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【防衛情報】米海兵隊ACV1.1納入とボクサー重装輪装甲車輸出筆頭に進む装輪装甲車高級化

2021-01-25 20:00:55 | インポート
■週報:世界の防衛,最新11論点
 陸上自衛隊の装甲車両体系を見ていますと不安となるのはもう少し予算を掛け将来展望を考えるべきだという切迫感です。

 アメリカ陸軍は今秋、現代のルイジアナ演習として、アリゾナ州にて最大規模の長距離打撃実証実験を実施しました。アメリカ陸軍は陸軍航空隊の空軍への独立と共に固定翼航空機等運用を空軍区分としており、陸軍無人航空機体系を阻害している問題がありましたが、今回ではER-MP拡張型多目的無人航空機としてリーパー無人攻撃機が参加しています。

 ER/ MPAUS自律型兵器システムやXM-1113型155 mm砲弾が主として試験され、無人機による人工知能AIを用いた超長距離目標への目標情報の索敵と投射に関する一連の実証実験を実施、実証演習は6週間に渡り900名参加、演習はジェイムスマコービック陸軍参謀総長はじめ陸軍将官が多数視察、参謀総長は過去40年間で最も重要な演習と総括しました。
■米海兵隊のAAV-7後継車両
 自衛隊がAAV-7の運用に漸く一定の目処を建てた最中にアメリカ海兵隊では次の一歩が。

 アメリカ海兵隊は10月15日、イヴェコスーパーAV海兵隊仕様ACV1.1最初の量産車輛18両を受領したとのこと。これはAAV-7両用強襲車の一部を代替する装輪水陸両用戦闘車両構想として進められていたもので2023年までに204両を取得する計画です。SUPERAVは八輪式装輪装甲車で海上を6ノットで19km、陸上を105km/hで320km機動可能です。

 イヴェコスーパーAVはイタリアが開発した装輪装甲車で元々は外洋での航行を想定したものではありませんが、13名が搭乗可能であり大口径機関砲を含む砲塔を搭載可能である事から選定、試作車は2015年に納入され2016年より本格的な試験が実施、これらの試験を経て正式に納入される事となりました。ただ、全てのAAV-7を代替する訳ではありません。

 AAV-7両用強襲車と比較し、イヴェコスーパーAV海兵隊仕様ACV1.1の収容人員は如何にも少ないが、一方で開発中止となったEFV海兵遠征車輛などは収容人員が同程度となっており、これがイヴェコスーパーAV海兵隊仕様ACV1.1の車体規模に影響したとも考えられるが、一方で24名を主要可能な両用装輪装甲車の要求が非現実的であったのかもしれない。
■フランスVBCIに40mm砲
 自衛隊の次期装輪装甲車も大口径機関砲の搭載を真剣に考えねば単なる防弾車に留まってしまうかもしれません。

 フランスのNEXTER社は同社がフランス軍に納入するVBCI装輪装甲戦闘車についてコッカリル社製3030砲塔の搭載型を発表しました、VBCIはフランス軍のAMX-10P装甲戦闘車や機械化歩兵部隊に配備されるVAB軽装甲車の後継として開発されたもので、戦闘重量は最大28t、25mm機関砲を搭載していますが、現在では威力不足が指摘されていました。

 3030砲塔はモジュラーコンセプトに基づき設計された自動砲塔で、機関砲部分をより強力な40mmCTA機関砲や50mm自動砲に切替える事が可能であり、近年に重装甲化が進む装甲戦闘車に対しても有効な打撃を発揮可能です。3030砲塔型VBCIは車体部分の一部を再設計し、全備重量が32tに達しています。今回の車両は実証車で量産の予定はありません。
■豪州軍ボクサー211両導入
 ボクサー重装輪装甲車、自衛隊も一応は関心を寄せていたようではありますが96式装輪装甲車の後継にこんなのがあれば、理想的でしょうね。

 ドイツラインメタル社は10月11日にドイツ国内において製造されるオーストラリア軍向けボクサー重装輪装甲車の社内試験映像を公開しました。オーストラリア軍ではボクサーCRVとして本車を装甲偵察車として運用する予定です。オーストラリア軍は211両のボクサーを導入しますが、ドイツ製造されるのは25両、装甲輸送型13両と砲塔型12両のみ。

