北京オリンピックを機会とした抗議の輪に日本人の姿が見えない

2008-04-04 11:43:01 | Weblog

 スーダン政府に支援されたアラブ系民兵がダルフール地方で非アラブ系住民に虐殺を行っている民族紛争。 そのスーダン政府への主要な経済・軍事援助国である中国の姿勢に抗議して米映画監督のスティーブン・スピルバーグが「私の良心がこの仕事を行うことを許さなかった。私の時間とエネルギーは五輪のためでなく、(スーダン)ダルフール地方で続く、筆舌に尽くしがたい人権侵害を終わらせるために、費やされるべきだ」(「読売」)と北京オリンピック開閉会式の文化芸術顧問を抗議の辞退を行った。

 そして今回のチベット及びチベット人に対する精神抑圧(=人権抑圧)に端を発した暴動に武力弾圧で応じた中国に対する抗議として今年8月に開催される北京オリンピックとオリンピック開催に向けた聖火リレーの機会を把えて何らかのアクションを起こそうとする動きが生じた。北京オリンピック出場選手や聖火リレー参加者、そしてオリンピック開会式に出席予定の各国首脳たちである。

 先ずポーランドのトゥスク首相が中国のチベットに対する姿勢に直接抗議する意志を見せて開会式に欠席する意向を示した。

 ついでチェコのクラウス大統領が理由を明らかにしないものの、開会式に欠席する意向を表明。余程のことがない限り欠席はあり得ないのだから、チベット問題に対する抗議なのは明らかである。そしてエストニアのイルベス大統領も北京五輪の開会式に出席しないことを表明。

 フランスのサルコジ大統領は開会式出席は「中国の対応次第」とする態度。中国がチベットに対する自らの武力弾圧正当化の姿勢を変える可能性がゼロに近いことを考えるなら、出席する可能性もゼロに近い確率となるに違いない。

 英国ではチャールズ皇太子が「仮に開会式に招待されても出席することはない」(「読売」)と明言している。

 アメリカでは議会がチベット問題で、民間平和団体がダルフール問題で大統領に開会式を欠席するよう要求しているという。

 聖火リレーは「調和の旅」と命名されたそうだが、聖火ランナー関係ではタイ国内の聖火ランナーに選ばれていたタイ女性(王族の関係らしい)が中国のチベットに対する武力鎮圧に抗議してリレー参加を辞退。待ち構えているのは中国がチベットやダウフール、あるいは自国内にもたらしている人権抑圧の「非調和」と同じ調和とは無縁の聖火リレーの「旅」となるのは誰の目にも明らかであろう。

 オリンピック選手ではドイツの女子棒高跳びアンナ・バトケ選手が<「チベットの出来事は悲劇としか言いようがない。五輪で不正を指摘するのはスポーツ選手の義務だ」と指摘。北京五輪の開会式で、選手仲間がチベット仏教の僧衣と中国政府官僚の服装をまとい、お互いに握手するパフォーマンスで入場行進することを考えているという。>(「毎日jp」)。
 
 そしてシドニー・アテネ五輪(04年)の競泳男子百メートル自由形で2連覇したピーター・ファンデンホーヘンバント選手(オランダ)は五輪ボイコットには賛成しないものの<IOCに中国の人権抑圧の改善を要求するよう訴えた。>(「毎日jp」)という。

 こうした状況に国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ副会長(ドイツ)は「チベットの流血事態を受け、かなりのトップ選手が北京五輪ボイコットを検討している」(「毎日jp」)と懸念を表明。

 さらに国際オリンピック委員会(IOC)調整委員会のフェルブルッゲン委員長(オランダ)が記者会見で<聖火リレーに参加する現役選手らが、人権擁護などの意思表示をすることに、IOCとして規制するつもりはないとの考えを示した>≪北京五輪:会場外なら選手らの意思表示を規制せず IOC≫毎日jp/08.4.3)という。

 但しフェルブルッゲン委員長<「五輪参加の可否を決めるのは選手と国内オリンピック委員会(NOC)だ」(上記「毎日jp」)と政治の介入を牽制している。

 我が日本の高村外相はと言うと、「(ボイコットは)ないでしょう。日本政府として北京五輪は成功裏にやってもらいたい」、「人権問題は国際社会が関心を持つのも当然。中国のためにも、なるべくオープンに透明にした方がいい」(「asahi.com」)と一般論に終始する距離を置いた当たり障りのない事勿れな姿勢に徹している。

 ダルフールの民族紛争を引き起こしているスーダン政府の政治体制を無視して関係強化を図っている中国の姿勢、チベットに対する武力支配の姿勢、ミャンマー軍事政権の人権抑圧政治に関係なく最大援助国となっている中国の友好姿勢、国内人権活動家を拘束する言論の抑圧政策等々に対して北京オリンピックを機会とした人権と自由の観点からの抗議の輪に日本のオリンピック選手の姿が一人として見当たらない。政治家などの著名な日本人の姿が見えない。

 昨4月3日のブログ記事≪映画「靖国」上映中止/稲田朋美が明らかにした功績≫に「日本人の民主主義意識、基本的人権意識が未だ発展途上にある」と書いたが、人権問題に関わって日本人の姿の見えなさから判断すると、言っていたことが必ずしも間違いないように思えてくる。

 こう言い訳するのではないだろうか。日本人は平和な国民で争いごとが嫌いだからと。そう、自分に対してだけ平和を願う国民なのだろう。一国平和主義と言われる所以である。
 * * * * * * * *
 参考までに引用。
 ≪北京五輪:会場外なら選手らの意思表示を規制せず IOC≫(毎日jp/08.4.3)

 【北京・石井朗生】北京五輪の準備状況を確認する国際オリンピック委員会(IOC)調整委員会のフェルブルッゲン委員長(オランダ)は3日、当地で会見。聖火リレーに参加する現役選手らが、人権擁護などの意思表示をすることに、IOCとして規制するつもりはないとの考えを示した。同委員長は「競技会場内では政治的な行動を取ることは許されないが、会場外ならば選手も自由に意思表示をすることができるはずだ」と答えた。

 世界21都市を巡回する聖火リレーでは、シドニー五輪男子柔道金メダリストのドイエ(フランス)が、7日のパリでのリレーで人権擁護を訴えるバッジをつける計画を表明するなど、チベット問題での中国当局の姿勢に対する抗議行動が予想されている。

 一方で、フェルブルッゲン委員長は世界各国の政治家らから、北京五輪の開会式や大会自体のボイコットを求める声が起きていることについて「五輪参加の可否を決めるのは選手と国内オリンピック委員会(NOC)だ」と強調。個別の国の政治問題で、五輪への参加が制限されることを懸念した。


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