9月12日日本記者クラブ主催の自民党総裁選公開討論会で拉致問題について問われた答弁として9月13日「毎日jp」記事≪特集:自民党総裁選・公開討論会 5候補による討議/報道陣との質疑応答≫は石原伸晃と麻生のみを取り上げて次のように伝えている
石原伸晃「拉致問題は時間との戦いだ。04年の小泉首相の訪朝以来まったく動いていない。私なら北朝鮮に乗り込んで直談判する気迫を持って取り組む」
麻生太郎「拉致問題は、日本の主権が明らかに侵された。日本は今後も堂々とやっていき、曲げちゃいかん。しかし、これは相手(北朝鮮)の対応が問題で、乗り込んでどういう答えが出てくるかだ。ましてや(金正日(キムジョンイル)総書記が)『脳卒中だ』との報道もあり、対応できる人が出てこないとらちがあかない。ただ乗り込んでいく種類の単純なものではない」
まず石原が「04年の小泉首相の訪朝以来まったく動いていない」と04年5月22日の2度目の訪朝以降の小泉・安倍・福田の日本政府の拉致問題に関わる無能・無策外交を臆面もなく真っ正直に告白している。
臆面もなく真っ正直にと言うのは小泉内閣では行革担当大臣、国土交通大臣を務めていて、閣議に出席して拉致問題に意見を述べることができる立場にいたからであり、安倍内閣では党の役員として幹事長代理、政調会長の役職に就いていたのだから、党の立場から拉致解決に向けたアイデアを提案できる場所に立脚していたにも関わらず、「04年の小泉首相の訪朝以来まったく動いていない」ということなら、石原自身も拉致問題解決に何ら意見を述べることもアイデアを提供することができなかった無能・無策の同罪者に位置しているはずで、そのことに気づかずに論評できる無神経・鈍感さを持ち味としているからだ。
対して麻生にしても石原と事情は同じで、小泉内閣で自由民主党政務調査会長、総務大臣、外務大臣、安倍内閣で引き続いて外務大臣、福田改造内閣で党幹事長と重要な役職を務めているのだから、小泉・安倍・福田各内閣の拉致無能・無策外交を陰から支えていた一人で偉そうなことを言える資格はないのだが、そんなことはお構いなしに「乗り込んでどういう答えが出てくるかだ」とか「ただ乗り込んでいく種類の単純なものではない」と知ったかぶりに広言しているのは石原の「私なら北朝鮮に乗り込んで直談判する気迫を持って取り組む」と述べた言葉に反対意見を加えたものだろう。
二人が「乗り込んでいく」かどうかを問題点としたのは小泉の2度の訪朝を「乗り込んでい」ったと把えているからなのは間違いなく、そう把えること自体が客観的状況判断をまったく欠いた発想でしかないことに石原も麻生も総理大臣を目指すだけあって幸せにも気づいていない。
小泉首相は「乗り込んでい」ったのではなく、金正日が拉致した日本人の内、5人の帰国で拉致問題のすべてを片付けて日朝国交正常化へ持っていき、日本の戦争補償と経済支援を受けようとした意図の元、小泉首相を「乗り込」ませたのであって、そのことは2002年10月12日の『朝日』夕刊≪北朝鮮 「人を探して帰国も可能」「補償、方式はこだわらず」 昨年1月には柔軟姿勢≫が証明している。
記事の中で01年1月、シンガポールのホテルで中川秀直前官房長官(当時)と北朝鮮の姜錫柱・第一外務次官との「秘密接触」が行われたことを伝えている。中川秀直が<「拉致問題は避けて通ることのできない政治問題。交渉に入る前に(一定の回答が)示されるべきだ。(被害者の)安否確認や帰国して家族と面会することは可能か」とただしたところ、姜氏は「行方不明者」という表現ながらも、「即、動きを見せることができ、人を探して帰すこともできるだろう」と具体的に言及し、柔軟姿勢を見せた。>と「秘密接触」の遣り取りを紹介している。
小泉首相・金正日首脳会談が行われたのは、2002年9月17日である。それに先立つこと20ヶ月前、ほぼ2年近くも前に既に「『行方不明者』という表現ながらも」拉致認知と、それに続く拉致被害者の帰国のレールは敷かれていたのである。中川秀直前官房長官・姜錫柱第一外務次官の「秘密接触」前後、及び以降、日朝首脳会談開催の実現に向けて、外交当局者同士の幾度かの「秘密接触」や事前交渉を重ねて、話し合われる内容・お互いが求める成果を煮詰めていき、一応の到達点である2002年9月17日の小泉・金正日首脳会談に持っていったということだろう。