 ラインメタル社では現在、OCCAR統合装備協力計画としてオーストラリアクイーンズランド州に合弁会社工場を1億7000万豪州ドルにて建設中であり、186両のボクサーはオーストラリア国内にて製造されるといい、ボクサー重装輪装甲車導入を検討する諸国へ技術移転や採用国国内産業振興に寄与するとして、その有用性と共益性を映像にて広報しました。

 ボクサー重装輪装甲車はモジュールを置き換える事で多種多様な用途に対応する新世代の装甲車として開発、この為に車体に余裕を持たせたことが設計開始当時の1990年代には考えられない程の製造費用の高騰を生んでいますが、結果的に余裕を持たせたことが30mm機関砲塔などの将来発展性に繋がり、装輪装甲戦闘車として各国への輸出が進んでいます。
■リトアニアのボクサー装甲車
 リトアニア軍もボクサーを導入している所を見ますと陸上自衛隊もやはり300両程度揃えなければ陸上防衛が画餅に帰してしまいそうで。

 リトアニア陸軍ではドイツから導入したボクサー/ビルカス装輪装甲戦闘車による訓練が9月には初の大隊規模の練成訓練が実施、順調に推進しているとのこと。リトアニア軍ではロシアからの脅威の増大に併せ2015年にドイツよりボクサー重装輪装甲車の取得を決定、取得数は91両、イスラエル製30mm機関砲塔を搭載し装輪装甲戦闘車として整備される。

 ビルカスとはリトアニア語でオオカミを意味し、2017年に一号車が納入、2021年までに91両全てが納入されるとのことだ。ロシアの飛び地カリーニングラードからの軍事脅威にさらされるリトアニア軍であるが国力の限界から主力戦車を有しておらず、ビルカス装甲戦闘車に搭載のイスラエル製スパイクLR対戦車ミサイルは貴重な対戦車打撃力となる。
■JLTV,ハンヴィー後継装甲車両
 JLTV,ハンヴィー後継車両は自衛隊も高機動車の野戦機動車輛としての陳腐化が進む中で興味を持ってみていましたが、お値段は高いですね。

 ベルギー軍は旧式化したイヴェコLMV軽装甲車の後継としてオシュコシJLTV統合戦術車輛322両を取得するとのこと。オシュコシJLTV統合戦術車輛はアメリカ軍が軽歩兵主体の歩兵旅団戦闘団へ配備する装甲ハンヴィーの後継車両であり、MRAP耐爆車輛と同等の防御力を有すると共にハンヴィーの機動力を兼ね備える新世代歩兵用装甲機動車輛です。

 オシュコシJLTV統合戦術車輛322両の取得費用は1億4200万ユーロ、アメリカ軍に採用されるM1279 JLTV-UTL多用途戦術車輛とM1280 JLTV-GP多用途車両重機関銃搭載型およびM1281JLTV-CCWC多用途戦術貨物輸送車等がベルギー軍にも採用される。何れも四輪駆動で車高は若干高いが防御力と共に、転覆限界など不整地踏破能力は比較的高い。
■アーチャー自走砲をアピール
 アーチャー自走榴弾砲は巨大ですが19式装輪自走榴弾砲があんなのだと分かってしまいますと自衛隊もFH-70後継にこちらの方がいいのでは、と思う。

 BAEシステムズ社はアメリカ陸軍が選定する将来自走榴弾砲計画にスウェーデン製アーチャー自走榴弾砲を提案している。アーチャー自走榴弾砲はアメリカ陸軍のシュートオフ計画に基づく射撃実験へ陸軍ユマ試験場にて7月から既に評価試験が行われている。過去、ストライカー装甲車にM-777榴弾砲を搭載する研究を行ったが芳しい結果が出ていない。

 アーチャー自走榴弾砲はボルボ製装甲トラックに全自動砲塔を搭載したもので、行進中でも射撃命令から30秒で初段を発射でき、砲塔には21発を搭載し180秒以内に21発を射撃可能、52口径の長砲身を有しており通常榴弾の射程は40kmに達し、またエクスカリバー誘導砲弾を用いた場合は射程50km以上に達する。そして乗員3名で運用可能である。

 アメリカ陸軍では野戦砲兵と防空砲兵の位置づけが伝統的に戦車や歩兵戦闘車よりも後回しとされた経緯があり、牽引式榴弾砲は漸くM-198から画期的な軽量火砲であるM-777に置換えられたが、自走火砲はいまだにM-109系統を改良し続けている、改良により命中精度は向上したが39口径火砲であり、各国の52口径火砲と比較し、射程は低いままである。
■エストニア軍K-9自走砲採用
 自衛隊も数に上限があるのでなく予算枠内ならば揃えられるだけ数を揃えられるならば99式自走榴弾砲のような高性能に走る必要はなかったのかもしれない。

