◆4兆8194億円を要求
防衛省は30日、来年度予算概算要求を公表しました。これはPDF文書として広く閲覧することが可能です。
来年度予算概算要求は、4兆8194億円、これは今年度予算4兆6804億円よりも3%の増額となっていますが、我が国GDPと比較しますと、1%未満の水準となっており、社会保障費の伸びと共に停滞する経済に起因した税収不足から成る財政難が防衛へ大きな影を落としていることが端的に見て取れます。
防衛予算の概算要求について、毎年議論となる常備自衛官定数ですが、陸上自衛隊で26名、海上自衛隊で13名、航空自衛隊で36名の増員が認められ、非常に僅かではあるものの、言い換えれば昨年度に続き人員縮小の流れには辛うじて歯止めが付いたこととなり、自衛隊と内局等を併せ、人員は24万7362名と現状定員より全体で190名が増員されることとなるようです。
重要な施策などは多々ありますが、全体として防衛省では、中国の我が国周辺海空域における活動の急速な拡大、北朝鮮ミサイル発射などの我が国周辺での脅威拡大に対応するべく、防衛力のあり方を再検討している過渡期の予算、という方針の下実施されており、警戒監視能力の強化と将来戦闘への対応が重要視される枠組み。
警戒監視能力の強化として、艦載型小型無人機と海上自衛隊艦艇との適合性に関する調査研究、高高度滞空型無人機の導入に向けた検討、そして155億円を投じ与那国島への沿岸監視部隊の配置に関する敷地造成や庁舎建築工事の開始と設置する監視機材の取得が要求されました。
警戒監視能力強化では、25DD、所謂新5000t型護衛艦1隻の建造が733億円で、P-1哨戒機4機の取得や、そうりゅう型潜水艦1隻の建造が要求されています。特に新護衛艦は、あきづき型護衛艦と比較し対潜探知能力を強化すると共に平時の運用経費を低減するべく燃費の面で向上させたものが建造されますが、1隻ではどうにもなりません。
艦艇不足は延命工事により既存護衛艦を更に長期間運用する方針で進められ、はつゆき型護衛艦、あさぎり型護衛艦、あぶくま型護衛艦、はたかぜ型ミサイル護衛艦、おやしお型潜水艦、とわだ型補給艦、エアクッション揚陸艇、以上について艦齢延伸の予算が要求されました。
なお、予算不足による代替装備の調達への影響は、CH-47輸送ヘリコプターやP-3C哨戒機にSH-60J哨戒ヘリコプターの延命改修として実施されます。将来的には対戦車ヘリコプターや観測ヘリコプター、更には多用途ヘリコプターの延命改修などもその必要性が真剣に検討されるようになるのかもしれません。
他方で、新規取得も進められ、C-2輸送機が3機、P-1哨戒機が4機、調達されます。多用途ヘリコプターUH-60JAも継続して1機が要求されていますが、初号機と同型の旧型仕様を同じ治具で製造しているため、却って高価格となっており、この点はもう少し柔軟に検討されるべきでしょう。
島嶼部に対する攻撃への対応、これが続き、具体的には1990年代より検討が進められてきた水陸両用部隊の整備が具体化し、水陸両用準備隊の創設や教育基盤、現行輸送艦の能力向上に関する設計着手、水陸両用装甲車の昨年に続く参考品調達、米海兵隊との実動訓練の実施、回転翼機の取得と可動翼機導入に向けた検討は盛り込まれています。
航空優勢の確保、上記島嶼部防衛を達成する手段としてこちらも重視され、三沢基地へ次期戦闘機F-35の導入に向けた教育訓練施設の整備を開始、更にF-15戦闘機12機の近代化改修や自己防衛能力向上と夜間暗視装置搭載改修、F-2支援戦闘機12機の搭載レーダー換装と精密誘導爆弾運用能力付与改修や新型ターゲティングポッドの搭載試作が行われるとのこと。
加えて南西諸島の防衛強化へ、精密誘導爆弾レーザー誘導装置や新規調達となる60mm迫撃砲、12式地対艦誘導弾や中距離多目的誘導弾の取得が行われ、続いて南西諸島有事に備えた初動担任部隊創設に関わる健闘と基本構想の研究が予算として盛り込まれています。
