菅首相は昨年2010年12月4日、千葉県の農業組合法人施設訪問後の記者との遣り取りで内閣支持率が低いことが念頭にあったのだろう、次のように情報発信している。
菅首相「現在進んでいることや、進める準備をしていることを国民の皆さんに伝える発信力が足りなかったかなと考えている。『もう少し肉声で語れ』などといろいろと言われているので、今後は、いろいろな機会に国民の皆さんに積極的に私の考え方を伝えていきたい」(NHK)
菅首相は何か自身にプラスとなる目的を持って意図的に発言することのみを情報発信だと勘違いしている。特別な目的も意図も持たない発言であっても、本人の気づかないままに何らかの情報発信を行っているのだという判断ができないようだ。元々合理的判断能力を欠いているから止むを得ないことなのかもしれないが、だが、この合理的判断能力の欠如こそが、ブログに何度も書いてきたことだが、リーダーとして必要欠くべからざる資質であるリーダーシップにマイナスの影響を与えることになっている。
昨3月3日の首相官邸でのぶら下がりでこんな発言をした。《仙谷氏と会食「いろんな話をした」3日の菅首相》(asahi.com/2011年3月3日19時59分)
記事題名の「仙谷氏と会食」とはここのところ隙間風が吹いていると囁かれている仙谷氏との久しぶりの会食に関する質問から付けた題名で、別のasahi.com記事が「関係修復をアピールか」と書いているが、ここで取上げようとしている発言ではない。
衆議院愛知1区選出の民主党佐藤ゆうこ衆議院議員が3日、離党届を提出、名古屋市の河村市長代表の地域政党「減税日本」に入党する意向を固めたことに関する記者の質問に対する菅首相の答を取上げて、答えたなりの無視できない情報発信を行っていることを示したい。
――今日、民主党の佐藤夕子衆院議員が岡田幹事長に離党届を提出した。会派離脱など党内で求心力の低下と捉えられかねない事態が起こっていることについてどう思うか。
菅首相「この件は幹事長のほうで取り扱って、しっかり対応してくれていると思っています」
――このような事態が立て続けに起きていることをどう感じているか。
菅首相「やはり、幹事長のほうで、それぞれの事情を聴いたりしてやってくれているようですから。それを待ちたいと思っています」
――総理の思いとして聞かせてもらえないか。
菅首相「今、申しあげたのが私の思いです」 ――
参議院野党多数の逆転状況にあることに対して衆院で3分の2の勢力を確保しなければ満足に政治を進めることができない情勢下での3分の2確保に打撃となる16人の会派離脱に続く離党届で、後続者続出の可能性は十分に考えられるから、記者は「会派離脱など党内で求心力の低下と捉えられかねない事態が起こっていることについてどう思うか」と尋ねたのだろう。
求心力の低下は内閣や党に対する統治能力、指導力に齟齬を来たしていることから起こり、求心力の低下がまた統治能力、指導力発揮の障害となって跳ね返って負の相互反応を引き起こし、党運営、内閣運営自体に何らかの瓦解をもたらしかねない。
いわば16人の会派離脱にしても佐藤ゆうこ議員の離党届にしてもすべて菅首相自身に降りかかってくる重大問題である。当然、菅首相は自身が直接乗り出して、ダメ元で離党を思いとどまらせる役柄を自ら担うことを話すか、思いとどまらせることは不可能と見て、離党が現実問題となった場合は痛手であると話すか、いずれであっても誠意を持って対応する姿勢を示すことが菅首相の正直さ・誠実さの情報発信となって聞く者・見る者に届き、それが菅首相に対する人物評価や政治能力評価となって撥ね返ってくるはずである。
だが、記者から菅首相自身がどう把えているのか、その「思い」を直接尋ねられながら、自身にとって打撃となる事柄でありながら、岡田幹事長任せを言い募るのみとなっている。
これが具体的にどのような情報発信の形を取っているかと言うと、先ず同じ趣旨の言葉しか繰返すことができなかった機転の利かなさの情報発信となっていると言うことであり、他人任せを言う以外の言葉を見い出すことができない無能、無策の情報発信となっているということ、自身の統治能力や政権運営の拙劣さが招いてもいる党内混乱でもあるのだから、自身が乗り出さない他人任せがそのまま不誠実さを否応もなしに情報発信することになっているということであるはずである。
菅首相は無事に遣り過ごすことができたと思っているかもしれないが、実際は数回の遣り取りの中で人柄や情報把握能力、発言能力等々の自身にプラスとならない決して無視できない大量の情報を発信していたのである。
就任半年の「これまでは仮免許だった」発言にしても、社民党の阿部知子議員の質問に答えて発した、子ども手当の金額「2万6千円を聞いたときには一瞬びっくりした」発言にしても様々な意味を取った情報発信となって国民の間に波及したはずである。
またこの幹事長任せとされた岡田幹事長自身の党内掌握能力や状況判断能力が例え菅首相支持者であっても、常識的な合理的判断能力を備えていたなら、否応もなしにクエスチョンマークをつけざるを得ない状況にあるはずだ。
このことを如実に示す象徴的な出来事がツイッターやブログに多く取上げられた2月25日(2011年)の民主党神奈川県連パーティーで飛び出したマニフェストに関する発言に現れている。
私自身もツイッターに投稿した。
〈2011年02月26日(土) posted at 03:31:17
岡田幹事長にヤジ、神奈川県連パーティー騒然 http://t.co/aRGMwvS 岡田「誰が見ても出来ないことをいつまでも出来るというのは国民に不正直だ」。「誰が見ても出来ない」政策を公約として最初から国民を騙したことになり、その方が国民に不正直。自分の発言の意味に気づかない。〉
岡田幹事長はこの発言で国民に対する不誠実さと自身の言語解読能力のお粗末さを情報発信した。
そして菅首相はこのような幹事長に離党という重大な問題の処理を任せる。任命責任にも関係してくることだが、無能な首相の任命による無能な幹事長ということで、無能という点でお互い様の対を成している以上、無能が無能を呼んだ予定調和ということで厳密には任命責任云々には当たらないのかもしれない。
だが、どのような場合に於いても意図的・無意図的であるなしに関係なく、発言のすべてが何らかの能力・資質、さらには人格等を示す情報発信となっていて、それが情報発信体に対する評価となって跳ね返ってくると言うことである。
そして情報発信に関わるこのよう関係性に気づくだけの合理的判断能力を持たない。この持たないということも様々な情報発信の形を取ることになっているのは当然の結果であろう。
それが現在の菅首相に対する世論と調査に現れている国民の評価ということなのは確実に言える。
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