北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

日本海危機,北朝鮮新型弾道弾ムスダン発射と開発進む新型弾道ミサイル潜水艦が及ぼす脅威

2016-05-31 22:41:17 | 防衛・安全保障
■日本海狙う新型弾道弾と潜水艦
 北朝鮮がムスダン弾道ミサイルの実験を繰り返していますが、このまま放置すれば日本海沿岸部への重大な脅威へ至るかもしれません、何故ならばそのミサイルの特性と運用がこれまでのミサイルとは異なるものである為です。

 日本海の対岸で何が起こっているのか。北朝鮮が先月に続き、今朝、ムスダン弾道ミサイル実験を実施ししました。ムスダン弾道ミサイルは先月にも三度に渡り実施されていまして、三度とも失敗しましたが、今朝の実験も失敗した模様です。0520時頃、日本海沿岸の元山付近から日本海に向け発射しましたが、直後に海上へ落下した、と韓国軍が発表しました。ムスダンは旧ソ連製潜水艦発射弾道弾を原型として北朝鮮が開発した移動発射式弾道ミサイルで射程は4000kmから6000km程度、西太平洋地域の米軍施設や中国と日本の全域を射程に収める新型ミサイルです。

 新型ミサイル、ムスダンは繰り返し失敗していますが、単純に失敗を嘲笑する事は断じてできません、その逆です。これは、潜水艦発射弾道弾という特殊性が影響しているもので、既に完成した、日本全土を射程とするノドンミサイル、アメリカの一部を射程とするテポドン、アメリカ西海岸から東海岸を狙うテポドン2、が既に完成しており、これらは地上から発射を念頭とする設計となっています。ミサイル基地は人工衛星により常続的に監視され有事の際には日米により即座に攻撃される可能性がある為、ノドンはトンネル式地下格納庫を基点とする移動発射装置により運用しています。しかし、陸上に配備する限り移動式発射装置であっても、例えば同様の運用方式を採った湾岸戦争におけるイラク軍のスカッドミサイルの様に、長期的に居k残る事は出来ません。

 潜水艦発射弾道弾として開発が進められるムスダンですが、潜水艦イ搭載すれば海中に隠れる事が出来る。北朝鮮は併せてソ連崩壊後、解体用スクラップとして10隻以上、一説には13隻を取得した通常動力推進型弾道ミサイル潜水艦ゴルフ級を参考として国産の新型弾道ミサイル潜水艦を建造中であることが衛星写真などの解析から判明しており、この弾道ミサイル潜水艦用に潜水艦発射弾道弾の開発が必須となることから、今回のムスダン実験失敗を受けても、成功するまで、その実験は継続される事でしょう。

 このムスダンですが、日本海沿岸の我が国防衛へも間接的な影響を及ぼす可能性があります。それは、ムスダンを搭載する弾道ミサイル潜水艦が日本海に配備される可能性が、アメリカ軍の西太平洋地域における基地を攻撃する観点から非常に高く、この潜水艦を防衛するために機雷原を日本海の北朝鮮沿岸に沿って構築し、アメリカの攻撃型原潜等からの攻撃を回避する安全圏を構成することが考えられる為です。北朝鮮は対潜航空機を一機も保有せず、フリゲイトも旧式で新型を今建造中という沿岸海軍ですが、機雷を活用する事は可能です。また、北朝鮮海軍に大きな装備と戦術面で影響を与えたソ連海軍も機雷戦を重視してきました。

 膨大な機雷が潜水艦の安全海域を構築するために使用される危険、機雷は浮流機雷となり、日本海における我が国シーレーンへ漂流する可能性は捨てきれません。この為、掃海任務の必要性が高くなることが予想できますが、それ以上に、北朝鮮が日本海へ太平洋方面の海上自衛隊部隊やアメリカ海軍部隊の北朝鮮潜水艦掃討への展開を阻止べく、日本海と外洋を繋ぐ海峡を機雷攻撃する可能性が生じる、という事です。潜水艦や自動車運搬船などを改造した特設機雷敷設船、自動車運搬船改造機雷敷設船は過去にリビアがスエズ運河への機雷敷設テロを実施した際に採用しましたが、こうした投射手段を用いて、対馬海峡や津軽海峡等に隠密裏に機雷を敷設する可能性が高く、朝鮮半島有事の際に日本が巻き込まれる危険が高まるということです。

 機雷と北朝鮮ですが、朝鮮戦争において多用したほか、その機雷は実際に浮流機雷となり日本沿岸へ漂着した歴史があります。そして更に北朝鮮海軍の海上での同行は活性化の兆候があります。事実、韓国海軍は27日、北朝鮮海軍艦艇の領海侵犯に対し退去を促す警告射撃を実施しましたが、これに対し北朝鮮は“無慈悲な報復”を予告しました。事態が発生したのは黄海上で、朝鮮戦争期韓国支持の離島が北朝鮮軍の攻撃を軍民一致の抗戦により撃退に成功し、38度線よりも北方の島々も韓国側へ残る事が出来ました、が、このため北朝鮮本土から隣接した海域の島嶼部であることから繰り返し軍事挑発を受け、韓国軍は精鋭海兵旅団や陸軍砲兵部隊などを離島へ配備し着上陸に備えています。

 今回事案が発生した海域には、過去に哨戒艇同士の戦闘が何度も発生しています、1999年の黄海海戦では複数の哨戒艇と警備艇が数百mの距離で機関砲と小銃の銃撃戦を展開し韓国海軍が北朝鮮警備艇を撃沈しています、2002年には76mm戦車砲を搭載した北朝鮮コルベットが韓国哨戒艇を突如襲撃し撃沈する戦闘が発生、2009年にも戦闘が展開されました、北朝鮮は挑発に対し当該地域以外の場所での報復を示唆しており、これを口実にソウル北方の軍事境界線付近での挑発行動激化なども懸念されるでしょう。

 ムスダン開発は、北朝鮮のミサイル開発が陸上を主体とした運用体系に加えて、海中へのミサイルを退避させる手段を模索している事に他なりません。そしてその能力を最大限発揮するには、我が国の重要海域を封鎖する必要が出てきますし、その能力は北朝鮮でも限定的ではありますが保持しています。我が国では海上自衛隊が舞鶴基地に舞鶴地方隊を置き、更に第3護衛隊群主力が舞鶴を母港としています、日本海は我が国の広大な海岸線に湛える重要な海洋であり、安全保障上の重要海域でもあります、今後、ムスダン開発は北朝鮮が次のミサイル戦略に着手した重要な危機であり、直接のミサイル脅威と機雷や海軍増強という脅威の増大へ、どのように向かい合うのか、冷静に注視しなければなりません。

