◆戦車の天敵は、戦車そのもの
特科部隊の攻撃準備射撃や攪乱射撃の支援下で我が機甲部隊は前進を開始します。
74式戦車、射撃位置へ。EOS-7Dの最大連写速度にて74式戦車を捉える、発砲焔は空包でもくっきりと映り込み、実弾では撮影不能である戦車前方に回り込んでの撮影が可能となりますので、その迫力こと訓練展示模擬戦の醍醐味であり、主役だ、と主張しても異論は殆ど出ないでしょう。
一閃!、刹那、衝撃。身をもって感じる、戦車砲の威力は音ではなく衝撃で到達します。この迫力の瞬間をカメラが切り取るには、とにかくシャッターを押し続ける胆力が必要で、シャッターが下がった瞬間瞬間に発砲焔が見えなければ、それはカメラが記録している、ということ。
衝撃、来た!。地面が戦車砲空包射撃の衝撃波で表面に砂塵がが盛り上がっているのがご確認いただけるでしょうか。戦車砲の発砲焔は空包ながら、より薬量の多い榴弾砲がその砲声の大半を天へ抜けさせるのと対照的に地面を這いよるため、より強力な印象と引っ叩く様な瞬間と寸秒音が聞こえなくなる錯覚に陥る迫力です。
やはり戦車の脅威は戦車でなければ対応できません。戦車砲は直接照準で防御された車内から正確に火力投射が可能、戦闘ヘリコプターの衝撃力は大きいですが滞空時間は限られています。対戦車ミサイルには様々な運用制限があります。即ち、我が方に戦車があれば相手は相応の対抗手段を要する、という重要な要素がある。
敵は、撃破されました。近年、冷戦後の国際平和維持活動増大を受けての戦車から装甲戦闘車への転換が、平和維持活動よりも正規戦の可能性が再興する中、進んでおり、戦車を置きかえる主役にふさわしい防御力や戦闘能力を付与する結果、その取得費用は戦車に近い高騰するものとなてしまいました。
そして欧州で余剰となった第三世代戦車が広く世界の中古兵器市場へ供給され、機甲脅威は分散しつつ着実に紛争地帯への普及が続いています。この事実に目を向けるならば、装甲車は戦車の補完に他ならず、主力は戦車でも歩兵でもなく、その協同に他ならない、という実情に目を向ける必要があるやもしれません。
我が機甲部隊の攻撃により敵戦車部隊が沈黙、特科部隊の支援と共に攻撃前進へ転換、敵陣地への航空攻撃を行うべくAH-1S対戦車ヘリコプターも上空からの支援に加わりました。高い生存性と打撃力を併せ持つ対戦車ヘリコプターは緊急時の瞬発的な大打撃力を以て比類ない打撃が可能です。
普通科部隊の前進への障害となる火力拠点を戦車が正確な射撃支援により直接照準で無力化します。現在陸上自衛隊では各部隊の情報共有と一元化を進めており、既に第2師団や第6師団では、普通科部隊が発見しつつも独自火力では対応できない目標情報を同時に戦車と共有化し、即座に火力支援する試みが進んでいます。
AH-1Sと装甲車部隊の連携、空地一体の立体戦闘、陸上自衛隊は早い時期からこの重要性に着目し、運用研究と戦術研究を積み重ねてきました。不意遭遇を適宜航空打撃が排除しつつ、地上部隊の前進を支援する。滞空時間に限界があり、連携が遅れれば全て破綻しかねないのですが、米軍をはじめ、実運用で実績が構築されており、訓練と研究の重要性を示すもの、と言えるやもしれません。
96式装輪装甲車の前進、12.7mm重機関銃の空包を盛んに発砲しつつ進んできます。装甲車は乗員と乗車要員を砲弾片や携帯火器の攻撃から防護し、戦車等に随伴し高い進出能力を維持するための必要不可欠な装備ですが、陸上自衛隊では装甲車の運用地形よりもヘリコプターの空中機動が防衛上有利であると考え、冷遇されてきました。
この96式装輪装甲車は、第4戦車大隊のもの。本来普通科部隊へ広く配備する目的で装備されているものですが、冷戦時代よりその立地上機械化部隊を重視した北部方面隊は全ての普通科連隊に最低一個中隊の装甲化中隊を置いているものの、本土師団では緊急展開部隊である中央即応連隊を除けば、戦車大隊などの本部車両に装備されているのみで、普及はしていない。
普通科部隊の前進を特科部隊が支援射撃により火力支援を行います。連続射撃能力が高いFH-70は、短時間で効力射を繰り返し、実運用では効力射の度に迅速に陣地転換を行い、反撃へ備えます。特科部隊は、全陸上自衛隊で最初に情報共有が進められた機構です。
情報共有の先駆者、これは長射程を活かす間接照準射撃を行うため直接視界戦闘が行えず、加えて対砲兵戦などは対砲レーダ装置や標定装置との連携こそが生存さえも左右されるわけですので、ある意味当然と言え、誤解を恐れず表現するならば情報共有や共同交戦能力とは、特科部隊の手法を全部隊へ普及させるもの、と言えるでしょう。
戦車とともに軽装甲機動車が前進します。軽装甲機動車は一個小銃班を分散乗車させることで火力の制圧地域を増大させる観点から導入されたもので、その分取得費用が低く抑えられていることから、導入開始より十年少々ながら1500両以上が導入され、陸上自衛隊の象徴的な車両となりつつある。
こうして普通科部隊の攻撃前進が開始されました。敵の反撃は特科火砲と戦車砲にヘリコプターにより制圧され、散発的なものとなってゆきます。続いて地上戦闘の決着をつけるべく普通科部隊の降車戦闘へ展開してゆくこととなりますが、その様子は次回紹介することとしましょう。
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