 エストニア軍は10月8日、韓国製K-9自走榴弾砲の受領を開始しました。エストニア軍は近年、ロシアからの軍事圧力増大に曝されており、これに対応するべく2018年、12両のK-9自走榴弾砲調達で韓国政府と合意しました。K-9自走榴弾砲は52口径155mm榴弾砲であり、アメリカ製M-109自走砲よりも新しく、ドイツ製PzH-2000よりも安価です。

 K-9自走砲はエストニア軍仕様として通信装備等はNATO標準規格となっており、当面は整備訓練や運用基礎訓練を行い、2021年より部隊配備となります。欧州ではフィンランド軍が採用していますがNATO加盟国では初の配備となります。比較的高性能である割に安価なK-9自走砲は順調に採用国が増えており、エストニアも6両の追加を検討中とのこと。
■コングスベルク,二万のRWS
 RWS,日本の場合は陸上自衛隊よりも海上自衛隊の方が採用が早かったのが不思議ですが。

 ノルウェーのコングスベルク社は2020年10月、20000基目の遠隔操作銃搭RWSを出荷したとのこと。コングスベルク社製遠隔操作銃搭RWSは1999年から製造を開始、暗視装置を有し従来の装甲兵員輸送車に搭載するだけで車内からのタブレット型照準装置により照準可能でスタイラスペンを用い見越し角の計算を省き正確な射撃が可能となっている。

 コングスベルク社製遠隔操作銃搭RWSの優れた点は、当初こそ12.7mm重機関銃を遠隔操作するものであったが、需要の拡大と共に各種機関砲の無人操作銃搭へ発展し、現在では30mm機関砲塔も開発、これにより例えばアメリカのストライカー装甲車等は単なる装輪装甲車から30mm砲搭載により装甲戦闘車へ対抗できる火力を備えた車両となっている。
■ガーナ軍シンガポール装甲車納入
 テレックス2装甲車、やはり取得費用が高いのを見ますと日本の場合はもう少し国内防衛産業を大事にしてほしい。

 ガーナ陸軍はテレックス2装甲車をセンチネル装甲戦闘車として19両を8610万ドルで取得するとのこと。センチネル装甲戦闘車はイスラエルのエルビットシステム社が開発したものでUT-30型30mm遠隔操作砲塔をシンガポール製テレックス2装甲車に搭載、データリンクシステム等と共に装甲戦闘車としたもので、国境地域での対テロ任務に用います。

 テレックス装甲車はシンガポールのSTキネティクス社が開発したもので砲塔を含まない戦闘重量は25t、今回供給されるテレックス2は八輪式装輪装甲車、増加装甲により14.5mm機銃弾への防御力を有し12名の人員を乗車させるもので、エルビット社製砲塔搭載型はオーストラリア次期装甲車選定へも提案、トルコのオトカ社はライセンス生産もしている。
■トルコ軍,エーゲ海の緊張激化
 ロケットサン社製TRG-230誘導ミサイルシステム、射程を見ますと自衛隊のMLRS水準の射程ですね。

 トルコ軍は新型のロケットサン社製TRG-230誘導ミサイルシステムを今夏にエーゲ海へ配備した、10月に入り発表しました。これは射程70kmのレーザー誘導式多連装ロケットシステムで口径は230mm、レーザー誘導は観測ヘリコプターや歩兵携行型のレーザー照準装置は勿論、バイラクタルTB2無人航空機からも実施可能で移動目標に対しても有効です。

 TRG-230誘導ミサイルの重量は50kg、命中精度は最大射程70kmの場合で半数命中界10mとされており、加害半径を考えればソフトスキン車に対して極めて強力な打撃力を有するといえましょう。エーゲ海では現在、トルコによる海底資源調査を背景としたトルコとギリシャ、NATO加盟国同士の緊張があり、TRG-230配備は緊張を高める可能性もあります。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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2 コメント

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Unknown (市民のミカタ)
2021-01-26 06:44:54
シビリアンコントロールを無視する自衛隊は
全面的に廃止するべき
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Unknown (Unknown)
2021-01-27 12:48:41
そんなものはない、あるのは正当な自衛隊だけ
返信する

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