北大路機関:はるな くらま
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熊本地震災害派遣総括【前篇】:災害派遣完了,蒲島熊本知事「県民代表し隊員一人一人に感謝」

2016-05-30 21:31:00 | 防災・災害派遣
■自衛隊災害派遣任務完了
 熊本地震の自衛隊災害派遣任務が完了しました、蒲島熊本知事は「自衛隊の存在の大きさをあらためて認識した。県民を代表して、隊員一人一人に感謝申し上げたい」と謝意を示しています。

 震度七の激震が前震であり、続いて震度七の激震が本震、祖語の烈震を始め有感地震が1500回以上余震として続く、災厄でした。平成28年4月14日2126時、熊本県熊本地方を震源とするマグニチュード6.5の地震が発生し、その瞬間は土煙に包まれる熊本城のNHK中継映像と共に全国へ報じられ、熊本市と隣接する益城町を中心に大きな被害が発生しました、これを受け2240時熊本県蒲島郁夫知事より、陸上自衛隊北熊本駐屯地の第8師団長に対し人命救助に関する災害派遣の要請が出され、即時受理され自衛隊による災害派遣が開始されました。

 平成28年4月16日0125時、マグニチュード7.3の地震が発生、震源は熊本県熊本地方ですがこの地震が14日に発生した熊本地震の本震であり、その震源地が一挙に熊本県阿蘇地方と大分県へ震度六の烈震を繰り返し発生させる日本地質観測史上空前の群発地震の非違金となり、0236時、大分県の広瀬勝貞知事より陸上自衛隊湯布院駐屯地の西部方面特科隊長へ人命救助に関する災害派遣の要請が出されています。

 防衛省は西部方面総監を指揮官とする統合任務部隊(JTF)を編成5月9日までJTFを以て陸海空自衛隊を運用しました。自衛隊は最大期2万6000名、航空機132機、艦艇最大15 隻を派遣し、加えて自衛隊創設以来二回目、東日本大震災以来となる即応予備自招集命令を4月17日に発令しました。大分県知事からの撤収要請は4月28日1024時に出されていますが、本日、熊本県知事からも出され、熊本地震自衛隊災害派遣が完了します。

 本日まで自衛隊は入浴支援を2か所において実施しているほか、休養施設として活用中の防衛省チャーター船はくおう運用支援を実施しています。派遣規模は人員13000名で延べ76万2200名が派遣され、航空機20機と延べ2526機が派遣、艦船の派遣は終了しましたが延べ300隻されました。派遣部隊は西部方面隊、佐世保地方隊、西部航空方面隊を中心に、全国の方面隊や自衛艦隊と地方隊、航空方面隊や直轄部隊から展開しています。

 熊本地震は群発地震でした、震度4以上の地震の発生だけでも、4月14日12 回、15日12 回、16日45 回、17日11回、18日5回、19日4回、20日1回、21日2回、22日1回、23日0回、24日0回、25日1回、26日0回、27日0回、28日3回、29日1回、30日0回5月1日0 回、2日0回、3日0回、4日3回、5日3回、6日0回、7日0回、8日0回、9日0回、10日0回、11日0回、12日1回、13日1回、と発生しています。

 この地震による被害は大きく、熊本県で死者49名、重傷者は熊本県を中心に佐賀県と大分県に福岡県や宮崎県に及び345名、軽傷者は1318名に上り、更に震災関連死としまして震災後の避難生活での負傷の悪化や疾病の重篤化による死者が20名、とされ、最終的な震災関連死の総数は自治体の審査会により確認される事となりますが、更に受傷者で分類できない負傷者が58名、消防庁が確認しました。

 巨大地震は防災の初動を担う自治体の市役所や町役場の庁舎をも破壊し、庁舎全壊により機能不随に陥りました。庁舎全壊は八代市、人吉市、宇土市、大津町、益城町、に及びそれぞれ市役所支所や庁舎別館、市民体育館や文化施設及び公民館へ庁舎機能を臨時移転させました、しかしこれにより通信設備や住民支援関連資料などが使用不能となりましたが、この中で自治体は政府及び自衛隊と協力団体と共に災害へ対応しました。

 建物の被害は、住宅被害としまして、全壊8309棟、半壊18724棟、一部破損79736棟、となり、被害は熊本県、大分県、福岡県、宮崎県、佐賀県、山口県、長崎県、と発生しています。更に公共施設被害が熊本県で245棟発生し、住宅以外の建物被害も気馬元県、大分県、佐賀県、福岡県で発生しました。地震に伴う火災は16件が熊本県で発生しており、こちらに関しては、同規模の地震である1995年の阪神大震災と比較すれば、軽微な被害に収まったといえるでしょう。

北大路機関:はるな くらま
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アメリカのリスク 大統領選にみる変容と国際公序再構築【3】 次善の在日米軍東南アジア転地提言

2016-05-29 21:32:17 | 国際・政治
■同盟の相益
 トランプ氏が掲げるアメリカファースト米国最優先主義について、これが孤立政策に進むではないかとの批判があります。

 つまり、アメリカファースト米国最優先主義は、世界がアメリカファースト米国最優先主義に共感する地域が限られている為、アメリカが一国でアメリカファースト米国最優先主義を享受できる地域まで勢力圏を縮小する、という意味合いとも受け取れます。トランプ氏が政策として提言した日韓の核保有容認は着手した時点で核不拡散秩序が根本から崩壊し、結果的に核拡散を招くばかりか、破綻国家への核兵器流入とそれらを用いた、アメリカ国内を含めた核兵器によるテロの危険、文字通りトムクランシーの小説「恐怖の総和」のような世界危機に繋がる危険があります。

 イスラム教徒の入国禁止とメキシコとの壁建設は小松左京氏の「アメリカの壁」程ではなくとも世界からの孤立を非としない姿勢に他なりません。もちろん、在日米軍と在韓米軍の撤退と引き換えに例えばフィリピンやヴェトナムへの兵力移駐、移駐ならば日本側にも妥協の余地はあるでしょう、米軍の本土への撤収が前提である以上、日韓への防衛協力を解消しフィリピンヴェトナムへの転換、可能性はこれまでの発言を見る限りありませんが、在日米軍の多くを在比米軍に切り替えフィリピンのスービックへ、というようなかたちで、と。

