ケイの読書日記

個人が書く書評

芦辺拓 「奇譚を売る店」 光文社

2018-10-18 10:49:54 | その他
 「また買ってしまった」6話すべてが、このフレーズで始まる。まるで昔話が「今は昔」で始まるみたいに。
 では、何を買ってしまったかと言うと、これが古本。古本屋巡りが好きな、さほど売れてない作家が、純粋に古本を好きで、あるいは自分の小説のネタがないかと、このうらぶれた古本屋に吸い寄せられていく。

 『帝都脳病院入院案内』『這い寄る影』『こちらX探偵局 怪人幽鬼博士の巻』『青髯城殺人事件 映画化関係綴』『時の劇場・前後編』『奇譚を売る店』 6話ともなかなかそそられるタイトルではありませんか!
 私は『こちらX探偵局 怪人幽鬼博士の巻』が一番印象に残った。ストーリーはこうだ。小説の主人公である「私」は、いつもの古本屋で、古い少年漫画雑誌のバックナンバーをまとめ買いする。懐かしかったのだ。子供の頃、このちょっとマイナーな雑誌に連載されていた『こちらX探偵局』という漫画が面白くて夢中で読んだが、次回が気になりながらもそれきりになっていたのだ。その続きが読みたくて大枚をはたく。そして…。

 作品としての出来がいいというのではなく、私の子供の頃のマンガ雑誌の雰囲気がよく出ていたから。作者の芦辺拓のプロフィールを見ると1958年生まれ。ああ、やっぱり!私と同い年だ! (ちなみに大阪府生まれで同志社大法学部卒とある。これって有栖川有栖とドンピシャ!同じじゃない?作風はだいぶ違うけど、交流はあったんだろうか?)

 当時(昭和40年代をイメージ)の少年漫画雑誌って、今みたいに多くなくて、隅から隅まで丹念に読んだ覚えがある。
 私は「マーガレット」「りぼん」派だったけど、6歳年上の兄が読んでいた「少年マガジン」が家にあって、「巨人の星」「あしたのジョー」もリアルタイムで読んだなぁ。マンガ雑誌ってマンガだけでなく読み物も充実していた。それもちゃんとした小説じゃなくて、「ピラミッドの秘密」とか「ミイラの作り方」とか「世界の名探偵」「推理小説のトリックあれこれ」など、子どもの心をわしづかみにして離さない読み物がたくさん載っていた。
 当時は単行本というのがあまりなかったので、マンガが大大大好きという子は、雑誌の自分のお気に入りの連載漫画を裁断して、自分でひもで縛ってまとめ、繰り返し読んでいた。

 古き良き時代ですなぁ。

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