既に広く知れ渡っていることだが、麻生首相が国会答弁の中で恒例行事となっている発言取繕いのゴマカシを再度やらかした。尤も本人はぶれていない、最初から言っていることは同じだ、一貫していると、これも恒例となっている自己正当化の強弁を以ってして痛くも痒くも感じないまま今後とも繰返していく単なる一幕で推移していくことは分かり切っていることだが。
だからこそ、恒例となる。
今回の恒例行事とは勿論のこと、衆院予算委員会で郵政民営化に「賛成でなかった」とした5日の国会答弁を4日後の9日に同じ衆院予算委員会を舞台にして早くも「賛成だった」と180度転換したお騒がせを指す。
5日の答弁。前回のブログ記事でも書いたが。
「小泉総理大臣の下で、わたしは郵政民営化に賛成ではなかったが、内閣の一員として最終的には賛成した。皆、勘違いをしているが、わたしは総務大臣だったが、郵政民営化担当大臣ではなかった。担当は竹中平蔵大臣だったことを忘れないでほしい。妙なぬれぎぬを着せられると、はなはだおもしろくない」(NHKインターネット記事)
9日の答弁(2月9日NHK「ニュース9」)――
麻生「私はあのときは、民営化することに関しては、賛成しておりました。民営化に関しましては。これだけははっきりしておきましょう」
筒井信隆(民主党)「郵政民営化に反対だったと言っていたけども、ね、まさに変る――」
麻生「(総務大臣に)指名されたときには反対だっの。だから、私は民営化、民営化賛成と、いう話の方にはなかった方に部類に入るわけですよ。しかし2年間の間に色々勉強させてもらって、民営化した方がいいと、最終的にそう思いました」・・・・
この反対から賛成への経緯について2月10日の「毎日jp」記事≪麻生首相:郵政巡り、迷走 民営化「賛成じゃない」→「勉強して賛成」≫が具体的に解説している。
<民営化に反対していた時期について首相は、5日の段階では05年の関連法の閣議決定や衆院の郵政解散時としていたが、9日になって「03年の総務相就任時」と修正。「(その後の在任中の)2年かけて勉強し、最終的に賛成した」と説明した。また、4分社化に関しては「我々が(05年の衆院選で)問うたのは民営化で、4分社化か3分社化かなんて問うてない」と述べ、経営形態の見直しは否定しなかった。>(一部抜粋引用)
5日の答弁は誰が考えても分かることだが、賛成だったと受取られることを恐れる文脈で、「妙なぬれぎぬを着せられると、はなはだおもしろくない」(実際に使った言葉は「俺としてははなはだ面白くない」)――、いわば「賛成」は「ぬれぎぬ」だ、だが「内閣の一員として最終的には賛成した」としていて、反対姿勢であったことにウエイトを置いた答弁となっている。
その答弁が物議を醸すことになった。自分でも不適切な発言と気づいたからだろう、「郵政民営化に賛成ではなかった」時期を「(総務大臣に)指名されたとき」にずらし、「2年間の間に色々勉強させてもらって」、閣議決定時には民営化賛成にまわったと辻褄合せする必要が生じたというわけなのだろう。
このことだけを以てしても巧妙・狡猾に過ぎるのだが、「4つに分断した形がほんとうに効率としていいのかどうかは、もう1回、見直すべきときに来ているのではないか」との口実で持ち出した「4分社化見直し」の理由を「郵政民営化に賛成ではなかった」個人的理由から、「我々が(05年の衆院選で)問うたのは民営化で、4分社化か3分社化かなんて問うてない」(上記「毎日jp」記事)と国会で答弁、民意外のことだから見直しは許される、自分の発言は許されると正当化しただけではなく、10日の夕方の首相官邸での記者会見で記者団から郵政民営化関連法が4分社化を柱としていたことと発言との矛盾を問われると、「法律的には(4分社化は)あん中(法案)に入ってますよ。だけど、あの時、4分社化を知っている人は、ほとんどおられないというのが私の認識です。郵政民営化かそうでないかで、あの選挙は問われた。一般的な有権者の意識は、皆さんほど詳しくないと思ってます。国民が感じていたのは、民営化かそうではないか、だけだったと思います。内容を詳しく知っておられる方は、ほとんどおられなかったと思います」(「asahi.com」≪郵政民営化「国民は内容知らなかった」=05年衆院選振り返り麻生首相≫</09.2.10)と言って、「郵政民営化」までは民意が関与していたが、「4分社化」までは民意は届いていない、だから「郵政民営化」内で「4分社化」見直しは許されると、自らの発言の正当化に国民の理解能力、その不足を持ち出す強弁を働いている。
「一般的な有権者の意識は、皆さんほど詳しくないと思ってます」と――。