 もちろん、これは日本駐留にこれ以上の待遇をアメリカが求めるという状況において日本側が、米軍の娯楽費用や家族用施設建設費まで負担している現状以上の負担を国民に納得させられない場合を示しますが、更に空母ロナルドレーガンと水上戦闘艦の大半を移転し厚木の空母航空団も岩国ではなくクラークフィールドに移駐する、第31海兵遠征群と隷下航空部隊はヴェトナムのダナンに移駐させる、横田基地と横浜補給施設及び相模原総合補給処を自衛隊へ全面移管し、全て嘉手納基地に移駐させ第五空軍司令部機能のみ自衛隊の府中基地か入間基地に移転する。

 日本に残るのは広弾薬庫など後方支援施設と嘉手納基地及び佐世保基地を中心とした施設で、返還された部分に戦力均衡を図る為に自衛隊を増設し、本土防衛を充分担える体制を構築してほしい、こうアメリカが要請するならば、日本としても、在日米軍大規模削減を念頭とした防衛計画の大綱改訂、手続きを経て防衛力の増強再編という方式が可能でしょう。

 他方で単純な負担増を日本に求める事は日本の会計制度から生じる弊害がアメリカの弊害に確実につながります、在日米軍駐留経費一部負担金は、防衛費から形状されているため、防衛費の総額という視点から事実上上限がある中で米軍駐留経費を増額すれば、自衛隊のさらなる縮小に繋がります、すると、米軍は平時の警戒監視活動に対し自衛隊との統合運用を実施する態勢には、例えば対領空侵犯措置任務や海上警備行動での正面へ参加しないという意味において、寄与していませんので自衛隊以上に平時に役に立たない米軍不要論が生じます。

 更に防衛費における米軍負担金の増大による自衛隊の様々な装備計画への影響は自衛隊を弱体化させ、米軍との能力格差が拡大しかねません。すると、共同作戦を展開する事も能力的に不能となりますので、米軍の負担は単純に増大するばかりか、防衛費から捻出される米軍駐留経費の関係上、日本防衛費の予算全体への水準だけは増大します。この予算と任務と装備の不均衡は、日米同盟を根本から形骸化させ、同様の動きは韓国などでも条件が同じ以上生じ、西太平洋からの米軍排除の流れが同盟国からも加速するとの危惧です。

 実は、この部分が問題でして日米安全保障条約は双務的なものとなっているのです、実際のところ、前述の自由から日本本土を陸上戦力により占領する事は、日本が専守防衛を意識し陸上防衛力を基点に海空防衛力を整備している範囲内においては本土を防衛しうるものです。しかし、日本の戦力投射能力は、平和憲法の制約と共に防衛力の質や量合わせ、アジア地域全域を防護するには不十分であると共に、太平洋戦争の敗戦と共にその選択肢を防衛体系から排除しました。

 その上で、米軍は政権が安定し、且つ安全な日本本土へ防衛力を展開させることで、平和憲法の観点から限界である遠大なシーレーン防衛を、アメリカの戦力投射能力に期待した、という構図がある訳です。他方、アメリカもアジア地域の安定により得ている経済的な恩恵は非常に大きいことが実情です。

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航空防衛作戦部隊論(第三七回):航空防衛力、航空戦に勝ち抜くための航空基地の理想像と現実

2016-05-28 21:21:51 | 防衛・安全保障
■防空作戦と拠点基地機能
 航空戦に勝ち抜くための航空基地の理想像と現実について、少し触れる事としましょう。

 拠点航空基地、その理想図について考えてみます。お断りしておくのは一例であると共に我が国の地形には必ずしも合致するものではなく国土の七割が峻険な山岳地帯にあり僅かな平野部は一億二千万の人口密集地と農業地帯に島国を支える工業地帯にあり、その平野部の多くは扇状地や河岸段丘となっています。その上で、理想形を提示しますと、滑走路に並行し副滑走路をそれぞれ離隔し配置すると共に滑走路と副滑走路は共に補助滑走路として充分な舗装厚を有する補助滑走路を置く。

 その上で離隔した主滑走路と副滑走路間の誘導路は各所に臨時掩体を有する、また、滑走路と副滑走路とはさらに離隔し胴体着陸路を配置し航空機は胴体着陸した際にも摩擦などでの火災を逃れる緑地帯として配置する、その上で航空機については強化型格納庫を充分滑走路群から離隔し配置し、各航空掩体はこれらも十分に離隔し一撃での損耗を局限化する。

 これら掩体群は飛行中隊ごとに配置すると共に滑走路延長上や航空経路には陣地を構築し高射機関砲及び基地防空用装備を配置し特殊作戦部隊の浸透に備える、というもの。かなり理想的なものを列挙しましたが、イスラエル空軍の戦闘機部隊はこのような基地に配置されており、これによりイスラエル空軍は奇襲を許した第四次中東戦争に際し、航空戦力を温存し得た、とのこと。

 基地の機能は、空軍戦力が戦闘機数や支援要員の数的規模から産出されるものが多く、実のところ空軍基地の規模や機能というものは防衛力を考える場合に正確に計算する事は出来ません、一方で正確に計算できる、若しくはできてしまうのが地価というもので、飛行場を広範囲に拡大する場合、確実に民有地を圧迫するほか、その取得費長が防衛費に大きくのしかかる事となるでしょう。

 生存性は充分な離隔により成り立つもの、というべきでしょうか。航空基地の脆弱性を払拭するには延々と各施設を離隔し、配置しておくことが重要となります。しかし、我が国では、例えば全国の基地を嘉手納基地と同程度に拡張するだけでも、その用地取得費用だけで、アメリカ海軍の航空母艦を取得できる程度の費用を要してしまうでしょう。

 例えば、我が国では住宅街に航空基地が浮かぶような立地は珍しくありません、空港そのものも伊丹空港や名古屋空港等を見ればわかる通り民間航空機の発着は、空港敷地から100m圏内に住宅街が並びます。戦前や戦時中から存在する基地や空港であっても、戦後の住宅不足から住宅街が拡大し、気付けば基地がそのまま住宅街に囲まれていた、という事例は、例えば厚木航空基地や岐阜基地等、挙げられるでしょう。

 一方で、飛行場施設が離隔できない実情と同等に基地近くへ隣接する住宅街などへは有事の際、重大な付随被害が生じる可能性が出てきます。近年、国際法は大都市への無差別攻撃を禁じるジュネーヴ文民保護条約が強行規範となり、国際慣習法としても大きな規範性を示す事となっていますが、飛行場等防衛上の施設が集中する地域での市街地が隣接する場合、防守都市という理解が交戦相手に対し成立する可能性が高くなります。

