ケイの読書日記

個人が書く書評

京極夏彦「狂骨の夢」

2010-03-20 20:41:54 | Weblog
 面白いが「魍魎の匣」ほど、きちんと収まらなかったな、という印象。

 自分の記憶の中に他人の記憶が混じって、とても混乱している女の独白から小説は始まる。その女が関口の先輩小説家・宇田川の妻で、宇田川が関口に相談を持ちかけたところから、京極堂たちがかかわることになる。

 前半部分で、熊沢天皇の記述がある。私は中学校の社会科の先生からその熊沢天皇事件の話を聞いた事があるが、「へぇ、変わった人もいるものだ」とヨタ話以上の感想を持たなかった。
 いったいなぜ、こんな所で熊沢天皇の話が出てくるんだろう、と怪訝に思ったが、最後に結びついてくるんだね。

 熊沢天皇事件というのはこうである。熊沢天皇こと熊澤寛道は敗戦の年の暮れ、「我こそは正真正銘の天皇なり」と宣言し、マッカーサーに直訴した。
 彼は自分が後南朝の血統であると主張。皆さん、日本史の室町時代を思い出して!二人の天皇が同時に皇位についていた南北朝時代ですよ。
 『現皇室は北朝の後裔、自分は南朝の後裔。北朝は正統ではなく自分こそ正統な天皇である』

 しかし今更そんな事言ったって…天皇の名の元に死んだ何百万の人たちは一体どうなる。だいたいそれって事実なの?と大騒ぎになったらしい。

 家系図を持っていたらしいが、そんなものいくらでも捏造できる。真偽の程は分からず、熊沢天皇もどこかへ行ってしまったらしい。

 しかし、たかが500年前の事。400年前の織田信長の子孫がフィギュアスケートやったりして消息がはっきりしているのに、500年前の後南朝の子孫の消息がはっきりしないというのも不思議な気がする。

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