日々是マーケティング

女性マーケターから見た日々の出来事

芸能事務所・アミューズの広告

2021-06-28 12:57:17 | マーケティング

今朝、新聞を読んでいたら、丁度真ん中の紙面を両面を使ったアミューズの広告に驚いた。
アミューズ:本日(2021年6月28日)の朝日新聞・読売新聞に全面広告を掲載しました

驚いた理由は
①芸能事務所・アミューズが新聞広告を出した。
②真ん中の紙面を両面を使った広告だった。
③その広告が、本社事務所移転だった。
④コピー文に、50年前の日本を感じさせた。
という点があったからだ。

そもそも芸能事務所が、新聞に広告を出す、ということ自体これまでになかったことでは?という、気がしている。
お正月広告の様に、特別な時期には広告を出すことはあっても、本社事務所移転を知らせる広告を出した、芸能事務所はこれまでになかったのでは?という、気がしている。
それほど、異例な広告と言っても過言ではないと思う。
しかも、新聞の真ん中の両面を使っての大掛かりな広告であったコトから「随分力の入った広告だな~」という印象を持ったのだ。

これほど「力の入った広告」なのだが、朝日新聞の場合写真などは一切なく、文字だけの広告だったということも、珍しさを感じた。
いくら文字が大きいとはいえ、本ではないし記事でもない。
このような文字のみの広告というのは、読み手となる生活者は「パッと目は引くが、読むに至らない」という気がしている。
まして今のようなSNSの時代であれば、長い文字列となる文章を読む、ということ自体読み手の「読んでみたい」という気持ちを遠ざける可能性のほうが高い。
にもかかわらず、文字のみ広告を出した、ということはヴィジュアルに頼らない、あるいはヴィジュアルでは伝えきれない「何か」を訴えたかったということだろう。

その訴えたい「何か?」というのが、一番大きな字で書いてある「人間に戻ろう。」ということだろう。
この「人間に戻ろう。」というキャッチコピーを見て、私と同世代以上の方々にとっては「あれ?!どこかで見たり・聞いたりした気がする」という、印象を持ったのではないだろうか?
今らか50年くらい前、高度成長の陰りが見え始め、社会問題となりつつあった「公害」が話題になった頃、盛んに言われたことばの一つだったからだ。

戦後から20年位経ち、GDPは世界第3位くらいになるまでに成長したが、経済成長するために「公害」という問題を引き起こし、生活者自身は「経済成長」の犠牲になってきたのでは?という、社会的気運が高まっていた。
丁度その頃、盛んに使われたのが「人としてのゆとりを持とう」という趣旨のことばだったのだ。

これよりも前の1961年には、サントリーのウィスキー「トリス」が
「人間」らしくやりたいナ
トリスを飲んで「人間」らしくやりたいナ
「人間」なんだからナ

 (サントリー「ポスター展」より)
というコピー(作者は、後に作家となった開高健)の広告を出し、話題になった。
今でも、高度成長期に向かい「経済優先」の空気に飲み込まれることが無かったこのコピーは、名コピーと言われている。

それから60年経ち、再びこのようなコピーを見ると「高度成長期」から「失わをれた30年」と言われるマイナス成長の今も変わらず、「人らしさ」を犠牲にしているのだな、と感じる。
と同時に、何故エンターティメント企業であるアミューズがこのようなコピーを打ったのか?と考える必要があると思う。

単純に地方への事務所移転ではなく、これから先アミューズというエンターティメント企業が、エンターティメントの意味を問い直し、何らかの新しい事業を展開するための事務所移転であり、その表明の広告、ということのような気がしている。