政治家の判断を国民の判断は了とした。もし国民の判断が間違っていたとしたら、例えそれが国民の理解能力不足によるものだとしても、そのこととは関係なしに政治家の判断は間違っていたことになる。政治家の判断が正しく、国民の判断が否決したわけではない。政治家側からの賛成の要請に応えた国民の賛成という意思決定であり、その賛成を云々するなら、その前に賛成の引き金を引いた政治家の判断を云々すべきだろう。
その政治家の判断に麻生は「内閣の一員として」加わり、その判断に「内閣の一員として最終的には賛成した」。その責任はあるはずだが、最終的に国民の意識に帰着させたのは責任転嫁以外の何ものでもない。
自身の発言に対する自省能力もなく、自分は正しいとしたいばっかりに国民の意識不足まで持ち出して、責任転嫁する。合理的認識に関わる脳ミソ不足のせいでどこに問題点があるか、気づいてもいないのだろう。
誰にバカにされるにしても、脳ミソ不足の麻生にだけはバカにされたくないと思っている有権者は多いのではないだろうか。
麻生は9日の衆院予算委員会で民主党の渡部恒三から首相就任後に目論んでいた解散・総選挙は支持率のあまり低さに見送ったのではないかと問われて、「負けると言われていた(1966年の)『黒い霧解散』の時は圧勝した。世論調査などできちんと予測できるものじゃない」(「47NEWS」)と答弁しているが、これも、合理的に認識するだけの脳ミソが不足しているからできる強弁に過ぎない。
当時殆どが自民党政治家絡みのスキャンダルで自民党批判の世論が沸騰したが、解散・総選挙で自民党は議席を減らしたものの安定多数を維持し、後の佐藤内閣長期政権の礎を築いたと言われているが、現在と当時の時代性と総理大臣の資質の違いを考えない表面的に事象だけを把えた浅はかな解釈に過ぎない。
断崖絶壁に立たされてあやかりたい気持ちはわかるが、総理大臣として佐藤栄作と遜色ない、あるいはそれ以上の資質を有しているかを先ず考えた上で比較すべきを、それを欠いたまま比較する脳ミソ不足を発揮している。
1966年は史上最高の年間倒産5919件を記録する不況の時期で、『昭和世相史(1945―1970』(岩崎爾郎/加藤秀俊共編「社会思想社」)なる本に次のような記事が載っている。
全国の高校生役3万人(定時制を含む)を対象に総理府青年局が10月から12月にかけて行った「高校生の生活実態調査」による結果を次のように記している。
「金や名誉を考えないで趣味に合った暮らしをしたい」――24.5%
「いい人と結婚して楽しく暮らしたい」――24.4%
「その日その日をのんきに暮らしたい」――7.2%
「日本民族の優秀性を積極的に認めている」――76.4%
「日本人に生れてよかった」――79.4%
対して、
社会的正義感や社会貢献を強く意識しているものは約26%
立身出世型は10%以下(以下略)
本の解説は<「高校生もマイホーム主義」 生活目標に関しては小市民的な回答が過半数を占め、家庭では父親に対する信頼感の低下が目立っている。>・・・・・・・
不況ではあっても2年後の1968年には国民総生産(GNP)が資本主義国家の中で第2位に達する高度経済成長期にあったことが背景にあってのことだと思うが、76%もの高校生が「日本民族の優秀性を積極的に認めて」いながら、その優秀性に挑戦する気概は持たず、「金や名誉を考えないで趣味に合った暮らしをしたい」、「いい人と結婚して楽しく暮らしたい」、「その日その日をのんきに暮らしたい」と小市民的な生活保守主義に浸っていた。「マイホーム主義」という言葉が生まれたのは1960 年代だということだから、これは会社人間化してせっせと給料を稼いでいた大人の意識を反映した高校生のマイホーム主義」意識のはずである。
当然、今の暮らしを壊したくない、失いたくないという生活保守主義に浸っていたはずで、「黒い霧事件」と言われる政治家のスキャンダルに憤激したものの、政権交代で日本の経済を混乱させたくない、今の生活を失いたくないという生活保守主義が働いた、自民党が議席を減らしたものの、安定多数を獲得した、麻生が言う「世論調査などできちんと予測できるものじゃない」という結果であろう。
だが、今の国民は生活保守主義の観点からも政権交代を願っている。それ程に自民党政治に不満を感じ、却って生活を守るためには政権交代が必要だと政権交代志向を強めている。そのことが世論調査に現れている。地方の自民党の支持基盤が揺らいでいることもその一例で、自民党政治によって地方が疲弊させられた、過疎化させられたと思っていることからの自民党支持離れであろう。
明らかに「黒い霧事件」の時代とは時代が違う。空気も漢字も読めない麻生は時代の違いも読めない。これも合理的に認識するだけの脳ミソ不足から来ている時代認識の欠如と言える。
自分の脳ミソ不足を棚に上げて、国民の意識云々をされたのではたまったものではない。解散前に辞任した方がこれ以上人間を落とさない最善の選択ではないだろうか。
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