ケイの読書日記

個人が書く書評

三津田信三 「わざと忌み家を建てて棲む」 中央公論新社

2018-10-02 16:32:49 | 三津田信三
 カバーイラストが気持ち悪いし私はホラーが苦手なので、どうしようか迷ったが、三津田信三なので借りてみた。

 放火、殺人、自殺、虐待といった事件が起こった家は、通常なら取り壊されて更地となり転売されるのだろう。でも、この小説の中では、ホラーが大好きな大金持ちが、それらの家屋を買い取り、僻地にそれらを合体させた烏合邸(寄せ集めの意味、ほら、烏合の衆とか言うでしょ)を造った。
 その大金持ちは、そうすることによって、怨念の相乗効果を期待し、さらなる怪異が起こると思ったようだ。

 そして、それぞれの家に人を住まわせ、どういう怪異が起こるのか記録させるのだ。その怪異現象の記録4編(黒い部屋・白い部屋・赤い医院・青い邸宅)をホラー作家の三津田信三と三間坂という編集者が分析しようとしている。
 もちろん実話っぽくみせたフィクション。

 4編の中で一番怖いのは『赤い医院』かな? 怖いというより、強烈な違和感をこの家屋には感じる。
 これは、他の3篇と違って文章ではなく、某女子大生の録音という形式。

 そこは、元は歯医者さんだった建物で、その家族の住居も兼ねていたらしい。普通はこういう場合、1階が歯科医院で、2階に住居がある事がほとんどだろうが、ここはすごく変わっている。
 玄関を入るとすぐ、すごく狭く急な階段がある。それを上ると待合室があり、その南側が診察室。その診察室の西側の扉を開けると、板が渡してあり、1階の屋根の上に物干し台が据えられている。えっ?! 洗濯物を抱えて診察室を通り、物干し台へ行って洗濯物を干すの? 

 どうやら、元は普通の木造民家で、そこに無理やり、歯科医院を付け足したようだ。しかし…、こんな歯医者に患者さんが来るんだろうか? 2階に歯科医院を造るなら、外階段で上がって来れるようにしなくちゃ、患者さんも家族も両方、気詰まりだろう。
 家の歪みが、住人の精神を歪めてしまいそう。
 ひょっとしたら、ここで、歯科医院業績不振のため多額の借金を背負った歯医者さんが、一家心中を図ったとか…。いろいろ考えちゃうなぁ。ああ、これはフィクションなんだ、小説なんだと怖がり屋の自分を落ち着かせる。

 音が効果的に使われていて、すごく怖い。正体不明の何かが追ってくる。慌てて物置に逃げ込む。そら、戸をはさんだすぐ向こうに、何かの気配が…。
 見えてないうちはすごく怖いが、物体として見てしまうと、急にバカバカしくなる。だから、わざわざ実体を書かなくてもいいんだよ、と作者に伝えたい。「後ろ姿は黒いけど、正面は白いアレ」 もう、コメディになっちゃう。

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