 その上で精密誘導兵器が普及した昨今ではありますが、巡航ミサイルや弾道ミサイルを戦力投射手段として用いる諸国が我が国周辺には非常に多く、この為、拠点航空基地の脆弱性の払しょくという視点は、周辺地域への付随被害をどのように回避するのか、という視点も今後十分考慮しなければなりません。軍事的には、という視点だけではなく主権国家は自国民からの信頼による支持を背景に成り立っている為です。

北大路機関:はるな くらま
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平成二十八年度五月期 陸海空自衛隊主要行事実施詳報(2016.05.28/29)

2016-05-27 23:52:44 | 北大路機関 広報
■自衛隊関連行事
 海軍記念日の本日、劇場版ガールズ&パンツァーBD発売となりました本日、夏日が散見される暑い五月末、皆様いかがお過ごしでしょうか。

 今週末の自衛隊関連行事は戦車部隊や施設部隊の記念行事が目白押しとなっています、北恵庭駐屯地創設63周年記念行事、一つは千歳空港から程近いこの行事で、第72戦車連隊、そして真駒内から移駐しました第11戦車大隊が駐屯しています、全国でも有数の戦車部隊駐屯地の一般公開となります。90式戦車と73式装甲車、96式装輪装甲車が多数配備されており、しかも本州の行事程混雑しません。

 鹿追駐屯地創設59周年記念行事、第5戦車大隊の創設記念行事です。一時第5戦車隊へ拡大改編されていましたが、90式戦車により充足しており現在は隊本部編成を改め戦車大隊編成となっています。帯広駅からもかなり距離がありますが、一応バスが運行されていました、鹿追駐屯地は先日の北部方面後方支援隊による実弾空包取り違えによる誤射事故がありましたが、一応部隊HPによれば実施されるとのこと。

 東部方面混成団創設5周年武山駐屯地祭、横須賀の武山駐屯地には東部方面隊管内の教育訓練部隊だった第1教育団をもとに即応予備自衛官部隊、そして第1機甲教育隊を隷下に置く方面混成団へ改編を受け、今年で五周年となりました、方面混成団は有事の際に即応予備自衛官を招集し第一線部隊を構成します、神奈川県内の行事ですが90式戦車や10式戦車が参加する行事です。

 施設部隊行事、第1施設団創設55周年古河駐屯地祭と第4施設団創設55周年大久保駐屯地祭、が予定されています、が、第4施設団創設55周年大久保駐屯地祭については熊本地震災害派遣への部隊派遣を実施した結果、行事は中止となりました。第6施設群、第7施設群、第304施設隊、第305施設隊、第102施設器材隊、第307ダンプ車両中隊、となっていますが、隷下部隊は大久保以外にも富山や和歌山に豊川に岐阜と出雲や豊川と三軒屋に駐屯していますので、そちらでの一般公開を期待しましょう。

 第1施設団、団隷下には第4施設群、第5施設群、第101施設器材隊、第301ダンプ車両中隊、第306施設隊、第307施設隊、と部隊を東部方面隊管内に配置し方面施設部隊として建設工兵任務に当たると共に、戦闘工兵としての任務にもあたります。ダンプ中隊の観閲行進は迫力がありますし、地雷敷設から障害構築に障害処理まで一通りの任務を展開可能である、多種多様な施設装備を観る事が出来る行事です。

 えびの駐屯地祭、第24普通科連隊の駐屯地です。第24普通科連隊はもともと第7師団の隷下部隊でしたが、第7師団の機甲師団への改編を受け第8師団へ管理替えとなった部隊で、宮崎県の郷土部隊として定着しました、が、第8師団HPにこの実施の可否について情報が出ていません、第8師団は熊本地震災害派遣への派遣部隊となっていますので、足を運ばれる方はご注意ください。

 美保基地航空祭2016、第3輸送航空隊の展開する航空自衛隊の基地です、熊本地震によりその開催が危ぶまれましたが幸い実施されるとの方向です。ブルーインパルスが参加、C2輸送機が配備間近の部隊です、飛行群には第403飛行隊がC-1輸送機とYS-11輸送機を運用していまして、また、第41教育飛行隊にはT-400練習機が配備されています。あの混雑する入間基地航空祭と同じC-1の編隊飛行を観る事が出来ますしJR西日本米子空港駅から徒歩で足を運ぶことができる航空祭です。

 下甑島分屯基地開庁61周年記念行事、第9警戒隊のレーダーサイトで鹿児島県の離島にあります。ガメラレーダーとして知られるJ/FPS-5の初号機を配備した分屯基地として知られますが、難点はやはり離島であるという点で薩摩川内市から足を運ぶには遠い場所です。ただ、最新の情報を確認しましたところ行事は中止との事で、来年度の行事に期待しましょう。

■駐屯地祭・基地祭・航空祭
・5月29日:鹿追駐屯地創設59周年記念行事…http://www.mod.go.jp/gsdf/nae/5d/01_unit/butai/04_shikaoi.html
・5月29日:北恵庭駐屯地創設63周年記念行事…http://www.mod.go.jp/gsdf/nae/7d/index.html
・5月29日:第1施設団創設55周年古河駐屯地祭…http://www.mod.go.jp/gsdf/eae/ea/camp/ea_1eb_0.html
・5月29日:東部方面混成団創設5周年武山駐屯地祭…http://www.mod.go.jp/gsdf/eae/ea/camp/ea_1cb_0.html
・5月29日:第4施設団創設55周年大久保駐屯地祭【中止】…http://www.mod.go.jp/gsdf/mae/4eb/4ebhp/index.html
・5月29日:美保基地航空祭2016…http://www.mod.go.jp/asdf/miho/
・5月29日:えびの駐屯地創設35周年記念行事…http://www.mod.go.jp/gsdf/wae/8d/
・5月29日:下甑島分屯基地開庁61周年記念行事【中止】…http://www.mod.go.jp/asdf/wadf/

■注意:本情報は私的に情報収集したものであり、北大路機関が実施を保証するものではなく、同時に全行事を網羅したものではない、更に実施や雨天中止情報などについては付記した各基地・駐屯地広報の方に自己責任において確認願いたい。情報には正確を期するが、以上に掲載された情報は天候、及び災害等各種情勢変化により変更される可能性がある。北大路機関
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G7伊勢志摩サミットと世界政治:海洋安全保障問題と中国南シナ海進出、G7枠組の規範形成能力