なお、従来型脅威への対応も継続されており、10式戦車13両が131億円で、99式自走榴弾砲6門が58億円で、軽装甲機動車64両が21億円で、96式装輪装甲車21両が26億円で、それぞれ要求されています。実のところ、基本的な装備こそ柔軟性が高いのですから、戦車と火砲に装甲車はもう少し充実させるべきとは思うのですが、戦車調達は、毎年一個中隊で推移、装甲車も均衡は考えられている水準ではあるでしょう。
他方、87式偵察警戒車の調達は新年度も1両が3億円で要求されました。93式近距離地対空誘導弾も3セットが25億円で、調達再開となります。しかし、新規のNBC偵察車も1両が7億円で要求されており、装輪装甲車は数種類が同時に生産されている状況、新年度も継続されるというところ。
南西諸島防衛と共に我が国の需要な脅威対処能力として整備されるのは、弾道ミサイル防衛に関わるものです。実のところ、防衛予算が財政難によりその伸び率が停滞したころに北朝鮮弾道ミサイル事案が発生し、弾道ミサイル防衛が新規に必要、そこに情報RMAに代表される情報連携と協同交戦能力付与の必要性が生じ、情報基盤へ大きく予算措置を必要としたことが、禁煙の防衛力整備に関する最大の影響を与えたところなのですが。
弾道ミサイル防衛に関して具体的には、あたご型護衛艦へのミサイル防衛任務対処能力付与の継続実施とPAC-3迎撃ミサイルの取得、更にBMD能力向上型迎撃ミサイルSM-3blockⅡAの日米共同開発継続が行われ、護衛艦一隻分に匹敵する598億円が来年度も要求され、更に原子力施設への弾道ミサイル迎撃部隊展開の検討も開始されるようです。
このほか、近年の新しい脅威としてサイバー攻撃への防衛力強化が図られ、240億円の予算を以て防護分析システム整備や運用基盤の充実、ネットワーク内サイバー攻撃対処技術研究、諸外国との連携や民間企業との連携強化が予算として要求、自衛隊として電子空間での自衛隊への攻撃への対処準備が大車輪で進められます。
加えて、来年度予算ではこのネットワークの充実が、先に掲載した情報RMAと共同交戦能力の強化という方針の踏襲で煤得られ、例えば陸上自衛隊の地対艦誘導弾を海上自衛隊の情報伝送により投射する能力は付与、このほか、陸海空自衛隊の共通データ通信基盤が構築されるようになり、ようやく今日までの通信基盤投資が日の目を見る事となるでしょう。
新装備開発では、47億円を投じ、96式装輪装甲車の後継となる装輪装甲車改、の開発が開始されます。これは不整地突破能力と防護力向上を主眼として開発、国際平和協力活動や島嶼部防衛などの各種有事への対応が主眼とされる新装備となるようです。
このほか、開発が進められる装備としては原子力災害等の脅威状況下において、無人偵察車両や無人物資輸送車両に無人施設作業車両などの多用途性のあるロボットの開発研究が行われ、海中での長期間の情報収取に当たる無人潜水ロボットUUVの開発が行われ、前述の艦載用無人機の運用研究と共に防衛省は無人装備の開発にも注力してゆくことを示しました。
技術開発では、ステルス機などを探知するためのレーダー及び射撃安政システムの研究が盛り込まれます。これは、いわゆるアンチステルスレーダーですが、ステルス機であってもF-35やF-22でも週刊誌や電話帳を垂直に立てた程度のレーダー反射があるため、継続して移動する目標のノイズからの抽出や雑電波位相の不規則な連続変化を情報処理することで探知は可能です。
加えて、潜水艦救難母艦の代替に、508億円を以て災害派遣にも対応可能な多目的救難艦を建造します、これは5600t型として建造され、手術室や病室などを従来の潜水艦救難母艦よりも充実させ、本来任務などとともに有事の際には被災者の収容や病院船としての機能を付与させる観点にて建造されるようです。
防衛省、“我が国の防衛と予算”平成26年度予算概算要求を公表、として紹介しましたが、これは今後、防衛産業に関する北大路機関特集記事に続く新しい特集記事として掲載を開始する予定です、予算の閣議決定まで、重要施策として注目する部分をみてゆくこととしましょう。
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