ケイの読書日記

個人が書く書評

倉知淳 「皇帝と拳銃と」 東京創元社

2019-09-18 09:30:41 | 倉知淳
 この前読んだ『なぎなた』の中の1編『運命の銀輪』が再掲載されている。あの時、あとがきで作者は、死神のような乙姫警部をシリーズ化したいと書いていた。それが実現。この『皇帝と拳銃と』では、死神警部が探偵役の倒叙ミステリ4話が収められている。

 表題作の『皇帝と拳銃と』も秀作だが、『恋人たちの汀』のほうが、もっと出来がいいと思うな。
 殺された男は、悪徳高利貸し。だらしない性格か、机やソファー、書棚の中にはぐちゃぐちゃに物や書類がつっこまれている。でも神経質な所もあって、強迫神経症的に、消臭スプレーを部屋中にまきちらす。それだけでは足りず、自分のお口のニオイも気になって、口臭スプレーも盛大にシュッシュ。
 読んでいると、このスプレーが犯人を追いつめるカギになるという事はうすうす分かってくる。でも、具体的にどうやれば犯人の特定に結び付く? そこが読ませどころ。 いろいろ考えさせられる。
 なんせ倒叙ミステリなんだから、最初から犯人は分かっているんだ。

 死神警部が注目したのは、ソファーの前のローテーブルの上にある血しぶき跡が残っていない部分。被害者は刺殺され、大量の血液がローテーブルやその上に載っていた新聞紙、ティッシュの箱、雑誌、はがき、リモコン、のど飴の缶などに降り注ぐが、その中の一か所、血が飛び散ってないA4サイズのスペースがある。
 どうも、そこに何かを置いていたようだ。それは部屋中探しても見つからなかったので、犯人が持ち去ったらしい。犯人にとっては重要なもの。犯人を特定できるものだろう。高利貸しからの借用書? そんな当たり前のものを置いてどうする!

 この『恋人たちの汀』、なかなかの力作だと思う。一読あれ。

 この作品の中に、小劇団の内情が色々出てくる。へぇ、詳しいんだな。興味あるのかしらん?と思っていたら、倉知淳って、日大の芸術学部演劇学科卒なんだ。へーーーーっ!!もともとは脚本を書きたかったんだろうか?

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