◆島嶼部防衛・統合輸送・陸海空作戦を演練
明日11月1日より九州沖縄を中心とした自衛隊統合演習が開始されます。
今年度の自衛隊統合演習は昨年度と同じく島嶼部防衛に主眼が置かれ、我が国離島に対する軍事的圧力が増大したとの想定の下で自衛隊が長距離を機動展開し、防衛体制を固めると共に、着上陸事案の発生を受け統合運用の下、その周辺空海域での優勢を確保すると共に陸上部隊を展開させ、奪還する、というもの。
演習参加部隊は報道などによれば3万4000名規模とされ、第2師団より戦車部隊が九州に展開している北部方面隊及び東北方面隊が展開する協同転地演習や東北方面隊実動演習に九州で実施されている西部方面隊実動演習などもこの一環として行われるもよう。
統合輸送と島嶼部防衛に陸海空の各種訓練が実施され、この関係上、千歳基地や百里基地など自衛隊統合演習と関係した航空機の発着などが行われるほか、基地防衛訓練なども重ねて行われ、早朝夜間など通常では飛行しない時間帯や土曜日などでも訓練飛行が実施されます。
航空優勢確保に関する訓練の一環として南西諸島周辺以外の空域でも航空部隊が活発に行動を展開しますが、これは南西方面への航空部隊の増援を念頭に置き実施されるもので、加えて陸上部隊や航空部隊の作戦能力維持に必要な物資輸送などの訓練も統合輸送訓練として実施されます。
また島嶼部防衛訓練の一環として南西諸島沖縄県の宮古島及び石垣島に対し射程180kmの88式地対艦誘導弾を運用する地対艦ミサイル連隊を展開させる実動訓練も計画されており、現在最も軍事的圧力を受けている先島諸島及び尖閣諸島に対する実動訓練は、大きな抑止力となるでしょう。
特にこの地域に対しては、北朝鮮弾頭ミサイル事案に際する航空自衛隊高射隊を中心とした迎撃部隊等、統合任務部隊として沖縄救援隊の編成と展開が実際に行われており、南西諸島への軍事的圧力が実際に切迫した際には、地対艦ミサイル連隊は着上陸阻止の重要な部隊となります。
展開する地対艦ミサイル連隊は北部方面隊隷下の第1特科団か、西部方面特科隊か、公表はされていませんが、仮に前者であれば併せて洋上の艦艇間通信などの情報を集積し見通し線外の水上目標群位置情報を観測する第1電子隊の展開が行われ、このほか西部方面特科隊であれば無人偵察機が装備されており、投入されるかもしれません。
加えて1999年の硫黄島三自衛隊統合演習以来の規模となる統合輸送訓練が沖縄本島南東420kmの太平洋上に浮かぶ沖大東島において実施され、航空自衛隊による航空打撃戦と護衛艦などによる艦砲射撃、海上自衛隊の支援を受けての陸上部隊揚陸等を行う、とのこと。
揚陸部隊の規模は、現在のところ公表されておりませんが、普通科部隊による水路進入と沿岸情報収集、航空攻撃と艦砲射撃、輸送艦によるエアクッション揚陸艇による揚陸と護衛艦及び輸送艦からのヘリコプターによる空中機動などが展開され、沿岸部の確保と高射特科部隊の展開などがおこなわれるのでしょう。
沖大東島は戦前に台風観測を目的とした気象台があり、大戦中には航空攻撃により地上施設のほぼすべてを破壊されていますが、戦後は今日に至るまで米軍射爆場として用いられている無人島で、70年代までは硝石鉱山としても利用されていました。
防衛省では来年度予算に島嶼部防衛部隊として水陸両用団の陸上自衛隊への創設を盛り込んでおり、今年米本土西海岸で実施された日米合同実動演習での上陸訓練などの訓練が今回の訓練を元に研究され、水陸両用団の将来編成にも少なくない影響を与えるかもしれません。
一方、中国海軍は10月24日より北海艦隊と東海艦隊に南海艦隊の稼働艦を全て集めたとされる十数隻の艦艇を用いての訓練をフィリピン北方から台湾東方海域において実施すると発表し、沖縄本島と宮古島の中間海域での艦隊航行が活性化し、自衛隊は警戒を強化していました。
中国海軍がフィリピン北方海域から台湾東方海域にかけての太平洋上での大規模演習を行う意図は不明確ですが、これが台風27号と台風28号の発生により制限されていたことから期間が延伸し、自衛隊統合演習の実施海空域と重複する可能性が考えられましたが、中国海軍が演習期間を短縮したため双方の部隊が洋上で対峙する状況は回避されましたもよう。
他方、中国海軍の太平洋上での活動と我が国周辺海域での行動は年々活性化しており、着上陸準備の兆候を掴みにくくなるため、我が国としては情報収集を綿密に行うと共に、抑止力を構築し維持し続けなければならず、自衛隊統合演習はその大きな一要素となるでしょう。
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