと思います」・・・・
「できないことも出てくるかもしれません」と言っている。これはマニフェストを「できないことも出てくるかもしれ」ない性格のものと野田首相自ら定義づけたのである。当然、マニフェストに掲げた政策を他党に優る自党の政策の優越性を訴えることはできなくなる。
例えば民主党の社会保障政策はこんなにも優れています、みなさんを幸せにしますと言いながら、「できないことも出てくるかもしれません」と言ったなら、自己矛盾そのものであろう。
民主党は今後国政選挙を戦うとき、マニフェストに掲げた政策を訴える際、「できないことも出てくるかもしれません」を枕詞としなければ、「正心誠意」に反することになる。
あとで約束が約束でなかったことを思い知らせるよりも、最初から約束が約束とならないことを思い知らせておけば、国民は前以てそれなりの覚悟ができるし、失望・落胆の類を回避可能とすることができる。
どのような政策であっても、マニフェストに掲げた政策で選挙を戦うには他党に優る自党の政策の優越性を信念してからではないと選挙を戦う資格を有しないということである。
このような信念に対する認識を欠いているから、岡田副総理や小宮山厚労相のご都合主義が存在し得るのであり、野田首相の同じ民主党定期大会挨拶の「私たちは野党の時代にあって、情報や資料を十分に把握できていなかった面があります」とマニフェストの不備を自ら許すご都合主義が横行することになる。
マニフェストに掲げる以上、その政策は他党の政策に優る優越性を備えていなければならないし、備えていると信念する強固な認識を持って初めて、政党間に政策の切磋琢磨、国会論戦の切磋琢磨を芽生えさせることになる。
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