いわば首脳会談はお膳立てができていた決定事項を主役が登場して最終確認し合ったに過ぎない。決定事項には前以て準備しておいた成果も当然含まれていて、成果は最後に登場した主役が最終確認という儀式を経ることで主役自身の手に自動的に帰する。「秘密接触」や事前交渉を譬えてみれば、表に現れない舞台稽古であり、首脳会談こそが、観客を集めて開演された舞台そのものと言える。何も小泉首相自身が、よく言われるように自らの創造的意図によって形作るべくして形作った歴史的瞬間でも、歴史に対する貴重な一歩というわけでもない。
逆に上記記事が<「拉致」カードで経済立て直しの「カネ」を引き出すという対日基本方針は〔第1回日朝首脳会談の〕2年近く前に固まっていたようだ。>と書いていることが示している通りに「拉致認知」と「5人生存」をエサに日本からの戦争補償と経済支援という自らの側のエサを手に入れるべく小泉首相を日朝首脳会談の場に金正日がまさしく「乗り込ませた」のである。「乗り込ませ」て、「日朝平壌宣言」で真っ先に「1.双方は、この宣言に示された精神及び基本原則に従い、国交正常化を早期に実現させるため、あらゆる努力を傾注することとし、そのために「2002年10月中に日朝国交正常化交渉を再開することとした」と戦争補償と経済支援に向けた第一歩となる「日朝国交正常化交渉」という成果を金正日は手にしたのである。
いわば金正日も小泉首相も北朝鮮側の「拉致認知」と「5人生存」でシャンシャンシャンと手を打つつもりでいた。小泉首相は初訪朝を控えた記者会見で「拉致問題を棚上げして国交正常化交渉は進まないというのは一貫した考えだ。その方針でいく」(≪日朝首脳会談:小泉首相、拉致問題優先の基本方針を最終確認≫「毎日jp」/2002-09-15-21:43 )とした態度で日朝首脳会談に臨み、2002年9月17日に「日朝平壌宣言」締結、その2週間後以降の「2002年10月中」に国交正常化交渉へ進むべく国交正常化交渉再開を同意しているのだから、拉致問題は言ってみれば「棚から下ろすことができた」――解決を見たとしたということなのだろう。
シャンシャンシャンのはずが、日本の世論が「8人死亡」に反発して全面的な「拉致解決なくして国交正常化なし」の状況に進むとは金正日にしても小泉首相にしても予想だにしていなかったろう。
麻生が「これは相手(北朝鮮)の対応が問題で、乗り込んでどういう答えが出てくるかだ」と言っていることは「相手の対応」、相手の「答」に問題解決の基準を置く相手次第の態度であって、自らの側の主体性を放棄する他力本願の姿勢以外の何ものでもない。
いわば相手が変わらなければ、こちらは何もできないという態度であって、麻生総理大臣になっても日本の拉致政策はこれまでと同様に口では「対話と圧力」と言いつつも、スローガンで終わらせ、北朝鮮側の態度の変化をひたすら祈るだけの待ちの政策を取り続けるということを結果として宣言したのである。
相手の態度を変化させるべく働きかけるのではなく、その可能性が期待できるならまだしも、期待できないままに相手の態度が変わるのを待つという外交とは日本側の外交政策の思考停止を意味しないだろうか。麻生総理大臣になっても、拉致政策は思考停止状態を続けるということである。
尤も第3次小泉内閣・安倍内閣と拉致問題を重要政策とする外務大臣を務めていて拉致問題が何ら進展を見ずに思考停止状態となっていたのだから、その思考停止が麻生総理大臣となっても続くとしても当然の結果であって不思議はない。
また麻生は「拉致問題は、日本の主権が明らかに侵された」とも言っているが、日本人拉致が北朝鮮の国家機関が関わった犯罪であることが判明した時点で日本の主権侵害事項であることは自明の事実となった出来事・北朝鮮の国家犯罪であって、その「主権侵害」という自明の事実だけを持ち出して「主権侵害だ、主権侵害だ」と言い立てたとしても解決の糸口にもならないことで、麻生次期総理大臣はまったく以って無意味なことを言っているとしか言いようがない。
「主権侵害」を北朝鮮に補わせるには拉致問題の全面解決以外に方策はないことも「自明の事実」としてある事柄であって、次期総理大臣であるならその解決方法を創造的に模索すべきだが、自力性を一顧だにせず「相手の対応次第」だと他力本願なことを言っているようでは全面解決に向けた「外交センス」は麻生外務大臣時代と同様に麻生総理大臣となっても期待不可能ということなのだろう。
外交センスのない政治家が日本の総理大臣となる。まったく以って倒錯的事実としか言いようがない。そんな政治家を自民党国会議員及び自民党員は自民党総裁に選ぶ。自民党国会議員及び自民党員の政治センスをも疑わなければならない出来事だと言える。