2016-05-26 21:18:24 | 北大路機関特別企画
■国際公序と規範形成
 G7伊勢志摩サミットが本日開幕しました。最大の課題は世界経済の持続的発展の維持ですが、併せてその基盤となる安全保障への関心もG7に求められる世界からの視点といえるでしょう。

 先進七ヶ国首脳会議、中東アフリカ地域の情勢変化とこれに伴う欧州難民危機の発生について前回提示しましたが、東アジア情勢についても先進諸国が一致して取り組むべき大きな問題です。南シナ海海域において中国は1970年代から2000年代にかけ沿岸国が有した離島や環礁及び珊瑚礁などを次々と武力奪取し、水上戦闘艦同士の銃撃戦なども発生してきました。

 これが西沙諸島問題と南沙諸島問題として東南アジア地域における最大の安全保障上の課題となっている訳ですが、2010年代に入り中国政府は不法占拠した離島や珊瑚礁へ土砂埋立による人工島造成を開始、その後人工島を正式に領域の起点であるとい一方的に宣言した上で領海と排他的経済水域の起点として主張、周辺国との対立は激化しています。

 ロシアがクリミア併合やウクライナ軍事介入を強行した同時期に中国も行動を活性化、現在では海軍陸戦部隊や空軍戦闘機部隊、地対艦ミサイル部隊及び地対空ミサイル部隊を展開させ周辺海域の封鎖を準備し始める事となりました、アジア地域の人口は実に30億、この中において海洋交通の自由確保はこの人口がおおく、世界で最も活力が溢れる地域の経済活動を大きく担保するものであることはいうまでもありません。ただ、G7参加国からは、アメリカは世界規模の視点を米本土の安全な視点から俯瞰できますが、我が国は南シナ海を、イタリアは地中海を、ドイツは難民全体を、フランスはテロを、と視点が異なるのはある種当然でしょう。

 もちろん、国際公序と規範という視点からは海洋安全保障は一つの価値観を共有し得るものであるため、海域封鎖を含む海洋の占有という国際公序への挑戦へは大きな対応を求められることとなるでしょう。しかし、非常に大きな課題としまして、東アジア問題への欧州諸国の温度差がどうしても問題への対応を一致させることが出来ません。元々先進国首脳会議としてサミットが初めて開催されたのは1975年、石油危機を契機としての世界の激変に対する先進国の一致した行動をとる事が目的として始まりました。

 サミット第一回は、こうしてフランスのジスカールデスタン大統領が呼びかけたもので、当時の出席は六か国、アメリカのフォード大統領、イギリスのウィルソン首相、我が国の三木総理、イタリアのモロ首相、西ドイツのシュミット首相が出席しました。サミットが開かれた最大の事由は上掲の通り、石油危機に伴う世界経済の安定化を期したものでしたが、その合意は意外と世界の規範形成に与える影響が大きいといえるでしょう。

 即ち、サミットは西側諸国の首脳が一堂に会する会議であることから、このサミットに併せての宣言は慣習国際法や国際合意という、ソフトローとしての機能を得るものともいえ、自由主義世界の団結を明確に示す機構であるとも言えました。そして東西冷戦下という時代において自由主義世界は一つの大きな団結を求められる背景があった訳なのですが。現代の世界を俯瞰しますとその状況は大きく変容しています、東西冷戦が過去のものとなった為、この二つの自由主義世界と社会主義世界の対立を軸とした巨大な軍事力の対峙という構造が解消されたことは歓迎すべきところですが、併せて安全保障問題が多極化し、一枚岩としての対応を採る事が難しくなりました。

 アメリカ合衆国、イギリス、フランス、ドイツ、日本、イタリア、カナダ、というG7の枠組、1996年からロシアが加わりまして現在ウクライナ軍事介入を契機として参加資格を停止させられていますが、世界政治にはこのG7の枠組以上に新興国等地域代表を含めたG20として枠組みが存在します、中華人民共和国、インド、ブラジル、メキシコ、南アフリカ、オーストラリア、韓国、インドネシア、サウジアラビア、トルコ、アルゼンチン、という世界の主要国が参加する先進国新興国主要二〇ヶ国会議G20,という新しい枠組みであれば様々な問題へ対応する事が出来るようにも考えられたのです。

 先進国新興国主要二〇ヶ国会議G20という広い参加国を迎えた場合では問題領域が多様化すると共に自称途上国という参加国や内政問題などで価値観を必ずしも共有し得ない諸国があり、問題の解決には必ずしも寄与するものではなく、世界政治の多様性と相互理解の重要性を確認しつつ、宣言を採択するのみとなっています。従って、防衛協力、とまではいかずともその対応できる領域は広いといえるのかもしれない。

 国際公序の根幹を担い且つ合意形成を行える程度に価値観を共有するG7枠組の重要度は依然高いままではあるのですが、上記の通り、地域緊張の多極化、特にG7参加国が直接直面していない地域での緊張に対し、どのようにその間接的影響が世界政治への直接課題へ転換する以前に対応できるか、この命題も深く討議されるべきでしょう。

 しかし、G7の枠組が有する影響は強大で、例えば安全保障上の近年のG7/G8枠組における最大の問題と云えたウクライナ危機では、G8からのロシア参加権限停止と一致した経済制裁の行動は非常に大きな影響を与える事となりました、各論では相違点が多い諸国ですが総論では一致する価値観の共同体であり、G7参加国の領域からはなれた南シナ海問題へ、アプローチの在り方を模索するだけでも、一つの規範を形成する事も出来るでしょう。

北大路機関:はるな くらま
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G7伊勢志摩サミットと世界政治:欧州難民危機とその背景のISIL活動変容とアフガン情勢新展開

2016-05-25 22:33:35 | 北大路機関特別企画
■G7伊勢志摩サミット
 G7伊勢志摩サミットが明日より開幕します、世界の課題と将来へ責任ある先進七か国が解決策と協力方法を討議する場です。そこで、本日から国際社会への世界政治が突き付けられた課題について、考えてみましょう。

 G7,我が国の安倍総理大臣、アメリカのオバマ大統領、イギリスのキャメロン首相、フランスのオランド大統領、ドイツのメルケル首相、イタリアのレンツィ首相、カナダのトルドー首相、一堂に会しての会議となります。世界的な景気後退、中央アジア中東北アフリカ地域の騒擾、ウクライナ危機、欧州難民危機、南シナ海中国軍進出、北朝鮮核開発問題、パナマ文書租税回避地問題、山積する問題ですが、地域ごとの対応に留まらず先進国が一致した対応を採らなければ解決は容易ではありません。

