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「オリンピック経済効果」は、あるのか?

2021-06-22 19:00:12 | ビジネス

朝日新聞のWebサイトを見ていたら「今頃になってこんなことを言われてもな~」という、印象の記事があった。
ただ、記事の内容は「確かに、そうだろう!」と言えるものだった。
朝日新聞:五輪に経済効果「目に見えない」アトキンソン氏(有料会員記事)

記事が有料会員向けの記事の為、全文を読むことはできないのだが、読める範囲であってもアトキンソン氏の言いたい事は、分かるはずだ。
これまでさんざん言われてきた「オリンピック開催による、経済効果など、大したものではない」ということだ。

おそら1964年に開催された「東京オリンピック」では、それなりの「経済効果」はあったと思う。
何故なら、「日本が初めて大量の外国人を受け入れる」という状況だったからだ。
当時の為替は「固定為替相場制」であり、1ドル=360円だった。
1ドルで360円分の買い物ができた、ということは決して日本としては大きな儲けとはならなかったはずだが、日本が戦後国際舞台で華々しい表舞台に立つことができた、ということは、それ以降の輸出政策などにおいて、力強い後押しとなる印象を与えるには十分だったのではないだろうか?
それから50数年経ち、日本は「経済大国」として、アジアだけではなく世界でも、ある程度の地位を得るまで来た。
事実1ドル=110円というのは、前回の東京オリンピックの約3倍以上に円の価値が上昇した、ということでもある。

アトキンソン氏の指摘しているのは「オリンピック」というスポーツイベントに限っての「経済効果」という点に注目しているので、これまで政府などが喧伝してきた「オリンピックによる経済効果=競技場の設備投資などを含む経済効果」とは違うモノだが、競技場の設備投資などは、元々国立競技場の老朽化という問題があったことを考えれば、取り壊し建設をしないのか?新しい国立競技場を建設するのか?のどちらかしかなく、世界的スポーツイベントを各競技団体が誘致しようとすれば、おのずと答えは出ていたはずだ。
それを「オリンピック経済効果」に含めるのか・含めないのか?という違いによって、政府が喧伝してきたような「経済効果」の意味は違ってくる、ということになる。

アトキンソン氏の言う「オリンピック経済効果」というのは、オリンピック開催期間中の経済効果という視点での話なので、その意味は大きく違うし、おそらく現実的オリンピックによる経済効果は、指摘されている通り調整の範囲内だろう。
何故なら、競技施設などによる経済効果は、前年までの経済効果だからだ。
そして今後予定されている「大阪万博」についても、同じだろう。

この記事と並んで、朝日新聞には興味深い見出しの記事があった。
朝日新聞:五輪会場の酒販売、五輪相「ステークホルダーの存在が」

まさか、こんな場面で「ステークホルダー(=利害関係者)」という言葉に、出会うとは思わなかった。
「ステークホルダー」と言った場合、株主やスポンサーなどを指す事になる。
おそらく丸川五輪相は「スポンサーとの関係があり、酒類の販売を容認せざる得ない」ということを、煙に巻く為に「ステークホルダー」と言ったのだろう。
とすれば丸川五輪相は「ステークホルダー」の意味を狭義でしかとらえていない、ということになる。

現在のビジネスの世界で「ステークホルダー」と言った場合、「企業を取り巻くすべての人・団体・企業・行政」を指す。
「ステークホルダーの存在」というのであれば、現在酒類の提供を止められている飲食店もまたその一人なのだ。
何故なら「飲食店」は、酒類を提供するメーカーにとっての重要な「ステークホルダー」だからだ。
しかもメーカー側にとって、一過性の高いオリンピックよりも長期的かつ常時の利害関係となるのは「飲食店」である。

一連のことを考えると、酒類の販売要請はスポンサーとなっているメーカー側ではなくIOCなどからの要請であろう、ということを感じ取ることができる。

現在の日本の経済規模と状況を考えた時、このような一過性の高いイベントによる「経済効果」は、政府が喧伝するほどではなく、足場を固めたビジネス戦略をたて、地味ではあるが「企業が本来果たすべき社会的役割」を全うする、事が一番大切なのだ、と改めて考える必要があると思う。