≪北朝鮮 「人を探して帰国も可能」「補償、方式はこだわらず」 昨年1月には柔軟姿勢≫(「朝日新聞」2002.10.12.夕刊)
「(拉致された)人を捜して帰国させるのも可能だ」「(補償の)名目や方式にこだわらない」
01年1月、朝鮮人民民主主義共和国<北朝鮮>が拉致事件や補償問題で、日本側に大胆な提案をしていたことがわかった。それまでの政策を転換し、「拉致」カードで経済立て直しの「カネ」を引き出すという対日基本方針は2年近く前に固まっていたようだ。
複数の外交関係者によると、提案があったのは日朝首脳会談にも同席した姜錫柱・大外務次官と、中川秀直前官房長官との秘密接触の席。シンガポールのホテルの一室で通訳1人を交えて約5時間、話し込んだ。
姜氏は「過去の清算の話がこれまでの日朝交渉で議論されていない。他の問題(拉致)と混同されることは間違っている。こういうことを重ねると、『日本との会談が不要である』との声も(北朝鮮で)出てくる。まず過去の清算の問題、次に行方不明者の問題だ』と原則論を主張した。
そのうえで姜氏は最高首脳は日本がこれらの問題への立場を示してくれれば(問題解決に)取り組む意思がある」として、首脳会談による政治決着を提案した。
「過去の清算」については「中身(金額)が大事であり、名目や方式で日本の対面、メンツを考えてできる」と説明。それまで主張してきた「賠償」を撤回し、韓国に対して行った「経済協力方式」を受け入れる意向を明確にした。
中川氏が「拉致問題は避けて通ることができない政治問題。交渉に入る前に(一定の回答が)示されるべきだ。(被害者の)安否確認や帰国して家族と面会することは可能か」とただしたところ、姜氏は「行方不明者」という表現ながらも、「即、動きを見せることができ、人を探して帰すこともできるだろう」と具体的に言及し、柔軟姿勢を見せた。
一方、姜氏が「植民地支配や強制連行などもあり、日本の罪も残酷だ。日本の動き(過去の清算)が選考するのが当然で、そうでなくては(北朝鮮は)収まらない」と反論する場面もあった。>
≪日朝首脳会談:小泉首相、拉致問題優先の基本方針を最終確認≫「毎日jp」/2002-09-15-21:43 )
小泉純一郎首相は15日午後、東京都内のホテルで福田康夫官房長官、安倍晋三官房副長官、竹内行夫外務事務次官らと朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)訪問に向けた大詰めの協議を行い、日本人拉致問題が進展しなければ、国交正常化交渉は再開しないとの基本方針を最終確認した。また首脳会談後に発表される日朝共同宣言(仮称)には、日本人拉致問題について、北朝鮮の関与を認めない形で北朝鮮側の「遺憾の意」が盛り込まれる方向になった。
小泉首相は17日早朝、政府専用機で羽田空港を出発し、午前9時すぎに平壌入りした後、金正日(キムジョンイル)総書記との史上初の日朝首脳会談に臨む。日本側は会談に安倍副長官、高野紀元外務審議官、田中均外務省アジア大洋州局長が同席する。同日夕には首相が平壌で記者会見する。
首相は15日の協議後、記者団に「拉致問題を棚上げして国交正常化交渉は進まないというのは一貫した考えだ。その方針でいく」と説明した。同時に「安全保障、拉致問題、いろいろ包括的に議論する」と述べ、不審船、ミサイル、核開発など北朝鮮をめぐる安全保障問題や、日本の植民地支配に伴う「過去の清算」問題を一括して協議対象にする考えを重ねて強調した。拉致被害者の家族については「もうすでに会っている。(家族の気持ちは)十分に理解している」と述べた。
共同宣言の内容は日朝事務レベルの事前折衝で固まった。拉致問題については、行方不明者問題として北朝鮮側の「遺憾の意」と再発防止を盛り込むよう日本側が強く要求。北朝鮮側も基本的に同意した。ただし、北朝鮮の直接的な関与は認めず、ぼかした表現になる見通しだ。共同宣言の表記は最終的に金総書記の判断にゆだねられるため、流動的な要素が残っている。
この問題について政府筋は「拉致問題は北朝鮮側の意思表示がなされないと、日本の国民感情は納得しない。それは北朝鮮もよくわかっているはずだ」と述べ、北朝鮮側の態度表明が不可欠との認識を示した。
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