 欧州難民危機、昨年より続くこの大きな人道危機が、欧州での欧州連合加盟国の団結へ大きな影響を及ぼしており、イギリス離脱討議やトルコ加盟問題と複雑化させています。この問題について、地中海での密航阻止に関する欧州諸国有志連合の試みは失敗した、とイギリス議会が報告書に明示しました。もともと、この難民流入は当初、シリア難民など内戦からの難民へ冠せられた欧州難民危機ですが、いつの間にか北アフリカ地域からの騒擾、続いて経済難民が、その後は単なる上昇志向者の移民が難民というかたちで流入しました。

元来欧州連合加盟諸国は域内自由の反面、欧州の壁と云われるほどの厳しい国境管理と両立させていたわけですが、ドイツ等一部の国が難民を歓迎すると誤解させる行動を政策として採用しました。難民と移民の不明確な分水嶺等の問題は放置されたままです。この結果、多くの難民が密航ブローカーの手引きにより、地中海をゴムボートで横断させられるという状況に陥り、この結果として、大量の犠牲者を出す事となってしまいました。

 この問題が表面化した時点で、難民を移民として歓迎する行動はその増加を助長するのではないか、と危惧を示してきましたが、この課題が現実のものとなっているかたちです、勿論、難民に罪は無い訳であり、経済移民に対しても元々労働者として少子化解消へ歓迎する姿勢は歓迎されるべきでしたが、結果として、危険な行動に自ら飛び込む形での難民増加へ誤解させる政策を採った事は間違いなく、少々、思慮を欠いた施策が大量の地中海遭難者を出した、といえるのかもしれません。

 アフガニスタンでの情勢悪化、欧州難民危機への背景にはこの問題が大きく影を落としている事は間違いありません。こうした中、タリバンの指導者マンスール師がアメリカ軍の無人機攻撃により殺害されました、マンスール師はアフガニスタンではなく隣国パキスタン領内において殺害されており、また、タリバンは昨年の指導者死亡に伴う交代から一年を経ずしてアメリカ軍により制圧された形となりました、マンスール師はここ数か月の無差別テロを中心としたタリバン攻勢を指揮していたことからアメリカは強硬手段に出た、としています。

 タリバンは山間部が雪に閉ざされる冬季には攻勢に出ない為、今回、早い時期での攻撃を行った事となります、他方、タリバンはもともとアフガニスタンでのイスラム原理主義組織、つまりコーラン普及以前の原始的状態への回帰運動を掲げていますが、マンスール師が今回パキスタンに潜伏していたことから分かるように、その活動範囲は広域化しているところが読み取れるでしょう。

 ISIL,活動地域が広域化し、更にテロ攻撃が主体となっている事が中東アフリカ地域全般の不安定化要素となり、更に様々な紛争地の問題を複雑化させ、欧州難民危機へ、更に欧州全域へのテロの拡散へ影響している事は世界への重大な問題と云わざるを得ないでしょう。この中で動きがありました、イエメン国内にて自爆攻撃を実施し41名が死亡したとの事です、イエメン内戦が停戦状況にありますが、イエメン内戦のさなかに深く浸透したものと考えられます、イエメンの拠点アデン市内の軍募集センターが自爆攻撃の標的となり、二度の自爆攻撃により犠牲者が増大したとの事でした、この地域はハディ暫定大統領派の制圧地域ですが、第三の勢力介入に内戦の停戦が不安定化するとの懸念が払しょくできません。

 ISIL,シリアでも自爆攻撃を敢行しました、シリア地中海沿岸部のアサド大統領派勢力地域においてほぼ同時に自爆テロが敢行され120名以上が死亡、ISILが犯行声明を出しました、ISILが軍事攻撃を断念し自爆攻撃へ移行しているとのアメリカ政府の分析がつい先日だされたばかりですが、今回の規模はその中でも非常に大きいものでした、標的となったのはシーア派の集会で、バス停留所付近と病院なども襲撃されていると現地メディアが報じています。

 イラクシリアでのISILですが、こちらについては沈静の道筋が見えつつあります、そして、ISILが過激派組織から国際テロ組織へ転換しつつある重要な転換点を迎えているのかもしれません。シリア軍はISILの首都として占領を続けている北部のラッカを隊群で包囲しつつあります。また、イラク軍はISILが制圧するファルージャに対し奪還札線を発動したとの事です、ファルージャはバクダッド西方にあり、ISILの勢力拡大の象徴となっていましたが、イラク軍により包囲され今回本格的な奪還作戦が発動しました。

 ファルージャは2004年のアメリカ軍によるイラク治安作戦においてスンニトライアングルの要衝としてアメリカ海兵隊が第5海兵連隊を中心に4個大隊と戦車12両を投入し展開された大規模な戦闘は”ファルージャの6日間”と呼ばれています、今回奪還に当たるのはイラク軍で米軍を中心とする有志連合が航空支援を展開します、市内にはまだ市民5万名が残っており人道上の懸念もあるようです。

 この沈静化への見通しと共に戦闘へ巻き込まれる非戦闘員の懸念は大きな憂慮すべき命題ですが、他方で、この問題へのアメリカの不関与の度合いが、結果としてロシアの中東進出を大きく促進した背景があり、欧州の大きな問題として昨年位置付けられた、ロシアのウクライナ介入に続く、ロシアの勢力圏拡大が新しい緊張関係を醸成しつつある状況を如何に安定化させるか、こちらも大きな課題といえるでしょう。G7伊勢志摩サミットは明日開幕、先進国の意志として一致した対応策を画定し臨むことが求められます。

北大路機関:はるな くらま
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北海道然別演習場で空包と実弾取り違え事故、北部方面後方支援隊第310輸送中隊2名負傷

2016-05-24 22:34:22 | 防衛・安全保障
■誤って実弾,友軍相撃
陸上自衛隊にて空包と実弾を取り違える事故が発生し、実弾を装填したまま双方が相手に向け銃撃、2名の隊員が負傷しました。

この事故は23日、北部方面後方支援隊が第5旅団管内の北海道鹿追町然別演習場での演習中に発生したもので、第310輸送中隊の隊員が輸送車列の防護訓練中、空包にて実施する訓練に実弾を装填してしまい発生しました。今回事故が発生した際に使われたのは89式小銃、5.56mm弾を用いる小銃です。この事故により数十発が発砲され、現在自衛隊では事故原因を調査中です。

