ケイの読書日記

個人が書く書評

皆川博子 「夜のアポロン」 早川書房

2019-09-23 08:54:31 | 皆川博子
 皆川博子の単行本未収録短編集。この人は、デビューは遅いがキャリアは長い(1930年生まれ、つまり89歳?)ので雑誌に掲載されたが、単行本には収録されてない短編がどっさりあるのだ。
 だけど、編者の日下三蔵が解説に書いているように、驚異のクオリティ!! どの作品も驚くほど面白い!

 初期作品を中心に16編収められている。表題作『夜のアポロン』が一番、皆川博子の危険な香り濃厚だが、私は『死化粧』が一番好きだな。

 開国まもない明治初期の東京。立身出世を望み上京した信州高遠出身の若者・矢田真楯は、湯屋でみすぼらしいなりの父娘を見かけた。旅役者らしく真っ白に顔を塗っているので、湯屋の親父に湯が汚れるからと、追い返されている。とりなそうとする人もいるが、警官を見ると父娘はそそくさと立ち去る。

 数日後、真楯は湯屋で見た父親と牛鍋屋で偶然再会する。娘はいなかった。父親は客の入りがサッパリなので一座を解散し、昔の知り合いの嵐仙十郎一座に娘ともども入れてもらうが、ここも不景気でいい役がつかないと嘆いている。

 その芝居を見た後、湯屋に寄ったら、仙十郎の女房もいて、挨拶される。そこに以前湯屋であった娘のお千代が駆け込んできた。彼女の手ぬぐいには血が付いていて…。

 話の急展開には驚かされるが、それ以上に江戸情緒が色濃く残った明治初期の雰囲気がすごく出ていて、素晴らしい。もちろん明治初期に皆川博子が生きている訳はないのだが、彼女の祖父母やお父さんお母さんに当時の事を色々聴いていたんだろうね。風俗の描写が生き生きしている。


 あとがきに皆川博子が書いている。「大人の小説をおぼつかなく書き始めた頃、単行本の担当編集者に、自分の中を掘り下げろ、と言われました。掘り下げたら、ろくなものは出てこなかったな」これには笑った。そう、彼女は私小説タイプの人じゃない。思いっきりストーリーテラー。
 早川書房で『死の泉』を上梓してから、楽しく書くことが出来たそうです。さっそく『死の泉』を読まなくては。

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