ケイの読書日記

個人が書く書評

宮崎伸治「出版翻訳家なんて なるんじゃなかった日記」三五館シンシャ 

2022-10-11 15:54:00 | その他
 三五館シンシャのこの日記シリーズ、人気があるみたいで、新聞によく広告が載っている。出版翻訳家のディープな世界をのぞいてみたいと、この本を読んだが…なかなか大変ですね。まあ、津村記久子の小説にあるように「この世にたやすい仕事はない」んだから、どこもかしこも大変だろうけど、出版不況でなおさら大変なんだろう。

 私のように英語が出来ない人間は、英語が出来たら、日常会話以上の翻訳家や通訳ができるレベルの英語が出来たら、すごく高給が約束された人生が待っていると思いがちだが、そう上手くはいかないみたい。
 以前、国際電話がKDDIの時代、仕事で数回、電話通訳を頼んだことがあった。その時、通訳してくれた女性に対し「どのくらいお給料もらってるんだろう?高いよね」と勝手に憧れていたものだが、その後TVのルポで、彼女たちの労働条件があまり良くない、かなりキツイという事を知った。
 欧米とは時差があるので、ほとんど夜中の勤務で、しかも時間給。もちろん普通のアルバイトよりは高いけど、専門性が高い人に支払うにしては少ないと思った。ほとんど女性。男性は海外留学から戻ってきたら、こういうアルバイトではなく、商社に正社員として入社するんだろうか?

 この本の著者の宮崎さんも、大学卒業後、大学事務員や英会話講師や企業の産業翻訳スタッフとして働き、お金をため、29歳でイギリスの大学院に入学し、一生錆びない英語力を身に着けようとする。苦労人なのだ。親の金で留学させてもらっている訳じゃないんだ。だから、2年間の留学時代、生活費と学費ですごくお金がかかったと思う。
 そんなにお金をかけて出版翻訳家になったのに、収入はさほど多くない。失礼ながら、一番年収が多い時が1100万円。その年だけ。あとは下がる一方。なんといっても収入が不安定なのが困る。
 もっと困るのが、出版社から依頼され翻訳したのに、出版社側の都合で出版中止になる事。出版業界では、契約書を取り交わさないのが慣例らしい。びっくり!! 中止になっても、それなりの金銭保証があればいいけど、翻訳を頼んでいないなんて言われたら、どうしようもない。裁判するしかないけど、お金と時間がかかるもんね。
 ただ、中小の出版社も経営は厳しいだろう。無い袖は振れない、かも。
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