第310輸送中隊に所属する隊員のうち23日然別演習場にて31名の隊員が、輸送車両が襲撃された際に防護する防御戦闘を想定し二手にわかれて戦闘訓練を実施、襲撃側と車列側に分かれ空包により攻撃訓練と防護訓練を行う予定でしたが、ここで実弾を双方が装填しており、射撃により負傷者がでたかたち。この車列への襲撃と防護訓練はかなり前から実施されている輸送科部隊の訓練ですが、実弾と空包の取り違えは自衛隊では初めての事故です。

5.56mm弾は世界の標準的小銃弾で、500m圏内での致命的な威力を有し飛距離はそれ以上に上ります、NATO-SS-109規格により設計されている銃弾で先端部に空隙があり身体命中時に殺傷力を高める構造となっています、今回死者が出なかったのは僥倖の一言に尽きますが、一部報道では負傷者は小銃弾が命中したのではなく、空包使用時の自動装填に用いるガス圧を確保するために銃口に取り付ける空包アダプターが破裂し、その破片により負傷したとの報道もあります。

実弾と空包の取り違えですが、これは兵士にとり恥ずべきことです。しかし、海外を見ますと稀に発生してしまうもので、例えば2008年にはフランス軍が広報行事として一般公開中、ヘリコプターからの戦闘訓練展示にてFA-MAS小銃を空包ではなく実弾を装填したまま射撃するという重大事故が発生、見学の市民と兵士など17名が重軽傷を負う大事故が発生した事もありました。この事故は第11落下傘旅団第3海兵歩兵落下傘連隊という精鋭部隊にて発生した事故で射手は経験を積んだ下士官、当時は非常に驚かされました。

最近でもアメリカ軍がカリフォルニア州フォートアーウィン演習場にて、誤ってAH-64D戦闘ヘリコプターへ小銃弾を命中させる事故がありました、今月13日、第17歩兵連隊第1大隊の兵士が訓練での仮設敵として参加した際、M-4A1カービンを射撃、空包ではなく実弾が装てんされており、AH-64D戦闘ヘリコプターへ4発が命中してしまう、という事故がありました。この際、死傷者は幸い出ませんでしたが、操縦席付近へ命中し風防が破損したとのことで、起こってはならない事故ですが取り違えは注意を怠れば発生してしまう事を端的に示しているでしょう。

しかし、空包と実弾では形状が著しく異なります。空包と実弾の外見上の違いは弾薬に弾丸部分があるか否か、小銃に装填する際、空包であるか実弾であるかは一目で分かるものですので、小銃を用いるならば一見して分かるものです。弾薬の配布は充分安全確認を行ったうえで実施されます、射撃場以外でも実弾を携行するという事は武器運用への習熟を図るうえで必要な事なのでしょうが、空包か実弾か、しっかりと確認する事の習熟はそれ以前の問題として重要です。

北大路機関:はるな くらま
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F-22戦闘機再生産計画!【後篇】 ラプター航空自衛隊次期戦闘機採用や海外供与の可能性

2016-05-23 22:19:34 | 先端軍事テクノロジー
■自衛隊F-X,X-2/F-3 vs F-22
 F-22戦闘機再生産計画特集の最終回、今回の報道では第三国への供与をかなり意識した報道となっています、そうした場合、やはり気になるのは航空自衛隊がF-22戦闘機を配備する可能性でしょう。

 我が国防衛装備庁は現在X-2技術実証機を飛行させ将来戦闘機への技術開発を大きく進めていますが、これがF-22により状況が変更される可能性があるのか、という視点は大きな関心事となるでしょう。こういうのも、元々国産戦闘機は現在のF-2支援戦闘機開発の際に独自戦闘機計画として進められた計画が、F-16戦闘機の改良型とするようアメリカからの大きな圧力があったことで、日米共同開発となった過去の歴史と無関係ではありません。

 他方で、F-22のステルス性はアメリカ議会が定める第三国供与定義を満たさない高度国防技術が応用されている為、輸出型はステルス性の低減などの措置を行うか、従来では許可されなかった水準の装備品供与を行うこととなり、基本的に第三国への供給を念頭としてステルス性を計算したF-35Aとは異なる航空機です、このため、輸出型を構想する場合、更に改良型、とする必要もあるでしょう。

 航空自衛隊は旧式化が進むF-4EJ戦闘機の後継機としてF-35を選定しましたが取得計画は40機、同じく1981年から導入を開始したF-15J戦闘機も老朽化が進んでおり、アメリカでのF-22生産再開が本格化し、取得費用が現実的な範囲内に収まった場合、F-15J後継機としてF-22の採用が検討される可能性があります、ただ、航空自衛隊ではF-2支援戦闘機の後継機として、X-2実証機による技術開発成果を応用し、将来戦闘機を開発する方針で進むというものが現在の砲身です。

 航空自衛隊のF-2後継機にF-22、という可能性は、少なくともF-2の担う対艦攻撃能力をF-22は想定していない為、ありません。F-2は対艦攻撃に重点を置いた戦闘機で、XASM-3の運用能力が後継機の基本要求となりますが、F-22を見ますと、ステルス性の観点からミサイルは基本的に機内へ格納する方式を採用しており、XASM-3は新たに胴体を延長するか外装ステルスポッド等を開発しない限り搭載出来ません。

 F-3に対抗しF-22が提示された場合の、特に対艦攻撃能力という意味で優位性はありません、ただ、アメリカはF-22を原型としてF-15E戦闘爆撃機の後継にFB-22を過去に構想しており、もし仮にFB-22が具体化する場合、F-2後継機選定に国産機かFB-22かが討議される可能性も出てくるでしょう。他方、アメリカ空軍の場合ですが、アメリカ国内では既にF-35に続く次世代戦闘機F-22やF-35の第五世代戦闘機を越える第六世代戦闘機開発が開始と報じられました。

 国防総省、特に空軍当局としてはF-22の生産再開に伴う調達予算がそのままF-35生産費用と第六世代戦闘機開発への悪影響を及ぼす事は難色を示すことが確実と見られ、この場合、国防費の更なる増額を期するのか、もしくは第六世代戦闘機開発計画を遅延させF-22を取得するという選択肢、どちらかを突き付けられることとなります。

 1機当たり4億1200万ドルというF-22の費用のため生産は当初計画の四分の一まで縮小、その分の費用をF-35の強化に充てる、という構想でした、これを受けF-35は当初取得費用構想の四倍まで価格が高騰するまで高性能化しましたが、なかなか初期不具合の連鎖から抜け出せません、ただ、費用が高すぎ、F-22は1機2億ドル時代に豪州空軍とイスラエル空軍が十数機程度の取得を打診しましたが実現しませんでした。

 航空自衛隊が次期戦闘機選定を本格化させた時にはすでに生産終了が決定しています 。F-22について、空軍では後発となる統合打撃戦闘機、F-35を優先に新技術開発を行った結果、F-35と比較し現行のF-22は将来発展性に限界があるとの指摘があり、生産再開を行う場合は統合光学照準器や複合索敵装置及びヘルメット型表示装置等新規技術を盛り込む必要があるとされ、もちろん簡単ではありません。

 しかし、仮に実現した場合、F-22B,もしくは既存機F-22をF-22A,その上で改良型にF-22Bを当て新規製造分にはF-22C、という位置づけとなる可能性があります。最新鋭戦闘機であるため、その導入を求める国は多少は考えられます、が、飛行隊規模で維持するには相当の財政負担が必要となります。唯一の楽観要素は、今回の増産計画が具体化した場合、状況は大きく変わる運用基盤の強化というものでしょう。

 アメリカ空軍が運用するF-22は約400機と倍増するため、予備部品調達や近代化計画等の費用がその分安く、予備部品備蓄なども増大し稼働率を向上させることができるでしょう。F-22はF-35と比較し空対空戦闘へ特化した航空機であることから多用途性を求めるアメリカ空軍からは評価が異なるようですが、即座に戦力化出来る最強の制空戦闘機としてF-22が挙げられるのは間違いないため、そのポテンシャルの評価をどう見るか、と。

 国際情勢の変化はアメリカ政府としてF-22の能力が持つ選択肢の増大を必要としています。ただ、F-22はアメリカにとっても調達に非常に奥の予算を必要とする航空機です、家電量販店の様に型落ちであっても割り引かれるものではなく、特に生産に必要な治具は残っていても生産ラインがF-35戦闘機用へ転用されているものも少なくなく、F-22を調達するならば、他の何らかの将来装備調達を縮小しなければなりません。

 アメリカ空軍は、F-35戦闘機の計画や、C-130輸送機後継機に将来練習機計画と将来早期警戒管制機計画など多くの計画、後継機を必要とする航空機が控えており、例えば代えてF-35の開発費用等が削られるならば、F-35開発計画の更なる遅延やキャンセルの増大により全体の装備計画が停滞する事にもなりかねません、こうした視点から、今回の提案がどの方向へ展開するのか、注視してゆきたいですね。

北大路機関:はるな くらま
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将来小型護衛艦の量的優位重視視点【4】駆潜艇みずどり・護衛艦いしかり、その性能と発展

2016-05-22 22:12:51 | 先端軍事テクノロジー
■地方隊沿岸防備部隊
 駆潜艇から沿岸警備艦へ、この背景には駆潜艇みずとり型の諸性能を見ますと限界が見て取れます。

 みずとり型、現在のミサイル艇よりも大型ですが、満載排水量490t、全長60.5m、乗員80名、1900hpディーゼルエンジンを搭載し最高速力は20ノットを発揮し、ヘッジホッグ対潜迫撃砲に68式3連装短魚雷発射管と54式爆雷投下軌条からの爆雷で沿岸部の潜水艦を追いつめてゆくものでした。対水上戦闘に備えボフォース40mm機関砲を搭載、12.7mm重機関銃などを追加装備する事も出来たようです。

 地方隊の任務は沿岸防備と地誌研究に基づく作戦研究という任務があり、小型艦艇には小型艦艇として能力を発揮できるものがありました、もちろん、現代の潜水艦に対抗できるかは後述する通り、各国海軍における駆潜艇という区分が事実上消滅している事が全てを物語りますが、駆潜艇隊、外洋作戦へは参加できない事から確実に沿岸部に張り付けられる部隊でもあったわけです。

 ヘッジホッグ対潜迫撃砲は24連対潜擲弾発射機で射程は250mと短いものでしたが沿岸部では高い対潜掃討能力を発揮します。しかし、駆潜艇という区分が最終的に海上自衛隊から姿を消す事となったのは潜水艦捜索に用いるソナーの大型化で、駆潜艇の船体に搭載できる規模のソナーでは潜水艦を充分に探知する事が難しくなった為でした。

 実際、駆潜艇みずとり型に搭載されたソナーはSQS-11Aで、全周を索敵可能な高性能小型ソナーで信頼性も高かったのですが、索敵範囲が条件次第ではありますが1500m程度しかなく、これは例えば舞鶴基地の北吸桟橋から対岸の舞鶴教育隊付近と同程度の距離、横須賀基地の地方総監部から米海軍の空母桟橋程度の距離しか探知できない事を意味します。

 護衛艦いしかり、のSQS-36D-Jは探知距離が10kmですので海峡中央部に位置すれば一隻で海峡を突破しようとする潜水艦を監視できます、ボフォース対潜ロケット発射機は230kgの対潜ロケット弾を2.2km先まで投射できるため、駆潜艇みずとり型と比較し文字通り桁違いの能力を発揮できるわけです。元々は沿岸警備艦PCEとして護衛艦の枠外にて大量建造する構想がありました。

 しかし、実際にに検証してみますと、一定以下の船体規模では波浪に翻弄され必要な時期に対潜哨戒を実施する事が難しくなるとの実情から設計を大型化させることとなります。具体的には日本海の冬季や太平洋鹿島沖の波浪などは世界でも最も条件が悪い海象で知られ、例えば日本海を警備管区に含める韓国海軍などは冬季かなりの期間、ウルサン級フリゲイトなど重武装で知られる主力の水上戦闘艦が波浪に耐えられないとの事で洋上哨戒任務に対応できないほどです。

 この為必要な船体規模を確保しようとした場合、どうしても基準排水量で1000tを大きく超えるものとなる為、護衛艦として建造された、護衛艦いしかり建造の背景にはこうした事情がありました。ゆうばり型護衛艦として、海上自衛隊では護衛艦いしかり、が小型過ぎたとして基準排水量を180t、つまり14%大型化させた基準排水量1470tで基本的に船体と装備が同型となっている護衛艦へ建造を移行していますが、2010年まで大湊企図を中心に沿岸防備任務に当たっています。

 聞けば、確かに使いにくい、小型過ぎる、波浪による乗員負担が大きい、対空戦闘等では能力が限定、という声も聴きますし、載せてやりたいくらい酷い、という声も聞かないではありません。ただ、純粋に今後の海上自衛隊の護衛艦隊任務を考えた場合、非常に大型護衛艦を軸とした編成では任務遂行に限度がありますので、使いにくく限界はある、それでも護衛艦だ、という水上戦闘艦の必要性はやはり強い、と考えます。

北大路機関:はるな くらま
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